月光夜城

■リプレイ

●対敵
　山中、深い木々を抜けた先に、その古城跡はあった。
　崩れた石垣に、広間の跡。元は高貴な場所でもあったことが窺える風景だ。
「結構、形が残ってるんだねー」
　写譜麗春・在宅聖生救世主（誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309）は、構造を調べるように見回している。表情はマイペースながら、戦いに臨み、しかと検分をしていた。
　皆も頷き、内部へ。青年がいる場所には近づかず、且つ敵を待ち伏せできる広間跡へ入った。
　草間・影士（焔拳・e05971）はそこに灯りを設置し、視界も確保する。
「これで、不便はないだろう」
「ん、あとは、敵を探すの」
　フォン・エンペリウス（生粋の動物好き・e07703）の言葉を機に、皆は本格的に捜索に移った。
「それにしても、良い月ですね。こんな夜に戦いなんて無粋、でしょうか」
　と、ジェミ・ニア（星喰・e23256）は警戒をしつつも、ふと崩れた天上から夜空を仰いだ。
　山中から見る月は眩く、一層美しい。
「冬は空気が澄んでいるから、月や星を見るのに適している気がします。本当に、良い夜なのに……」
「──それでも、月夜の剣戟も一興だと思いますよ？」
　そう言ったのは、アリシア・クローウェル（首狩りヴォーパルバニー・e33909）。その視線は、暗い回廊跡に向いていた。
　その奥に見えるのは、剣を携えた人影。西洋剣術使いの、ドリームイーターだった。
　皆は頷き合うと、敢えて深追いせず、待ち伏せする。
　そうして、その影が広間に近づいたところで、囲うように立ちはだかっていた。
　最初に声をかけたのはジェミだ。
「こんな所に西洋剣士とは珍しいですね」
『……何者だ？』
　ドリームイーターは、警戒を浮かべるように見回す。
　それに答えたのは影士だった。
「腕を試したいのだろう。その相手になってやる、と言えばわかるか」
『ほう。戦いを望むものか』
　ドリームイーターが眉を動かして反応を見せる。
　それに頷くのは、ディディエ・ジケル（緋の誓約・e00121）だ。
「……ああ、武術というなら、我々ケルベロスにも少々の覚えがある。興味を引く程度の力は、見せてやれるだろう」
　言うと、体から魔力を揺らめかせるように、戦意を示して見せていた。
　ドリームイーターは成る程、と頷く。
『只者ではない、というわけか』
「ええ」
　と、白羽・佐楡葉（紅棘シャーデンフロイデ・e00912）は楚々と、刀を鞘走らせていた。
「刀の扱いも、門前の小僧程度には出来ます」
「そーそー。それに、街に降りてその剣ブン回したってどうせ、アンタのワンサイドゲームだぜ？」
　頭の腕で手を組みつつ、声を継ぐのは巽・真紀（竜巻ダンサー・e02677）。
　乱雑な口調の中に、好戦的な色を含ませていた。
「なら、まずオレらに付き合ってけよ。仕事始めで気合も入ってるケルベロス八人揃えさ──ホットなステージ、間違いなしだぜ？」
『……面白い。ならば一戦、願おうか！』
　ドリームイーターは、応じるように剣を構えると、一気に走り込んできた。
　が、アリシアはそこへ、既に大槌を向けている。
「いいですよ、存分にやりましょう。──お代にその首を貰いますけどね」
　瞬間、豪速の砲撃を放っていた。
　卓越した狙いの一弾は、回避を試みた相手にも確かに命中し、その動きを鈍らせている。
　この間に、真紀はオウガ粒子を拡散。前衛の知覚力を劇的に高めていくと、在宅聖生救世主も眩い光を生み出していた。
「それじゃあ、私も。──天には輝く月、地には嘗ての夢の跡……今、此処を我等の拠点とする！　ガルド流拠点防衛術、魅せてあげるんだよー！」
　その力は、『ガルド流拠点防衛術・闇祓う睛晄』。
　輝くのは、星々の如き光だ。
「希望-ヒカリ-を此処に。千の耳は大気を濯ぐ。未来-ヒカリ-を此処に。万の眼は星を謳う。燦然世界を胸に、我等の想いは必ず無限に届く──」
　詩を詠むとその光は仲間へ注ぎ、一層感覚を鋭くしていった。
　敵も素早く剣を振るってきたが、それはジェミが防御態勢で受けきり、直後にオーラを纏って自己回復。
　一瞬の隙に、影士が気の塊を撃って反撃すると、ディディエも赤い魔法紋章を輝かせ、強烈な火力の炎弾で連撃。そこへ佐楡葉も頭上からの蹴りを畳み掛け、確実に傷を与えていた。
　ドリームイーターも反撃を狙う。が、そこへフォンが森王弓「エルク」を構え、一撃。
「ん、やらせないのっ」
　瞬間、魔力で煌めく矢が足元を鋭く掠め、ドリームイーターに膝をつかせていた。

●剣戟
　ドリームイーターは傷を押さえつつも、好戦的な面持ちで立ち上がっていた。
『確かに、かなりの使い手のようだな』
　その声音に滲むのは喜色。楽しささえ浮かべるように、剣を構え直している。
『ならばこちらも本気。最強の西洋剣術を見せてやる』
「西洋剣術──こうして見ると、創作で語られる力押しというイメージと違い、かなり高度な技術も備えているようですね」
　佐楡葉が先の剣戟を想起しつつ声を零すと、フォンも小さく頷く。
「ん、たしかに強いの……」
　だが同時に、大槌を掲げて声に力を込めてもいた。
「……でも、絶対に負けないの！」
「ええ──存分に勉強させてもらいますよ」
　佐楡葉も言うと、接近して『Rozen Schlitzer』。赤薔薇を触媒として魔力を流し、非物質の長剣を形成していた。
　透き通った緋色の刃は、剣撃とともに幻影の赤薔薇を舞わせ、無数の斬撃を与えていく。
　フォンも走り込んで大槌で一打を叩きこむと、真紀もそこへ、躍り出るように疾駆していた。
「──オーライ、踊るぜ」
　リズムを取るようなステップから、まるでポールダンサーの如く、ライフルへ絡む。
「オレのダンス、見てけよ！」
　舞うような動きは淀みなく、流れるよう。そのまま素早くレーザーを発射し、ダンサブルに輝く光の奔流を撃ち当てていた。
　たたらを踏みつつも、ドリームイーターは反撃に刺突を放つ。が、その一撃はディディエが盾となって庇い受けていた。
「……成る程。……中々に、血が逸る」
　耐えきったディディエは、怯まず逆に、バトルオーラ“ヴェルミリオン・オラ”を朱に輝かせる。
　瞬間、放つのは蹴りの連打。魔術師ながら肉弾戦にも長けるその膂力は強烈。ドリームイーターを吹っ飛ばすように後退させた。
　直後には、在宅聖生救世主が守護星座の力を降ろして前衛を癒やしている。
「これで多少は、回復したかなー」
「ん、それなら、クルルも手伝うの」
　次いで、フォンの声に呼応してボクスドラゴンのクルルが飛翔。氷の輝くような光を注ぎ、ディディエを癒やしきっていた。
　ジェミはこの間も、敵の動きを冷静に観察している。
「しかし、大剣使いのわりに動きが速いですね……」
「ええ。所作に、踏み込み──やはり強さの根源は脚にあると見ました！」
　答えを得るように言ったアリシアは、俊足を活かすように、既に敵の眼前へ迫っていた。
「なら──その脚を封じてしまえば造作もないこと！」
　そのまま、低く跳躍して一撃。足元を痛烈に蹴り払っている。
　よろめきつつも、ドリームイーターは退かず攻めてこようする。が、そこへジェミが御業を解放していた。
「それで倒れないなら……これでどうです！」
　豪速で飛来した御業は、ドリームイーターへ巻き付くように動きを抑制。
「さあ、今ですっ」
「ああ」
　と、応えた影士は、そこへ疾駆。『天ノ羽薙』を繰り出していた。
「こちらも腕試しだ。先ずは、喰らってもらおう」
　瞬間、炎弾を放って命中させると、疾駆して距離を詰め、ドリームイーターを叩き上げる。
　同時に自らも跳んで宙で並ぶと、蹴り、打突、炎の連撃。衝撃は嵐のようにドリームイーターを襲い、地へと叩きつけていた。

●闘争
　倒れ込んだドリームイーターは、呻きながら起き上がる。
　剣を支えにしつつも、その表情には驚愕も滲んでいた。
『信じがたい……この最強の戦闘術をもってして、苦戦するとは……』
「……言ったろう、腕に覚えがあると。言葉通りに、なっただけだ」
　ディディエが言うと、ドリームイーターは歯噛みするように走り込んでくる。
『まだ、勝敗は決していない……！』
　そのまま、剣を振り上げてきた。が、佐楡葉は視線と刀の切っ先を使い、その方向を誘導。相手の攻撃、そして防御までもを縫い、ゼロ距離に迫った。
「始めて試しましたが、便利かも知れませんねこれ。リールスラストっていうんですっけ？　──それの応用ですけど」
　瞬間、回転と同時に胴部に強烈な蹴りを打つ。
　ふらついたドリームイーターに、アリシアも低い姿勢で迫っていた。敵は下がろうとするが、動きの鈍った体で、それは叶わない。
「傷の蓄積の作用が、如実に現れてきましたね。無駄な回避は、大きな隙になりますよ！」
　刹那、無防備になった敵へ、すくい上げるような剣撃。弧を描く剣閃で、深い裂傷を刻み込んでいた。
「さあどんどん畳み掛けてください！」
「ああ、見せてやるさ。オレの得意技をな」
　応えた真紀は、ヘッドスピンの状態で蹴撃。ドリームイーターの守りが崩れたところで側転するように姿勢を戻し、回転力を保ったまま、手首下のパイルバンカーを懐へ打ち込んでいた。
『がっ……！』
　血を吐き、声を漏らすドリームイーター。だが、倒れず持ちこたえると、剣を広く振るってきた。
　それは前衛を薙ぎ払う強力な攻撃。しかし、そこにディディエが、黒翼から光を生み出していた。
「待っていろ。今、回復する」
　幽玄な煌めきは、治癒の輝き。溶け込むように前衛の傷を癒やしていく。
　同時、在宅聖生救世主も剣を掲げ、星々の光を発散。前衛を万全な状態へ保っていた。
「これで回復は大丈夫そうだよー」
「ん、なら、反撃するの」
　声を返すフォンは、素早い動きで敵の背後へ回る。同時、跳躍しながら肉迫し、後背に飛び蹴りを叩き込んでいた。
「ん、次の攻撃、お願いするのっ」
「任せろ。全霊の一撃を、打ち込んでやる」
　フォンに言ったのは、影士。手を突き出し、眩く濃密なオーラを収束させていた。
　ドリームイーターは防御を試みるが、影士が放ったそれは、巨大な光となって襲来。防御も崩す程の衝撃で、ドリームイーターを宙へ煽った。
『く……！』
「させませんよ」
　空中で体勢を直そうとするドリームイーター。そこへ、ジェミは『Devour』を発現していた。
　それは、自身の影から生み出した、漆黒の矢。尾を引いて飛び出したそれは、正確にドリームイーターへと飛来し、命中。
　四肢を貫きながら重い衝撃を与え、ドリームイーターを地に落としていた。

●決着
　血溜まりの中で、ドリームイーターは立ち上がる。
『俺は認めぬぞ、負けるなど……』
　全身傷だらけながら、退く様子は見せず。ただまっすぐに攻めこんできていた。
「勝負がつくまでやれば、わかるコトだろ？　四の五の言わずにやろうぜ」
　そう言葉を返した真紀は、弧状の軌道でステップ。敵の横合いから連続の銃撃を与えていく。
　同時、フォンはクルルに呼びかけていた。
「ん……クルル、蒼いのいくよ！」
　すると、クルルは蒼い炎を吐く。フォンはそれを両手に宿し、蒼き拳による光速の連撃を放っていた。その攻撃、『狐竜の蒼炎連華』は熾烈に、敵の体を穿っていく。
　連続して、ディディエは『天妖君主』を行使していた。
「……現し世へと至れ、妖精王よ。汝の軌跡を、此処へ」
　それは妖精王の物語を諳んじることにより、音のひとつひとつに魔術的な攻撃性を与える力。
　放たれた魔音は、飛びかかるように襲撃。敵の体を貫き、鮮血を散らせていく。
　呻きながらも、ドリームイーターは斬撃を放ってきた。が、ジェミはバトルオーラ“茨姫よ永久に眠れ”を体に絡みつかせるように展開し、それで受け切るように衝撃を軽減。
　直後には自身で気力を高めることで傷を癒やしきっていた。
「あとの攻撃は、お願いしますね」
「じゃあ、私も攻めに回るよー」
　そう返したのは在宅聖生救世主。崩れた天上の影から滑空してくると、敵が反応する暇もなく、豪速の飛び蹴りを加えていた。
　ドリームイーターは苦悶を漏らしながらも、剣を振るうしかない。
『この剣術が、負けるはずがないのだ……！』
「……鍛えられた刺突、斬撃。攻防一体と言う風情。確かに弱くはない──が」
　と、影士はそれを避けながら声を返す。
「時には。ただ、無心に放つ拳が、力を持つ事もある」
　そして自分には、守りを託せる仲間がいる、と。
　攻撃の構えを取った影士は、再度天ノ羽薙の連撃で敵を転倒させる。
『ぐぅ……』
　倒れたドリームイーターは、月の逆光で輪郭を光らせる、アリシアの顔を見た。
「いい月夜ですね。首を狩るには最適な夜でした」
　アリシアは見下ろし、『重』。斬撃を重ねる技で、敵を刻んでいった。
「斬ったという事実を重ねる。故に重。その首、頂きますよ」
「ええ、これで終りです」
　同時、佐楡葉も緋色の刃で一閃。舞い散る薔薇の幻とともに、その夢の存在を両断、消滅させた。

「終わったの。みんな、おつかれさまなの」
　戦闘後。フォンが振り返って言うと、アリシアは剣を収めつつ頷いていた。
「完全勝利、というやつですね！」
「うんうん、やっぱり夜中なら普段から起きてるから楽だねー。……これが早朝とかだったら寝坊でサボってたかもしれない、自宅警備員的に」
　在宅聖生救世主はそんな風に零しつつ、自身も武器を収めていた。
　それから皆は、場所を移動。青年の元へ赴き、介抱した。
「大丈夫ですか？」
　横たわっていたところをジェミが助け起こすと、青年はすぐに目を覚ます。始めは朦朧としていたようだが、その意識もすぐにはっきりとして、自力で立てるようになっていた。
　ディディエは青年の体の具合を確認しつつ頷く。
「……怪我は、ないようだな」
「ま、これで一件落着ってトコか」
　真紀も、一応青年にヒールをかけつつ、息をつくように言っていた。
　青年は、ありがとうございました、と深く頭を下げる。ジェミは気遣うように言った。
「ここは冷えますし、大事を取って暖かい場所へ移動したほうがいいかもしれません」
　すると、それにも青年は頷き、まずは帰ろうと思います、と言って歩み出していた。
　最後にもう一度礼を言って帰っていく青年。それを見送りつつ、影士はふと口を開く。
「強い剣だったな。中々いい経験だった」
「西洋剣術も、面白いですね。最近ではヘヴィファイトなんて競技が知られつつありますし、もっと広まるかも知れませんね」
　佐楡葉も応えつつ、頷いていた。
　帰りしな、ジェミは振り返って風景を見る。
「風情があって、いいですね」
　静謐の中で見ると、荒城の月は一層美しい。ジェミは暫しそれを眺めてから、帰路についていくのだった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2018年1月6日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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