花園に紅咲き

作者:崎田航輝

「お父さーん、お母さーん。どこー?」
 ぱたぱたと走る少女は、無限の花の世界で見失った人影を探していた。
 進むほどに鮮やかな赤色が視界を過ぎるそこは、緑と青空が美しく花を飾る薔薇園。
 小さな古城跡だった場所に造られており、立体的な石造りの回廊から眺めを楽しめる花の園だ。
 場所によっては蔓と花で視界が覆われ、興味に任せて回るとすぐに迷子になってしまう。とはいえもう何度もあった出来事なので、幼い少女は両親の声がどこかからすぐ響いてくるだろうと分かっていた。
 けれどその時だけは何度呼びかけても答えが返らなかい。
「あ、やっと見つけた──ふたりとも……?」
 本当に迷子になったんじゃないかと不安になった時、しかし開けたところで見つけたのはもっと信じられないものだった。
 それはおびただしい血を流して倒れる、父と母。
「お父さん……お母さん……?」
 少女が揺すってもそれはびくともしない。
 そんなはずはないと思ったところに、頭上に大きな影がかかった。
「お、まだ活きの良さそうなやつが残ってるじゃねぇか」
 振り向くと、そんな声を零す大きな人がいた。
 人間よりも背が高く、長い棒に刃物がついたような奇妙な物を持っている。にやりと浮かぶ笑みは倒れた2人とはアンバランスで、だから少女は本能的に感じた。
「どうして……お父さん、お母さん……」
「あぁ、そいつらの子供か? そういや、あの子を助けてだの何だのと死ぬ前に言ってたか」
 なら早く親子を再会させなきゃな、と。巨躯の男はその大斧を振り抜いた。

「美しい薔薇園で凶行に及ぶなど、少々気品に欠けますわね」
 ヘリポートの片隅の丸テーブルにも優雅に着いて、カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)はそんな声を零す。
 指先でちょん、とつつくのは瓶に生けた一輪の薔薇。カトレアの衣装、そして流れる髪とも同じ色をした美しい花だった。
「綺麗な薔薇の咲く場所ならば、ゆっくり眺めるだけでいいでしょうに」
「そうですね。間違っても……人を殺すための場所なんかにしてはいけませんね」
 テーブルに着くイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)も、風に回るその一輪を見つめて皆に向き直った。
「だからこそ、誰も手にかけさせず。敵を討伐していただきたく思います」
「勿論ですわ。出来ることならば、致しましょう」
 にこりと上品に笑んでみせるカトレアに、イマジネイターも頷いた。
「敵は、エインヘリアルとなります。現場はお話ししました通り薔薇園。広くはないですが美しい施設ですね」
 イマジネイターは資料データの投影を始める。
「元々は廃墟となっていた朽ちた古城跡だったようですが、それを薔薇園として再生させた場所です。石造りの風景を活かした花の眺めが特徴で、人の入りも中々みたいです」
「ぜひ、この目で見てみたいですわね」
 組んだ手の甲にそっと顎を乗せ、カトレアは素直な言葉を口にした。
 イマジネイターは資料を進める。
「ええ。眺めは見事みたいで、この日も来客はそれなりにいます。そこを、エインヘリアルが襲ってくる形ですね」
「出現方向などはわかりますの?」
「入口があるので、単純にそこから入ってくることでしょう。こちらはそれに先んじて現場に入り、待ち伏せする形ですね」
 敷地が広くないことも有り、避難誘導は最低限で事足りる。時間的猶予もあるので、ある程度余裕を持って待ち構えられるはずだといった。
 敵は星霊甲冑を着込んだ男。長大な槍に刃のついたハルバードのようなルーンアックスを装備していて、それが危険だと言った。
「攻撃力は間違いなくあるでしょう。ですが広域の攻撃手段を持たない相手でもありますから。皆さんならば十分に勝ちの目を作れる筈です」
「ええ。臨むからには、勝つつもりで行きますわ」
 カトレアはしゃら、と垂れた髪を指でなで上げる。
「折角の花園ですもの。薔薇も傷つけさせずに、仕事を全うすると致しましょう」


参加者
カトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)
武田・克己(雷凰・e02613)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)
風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)
穂村・花園(地獄の炉心・e56672)
風柳・煉(風柳堂・e56725)

■リプレイ

●花園にて
 清い緑と鮮烈な紅の花。
 石壁に伝う蔦も美しい薔薇園は、香りと色のコントラストが心を惹く。けれど今だけは人々も背を向けて逃げていた。
「ホラ、非常口ってのはこういう時に使うモンだ! 死にたくなけりゃとっとと逃げな!」
 花を揺らすのはランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)の声。到着して早々、場の中心から呼びかけていた。
 人々の行動は淀みない。けれど別方向から子供の声を捉え、ランドルフは花垣を跳んだ。
 城壁を乗り上げ、高い通路から降りる。
 花と階段に囲まれた一角に、迷子の少女はいた。
「わあっ? 大っきいワンちゃん?」
「ワンちゃんじゃなくて……いや今はいい。怖がらねえでくれよ」
 あどけなく驚く少女に、ランドルフは事情を説明。親元まで連れて行く。
「いい子にしてたら、後で尻尾モフらせてやっからよ」
 最初はためらう少女も、そんなランドルフの言葉に惹かれておとなしくついていったという。
 園が無人になれば、風柳・煉(風柳堂・e56725)はふっと息を吐く。
 体内の魔力の一端を解放したのだ。それを強烈な殺気にして放出することで、人を寄せ付けぬ場を作っていた。
「まあ、こんなものだろう。ひとまず避難は問題あるまいよ」
「ありがとうございますわ」
 にこりと上品な笑みを見せたのはカトレア・ベルローズ(紅薔薇の魔術師・e00568)。入口の側に控えて敵影を待つ形を取っていた。
 その間も鼻先をくすぐる芳香に、花を見下ろす。
「綺麗な薔薇の花園ですわね。とても心が躍動する感じがしますわ」
「ああ。カトレアと同じで綺麗な赤だな」
 武田・克己(雷凰・e02613)は素直に言って、棘に当たらないように花に触れる。少し左右に遊んだ薔薇が、また芳しく薫っていた。
 そして克己はそっと外を見やる。
「折角綺麗に咲いた薔薇だ。奴のせいで散らしたり血に濡らしたりはしないでおきたいね」
 その視線の前方から歩んでくる人影があった。
 一瞬距離感が狂って見えたのは、それが人にあらぬ巨躯だからだろう。
 だが克己は一切惑わず、巨影が花園に侵入した瞬間、覇龍の銘を持つ直刀を抜刀。明滅する閃光で刃紋を輝かせ、横合いから刺突を見舞った。
 その巨体、エインヘリアルは突如の衝撃に一歩、よろめく。
「ちっ、何だ……!?」
「よう。よえぇ奴しか殺せない見かけ倒しの腐れ騎士はお前か?」
「……てめぇの仕業か」
 巨躯は気付いて克己を見下ろした。表情はねめつけるようでもある。
「随分な歓迎だな。それに、誰が見かけ倒しだって?」
「そりゃあ、君のことだよ」
 と、臆するでもなく口を開くのは風陽射・錆次郎(戦うロボメディックさん・e34376)だった。
 大男を包む鎧を上から下まで眺め言ってみせる。
「どうせ、こんな所に現れるのは下っ端だろうし。何よりその趣味の悪い星霊甲冑……見掛け倒しですらなさそうだ」
「……挑発か。死にたいなら、叶えてやるぜ」
 エインヘリアルは斧を握る手に力を入れると、花には目もくれず一歩詰めてきた。
 だがこちらも、黙ってやられはしない。不意に巨躯の視界を遮る程の風が吹いた。
「死にもしないし、誰も死なせはしませんよ! さあエルレ! ごんごんにやっちゃってください!」
 それはぴしりと指差すリティア・エルフィウム(白花・e00971)。蒼翠の髪が翻るのは、ボクスドラゴンのエルレが高速で飛び立っていたからだ。
 エルレは錐揉みしながら巨躯まで羽ばたくと、煌くブレスをその顔に放つ。エインヘリアルが堪らず腕で顔を隠すと、その間にリティアは『静けき森の謳』。風が撫でるような流麗な歌声を披露して、仲間の精神を研ぎ澄ませていた。
「よーし今のうちですよ!」
「ええ。この一撃で──氷漬けにしてあげますわ」
 明瞭な知覚を得たカトレアは、“艶刀 紅薔薇”を抜き放ち一閃。間合いのある位置から斬撃を放ち、宙に氷の薔薇を発現。高速で枝を張るように巨躯を縛り付け、表皮を凍てつかせる。
 エインヘリアルはその苦痛に、得心するように目を細めた。
「ち……てめぇら番犬か。人がいねぇのも、そのせいだな」
 軽く周囲を見る。本当ならばもっと獲物がいたはずなのに、と。
 その思考は、しかしすぐに止まる。頭上に無数の光が垣間見えたからだ。
「番犬かどうか関係なく、お前の未来は変わらないさ」
 それは壁の上から長銛“海皇銛”を投擲していた穂村・花園(地獄の炉心・e56672)。それは宙で無数に分裂して光の奔流となっている。
 煌々と光を浴びながら、花園に浮かぶの不機嫌な色だった。
 迷子の子は助けられた。被害に遭う家族はいない。けれど家族という言葉を考える時、どうしても花園には苛立ちが募った。
「──とりあえず、アレだ。八つ当たりさせろクソ野郎」
 刹那、光の雨が巨躯を襲う。
「く……」
「鈍重な挙動ね。それじゃあ避けられないわよ」
 衝撃から逃れようとする巨躯に、声が響いたのは眼下からだった。
 それは真っ直ぐに手を伸ばす黎泉寺・紫織(ウェアライダーの鹵獲術士・e27269)。行使する魔法『アースヴァイン』により地の精霊の力を借り、地面から砂の蔓を生やしていた。
「──彼の者を束縛せよ」
 同時、うねる蔓は豪速で巨躯を締め上げていく。
「これで、好きに殴れるでしょう」
「……ああ!」
 応えたのはランドルフ。避難を終え戻った、その速度のまま敵の横っ腹に蹴りを入れる。
 宙へ煽られながらも、巨躯は着地しざまに斧を振り抜いた。
 が、カトレアが刃を盾にして衝撃を殺すと、錆次郎がチェスのポーン型のオウガメタルを煌めかせ、粒子で治癒。
 その頃には煉が巨体の直上へ飛んでいた。
「少しばかり、失礼するよ」
 煉は縦に回転し、靴装“緋走り”で焔の弧を描く。敵が反応する間もなく蹴り下ろせば、ぼうと燃える熱がまるで焼印のように巨躯の首元に刻まれた。

●薫りに舞う
 焼け爛れた肌を押さえ、エインヘリアルは浅い笑みを零す。愉快に笑うのはそれが命を蝕む痛みだと知ったからだろう。
「本気の殺し合いか。それも悪くねぇな。一方的な殺戮とは違った味だ」
 声音も愉しげに。血の滲んだ手を刃に戻していた。
 しかし、敵が獰猛だからと怯む煉ではなく。ただ、微かに肩をすくめるだけだった。
「殺戮、殺戮と。君らも変わらないね? 学習はしないのかい」
「何を学ぶ必要がある。殺戮は最高だろ? 花を血で染めのも、優雅なもんだしな」
 あくまで嗤う巨躯。
 だが紫織も無論、そこに同意は浮かべない。
「こんな綺麗な薔薇園を血で染めるだなんて、無粋なことね」
「そーだそーだ! 美しい薔薇色の中に、血の赤色はいりません。無粋なマッチョにはさっさとご退場願います!」
 ぶんぶんと腕を振るって見せるのはリティア。訴える声音にエインヘリアルは眉根を寄せてから、ふんと鼻を鳴らす。
「帰らせたいなら、力尽くでやれよ。どちらにしろ、最期に残るのは俺だがな」
「それは嫌だね。薔薇園に咲く一輪のエインヘリアルなんて、絵にすらならないキモさだし」
 錆次郎が声を投げると、エインヘリアルも俄に気を害したか。地を蹴って、間合いを詰め始めてきた。
「言ってくれるぜ。ならお前から死ぬか」
「それもごめんだよ」
 と、錆次郎は間合いを保ちながら、あくまで挑発の様相を崩さない。
「聞いておきたいんだけど、今エインヘリアルってどうなってるのかな。三下でも、上が誰で、何所から来たか位は頭に……いや、入ってないか」
「はっ、ずたずたにしてやるよ!」
 巨躯は刃を大振り。だが、その一撃が甲高い音に阻まれる。克己が刃を振るい、斧を弾き上げていたのだ。
 エインヘリアルは刃を握り直すと暫し克己と打ち合う。だが克己はまるで興味を持たぬ素振りで視線を外すと、余波で花を落とす薔薇だけを見た。
「ち。自分の未熟さが歯がゆいぜ。薔薇園を傷つけちまった」
「……打ち合いの最中に花の心配か」
 歯を噛んで、両腕で斧を掲げる巨体。だがそこへ赤いドレスが翻る。カトレアがふわりと跳躍し、その頭上にまで迫っていたのだ。
「熱くなりますわよ──炎よ、高く立ち昇りなさい!」
 焔をたなびかせるのは足に履く“薔薇と歩む軌跡”。ぽっ、ぽっ、と花咲くように火花を散らす炎の薔薇は、その内に連なって巨大な紅色へ。大輪となってエインヘリアルを業炎で包み込んでいく。
 煙を零しながら、巨躯は後ろへ蹴躓く。ランドルフはその隙を逃さず、一瞬の内に走り込んでいた。
「次は一撃、でかいのをBodyに喰らってみろよ」
 振りかぶった腕に渦巻くのは螺旋の力。その全てを掌に収束させると、強烈な打突によってゼロ距離で撃ち出し、大きな衝撃で巨体を地に滑らせる。
 口元に血を滲ませるエインヘリアルは、下がらず斧を縦一閃に振るう。だがその一撃を飛び込んで防御した影があった。
 紫織のボクスドラゴン、ナハト。空中でそのまま留まり、刃を受けきって耐え抜いている。
 ほぼ同時に、錆次郎は『FIRST AID』。機械腕から小刀を奔らせて切開処置を施し素早く傷を治療していた。
「これで全快とはいかないけど──」
「大丈夫ですよー! 私も手伝いますから!」
 声と共に波が揺蕩うような煌めきが生まれる。リティアが治癒の力を光の塊に顕現させていたのだ。それをぽぽいと施すことでナハトは限界まで癒え、敵から間合いを取っていった。
「さて、次はこちらの番ね」
 と、紫織は紫に光るスライムを鋭利に形作り、槍の如き衝撃で巨躯の腹を貫く。
 血の飛沫を吐瀉したエインヘリアルは、それを斧で断ち切ろうとした。
 が、その視界が闇に覆われたようにぐにゃりと歪む。それは花園の突き出した短刀が、内包された後悔の痛みを苦悩の鏡像として映し出したからだろう。
「お前にも、苦しむだけの心があるのか?」
「……小癪なことを!」
「おっと、相手は1人はじゃないだろう」
 花園を睨む巨躯へ、後方から声を投げる影がある。漆黒の狙杖を構えた煉。その先端にばちりと集中するのは目も眩むほどの紫電だった。
 放たれた雷撃は、万物を否定する。それが遮るもの無く巨躯の背を穿って鮮血を散らすと、前方からは花園が迫った。
「悪いけど、休む暇はないからな」
 銛に纏わせた炎を眩い閃光へ変じると、一撃。神速の突きを繰り出して巨体を石壁に叩きつけてゆく。

●花色
 地に座り込む巨躯は、自身の血に触れて浅く笑んでいた。
「……容赦の無ぇ奴らだ。……ここを血で汚さないんじゃなかったのか?」
「ええ、確かに言ったような気もするけれど……でも、あなたの血で染まるのなら、きっと綺麗よ」
 紫織は心にも無い言葉でアイロニカルに返す。
 エインヘリアルは首を振った。
「なら、俺が暴れても同じことだろ?」
「違いますわ。貴方はここを穢そうとしている。けれど私達は、護るために戦っていますもの」
 カトレアの凛とした言葉に、巨躯ははっと笑う。
「……だったら、俺も守ってほしいところだな」
「平然と殺戮を語るやつが何を。「笑顔を守る」ってのが俺のPolicyだがよ──テメエのニヤけ面は生憎守備範囲外なんだよ!」
 ランドルフは言葉と共に想起する。無垢な少女と、彼女の姿に心から感謝していた両親の姿を。
 自分達が現れなければ、彼女らはきっと死んでいた。
(「俺は……俺自身は、親の顔も覚えちゃいねえ……」)
 ──それでも。いや、だからこそ。
「テメエにゃ笑顔を奪わせねえ! あの子に、あの家族に……誰にも、手出しはさせねえッ!」
「はっ、そんなもん……全部切り捨ててやるよ!」
 エインヘリアルはふらつきながらも起き上がり、斧を振り上げる。
 だが、その手元が凍りつく。リティアが氷気の魔弾を撃っていたのだ。
「やらせるわけありませんよ。ぱりっぱりに冷やしてあげますからねーっ!」
 リティアが連続で射撃すると、次にはそこに熱波が生まれる。煉が深紅のカード“Hot Spot”を投げると同時に両手を勢いよく合わせ、焔を渦巻かせたのだ。
「──咲け「炎」よ!」
 その能力は『fiamma girasole』。花の如く炎上した焔は巨躯の全身にまで及ぶ。
 次いで、さらなる炎が揺らめく。花園が自身に纏っていた焔を解き放っていたのだ。
「ホントのところこんなところで炎出すのもどうかな、とは思うんだがな──うん」
 これでも自重しているからと繰り出す能力は『天を地を人を焼き焦がせ』。意思を持つように喰らいつく焔は、獰猛に巨躯の片腕を灰にする。
 それでも片手で斧を振り回すエインヘリアル、だが、錆次郎はそれを縫うように、逆に斧での一閃を加えた。
「ダメージも大分蓄積したかな。このまま削って行こう」
「ええ。その傷口を、更に治りにくくして差し上げますわ!」
 カトレアは無数の斬撃で巨体の血を散らす。そこに加わる克己は『森羅万象・神威』。連続して斬りかかりながら2人の気と大地の気を融合させていく。
「風雅流千年。神名雷鳳。この名を継いだ者に、敗北は許されてないんだよ──護行活殺術! 森羅万象神威!」
 克己に合わせ2人で十字の剣撃を放てば、巨躯は衝撃に吹っ飛ぶ。
 紫織は魔導書の頁を繰って黒き触手を喚び出すと、それを掴まえて地に叩き伏せていた。
「後は任せたわ」
「ああ──テメエに『終わり』をくれてやる! 喰らって爆ぜろ! 魂ごとな!」
 ランドルフは精製した特殊弾を至近で放つ。『バレットエクスプロージョン』の名を持つそれは即座に苛烈な爆発を引き起こし、エインヘリアルを霧散させていった。

「終わりましたねー!」
 リティアの朗らかな声を機に、皆は戦闘態勢を解いて周囲を見回す。
 周りは概ね無傷だが、荒れた場所や散った花もあり、煉はそういった箇所を虱潰しにヒールしていった。
「こちらに出来るのはこの程度だな」
「そうね。それでも、薔薇園は続けられそうね」
 紫織も修復を終えて見回す。そこは変わらず明媚な花園だ。
 皆は避難した人々も呼び戻す。けが人がいないか錆次郎は見分し、少女についても一応診てあげた。
「問題なさそうだね」
「ありがとう! それから、大きなワンちゃんも!」
「いや、オオカミさん、な……ま、いいけどよ」
 ランドルフは少女の笑みに、肩をすくめつつも微笑みを返している。
 花園もどこか気になっていたからか、安心した様子だった。
「無事でよかったな。……家族とも一緒で」
 少女は頷くと、両親とともに再度礼を述べて歩んでいく。
「せっかくだし景色を見ていこうよ」
 という錆次郎の言葉に頷き、皆もそれぞれに歩み出した。
 克己はカトレアに並んで薔薇の間を進む。
「いい眺めだ。この紅色を護れてよかったよ」
「ええ。そうですわね」
 カトレアも頷いて視線を巡らす。
 風にそよぐ花は、その薫りを衰えさせず優美な芳香を漂わす。人々がそれを楽しんでいる景色が嬉しく、カトレアは柔らかい笑みを見せていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月20日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 3
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