過日に咲く澱

作者:崎田航輝

 白い鳥が飛んでいる。
 数羽で青空に踊るそれは、時折近づいては離れ、戯れるように弧を描く。
 枷のない翼。思う様に、存分に大空を翔ける自由の羽。そこになんだか憧れのような、親近感のような不思議な気持ちを抱いた。
「ふふ、なんだか楽しそう」
 クラリス・レミントン(黎明の銃声・e35454) の頬を涼やかな風が撫でる。
 緑の美しい丘だった。草は柔らかい風にそよぎ、陽光は淡い白色で優しく世界を包む。なだらかな坂に座っていると、吹き下ろす夏の匂いが強く感じられた。
 緑が息づき、鳥が飛ぶ。何でも無い景色。
 けれど、それだけに綺麗だと思えたのは、心が少し前向きにそれを捉えるようになったからだろうか。
 それでも出し抜けに、その心を強く掴んで締め付ける感覚が、撫子色の瞳を細めさせた。
 丘に人がいないのが始めからだったか、クラリスには分からない。
 だが唯一そこにいる人物が、風景と空気に大きな影を落としているのは明らかだった。
「ようやく、見つけたわ」
 背後に立つ1人の女性がいた。
 白衣の長身で、一見は人間。だが身に纏う不穏な空気と、漂わせる強い“毒”の気配がそれを否定させる。
 クラリスに向けられた声は深く籠もった遮蔽越し。記憶を刺激する朧げな淀みが、クラリスの表情から柔らかな色をなくさせていく。
「あなた、は……」
「クラリス・レミントン。長く苦しんで死にゆきなさい」
 だから始めましょう、と。彼女は全てを蝕む毒をその手に取った。

 それは一刻の猶予も無い急襲事件だった。
 青空の丘に起きるその未来を、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は静かながら、急いた口調で説明する。
「クラリス・レミントンさんがデウスエクスに襲われる──この事件はまだ起きてはいませんが、もう程なく、予知にあった出来事が発生してしまうでしょう」
 いわく、クラリスは既に現場の丘にいる。
 連絡の試みはうまく行かず、事件を未然に防ぐことは出来ない。クラリスが1人の状態のまま敵との邂逅を果たしてしまところまでは、避けられない事態だろう。
 それでも、とイマジネイターは声音に力を込める。
「今から急行してクラリスさんの救援に入ることは可能です。時間の遅れは多少出てしまいますが、充分にクラリスさんを助けることは出来るでしょう」
 ですから確実に作戦を練った上で戦闘に当たって下さい、とイマジネイターは言った。
 現場はとある丘。景色の美しい場所で、街からも遠いわけではないが、今は無人の状態だという。
 おそらく敵も人払いをしているのだろう。こちらが一般人の流入に気を使う必要はない。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、急ぎ戦闘に入ることに注力して下さい」
 無論、敵も強い相手。合流後も細心の注意を払って戦ってくださいと言った。
 敵は『ヴェノミナ』という螺旋忍軍。どういった関係があるかは不明だが、クラリスの命を狙っていることは確か。強力な毒を扱う危険な存在だ。
 それでもクラリスを無事に救い出し、この敵を撃破することは不可能ではない。
「行きましょう。仲間を救うために」


参加者
霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)
鈴代・瞳李(司獅子・e01586)
スバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
ウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)
クラリス・レミントン(黎明の銃声・e35454)
吉良・琴美(白衣の悪魔・e36537)

■リプレイ

●澱
 澄んだ風には、漂う毒の香りは強すぎた。
「あな、た……。いや……お前は──!」
 クラリス・レミントン(黎明の銃声・e35454)は白衣の女を強く見据える。
 彼女から零れる澱が、ガスマスクの無い鼻孔と口腔を刺激する。それは記憶にあるものと同じ類の不快さだった。
「これは新しく作った毒よ。今度は失敗しない」
 アンプルを持つ彼女、ヴェノミナは事実を語るように歩んでくる。
 クラリスの頭の中では、もう全てが繋がっていた。
「ずっと……私を苦しめていたもの。お前だったのね」
 過日を思う。体を蝕む苦痛。原因不明の症状。医者にかかっても病名すら分からなかったこと。自身が覚醒しても病魔が現れなかったこと。
 そして白衣の女の朧な記憶。
「お前の、毒だった」
 本当なら自分は、子供のうちから元気に外を走り回れた。友達だってできた。でも想起する思い出にその風景はない。
 ヴェノミナはただ実験者の声音で、その硝子管を振ってみせた。
「この毒は、もっと苦しいわよ。それを実証する」
「……誰が。お前の自己満足の為に、二度も実験体になんてなってたまるか!」
 クラリスは感情を爆発させて、拳を繰り出す。
 ヴェノミナはそれを受けつつも、甲高い破砕音と共に毒を散らせてきた。
 ぐにゃりと歪む視界。クラリスは何とか気力で自己治癒する。が、ヴェノミナはすぐに毒を増殖させるウイルスを噴霧した。
「く……」
 クラリスが耐えようとも、ヴェノミナはそれを上回る苦痛を齎してくる。
 まるで、時間が巻き戻ったよう。苦しみに沈むクラリスを白衣は見下ろした。
「後は、やってくる死を待つだけね」
「──いいえ。その未来は永劫、来ませんよ」
 と、その時だ。不意に声が上方から聞こえる。
 ヴェノミナが顔を上げた瞬間、そこには跳躍していたウエン・ローレンス(日向に咲く・e32716)がいた。
 白の髪を靡かせて、ハニーシロップの瞳には冷静な中にも強い戦意を携えて。放った跳び蹴りはヴェノミナの顔面を打ち、地を滑らせていた。
 クラリスは朦朧と気づく。
「ウ、エン……?」
「クラリス! 助けに来たぞ!」
 次に響いたのは真っ直ぐで、でも安心する声音。走って目の前に来たスバル・ヒイラギ(忍冬・e03219)だ。
「1人でお疲れ様。大丈夫か」
「スバル……! 皆も……助けに来てくれた、の?」
「ああ。もう心配は、いらないから」
 見回すクラリスに優しく言ったのは鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)。敵に立ちはだかりながらも、向けた笑みは力強い。
 戦いを共にしたものとして。同じケルベロスとして。頼もしく感じてきた仲間が危機ならば助けない理由はない。郁にとっての当然の正義感がその表情にはあった。
「治療は、俺がやっておく」
 と、クラリスの回復は霧島・奏多(鍛銀屋・e00122)が始めている。変わらず落ち着き払った口調のままに、杖から美しい光を生んでいた。
 それは命を癒やす閃光。闇に光を灯すような雷が、クラリスに毒に抗う力も与えていく。
 郁は魔力で陣を描き、敵と戦うための破邪の力を仲間に宿させていた。
 ヴェノミナはようやく見回して呼気を零す。
「……ケルベロス。邪魔をしに来たの」
「友人に危害を加えられて黙っていられる程、私は大人しい性格ではなくてな」
 微かに鋭い声を返したのは、鈴代・瞳李(司獅子・e01586)。
 そっとクラリスに触れると、煌めきの気流で毒を完全に浄化。それから真っ直ぐにヴェノミナを見据えた。
「傷つけると言うのなら、私達で守り癒す。だから──思い通りになると思うな」
「……研究の障害というわけね」
「研究だの何だのは知ったこっちゃ無いが。仲間に、それも良く知った顔に手を出されるのは見過ごせないってだけだ」
 苛立ちを見せるヴェノミナに、奏多は首を振っている。
「だからこそ──こいつぁ高くつく。覚悟は良いか」
「そうだ。これからは、俺達のターンだよ!」
 スバルは言葉と共に『天狼・昏斬』。闘気を狼の形にして放ち、ヴェノミナを後退させた。
 アンプルを取ろうとするヴェノミナ。だがその頭上へアウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)がひらりと翻っている。
「遅いわね。澱に濁った醜い舞踏、とでも言えばいいかしら」
 漆黒のドレスに漆黒の髪、そして漆黒の瞳。
 夜が降ってきたかのように、アウレリアは素早く一打。蹴撃でヴェノミナを横合いに飛ばす。
 その先に吉良・琴美(白衣の悪魔・e36537)はいた。
「成程、確かに危険そうな香りをさせているじゃないか」
 言って抜刀する琴美もまた、白衣を纏っている。
 敵と似て非なるのは、湛えた荒々しい空気か。
「まずは腕試し、ってわけじゃないが。少しばかり大人しくしてもらうぜ」
 刹那、掬い上げる斬撃。グラビティの塊を含んだ一刀で白衣の一片を裂いて、毒の淀みの一端も消し飛ばしていく。

●毒
 そよぐ風に、しかし毒の色は未だ失せない。
 ヴェノミナは一歩引いていたが、その視線は変わらずクラリスに注がれていた。
 琴美は興味ありげに口を開く。
「そこまでクラリスに執着する理由を聞きたいところだな」
「……“死毒”は死ぬから意味があるというだけ」
 と、ヴェノミナは睨み返す。
「世界中で私はそれを実証した。研究は完璧だった。でも死なない者がいた」
「それがクラリスか」
 琴美は得心する。
 郁は何より、この敵の非道さに憤りを感じた。
「実験だとか研究だとか。そんなことのために人を……」
「私には何より重要なことよ」
「……ふざけるなっ……」
 クラリスは血が滲むほど、拳を握りしめていた。
 ここへ来てくれた皆のように、今の自分だからこそ得たものがある。誰かが代わりになればよかったなんて思わない、けれど。
 ──ずっと怖くて辛かった、苦しかった。
「お前がいなければ。こんな思いはしなかった。おとうさんとおかあさんも……私のことで悩まなくてよかった。全部、私を選んだお前のせいだ! お前なんて──!!」
 こんなこと知りたくなかった、という心すら芽生える。それくらいクラリスは我を失って、がむしゃらに踏み出そうとしていた。
 けれど瞳李はそれを引き止めて、頭をぽんと叩く。
 見せるのは優しい笑みだ。
「焦るな。たまには周囲を見てくれ? 私も皆も忘れられては悲しいぞ」
「……っ、トーリ……」
「ああ、親しい友人がいる。俺も力添えする。仲間みんなが支える──だから大丈夫」
 郁の言葉も聞いて、クラリスは自分の手の痛みを初めて感じる。
 ありがとう、とクラリスが2人に伝えると、アウレリアは敵に目をやっていた。
「心の揺らぎは銃口をもぶれさせるものよ。クラリス。心は平静に闘志だけを高めて、狙いを定め敵を撃ち貫きなさい。貴女なら出来るわ」
 貴女は強く、そしてひとりではないのだから、と。
「うん……!」
 頷いたクラリスは、一度深く呼吸。手を振るって虹の五線譜を描く。
 それは『鼻唄猫の散歩路』。旋律は光る小路を造り、そこに跳び乗ることでクラリスは的確な銃撃でヴェノミナの肩を撃ち抜いた。
 よろける敵へ、アウレリアの傍から銀髪長身の人影が飛来し、金縛りをかける。
 それはビハインドのアルベルト。死で分かたれようとも、妄執にも似た愛でアウレリアと己を縛り合う伴侶──だからこそ、意志を汲んでヴェノミナを動かぬ的にする。
「ありがとう、アルベルト」
 アウレリアはそこへ『バラ・エスターカ』。狙い澄ました弾丸で逆の肩を貫いた。
 ヴェノミナは、しかし血の伝う腕でも毒を握りしめる。
「……最後には、あなたたちも実証データの一つになるのよ」
「データ、か。私も貴様らのデータが欲しかったところだ。丁度いい──こっちとも相手をしてもらうぜ?」
 と、声を投げたのは琴美。居合い斬りで手元を裂き、荒く笑んでみせた。
「それで終わりか? 毒の威力もきっちり堪能させてもらおうと思っていたんだが」
「……望むならあげるわ」
 目を細めたヴェノミナは闇のような毒煙を撒く。
 だが、それはクラリスと郁が即座に受け止めた。
 瞳李は仲間を守るクラリスの強い意志を垣間見る。けれど同時に、完全に被害を防げなかったことを、仲間の傷を、彼女は我が痛みのように感じるだろう。
「──それなら私は、その傷を一つ残さず癒そう」
 鮮やかな牡丹色の瞳に凛然とした意志を宿して。瞳李は輝く霊力を広げ、2人の傷を光に消していった。
 郁が幻影の花嵐を舞わせることで周囲の毒も消滅。奏多は銀を媒介に魔術を発現し、銀糸を鳥の姿へ変じさせていた。
 それは『銀の鼓翼』。纏う輝きの力は、敵に宿る現象を打ち破る力を味方へ与え、一層戦線を強固に整えていく。
「スバル、いけるか」
「もちろんっ!」
 頷きながら、スバルは既に坂を蹴っている。一息で敵へ肉迫すると、氷気の流体・玄武を手元に渦巻かせていた。
 ヴェノミナは回避を試みる、が、スバルは逆の手に携えた黒鎖・昏星を既に放っていた。
「遅いっ!」
 宙を奔った鎖は的確に足を捕らえ、後退を許さない。逆にスバルは敵の体を引き寄せた。
「──大事な友達を傷付けたお返しだよ!」
 一撃、腹に打ち込んだ冷気の殴打でヴェノミナを崩折れさせる。
 目元に苦痛を浮かべ、ヴェノミナは睨み上げた。
「あなたを二番目のサンプルにしてあげるわ」
「──ヴェノミナ。誰も、あなたの悪趣味に付き合う気など、毛頭ありませんよ」
 静かな声音で否定したのは、ウエン。
 立ち上がって毒で対抗しようとするヴェノミナの手元を、蹴り払う。
 冷静さは欠いていない、だが豪快さも滲む力強い攻撃。
 きっと怒りも滲んでいたからかもしれない。仲間を傷つけられれば心を抉られる。
 それはクラリスも同じ。
(「だから──許せません」)
 刹那にウエンが放ったのは『Lausbub puzzle』。文字通り、まるでパズルの如き光の箱が強力な電磁波を現出。激しい痺れで感覚を奪い、敵を倒れさせた。

●風
 空気は透明の度合いを増したようだった。
 反して、涼やかさにも不快な色を見せるほど、起きたヴェノミナは苦悶を浮かべている。
「……死を免れただけの弱い存在が。どこまで抵抗をするの」
 声音は呪うようでもあった。
 クラリスはそれにまた少し感情を乱される、けれどウエンが首を振っていた。
「それは違いますよ。僕が思うよりレミントンさんはお強かったです。そして何より、あなたが思うよりずっと……彼女はお強いのです」
「ああ。その通りだ」
 奏多は変わらず冷静な声音。
 だがクラリスの事を素直で、真面目で、優しい娘だと思う気持ちは強く。その笑顔を曇らせる者に容赦する気も無い。猟犬として、守る者としての矜持は確かに裡にあった。
「少なくともクラリスは、人を殺すしか出来ないデウスエクスなどより、よほど強い」
「そうだよ。だから絶対にここで皆で終わらせるんだ!」
 スバルはグラビティを含んだ鎖で、ヴェノミナの足元を絡める。
 ウエンがそこへ獄炎を撃ち当てると、琴美も斬撃を浴びせると共にボクスドラゴンのカーマインにタックルを畳み掛けさせた。
 膝をつくヴェノミナの全身に衝撃が奔ったのは、瞳李の『雨の警鐘』による連続射撃を受けたから。アウレリアが短刀でその傷を刻むと、郁はブラックスライムで腹を貫いて血潮を撒かせた。
 郁は、クラリスには最後まで悔いなく戦って勝ってほしかった。だから目を向ける。
「クラリス、敵も弱ってる。今のうちに」
 ヴェノミナは、血溜まりで浅い息を繰り返していた。
 瞳李も頷く。
「引導を渡してやれ」
「そう、この毒杯を呑み降し噛み砕くのは貴女の役目よ」
 アウレリアの言葉にも、クラリスは銃を握った。ほんの一瞬だけ立ち止まるが、スバルが声で背を押す。
「大丈夫だよ、皆がついてるから」
「あのマスクかち割って、終わりの味ってモンを教えてやりな」
 奏多が最後に言うと、クラリスは頷く。
 ヴェノミナはそれでも抵抗を見せた。だがクラリスは構わず拳でマスクを砕く。
 そして素顔が露わになった彼女の額へ、銃口を合わせた。
「これで──」
「……クラリス・レミントン……!」
「最後だよ」
 静かに言うと、引き金を引く。
 “Memento Mori”──その銃から放たれた弾丸は、毒と苦悩の時間、過日の澱までもを貫くように、そのデウスエクスの命を穿って青空に消えていった。

 銃を納めると、がくり、と。クラリスの体の力が抜ける。
 スバルは慌てて目を見開く。
「クラリス大丈夫!?」
「……ごめん、肩貸して。立ったら、あとは自分で歩くから」
 クラリスが目を上げると、瞳李が手を貸して引き上げ、アウレリアがその肩を貸した。
 ありがとう、とクラリスは一度だけ目を閉じて息をつく。
 瞳李は優しく微笑みかけた。
「お疲れ様、よく耐えてくれた」
「よく頑張りましたね」
 ウエンも言って、そっとヒールをした。先生と慕っていた彼女に、この時ばかりは妹に向ける兄の様な心を見せて。
「……苦しい時は苦しいって言っていいんですからね。もし心が痛む時は頼って下さい」
「本当に、ありがとう、皆も。でも私は……大丈夫」
 クラリスはゆっくりと、1人で歩み出す。
 スバルはちょっとおろおろした。
「えっと、俺何したらいい?」
「今は何も、必要ないわ」
 アウレリアは応える。
 一時の衝撃が収まればクラリスは自分の足で立って歩ける。たとえ躓いたとしても差し伸べる手が沢山あるのだから、と。
 一度克服した毒は体に抗体が出来るという。クラリスがこの先、かの毒に脅かされる事はもうないのだろうと、アウレリアは彼女の背を見て感じた。
 周囲をヒールしつつ、奏多はそんな皆の様子を見ていた。
「良かったな」
「ああ、本当に」
 郁もまた微笑ましく、仲間と友人のやりとりを見守る。
 スバルはできるだけ元に戻るように、戦場を修復した。
「綺麗な場所だったもんな」
 それを皆も手伝うと、丘にはもう毒の残り香もなかった。
 瞳李は心地よい風の中を歩くクラリスの姿を見つめる。
「クラリス……ラテン語で輝かしいと言う意味らしい。まさに今のクラリス自身のようでピッタリの名だな」
 もちろん、クラリスが見ているのは単なる眩しい未来だけじゃない。
 敵が散った場所を見下ろす彼女を、琴美は見る。
「大丈夫か?」
「うん。ただ……」
 因縁の敵を倒しても時間が戻るわけじゃない、とクラリスは思っていた。
 ──それでも、よかった。
「あの女に殺された人は、きっと大勢いたから。彼らのぶんまで、とか、背負って生きる、とか。私が勝手に言える立場じゃないけど」
 でも、と。クラリスの紡ぐ声音には芯が通っている。
「何があっても、忘れない。……これだけは、誓うよ」
 だから前にも歩き出せるようになる。
 それがきっと、今日の意味。
 涼しさが頬を撫でた。優しくて心地よくて、まるで未来に向かって吹く風のようだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 4
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