空に消える音律

作者:崎田航輝

 冬の夜。ひとけのない公園で、楽器を奏でるものがいた。
 それは若い1人の青年。爪弾くのは、湾曲した美しい筐体を持つ弦楽器。
 寒風にも似た硬質さと、それでいてどこか暖かな印象も覚える音色を生むそれは、リュートだった。
 流麗な旋律は、寂しげながら、どこか中世の空気も感じさせる。独特の音色が、周りの空気を別の世界に変えてしまうほどの魅力が、その演奏にはあった。
「弾くほどに奥深い。やはり無二の音色だ」
 青年はひとりごちる。その声音には自信と同時に、悲しさも含まれていた。
 才能のある音楽家が全て、正当に評価されるわけではない。実力がありながら無名であることの侘しさは、彼自身が奏でる音楽にもまた、反映されているようだった。
「それでも、もっと実力を高めていけば、いつかは……」
 夢見るように青年が言った、ちょうどその時だった。
「とても素敵な曲ね。そんな音楽を作り出せる貴方には、素晴らしい才能がある」
 不意に、言葉とともに1人の女性があらわれた。
 それは紫の衣装をまとったシャイターン・紫のカリム。
「君はいったい……」
「──だから、人間にしておくのは勿体ないわ」
 青年は口を開こうとする。だがそのときには、カリムが手元から炎を生み出し、青年を燃やし尽くしてしまっていた。
 そして、代わりに出現したのは、エインヘリアルとして生まれ変わった巨躯の体。
「これからは、エインヘリアルとして……私たちの為に尽くしなさい」
 カリムが言うと、青年だったエインヘリアルは、自分の体を確認するように見下ろす。
「……これが、僕の運命か」
 そして、凶器と化したリュートを携え、街へと向かい始めた。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロス達に説明を始めていた。
「本日は、シャイターンのグループによるエインヘリアルの事件について伝えさせていただきますね」
 そのグループ『炎彩使い』は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルにする事ができるようだ。
「エインヘリアルとなった者は、グラビティ・チェインが枯渇している状態みたいです。なので、それを人間から奪おうとして、暴れようとしているということらしいですね」
 エインヘリアルは、既に町中に入っている状態だ。
「急ぎ現場に向かい、そのエインヘリアルの撃破をお願いします」

 状況の詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、エインヘリアル1体。出現場所は、市街地です」
 平素から人の多い一帯であり、当日もそれなりの人の往来がある。
 エインヘリアルはここに現れ、殺戮を始めようとしている状態だという。
 幸いまだ被害者は出ていないので、急行して人々との間に割って入れば、そのまま戦闘に持ち込むことで被害を抑えることが出来るだろう。
「戦闘に入りさえすれば、エインヘリアルも、まずはこちらを脅威と見て排除しにかかってくるはずです」
 そこで撃破すれば、被害はゼロで済むはずだと言った。
 ではエインヘリアルについての詳細を、とイマジネイターは続ける。
「楽器型の武器を使った攻撃をしてくるようですね」
 能力としては、音波による遠列氷攻撃、物理攻撃による近単ブレイク攻撃、音色で耐性を高める自己回復の3つ。
 それぞれの能力に気をつけてください、と言った。
「虐殺を看過するわけにはいきませんから。是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)
アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)
阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)
篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)
アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)
ダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)

■リプレイ

●接敵
 ケルベロス達は夜空の上方、ヘリオンから街を見下ろす。
 市街地の灯りの中、遠目には既に、騒乱の起きかけている人垣が見えてきていた。
「エインヘリアルに変えられてしまった元人間、ですか……」
 結城・レオナルド(弱虫ヘラクレス・e00032)は、その中心にいる1体の巨躯を見下ろし呟く。その手は、微かに震える自分の腕を押さえていた。
 アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)もその敵影を確認し口を開く。
「毎度毎度、シャイターンは本当に余計な事しかしないね」
「うむ、炎をもちて対象を燃やす……炎彩使いと名乗る小娘どもめ、浄化の炎のつもりかの」
 声を継ぐのはダンドロ・バルバリーゴ(冷厳なる鉄鎚・e44180)。敵の裏にいる元凶を思えば、いい感情は湧いてこない。
 事実、それによって1人の人間が変貌してしまったのだ。ただ、それが敵ならば、アビスは戦いを躊躇う気はない。ハッチの縁に足をかけ、夜の風を受けた。
「……とにかく、迷惑だし。さっさとやっちゃおうか」
「そうです、ね。シャイターン一団の足取りはまだまだ、つかめませんが……一つ一つ解決していけば、最後にはたどり着けるはずですから!」
 アニエス・ジケル(銀青仙花・e01341)も、ぐっと自分の拳を握ると、テレビウムのポチと一緒にジャンプ。降下を開始した。
「──まずは目の前のことに全力で、とりかからせてもらいます!」

 市街地に現れたその巨躯、エインヘリアルは、人波の中でリュートを構えていた。
 人々はその姿にざわめき、混乱している。巨躯はそれを気にするでもなく、死の演奏を始めようとしていた。
「ここが、僕の舞台だ。さあ、やろうか……」
「音楽で殺しなんて。悪いパトロンに捕まっちゃったっすね」
 と、その時だ。遮る声とともに、巨躯の足元に鉄塊剣を突き刺した者がいた。
 それは、降下して素早く疾駆してきた、篠・佐久弥(塵塚怪王・e19558)だった。エインヘリアルが反射的に手を止める、その短い間隙に、ケルベロス達皆も駆けつけて、包囲する位置につき始めていた。
 風峰・恵(地球人の刀剣士・e00989)はその途中も人々へと呼びかけている。
「僕達はケルベロスです! この場は僕達が、対処します」
「うん、だからとりあえず離れていて」
 と、アビスも声をかけつつ人を払っていた。同じく、レオナルドも重武装モードの勇壮な姿で剣を掲げている。
「必ず、敵は倒してみせます。だから、慌てずに避難を!」
 それらによって、短時間の内に人波が引き始めていた。
 エインヘリアルはようやく顔を上げて見回している。
「これは……」
 それから、こちらの言葉にはっとしたように視線を降ろす。そこで初めて、事態に気づいたようでもあった。
「ケルベロス、と言ったな。そうか……僕を邪魔しに来たんだね」
「その通りっすよ。……で、此処で止まる心算は?」
 佐久弥が見上げる。するとエインヘリアルは首を振っていた。
「僕にはやるべきことがある」
「そうっすか。なら、止めるっす。……せめて君の戦歌を、憶えておくっすよ」
 そう応えた佐久弥は、まっすぐに手を伸ばしていた。
「俺は佐久弥。捨てられたモノども率いる敗者達の王──再起を誓う廃棄物の王」
 瞬間、手に握られていたのは歯車、飾り物、リボン。それらに宿るダモクレスの残留思念へと呼びかけを始めていたのだ。
「同胞よ――いまひとたび現世に出で、愛憎抱くトモを守ろう。ヒトに愛され、捨てられ、憎み、それでもなおヒトを愛する我が同胞達よ――!」
 行使するその力は、『付喪神百鬼夜行・行進』。鎧武者、看護婦、機械少女の思念体が現世に顕れてくると、淡い光を仲間に宿して、グラビティの能力を飛躍的に高めていく。
 この間、避難誘導を終えていた阿守・真尋(アンビギュアス・e03410)も、手元にグラビティを収束させていた。
「私もまずは、態勢を整えさせてもらうわね」
 そのまま拡散するのは虹色の光。燦々と注ぐような輝きが後衛をまとうと、それによって力が増幅されていく。
 同時、眩いまでの蒼い光を放つのは、レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)だ。
「解放――! 護り、燃やせ!」
 それは『蒼炎の加護』。蒼い地獄を籠めた水晶石から炎を開放し、アニエスへ付与。保護するように周囲を滞空させ、破邪の力を与えていた。
「さあ、攻撃は、頼みますね」
「わかりましたっ!」
 応えたアニエスは巨躯に走り込んで飛び蹴り。勢いをつけた一撃で、鎧を軋ませる。
 エインヘリアルはリュートを振り回してきた。が、それはアビスが防御態勢を取って威力を軽減し、直後に自身で紙兵を撒いて回復。連続してダンドロも治癒のオーラを与え、アビスの浅い傷は完治していた。
 この間隙に、恵は敵へ疾駆し日本刀を抜いていた。
「反撃といきましょう」
 刹那、日本刀・煌翼で卓越した剣戟を加え、傷口を凍結させていく。
 後退した巨躯へ、レオナルドも接近。震える足で、自らを奮い立たせるように地を蹴り、一撃。燃ゆる地獄を宿した刃で斬撃を繰り出し、巨体に膝をつかせていた。

●闘争
 エインヘリアルは顔をしかめながら、立ち上がる。
 その視線は、無人となった周囲に向いていた。
「僕の演奏を聴く人がいなくなったか……せっかく、選ばれたっていうのに」
「選ばれた、とはのう」
 と、ダンドロは顎に手を当てるように声を返す。
「若くして才に溢れる人間が神々に気に入られるというのは、西洋神話でよく見る話だが……デウスエクスに気に入られる、というのは果たしてどうなのかの?」
「同じことだろう。選ばれたには違いないんだ」
 エインヘリアルが言うと、ダンドロは少し肩をすくめる。
「そうかもしれんの。どちらも結局は若死にしてしまうのだからな──まったく、平々凡々な才の我は幸せなことよ」
「……僕が死ぬと言いたいのか?」
 巨躯は俄に怒りを浮かべる。
 レオナルドは退かず、刃を構えていた。
「貴方に罪は無いのかも知れませんが。ここで人々を傷付けさせるわけには、いきませんから」
「うん、生まれ変わったばかりで悪いけど、ここでお前は終わりだよ」
 アビスも言い放つと、エインヘリアルは激昂するように走り込んでくる。
「終わるものか。邪魔をするなら、殺すだけだ……!」
「──演奏者から殺人者へ、ですか」
 静かに口を開く恵は、既に巨躯へと接近。煌翼に氷の霊力を帯びさせ、神速の斬撃を放っていた。
「その心情は分かりませんが、凶行をなすなら、こちらも止めるだけ。凍れる刃の一撃、受けて頂きます」
 瞬間、『雪華衝』による一刀が巨躯の足元を凍結させる。
 レオナルドもまっすぐに疾駆すると、連撃。ゼロ距離で短刀を奔らせて鮮血を散らせていた。
「続けて攻撃を……!」
「ええ。ダジリタ、行くわよ」
 声を返した真尋は、ライドキャリバーのダジリタへと声をかけている。
 するとダジリタは返事代わりの駆動音を上げ、豪速で疾走。炎を纏った体当たりをかましていった。
 真尋はその後ろから、短く歌唱。メロディに冷気を含ませて、エインヘリアルに飛ばすことで傷を刻んでいた。
 エインヘリアルは唸りを漏らしつつも、リュートを弾いて前衛へ音波を放ってくる。
 が、そこへはダンドロが素早く花のオーラを顕現し、回復。
 同時に、アビスも腕輪型縛霊手“abs-blizzard”から霊力を展開。防御を一層固めつつ、傷を癒やしきっていた。
「……その程度の攻撃、効かないね。そもそも、対策も万全だし」
「く……」
 呻くエインヘリアルは、今度は物理攻撃を狙い、こちらの横合いを取ろうとしてくる。
 が、それよりも素早い速度で、蒼い燐光が閃いていた。
「好き勝手に動き回らせませんよ」
 それは地獄の翼を噴き上げ、高速で迫るレクシア。距離が詰まった段階でエアシューズの滑走に切り替え、敵に捉えさせぬ速度で旋回していた。
「遅いですよ」
 レクシアは、振り返ってくるエインヘリアルへ体を翻し一撃。苛烈な蹴りで鎧にひびを生んでいた。
「ポチくん、こちらもいきましょうっ!」
 次いで、アニエスも巨体の眼下に迫っている。
 ポチも勿論、声に応えて追従。ぴょんと跳んで巨躯の眼前に迫ると、傘をぶん回して一撃、痛烈な殴打を加えている。
 そこへアニエスも、畳み掛けるような爪撃。クリーンヒットを与え、巨躯を派手に転倒させていた。

●音
「流石に……ケルベロスは、強いな」
 よろめきながら起きるエインヘリアル。顔を苦悶に歪めながらも、楽器から手を放してはいなかった。
「でも、まだ諦めないよ……この音で、まだ誰も、殺せていないんだ」
「殺し、だなんて。……その音は。誰かを楽しませる、誰かの心を動かすためのものだったはず」
 レオナルドは一歩、歩み寄る。
 敵への恐怖の感情にも構わず、声を上げていた。
「決して、誰かを傷付けるためのものではないだろ!」
「君に何がわかる! ……誰も傷つけない音楽は、誰の耳にも届かなかったよ。わかるか、その侘しさが」
 エインヘリアルが言うと、ダンドロは一度だけ目を伏せる。
「才ある者が正当に評価されぬ……か。汝の気持ちは解らぬでもない」
 その声音には同情を含みつつも、しかし戦意は欠片も失われていない。
「だが、我らにはこれ以外に手立てはない」
「ええ。あなたのリュートを聴く事もあったかもしれない人々が、そのリュートで傷つけられてしまうのは、余りに悲しい。──だからこそ、人々を襲わせるわけにはいきません」
 毅然と言ったレクシアは、光の軌跡を描きながら高速で飛翔。頭上を取ると、宙返りして熾烈な蹴り落としを叩き込んだ。
 よろめくエインヘリアルへ、レオナルドは『獣王無刃』。居合いの構えから、視認できぬほどの速度の剣閃を奔らせ、胸部を深々と切り裂いていく。
 エインヘリアルは慟哭を上げるように、激しくリュートを鳴らす。だが、前衛を襲ったダメージは、ダンドロが治癒の花嵐で回復。
 さらに、真尋の楚々とした声も響き渡っていた。
「音で害を為そうとするなら、歌を以て、対抗させてもらうまでよ」
 紡ぐ歌は、『Farbenlehre』。夜に溶けるが如き歌声は、青いオーラを生んでレオナルドを癒やしていく。
 次いで、アビスは手を伸ばし、六角形の氷の盾を宙に展開していた。
 その力は、『氷盾結界・多重障壁』。幾重にも重なる氷が、恵を包むように治癒の力を生み、その体力を持ち直させた。
「回復は、これで大丈夫かな。コキュートスは攻撃を頼むよ」
 アビスのその声には、ボクスドラゴンのコキュートスが呼応して飛来。氷のブレスを吹きかけ、巨躯の全身に傷を刻んでいった。
「じゃ、俺も反撃に移るっすかね」
 と、敵へ向くのは佐久弥。接近してくるエインヘリアルに怯むでもなく、足で強く地面を踏みつけている。
「悪いけど、こっちのほうが先っすよ」
 瞬間、巨躯が距離を詰める前に、その足元からマグマが噴出。強大な熱が襲いかかり、全身に大きなダメージを与えていた。
「さあ、僕らも続きましょう」
「はいっ!」
 エインヘリアルが呻く間に、恵とアニエスも攻勢へ移っている。
 巨躯もマグマを振り払ってリュートを振り上げてくるが、その頃には既に、アニエスがゼロ距離に迫り一撃。オウガメタルを纏った拳で巨躯の鎧を粉砕していた。
「ピコピコ」
 と、同時にポチも画面をフラッシュさせて敵の意識を撹乱。
 そこへ踏み込んだ恵は、煌翼に眩い雷光を宿らせていた。
「全力で、行きますよ」
 刹那、神速の刺突。雷が襲ったかのような一刀は、腹部を貫通し、巨体を衝撃で吹っ飛ばしていた。

●決着
 倒れ込んだエインヘリアルは、突っ伏しながら血を吐いていた。それでも、歯噛みをしながら弦を鳴らし、自己回復する。
「死んで、たまるか……死ぬのは、僕を認めなかった、奴らだ……」
「いいえ、そんなこと、絶対にさせません!」
 すると、そこへアニエスが肉迫。竜爪にグラビティを込めて一打を加え、敵の防護を破壊していく。
 同時、真尋もオウガメタル“游ぐ真昼”に、宵に光る月光の如きグラビティを集中。鋭い打突を喰らわせて、敵の守りを打ち砕いた。
「このまま、畳み掛けて行きましょう」
「うむ。ではわたしも、いくとするかの」
 応えたダンドロは【断金】。喰霊刀ですくい上げるような斬撃を叩き込み、巨躯を宙へと煽った。
「よし、今のうちだ」
「ええ」
 恵はそこに跳躍して、一閃。弧を描く剣戟を打ち、エインヘリアルを地に叩きつけた。
 エインヘリアルはそれでも、がむしゃらに起き上がってくる。が、佐久弥が接近し、鉄塊剣“以津真天”で一撃。関節部へ痛烈な斬打を喰らわせていた。
「隙だらけっすね? まさかそれで終りっすか?」
「誰が……」
 エインヘリアルはふらつきながらも、怒りを露わにリュートを振り回す。だが佐久弥はそれをことごとく回避し、間合いを取っていた。
 そのタイミングで、滑空するレクシアが肉迫。エアシューズで地面に火花を散らせながら豪速で距離を詰め、オーラを込めた拳で巨躯を転倒させた。
「おそらく、あと少しです」
「うん。いい加減騒音を聞いてるのも飽きたし……消えなよ」
 声を継ぐアビスは、その上方へ飛び上がり、一気に降下しながら踵落とし。強力な打撃でエインヘリアルを瀕死に追い込んだ。
 そこへ、レオナルドは納刀状態の刀を、風の如き速度で抜刀している。
「これで、終わりだ。いくぞ!」
 刹那、その剣閃は巨躯を両断。衝撃波でその体を千々に散らせていった。

 戦闘後、皆は周囲のヒールを始めていた。
「さあ、みんなよろしくっすよ」
 と、佐久弥は再び付喪神百鬼夜行を行使して、機械少女や鎧武者の思念体を喚び出して道々を修復していく。
 ダンドロも壁にヒールをかけ修理。傷ついた範囲も少なく、それで景観はほぼ綺麗になっていた。
「こんなものかの」
 皆は頷いて、作業を終える。
 レクシアはその中で、敵が散った跡に落ちていたリュートを拾っていた。
「残ったのはこれだけ、ですか」
 呟くと、それにヒールをかけて綺麗にする。せめてこれだけでも、青年の家族に届けてあげようと思ったのだ。
 ダンドロは、少しだけ憐憫を含ませてそれを見ていた。
「もし生まれ変わりというものがこの世に存在するのなら……今度は不遇ではない生を送ってもらいたいものだ」
「そうね。……それにしても。紫のカリム、ね」
 真尋はその名を呟く。
 人としての命を奪い、音楽を奪った元凶。その存在に、真尋は、静かな表情の中に微かに怒りにも似た感情を滲ませた。
「いつか、戦えるといいわね」
 その言葉に、皆も静かに頷く。
 人々が街に戻ってくると、一帯は活気と喜びの声に満ち始めていた。そこにはもう、破壊の音楽も、そして寂しい音色も、存在しなかった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月12日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 1
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