天を衝く魔性

作者:崎田航輝

 宵の風に漂う胞子は、その命の宿先を探して宙を降りていく。
 遥かな高空から辿り着いたのは、夜に佇む雑木林。月の光も届かぬ静謐の檻で、数本だけが睦まじく自生する銀竜草であった。
 水晶の如き艷やかな白銀は、異質の花粉に見初められて眠りから醒めてゆく。
 怪物と化したそれは、空を遮る植物の葉を突き破り、月光にその体を顕わにする。きらきらと煌めく銀色はぞっとするほど美しく、夜に異形の輝きを振り撒いた。
 そして自由の次に得るのは、道々を歩む無辜の命。
 魔性の銀色は血を求めて激しく、しかし嫋やかに林より抜け出ていく。

 そうして、攻性植物と化した銀竜草は人々を襲うだろう。
 予知された未来に待っているのは、赤い血潮を撒き散らす銀の異形だ。
「成る程──それにしても銀竜草、とは不思議な名ですね」
 静かな声を零すのは西院・織櫻(櫻鬼・e18663)。感情の波の窺えないその表情に、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は頷きを返していた。
「林床などに生えるみたいで、腐生植物としては有名なものみたいですね。名前はやっぱり、見た目が特徴的だからということもあるのでしょう」
 銀竜草は細長い銀色の体を持つ。そして花の部分だけが太くなっていて顔のようにも見える形をしている。
 異形化した銀竜草は色合いは一層美しく、人を見下ろす程に巨大化しているといった。
「それも、謎の花粉に取り付かれたからというわけですね」
「ええ。先の爆殖核爆砕戦から暫く、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出している……今回の事件もその流れのひとつのようですから」
 大阪の攻性植物の勢いは未だ続き、市内を重点的に襲おうとしている。狙いは無論、市内を中心に自身らの拠点を拡大させることだろう。
「今回の敵も大阪市内で発生したものです。場所は雑木林で、すぐ近くに林沿いの道がある環境ですから、人々を襲うまでに時間はかからないでしょう」
「攻性植物としてはある意味で、絶好の立地というわけですか」
 織櫻の言葉にイマジネイターはええ、と返した。
「ですから、早急の対策が必要なんです」
 ただ、今回は警察消防の協力もあるので、人々の安全については心配は要らないという。
「皆さんが戦闘を始める頃には、丁度人々の避難も終わる状態になるでしょう。皆さんは討伐に集中して頂ければ問題ありません」
「僥倖ですね。ただ敵を斬ればいい、というのなら」
「ええ。しかし敵も4体を数えますから、弱い相手ではなさそうです」
 攻性植物達は常にまとまった行動を取る。一度戦闘に入れば逃げ出しもしないが、戦いでは連携をとってくるようだ。
 1体1体も決して弱くはない。水晶のような結晶を降らせ、こちらの体に喰らいつき、命を燃やす。油断すれば苦戦は免れないので、最大限の警戒をもって当たって下さい、とイマジネイターは言った。
 織櫻は頷く。それも当然分かっている、というように。その上で、刃を研ぎ澄ませるほどの戦いができるのであれば、望む所という心でもあった。
「斬る必要があるのならば、斬ってみせましょう」
「ええ。元の植物に罪はない、ですけど。デウスエクスとなった以上は、こちらも手加減をしていられませんから。全力で討伐に当たってもらえればと思います」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
深月・雨音(小熊猫・e00887)
セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
九十九折・かだん(スプリガン・e18614)
筐・恭志郎(白鞘・e19690)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
ルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)
兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)

■リプレイ

●邂逅
 月明かりの林道に、銀色の光が漂う。
 木々に挟まれた夜の中を進むシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は、その先に燐光を零す巨花がいるのを見つけた。
「あら、あら、まあ。きれい──」
 そっと手元に口を当ててしまう程、その光は茫洋と美しい。ただ見上げるほどの全長とうねる体は、優美さだけではない威容も兼ねていた。
「何だか不思議……大きくなった銀竜草って、本当に竜みたいですわね?」
「名前の通りっていう感じなのかな……ボクは見るの自体初めてだけど」
 顔のようにも見える花弁を見据え、アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)は小さかったというその元の姿を想像する。
 この花は今回の仕事を機に知った。故にわくわくした心もあって、だからこそこの花が異形化してしまったことは残念にも感じている。
「本当に、こんなに綺麗な花なのに、攻性植物になるなんて……勿体無いなあ」
「というよりもとにかくこの草、やばくないにゃ?!」
 少しずつ近寄ってくる銀竜草の攻性植物、その姿にもっと本能的な危険を感じているのは深月・雨音(小熊猫・e00887)だった。
 光を振り撒いてくるその姿に、ちょっとしっぽを立てて戦闘態勢を取る。
「綺麗でも何でも、人を喰うなんか反則にゃ」
「……そうだ、ね。こうなる、と、なんだか、ちょっと、不気味だ、ね」
 見上げる兎之原・十三(首狩り子兎・e45359)は、感情が読めぬほど表情は薄い。ただ携えた妖刀【月喰み】を如意棒形態に変容させ、その手にしかと握りしめていた。
「それに、攻性植物を、放っておく、事なんて、出来ない、から。……その首、もらう、よ」
 語りかけるような小さな声音は、しかし返答を期待しているものではない。夜に駆けた十三は、4体の銀竜草のうち盾役の1体へ狙いを定め一撃。間合のあるうちから武器を突き出して深い刺突を加えた。
 敵もまたこちらへ距離を詰めてきている。セレナ・アデュラリア(白銀の戦乙女・e01887)は迫る異花に対して退かず怯まず、正面から相対していた。
「侵攻も、ここまでです。──我が名はセレナ・アデュラリア! 騎士の名にかけて、貴殿達を倒します!」
 星月夜の銘を持つ白銀の騎士剣は、月明かりのせいだけではなく眩く光る。
 それは振り抜いて放たれた氷気の波動。命中と同時に銀の根元が澄んだ氷に閉ざされ、前衛の巨花達は一時惑った。
 空気が震える気がしたのは、同時に九十九折・かだん(スプリガン・e18614)が深く息を吸っていたからだろう。
「ならばもう少し大人しくしていればいい。──花にも私の声は届くだろう、その身全身で森の王の轟を聞けよ」
 響いたのは永劫にも思える咆哮。音の形をした呪い。文字通りに『呼声は遠く』、そして強く、中衛2体の銀竜草を麻痺に陥れていた。
 その隙を見て、アンセルムは蔦を伸ばしていた。体から伸びるそれはkedja、即ち鎖の名を持つ攻性植物。後衛の仲間を包むと淡い煌めきを落とし、体内に耐性を植えさせていく。
 この間に敵前衛の2体がかだんへと喰らいかかっていくが、その衝撃を刃と腕で阻んだ影があった。
 筐・恭志郎(白鞘・e19690)。護身刀・白綴の鞘で牙を押さえ、血の流れる腕を盾に動きを阻んでいる。
「……ここは通しませんよ」
 痛みにはぐっと堪えて声を上げず、即座に攻撃態勢に入る。シアの照らす雷光の壁によって体力を持ち直すと、恭志郎は『翳華』。白綴の鐺を突き入れることで光の花弁を舞い上がらせてその1体の平静を奪った。
「機動力を削ぐのなら、今です……!」
「よし、私がやろう──」
 疾駆するルデン・レジュア(夢色の夜・e44363)は、素早く間合いを詰めていく。同時にその視線は注意深い。戦いの仕事が久しいからこそ、役割を確実に果たしたいという心があった。
 狙うのは敵の足元の隙の多い所。
「……丁度、銀色だから夜でもわかりやすいな!!」
 蠢く銀竜草だが、輝く体はいい的でもある。跳んだルデンは刺すような蹴撃を打ち込んでその個体の動きを確実に鈍らせた。
 そうなれば雨音が追いすがるのも容易だろう。
「どんどん切っちゃうにゃ!」
 抜き放った唐刀・凛月は、氷の如く透き通った刀身に違わぬ、冴え冴えとした剣閃を生み出す。その一刀は盾役の1体の根元を突き崩し、伴った雷撃でその動きをも縛っていった。

●宵戦
 転倒した銀竜草は、体の光を薄めて藻掻き苦しんでいる。
 だが他の3体は未だ傷も浅い。怒りに体を発光させると、煌く光の結晶を振り撒いて威嚇の様相を呈していた。
 ルデンはふと見上げて、その美しさと奇怪さに呟きを零す。
「しかしデウスエクス……特に攻性植物って、相変わらず変なのが多いな……」
「銀竜草は、別名で水晶蘭とも呼ばれているそうですね。ある意味では、名の通りの幻想的な美しさとも言えるかもしれませんが」
 セレナは水晶の如き輝きにそんな言葉を思い出す。
 森に咲く銀の花。恭志郎は過去を想起するように応えていた。
「確か、長い年月荒らされず安定した森林に生えるんでしたよね」
 思い描くのは子供の頃。祖父が存命の頃には、山に入って色々珍しい植物を見せて貰ったりもしたものだった、と。
 農家育ちで、自然とは長らく触れ合ってきた。だからこそ今の銀竜草の姿にはどこか、悲しげなものも感じた。
「……その自然を、銀竜草自ら荒らしてしまう事になるなんて」
「何にせよ、人に害があるのは嫌いだ……早く倒してしまおう」
 ルデンにとっては、戦うよりも絵を描いていたい気分だ。だが少なくともこの異形は絵の題材になるほど大人しくしてはいないだろう。
 ならばやることは一つ。セレナは頷いて刃を握り直した。
「ええ。行きましょう──花を斬るのは少々気が咎められますが……人々を守る為ならば、この剣を振るう事に躊躇いはありません!」
 奔らせた剣戟は、弱る1体の茎を裂いて傷口を凍結させる。
 ルデンがうまく滑り込んでそこへ斧の斬打を畳み掛けると既に敵は瀕死。反撃が来るよりも早く十三が【月喰み】を突きつけていた。
「さっき、みたいに、打たれたい? それとも斬られたり、燃やされたり、の方が、いい?」
 無論異形の花は応えない。だが【月喰み】から零れる呪詛は、その脳裏に『首を刎ねろ』という声を響かせる。
 十三はその声に殺意を研ぎ澄ませ、【月喰み】の力を解放していた。
「なら、斬ってあげる、よ──」
 妖刀形態となった月喰みから更に伸びるのは、不可視の呪怨の刃。その力、『新月:逸兎・凌断』は一閃に命脈を刎ね切り、盾役の1体を四散させていく。
 わななきを上げる中衛の2体は、水晶の煌めきを塊に変貌させて降らせてきた。だが、その光の雨を盾となって受けきった恭志郎は、直後に裂帛の気合を巡らせて意識を保つ。
 時を同じく、アンセルムは蔦を天に向けてグラビティを昇らせていた。
 透明の光は空で弾けると、恵みの雨滴となって降り注ぎ、恭志郎と余波で衝撃を受けていた前衛の仲間を癒やしていく。
「傷も不調も、これで問題ないね……」
「ならば私は、更なる力を与えさせて頂きます」
 そっと手のひらを差し出すシアは、暖かな光を伴ったヤドリギの幻想を生み出していた。
 伸びる枝葉は『金枝の祝福』となって仲間に宿り、破魔の力を与えていく。
 態勢が整えば、雨音は既に敵中衛へと走り込んでいた。
「遅いにゃ。それじゃ雨音にはおいつけないにゃ!」
 食らいつこうとする銀竜草を、雨音は軽い足取りで踊るように翻弄していく。かと思えば地を蹴って一息に距離をゼロにする、その様は小さな猛獣のよう。刹那の内に拳を撃ち当て、敵を大きく後退させる。
 この個体が体勢を直そうとする頃には、槌を構えたかだんが肉迫していた。
「無駄なことだ。この一撃は外さなない」
 威風堂々の気風に、正面から泥臭く、そして力任せに迫る様は文字通りの森の王の如く。振るった槌は豪炎の衝撃を伴って2体を襲い、衝撃波で地に打ち倒していく。

●光
 燃える炎に、銀竜草は苦しむように流動している。
 そんな中衛を守ろうと、盾役の個体は前面に出てくる。が、射線が塞がるならばそれを空けるだけ。恭志郎は踏み込むと同時に再び鞘での打突を放っていた。
「これで、攻撃も通るはずです」
「うん、あとは、じゅーぞーたちが、やっておく、ね」
 飛び退った恭志郎に、通り過ぎざまに言った十三は風のように疾駆している。
 そのまま瞬く間に中衛の1体へ迫れば、敵が反応する間もなく一撃。突き攻撃で花弁を貫き、ぐらりと体勢を崩させていた。
 満身創痍の銀竜草は、倒れ込みながらも雨音の半身に噛み付いて深い傷を負わせる。だが雨音は離れるでもなく、逆にその1体を掴んでいた。
「よくもやったにゃ。こうなったら、ちゅっちゅ吸われる前にちゅっちゅと食べっちゃうにゃ」
 言ってがぶりとひと噛み。だが明らかに食用でないその異形は、暴れるようにいななきを上げるばかりである。そうなれば雨音には、その植物に抱く興味もないのだった。
「なんにゃ、食べられないならしょうがないにゃ。ボコッとバキッと刈ってやるにゃ」
 あとはつまらなそうに尻尾でビンタを見舞う『千尾円流舞』。その1体を散らすと同時に自身の体力を回復させていた。
 残る2体は銀の光線を放ってくるものの、その攻撃はセレナが剣で撃ち落とす。それでもセレナも無傷というわけにはいかない、だが直後にはアンセルムが治癒の煌めきを蔦に光らせていた。
「傷は深くはなさそうだから……多分、すぐに全快にできるはず」
 蔦が振り撒いた光は、敵の銀色に比して金に輝く暖かなもの。優しい感触を生んだ煌めきは前衛の皆の体に溶け込み、傷を癒やしきっていた。
「じゃあ皆は攻撃に移って」
 と、アンセルムが敵を見る視線は静かで躊躇いはない。この花が異形なったことには思うところもある、だが攻性植物に容赦をするつもりはなかった。
 それはシアも同じである。花の美しさを知るからこそ、攻性植物を相手に加減を差し挟むことをしなかった。
「暇は与えませんよ」
 攻撃を狙ってくる残りの中衛に、素早く地面すれすれを飛翔して接近。薔薇の結晶として身にまとっていたオーラを開放すると、その花弁を刃にして無数の斬撃を叩き込んでいく。
 花弁の一部を切り飛ばされた異花へ、かだんは轟と響く咆哮を浴びせて動きを抑えた。刹那の内に刃を閃かせたのはセレナ。剣圧を空中で炸裂させることで小爆破の衝撃を生み出す。
「前衛の敵も、来ています──!」
「……ああ、何とか……相手しておこう」
 盾役は、飽く迄仲間を守ろうと行く手を塞ぐ。そこに相対したルデンは、一度息をつきながらも斧に冷気を湛えていた。
 敵が襲いかかってくると同時、そこへ一線に斬打を振るい冷気を飛ばす。直撃を受けた敵は弾ける氷片とともに、根元の広範を砕かれていった。

●月夜
 横倒れとなった銀竜草は、暫し苦悶を露わに間合いを取ることが精一杯のようだった。
 2体はどちらも負傷が進み、体力の底が見えてきている。かだんは槌に混沌を纏わせてそんな敵へ歩み寄っていた。
「さ、そろそろだ。──お前たちも。竜から、ただの花に、戻る時だ。ただの花として、散る時だ」
 中衛の1体は反抗するように光線をこちらの前面に放つ。だがそれもかだんが槌で払い落としていた。
 生まれた間隙に、恭志郎は体を覆う花弁状の光をオーラに形成。真っ直ぐに蹴り出すことで衝撃を与え、その1体を後退させる。
「この個体も、あと少しの筈です……!」
「ん、それなら。一気、に、追い込む、ね」
 応える十三は再度呪怨の刃を形成。居合の如く振り抜くことで深々と裂傷を刻み敵を瀕死にした。
 その1体は死を前にしても獣の如く獰猛にわななく。それを見据えるかだんにはずっと、敵意も殺意もなかった。自然のものである花に仲間意識すら持って、綺麗だと思っていた。
「だから人を襲わなくて良い。惑わさなくていい。ただ揺れているだけでいい。あるべきままの、お前たちを見送ろう」
 振り下ろされたかだんの槌は、だからこそ容赦なく。その異花を跡形もなく霧散させた。
 1体となった銀竜草もまた、最後まで体を異形らしく煌々と光らせている。ルデンはそれを見てふと、かぐや姫が現れたかのような印象を受けた。恥ずかしくてそんな事は口に出せなかったけれど。
「……とにかく、この花もあと1体だね」
「うん。早目に終わらせたいし、急ごうか」
 声を継いだアンセルムは『変容:妄執の大蛇』。蔦を大蛇へと変貌させて喰らいつかせ、敵の全身を締め上げていた。
 身動きの取れぬ攻性植物へ、雨音はすかさず遠慮のない拳の一撃を叩き込む。
「これで、どうにゃ」
 銀竜草は悲鳴のような甲高い擦過音を上げていた。セレナは風を巻き込んだ剣閃を奔らせ、その大元の花弁を凍らせていく。
「さあ、今のうちに」
「ええ」
 頷くシアはひらりと舞いながら、剣撃で敵の体を千々に斬り裂いていく。
「銀色のその身が赤に染まる前に、おやすみなさい」
「……これで、終わりだよ」
 同時にルデンは筆を走らせ燕を描き出していた。
 それは『虚無色/青』。空を翔ける鳥そのもののように羽ばたき、攻性植物を空へ連れて行く。散っていく銀竜草は地に戻ることは無く、そのまま空気に溶けて消えていった。

「やっとおわったにゃ。中々、大変だったにゃ?」
 静寂の戻った夜に雨音の声が響く。
 頷いた皆は武器を収める。
「……これで、【月喰み】も、しばらく静かに、なるか、な」
 声を零す十三も【月喰み】を納刀。ようやく周囲の静けさを感じていた。
 その後皆は荒れた箇所の修復をした。道の地面の一部と、敵が生まれた雑木林の中だ。
 そこを見下ろし、アンセルムはふと呟く。
「また生えるといいね……銀竜草」
「整った環境も必要な花ですから……この雑木林に再び根付くようになるのは、いつになるのでしょうね……」
 恭志郎もしゃがみこんで、花の無くなった木の陰を見やっていた。
 シアはそれでも希望を捨ててはいない。
「毎年同じ所に姿を見せてくださるそうですから。咲くと期待しましょう」
 来年、どうかここで会えます様に、と。シアは月夜に祈った。
 ヒールも終わると、かだんは歩み出す。
「では、帰ろうか」
「ええ。……もうこんな事が無いよう、攻性植物の胞子を何とかする方法を見つけないといけませんね」
 恭志郎が零すと、ルデンは見回しつつ歩く。
「……謎の花粉……何かあるかもしれない……探しながら散歩していこう」
 と、警戒しつつ、同時に夜を眺めつつ道を進んでいった。
「私も少しだけ、月見をしてから帰りましょうか」
 セレナは空を仰ぎ、夜に光る月を見つめる。
 遮る光のない月は夜に映えて美しい。こんな景色と人々を守っていけたら良い、セレナはそう思いながら涼風を浴びていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年7月9日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。