空に月、花に光

作者:崎田航輝

 空に月の昇る夜。
 花咲く景色は涼しい風に花の香を漂わせている。
 明るい時分にも明媚な通りとして人通りの多いそこは、自然の花が彩る街道。夏咲きの鮮やかな花々が七色を描くように、夜にもその美しさを映えさせていた。
 特に甘やかな芳香が鼻をくすぐるのは、この夜に初めて開いた白花があったからだろう。幾重もの花弁で優美な花冠を作るそれは月下美人。一際清廉な白色で、今宵の主役となったかのように月にも負けぬ美しさを誇った。
 だがその可憐さ故だろうか、そこへ引き寄せられるようにふわりふわりと空から舞い降りるものがある。
 それは小さな胞子。風に乗って月下美人に取り付いたそれは、花を蠢かせて異形へと変じせていた。
 花の可憐さこそ残しながら、根で地を動くその姿は攻性植物に疑いない。夜の散歩へきていた人間を見つけると、ゆらりと近づいて強襲。命を喰らい、夜の藻屑へと変えていく。

「ようやく月を仰いだ月下美人が異形に──ですか。嘆かわしいですね」
 未来に起きる悲劇の夜。その予知の一部始終を聞いたアレクセイ・ディルクルム(狂愛エゴイスト・e01772)は、そんな言葉を零していた。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)もええ、と頷きを見せる。
「このままでは人命が危険にさらされることになります。沢山のお花も、荒らされてしまうことになってしまうかもしれません」
 だからこそぜひ変えられてしまった花の討伐を、とイマジネイターは語りかけた。
 現場は大阪市内。爆殖核爆砕戦の結果によって、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出しているという、その流れの事件の一つといえるだろう。
「未だ、大阪の攻性植物は確認されているというわけですか」
「ええ。確実に討伐をして、何とか侵攻に抵抗をしていきたいところです」
 イマジネイターはそう頷いて続ける。
「敵が出現するのは街道の一角。石畳の道を挟むように花が咲き誇る場所です」
 攻性植物は出現直後であり、そこにいる散歩中の人々を襲おうとするだろう。
 ただ、今回は警察消防の協力で避難が行われる。こちらが戦場に入る頃には丁度周囲の人々の退避も終わっていることだろう。
「皆さんは急行して、道に出てくる敵を見つけ次第、戦闘を仕掛けて打ち倒してください」
 イマジネイターはそれから、資料を眺める。
「この道は、月や星の出ている夜は、とても綺麗な眺めだそうですよ」
 遮るものがなく、空からの明かりだけで花を楽しみながら散歩できるという。
「無事に戦闘が終われば、花を眺めながらの散歩をしてみてもいいかもしれませんね」
 イマジネイターの言葉に、アレクセイは頷く。
「宵の散歩。涼やかな時間が楽しめそうですね」
「ええ。そのためにも、ぜひ、敵を撃破してきてくださいね」
 イマジネイターは言って頭を下げた。


参加者
狗上・士浪(天狼・e01564)
キアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)
月原・煌介(白砂月閃・e09504)
クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)
宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)
アベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)

■リプレイ

●花の邂逅
 月が空を彩る夜。
 人々は夏風にそよぐ花に別れを告げて、警察の誘導で避難してゆく。
 彼らの協力に感謝を伝えたキアラ・ノルベルト(天占屋・e02886)は、街道の無人を確認してから周りを封鎖していた。
 人の流入の心配がなくなれば、そこはもう静謐の花景色。キアラは改めて見回している。
「夏の香りのする道やね」
「うん。あっ、月下美人が咲いてるよ。えへへ、とっても綺麗だね♪」
 イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は、一角にその花を見つけた。
 笑顔で見つめるそれは花開く白の花弁。光が瞬くような一夜の花だ。
「彩り鮮やかな花もいっぱいの、この素敵な街道でも。これが今日の主役だよね?」
「年に一度だけ花開く、だっけか。確かに今日だけは一番かもな」
 宵華・季由(華猫協奏曲・e20803)は月明かりに映えるその美しい花に、1人の悪友を思い浮かべる。
 彼が飾っていたから月下美人のことを知っていた。けれど本物が咲くのを見るのは今日が初めてで、わくわくもしていた。
 こうして見てみると、その神秘的な有り様に改めてあいつみたいだな、と思う。
 ひとつ笑みを零したその時、しかし夜に動く敵影も季由は見つけていた。
 それは花々の間から出てくる異花。月明かりを吸ったように淡く白光を纏う、月下美人の攻性植物だ。
 もう、とイズナは腰に手を当てていた。
「こんなに綺麗なのに。グラビティチェインが欲しいからって、他の花の頑張りを邪魔するのは、許さないからね!」
 嗜める声に、しかし攻性植物が退くことはない。花の姿形はそのままに、巨大化した花弁で糧を求めて近づいてきていた。
 クレーエ・スクラーヴェ(白く穢れる宵闇の・e11631)はそれを見据えると扇を手に取る。
 可愛らしくも妖しい優美さを見せるそれは“妖猫ノ魅夢”。ぱらりと開いたそこに、鋭い冷気を湛えていた。
「退く気がないなら、やることはひとつだね──さっさと倒して、景色楽しも?」
「ああ……月に祝福された景観……損なわせは、しない」
 穏やかな声音に、芯の熱い心を含めたのは月原・煌介(白砂月閃・e09504)。柔い風に金の髪を靡かせて、魔力を込めた指先でそっと空を撫でている。
 刹那に顕れたのは真白に閃く雷。猛き力を伴う閃光『聖月雷閃』だった。
 荒ぶる雷鳴は眩い光を伴って4体の攻性植物を麻痺に陥れる。同時にクレーエがくるりと舞って氷気の光線を放てば、敵の花冠の一部が凍結していった。
 そのうち2体はそれでも止まらず前進してくる。狗上・士浪(天狼・e01564)は抜け目なく大鎚を携え、狙いを定めていた。
「攻撃される前に、対処しておくか」
「手伝うぜ。まずは炎の爪痕の1つや2つ、刻んでおくとしよう」
 ゆるりと声を返したのはアベル・ヴィリバルト(根無しの噺・e36140)だ。穏やかな色の感じられる声音で、しかし周囲に閃かせた焔は轟音を伴うほどに激しかった。
 夜が眩しくなるほどの炎を湛えて生み出したのは、真紅の龍。『焔獄』の名に違わず、飛翔した先に炎の路を作り、赤い衝撃を見舞ってゆく。
 火に取り憑かれた4体は苦しげに揺れていた。1体は苦し紛れに月光色の光線を放つが、それはアベルに当たる前に弾けて消える。
 ヨル・ヴァルプルギス(グノシエンヌ・e30468)が魔導書の数頁を風に踊らせ、盾代わりにして攻撃を受け止めていたのだ。
 散った光で多少の傷は負った。だが直後には季由が猫型オウガメタルのChocolaから治癒の粒子を、イズナが守護星座の輝きを、キアラが攻性植物“謂はぬ色”から淡い光を放つことで、ヨルを含む前衛を回復強化している。
「これで治療は問題ないんよ。攻撃は頼めるかな?」
「ええ、支援に感謝を」
『おかゲで助かったワ』
『んフフ、待っテてネ? すグに敵さンにやり返シてあゲるカラ』
 ヨルの言葉と共に、その手元で喋るのは腹話術の人形。金髪に巻き毛のモーガンと、緑髪のボブカットのグローアだ。
 彼女らを動かしていた手で、ヨルはすぐに槌を握って一撃。敵の1体に接近して殴打を加えている。
 その1体は反撃しようと虹の力を溜めた。が、既に士浪が砲口に火を吹かせている。
「遅ぇさ」
 爆炎は虹の力を相殺し、攻性植物に直撃してその1体を大きく吹き飛ばしていく。

●月光
 煙を上げ、花弁の一端を失った異形。
 それでも起き上がったその姿は未だ美しかった。殺意にも似た感情を見せながら、4体共が元の花の面影を色濃く残しているのだ。
 アベルはそれを目にしてふと声を零す。
「最後まで美しさを保った侭、か。月下美人の矜持……って奴なのかね」
「どうだろうな。ただ、見た目がキレイでも、ようやく咲いた所にこれじゃぁ、な」
 士浪の口から皮肉が出ないのは、この花達が本来は美しく咲いているはずの、無辜の存在だったからか。
 ただ、それでも士浪はためらわずに戦闘の体勢を取る。この事件が攻性植物の侵攻の一端であればこそ、手を緩めるつもりはなかった。
「……とりあえず駆除といくか。それで少なくともここの被害は減らせる」
「ああ、これ以上、悪さはさせられないからな! 悪友の象徴的な花を、汚させはしない! いくぞ、ミコト!」
 季由の声に呼応して、頭の上のふくよかな虎猫が飛び立つ。それはウイングキャットのミコト。夜空に羽ばたいて風を生み、仲間に守護の力を与えていた。
 それを機に攻性植物達もまた、接近してくる。
 異形と化しても、美しさを捨てなかった月の花達。キアラは一度だけ目を伏せた。
「……月下美人、君らは今もとても綺麗。ダンスのお相手はうちらにさせたってね」
 最期の、散るその時まで、と。キアラはテレビウムのスペラを疾駆させ、1体に凶器での殴打を加えさせてゆく。
 瀕死ながら抵抗を見せる1体。だがそこへ士浪も即座に肉迫していた。
「悪ィが。……ツイてねぇと思って諦めてくれや」
 地を蹴り、横回転を伴って一撃。刃のような蹴撃で切り裂き、その1体を四散させていく。
 3体となった攻性植物は、一斉に芳香を放ってきた。
 意識を朦朧とさせるほどの濃密な香気。だが、その香りと衝撃の大半を、翼を輝かせたイズナが前面に飛来して受け止めている。
 一瞬にして正気を奪われるイズナ。しかしすぐ後には季由が黒絹の髪を靡かせて地を踏み、花嵐のオーラを舞わせていた。
「安心しろ、同士討ちなんてさせないさ──癒しきって、みせる!」
「うちも協力するんよ。これで、わるいのわるいの、飛んでっけー!」
 キアラが高空に手を掲げると、薄雲が輝いて仔羊が遣わされた。
 その儀式は『天占:金羊』。仔羊達を自分達のもとへ降ろさせると、きらもこの毛糸で月の香りを絡め取らせ、イズナと前衛の皆の意識を明瞭に保っていく。
「えへへ、みんなありがとう!」
 イズナも笑みを向けつつ、花舞う踊りを見せて皆を万全に治癒した。
 敵も連撃をしようと花を震わせる。だが煌介は既に、冴え冴えとした光で魔法陣を描いていた。
「氷陽の沈む黎明に……裂けよ霜風」
 所作は梟の狩りの如く、眼光は鋭く。凛と詠唱を完了させると、魔法陣は氷雪の嵐を生み出して3体の根元を凍らせた。
 その中の1体へは、同時にクレーエが獅子意匠の星剣を携えて接近している。
 攻性植物は光線を放とうと光を収束する。だがクレーエがそれを両断するほうが早かった。
「させないよ?」
 細めた目には漂うのは、平素の溌剌とした空気とは違う落ち着いた色。剣閃も淀み無く、連続で花弁を斬り裂いていく。
 ヨルは手を伸ばし、夜の如き暗いオーラを発射。花弁を剛速の衝撃で貫いていた。
「あと、一撃にて。彼の敵の命も終焉を迎えましょう」
「分かった。俺がやっておくさ」
 刹那、踏み込んだアベルがそこへ横一閃。孤月を描く剣撃を放っている。
「――せめて、 咲く筈だった此の夜に散って行きな」
 その一刀が命を両断。攻性植物を言葉通りに消滅させていく。
 残る2体は、連続で虹の光を放射してきた。が、滑り込んだキアラが防御態勢を取って耐え抜く。そこへすかさず、ヨルがウイングキャットのケリドウェンに声を向けていた。
「御行きなさい。そしてやるべき事を、今直ぐに」
 ケリドウェンは治癒の風を送ってキアラを回復。同時に、煌介も優雅な手つきで青き光の軌跡を描いていた。
「少しだけ、待って……これで、治るから」
 言葉に違いなく、光は浚うようにキアラの傷を消失させていく。
 士浪は練り上げた気を拳に集め、攻性植物の1体に瞬時に間合いを詰めて叩き込んでいた。
 その一撃は『天狼業濫颯』。気は増幅、炸裂し、爆破したように1体を霧散させる。
「これで、終わりだな」
 その士浪の言葉に応えるように、ヨルは『夜冥の森』を行使していた。
 夜の中に降臨するのは【冥府の女王】。その旋律は屍兵の群に刃を揮わせ、文字通りの夜冥の森へと命を帰させてゆく力。跡形もなく刻まれた攻性植物は、月光も届かぬ世界へと散って消えていった。

 敵が消えると、夜に静寂が戻っていた。
「……ったく、手ぇ煩わせてくれるぜ。風情も知らねぇ雑草共が」
 士浪が呟くのは月下美人にではなく。その花が散る元凶たるユグドラシル側だった。
 それでも、敵となった4輪の花以外に被害は無い。皆はヒールをして警察消防に連絡。花の景色に平和を取り戻していた。

●散歩へ
 イズナは真っ直ぐ帰らずに、夜の花街道で皆に振り返る。
「せっかくだから散歩したいな♪ えへへ、みんないっしょにどうかな?」
「ええね。こんな景色やし、みんなで夜を廻ろ」
 キアラがふわりと笑みを返すと、皆も頷いた。
 夜の花を見ずに去るのはきっと勿体無い、そんな気持ちもあったろうか、皆で共に月下の花景色を眺めようと一致する。
 クレーエは端に置いてあったクーラーボックスから飲み物を取り出していた。
「夜でもまだ暑いから冷たい飲み物でもどう? お茶にお水に炭酸、スポーツドリンク……色々あるからお好きにどーぞ」
 朗らかな表情で勧めるクレーエに、一行はそれぞれに受け取って礼を述べる。キアラはそれからゆったりと歩み出していた。
「それじゃあ、会いに行こか」
 次はもっと咲けるように、いつかの巡りを祈りながら──夜にめざめたままの花たちに、と。
 そんなキアラに続いたアベルも早速、ぽつぽつと咲く白花に視線をやっている。
「一晩限りの咲き様と美しさを見せてもらおうかね」
 暗がりに目立つそれは他ならぬ月下美人で、未だ花開くものが残っていた。
 アベルが歩み寄ると、皆も近づいて眺める。大きな花びらは美しく放射状に広がり、月のように楚々と、また光輪のように凛と咲き誇っていた。
 季由は見下ろしながら頷いている。
「やっぱり花は花のサイズの方がいいな」
「そうだな……こうして眺めてりゃ、なかなか良いモンだ」
 士浪も、花本来の咲き様を間近で見て取ってそれを実感する思いだった。
 イズナは月下美人の優美さに、改めて笑顔を見せている。
「えへへ、綺麗だね♪ もっと見たいって思っちゃうけど、一夜しか咲かないから、儚さが想いを募らせるのかな」
「かもな。でも、そうでなくてもいい花だ。それに、香りも心地良い」
 季由は鼻をくすぐる芳香にも目を細めている。
 月下美人の香りは甘く上品で、優しい。それでいて他の花に負けぬ存在感があって、見た目以上にその匂いでそこに開花しているのだとわかるほどだった。
 季由の頭の上では、ミコトもその香りと花に興味津々の様子。鼻先を伸ばしてみたり、季由の頭から足を突っ張って間近で見ようとしてみたりしている。
 それを微笑ましげに見つつ、煌介も季由の言葉に頷いた。
「この花も……他の花も。夜は、ことに……香る気が、する」
 見れば月下美人以外にも、夏咲きの花が星月の下で艶やかに咲き誇る。煌介がゆるりとそぞろ歩きを再開すると、皆もまたそんな花々を眺め始めた。
 麗しく咲く百合の花はその中でも目を引く。薔薇と共に高貴な色合いを作り出し、月夜に映えていた。夜色のアガパンサスに可愛らしい千日紅など、どれもが千差万別で美しい。
 イズナは満面の笑みでそんな花達を見回す。
「すごい、どれも綺麗だね!」
 思わずきらりと翼が輝いてしまうその様は、どこか妖精のようでもあろうか。天真爛漫に花を楽しみ、ヨルにも笑みかけた。
「ヨルはどう?」
「ええ、どの花も美しく咲いているかと存じます。宵の道に、見合った風景ですね」
 静かに散歩を続けるヨルも、多くの花の中でそんなふうに応えている。
 香りを楽しませてくれるそんな花々を、煌介は愛おしそうにそっと触れていた。目を細めるのはその可憐さと共に、守れて良かったという実感があるからだ。
 クレーエは花を愛でる煌介を見て、心から声を零す。
「煌介さんには月夜と花がよく似合うよね。そういうところ、綺麗で素敵だと思う」
「月夜と花……。ありがとう……そんなふうに言って頂けて」
 煌介は一度静かに目を伏せて声を返していた。
 それから皆で歩み出せば、また花は風にそよぎ香りを生む。皆はその中を暫し歩んでいった。

 月下美人はところどころに植わっていて、数は少ないが花開いているものを複数見つけることができた。
 士浪は感心したようにそれを見下ろす。
「へぇ、結構咲いてるじゃねぇか」
「ここまで咲いているのは珍しいかもな。……そうだ、写真を撮ろう。良ければ皆で」
 季由が思い立って言うとクレーエもこくりと頷いていた。
「いいね! 僕もちょうどお土産に撮っておきたかったんだ」
 クレーエが頭に浮かべるのは奥方の事。この綺麗な花ならば、きっと喜んでくれるだろうという思いがあった。
 それから、季由がセットして皆で月下美人の前に立つ。
「ということで、年に1度の花と縁に感謝だ!」
 シャッターが切られると、月夜に花と写る皆のショットが収められた。
 クレーエも、花をじっくりと撮影してベストな1枚を撮る事に成功。アベルもまた、スマホを取り出している。
「それじゃ、俺も形に残しておくかな」
 枯れてしまってもその時は確かに在ったのだと、言えるために。
(「……そして多分、それを俺が覚えておきたいから」)
 思いを含んで撮った写真は、その美しさも儚さも収められたかのような1枚だった。
 それも済むと、キアラは空を仰ぐ。
 ふと『夏は夜』という一説が心に過っていた。
(「織姫と彦星。蝉の声。……短い夏の、もっと短い夜に、日本の昔のひともまぼろしを見たんやろか」)
 ただ、その幻もきっと無為なものだけじゃないのだとキアラは思う。
「……いつかはかぎろいのよになる邂逅でも。花も、人も、こんなにあざやかやから──抱えていきたいね。月より短い、この生のなかに」
 月が沈めば、きっと花もしぼむ。
 それでも今ここには確かに美しい花があるのだと、キアラは夏の夜風にそう感じていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月24日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 3
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