凪に豪風

■リプレイ

●対峙
　深緑の山中を、ケルベロス達は歩いていた。
　既に奥地であり、敵出現が予知された場所も近い。クオン・ライアート（緋の巨獣・e24469）は泰然とした面持ちながら、警戒を欠かさぬよう見回していた。
「さて、このあたりまで来れば、いつ出てきてもおかしくはないな」
「うん。棒術の達人、だったよね」
　応える葉月・静夏（戦うことを楽しもう・e04116）の表情には、期待感もある。
　人が磨き考えた技にケルベロスとしての全力で戦える。だから静夏は、この類の仕事には楽しみな心持ちもあった。無論、全力だからこそ、守るべきものは守るつもりでもある。
「早く、戦いたいね」
「そうだな。ま、さっさとドリームイーターをとっちめて、ぶっ倒れてるお兄さんを助けるとしようぜ」
　そう声を継ぐのは、ハインツ・エクハルト（光を背負う者・e12606）。木々の間に視線を走らせ、敵影を探っていた。
　と、丁度そのときだ。微かな足音ともに、遠くに動く影が見えていた。
　皆は頷き合い、すぐに移動を開始。木々を縫うように疾駆し、その先に歩く、１体の人影を確認していた。
　それは六尺棒を携える武術家の姿。棒術使いの、ドリームイーターだった。
　ハインツは距離を詰めながら、呼び止めるように声を張る。
「おーい！　そこの強そうな奴ー！　オレ達と勝負しようぜ！」
『……何？』
　気づいたドリームイーターは、こちらに視線を巡らせる。ケルベロス達が包囲してくるのを確認すると、棒をゆっくりと構えていた。
『確かに実力に自負はあるが……自ら戦いを求める者がいるとはな』
「実力に自負、ね。なら、こっちもそうだから」
　と、応えてみせるのは虹・藍（蒼穹の刃・e14133）。ロッドをくるりと回して手に取り、突きつけてみせた。
「腕試しにもってこいの相手だと思うよ？」
『……伊達ではなさそうだな。だが俺の武に、勝つことができるかな』
　ドリームイーターは、好戦的な表情で六尺棒を握りしめ、臨戦態勢を取る。
「その自信、面白いじゃないか」
　クオンは鷹揚に言うと、かかってこいとばかり、パイルバンカーの先端をくいと上げてみせた。
「ヤツの台詞と被るのも癪な話だが……敢えて言おう！　貴様の最高の棒術！　この私に見せてみろ！」
『言わずもがなだ。理想を体現した棒術、受けるがいい！』
　ドリームイーターはそれを合図に、接近してきた。
　だがウェイン・デッカード（鋼鉄殲機・e22756）は、先んじて、その手に虚無球体を生み出している。
「理想、か。破壊するのは心苦しいけれど――それは望まれた理想とは、違うよね」
　瞬間、突き出した掌からそれを発射。不可視の塊として撃ち出した。
「人の理想を僕に破壊する権利はないけれど、君に奪う権利もないよ。だから――懺悔の時間だ。お互いに、ね」
　豪速で飛んだ虚無の衝撃は、ドリームイーターの腹部で弾け、強烈なダメージを生む。
　ドリームイーターは痛みに顔をしかめた。が、それでも構わず攻め込んでくる。
『強力だな……だがこちらの棒術には敵わん！』
「そうですか。ならば折角なので、長物の扱い方、参考にさせてもらいましょうか」
　と、トエル・レッドシャトー（茨の器・e01524）は、繰り出された攻撃を、槍にも似た武器でいなし、捌いていた。
　だが、それは単に避けるにとどまらない。
「──もっとも、私の“槍”はじっとしていませんけれど」
　瞬間、その槍が流動し、追尾するように敵を縛り上げる。
　その武器は、Rosales。敵の生命力で茨を伸ばし、一層締め上げる、攻性植物だった。
　この隙に、チェルシー・グッドフェロー（花咲谷の雫・e44086）も自身の攻性植物を解き放ち、展開させていた。
「まずは、準備を整えますねっ。耐性マシマシで行きますよっ！」
　それは大きな傘のように広がり、黄金に光る実をつける。その輝きが雨滴のように注がれると、光が多重に浸透。仲間を強い防護の力が覆っていた。
　さらに、ハインツは紙兵を撒いて守りを強固にし、藍も雷壁を生成して防御を万全にする。
　敵へは、クオンが冷気のパイルを打ち込み、足元を凍らせていた。連続して、静夏も腕に炎を纏って突進している。
「静夏選手、左腕を大きく振り回しはじめました～。もしや、あの技を繰り出すのか～！」
　言葉とともに放つのは、渾身のラリアット、『活夏激発』。
「戦斧のごとき炎の一撃、アックスサマーだぁ～！」
　そのまま、斧の斬打の如き、痛烈な打撃が命中。ドリームイーターを数メートル吹っ飛ばした。
　地を滑ったドリームイーターは、それでも倒れず踏みとどまると、顔に喜色を浮かべた。
『強者ぞろいというわけか。面白い、お前達を倒せば俺の武も一層、証明されると言うもの』
「武、か」
　そう、静かに声を返したのは、九十九・九十九（ドラゴニアンの零式忍者・e44473）だった。
　顔を覆う鬼面は、その裏の表情を窺わせない。同時に、零れる声は耳朶を打つ特徴的なものだった。
「己が道を進む。ただそれに専心する姿は、好ましい」
　しかしそれを真に体現するのは目の前の存在ではないと、九十九は知っている。
「だからこそ、今は貴様に挑み、打ち破ってその武を否定しよう」
　きっと、鍛錬の果てに辿り着くのはより高い場所だろうから、と。九十九は地を蹴り豪速で跳ぶ。一瞬後には、ドリームイーターの頭上を取っていた。
「さぁ、夢喰らいたる神の欠片よ、地獄に堕ちろ」
　刹那、体を翻して打つのは強烈な飛び蹴り。
　直撃を受けたドリームイーターは、木に激突。深いダメージに、思わず膝をついていた。

●打合
　ドリームイーターは浅い息を零しながらも、すぐに立ち上がる。
『武には武をか。いいだろう。ならばどちらかが果てるまで打ち合うのみだ！』
　その表情には退く意思はなく。まっすぐに駆け込んでくる。
　そのまま突き出された六尺棒を、しかしウェインは大槍“貴婦人の一刺”で弾き、動線を逸していた。
　それでも敵は乱打をしてくるが、ウェインとて長物の扱いは巧み。動きを読み、打ち合うことで全ての打撃を外させた。
「次はこれで、どうかな」
　そして一瞬の隙を突き、『巨蟹の斬刑』。ショテールに似た２本の剣に持ち替えると、振りかぶって交差させる斬撃。紫に光る魔力を散らしながら、深々と上半身を切り裂いた。
　よろめくドリームイーターへ、静夏も接近。大戦斧【盛夏】を振り上げていた。
「斧が槍に強い世界もあるからね。棒にもきっと、斧なら有利だよ！」
　強烈な振り下ろしは、言葉のままに六尺棒を軋ませ、余波でも重いダメージを刻む。
　ドリームイーターも至近で打撃を放つが、静夏は上手く斧で受けて衝撃を軽減。直後には、ハインツが激励の鬨《蔦》を行使していた。
「すぐに回復するからな、待ってろよ──トイ、トイ、トイ！！」
　魔除けのおまじないとともに行われるそれは、蔦状にした黄金のオーラによる回復術。傷に這わせることで、温かい心地を生み、即座にダメージを癒していた。
「後は私が回復するね！」
　と、さらに藍も手元に青い光のメスを生成。傷を縫合し、静夏を癒しきっている。
「回復は大丈夫そうですね。では、わたしは補助を完璧にしておきますっ！」
　仲間の様子を鑑みて、チェルシーは支援を継続。攻性植物から生まれる光で後方の仲間も覆って、耐性を万全に整えている。
「これで守りはバッチリですよ！」
「うん、ありがとうね」
　藍は応えつつ、敵の様子をつぶさに観察している。
「それにしても、棒術か……シンプル、故に手強いといった所かな。皆、気を付けて！」
「ああ、細心の注意を以て──全力で捻じ伏せよう」
　声を返した九十九は、風を掃いて豪速でドリームイーターへ。回避の暇も与えず、エクスカリバールで強烈に打ち据える。
　後退した敵へ、トエルも疾駆。ドリームイーターはそのまま後ろへ跳んで避けようとするが、トエルの突き出すRosalesの速度が疾かった。
「そう簡単に、避けられませんよ」
　瞬間、赤々と炎を纏った茨で刺突。胸部を穿ち、熱で焼いて深い損傷を負わせていた。
　ドリームイーターは呻きながらも、反撃の打突を試みる。クオンはそれを刀で受け、好戦的に笑んでみせた。
「ふむ、これが『棒術』か。──良いぞ。もっとだ。もっと私に、貴様の強さを見せてみろ！」
　声とともに、さらに強く棒を弾く。
　ドリームイーターは応じるように連撃を繰り出した。
　が、クオンはそれを全て捌いた上で、至近へ肉迫。翼で風を切り、神速の飛び蹴りを喰らわせてドリームイーターを吹っ飛ばしていた。

●闘争
　ドリームイーターは血を零しながら、起き上がる。
　呻きの交じる声には、納得の行かなそうな色が滲んでいた。
『最高の強さを手に入れたはずが、これほど苦戦するとはな……』
「強さ、ですか。……確かに、ひとつの道を極めるのは生半なものではない、ですよね」
　と、チェルシーは少し首を傾げるように口を開いている。
「ですが、努力もせず、他人から奪ったチカラで強くなる……それはほんとうの強さなのでしょうか」
『この力が。この武術が、偽りだと？』
　ドリームイーターは歯噛みするように声を返す。
　トエルは頷きながら、自らの髪を媒介に、特殊な茨を召喚していた。
「ええ、武術は鍛錬を積み重ねた先に得るものですよ。あなたは、違いますから」
　その力は『白銀の茨の厄災』。Rosalesに纏わせて薙ぎ払うことで、時間法則を捻じ曲げる力を発現。一閃で、体の傷を全身に斬り広げていた。
　ドリームイーターは唸りながらも、退かず棒を振るってくる。
『どんな方法であれ、強くなればそれが正義だ……ッ！』
「私も、こんなご時世でケルベロスもやってるし。強さを求めることを、否定できないけどね」
　と、藍はそれを右に左に躱しながら、応えて言う。
「その武術も、たしかに強いよ。ただの棒も、振るう者次第で脅威となる……良い夢ね。──でも、こっちも守るものがあるんだ」
　そこで声とともに、まっすぐに指先を伸ばしていた。
　瞬間、放つのは虹色の光彩を纏う星銀の弾丸。
「だから、ここは引いて貰うよ！」
　その能力は、『星虹』。命中するとともに美しい光が弾け、強力な衝撃となってドリームイーターをふらつかせていた。
　そこへ静夏も斧で縦一閃、重い斬打を叩き込んでいる。六尺棒の端が切り飛ばされて驚く敵へ、静夏は楽しげに言った。
「やっぱり、棒より斧のほうが強いよね」
『……まだだ！』
　ドリームイーターはそれでも怯まず、前衛を薙ぎ払ってきた。
　それは炎を伴った広範な一撃。だが、そのダメージには、ハインツが地を踏み鳴らし、花のオーラを展開。舞い散る花弁とともに傷を回復している。
「よし、チビ助は攻撃だ！」
　と、ハインツの声に応じて、オルトロスのチビ助は疾駆。平素のマイペースさからは窺えぬほどに、苛烈に飛びかかって斬撃を加えていた。
　この間に、チェルシーは『銀河の瞬き』を行使している。
　生み出されるのは混沌の泡だ。それが仲間に浴びせられると、まるで星々が瞬くかのように弾け、意識を明瞭に保つ。同時に戦意を向上させることで、力を増幅させる作用ももたらしていた。
「攻撃はお願いしますっ」
「了解」
　応えたウェインは、微かな空間の歪みしか見えぬ、力の塊を手元に生成する。
「合わせていこうか。容赦なくね」
「ああ。これから向かう地獄を、垣間見ることができるほどにな」
　声を返す九十九は、直線状に疾走。敵が反応する間もなく、疾風の如き爪撃を袈裟に叩き込んでいた。
　鮮血を散らしたドリームイーターへ、ウェインは球体状に固めた力を放ち、ドリームイーターを木に激突させる。
　血を吐きつつも、起き上がろうとするドリームイーター。だが、その頭上に、翼を輝かすクオンがいた。
「貴様の『武』、見事だった。──故にこれは礼だ！　敬意をもって、我が全力にてその武に報いよう！！」
　クオンは声とともに、武器を放棄して一本の剣を取る。同時に、背後に顕現した巨大な太陽から力を吸い上げていた。
「廻れ廻れ、廻れ！　楽園の太陽よ──！」
　燃ゆるその力は、『開放・太陽の剣』。
　巨獣の如き、圧倒的な存在感のもとに放たれた剣閃は、熱く鋭い。熱波の如き一刀で、六尺棒を両断し、ドリームイーターの片腕をも切り飛ばしていった。

●決着
　血溜まりの中で、膝をつくドリームイーター。体力は目に見えて減り、既に顔にも深い苦悶を浮かべていた。
　それでもがむしゃらに攻めてくる。が、トエルは反撃を許さず、刺突で対応。そのまま燃え盛る茨で穿ち、体力を削り取っている。
「このまま、最後までいきましょうか」
「おう。任せろ！」
　そう応えたハインツは、ライオットシールド・Heiligtumを大振りに振るい、強烈な打撃で敵の守りを砕いていっていた。
　ふらつくドリームイーターは、流石に一度距離を取ろうとする。だが、そこへチェルシーが、右腕に絡めていた攻性植物を飛ばしていた。
「ちょこまか動くの鬱陶しいですね。ぐるぐるにふん縛ってあげます！」
　瞬間、言葉通り枝葉を絡ませ、敵をぐるぐる巻き。そのままぶん回して、全身を地に叩きつけていた。
「あとはおまかせしますっ！」
「ああ」
　ウェインが頷くと、九十九も同時に敵へ肉迫。エクスカリバールを横一閃に、切り裂くような打撃でドリームイーターを両断していく。
「貴様の武も、ここまでだ」
「これで最後としよう」
　そこへ、ウェインもまっすぐの拳を放つ。強烈な一撃はドリームイーターを砕き、跡形もなく霧散させていった。

　戦闘後。皆は青年の元に赴き、介抱した。
　青年は目を覚ましており、けがもない。意識も明瞭で、藍が手を貸すと、すぐに立ち上がっていた。
「大丈夫？　何処か具合が悪かったりする？」
「平気です。ありがとうございました」
　藍に、青年は深々と頭を下げる。それから事情を聞いて、なるほどと頷いていた。
「俺の理想と戦ったのですね……」
「中々、楽しめたよ。強かったしね」
　静夏がそんな風に感想を述べると、クオンも頷く。
「そうだな。見事なものだった。だからこそ、次は『理想』でなく『理想を超えた貴方』と手合わせしてみたいな」
　クオンの言葉に、青年は頷き、一層精進したいと思いますと答えていた。
　ハインツは青年に笑いかける。
「棒術はなかなか難しいんだよなー……それを極めようってのは凄いことだと思うぜ！　修行頑張ってな！　応援してるぜ！」
　はい、と青年が頷き、去っていくのを皆は見送る。
　ヒールによる修復は既に終わっている。それを機に、九十九は用は済んだとばかり引き上げていった。
　皆も、平和となった山を降りて帰還。それぞれの帰る場所へと去っていった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年2月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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