夜に花が薫っている。
そこは都内、薔薇園に面した道の物陰だった。
嘗てその薔薇園では1体のデウスエクスが出現した事件があったが、今ではその戦いの跡も残らず、美しい花ばかりが咲いているのが外からでも窺える。
だがそんな風景の中で、新たな事件の芽も漂っていた。
それは体長2mの浮遊する怪魚。ゆらゆらと泳いだそれは、光の軌跡を魔法陣のように浮かばせて、1体の男を召喚していた。
鎧兜の姿。人を大きく超える背丈。
それは一度死んだはずの巨躯、エインヘリアル。
『あ……ァ……』
零れる声に知性は無く、鎧と身体が同化した姿はまるで戦うためだけの硬質な獣。
浅い息を零しながら、ただ本能だけで獲物を探して見回していた。
紛うことなき脅威。
だが、深夜の街に現れた巨躯は1体だけではなかった。
すぐ近くに大きな音が轟くと、召喚されたエインヘリアルとほぼ同じ体躯を持ったもう1体の大男が膝をついていたのだ。
ゆっくりと立ち上がるそれは、宙から降りてきたエインヘリアル。
知性を失った巨躯に立ち並ぶ、もう1体の戦士だった。
降り立った方のエインヘリアルは、知性のない個体のほうを一度眺める。
「……何だか獣みてぇだな」
だが、それきり。あとは気にもせず、ただ獲物を探した。敵を狩れればいいのは、この巨躯にしても同じだった。
剣を持った2体のエインヘリアルが、夜に居並ぶ。街灯に瞬く影が、どこか歪に揺らめいているようだった。
「死神の活動について、新たな事件が予知されました」
吹き付ける夜の風が、どこかヘリポートを慌ただしい空気にさせる。
だがイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)の声音が真剣なのは、それだけが理由ではないだろう。
「確認された死神は深海魚型で、目的はケルベロスに撃破された罪人のエインヘリアルをサルベージし、デスバレスへ持ち帰ること」
と、ここまでならばこれまでにもあった事件だ。
けれど、とイマジネイターは続ける。
「今回はサルベージされるエインヘリアルに加え、もう1体の新たな罪人エインヘリアルが同時出現することがわかったのです」
即ち、エリン・ウェントゥス(クローザーズフェイト・e38033)が危惧していた、罪人エインヘリアルのサルベージを援護するエインヘリアルの妨害行動であろう。
「サルベージされた罪人エインヘリアルは、出現の7分後には死神によって回収されます」
それを防ぐために、そしてもう1体のエインヘリアルによる無差別の破壊も阻止するために。これらの敵の撃破をお願いします、とイマジネイターは語った。
イマジネイターは資料を投影して写真を示す。
「現場は都内の薔薇園の近く。サルベージされるエインヘリアルは、嘗てここでケルベロスに討伐された個体となります」
ただし、このエインヘリアルは知性を失い、変異強化されている。今では鎧と一体化し、獣のように暴れるだけの個体となっているのだ。
「この個体を見た目から『黒鎧』と呼称します。そして同時に出現するのが、コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれた罪人エインヘリアル──こちらは『ダグド』という名を持っている個体です」
ダグドは黒鎧に比べれば知性もあるが、戦闘狂で敵を狩ることを何よりの愉悦としているため、元より話し合いの通じる相手ではないだろう。
これに加えて深海魚型死神が3体いる。こちらはエインヘリアル程強くはないが、警戒しておくに越したことはないだろう。
「楽な戦いではないでしょう」
周囲の避難は既に行われているが、予知がずれるのを防ぐために戦闘区域外の避難はなされていない。黒鎧は戦闘開始から7分後には回収されるが、ダグドについては回収などもされないため、仮に敗戦すれば被害は甚大なものになるだろう。
「敵はチームワークを重視する、というようなことはしませんが、エインヘリアルはどちらも強敵なので一切の油断はできないでしょう」
ただ、それでも勝機はある。そしてこちらがやるべきことは、変わらない。
「最大限の力をもって、デウスエクスを撃破する──皆さんなら、きっと出来るはずです」
だから行きましょう、と。イマジネイターは皆へ力強い表情を見せた。
参加者 | |
---|---|
平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547) |
エンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668) |
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
ベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705) |
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975) |
塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598) |
卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412) |
●夜へ
ピン、と弾いたコインは表を示していた。
「こいつはきっと、未来の結果を表してるだろうさ」
手の甲の硬貨を収めながら、卜部・泰孝(ジャンクチップ・e27412)は夜闇を見つめる。
ヘリオンから降り立ったそこは薔薇園前。
現場に程近い、花の香りだけが漂う静寂だ。
占われた未来に皆は頷く。尤もそうでなくても、悪い未来を掴むつもりは無いけれど。
そして皆は角を一つ曲がり、前方に佇む威容を目にしていた。
「それにしても、罪人エインヘリアルをサルベージエインヘリアルと一緒にするなんて嫌らしいことをしてくるねー……」
と、呟くのは平・和(平和を愛する脳筋哲学徒・e00547)。居並ぶ2体の巨影を遠目に、目を見張っている。
ゼラニウム・シュミット(決意の華・e24975)も瞳を細めた。
「遂に護衛役まで、ということですか──そこまでしてでもサルベージしたいようですね」
「手段を選ぶ気も無いんだろう」
嵐城・タツマ(ヘルヴァフィスト・e03283)は、声音に同族嫌悪の感情を込める。
或いは人類側もこんな手を採るかもしれないし、そうなれば俺も──と。
泰孝は眼光鋭く、不敵に笑んだ。
「何にせよ、だ。向こうがチップを突っ張ってきたんなら、それをオレ達で全取りするだけ、だろう?」
「無論だ。相手が何であろうと1体たりとも逃すつもりはない」
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)は魔剣に灼熱の炎を纏わせて、深い夜を戦意の灯りに満たす。
「──何度屍を呼び起こそうが、その全てを葬り去る」
「よーし! がんばるぞー! おー!」
あくまであっけらかんとする和。その姿にも敵達は気付いて目を向けてきた。
エインヘリアルと、回遊する死神。獣の視線を向ける黒鎧の横で、ダグドは嗤いを見せている。
「タイミングよく餌が来たな」
「こっちはそのつもりで来てないけどね」
表情も変えず返すのは塩谷・翔子(放浪ドクター・e25598)。声音も仕草も飄々と、紫煙をくゆらせながらオウガメタルを流動させていた。
「ま、それもすぐに分かるか」
宵に蒼色が奔ったのは、そのオウガメタルが氷気を伴って死神に打突を加えたから。その怪魚は衝撃にわななくが、それを機に他の死神も合わせて一斉に迫ってきた。
だがそこへ視線を奔らせるエンデ・シェーネヴェルト(フェイタルブルー・e02668)には、焦りも心の淀みも無い。
「敵の数が多いってのも久々だが──まぁ、やることは変わんねぇ。さ、行こうか彩無」
透き通る刃の喰霊刀は、魔力に反応したように一瞬だけ光を纏っていた。
だが、まだその刀を抜くまでも無い。鮮烈なコーンフラワーブルーの瞳で光を線引いて、エンデは疾駆して死神の中心へ移動。如意棒・天支ノ枝で炎の円弧を描いて敵前衛を紅の焔で焼いていく。
タツマは指に嵌めたリングから光の戦輪を乱れ撃ち。怪魚の皮を削り、黒鎧と甲冑の一部を体表ごと剥ぎ取っていた。
黒鎧は殺意を込め反撃の咆哮を上げる。同時にダグドも前衛へ氷波を飛ばしてきた。
意識を蝕む冷気と催眠。だがそれを黙して見ているゼラニウムではなく、錬金加工の楯を構えるとコネクターに治癒用アンプルをセット。下部の砲より薬液を噴霧する。
「応急的ですが、これで──」
「感謝する。傷の残りと守りは、任せてもらいたい」
夜に紫の光が灯る。ベリザリオ・ヴァルターハイム(愛執の炎・e15705)が地獄化した声に微かな焔を伴いながら、無数のドローンを解き放っていた。
その群は治癒の光を照射して前衛の体力を万全に保ち、盾としてその場に留まっていく。
素早い処置、これにより続く死神の攻撃による被害も浅く終わる。
黒鎧は状況も露知らず本能のままに走り込んできた。が、そこへ炎を棚引く影が飛来する。宵を背に高々と跳躍していた結衣だ。
「上方を警戒する知能も残っていないか?」
声に黒鎧が反応を示す暇すら与えず、“フェンリス”の銘を持つ脚装からビームの刃を形成。首筋を蹴り降ろして血飛沫を撒かせる。
唸りながら剣を振るう黒鎧、だが着地した結衣は既に、煉獄の炎を螺旋に渦巻かせていた。
獄炎<悠久の災禍>。命を喰らう意志の体現は、結衣の振るった魔剣で黒鎧に横一閃の傷を刻み後退させる。
ダグドはそれをちらと見て鼻を鳴らしていた。
「どいつもこいつも、俺の相手はしねぇのか?」
「してやるさ。じっくりな──だから待っていろ」
と、返すのはベリザリオだった。声音に滲むのは愛執。デウスエクスが倒れ、朽ちていく姿を愛でようとする、こじれた憎悪がそこにはあった。
ダグドはふんと息を吐く。
「面白ぇ。それまでじっとしてろってか?」
「出来れば、そうして欲しいね」
泰孝は軽く応えつつも、吹雪で死神を襲う。和も扇で舞いながら打ち据えることで、氷の傷を刻んだ。
僅か数分と経たぬ内に、重ねられた炎症と氷気は怪魚を蝕む。
エンデは身体の青い魔術回路から、魂を養分に周囲に草花を生やしていた。その中心に立つのは“花の少女”。
──わたしに触れないで。
拒絶する少女の棘は死神達を襲う。『Blumen mit Dornen.』。その衝撃の雨は怪魚の1体を塵と消した。
「多少余ったか」
「もう1体はすぐに力尽きそうだね」
白衣を翻す翔子は、地を蹴り怪魚へ迫っていた。満身創痍の1体へ放つのは凍気を含んだ拳。無造作な打突は氷片を舞わせながら直撃し、怪魚を粉砕していく。
●滅刃
氷の欠片が雨のように降る中、ダグドは肩をすくめてみせている。
「始めは雑兵から掃除ってか。魚の次はそっちの戦士崩れか?」
視線は、低く呼吸を繰り返すだけの黒鎧に向いていた。
ベリザリオはそんな巨躯にふむと息をつく。
「サルベージされた同胞に思う所は、ないようだな」
「知性もないやつに何を思えってんだ?」
ダグドは片眉を動かすばかり。
すると結衣は一度、黒鎧に目線を向けていた。
「死神共はその知性も無くした塵が目当てらしいが。そんな死神からも捨て駒扱いにされて、気分はどうだ?」
「……何?」
「そうだよ。ダグド、同族が利用されて、アンタ自身も利用されている。それに何とも思わないのかい?」
翔子の言葉にダグドは一度黙った。だがすぐに首を振る。
「哀しんだり、憎めとでも? 下らねえ。俺は戦えりゃいいんだよ」
「……お前のようなやつはそうだろうさ」
タツマは投げるように言いつつ、しかし自分と通ずるものも感じていた。
どうしようもなくそれしかできない人種。“イカれた共感”とでも言うべき、同類を目の前にした感情だった。
「だから、戦ってやるよ。望み通りな」
タツマは脚部に力を込めて高速で踏み出す。同時に和に声を向ける。
「時間は」
「3分経ったとこだよー」
間延びした声に頷きを返したタツマは、拳にグラビティ・チェインを収束。圧縮、結晶化した煌めきを纏い巨腕とすると、死神に狙いを定めた。
「お前の言う通り、まずは掃除からしてやるよ」
振り抜く一撃は『ライツアウト』。爆散した結晶は烈しい衝撃を生み出して死神を四散させた。
「まずは、邪魔が消えたな」
呟くエンデは、夜闇を透かす彩無をすらりと抜いている。
ダグドの斬撃や黒鎧の炎撃は強力で、この間にもこちらの体力は削られつつあった。だがエンデは守りに入らない。黒から青に流れるグラデーションの髪を靡かせると、退かず前進。淡い魔力を宿した斬撃で黒鎧の体を抉り込んだ。
「皆、続いてくれ」
「勿論だよ。シロ、頼むよ」
翔子の声に応じて、その右腕にいたボクスドラゴンが飛び立つ。
勢いのままにその体当たりが命中すると、僅かによろめいた黒鎧へ狙いを定め、翔子は光の塊を顕現させていた。
豪速で蹴り出したそれを顔面に命中させると、黒鎧は血を吐いてたたらを踏む。
直後には吼えながら突撃でやり返して来ようとする、が、翔子への動線へ立ちふさがったベリザリオがその衝撃を庇い受けていた。
「そうそう思い通りにはさせんさ」
「はっ、面白ぇじゃねぇか」
と、そこで息巻くように笑ったのはダグドだ。黒鎧から連続するように刃を振りかぶると、ベリザリオへと袈裟に振り下ろして血潮を散らせる。
それすら耐え抜いて見せるベリザリオだが、同時に低下した体力で一瞬ふらついた。
「──大丈夫です、すぐに治療をしますから」
だがゼラニウムも声と共に動き出している。アンプルを手に、大きく振りかぶると地に叩き付けてガスを噴霧させていた。
「さ、出番だよお兄ちゃん」
二重乃呪『弓張』──ガスの中から現れた影が宙へ陣を張ると、ゼラニウムも呼応して地に陣を輝かせ呪術を発動。劇的な治癒力でベリザリオを癒やしながら、その意識までもを澄み渡らせていく。
体力を持ち直したベリザリオは、拳で地を打って霊力を展開。広く仲間に耐性を植えることで継戦力を増していた。
「こいつがきっと、後に効いてくる」
「よし、今はひたすら攻撃かね」
泰孝は黒鎧に向き直る。
獣と化した鎧戦士は、浅い呼気だけを零して再びこちらに顔を向けていた。狙いを定めるのではなくただの本能。漂う花の香りを意識する知能すら無い。
「元々花の価値もわからんヤツだったんだろうが──そんなヤツが花の側で眠ってたってのも不思議なモンだね」
呟く翔子は、それでも、と一度首を振る。
「同族だろうが死神だろうが、その死は他のヤツに利用される謂れはない。今度こそ終わりにしよう」
「ああ、行くぞ」
甲高い音が鳴ったのは、泰孝が『愚か者の金貨』を弾いたからだ。
黄鉄鉱にて作られた偽りの金貨は、地に落ちると共に音色で巨躯を蝕み、その足元を黄鉄鉱で固めてゆく。
そこへ走り込んだのは和。きゅっぴーんと目を輝かせると、隙だらけの懐へ肉迫していた。
「ボディががら空きだー!」
少女のような容姿と明るい声音から、しかし構える槍に宿す雷光は眩く強い。
瞬間、黒鎧に防御を許さず正面から痛烈な刺突。腹を貫いて全身に雷撃を広げ、重い衝撃を与えていた。
そこへ頭上から蹴りを加えるエンデは、黒鎧が既に死の淵にあるのを見て取った。
攻めに重きを置いたこと、そして開戦時より蝕む炎と氷の毒牙の為でもあろう。
「1分以上余裕がある、か。ま、早いに越したことはねぇだろ」
「ああ。斬り伏せる」
結衣は魔剣に煌々と焔を輝かせる。
それは、常に死を見続けてきた魂の炎でもあった。また新たな死を内奥に含めるだろう。それでも結衣はそれを背負うことを厭わない。刹那の剣閃は黒鎧を真っ向から両断し、夜に焼き尽くした。
●夜明け
静寂の中で、和はセットしていたアラームを止めた。
ここでようやく7分目。
「とりあえず、うまくいったねー」
「後は1体だけ、か」
泰孝が向ける視線に、ダグドはしかし肩を揺らしている。
「ようやく面白くなりそうだな」
零れ出る笑いに、表情は変わらず愉快げだった。
ただ、結衣はそれにも静かに返すだけだ。
「利用された挙げ句に、自分の死を前に笑うとはな。生きていようが死んでいようが、エインヘリアルというのは哀れな種族だな」
「……はっ、俺を動く死体なんかと一緒にするなよ」
「変わらないさ。少なくとも私がやるべきは──貴様等を地獄に叩き込む事だ」
声音の焔を強めたベリザリオは、高速の踏み込みでダグドの面前に迫っていた。そのまま巨躯が剣を振りかぶるより先に、拳に力を込めて打撃。顔面を殴りつけている。
口から血を噴きながら、ダグドはしかし笑んでいた。
「地獄か。倒れそうなのはてめぇの方だろ?」
見下ろされるベリザリオは実際、深い傷で満身創痍に近かった。倒れぬよう力は尽くしてきたが、守りを最重要としない布陣では限界もある。
ベリザリオはドローンを撒いて最後まで仲間の守りを固めたが、それは自身を殆ど癒やしはしない。直後のダグドの剣撃を正面から受けて、意識を失った。
結衣が素早くベリザリオの体を後方へ下げると、和は手元に御業を揺らめかせている。
「やってくれるねー。……ならこっちもお返しだよ! それっ!」
同時、腕を突き出して御業を飛来させると、至近から炎を発射。巨躯の全身を業炎で包み込んだ。
「よーし、皆もどんどんやっちゃえ!」
「なら、俺が行こう」
応えるエンデは連続の剣閃を加えていく。そこに自身の認識できない精霊の加護があるのは、無自覚の内に精霊術を行使し、彼女達の慈しみを受けているからだろう。
刻まれた傷に唸るダグドは、氷波で反撃する。が、ゼラニウムはそこへ両脇腹から銀の蟻の足を生やしていた。
「エルピス、皆に加護を……」
同時、煌めく粒子が撒かれて傷を癒やし氷を溶解させる。
元より、敵がこちらの体力を削る速度は速い。それでも態勢を保てたのは、迅速な治癒と共に、ダグドと相対し直した時には既に全員に防護が成されていたからという理由もあったろう。
続くダグドの剣撃が遮られたのは、前衛へと移動していた泰孝が光線を放ったからだ。
剣を弾かれて斜めに煽られた巨体に、翔子は氷槍を形成して脇腹を突き刺す。
「さ、今のうちだよ」
「ああ」
結衣は、“無命”の銘を取る太刀も抜刀し、二刀の力を暴走させていた。
夜を裂く火炎が刃から立ち昇る。闇を薙ぎ払う眩い焔は、ダグドの半身を焼き尽くした。
タツマはそこへ結晶を纏った打撃を放つ。
「散れ」
これまでに奪ってきた敵の魂をも固めて突き出したその一撃は、ダグドの魂を破壊し肉体を瓦解させ、跡形もなく消滅させていった。
夜風の心地よさが戻ってくる。
穏やかな静けさの中で、結衣は目を覚ましたベリザリオを助け起こした。
「大丈夫かい」
「──済まない。面倒をかけたか」
「いいや、助かったぜ」
泰孝はそんなふうに言って、軽く笑いかけていた。
皆が無事と分かれば、ゼラニウムは周囲を見回す。
「後は直せるところだけ、直しておきましょうか……」
「そうだな」
エンデも視線を巡らせる。戦闘の激しさ故か、道や塀は大破している部分もあった。皆はそこをそれぞれに手伝いつつヒールしていく。
いくらか幻想的な風合いも混じりつつ、戦闘痕は消えた。翔子はふぅと紫煙を吐く。
「ま、一応結果オーライかね」
「うん。じゃあ、帰ろうかー」
和の声を機に、皆も帰路につき始めた。
ゼラニウムは少し、夜空を仰ぐ。
「しかし……最近になって死神達の動きが派手になってますね」
デウスエクスを殺せるケルベロスに対し、死んだデウスエクスを使役できる死神。自然、戦いはまだ続くだろう。
「何とも面倒な相手です……」
「脅威はまだまだ、消えなさそうだ。……でも今日は、勝てた」
結衣は平和の戻った街路を一度だけ振り返る。
この戦いで、確かに守ることのできた人々がいる。それが何よりだ。
だから皆は勝利の実感を胸にして、歩いていく。少しずつ明ける夜が、まるでその前途を示しているかのようだった。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2018年9月1日
難度:やや難
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 8/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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