星覆いの闇花

作者:崎田航輝

 いつもより星が見える夜だった。
 新月の闇は濃く深く、小さな星屑の煌めきまでもが映える。ここ数日続いていた雨雲の覆いも今宵は無く、梅雨には稀少なほど空は澄んでいた。
 遮るものの無い満天の星は、まるでばら撒かれた無限の宝石だ。手の届きそうなほどに近く、その輝きのすべてを網羅することは出来ない。
 そんな美しさだからこそ、都会の中心にあって人々が思わず立ち止まり、仰ぎ見てしまうのかも知れなかった。
 しかしこの夜、人々が奇跡の星夜を楽しめたのはほんの短い時間に過ぎない。
 これから夜が深くなろうという時刻、それは始まった。人々の頭上に暗い影がかかり、次の瞬間、地鳴りのような轟音ともに瓦礫の雨が降ったのだ。
 起こったのは建物の崩落だった。
 人々は理由も分からず、悲鳴と悲嘆のうちに命を失っていく。星空に揺らめく異形を見つけたのは、何とか逃げおおせた者だけだった。
 それは攻性植物サキュレント・エンブリオ。
 星明りの下、回遊するように宙を泳いでは進路上の建物を破壊している。そして人影があれば捕らえて生命を喰らう。突如出現したこの怪物によって、一方的な殲滅活動が行われていたのだった。
 土煙に、澄んだ空が覆い隠されていく。そのうちに星の煌めきも命の灯も、消えて無くなっていった。

「大阪はまだまだ、予断を許さない状況のようです」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はそんな声を零す。
 それから改めて、ケルベロス達に説明を始めていた。
「そういうわけで、本日は攻性植物について予知された事を伝えさせていただきますね」
 爆殖核爆砕戦の結果として、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出している、その流れのひとつだ。
 これら攻性植物は、大阪市内を重点的に襲おうとしている。狙いは、一般人を遠ざけることで、市内を中心に自身らの拠点を拡大させることだろう。
 放置すれば、敵勢力に優勢な結果となって現れる。何より、多くの人々が命を落としてしまうことになるだろうと言った。
「この侵攻を防いで反攻に転じるためにも。攻性植物の撃破をお願いします」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、攻性植物サキュレント・エンブリオが1体。出現場所は、大阪の市街です」
 人口が多い一帯でもあり、数多くの建物やビルが立ち並んでいる場所だ。
 敵の出現位置は確認されているので、避難誘導などは警察、消防が協力してくれる。
「皆さんは出現と同時に戦闘に集中していただければと思います」
 戦闘では建物などにも被害が出るだろう。が、それはあとでヒールすることが出来る。短期決戦で確実に撃破することに集中するべきだと言った。
「サキュレント・エンブリオは浮遊しています。建物を移動経路として使用したり、電柱などを利用して狙撃するなど、立体的な戦法を取れれば、有利に戦えるかも知れません」
 では敵の能力について説明を、とイマジネイターは続ける。
「攻撃法は、根で締め上げる遠列パラライズ攻撃、根を針のように飛ばす遠単ドレイン攻撃、建物ごと薙ぎ払ってくる遠列足止め攻撃の3つです」
 各能力に気をつけてください、と言った。
「人々と、星空を守るために。ぜひ、敵を撃破してその侵攻を防いでくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
虎丸・勇(ノラビト・e09789)
イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)
橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)

■リプレイ

●迎撃
 星夜の市街地に、ケルベロス達は降り立っていた。
 眼下にいる市民は丁度、避難を始めようというところだ。それを見下ろすケルベロス達は、既にそれぞれの高所に着いて戦いの時を待っていた。
 あら、と、最初に見上げたのはビル上の凍夜・月音(月香の歌姫・e33718)だ。
「来たみたいね」
 その視線の先。高空の空間がぐにゃりと歪んでいる。
 それは、魔空回廊。一瞬後にはそこから異形の攻性植物、サキュレント・エンブリオが出現してきていた。
 イグノート・ニーロ(チベスナさん・e21366)は中層の建物の屋上からそれを観察する。
「これが、かの巨大攻性植物ですか。面妖、という言葉が正しいでしょうか」
「植物なのに陽の光の恩恵をー、要らぬというのも異形らしいですわねぇー」
 フラッタリー・フラッタラー(絶対平常フラフラさん・e00172)も同高度の建物上から、おっとりとした様子で声を継ぐ。
 クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)は翼で風を切り、その巨花より高く飛んでいた。
「植物としては生存する力に優れている、と言えそうですが──空に浮かんでいてほしい部類の花ではありませんねぇ」
 静かな表情の奥には、熾火の戦意。
 同時、クロハは脚に炎を纏って直上から落下する。
「何にせよ、コレでは折角の美しい夜空が台無しだ。早々に──撃ち落としましょう」
 そのまま、一撃。重力を加えて燃えさかる蹴撃を花弁に叩き込んだ。
 それが開戦の合図。橘・雄一(不器用なガジェット・e44268)は高層ビルの天頂で、眼鏡をかけ直す。同時に剣を高く掲げていた。
「では、始めましょうか」
 瞬間、剣に降ろすのは守護星座の力。星々の眩い輝きで仲間を包み、防護を固めていく。
 イグノートもすぐ近くのフラッタリーに対し、魔導金属片を含んだ蒸気を噴霧。まずは防御力を高めて態勢を整えさせた。
 その状況を把握しつつ、鴻野・紗更(よもすがら・e28270)は街が無人になったことも見て取っていた。
「避難状況も問題はないようでございますね。これでいつでも、作戦を」
「それではー、夜空をー、返していただきましょうかー」
 敵に向いたフラッタリーは、そこで前頭葉の地獄を活性化させている。
 するとサークレットが展開。金色瞳が開眼し、顔には狂笑を浮かべた。額に隠した弾痕からは地獄が迸り、その様相を一変させている。
 刹那、屋上の縁を蹴るとダブルジャンプで敵と平行移動。至近から『眼差シ之如キRaftani tir』を注ぎ、その精神に干渉していた。
「サァ、其ノ暴虐ヲコノ身Ni。召シmAセ、召シマsE、己ガ邪智ト刃gA木偶デ無イノnAラ」
 サキュレント・エンブリオは念力の作用を直に受け、フラッタリーを狙うように中高度を飛び始める。
 その背後を狙うのが、シルク・アディエスト(巡る命・e00636)だった。
「隙は容赦なく、攻めさせてもらいますよ」
 バーニアで疾走するシルクの武装は、妖精モチーフのフィルムスーツとアームドフォートによる『グロース・鋼鉄の妖精』。文字通り妖精の翅を羽ばたかせるように、機動性を活かして建物から建物へ跳んでいた。
 そして至近から砲撃を撃ち込み、巨花の動きを抑制する。
「今ならば、直撃を入れられるはずです」
「ありがとう。エリィ、跳べるかい」
 頷いた虎丸・勇(ノラビト・e09789)は、ビル上を疾駆しながらライドキャリバーのエリィに声をかけていた。
 エリィは応ずるように、ビルの縁から高く跳ぶ。すると勇も連続して跳躍。エリィが敵へ突撃するのと時を同じく、花弁とすれ違いざまにバールの斬撃を喰らわせた。
 直後、勇は前転しつつ、エリィはドリフトするように一段下の建物へ着地している。
「鴻野さん、行けるかい」
「ええ。──参りましょう」
 と、それに声を返した紗更は、勇と入れ違うように走り始めている。
 冷静に敵の動きを観察し、先回るように中層から低層の建物へ。最後は電柱を跳び移って距離を詰め、炎を伴った蹴り上げを打ち込んだ。
 衝撃で宙を後退する巨花。その面前に、きらりと輝く光があった。
「新月に現れたのは、月が嫌いだからかしら?」
 それはビルの縁に足をかけ、刃を抜く月音。
 刀身を妖力で光らせ、漂うのは淡い月下香の香り。星明りに白の髪を輝かせる月音は、まるで月そのものだった。
「だとしたら──月が在るのは空だけではないという事、教えてあげる」
 瞬間、月音は宙に踊って一閃。花弁の一片を切り飛ばして散らせていった。

●空闘
 サキュレント・エンブリオは体勢を保とうと根を暴れさせ、数棟のビルを破壊していた。
 濃い土煙に、灯りや星が薄まっていく。
「折角の良い星夜を隠すだなんて。無粋なことね」
 低層の建物に降り立った月音が呟くと、同高度にいた雄一も、ええ、と頷く。
 見れば、倒れたビルは粉々。中に人がいたらと想像すると、その脅威が改めて感じられた。
「こうして見ると、本当に厄介な攻性植物です」
「そうだね。よくもまぁ、こんな敵が市街地のど真ん中で暴れてくれるものだ」
 勇も、どこか呆れたような声音だ。
「ここを拠点にされちゃ、皆困っちゃうよ」
「その上、倒せば花粉を飛散、さりとて倒さねば被害は広がる一方──強さだけではない難敵とも言えるかも知れませんね」
 シルクも声を継ぐ。
 しかし、だからこそ見ているばかりではない。鉤爪付きのワイヤーロープを投擲すると、スイングするように高所を移動。再び動き出した敵に高速で接近していた。
「今はまだ場当たり的に対処するしかない──ならば一層確実に、討ち倒しましょう」
「ええ、どのみち、風情が理解出来ない植物は切り刻んであげるつもりよ」
 応える月音も、とん、とん、と飛び石のように低層の屋上を移動していく。
 巨花は後退と浮上を行って間合いを取ろうとしていた。
 が、シルクの放った光線は避けられず、根の一端を凍らせて中高度で静止。そこへイグノートが距離を詰め始めていた。
「さて、少々荒っぽくはなりますが──」
 と、言いつつダブルジャンプを駆使し、さらに壁を蹴って高い建物の縁を掴む。
 そこから更に跳んで工事中の足場、クレーン、欄干をジグザグに蹴り上がって、敵の真上にまで上がっていた。
 そしてそのまま、落下しながら一撃。強烈な拳を打ち込み、敵の高度を落としていく。
 同時、クロハはビル上からブラックスライムを流動させていた。
「灯りに、星。土煙があってもまだまだ二ホンの夜は明るい。そして的もこれだけ大きければ──狙いには困りませんよ」
 言葉通り、距離のあるビル上から放たれたスライムは違わず飛来。槍となって花弁を数片貫いていく。
 敵も攻撃しようと根をうねらせる。が、フラッタリーは中層と低層を飛び交って翻弄し、さらに回り込むように円周上に移動することで狙い定めさせない。
「今、其ノ身ヲ貫kU、槍ト成rI間セ∪──吾ヶ両ノ拳ヲ以tE!」
 叫ぶフラッタリーの動作は、まるで獣の如く。狂乱に堕ちながら、しかし理知に思考する矛盾も持ち合わせている。
 だからこそ、縛霊手“廻之翅”と“蝶之掌”による暴力的な打突を加えながらも、すぐに身を引いて的確に間合いを取っていた。
 敵は広く根を飛ばして捕らえようとするが、それは高速機動のシルクが滑り込み、防御。
 直後には雄一が治癒のミストを浴びせ、その傷を回復している。
「体力はこれで問題ないはずです」
「じゃあ、反撃行くよ」
 応えた勇は身軽にビルから立体駐車場、マンションと飛び移って巨花に肉迫。掌打を打って怯ませると、短刀“業【カルマ】”を抜き放って連続を浴びせ、傷を刻んだ。
 月音は離れた位置から敵に鏡像を投射。その精神までもを傷つけている。
「次の攻撃、お願いできるかしら」
「承りました。迅速に済ませましょう」
 月音に応えて、紗更は低地から建物を伝って接近していた。
 恐慌状態になった敵に対し、紗更はあくまでも怯まず、涼やかに『蔓荊』。淡い青色を宿した蔓を放ちその巨体を捕らえていた。
「少々、大人しくしていただきましょう」
 絡みついたそれを操ると、敵の全身を引き倒すように、地へと叩き付けていく。

●闘争
 サキュレント・エンブリオは暫し、地に沈み込んでいた。
 だがそれでは終わらぬとばかり、根を突き刺して低空に浮く。そのままビルをなぎ倒しながら侵攻を始めていた。
「このまま足場が無くなるとすれば──あまりいい状況ではございませんね」
 瓦礫の雨を跳び移りながら紗更が言うと、シルクも同様に燐光を零しながら、頷く。
「より短期決戦に臨むしかありませんね」
 シルクは元より、フラッタリーとともに敵を挟み込む機動を取っている。だから巨花の突然の動きに対応するのは難しくないとも、分かっていた。
 事実、シルクと対角にいたフラッタリーは、既に敵に肉迫。面前から打突と念力を撃ち込んでいる。
「金色瞳ハ死ヲ写サン──サァ、斬rI合イヲ、殴リ合iヲ致シmAセウ」
 精神を揺さぶられ、巨花は根でフラッタリーを襲おうとしてきた。が、フラッタリーは後ろに跳ぶと、ビルの壁を滑り降りるように降下。重力加速度を活かして攻撃を回避する。
 その間に、クロハが上方から飛来していた。
「植物にしては短気なようですね。周りが見えなくなっている」
 言いながら、翼を畳んで自由落下する。
 そのまま、接触と同時に繰り出したのは『炎舞』。地獄化した両足をまるで陽炎のように揺らがせ、灼熱の蹴り落としを叩き込んだ。
 反動で後ろへ跳ぶと、丁度クロハの影からシルクが砲身を向ける。そこに膨大な光量を収束させ、シルクは長大な光線で巨花を貫いた。
 サキュレント・エンブリオは、衝撃に大きくわななく。苦悶の表れでもあるのか、次には一度、真上に浮上し始めた。
 それは高層ビルに並ぶ程の高度。だが、月音はそれをも見下ろすように、既に一番の高所から跳んでいた。
「離しはしないわ。もっと一緒に踊って頂戴?」
 そのまま、高速で敵の上へ着地すると、ゼロ距離から縦横の斬撃。花弁を裁断していく。
「今のうちよ、下から挟み撃って」
「了解致しました」
 すぐさま声を返した紗更は、中層から建物間を駆け上がっていた。そして敵の下部に狙いを定めると、直上に跳び上がる。
「──そこでございます」
 刹那、体を反転させると炎を纏った蹴り。重い一撃で根の数本を灰にしていく。
 巨花はそれでも攻撃をしてくるが、フラッタリーへ飛んだ根を、今度はイグノートがうまく受けきっていた。
「狙いが一辺倒になるならば、防御するもの難しくはありませんね」
「回復は、私に任せて下さい」
 言った雄一は、非常階段からそちらの建物へ跳び移り、素早く治癒のミストを与えていく。
「私が治療する以上、誰も戦闘不能にはさせません。皆さんも、躊躇わず攻めて下さい」
「うん、なら遠慮なく」
 頷いた勇は、再びエリィとともに敵へ近づいていっていた。
 周辺のビルは倒壊が進み、足場も減っている。だが傾いたビルや、むき出しになった鉄骨を、勇とエリィは走り、跳び、移動。あっという間に高所に上がり、突撃とエクスカリバールの斬打を喰らわせていった。
 巨花は流されるように落下を始める。イグノートはそこへ跳びながら、わらべうたを口ずさんでいた。
 それは『呱々の孤』。静かに反響するたび、巨花が痺れるように動きを鈍らせる。
「こうなれば確かに、大きな的ですね」
 花弁に降り立ったイグノートは、オーラを手元に収束させて一撃。強烈な拳を見舞って、再び巨花を低空に落とした。

●決着
 サキュレント・エンブリオは体の端々を朽ちさせ、もはや浮上も満足にできなかった。
 雄一は敵の負傷状態をつぶさに見て取る。
「もう高くは上がれないようですね」
「やはり、こんな夜に浮かぶのは星か月くらいが丁度いい、ということでしょう」
 応えたクロハは、ビルから電柱に降り、そこから跳んで蹴りを加えていった。
 雄一が星光で皆を纏い、最後まで防護を万全に保っていくと、イグノートは攻勢を続け、巨花の頭上から拳の打撃を打ち込んでいる。
「このまま最後まで、攻めて行きましょう」
「──エゝ、エゝ……死ヲ共nIシ、弑シマセウ」
 狂奔するフラッタリーは変わらず、鋭く飛びかかり、巨花を拳で穿っていく。敵の反撃もその拳で相殺し、さらに花弁をえぐり取っていった。
 勇はナイフを覆う、ワイルド化した右手をより大きく揺らめかせている。
「これで一気に砕くよ」
 その力は、『崩剣』。混沌の刃は敵の根を弾き飛ばし、花弁を爆散させていった。
 巨花は狂乱し、残った根を振り回した。月音はそれに怯まず刃に鏡像を映し出す。
「星夜の下でのダンスは楽しかったけれど……そろそろ、終幕といきましょう」
「ええ。──おやすみなさいませ」
 紗更も魔術の蔓を飛ばし、巨花の全身を裂いていく。内外からの衝撃に力を失っていく敵を、シルクは直上に浮上して見下ろしていた。
「何人の生命も朽ちさせず、その生命に死の輪廻を。──此処が貴方の終焉です!」
 刹那、アームドフォートのリミッターをカットし、最大出力のビーム砲を発射。
 凄まじい光は『白光』の名のごとく。眩く輝きながら巨花の命を焼き払った。

 サキュレント・エンブリオは爆散し、空に無数の胞子を散らしていた。
 地に降りた紗更はそれを見上げている。
「花粉、でございますか」
「あれでまたー、別の攻性植物がー、出てきてしまうのでしょうかねぇー」
 と、言うのはフラッタリー。武装を解いたその表情は元のおっとりしたものだった。
 シルクも上方を仰いでいる。
「対処はできない……ですが警戒だけは、お願いしておきましょう」
「後何体出てくるんでしょうね、アレ。少々頭が痛くなります」
 クロハが零すと、シルクもええ、と頷いた。
「いつかは、このいたちごっこも終わらせねばですね」
 それから皆は周囲の修復を始めた。
 崩れたビルはあったが、戦域は狭く済んだためか被害もさほど大きくはない。
 雄一はコツコツとその一帯をヒールして回った。
「……これで、修復は完了でしょうか」
「ええ。問題なさそうです」
 イグノートが言って見回す頃には、そこには戦闘痕のない、綺麗な町並みがあった。
 避難を解除すると人々も戻り始めてくる。
 勇は改めて空を見た。花粉も土煙もなくなったそこには、満天の星がある。
「──少なくとも、この星空だけは守れたかな。この時期には珍しい綺麗な夜だね」
「ええ。都会でもこれだけ星が見られるんですね……」
 雄一も、その明媚さには感心を浮かべていた。
 月音はそこに、そっと歌声を昇らせる。
 人的被害がなかったとはいえ、怯えている人も居る。そんな人々の気が紛れるようにと、星の煌めきを歌う歌を紡いでいた。
「──」
 声音は静かで美しく。戦時の人々の心を優しく癒やしていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 6
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