涼風とティータイム

作者:崎田航輝

 緑と花の美しい道に、夏風が吹く。
 小さな石畳で造られた綺麗なその道は、曲線を描いて庭園を彩る。ゆっくり歩めば薔薇やダリアが咲き乱れるのが見え、整然とトリミングされた緑の生け垣は異国情緒を漂わせた。
 英国式要素を取り入れたグリーンガーデンは、夏空の下でも爽やかに心を洗ってくれるよう。街道から伸びるその一角は決して広大ではない、けれど一歩踏み入れば美しく、別世界に入り込んだような景色が楽しめた。
 そうして花々に微笑めば、赤い屋根の可愛らしい建物も見えてくる。レンガ造りの店構えのカフェだ。
 テラスで風景を楽しみ、会話を弾ませ、噴水の涼やかな水音に耳を澄ます。紅茶の薫りに心を休ませ、甘味を目と舌で味わう。穏やかな休日のひとときを楽しめる、そこはちょっとした穴場のスポットだった。
 しかし楽しむ者がいれば、近くに生まれる脅威もある。
 空にふわりふわりと漂う小さなものがあった。それは風に乗って降りてくる謎の胞子。庭園内に咲くダリアに取り付くと、すぐに同化。巨花となって動き出してゆく。
 異形となったダリアが這い出た先には、人々が憩うカフェ。涼風に咲く笑顔が悲鳴に移りゆくのは、その直後のことだった。

 庭園のダリアが攻性植物となり、人々を襲う。
 これが予知で判明した未来だとイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は皆に話した。
「風景と美味しい食べ物や紅茶が楽しめるカフェ、ということなんですけれど。そこにやってきて、人々を襲ってしまうということのようですね」
 放置しておけばもちろん人命が危うい。他の花やカフェに被害が出ても困るし、確実な対処が必要だろうと言った。
「ということで、みなさんのお力をお借りしたいのです」
 現場は大阪市内。爆殖核爆砕戦の結果によって大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出している──その流れで今回の攻性植物も発生するに至ったのだろう。
「現場はお話した通り、庭園となります」
 街道の一角に位置する場所で、敷地は大きくないものの可愛らしくも美しいグリーンガーデン。そのカフェへの道沿いに、ダリアの攻性植物はやってくるという。
 カフェに到達する前に道で迎え撃つのが今回の作戦だ。
「人通りのある道ではありますが、今回は警察や消防が避難誘導を行ってくれます。皆さんが到着して戦闘を始める頃には、丁度人々の避難も終わる状態になるでしょう」
 こちらは庭園へと急行して討伐に専念すればいい、と言った。
「油断せず、全力で戦ってきてくださいね」
 イマジネイターはそれから、と庭園についての資料を見下ろす。
「ここのカフェなんですが、庭園を眺めながら寛げるお店みたいです。無事勝利した暁には、ここで戦闘の疲れを癒してもいいのではないでしょうか?」
 そこは花に彩られたテラス席が綺麗な店で、紅茶とスイーツが楽しめるらしい。
「スイーツも紅茶を使ったものが特徴的で、どれも美味しいらしいです」
 クリームとイチゴが添えられたふわふわの紅茶シフォンケーキ、透き通った紅色と散りばめられたベリーが綺麗なゼリー、ミルクティーの風合いもある香り高いパンナコッタなどが人気のようだ。
 勿論、紅茶のおともとして定番のスコーンやサンドイッチ、ケーキ類もあるという。紅茶は店のオリジナルブレンドとなるが、茶葉などのリクエストも歓迎だそうだ。
「そんな穏やかな時間のためにも。ぜひ、敵を撃破してきてくださいね」


参加者
八柳・蜂(械蜂・e00563)
藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)
小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)
ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)
エリアス・アンカー(ひだまりの防人・e50581)
交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)

■リプレイ

●花園にて
 晴れやかな空に花薫る。
 静寂の英国式庭園は、色鮮やかな花々だけが風に揺れる世界。エリアス・アンカー(ひだまりの防人・e50581)はそんな中で視線を巡らせ、人通りが無いことを確認していた。
「避難はもう終わってんな? じゃ、早速除草開始といこうか」
 そして一点に視線を留める。
 丁度そこへ、石畳の向こうから前進してくる影があった。
 4体のダリアの攻性植物だ。
 赤色は花のまま美しく。反して這う姿は獣のように。全てを蹂躙せんその姿に、藤守・千鶴夜(ラズワルド・e01173)は嫋やかに吐息する。
「まったく……もう少し大阪の方が穏やかに過ごせるよう、配慮して頂きたいものですわね」
「うむ。しかし、バリエーションだけは豊かで飽きませんなァ。攻性植物は」
 エドワード・リュデル(黒ヒゲ・e42136)は、変貌した巨花に慄くでもなく。むしろ薄っすらとした笑顔を見せていた。
「あれはダリアですな。花言葉は華麗と気まぐれと裏切りと……ドゥフフフ……」
「気まぐれ、ですか」
 呟くのは交久瀬・麗威(影に紛れて闇を食らう・e61592)。
 そっと眼鏡の位置を直し、一歩前に出る。黒の瞳は涼やかながら真っ直ぐ敵に向いていた。
「美しい花には棘がある……と、いいますが。気紛れに襲われては、たまったものではありません。──美しくても、心して参りましょう」
「ええ。ちゃんと倒さないとお店も開きませんし。頑張りましょうね、イチイ」
 小鳥遊・優雨(優しい雨・e01598)が静かな声音を向けるのは傍らの小竜。美しい葉色の羽を揺らしつつ、イチイはぽわっとした笑顔で主に鳴き声を返す。
 ピジョン・ブラッド(銀糸の鹵獲術士・e02542)も皆に頷くと、向かってくる敵から退かず、腕をのばして魔術を展開していた。
「暑いし、戦争で疲れたし、この敵倒したら思いっきりお茶を楽しもう。というわけで──いくよ」
 広がったのは魔力と共に伸びる茨のバリア。『妖茨の欠片"Order of thorns"』の名を取るその力は、盾として仲間の元に留まり防護態勢を築く。
 麗威は星剣から守護星座の加護を降ろして守りを重ねると、ついと横を向いた。
「エリアス、いけるか」
「ああ、任せろ」
 頷くエリアスは手を払う仕草で黒色の波動を生み出し、敵の進軍を確実に緩める。
 それでも獰猛な攻めの姿勢を崩さない敵に、八柳・蜂(械蜂・e00563)は微かにだけ首を傾けて声を零していた。
「敵の全部が攻め手だなんて、前のめりね」
「ええ。……こちらも、手を抜くことは出来ませんね」
 応えるシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は、一度瞳を閉じている。その花が花であった頃を思っていたのだろうか。
 でもそれも短い時間。野紺菊の銘を持つ一刀を振るうと無数の刃を召喚。4体の蔓を穿ってその力を削いでいた。
 そうね、と小さくシアに返す蜂は既にその内の1体へ迫っている。かつん、とヒールで跳ぶ仕草は淀み無く。斜め上方から手を突き出したのはほんの一瞬。
 刹那、凍て風のような息から零下の花嵐を生んでいた。『凍蜂』。吹き荒ぶ氷の花舞は、熱を奪うように巨花を取り巻いて花弁を凍結させる。
 他の個体が光線を飛ばしてくるが、着地した蜂は紫の焔を棚引かせ、地獄化した左腕で全てを防御。直後には優雨が魔術の刃を奔らせて切開し傷を治療した。
 敵へは千鶴夜が太腿からリボルバー“Altair”を抜き、広域射撃。白銀の銃口に光を瞬かせて全体を押し止める。
「少しばかり、大人しくしておいて下さいましね」
「では、狙撃の後は爆破でござるよ!」
 エドワードは『Pathfinder of Pirate』。煙幕を張り惑わせた後に爆薬を撒く。流れるような破壊工作で敵を四方に分断させた。
 その内の1体の根元をエリアスが足払うと、蜂は返す刀で漆黒の短刀を手に握る。
 揺蕩う地獄はどこかアンニュイで、しかし蜂の針の如き鋭さも同居する。瞬間、蜂の振り抜いた一閃がそのダリアを両断した。

●決戦
 散りゆく同胞に、3体の攻性植物は体を揺らして憤怒を表す。
 相貌は無くとも、凶暴さの滲む戦慄きは獣の如く。すぐに這って再接近してきていた。
 麗威は僅かに息をつく。
「本当に、随分積極的な花ですね……僕としては、静かに観賞したいところですが」
「私もダリアの花は好きだけど……暴れる子は好きじゃないですね」
 蜂は紫の瞳で、獰猛に寄ってくる赤花を見つめた。
「花は綺麗なままで、そのままでいいのに」
「ええ、ならばこそ敵となったものは惑わず討ってみせましょう。無辜の人々に危害が及ばぬ為にも──戦の後に待つひとときの為にも」
 千鶴夜は雅な大和撫子の風合いの中に、微かに苛烈な戦意を見せる。それはこの後に待つ憩いを想像したからでも、また生来のものだからでもあろう。
「──ふふ、俄然やる気が出ますわ」
 刹那、地を蹴ると敵の中心へ入り、横回転しながら霊力を含んだ弾丸を全体に浴びせる。
 エリアスはその内に死角から滑り込み、拳にオウガメタルを纏わせて1体を殴り上げ。同時に鬼神角を生やした蹴りで引っ掛け、飛んだ敵を花壇から道へ戻すことも忘れない。
 地に落ちた所に蜂が縦横の斬撃を加えれば、その1体は既に瀕死。
 風舞う花びらを伴った剣撃で他の2体も巻き込んでいたシアは、そのまますかさずその1体へ迫っていた。
 死に行く花を見つめながら思うのは、「感謝」という花言葉があったということ。
「お店の人が大切に育てて下さった感謝の印に、これほど美しく咲いていたのかもしれないのに。我々は摘み取る事しか出来ないわ……ごめんなさいね」
 そっと声を落とすと、フェアリーサークルから芽吹かせるのは『菫花』。散ったそれは魔法陣となり、そのダリアをもまた枯らせていった。
 残る2体は花粉を前衛へ放ってくる。毒の溶けた靄は強力なものだった、が、同時に優雨が治癒の魔力を収束して空へ昇らせていた。
「これですぐに良くなるでしょう。イチイも、お願いしますね」
 清らかな癒やしの雨が降る中で、飛び立ったイチイは木漏れ日の如き光を発散。仲間の治療を進めていく。
 同時にピジョンのテレビウム、マギーはカフェの動画を流し、千鶴夜のシャーマンズゴーストのポラリスは煌く祈りを捧げる。それらにより前衛は万全となった。
「戦線は問題なく維持できそうですね。攻撃は、おまかせします」
 優雨が言えば、エドワードは頷いて爆破スイッチ“Panjandrum”をポチリ。名に違わぬ巨大自走爆雷をどこからともなく召喚していた。
「さあ、そのまま敵に突っ込むでござるよ!」
 爆走するパンジャンドラムは高速で敵へ接近。が、元々安定性の無い車輪が石畳に噛まれ、ずがごごごごと右左。無軌道に暴れ始める。
 その行く先にいたのは敵の攻撃を捌くのに夢中になっていたピジョン。気づくと巨大車輪が迫っていた。
「ん? うわわしまったー!!」
「ブラッド氏ーー!!」
「わぁあああ!」
 ピジョンは瞬間的に横っ飛びで回避。直後の大爆発で転げつつも、事なきを得た。
「無事でござるか!!」
「な、なんとか。……ちょ、チョロ。とりあえずあとは頼むよ」
 ピジョンは起き上がると、ニホンヤモリのファミリアのチョロを解き放ち、敵へ体当たりさせた。安堵したエドワードも再度スイッチに手をかけている。
「問題ないようでござるな。では、トドメを」
 言葉と共にパンジャンドラムを再度召喚。今度は外れず真っ直ぐに走行させ、大きな爆撃を畳み掛けて1体を散らしていく。
 残る1体はあくまで抵抗。烈しく蔓を飛ばしてきていた。
 が、エリアスを襲ったそれを、麗威は寸前で滑り込み防御。衝撃で眼鏡を飛ばしつつも受けきっていた。
「そうそう、思い通りにはさせませんよ」
「──麗威。お前の雷解きを俺の角に撃って纏わせろ」
 同時にエリアスは耳打ち。麗威が頷いて袖を捲くるのを背に、一歩出て拳を振り上げた。
 瞬間、麗威は銃を模した武装“水鞠”を両手で構え、雷を纏った漆黒の弾丸を放っていた。
「あなたのアシストは……俺がするッ」
 その力『雷解き』は、爆ぜると共にエリアスの腕を帯電させて漆黒に彩る。
 刹那にエリアスが繰り出すのは『棲鬼針山・改』。拳で地面を穿つと、地中から突き出した角でダリアを襲っていた。
 その衝撃は弾ける雷撃と黒色を伴って、巨花の命を鋭く貫く。
「西洋の花で生け花ってのも悪くないだろ。それとも、そんなの今は普通か?」
 エリアスの声に応えることも出来ず、攻性植物は絶命。あたりを静寂に戻していた。

●花とティータイム
 戦闘後、皆は周囲の修復を済ませてゆく。
 エリアスは麗威の眼鏡を拾うと、その眼鏡に対して本気で心配げな声をかけていた。
「麗威、無事か?」
「……エリアス、何を?」
「え? ……いや、お前の本体ってこっちだろ?」
「……」
 麗威は割と本気でエリアスを小突いた。
「花粉か何かにやられたのか? もういいから行こう」
「いてて……あ、おい」
 エリアスが歩む麗威を追っていく。その目的地は、平和の戻ったカフェだ。
 そんな風景を横目にしていた千鶴夜も皆に振り返った。
「折角のご縁ですし。宜しければ共にお話しましょう?」
 皆もそれに頷き、憩いの空間へと歩み出す。

 カフェのテラスは、レンガと花色で彩られていた。
 庭園の風景は勿論だが、ここも薔薇やダリアが咲いて間近で見られる。
「綺麗なところですね」
「ええ。ここで美味しいものが味わえるなんて楽しみですわ」
 蜂に千鶴夜が笑みを浮かべて応える。皆もそれぞれ、早速席につくことにした。
 ピジョンは戦闘での事もあってか、座るなりぐったりしている。
「つ……疲れた……。う、うん、注文しよう」
 マギーがつんつんすると、ピジョンも気を取り直してオーダー。マギーにゼリーと、自身にサンドイッチとケーキを頼んだ。
 紅茶はダージリンのストレート。淡めの橙と薫り高さが特徴のその一杯を口に含み、ピジョンは少し元気を取り戻したように息をついた。
「ふう、美味しいなぁ……」
 サンドイッチは薄切りのサーモンときゅうりが癖なく紅茶を進めさせ、ケーキはチョコレートの甘味が疲れを癒やす。
 その傍らで、マギーはゼリーの見た目が気になるらしく、スプーンでつついてぷるぷる。紅茶色のそれを暫し見つめつつ、ぱくぱくと食べていた。
 近くに座るエドワードも、紅茶と菓子を注文している。
「ふーむ、普段のキャラとは合わんでござるが──」
 ひとりごちつつも、カップを持って薫りを楽しむ。そして一口大のケーキを口にしつつ、紅茶との相性を確かめる。
 普段は粗野な態度だが、そんな素振りが不思議と様になり、異国風の庭園風景と合っているのだった。

 蜂は暫しメニューを見て悩んでいた。
「少し、迷うわ」
 元より甘いものが好きなために、表情こそ大きく移ろわないけれど、瞳はメニューの写真を行ったり来たりしている。
 近くに座るシアはというとすぐに決めていた。
「シフォンケーキを下さいな」
「シフォン、も良さそう……。けど、パンナコッタ美味しそうね」
 と、蜂はシアの言葉にも悩みつつも自分も注文した。
 品を待つ間、蜂は花を眺めてスマートフォンで写したりする。夏咲きの薔薇はほんのり緑がかっていて、ダリアの赤と共に景色によく映えた。
 シアも、慈愛を含んだ視線を花々に向ける。途中店員に尋ねた。
「みんなとても綺麗に咲いていますね。何か美しく育てるコツが?」
「コツですか。そうですね──」
 聞かれた店員は太陽と栄養と、それから愛情を欠かさないことだと思いますと応えてみせる。成程とシアが頷くと、程なく品々がやってきた。
 優雨の前にはゼリーと、更に4つのスイーツ。共に座るイチイのためのものだ。
 イチイはぱたりぱたりと大きな尾を揺らしながら、どれから食べよう? と幸せそうな表情で悩む。優雨は微笑ましげに眺めながら、紅茶を頂き始めていた。
「あら、この紅茶、美味しいですね」
「ええ。まるで花が薫っているみたいで」
 シアも頷くその店のブレンドは、新芽を含んだ等級のものを合わせて花のような薫りを高めたものだった。
 蜂の頼んだ紅茶はアイスのセイロンティーだ。
(「前に、メロゥちゃんがいれてくれたっけ」)
 そんな理由からこの紅茶くらいしか知らない蜂だった、けれどフルーティーな薫りは啜る度に甘味を感じるようで美味だ。
 勿論、スイーツも美味揃い。蜂の頂くパンナコッタは、つるりとした食べやすい食感ながら、舌に乗せると深い紅茶の薫りが広がる。ミルクの味と甘味でコクがあって、飽きない味だった。
「甘くて、紅茶とも合いますね」
「シフォンケーキもとっても美味しいですよ」
 シアのシフォンケーキは、たっぷりのメレンゲでふわふわの一品。バニラと紅茶を香らせつつ、口に入れると優しく溶け、シアは思わず笑んでいた。
 千鶴夜もまた、花を愛でながら手元にはふわふわのシフォンケーキ。
 一口含めば穏やかな甘さが広がって、ぱっと心も華やいだ。
 カップには薫り高いミルクティー。そっと唇を当てて飲めば、そんな薫りごと優しく身に滲み込むようだった。
「とても素敵な、お味ですわ。それに花景色も」
 優しくそよぐダリアや薔薇も、時折薫りを鼻先まで運ぶ。
 それを楽しんでいると、優雨の傍でイチイがケーキを美味しそうに食べる姿が目に入る。優雨はゼリーを食べつつもそれを目を細めて見ていて、千鶴夜も皆も、そんな景色にも微笑みを浮かべた。
 それから千鶴夜はポラリスの頭を撫でる。平和で、自分もまた大切な相棒が傍にいる。
「……ふふ、幸せですわね」

「厳ついのが二人向かい合うのもなぁ。カウンター行こうぜ」
 というエリアスの言葉で、麗威とエリアスはテーブルではなくカウンター席にいた。
 エリアスはメニューを見つつ、特に迷わず決めていく。
「紅茶はよく分からねぇから、無難にオリジナルブレンドのアイス。あとはサンドイッチとスコーンも頼む」
「それじゃあ、ミルクティーとシフォンケーキ」
 と、続けている麗威の表情を見つつ、エリアスは小突かれた部分をさすっていた。
「さっきはすまん、冗談が過ぎたって」
「別に怒ってない。それにエリアスが払うからチャラだ」
「成程……って俺の奢りかよ!」
 エリアスが驚愕していると、程なく品がやって来る。スコーンはさっくりとした食感と、添えられたクリームとジャムが紅茶に良く合って、エリアスはへえと感心。
 麗威もまたケーキのふわふわに感動していた。
「これすっごい美味い!」
「こうしてみると、たまには紅茶も悪くないな」
 エリアスは早々に皿を空にして、頬杖をつき窓越しに庭を楽しむ。
 麗威もまた頷いて、外の風景を見やった。
 綺麗な花が風に揺れている。そんな癒やされる光景を守ることが出来てよかったと、そう思っていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年8月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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