勝利への剣

■リプレイ

●見敵
　ケルベロス達は山中へと踏み入っていた。
　木々の間には未だ、寒風が吹く。花道・リリ（合成の誤謬・e00200）は形のいい眉根を寄せ、上着の前を締め直していた。
「真冬に山登りをするはめになるだなんて──本当に難儀だわ」
「確かにねぇ。ま、でもそろそろ、敵も出てくる場所だろ？」
　１人すたすたと歩くリリの背に、陶・流石（撃鉄歯・e00001）はあっけらかんと言う。
　実際、敵の出現が予測された地点は近い。皆もそれぞれに警戒を浮かべ、敵影を探し始めていた。
　ソルヴィン・フォルナー（ウィズジョーカー・e40080）は途中、見回しつつ口を開く。
「しかし、武術系ドリームイーターも幾つ目やら、という感じじゃな」
「こんだけちょろちょろできてんのは何かしら理由があったりすんのかねぇ。特殊な能力があったり、支援者がいたりとか……」
　流石も首を傾げると、ソルヴィンもふむと考える素振り。
「思えば、武人的な集団はデウスエクスにおったかのう」
「珍しくは、あるかも知れぬな」
　応えるのは、ダンドロ・バルバリーゴ（冷厳なる鉄鎚・e44180）。抜け目なく視線を巡らせつつ、声を継いでいた。
「幻武極に関して言えば……いずれは倒すべき相手となろうが、対象の命を完全に奪っていないことだけは評価もできる」
「そうですね。ただ、努力で培った武術を奪った上に悪用し、罪なき人々を襲わせようとすることは許し難い行為です」
　サラ・エクレール（銀雷閃・e05901）は、愛刀・伯耆国安綱に手をかけながら、冷静に口を開いていた。
「武術を嗜む者としては、このまま放置する訳には参りません」
「ああ。そうだな」
　と、月隠・三日月（紅染・e03347）もまっすぐに頷く。
「日々稽古して少しずつ強くなるのは楽しいものだというのに。それを利用するドリームイーターは、許せんな」
「ええ。……人を道具のように考えている間は、モザイクなんて晴れないわ」
　シャルロット・フレミス（蒼眼の竜姫・e05104）は静かに言うと、翼で空へ上がり始めていた。上方から捜索するためだ。
　そのまま、羽ばたいて広く視線を巡らせる。
　すると程なく、木々の中に動く影を発見した。それは洋剣を携えた人影。剣術使いのドリームイーターだった。
「──見つけた！」
　シャルロットは皆へ連絡を入れると、すぐに“滅竜刀 -轟-”を抜き、空へ掲げる。
　同時、宙に無数の刀剣を生み出すと、それを雨のように降らせて先手を打っていた。
『何……っ？』
　ドリームイーターは、急襲に驚きの色を浮かべ、剣を抜いて見回している。
　そこへ、地上の面々も駆けつけ始めていた。
「被害者の人からは、距離もあるね。問題なさそうだ」
　天喰・雨生（雨渡り・e36450）が確認して言うと、皆は頷き、まっすぐに疾駆。短時間の内に距離を詰めていた。
「ほう。確かに洋剣じゃな。日本にいながらに刀よりそちらを選ぶとは……good！　と青年に言ってやりたいの」
　敵を目の前にすると、ソルヴィンは顎をさすりさすり、得物を検分する。
　ドリームイーターは警戒するようにこちらを見回していた。
『お前達は……攻撃してきた者の仲間か』
「アンタのために好きでもない山登りをしてやったのよ」
　リリは不機嫌気味にそうとだけ言うと、敵の剣を見る。
「これ以上アンタにくれてやる時間はないの。とっとと剣をお捨てなさい」
『剣を？　馬鹿な。これは命と同等だ』
「そうか。なら、その剣。私の刀で圧倒してみせるよ」
　敵意を向けるドリームイーターへ、三日月は刀をすらりと構えてみせていた。
　ドリームイーターは愉快げな表情になる。
『勝負か。面白い！』
　瞬間、それを合図に、走り込んで攻撃をしようとしてきた。
　が、既にこちらも戦闘態勢。正面から来る敵へ、流石は飛び蹴りを当てて機動力を削ぎ、リリは御業を解き放ち足元を締め上げている。
　ドリームイーターはそれでも無理矢理に斬り込んできた。だが、リリは上手くそれを防御して衝撃を軽減している。
「さ、守っててやるから早く片付けてちょうだいよ。痛くないわけじゃあないんだから。──何より寒いのよ」
「ええ、尽力しましょう」
　応えたのはサラ。跳んで踵落としを繰り出すと、同時にソルヴィンも、炎の滾る幻竜を撃ち出して連撃を加えていた。
　ダンドロが後衛へ殺戮衝動を展開すると、ドリームイーターはこの間に反撃を狙ってくる。が、そこへは雨生が大鎌・葬送華紋を振るっていた。
　水面の如く揺蕩う透かし刃は、美しさとは裏腹に苛烈な切れ味で、皮膚を裂いていく。
「今、いけるよ」
「ああ」
　敵がたたらを踏むと、雨生に応えた三日月は『紅蓮一刀』。心の底にある憎悪に火をつけ、紅に燃える刀を作り出していた。
　瞬間、縦横に剣閃を走らせ滅多切り。連続の衝撃でドリームイーターを後退させていた。

●剣戟
　火の粉を散らして、よろめくドリームイーター。だが、浮かぶ表情は好戦的だった。
『挑んでくるだけの実力はあるようだな。素晴らしい』
　言うと、愉快げに剣を構え直してみせる。
『それでこそ、洋剣の真髄を見せられる』
「洋剣の真髄、か。愛用の得物が同じ敵と相対するとは、不思議なものだの」
　ダンドロは自身の片手半剣≪ Diadochoi ≫の柄に軽く触れて、声を零す。敵が実力者である分、親近感に似たものもあった。
「ただ、だからといって──見逃すわけにも手を抜くわけにもいかぬが。汝はデウスエクス、我はケルベロスなのだからな」
「うん、その通りだ」
　快活に頷いたのは三日月。その淀みない視線でドリームイーターを見据えていた。
「僅かの被害も、出させない。ここでキッチリ斃させてもらおう」
「そういうわけだから──こっちが勝たせてもらうよ」
　声を継いだ雨生は、半身に刻まれた梵字の魔術回路を赤黒く輝かせていた。
　瞬間、地を蹴って疾駆。高下駄を駆り、大きなフードを揺らして肉迫すると、視認できぬほどの高速斬撃で敵の胸部を抉っていた。
「連続攻撃、頼むよ」
「おし、あたしに任せとけよ」
　と、そこへ流石が距離を詰めて接近戦に持ち込んでいる。
　流石の放った拳は、ドリームイーターが剣の柄で受けきった。だが、それは狙い通り。流石はそのまま至近から、『鉄視心揺』を行使していた。
「そのまま、少し怯んでな」
　それは鋼の如く冷たい視線。それが敵の精神をも刺し貫くように、プレッシャーを与える。
　その間隙に、空が蒼く光った。空から滑空したシャルロットが・縛霊手・竜爪武に霊力を込めていたのだ。
『く……』
「遅いわ。こっちも──やるからには全力よ！」
　体勢を整えようとするドリームイーターだが、シャルロットはそれよりも早く、霊力の塊を発射していた。
　無数に襲った光の塊は、高速で飛来。敵の上体を穿っていく。
　ドリームイーターはよろめきつつも、反撃の刺突を放った。だがその一撃は、ソルヴィンが滑り込んで庇い受けている。
「いやはや、わし魔法使いじゃし、こういう身を挺すのはちと苦手じゃのう……」
　耐え抜きつつも声を零すソルヴィン。と、その直後に体に力を込めて気合を入れ直した。
「憤破ッ！」
　すると、勢い余って服が弾け飛び、鍛え抜かれた鋼の如き肉体が現れていた。
『その肉体で不得手とは、言葉遊びを』
「本当じゃぞ？　今の攻撃で傷ついたしのう、すこ～しだけじゃが」
　ソルヴィンが応えていると、その間にダンドロがオウガ粒子でその傷も回復。直後には三日月が前蹴りを噛まし、ドリームイーターを再度後退させていた。
「さあ。皆も反撃を」
「ええ、繋げます！」
　三日月に応えて疾走するのは、サラだ。一息で敵へ迫ると、刃を打ち込み鍔迫り合いを演じている。
『なかなかの膂力だ。だが──』
「膂力だけでは勝てない。それは誰よりも分かっていますよ」
　眼前で言ってみせたサラは、上方に剣を弾き、返す刀で下方へ斬撃。敵の足元を切り裂いていた。
　ドリームイーターは呻きつつも、再度剣を振り上げようとする。
『こちらとて、技術でも劣らぬ──』
「うだうだ言ってないで、攻撃を受けていればいいのよ」
　と、冷たい声で返したのはリリだった。伸ばした手に、碧色の燐光を零しながら、オーラを溜め込んでいる。
「何よりこっちは急いでるんだから」
　刹那、目の前でオーラを発射。蕾が花開くように煌めきを放射させ、ドリームイーターの全身を焼け付くような衝撃で襲っていた。
「今がチャンス、じゃな」
　ふらついた敵へ、ソルヴィンは“CALL NoⅠSer 「ChromeГpom」”を行使。「絶滅せし種族」の絶望を呼び出し、怨念を稲妻の如く放っている。
　命中したそれは、瞬間的に敵の体内へ。激痛を生み出し、ドリームイーターに膝をつかせていた。

●力
　浅い息を零すドリームイーター。
　その表情は瞠目したように驚きが浮かんでいた。
『まさか、最強の剣術でここまで苦戦するとは……』
「そもそも、何の努力もせずに得た力で勝利へと向かうつもりだったことが、笑止千万ですよ」
　サラは微かに首を振り、声を返している。
　ドリームイーターは反抗するように立ち上がった。
『……力は力だ。今ここに強い力があることに意味がある』
「それも、本物の剣術を使う彼だったら説得力もあったんだろうけど」
　と、雨生もマイペースな表情を変えず口を開いている。
「──結局あんたはドリームイーター。その力自体が彼から奪っただけの紛い物、でしょ」
『紛い物などではない。この力は、理想の体現だ……！』
「その理想が、他人のものだって話でしょう」
　声を上げるドリームイーター、だがリリはそれにも、つっけんどんに言葉を投げていた。
「尤も、誰かの理想として生まれるのは如何な気分なのか、興味はあるけれどね」
『俺を愚弄するか……ならば力で、示すまで！』
　ドリームイーターは問答は終りとばかり、走り込んできた。
　が、リリはそこへ容赦なく御業を飛ばし、体を捕縛する。同時にサラが裂帛の刺突を繰り出すと、雨生も陽炎漂う斬撃で重いダメージを与えていた。
　唸るドリームイーターは、反撃に剣を振り上げる。が、その背後に、旋回するようにシャルロットが迫っていた。
「複数相手に隙を見せると危険よ」
　シャルロットはそのまま滅竜刀で一閃。淡く光る剣閃を飛ばし、鮮血を散らせていた。
　ドリームイーターはふらつきつつも、前衛を広く薙いでくる。
　が、その傷はダンドロがすぐに治癒。直後にはソルヴィンが魔法使いの闘気を漲らせ、卓越した拳の一撃を見舞った。
　下がった敵は、それでも再び剣撃を狙う。だが三日月がそこへ踏み込み、刀で打ち合っていた。
「確かに実力はあるんだろうな。だからこそ、その剣で凶行はさせないよ」
　瞬間、三日月は敵の剣を払い、再度紅蓮に滾らせた刃で袈裟斬りを叩き込んだ。
　そこへ、流石も肉迫している。ドリームイーターはバランスを崩しつつも剣を振るうが、流石はそれをリボルバーの銃床で逸らしてみせた。
「悪ぃけど、剣だけが近接最強じゃねぇんだよな」
　刹那、流石は体を翻して一撃。強烈な蹴り上げでドリームイーターを吹っ飛ばし、木に激突させた。

●決着
　ドリームイーターは、よろよろと起き上がる。声には信じがたいという色が滲んでいた。
『馬鹿な……この力が、負けるのか』
「ええ。私達ケルベロスが作りだす、あなたの向かう道は勝利ではなく敗北のみです」
　サラが頷くと、雨生も刀を構えている。
「うん。だからその力、本来の持ち主に返してもらうよ」
　ドリームイーターは、歯噛みするように自己回復。だが、そこへ三日月が疾駆し、連続斬撃を喰らわせていた。
「構えを取るには、少し遅かったな」
「あぁ、逆に、いい的だぜ」
　流石も腹部に拳を打ち込み、その体勢を完全に崩していく。
　連続して、サラは『旋二閃』。二刀抜刀の構えから、凄まじい剣速の斬撃を生み出し、敵の腹部を深々と切り裂いていった。
「このまま最後まで、行きますよ」
「ええ。──猛る雷雲、戦場の硝煙、駆ける煌き……出でよ竜の雷！」
　応えたシャルロットは『蒼眼竜の煌雷』を行使している。
　それは雷雲を呼び寄せ、落雷を刃に宿す技。繰り出された光の一閃は腹を貫き、ドリームイーターに深手を与えていく。
　ダンドロは、剣はこう使うものとばかり、【断金】の苛烈な縦一閃を叩き込んでいた。
「一対一では敵わぬが、それを補う連携が我らにはある。個の強さだけでは勝てぬこともある……戦いとはそういうものだ」
　それでもダンドロは、敵の武道の真髄は感じたというように、幾ばくかの敬意を湛えていた。
『まだ、だ……』
　倒れ込んだドリームイーターは、それでも起き上がってくる。が、ソルヴィンはそこへ再び怨念による苦痛を与え、追い込んでいた。
「そろそろ、終りにしようかのう」
「そうだね。──あんたの剣捌き、紛い物でもそれなりに綺麗だったよ」
　言った雨生は、『第壱帖漆之節・流斬』。周囲の水気に魔の波動を同調させ、吸収・増幅。刀に纏わせ、二重の刃としていた。
「でも、僕の和刀も負けてないと思うから。受け取って――さよならだ」
　刹那、鋭利な一刀で敵の意識を奪っていく。
　リリはそこへ『悪食のカラント』。地から仄暗い影を出現させ、敵の姿を飲み込んでいた。
「騎士は騎士のままおやすみなさい。アンタ、殺人鬼には向いてないみたい」
　闇の塊は、ドリームイーターを包み、消失。その生命ごと喰らいとり、跡形も残さなかった。

「終わりましたね」
　戦闘後。サラは一礼して刃を収めていた。
　流石は息をつくと、歩きだす。
「じゃ、被害者の人の安否だけ確認していくかねぇ」
「ガキじゃあないんだしほっといて大丈夫だと思うけれど。……行くなら任せるわ。私は向かないから」
　リリはそうとだけ言うと、ついと顔を逸らして歩いて行く。
　皆はそれぞれに青年の元へ赴くことになり、程なくその姿を見つけた。
「無事みたいだね」
　と、雨生が言う通り青年は目をさましており、体調も健常。事情を聞いて、ありがとうございました、と皆へ丁寧な礼を述べていた。
　自身の修行不足を実感しているようでもあったが、そこにダンドロが声をかける。
「『この武器が最上』と思うのは良い、だがそれが他の武器を貶めるような事になってはいかぬ」
　ダンドロは自らにも言い聞かせるように続けた。
「一つの物を信じ続ける事は盲信にも繋がりかねん。戦いに身を置く者が自らの得物を決める事は、自らの『生き方』を決めるも同じなのだからな」
　青年は、神妙に頷き、肝に銘じて精進しますと応えていた。
　ただ、人に通じる信念も、幻武極が解するかは、ダンドロも疑問だ。
　それでも、敵が敵なりに武の極みを求めるなら、己は己なりの方法で武を求め、その眼前に立つだけだとも思っている。
「その際は躊躇なく……斬る」
　ダンドロは空を仰ぐ。それは確かな勝利の決意だった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月26日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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