紫陽花迷宮の狂花達

作者:崎田航輝

 一歩踏み入れば、そこは花の世界。右にも左にも鮮やかな花色が広がっている。
 そこは自然の豊かな公園にある、花園。高さのある植え込みが広がっているのだが、その全てに紫陽花が花開いており、景色を満開の青色で彩っていた。
 花垣の小路は、歩み入った者を誘う迷宮。無数に見える優美な青花が、見惚れるうちに夢の中に迷い込んでしまったかのような錯覚を生ませていた。
 幻郷のようなこの花園は、紫陽花迷宮の名で親しまれている。と言っても迷うような場所ではなく、気軽に散歩する人が多く訪れていた。
 危険な事件が続く大阪だからこそ、憩いを求める。そんな人々が景色を楽しみ、花の香りの風に触れ、平和な余暇を楽しんでいた。
 だが、穏やかな時間も束の間。青空からふわりと、舞い落ちてくるものがある。
 それは謎の胞子。迷宮に咲く紫陽花の一片に取り付くと、瞬く間に同化。花々を蠢かせ始めていた。
 直後には、それは攻性植物へ変化。巨大な5体の狂花と化している。
 迷宮から這い出たそれに、人々が気づいたときには既に遅い。狂花達はそこへ襲いかかり、その生命を喰らっていった。

「まあ……! こうなっては、景色を楽しむどころではないわね」
 ベルカナ・ブラギドゥン(心詩の詠唱姫・e24612)の言葉に、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は声を返していた。
「ええ。今回も皆さんのお力を借りることになりそうです」
 それから改めて説明を続ける。
「本日は、ベルカナ・ブラギドゥンさんの情報により判明した、攻性植物の事件です」
 先日より確認されている、大阪での攻性植物の動きの一件だ。爆殖核爆砕戦の結果として、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出している、その流れのひとつだろう。
 攻性植物は、大阪市内を重点的に襲おうとしている。狙いは市内を中心に自身らの拠点を拡大させることだろう。
 今回の敵は、町の公園で攻性植物化した紫陽花だ。
 放置すれば人々が危険なだけでなく、敵の情勢に有利な結果を生んでしまうだろう。
「この侵攻と、人々への被害を防ぐために。攻性植物の撃破をお願いします」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、攻性植物が5体。出現場所は、大阪にある町中の公園です」
 その中の、紫陽花が植えられている一帯だ。
 攻性植物は花園の外に出る方向に移動してくるので、こちらは現場に急行後、花園の入り口付近で迎え撃てば、被害なく戦えるだろう。
 周囲の人々の避難は、警察や消防が迅速に行なってくれるので心配はないと言った。
「戦いに集中していればいいということね?」
「ええ。敵も一度戦闘に入れば逃走などは行いませんから。そういう意味で対処は難しくないでしょう」
 ベルカナに、イマジネイターは応えて言った。
「とはいえ、敵は5体。数の多さは脅威になりそうです」
 別行動こそしないが、その分しっかりとした戦法を取ってくるらしい。同じ植物同士のためか、連携もそれなりに高度のようだ。
「攻撃法は、葉を飛ばす近単捕縛攻撃、局所的に雨を生む耐性付きの遠列ヒール、花弁を舞わせる遠列催眠攻撃の3つです」
 各能力に気をつけてください、と言った。
 ベルカナは頷く。
「折角の花の景色だもの。ぜひ、守りたいわ」
「ええ、健闘をお祈りしていますね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)
ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
ロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)
ベルカナ・ブラギドゥン(心詩の詠唱姫・e24612)
イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)
ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)

■リプレイ

●迎撃
 紫陽花の咲き誇る花園。その前へとケルベロス達はやってきていた。
「わぁ、紫陽花いっぱい。綺麗だね♪」
 イズナ・シュペルリング(黄金の林檎の管理人・e25083)は思わず笑顔で見回す。
 雨露の残る青の花弁は、光を反射してきらきらと煌めいている。ベルカナ・ブラギドゥン(心詩の詠唱姫・e24612)はそれを見て、若芽色の瞳を輝かせていた。
「まるで宝石の花束のよう。雨の世界に迷い込んでしまったみたい!」
「やっぱ、紫陽花は今の時期の風物詩だな」
 と、鉋原・ヒノト(駆炎陣・e00023)もまた、明媚な眺めに感心を浮かべている。
「紫陽花迷宮って呼ばれてるのも頷ける、いい景色だ」
「うん、この景色をみんな楽しみにしてたのに。……邪魔するなんてヒドイよね」
 そして、イズナが応えて見つめる先。
 迷宮の入り口に、がさりと這って出てくる影があった。
 巨大な花の異形。狂花となった、紫陽花の攻性植物だ。
「絶対の憩いの場などこの世にあるまい。草木のある場所なら尚安全とは言えん、ということだろう」
 ペル・ディティオ(破滅へ歩む・e29224)は周りを見ながら、泰然と言ってみせる。
「ならばこそ、草刈りのボランティア活動もしてやるというものだ。二度と生えないよう、丁寧に刈り取ってやらねばな」
 周囲の市民は、警察消防の誘導で既に避難していっている。無人となった中、皆も頷いて攻性植物と向き合った。
 と、丁度その時。不意に敵の背後の花垣がガサガサ鳴る。
 直後にそこから、カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)が、ばぁ! と顔を出していた。
「その通り! 全力で打ち倒させて頂きますよ!」
「わぁ。さっきからそこにいたの?」
 敵のいななきが響く中、イズナが聞くと、カロンは急に照れ顔になる。
「ええまぁ……迷宮と聞いて、どうしてもやってみたかったのです……。えっと、とにかく戦いを始めますよ!」
 何やかやでカロンも戦線に立つと、ベルカナは頷いていた。
「勿論、この綺麗な風景を汚させはしないわ。行くよ、ウィアド!」
 ボクスドラゴンのウィアドがルルル、と歌うように鳴く。その中で、ベルカナは『そらの詩』を諳んじていた。
「どこまでも続く蒼穹の空、青く蒼く澄み渡り……あなたと私を導いて。例えどれほど離れていようとも、空は繋がっているのだから──」
 それは過ぎた日々を思い、そらへの憧れを抱く心を確かめて、祝福の花弁を舞わせる力。空色の花は柔らかな光を運び、仲間の感覚を澄み渡らせた。
 攻性植物はそれでこちらを敵と見て取ったか、花弁を揺らめかせて近づいてくる。
 そこに浮かぶのは、殺意か。
 しかしロウガ・ジェラフィード(金色の戦天使・e04854)は怯まず、“生命と輪廻の剣-Chrono Saver-”をすらりと抜いていた。
「異形と化した植物共が何を思うて居るかは、分かりかねる。だが──人々の憩いの時間と紫陽花の時間を弄ぶならば。その所業、時の調停者の末裔として断じて許さぬ」
 ロウガにとって、時間はただ過ぎゆくものではなく、想いや命と同じ。罪なき花を攻性植物に変えられたことには強い義憤を抱いていた。
 なれば、力を賭すだけだ。
「闇に瞬く星々よ、輪廻を司る蛇宮の紋よ、時間を護れ!!」
 剣に舞い降りた鮮烈な星光は、強力な加護となって仲間の身を包んでいく。
「ん、わたしも……じゅんびさせて、もらうねっ」
 同時に手元に光を生んでいるのは、ロナ・レグニス(微睡む宝石姫・e00513)だった。
 その輝きは、薔薇のような粒子となって舞い、ロナ自身を取り巻く。煌めく光は宝石のように、美しい輝きを伴って能力を増幅させていた。
「こうげきは、おねがい、するね」
「ああ、任せてくれ!」
 応えて、いの一番に敵へ疾駆する影がある。
 相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。半裸に裸足、身軽な格闘家スタイルのままに地を蹴り、一息で敵の前衛に肉迫していた。
「1体ずつ討伐してやるから、待ってろよ。まずは──てめぇだ!」
 鍛え抜かれた腕をしならせ、繰り出すのは裂帛の打突。両の拳から放たれた打力は凄まじく、その1体を大きく後退させてゆく。
 敵の中衛はこの間に、葉を飛ばしてきた。が、それはイズナが防御し、直後に守護星座の力を降ろして自分と仲間を防護。カロンも治癒の矢を飛ばしてイズナの体力を保ってゆく。
 敵の前衛もまた攻撃を狙ってくるが、ヒノトがそれを許さず拳で妨害。
 同時にペルも、外套を揺らめかせて高く跳んでいた。
「紫陽花風情が逆らってくれるな。大人しくしていろ」
 刹那、落下とともに痛烈な蹴り下ろし。衝撃で前衛の1体を地に叩き付けていた。

●闘争
 攻性植物達は体勢を直しつつ、激しいわななきを轟かせていた。
 敵意の発露でもあるのだろうか、それはまるで威嚇のよう。花弁は美しくも、その存在が異形であることを如実に表しているようでもあった。
「……」
 カロンは一度目を伏せている。
 花に心があるのかどうかは分からない。それでもこんな姿になった花のことを思うと、気の毒な気持ちを感じていた。
「この花も元々は綺麗な花だったのだろうね」
「ん、わたしもそうおもう、よ。あじさい、はとってもきれいなはなだから。でも……こわいはなことば、あって……どくもあるん、だよね」
 ロナはそんなふうに応えて、敵を見つめている。
 或いはこの花は、その怖さ“そのもの”と言える存在になってしまったのかもしれない。
 ロナの心は、花を傷つけることを躊躇している。それでもこれは、倒すべきなのだとわかっていた。
「だからみんなを、こわーいあじさいから……まもってあげて。きれいな、あじさいだけ……たのしめるように、してあげなきゃ」
「ああ。ここに来た人達は、それを楽しみにしてたんだからな」
 頷くヒノトは、自分の拳に力を込める。
 思い出すのは先の戦い。少なからず一般人の命が奪われたこと。それは、救えたかもしれない命だった。
「もう同じ悲劇を繰り返さない。──お前らなんかに奪わせてたまるかよ。いくぞ、アカ!」
 同時、ヒノトはネズミのファミリア、アカをロッドに変えて疾駆する。
 繰り出すのは『エテルナライザー』。ロッドへ紫電を帯びさせ、閃光槍にすると一撃。強烈な威力の斬撃で前衛の1体の半身を切り裂いた。
 前衛の2体はすぐに回復行動をとる。が、そこへロウガが、渦巻く風を刃に纏わせていた。
「無駄なことだ──流れ行く刃、清く激しく万事を穿つ!!」
 瞬間、嵐の如き剣風で一閃。2体の守りを即座に砕いていく。
「これで、あと一撃で仕留められる筈だ」
「我がやろう」
 と、応えて疾走するのはペル。拳に魔力の白雷を宿し、眩く輝かせていた。
「クク……派手に環境破壊と行こうか。塵芥も残らず失せろ……!」
 そのまま放つのは『白く眩い雷光の災拳』。苛烈な打撃とともに雷撃を生んだそれは、前衛の1体を跡形もなく爆散させた。
 敵の中衛は反撃とばかり、一斉に花弁を舞わせてくる。
 強力な催眠攻撃。だが、その前面に先んじてイズナが立っていた。
「わたしが受けるから、大丈夫だよ! 正気を失っても、みんなを信じてるから」
 明るい笑顔を見せ、イズナは花弁の大部分を身を挺して受け止める。
 血潮が散り、体内を催眠毒が蝕むと、イズナは意識を明滅とさせた。
 けれど、仲間の行動は早い。カロンは伝承魔法『叙事境界のカテドラル』によって祝福と幸福の鐘を具現。イズナの体力を大幅に癒やしていた。
 ベルカナは新緑の髪を揺らめかせ、春の色彩を宿す翼の光を手元に収束。治癒のオーラにしてイズナへ与え、その意識を取り戻させる。
「これで、傷も問題ないはずよ。目は覚めた?」
「……うん。えへへ、ありがとう! みんなも癒やすね!」
 イズナは笑みを見せると、自身も花のオーラを発現。余波を受けていた前衛の面々を万全にしていった。
「ありがとうな、いろいろ助かったぜ」
 言って、拳を打ち鳴らすのは泰地。すぐに中衛に狙いを定め、走り出していた。
「その分、火力は期待してくれよ。どでかいのを打ち込んでやるからよ!」
 そのままグラビティを全身に籠めると、旋風の如き身のこなしで体をひねる。
 刹那、放つのは『旋風斬鉄脚』。高速かつ強靭な回し蹴りは、抗えぬ打力をもって1体を吹っ飛ばしていた。
 敵後衛はそれを回復をしてくる。が、その隙にロナはそっと目を閉じ、魔術を行使していた。
「──神々の黄昏はもうおしまい。あとはこの爪痕を、終わった世界を楽しみましょう。何もない世界だけれど、吹雪と酸の雨は大盤振る舞い──!」
 それは世界の最期を瞬間的に具現化する力、『黄昏の爪痕』。凍てつく吹雪、天から注ぐ酸の雨は慈悲無く2体を襲い、その花弁を朽ちさせていく。

●連撃
 花を失いながらも、敵中衛の2体は息絶えずにいた。
 後衛の1体は再び回復を行い、その守りを固めてくる。が、直後にはヒノトが水晶剣を顕現し1体の防護を砕いていた。
「1体は盾役に阻まれた、か。残ったほうを頼めるか」
「うん! がんばるよ」
 応えたイズナは、盾役の陰に隠れる1体へグラビティを込めたパンチ。魔的な守りを即座に粉砕していく。
 それらによって、傷の多かった方の個体は既に満身創痍。その1体は自身でも回復を試みようとするが、ロウガが看過するはずもなく、高く飛翔していた。
「させぬ。刃に舞うは末期の華、踊り狂うは刹那の剣風、乱れ華やぎ美しく──生命の理、この刃にて封ず!!」
 瞬間、赤・青・紫・黒・白の五色の花弁を生み出し、輪舞【至封蓮華】を行使。剣撃に伴った芳香で“熱量”を魅了、剥離させることで攻性植物を凍結、破砕していく。
 1体となった敵中衛は、葉を飛ばして反撃する。が、それはカロンのミミックであるフォーマルハウトが受け止めて衝撃を軽減させていた。
「見事です、フォーマルハウト」
 そして、直後にはカロンが治癒力を込めた矢を撃ってその傷を回復。
 さらにベルカナは、春の陽のような虹色の煌めきを生み出していた。それが宙で花弁となって消えていくと、発散した魔力によってフォーマルハウトが回復。仲間の戦闘力も同時に強化されていた。
「さあ、ウィアドは攻撃を」
 次いで、ベルカナに応じてウィアドは羽ばたく。そのまま、美しい鳴き声とともに花舞うブレスを敵に浴びせていた。
 ロナも間を置かず、くるりと回転して一撃。身にまとう装飾で涼やかな音色を奏でながら、九尾扇で敵の中衛を打ち据えている。
「あとすこしで、たおせそう、かも」
「では哀れな花を追い込んでやるとしようか」
 クク、と笑いを含んでみせたペルは、エクスカリバール“命抜”を携えて疾駆。大ぶりに打撃を叩き込むことで、その1体を宙へ煽った。
 そこへ泰地は跳躍。凄まじい脚力で敵の頭上を取り、拳を振りかぶっていた。
「こいつに、耐えられるかっ!」
 瞬間、弾丸の如き強烈な突き。その拳は攻性植物の体を貫き、千々に散らせていった。

●決着
 敵は残り2体。その前衛の傷も深く、戦力差は明らかだ。
 それでも攻性植物は、最後まで殺意を露わにするようにいななきを発している。
「もう、ちゃんと反省してよね! こんなに幻想的で、みんなにいっぱい親しまれて大切にしてもらってるのに!」
 イズナは言うが、敵は構わずに這ってくるばかり。泰地は回し蹴りで応戦しつつ言った。
「結局、言葉は通じないってことだな。こうやって倒すしかねぇ!」
「ああ。容赦なく、戦うだけだ」
 ロウガも応えながら、氷気を渦巻かせた魔弾で前衛を瀕死に追い込む。
 イズナはそこで『琥珀』。金色の火をヒノトに宿してその力を増大させていた。
 その力を活かして、ヒノトはロッドを振り上げる。
「これで──あと1体だ」
 信念は揺るがず、見据える眼光は鋭く。前衛の1体を切り裂き、四散させていった。
 単騎となった攻性植物は、それでも獣の如く体を震わせ、攻撃を狙ってくる。が、ベルカナは光の粒子となってそこへ飛来していた。
「最後まで人を、仲間を襲うのならば──私も私に出来ることをする。そして、皆を守るの!」
 そのまま飛んでくる葉を裂き、焼き尽くしながら攻性植物を突き飛ばす。
 ペルは連続して、そこへ雷光を宿した拳を命中させていた。
「そろそろ終わりか。仕留めてやるが良い」
「ええ、行きますよ」
 カロンが言うと、頷くのはロナだ。
「ん、これで、へいわを、とりもどすの……!」
 同時、ロナは吹雪を起こし、攻性植物を氷に閉ざす。
 そこへカロンの拳も命中。砕けるようにその狂花は消滅していった。

 戦闘後、皆は周囲の修復を始めた。
 とはいえ花は無傷で、荒れたのは地面だけだ。
「これならば、時間はかかるまい」
 ロウガがヒールしつつ言うと、カロンも頷く。
「ええ。景観は保てそうですね」
「きれいな、あじさい……みんなげんきで、よかった」
 ロナも言って、花垣の美しさがそのままであることに安堵した。
 修復が済むと、皆は人々を呼び戻す。
 それで平和な空気も戻った。ただ、大阪が予断を許さぬ状況なのは変わらないだろう。
「市民を撤退させる、って事態だけは避けてえよな……敵の勢力拡大を阻止するためにもよ」
 泰地は人々を見回し、呟いた。
 現状を維持させるのも大変だとはわかっている。しかし、だからこそ諦める気もない。
「受け身ばかりで苦々しい状況なんだろうが……今は出て来た所を確実に倒していくしかねえよな。その内攻勢に出れる機会も、きっとある」
「ああ、敵が出たら必ず倒す」
 ヒノトも思いは強く、頷いていた。
 ベルカナは微笑んで花を見やる。
「まずはここを、守れてよかったわ」
 一面の紫陽花。ペルもそこへ歩み出していた。
「安全は確保できたからな。束の間の憩いを愉しもうでないか」
「そうだね! えへへ、よかったらみんなで紫陽花見てゆこうよ」
 イズナも言うと、皆もそれぞれに頷いて迷宮へと入っていく。
 中に入るとそこは、花の世界だ。
「凄いもんだな、アカ」
 童話の中に迷い込んだような花景色。ヒノトはアカとともに見回していた。
 一面の青い花弁は透き通るような色合いで、青空を思わせた。
「この間教えてもらったばっかりだっけ。ええと、確か……青い紫陽花は土が酸性! 梅雨時の花だけど、晴天と同じ色だな」
 見上げつつ言うと、アカもヒノトの肩の上で、興味を惹かれたように花を見つめていた。
 ベルカナも、四方に広がる紫陽花にわくわくとした表情だ。
「こんな綺麗な花の迷宮なら、迷ってしまうのも良いかもしれないわ。そうしたら異世界にだって行けそうだもの」
 そして、暫し踊るように眺めてから、遠く離れた愛する人を想った。
「地球には綺麗なものがたくさんあるのね。いつか──貴方にも見せられたら、いいのに」
 祈るように瞳を閉じる。
 想いは届くだろうか。花の中で抱く心は少し甘く、少し切なかった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年6月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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