菩薩累乗会~もう、誰も信じない!

作者:きゅう

●さよなら、親友。よろしくね、自分。
 ――いい加減にしてよあいりちゃん! もうっ、知らないんだから!
 ――絶交だよ! 二度と話しかけないで!
「はぁ……」
 どうしてこうなっちゃったのだろう。
 あいりという名の少女は、誕生日に親友からもらった猫のぬいぐるみを見つめ、彼女と喧嘩したことを強く後悔する。
 きっかけは、すごく些細なことだったと思う。それが言い合いになり、お互いに熱くなって、最後には大喧嘩。
 お互いに絶交だと言い合い、顔を真っ赤にして家に帰ってきたまではよかったが、
「どうしよう……」
 冷静になると、彼女から言われた『絶交』という言葉が、あいりの心を深くえぐるのだった。
「ひどいよねー? その子。君がこんなにショックを受けるのを知ってて、そんなこと言ったんだねー」
 そんな時、不意に耳元に囁かれる声に、あいりはびっくりしながら、愛くるしい鳥のような外見のそれに視線を向ける。
「そんなひどい子、親友でも何でもないよ。だって、君を傷つけたんだから。何より大切なのは君の心だよ」
 鳥はその場をひらひらと飛び回りながら、一番大事なのは自分。そのためならほかの人がどうなったっていいじゃない。と、へらへら笑いながらあいりに同意を求める。
「そうだよね! そう考えたら、悩みもすっきりしてきたわ」
 あいりはそんな鳥の言葉に心を癒されたかのように聞き入り、
「私を傷つける人は絶対に許さない。私は私だけが大切なんだから!」
 そう宣言すると、先ほどまで大切に置いてあった猫のぬいぐるみを切り裂きながら、その姿を鳥のような異形。ビルシャナへと変えるのだった。

●自愛の陰謀を止めろ
「というように、エゴシャナと呼ばれる菩薩の配下が甘言を弄して人々をビルシャナ化させ、最終的にはその力を奪おうとしているのです」
 セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、予知されたビルシャナたちの恐ろしい作戦について説明する。
 作戦名、菩薩累乗会。
 強力な菩薩を次々に地上に出現させ、その力で菩薩の力を強め、更に強力な菩薩を出現させる。
 この繰り返しにより、地球全てを菩薩の力で制圧するというのだ。
「現在活動している菩薩は、『自愛菩薩』という、自分だけを愛するという教義を持つ菩薩です」
 自愛菩薩は、配下のビルシャナである、エゴシャナたちを、何らかの理由で自分に自信を持てないでいる人たちの心の隙間に忍び込ませてビルシャナ化し、菩薩の力に変えようとしているようだ。
「今のところ、菩薩累乗会を止めるすべはわかっていません。しかし、このまま手をこまねいていては自体は悪化する一方です」
 出来る限り菩薩に力を与えないよう、できるだけ早く事件を解決しなければならないようだ。
「今回は、ビルシャナ化したあいりという少女と、彼女をそそのかしたエゴシャナというノリの良いビルシャナもその場にいますので、2体同時に相手にすることになります」
 彼女は、自分だけが大事であり、自分の部屋もその一部であると考え、部屋に侵入してきたケルベロスに攻撃してくる。
「ですので、戦いは彼女の部屋の中でということになります」
 ビルシャナ化したあいりは、爪や足などを駆使した体術をメインとして、自己回復も織り交ぜるスタイル。
 エゴシャナは歌を歌う事で遠距離攻撃を主体にして戦うようだ。
「特に連携して何かをする。ということはなさそうに思えます」
 目的のためなら、ある程度連携してもおかしくない気もするが。そういうわけでもないらしい。
 セリカは少し首を傾げながらもそう説明した。
「エゴシャナが戦場にいる限り、自愛菩薩の影響力が強くビルシャナ化した人の説得は不可能です」
 したがって、少女を救出するのであれば、まずはエゴシャナを倒さなければならない。
「心苦しいですが、最悪彼女を倒してしまっても問題はありません。うまく救出できるに越したことはないのですが……」
 できることなら助けて欲しい。セリカは悩みながらもそう言葉を紡ぎ、ケルベロスたちにお願いするのだった。


参加者
ラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)
アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
揚・藍月(青龍・e04638)
アストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)
スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)
富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)
宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)

■リプレイ

●多感な年頃
 ビルシャナ化した少女、あいりの部屋の扉の前に集まったケルベロスたち。
 揚・藍月(青龍・e04638)はボクスドラゴンの紅龍の瞳を見つめ、
「そうだな。他人に拒絶されるのは、辛いものだ」
「きゅっ」
 優しく頭をなでる。
「中学生。悩みも多く傷つきやすい時期か」
 そして、その傷につけこむとは質の悪い鳥だ。
 宮口・双牙(軍服を着た金狼・e35290)は過去の記憶を思い出し、エゴシャナへの敵意を燃やす。
 喧嘩して、ビルシャナになって、はいさよなら。なんて喧嘩した方も報われない。
「説得は苦手だが……何とかして助けてやりたいところだ」
 富士野・白亜(白猫遊戯・e18883)は、ビルシャナと化した少女とその親友の心情に、やりきれない思いを抱え、
「喧嘩とはまた青春だなぁ、オイ」
 相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は過去を思い出しながら、ただ幸せなだけでなく、そういう喧嘩も後で振り返ればとても良い思い出になったものだと感慨を覚えるが、
「そーま。お腹空ぃた」
 空気を読まずに竜人の裾を引っ張るラトゥーニ・ベルフロー(至福の夢・e00214)のおねだりに、思考が中断する。
 おいおいちったぁ我慢しろ。と最初は突っぱねる竜人だったが、
「ぃや。お菓子くれなきゃ、動かなぃ」
 というラトゥーニの執拗なおねだりに負け、竜人はお菓子を渡しつつ、
「ってか、お前はお菓子あっても動かないだろ」
 彼女に突っ込みを入れた。
(「動かないの、いいなぁ」)
 そんな生活にあこがれを持ったアストラ・デュアプリズム(グッドナイト・e05909)は、
「それにしても、人の心の弱みに付け込むビルシャナは本当に面倒だよね」
 怠けていると怒り出す彼女のミミック、ボックスナイトに怒られない程度に準備運動をして戦いに備える。
(「嫌われるのはこわいです。絶交はもっとこわいです。それでもきっと、仲直りできるって信じたいです」)
 スズナ・スエヒロ(ぎんいろきつねみこ・e09079)は、ドアノブに手を伸ばして大きく深呼吸しながら、
(「友達との、みんなとの楽しい日々を、いつまでもずっと忘れないために。学校を卒業しても、いつまでもずっと、友達でいられるように」)
 少女とその親友の、これからも長く続く友情を願いながら、意を決して扉を開き、
「必ず助けます。あいりさん」
 同い年の女の子への誓いを口にした。

●焼き鳥パーティ
 扉の先で待っていたのは、自分の殻の中に閉じこもり、
「入って、来ないで!」
 部屋に侵入してきたケルベロスたちを威嚇するビルシャナと、
「へーい、やっちゃえやっちゃえー♪」
 軽いノリでそれを煽るエゴシャナだ。
「聖王女様の奇蹟をここに……歌を、紡ぎます……」
 愛の歌が部屋を包み、アリス・ティアラハート(ケルベロスの国のアリス・e00426)は仲間たちに勇気を与える言葉を、心をこめて紡ぐ。
 それと同時に部屋の照明が何者かによって消され、暗闇に包まれる部屋が、彼女の歌声を一層引き立てた。
 とはいえ、そのままでは部屋の中が見えないため、アストラがスイッチを見つけて照明を付けなおすと、
「リリ。ぃってこーぃ」
 明かりを消した犯人。ラトゥーニがミミックのリリを右手でわしづかみにして、面倒くさそうに魔力をこめながら、エゴシャナめがけて投げつける。
「ぅん。よくはたらぃた。疲れた」
 そして、ラトゥーニは戦闘をリリに任せて応援するふりをしながら、食べかけのお菓子を口にする。
「私の部屋、汚さないでよ!」
 ビルシャナはその行動に激怒して、ラトゥーニに襲い掛かろうとする。
「紅龍。そっちを頼む」
 だが、その行く手をカットするように、藍月の指示で紅龍が立ちはだかる。
「きゅああああんっ!!」
 ビルシャナの攻撃で弾き飛ばされそうになるが、何とかこらえ、
「よそ見をするな。貴殿の相手は俺だ」
 その間に藍月はエゴシャナを挑発し、連携させないようにする。
 だが、そもそも2体のビルシャナはあまり連携しようとは考えていないようだった。
 紅龍を援護するために、アストラのボックスナイトが駆け寄り、2体でビルシャナの攻撃を防いでいく。
「ほら、リリがんばれ、ちょぉがんばれ」
 ほぼラトゥーニの代わりに戦わされているリリは、エゴシャナの攻撃に弾き飛ばされ、ベッドの上に落ちてくると、
「ほぃ」
 無造作に投げ返され、リリはエゴシャナの足元に張り付いた。
「八卦炉招来! 急急如律令! 行くぞ紅龍! 今こそ俺達の力を見せる時だ!」
 まとわりつくリリを振り払おうとするエゴシャナの隙をついて、藍月は結界でエゴシャナを閉じ込め、
「きゅあきゅあきゅあきゅあきゅあっ」
 真上から神火と呼ばれる炎弾を無数に打ち込み、爆砕する。
「やり口が一々詐欺くせえんだよテメエはよ!」
 間髪入れずに竜人は砲撃形態に変化させたハンマーとバスターライフルから、次々と弾を放ち、
「ボサっとしてると食っちまうぜ!」
 両腕を古竜の咢に見立て、まだ高熱に焼かれるエゴシャナを左右から噛み砕くかのように叩きのめす。
「また火まみれになるんだな」
 白亜は、蜂蜜色の地獄の炎で作り出した小さな猫の群れをエゴシャナにけしかけ、
「そら、猫たちのお通りだ」
 まとわりつかせて全身の羽毛をむしり取るかのように蹂躙させる。
「チェンジ・ハートスタイル……!」
 アリスは、フラワリープリンセス・ハートスタイルによってその姿を変身させる。
「あいりさんの為にも……まずはエゴシャナさん、貴女から倒させて頂きます……!」
 より攻撃的なスタイルとなったアリスは、ハート型の弾丸を描き、
「――Heart Strike♪」
 その言葉と同時に放って、エゴシャナの胸を貫いた。
 ケルベロスの猛攻は続くが、エゴシャナも負けじと不思議な音色の歌でアリスに対抗する。
「エゴシャナって何? 可愛いつもりなの? 歌も下手くそだよね?」
 その歌に対してアストラは、すかさずスマホからコメントの弾幕を送信し、
「少し名前を変えても、やっている事は変な鳥と変わらないよね」
 などなど、姿形から歌声までコメントで煽り倒し、
「っていうか、エゴシャナって女の子だったんだ? ぶっさー」
 最大限に罵倒し尽くして挑発しながら、その影でこっそりと仲間たちに助言を残していく。
「いきますよっ!」
「………!!」
 そこへすかさず、スズナとミミックのサイが、即興で完璧な連携攻撃を繰り出す。
 今まで共に戦い抜いた事で得られた沢山の経験則によって攻撃が無意識にかみ合うという、絆が技と呼べるまで昇華した「即興連携:百裂」は、連携するということを一切考えていないエゴシャナを自在に切り裂き、膝をつかせるのに十分な攻撃だった。
「閃く手刀に紅炎灯し、肉斬り骨断つ牙と成す! ……受けろ! 閃・紅・断・牙―Violent Fang―!」
 そして、双牙が地獄化し炎を宿した手刀を獣の如くしなやかに振るい、その熱量と鋭さで切り裂いて、
「タレにつけこんで焼き鳥にでもなるがいい」
 程よい焼き加減のエゴシャナは、タレ代わりに自らの鮮血の雨を滴らせながら焼き鳥? となる。
「さて……俺達の声が届くか? 出来れば戦いたくはないが」
 双牙は残されたビルシャナの少女の方を向いて、そう問いかけるのだった。

●一人でいい? 独りは嫌!
 双牙の問いかけに、ビルシャナは無言で羽根を広げ、威嚇しながら飛びかかる。
「きゅあっ」
 藍月のボクスドラゴン、紅龍がとっさに間に入り、その攻撃を受け止めると、
「まずちっと落ち着け」
 竜人はビルシャナの羽根を抑え込むように2発の光弾をエネルギーを抑えて放ち、それ以上の追撃はせずにじっと彼女の目を見つめる。
「……自分が大事、当たり前の事だ。楽しいも嬉しいも自分が無ければ始まらん」
 双牙はビルシャナの正面に立ち、声が届いているかどうか、彼女の反応を確認しながら、ゆっくりと言葉を紡ぐ。
「だが、人に大事にして貰って、また人を大事にして、嬉しかった事は無いか?」
 言葉と言葉を区切り、間を十分にとり、問いかけていき、
「……今、誰かの顔が浮かばなかったか?」
 彼女が何かを喧嘩した親友のことを思いだすことを期待する。
 しばらくの沈黙のあと、彼女が双牙に視線を合わせ、小さく頷いたのを感じると、
「自分以外とは価値観も違えば、すれ違いもある。だが悲しい事だけではない。
 誰かを大事にする事は、自身を大事にする事でもある筈。
 思い出して欲しい。君が大切にしていた、気持ちを」
 それは大切なものではないのかと、彼女の意識を少女のものへと引き戻そうとする。
「喧嘩できるほど何でも物言える知り合いってのは大事だぜ」
 続けて竜人はそう言うと、友達だから喧嘩はしない。なんてことはないと主張する。
「喧嘩したなら別に三日くらいは喋らねえでもいい。だけど、少し時間置いてみ?」
 自分が大事で相手が悪い。喧嘩して、頭にきて、喋らなくなったとしても……。
「きっと、そいつと話したくなる。それが、親友ってものだろう?
 現に、お前は喋りたくなってたんじゃないか?」
 竜人の言葉が彼女は顔を俯け、悩みながらも首を横に振った。
「君が辛くて傷付いたのは……友達が大好きだからだろう?」
「そ、そんなこと……」
 藍月の言葉に、彼女はとっさにそれを否定しようとする。
 しかし、それが間違いなく自分の本心であることに気づいた彼女は口を止め、
「大好きな友達に否定されるのは辛い。友達も、辛いと言っていたよ。君と同じように」
 悲しそうな顔で視線を窓の方へと向ける藍月につられ、窓から漏れる光を見つめる。
「思い出すといい。君にとって彼女はどうだったかを」
 そんな彼女に藍月はそう続け、彼女が何かを思い出せるだけの間をとって、
「君も辛かったのは、君は友達が大切だからだ。俺は、君も、友達も助けたいと願ってる」
 その言葉にピクリと体が反応し、少しずつ人間の「あいり」が戻り始めているという感触を得た。
「でも……わたし……は……わたし……が」
 しかし、まだ自愛菩薩の影響が頭に残る彼女は、彼らの言葉を否定しようとして、
「そもそも、絶交って言ったのお前もだろ。それでショック受けたの自分だけだと思ってるのか、おこがましいな」
 白亜のにらみつけるような視線と、言葉の迫力にびくっと怯えたように体を震わせる。
「自分が大事なのは結構だが、じゃあお前は一人で生きていくんだな?」
 強い口調で彼女を問い詰めながら、白亜はちらっとベッドの方へ視線を向ける。
(「こういうのは苦手だからな……果たしてこれで大丈夫なのか」)
「ん……ん」
 視線を向けられたラトゥーニは、彼女の説得の輪から少し離れたところで、面倒くさそうに彼女の様子を見て取り、
「チョコレート、おいしぃ」
 問題はなさそうだと判断して、のんびりとお菓子を食べ始めた。
「自分を傷つけるものは許さない。そんなことしていけば見ず知らずの人に始まり友達から家族、それら全部失っていくぞ」
 やりすぎたなら仲間が止めてくれるだろう。白亜はそう信じて、自分の思いを彼女にぶつけていく。
「お前を導いたエゴシャナはもういない、すぐに本当に一人ぼっちになる。それでも、いいんだな?」
 親が子供を、姉が妹を叱るように、白亜の強い言葉にガツンと殴られた彼女は、
「……だ。やだ。独りは……やだよぅ……でも……」
 今にも泣きだしそうな表情で、わずかに声を漏らす。
「私だって自分が大事だが、それよりも仲間が大事だ。嫌なことだってあるがそれでも人のぬくもりが恋しい」
 白亜は顔に優しさを戻して、
「それすらも忘れたっていうならお前はもう人ではないんだろうな。お前は、どうなんだ?」
 彼女の頭をなでながら、その瞳を覗き込むように見つめた。

●ぬいぐるみ
「ほら、ベッドの上でお菓子を食べない」
「はぁーぃ。ぅとぅと……」
 堂々とベッドを占拠して、おやつタイムを楽しんでいたラトゥーニの奥襟をつまんで部屋の隅に移動する白亜に代わり、
「傷ついたり傷つけたりしても、またやり直せばいいんじゃないかな。ごめんなさい。ってね」
 今度は、アストラが前に出る。
「自分と友達のどちらかしか大切しちゃいけない理由はないからね」
 大切な友達は大切にしないと、自分を大切にすることにはならない。だから苦しい。
「友達も大切にする自分を大切にすればいいと思うよ」
 どちらも大切にすることが、一番自分を大切にすることなんだと、彼女の中に残る自分を愛する気持ちをうまく誘導していく。
「わたしはあいりさんに、思い出して欲しいんです。友達とはじめて会ったときのことを、仲良くなったきっかけを」
 スズナは自分が大切にしている友達のことを想像しながら、
「明日の朝に、おしゃべりする内容を思いついたときを。
 テストの結果や、テレビやお菓子の話でもりあがったときを」
 同い年の彼女にも、その素敵な出会いや思い出を、思い出して欲しいと願う。
「そんなのあたりまえのことで、喧嘩した思い出のほうが強いかもしれません。
 ……でも、もし仲直りできれば、思い出がまた増えると思います。『あの時、ケンカもしたね』って」
 いつも、友達にするような笑顔で、スズナは声をかけ、彼女はつられて笑みを浮かべかける。
「よし、できたぞ」
 その間に、戦闘中にアストラが拾い、応急処置していた彼女のぬいぐるみを竜人がヒールして、元通りの猫の姿に直し、
「後は任せた」
 アリスにその思いを託す。
「私も……些細な事で、お友達やメイドさんと喧嘩しちゃう事もあります……」
 アリスはそんな喧嘩をするたびに、彼女の心の傷と似た傷を思い出しながら、
「でも、その後は決まって前より仲良くなれるんです」
 その後の、もっと楽しくなるこれからを語り、今のままではもったいないと説く。
「このぬいぐるみさんは……私達が直したから。前と同じ様に元通りとはいかないです……けど」
 そう言ってあいりの目の前に差し出したぬいぐるみは、以前とそっくりだったが、切り裂かれた部分が、以前より明るく、ほんわかとした雰囲気となっていた。
「……勇気を出して……もう一度、お友達を信じて仲直りして……。きっと……ぬいぐるみさんも友情も、元に戻ります……」
 アリスはあいりにぬいぐるみを渡そうと腕を伸ばし、あいりも頷いて、鳥のような手で優しく、大切に猫を抱えた。
「まずは仲直りだ。これが終わったら、一緒に友達の所にいこう」
 藍月はそう言うと、あいりに取り付いた慈愛の力を振り払うべく、ビルシャナの体に右手を添え、
「痛いかもしれないが、我慢してくれ」
 力を込めて、その胸を貫く。
「雨降った後は地は……絆はきっともっと強くなるのだからね」
 藍月は人の姿に戻り、気絶しているあいりに、そう囁くのだった。

作者:きゅう 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年3月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 3/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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