白雪の赤花

作者:崎田航輝

 雪の世界に、小さな花が咲いていた。
 そこは街にほど近い雑木林。厳寒では木々も雪に降られ、白一色に染まる景色。
 その中で、ふと風が吹いて雪が落ちると、数片赤く綺麗な花が見えていた。
 椿の花だ。こぶりながら、赤く可憐な花弁をつけたそれは、白だけの世界の中で鮮烈な鮮やかさを持っていた。
 それを見つめるのは、1体のダモクレス。
 雪の中を行軍してきていた、少年型のアンドロイドの個体だ。雪の中の赤色に、どこか不思議そうな表情を浮かべている。
「……こんなところにも、花が咲いているのですね」
 それは何の事はない風景のはずだった。だが、雪の中でも一生懸命に花を開かせ、鮮やかな色をつけるその花に、力強い美しさにも似たものを覚えていた。
「これを、綺麗、とでも表現するのでしょうか──」
 惹かれている気持ちを上手く表せず、ダモクレスは手を伸ばす。
 だが、そのときだった。ダモクレスは体に違和感を覚え、突っ伏していた。
「──これでいいでしょう。さあ、お行きなさい」
 背後から聞こえるのは、静かな声。
 ダモクレスの体に手を伸ばし、『死神の因子』を植え付けていた黒衣の女性死神だった。
 ダモクレスは違和感の正体を聞こうとする、が、その疑問すら強い衝動にかき消される。
 グラビティ・チェインを取り込まなければならない。ただそれを求める、抗いがたい強迫観念に思考が支配されていたのだ。
「グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです。それが貴方の使命です」
「……はい」
 ダモクレスは従順に頷いた。それからは、花も木々も置き去りにして、街へとまっすぐに、走り出す。

「集まって頂き、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロスたちに説明を始めていた。
「本日は、死神によって『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスの出現を伝えさせていただきます」
 そのデウスエクスは、アンドロイド型のダモクレスだ。
 街に現れ、虐殺によってグラビティ・チェインの獲得をしようと目論んでいるようだ。
 仮にこのダモクレスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死んだ場合、死神は強力なデウスエクスの死体を得ることとなってしまうだろう。
「こちらの急務は、このダモクレスがグラビティ・チェインを得る前に倒すことで、死神の目論見を阻止することです」
 何より、放置しておけば多くの市民が犠牲となってしまうことだろう。
「敵戦力増強、そして人々の虐殺を防ぐために、このダモクレスの討伐をお願いします」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、ダモクレス1体。出現場所は、市街地です」
 降雪もある気候だが、街の中心ということで、それなりの人の数がいるという。
 ダモクレスが目指してくるのは、その人混みの中心だ。
「皆さんが到着するのは、ダモクレスが現れて人々を襲おうとしているときです」
 到着段階では敵も現れたばかりでまだ被害者はいない。だが放っておけばその限りではないだろう。
「虐殺を阻止するように割り込みつつ、そのまま戦闘に入って下さい」
 ケルベロス達が邪魔すると分かれば、敵もまずはこちらを排除しようとしてくるはずだ。
 最低限人々を現場から遠ざけつつ、素早い撃破を目指して下さい、と言った。
「それから、このダモクレスを倒すと、死体から彼岸花のような花が咲いて何処かへ消えてしまう、ということが分かっています」
 これは即ち、死神に回収されてしまう、ということだ。
「ただ、敵の残り体力に対して過剰なダメージを与えて死亡させた場合、死神の因子も破壊され、回収を阻止することが出来るようです」
 敵の体力とこちらの攻撃力、両方を鑑みながら戦うと良いでしょう、と言った。
 では敵の戦闘力について説明を、とイマジネイターは続ける。
「剣と銃器、バランス良く攻撃をしてくるようですね」
 能力としては、剣で攻撃してくる近単服破り攻撃、銃撃による遠単氷攻撃、広域射撃による遠列パラライズ攻撃の3つ。
 各能力に気をつけてください、と言った。
「するべきことは多いですが、是非、作戦成功を目指して頑張ってきて下さいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)
神宮時・あお(壊レタ世界ノ詩・e04014)
葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)
赤橙・千宙(瞬き・e40290)

■リプレイ

●接敵
 粉雪の降る上空。ケルベロス達はヘリオンから街を見下ろしている。
 遠くの下方には、既に騒乱の起きかけている人波が見えていた。その中心に現れてくるのは、少年の姿をしたダモクレス。
「三度目、か」
 ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)はふと呟く。想起するのはこれまで破壊してきたダモクレスのことだった。
 殺すばかりで、救ってやることもできない。もう、「せめて」などと言うのも嫌になってくる。ヴァジュラは静かな顔の裏に、感情を滾らせるようでもあった。
「周りに被害を出さずにデウスエクス同士で倒し合うだけならよかったんだけどね」
 葉月・静夏(戦うことを楽しもう・e04116)も見下ろして口を開く。
「でも人を襲うというのなら、放ってはおけないよね」
「……ええ」
 と、声を継ぐのは赤橙・千宙(瞬き・e40290)。微かに細い声で応えるように言う。
「死神の思い通りにさせるわけにもいきませんから。因子も破壊しましょう」
「勿論です。人の命と死を弄ぶ死神の好きになど、決してさせない」
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)は力強い頷きを返し、ハッチから半身を出して降下準備をしていた。
 冷風と舞う白雪は、厳しい環境ながらも美しい。
(「……」)
 そこに咲いた花はどのようなものだったろうかと、神宮時・あお(壊レタ世界ノ詩・e04014)は少しだけ想像する。
(「綺麗、だと、思う、気持ちを、死神は、わからない、のでしょう、か……」)
 それに応えるものはいない。だからあおは、一度静かに目を伏せて、後は雪空に飛んだ。
 同時、エリオットもハッチを蹴って街へと降下する。
「行きましょう──悲劇は必ず、ここで止める!」

 街に現れたダモクレスは、銃器を携えて周囲を狙っていた。
 人々はその姿に、どよめき、混乱を波及させている。ダモクレスはその全てを虐殺しようと、引き金に手をかけていた。
「最後の使命を果たしましょう……」
「──いいえ、そんな凶行は、断じて許しませんよ!」
 と、その瞬間だ。雪空に流星が降ったように、光が煌めいた。
 それは高空から飛翔してくるラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)。
 風を裂き、光色の曲線を描きながら滑空すると、翼を輝かせ、そのまま肉迫。強烈な飛び蹴りを打ち当てて、ダモクレスを後退させていた。
「あなた、たちは……」
「私たちはケルベロスだよ!」
 ふらつくダモクレスへ言って、疾駆するのは静夏。鉄塊管を振るい、強烈な殴打を見舞っている。
 同時、エリオットも空中から砲撃を放っていた。
「ええ、あなたの相手は僕たちです。人々に手出しはさせません!」
 その一撃は爆炎を生み、ダモクレスを取り巻いてよろめかせている。
 この間に、セリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)は周囲の人々へと避難を呼びかけていた。
「さあ、今の内に逃げていて頂戴」
「ここは私達に、任せてください!」
 さらに、千宙も剣気を解放。頼りなさげであった空気をどこか凛とさせて、人々を誘導していく。
 人波が引き始めていくと、ダモクレスも気づいて視線をやっていた。が、そこへ立ちはだかり鉄塊剣を振り上げる影がある。
「そちらへは、行かせませんよ」
 それは、リコリス・ラジアータ(錆びた真鍮歯車・e02164)。体から微かな金属音を響かせると、豪速で一刀。強烈な振り抜きで、ダモクレスを殴りつけてふらつかせていた。
 下がって体勢を直したダモクレスは、そこでようやく事態を把握したようでもある。
「ケルベロス……そうですか。僕の使命を、阻止しに来たんですね」
「ええ、その通りよ」
 と、返したのはセリア。戦闘の及ぶ範囲内が無人となると、向き直ってダモクレスに肉迫していた。
「だから、手加減はしないわ」
 瞬間、至近から羽ばたいて一撃。体を回転させ、強烈な蹴りを浴びせる。
 この隙に、千宙は守護星座の力を降ろして前衛を防護。
 その煌めく光の中で、ヴァジュラは『暴風龍焔鎧嵐武』を行使。地獄と剣圧による燃え盛る一刀を繰り出し、ダモクレスを衝撃でよろめかせていた。
 ダモクレスも銃口を向けてくるが、そこへ鋭い衝撃が降ってくる。
 それは空を舞ってきたあお。翼をはためかせ、その場で一回転すると連撃。胸部に蹴撃を命中させ、ダモクレスを転倒させていた。

●闘争
 ダモクレスは、すぐに起き上がっている。顔に苦しげな様子はなく、ただ自らの目的だけを思っているようでもあった。
「仕方、ないです。必要ならば、戦うしかありませんね……」
 その目には、感情は感じられない。ラグナシセロは、ふと聞いた。
「貴方はもう、花やこの景色を……綺麗と思わないのですか?」
「綺麗……。わかりません……。言葉の意味以上のことは」
 ダモクレスは胸を押さえつつも、機械的に返した。
 セリアは目を伏せる。胸に渦巻くのは諦観と憐憫の感情だ。
「己の在り方を歪められ、可能性の芽すらも摘まれて。……最早、救うことは叶わないのね」
「──死神とは、何と卑劣なのでしょう」
 ラグナシセロも、声に滲ませるのは哀れみの感情だった。
 ただ、千宙は剣を手に、まっすぐ構えている。
「それでも、関係のない人達を巻き込むのなら……倒します」
「ああ。殺し殺される相手ならば、そこにあるのは、全霊の戦いだけだ」
 声を継ぐヴァジュラは、胸に刻まれた傷から、地獄の炎を滾らせている。
 敵と相対すれば、そこには言い訳も恐れも、介在しない。
 己には憤怒を。敵へは愛情を。そこにあるのはただいつもの如く、慈愛をもって敵を受け入れ、決死で戦いに挑む戦獄龍の姿だけだった。
「最期に相応しき、死力を尽くした戦いにしよう」
 瞬間、ヴァジュラは豪速で飛び、地獄を纏った爪撃で肩口を抉る。
 血の如き油を散らしながら、ダモクレスも剣を振り上げた。が、攻撃の直前、走り込んだ静夏が腕を蹴り上げ攻撃をいなしている。
「よっ、と、隙ありかなっ!」
 ゼロ距離に肉迫する静夏の、表情は愉快げだ。
 そのままスリルと、戦いそのものを楽しむように、解き放つのは攻性植物のだんしんぐひまわり。凄まじい勢いでダモクレスを締め上げさせることで、全身に傷を刻んでいた。
「どう? ちょっと痛かったかな~?」
「……確かに、強力な攻撃です」
 ダモクレスは挑発にはそう返しつつ、拘束から逃れて剣を振り下ろす。
 だが、標的となったリコリスは、甲高い音を立て、腕で受けきっていた。直後には、自身でケルベロスチェインを繰り、癒やしの力を発現している。
「この程度ならば、まだまだ倒れませんよ」
 瞬間、煌めくのは魔法陣。それが治癒の光を広げると、仲間を回復防護。リコリスの金属の体を包んでいた皮膚も、その裂け目から修復されていった。
 同時、ラグナシセロも星々と見紛う魔力粒子を拡散し、仲間の感覚を強化。千宙も剣から星光を仲間へ注ぐことで、耐性を一層高めていた。
 敵へは、セリアがオウガメタルの拳で反撃。そこへ畳み掛けるように、あおも魔力の揺らぎによる音の波紋を生み出していた。
(「世界を、覆い、隠す、最果てへと、誘う、悲しき、調べ──」)
 それは創生詩魔法『地平線の音色』。鳴り響く音は、敵の知覚を奪うように、内部から大きな衝撃を与えていた。
 次いで、エリオットは間断を作らず、『いと高き希望の星』。聖剣を掲げ、平和への祈りと人々を守護する意思を込めている。
「天空に輝く明け星よ。赫々と燃える西方の焔よ。邪心と絶望に穢れし牙を打ち砕き、我らを導く光となれ!!」
 それは強烈な光芒を放つ、正義の一撃。飛来した光の直線は違わず、ダモクレスの腹部を貫いていた。

●応酬
 機械の破片が、雪に散る。ダモクレスの傷は増え、戦いの形成は徐々に傾き始めていた。
 ダモクレスの表情には相変わらず色はなく、その目は虚ろだ。
 エリオットは一瞬だけ、手を止めてそれを見る。
「もし彼が、死神に目をつけられることなく、地球を愛してくれていたなら……いや」
 と、しかしすぐにかぶりを振っていた。
 続くのは、自身に言い聞かせるような言葉。
「やめよう。もう今となっては、過去の話なんだ。僕たちは──無辜の人々を守る己の使命を違えたりはしない」
「……ええ。せめて我々が、安らかな眠りへと導いて差し上げましょう。冷たい雪の中、一人で寂しくないように」
 ラグナシセロがそっと声を継ぐと、皆は頷き、再び攻勢へ。ダモクレスも銃器を構え始めていたが、そこへは素早く静夏が疾駆していた。
「やらせないよー!」
 瞬間、静夏は手甲で打突を打つように、銃口を横に払う。そのまま一回転すると、左肘に煌々とした焔を纏っていた。
「続けて行くよ! 儚い守りを打ち破る、花火の音を響かせよー!」
 その技は、『響夏水月』。急所を的確に狙いながら、守りを打ち砕く肘打ちを繰り出す一撃だった。
 狙いすましたその一打は、爆発音を伴いみぞおちに直撃。ダモクレスを大きく後退させる。
「よーし、今のうちだよ!」
「では、私が」
 そこへ、静夏へ応えたリコリスが接近していた。ここまでの戦闘で、既に敵には弱点が無いことを、リコリスは発見している。
「弱点はなし──ですが、それならそれで戦いようはあるというものですよ」
 振り上げるのは鉄塊剣。そこへ自身の腕が軋むほどの力を篭め、一撃。強力な振り下ろしで、ダモクレスの腕部の一部をひしゃげさせた。
 バランスを崩すダモクレス。だがそれでも、逆の腕で前衛へと射撃を放ってくる。
 しかしヴァジュラは、身に弾丸の雨を浴びつつも、退かず、まっすぐに敵へ迫っていた。
「それでいい──この身の全てに、お前の生きた証を刻もう」
 血が弾け、痛みが体を刺す。その感覚を焼きつけながら、ヴァジュラも正面から全力の一撃。地獄を刃に滾らせた、暴風の如き剣撃を袈裟に叩き込んでいった。
「回復は、僕がさせて頂きますね」
 直後には、ラグナシセロが治癒の力を収束。極寒の星空の如き、虹色の煌めきを生み出して前衛を強化しながら治療している。
 次いで、千宙はそっと目をつむり、星の加護を借りていた。
「照らして……私達の行くべき道を……」
 それは『空を巡る曙光』。古代魔法の占星術として実現されたそれは、瞬く光によって道を指し示すように、仲間の感覚から迷いを取り除く。
 もたらされるのは知覚力の向上。そして傷を消し去る暖かな心地だった。
「これで、回復は問題ないはずです」
 千宙が言うと、それに呼応するように、あおがダモクレスへと接近していっていた。
 構えるのは縛霊手。連撃を狙う敵の攻撃を防ぐように、振り上げている。
(「……」)
 あおは、寂しいという感情を最近理解した。だから自覚はなくても、この敵を見ているとそういう気持ちが生まれていたことだろう。
 それでも、あおは攻撃の手を止めない。自分以外の誰かが傷つくことが、あおにとっては忌むべきことだった。
(「もう、攻撃は、させません、の、です……」)
 瞬間、陽炎をなびかせた拳でダモクレスの銃器を弾き落とす。
 ダモクレスはそれを拾おうとするが、既にその頭上へ、セリアが飛翔してきていた。
「こっちよ。……反応も、遅くなってきたわね」
 刹那、豪速で滑空し、飛び蹴り。ダモクレスの肩を砕きながら、体を地に転がせていた。

●決着
 ダモクレスはゆらゆらと起き上がる。体は深く損傷し、体力の底も見えてきていた。
 エリオットは宙に無数の刀剣を生み、狙いを定めている。
「あと少しですね……その時に、備えましょうか」
「ええ」
 と、応えたリコリスは、周囲に錆びた歯車の塔を顕現させていた。
 それは外道祭文『錆びた真鍮歯車』。造花に覆われた、廃棄物集積場めいた結界を作り出す能力だ。
「──この世全ては廃され棄てられ……唯の一つと成り果てよ!」
 すると結界に囲われたダモクレスは、劣化変質するように、じわじわと体力を削られていく。
 エリオットも刀剣を放ってダメージを加えると、ダモクレスは反撃しようと接近してくる。だが、剣撃を受けた静夏は、裂帛の気合でダメージを吹き飛ばしていた。
「こっちは大丈夫かな。あとの調整は頼んだよー」
「わかったわ」
 声を返したセリアは『Frozen Ray』。凍てつく光線で敵の体を凍結させていく。
 自身の傷を見て、ダモクレスは口を開いた。
「僕は、死ぬんですね」
「赦しは請わないわ。これが私達の役目、そして使命ですもの。……だけれど、ごめんなさい」
 セリアは一度だけそう言った。
 ラグナシセロは最後に小さく聞いた。
「この雪景色は……綺麗ですか?」
「……わかりません」
 ダモクレスはただ、輝きのない瞳で応える。
 そうか、と零すヴァジュラは、彼岸花も咲かせてやれないことを、少しだけ残念に思った。それでも、その腕に篭めるのは全力だ。
「行くぞ」
「支援、します」
 千宙は力を賦活するオーラをヴァジュラに与える。この間に、あおが地平線の音色を奏でて体力を削り取ると、ラグナシセロも蹴撃を放ってダモクレスを瀕死にした。
 そこへ、ヴァジュラは剛烈な威力で、暴風龍焔鎧嵐武を放つ。
 熱く激しい衝撃の渦は、容赦もなく襲来。ダモクレスの命を、因子ごと打ち砕いた。

 戦闘後、皆はヒールで景観を直した。
 ダモクレスは完全に消滅している。人々も戻り、街はもう、日常に帰り始めていた。
 皆も帰還する段となり、それぞれ解散し始めている。
「雪見酒も悪くないかなー」
 と、静夏は楽しげに歩いていく。元々敵に慈悲をかけない性格である分、後腐れもなく、のんびりと去っていった。
 エリオットはしばし、その場にとどまって黙祷した。
「次に生まれてくる時は、どうか、この地球に……」
 叶うかはわからずとも。そう祈らずにはいられなかった。
 ヴァジュラはすぐ近くにあった雑木林へ。そこで、椿の花を見つけた。
 それは赤く、鮮烈なほど美しい花だ。千宙もそれを見て、口を開く。
「赤い椿には控えめな素晴らしさ、気取らない優美さ……と言った花言葉があるそうですね。あのダモクレスは……椿の花を見て何を思ったんでしょうか……?」
「さあ、な。だが……これだ綺麗なんだ。雪が解け、辺り一面草花に覆われた景色を見れば、地球を愛す事も出来たかも知れんな」
 ヴァジュラはそう零した。ただ一つ残った、己に刻まれた傷の痛みだけを感じながら。
 花から視線を外したセリアは、呟く。
「それが、意志を奪われ、捨て駒にされて、使い潰される……ヴァルキュリアの身で言えたことではないのかもしれないけれど……魂や命の在り様として正しいものなのかしらね」
 それから一度首を振り、空を仰ぐ。
「せめて、魂の行く先が静謐たるものであることを祈るわ。……そうでなければ、救いが無さすぎるもの」
 その声もまた、雪空に響いて消えていく。
 冷たい風に、ただ椿の花が揺れていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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