オアシスの薔薇

作者:崎田航輝

 そこは都会に咲く、憩いの場だった。
 駅の近辺は高架がかかり、交通の行き来も多い。人の往来も絶えることはなく、立体歩道橋は文字通り、縦横に人波が闊歩していた。
 そんな中、立体交差の中腹に広場のような空間がある。地面からは離れているのだが、水が引かれて噴水が作られ、雑踏のオアシスとなっていた。
 ベンチと噴水の周りを彩るのは、美しい薔薇の花だ。
 鉢ではなく、狭いながらに土壌として整備されたそこは、満開の赤い花弁が咲き誇る。街の中心とは思えぬほどに、その空間だけは緑と花色、そして芳しい芳香に満ちていた。
 だが、そんな時。
 空からふと謎の粒子のようなものが漂ってきていた。
 それは何かの花粉か、胞子か。風に乗って流されてくると花弁に取り付く。すると直後には、その薔薇がにわかに蠢き出していた。
 そのままそれは巨大化。5体の攻性植物となり、土壌を抜け出した。
 通りかかった人々は、突如現れた異形に悲鳴を上げる。攻性植物はそこへ襲いかかり、市民の命を喰らっていった。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達を見回していた。
「本日は、攻性植物の事件について伝えさせていただきますね」
 先日より確認されている、大阪での攻性植物の動きの一件だという。
「爆殖核爆砕戦の結果として、大阪城周辺に抑え込まれていた攻性植物達が動き出している、その流れのひとつのようですね」
 攻性植物は、大阪市内を重点的に襲おうとしているようだ。
 狙いは、一般人を遠ざけることで、市内を中心に自身らの拠点を拡大させることだろう。
 今回の敵は、町中で攻性植物化した薔薇だ。空から漂ってきた謎の花粉らしきものによって生まれた複数体ということである。
 放置すれば人々が危険なだけでなく、敵の情勢に有利な結果を生んでしまうだろう。
「この侵攻と、人々への被害を防ぐために。攻性植物の撃破をお願いします」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、攻性植物が5体。出現場所は、大阪の市街です」
 駅前で、立体歩道橋がある一帯だ。攻性植物はその中腹にある広場に出現している。
 警察、消防なども駆けつけやすい位置なので、人々の避難は任せてしまっても問題ない。
「皆さんは到着と同時に戦闘に集中していただければと思います」
 一般人を殺そうとする危険な存在だが、一度戦闘に入れば逃走などは行わないので、対処は難しくないだろう。
「とはいえ、敵は5体。数の多さは脅威になりそうです」
 別行動こそしないが、その分しっかりとした戦法を取ってくるらしい。同じ植物同士のためか、連携もそれなりに高度のようだ。
「攻撃法は、触手による近単捕縛攻撃、光による耐性付きの遠列ヒール、花蜜による遠列催眠攻撃の3つです」
 各能力に気をつけてください、と言った。
「人々と、街を守るために。ぜひ、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
シルク・アディエスト(巡る命・e00636)
シルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
藤林・シェーラ(ご機嫌な詐欺師・e20440)
ティユ・キューブ(虹星・e21021)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)
工藤・千寛(御旗の下に・e24608)
柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)

■リプレイ

●接敵
 市街地に入ったケルベロス達は、立体歩道橋を駆け上がっていた。
 既に警察消防も到着し、避難も開始されようとしている。皆はそれと入れ違いに戦場へ向かい、5体の巨花を遠目に発見していた。
「あいつら……やっぱり、あの時倒した胞子が……?」
 疾駆しながら、フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)は呟く。
 サキュレント・エンブリオにとどめを刺し、胞子が飛散されるの間近に見たのは記憶に新しい。だからこそ、それに責任を感じてしまう心があった。
 柴田・鬼太郎(オウガの猪武者・e50471)もまた、先頃倒したその攻性植物を思い出す。
「あのデカブツの胞子、か。間違いなさそうだが……倒しても困らせてくれるとは厄介な奴らだねえ」
「ええ、本当に……あの胞子って、どうにかならないかしら……!」
 シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)も思わず声を零す。目に見える攻性植物は、既に元の花ではない。それよって失われる花の命があることも、シアには悲しいことだった。
 工藤・千寛(御旗の下に・e24608)は、それでも今は冷静に。旗の結わえられたゲシュタルトグレイブを手にとっている。
「とにかく、人々に危害を加えるものを放ってはおけません。市内に拠点を作られてしまっても大変ですから──まずは討伐に力を注ぎましょう」
「ウン、そうだね。一般人は……皆、逃げてくれているね」
 頷いて藤林・シェーラ(ご機嫌な詐欺師・e20440)が周囲を見渡すと、人々は歩道橋から降り始め、遠くの道へ退避していた。
「ふむ、何よりの状況だ」
 と、前方に視線を戻すのはティユ・キューブ(虹星・e21021)。そのまま噴水のある広場へ突入すると、攻性植物と正面から対峙する。
「では──警察と消防、皆々の手際に見合うものを、こちらも見せないとね」
「当然です……! 綺麗な薔薇を汚す雑草共……ぶっ殺してやりますよ……!」
 声を継ぐのはシルフィディア・サザンクロス(ピースフルキーパー・e01257)。全身を覆った骨装具足の格好のまま、大槌“堕龍槌”を構えて戦闘の間合いに入っていた。
 5体の異形の薔薇は、それに敵意を示すように、わななきを上げてくる。
 それは開戦の合図。ただ、先んじて攻撃態勢に入っていたのはシルク・アディエスト(巡る命・e00636)だった。
「それでは皆さん──参りましょうか」
 シルクはフィルムスーツとアームドフォートによる武装、『斥候形態・白兎の道標』を展開。兎と斥候をモチーフにした、観察、狙撃、機動に富んだ装備を身に纏っている。
 そのまま、砲身を敵中衛に向けて射撃。氷気を発散するレーザーを撃ち当て、枝葉を凍結させていた。
 次いで、フィオは噴水を蹴り上がり、その天頂に手をかけて側転。敵陣に舞い降りて、同じ個体に“灯喰い刀”で斬撃を叩き込んでいる。
「これで、どう……!?」
 攻性植物はよろめきながらも、しかし振り向いて反撃を狙ってくる。
 が、そこに突如、強烈な殴打。シルフィディアが槌を思い切り振り下ろしていたのだ。
「やらせるわけないですよ……!」
「さて、じゃあ僕も助力させてもらうよ」
 後退した攻性植物へ、ティユも大槌の砲口にまばゆい光を収束させる。瞬間、星の煌めきを撃ち出して苛烈な衝撃を加えていた。
 後衛2体は、その個体の回復を試みる。が、その直前、シアがそっと手を伸ばすと、妖しく光る花弁を宙に生み出していた。
「これを、受け取ってもらいますよ」
 同時、それは巨花に同化。ウイルスの如く内部から蝕んで、治癒力を阻害していた。
 結果として、敵中衛の回復は不十分に終わる。前衛の2体は触手を飛ばしてきていたが、それは鬼太郎が愛刀“桜牙”で受け止め衝撃を軽減させていた。
 直後には、シェーラが紙兵を散布。霊力で淡く光るそれを前衛の周囲に飛び交わせ、回復と防護を行っていく。
「あの1体は、倒せそうだよ」
「じゃあ、やるか」
 シェーラに鬼太郎が応えると、中衛の1体は反抗するように襲いかかってきた。
 だが、千寛は旗を風にはためかせながら、グレイブで回転斬撃。根元を切り裂き、機動力を奪っている。
「さあ、今のうちに」
「ああ」
 頷いた鬼太郎は、『風斬』。桜牙を振り抜いて風の刃を巻き起こし、その1体を千々に散らせていった。

●剣戟
 中衛を失った攻性植物の群。だが、未だ4体が無傷で攻撃の機会を窺っていた。
「それにしても、普通の薔薇が随分変貌したものだね」
 と、シェーラは間合いを計りつつ、改めてその巨花を観察している。
「小さかったらまだ綺麗なんだろうケド、ここまで大きくなっちゃうとねェ……圧がすごいし、そにれ臭いも酷い。むせそうな程だ」
「その上、親の胞子と同じでやることは無差別の殺しだからな。気に食わねえ奴らだ」
 鬼太郎が言うと、フィオはほんの少しだけ刀を持つ手に力を込めていた。
「……あの時、胞子が撒かれるのを止められていれば、こうはならなかったのかな……」
 呟く声音には、かすかな焦燥の色。
 そこにあるのは、まっすぐな心を持つが故の、重圧に似た感覚だった。
「早く……私がやらないと……」
「まあ、急ぐなよ。あの胞子は誰にも止められる類のものじゃなかった」
 と、そこで鬼太郎は声をかける。
 それから刃を構え直し、敵に向き直っていた。
「それに、慌てて突っ込んでもなんだしな。まだまだ数も多いようだし、一体一体潰していこうぜ」
「……うん、そうだね。……向こうも連携してくるし、こっちもチームワークを発揮していかなくちゃ」
 フィオは頷きを返す。その表情は、少し鎮まったような冷静さが浮かんでいた。
 同時、フィオはベンチから跳躍しつつ、『差し無拍子』。重力通りの軌道で敵先鋒に接近すると、前動作なく日本刀を抜き、二刀で深い斬撃を叩き込んでいく。
 敵の回復役は、今度は素早く対応して前衛を治癒していた。するとシルクは、アームドフォートの演算能力を発揮し、分析した敵味方の情報を空中に映し出した。
「ならば、こちらはそれ以上の策で攻めるだけです」
 その能力は『導きの白兎』。短期的に敵の動きを予測させることで、前衛の狙いを向上させていく。
 敵は攻撃を警戒して、盾役に防御させようと前面に立たせていた。
 が、千寛は翼を輝かせ、その遥か頭上へと飛翔している。
「受けきれないほど広範な攻撃ならば、簡単には防げないでしょう」
 同時、発光したグレイブを分裂させて撃ち出した。
 雨のように注いだ槍を防ぎきれず、ダメージは敵の盾役だけでなく先鋒にも及ぶ。千寛は素早く声を投げかけた。
「シアさん、今です」
「ええ、分かりました」
 頷いたシアもまた、翼を羽ばたかせて宙を泳いでいた。
 そのまま、ミモザの花を揺らしながら体を返して敵先鋒へと降下。重力を乗せた蹴りを食らわせることで、その巨花をふらつかせていく。
 ただ、攻性植物はそれで倒れず、花蜜を飛散。狙撃役の触手と合わせて強力な攻撃を放ってきていた。
 しかし、それは前面に立ったティユが防御。触手を受け止め、花蜜も鬼太郎とともに引き受けることで、ダメージを抑えている。
「こちらとて、守りは万全だよ」
 言ったティユは手元に星屑の如き無数の粒子を集める。それを治癒の力として投射すると、鬼太郎の傷を回復。さらにボクスドラゴンのペルルにも属性の力を注がせることで、鬼太郎を万全に保った。
 同時、シェーラは自身の血に濃密な治癒力を込めて、ティユに注ぐ。それによる強い癒やしの力で、ティユも意識が明瞭になり、傷も完治されていた。
 鬼太郎は即座に反撃に移り、敵先鋒の触手を寸断。その個体がよろめくように後退すると、追い詰めるように迫るのはシルフィディアだった。
「逃しはしませんよ……!」
 シルフィディアは、露出させた地獄の片腕を大型の杭打ち機へと変化させている。
 その能力は、『地獄杭打刺突撃』。地獄の血液で作られた灼熱の鉄杭をゼロ距離で撃ち出していた。
「雑草は根元から駆除しないとですね……一片も残しませんよ……!」
 瞬間、真正面から直撃したそれは、花弁を粉砕。枝葉まで跡形もなく爆散させていった。

●闘争
 異形の薔薇が散っていく。
 赤い破片が風に消えると、残る3体はまるで怒りを現すにようにいななきを発していた。
 それは、得た自由が早々に失われたことへの訴求のようでもある。
 しかしシルクは、胞子が降ってきたという空を仰ぎ、声を返していた。
「増え、拡がるのは生命としてのあり様とも言えましょう。ですが、定命を持たぬデウスエクスのそれは、無尽蔵で終わりのない増殖でしかない」
 静かに首を振ると、巨花達へ視線を下ろす。
「それは即ち、命のあり様を脅かすことでしかありません」
「ええ。植物としての生を壊してしまう──そんな存在を、許すことはできないんです」
 シアもまた、そっと声を継ぐ。花を愛し、その尊さを知っているからこそ、異形となってしまった花を放っておくことは出来なかった。
 攻性植物はあくまで反抗するように、前衛の1体から攻撃を始めようとする。だが、シルクは既に砲撃を開始。出鼻をくじくように触手を打ち抜き、動きを塞いでいた。
「今なら討てるとお思いでしたか?」
 後衛の2体は、それに獣の咆哮のような音を発し、激昂を露わにする。だが鬼太郎は意に介さず、同じ個体を狙って風圧を飛ばし、枝葉を散らしていく。
「連続で打ち込んでやれ」
「うん、行くよ」
 応えたフィオも、広場の柵を蹴り上がって跳躍し、上方から斬撃を叩きこんでいた。
 敵も、回復役が前衛を癒やしつつ、狙撃役が花蜜を飛ばしてくる。
 それはこちらの前衛に連続ヒットし、重いダメージを運んだ。が、同時にシェーラは幻術を伴った治癒の力を集中していた。
「すぐに癒やしてみせるよ、だから少し、待っていてね」
 その力は、『信じる者は報われる』。瞬間、辺りに眩い光が生まれている。
「──あめつちにやどりししんれいにねがいたてまつる。はらいたまえ、きよめたまえ、いやしたまえ」
 オーロラの光とともに輝くそれは、一帯を煌めきで満たした。同時に治癒の作用が仲間に働き、花蜜を消滅させていく。
「もう少しで、全快にできるかな」
「では、僕も手伝うね」
 次いで、ティユも『極星一至』を行使していた。
 それは星の輝きを操ることで星図を投影する力。宝石のような星明りが宙に生まれると、それが癒やしを与えながら、仲間を導く地図になる。
「これで、大丈夫だよ。攻撃は任せるね」
「ええ……!」
 頷いたシルフィディアは、苦しげによろめく攻性植物を見つめ、槌に炎を湛えた。
「ここは、貴様らのようなゴミがいていい場所じゃないんですよ……。いい加減に……燃え尽きろ!」
 瞬間、熱気を靡かせた殴打がその1体を宙へ煽る。
 シアがそこへ砲撃を畳み掛けると、巨花は撃ち落とされるように地へ落ちてきた。そこに、聖剣を召喚した千寛が待ち伏せている。
「断ち切って見せましょう。跡形も残らぬほどに」
 刹那、繰り出すのは『竜殺しの英雄』。聖剣の使い手の力をも体に降ろすことで、強靭な力を発揮して一閃。目にも留まらぬ剣速を生み、攻性植物を両断して消し飛ばしていった。

●決着
 2体となった攻性植物は、不利にも構わず攻撃をしようとしていた。
 だが、シルクはそこにもまた、先んじて砲身を向けている。
「あなた達は、ここで散ってゆくのです。ですからもう──これ以上のことをさせはしません」
 そのまま砲口から冷気を迸らせ、回復役の個体の表皮を凍らせていった。
 そこへシルフィディアは、再度灼熱の鉄杭を生み出し、至近から発射。巨大な花弁を撃ち抜いてよろめかせる。
「攻撃、来ます……!」
「よし、俺が引き受けよう」
 狙撃役の動きにシルフィディアが言えば、鬼太郎が入れ替わりに前へ出て、全身防御。守りに特化した構えで受けることで、ダメージを極限まで抑えていた。
 ティユも気力を収束して形成したオーラを飛ばし、鬼太郎を治癒。体力を保ちつつ、ペルルには攻撃に移らせていた。
「さあ、もうすぐだ。頑張っておくれ」
 ペルルは羽ばたくと翼からシャボン玉を生み出す。
 それが弾けると同時に敵の体力を奪うと、同時にフィオは縦横に飛びながら斬撃。前段の無い攻撃を叩き込み、回復役の個体を四散させた。
「あと1体……!」
「なら、私も攻撃に参加させてもらおうかな」
 そう言ったシェーラは、躊躇うこともなく、敵へ至近から眩い光線を発射。根元を硬化させてその行動を奪っていく。
 それでも無理やり動こうとする攻性植物。だが、千寛は低空を翔けて肉迫し、旗を揺らめかせながら回転斬撃を繰り出していた。
「これで示しましょう。勝利への道しるべを!」
 衝撃に攻性植物は体を削り取られ、死に近づいていく。
 そこに、シアは花へと結晶化されたオーラ“一天添花”を拳に纏っていた。
「これで、終わりですよ」
 まっすぐに繰り出すのは、花弁の散る拳の一撃。打突に吹き飛ばされた攻性植物は、そのまま命も砕かれて霧散していった。

「全部、倒せたね……」
 戦闘後、フィオの言葉に皆も頷きを返していた。
 シェーラは敵が散った跡に顔を近づけている。
「これで、変になった薔薇の臭いも消えたかな……」
「残ったのは、少々の戦闘痕だけだね。それも、ヒールしてしまおう」
 ティユが言うと、皆もそれぞれに修復作業を始めていた。
 とはいえ、噴水やベンチなど、設備のほとんどは無事だ。足元の底面を中心に修復し、千寛は見回す。
「修復は、これで済みましたね」
「こんなことで一般人の生活に支障が出ても気に食わねえからな。大体元通りになってよかったぜ」
 鬼太郎が言いつつ息をついていると、シルフィディアは静かに呟いていた。
「これで、被害の拡大が防げるといいんですけど……」
「ああ。今ん所、周辺に胞子はないみたいだし、これで被害が打ち止めになればいいな」
 そう鬼太郎は応えていた。
 シルクは土壌を見下ろしている。
「攻性植物になった花は戻らない──それが残念です」
 そこは5本の薔薇が出てきた場所。そこだけは元通りとは行かず、いくらかの花が失われている。
 シルクはそこへ花の種を撒いた。
「すぐに、とは行かずとも。いつかまた満開の花を咲かせると願いましょう」
「ええ。そうですね」
 シアもそっと頷いて、そこを見つめている。
「この季節、元々の薔薇は本当に多くの人を癒していたでしょう。また、季節が巡って、ここが花で満ちますように──」
 と、少し祈るように目を閉じていた。
 失われた花があった。けれど同時に、残った花々もある。人が戻り始めて賑やかになった街で、その広場にはまだ、芳しい薔薇の香りがあった。
 噴水の水音とともに和やかな空気が流れる。いつか満開になる時を待ちながら、そこは変わらず都会のオアシスだった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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