氷壊する世界

作者:崎田航輝

 雪深い冬の川辺。
 零下の夜にはひとけもないが、そこで1人、美しい音色を作り出している青年がいた。
 奏でるのは、マレット状の棒で板を叩く木琴にも似た楽器。しかしその実、楽器に色はなく、どこまでも透き通った透明の筐体をしていた。
 それは、氷の塊。板状の氷を並べ、まるで鍵盤のように配置した、氷楽器である。
 外気に晒すことで溶け出してしまう氷楽器は、日本の気候では形の維持も難しい。それでも青年は、極寒の一時期だけこの芸術品とも呼べる楽器を作り、1人で弾くのが好きだった。
「朝方になれば、これも溶けてしまうだろうな……」
 それでも、青年は一瞬の煌めきを音に残そうと演奏を続けていた。
 と、その時だった。
「とても素敵な音ね。そんな音を作り出せる貴方には、とても素晴らしい才能がある」
 不意に、言葉とともに1人の女性があらわれた。
 それは紫の衣装をまとったシャイターン・紫のカリム。
「君はいったい……」
「──だから、人間にしておくのは勿体ないわ」
 青年は口を開こうとする。だがそのときには、カリムが手元から炎を生み出し、青年を燃やし尽くしてしまっていた。
 そして、代わりに出現したのは、エインヘリアルとして生まれ変わった巨躯の体。
「これからは、エインヘリアルとして……私たちの為に尽くしなさい」
 カリムが言うと、青年だったエインヘリアルは、従順な頷きを返す。
 そして、氷の如き透き通った剣を携え、街へと向かい始めた。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロス達に説明を始めていた。
「本日は、シャイターンのグループによるエインヘリアルの事件について伝えさせていただきますね」
 そのグループ『炎彩使い』は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルにする事ができるようだ。
「エインヘリアルとなった者は、グラビティ・チェインが枯渇している状態みたいです。なので、それを人間から奪おうとして、暴れようとしているということらしいですね」
 エインヘリアルは、既に町中に入っている状態だ。
「急ぎ現場に向かい、そのエインヘリアルの撃破をお願いします」

 状況の詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、エインヘリアル1体。出現場所は、市街地です」
 雪も降っているが、街の中心部であるために、人通りの多い一帯だ。
 エインヘリアルはここに現れ、殺戮を始めようとしている状態だという。
 幸いまだ被害者は出ていないので、急行して人々との間に割って入れば、そのまま戦闘に持ち込むことで被害を抑えることが出来るだろう。
「戦闘に入りさえすれば、エインヘリアルも、まずはこちらを脅威と見て排除しにかかってくるはずです」
 そこで撃破すれば、被害はゼロで済むはずだと言った。
 ではエインヘリアルについての詳細を、とイマジネイターは続ける。
「氷のような剣を使った攻撃をしてくるようですね」
 能力としては、氷波による遠列氷攻撃、物理攻撃による近単ブレイク攻撃、音色で耐性を高める自己回復の3つ。
 それぞれの能力に気をつけてください、と言った。
「多くの命がかかった作戦でもありますので……是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)
ジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)
八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)
ユーディアリア・ローズナイト(宝石の戦乙女・e24651)
ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)
トパジア・ランヴォイア(療源の黄玉・e34314)
クラリス・レミントン(奇々快々・e35454)
ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)

■リプレイ

●対敵
 ケルベロス達は夜の街を疾駆している。
 ビル群を縫っていけば、既に遠目に、騒乱の起きかけている人垣が見えてきていた。
「ったく、新年早々面倒事持ってきてんじゃあねーよ……!」
 ジョーイ・ガーシュイン(地球人の鎧装騎兵・e00706)は言い捨てながらも、まっすぐに視線をやっている。
 その先、人波の中心にいる1体の巨躯の姿が確認できたからだ。ジョーイはそれを見て声を零す。
「しっかし、シャイターンが一般人をエインヘリアルに変えてんのかよ……!?」
「元は、素敵な音楽を奏でる人だったんですよね? 演奏、聞いてみたかったですけど……」
 ユーディアリア・ローズナイト(宝石の戦乙女・e24651)もその巨躯を見据えていた。
 それは鎧兜のエインヘリアル。氷の剣を持つその姿は、既に人の面影は薄かった。
「独奏の末路……というのかね。その感覚も、あるいは重圧も、初めから独りだたワタシには分からないけれど──」
 ふと口を開くジン・シュオ(暗箭小娘・e03287)は、冷たい無表情。
 その中に垣間見えるのは、暗殺者としての鋭い目線だ。
「──堕ちるなら、狩るだけよ」
「ええ、ともかく一般人への被害だけは、あってはいけませんからね」
 応えるのは、ラーヴァ・バケット(地獄入り鎧・e33869)。
 兜から地獄を靡かせながら、まっすぐに目指すのは、倒すべき敵の姿だ。
「まずは、急ぎましょうか」

 道に現れたエインヘリアルは、人々へと剣を振り上げている。
 そこに躊躇いの色はなく。今まさに殺戮を開始しようとしているところだった。
「お待ちなさい!」
 と、丁度その時だ。ケルベロスたちが駆けつけ、ラーヴァの割り込みヴォイスが巨躯の耳を打っていた。
 エインヘリアルが反射的に振り返ると、真っ先に駆け込んでくるのは、ジョーイの姿。
「新年早々ご苦労なこった! まずはこれでも……喰らっとけ!」
 跳んだジョーイは、冥刀「魅剣働衡」を振り上げ、『鬼神の一太刀』。大振りに振るった斬撃で、エインヘリアルの肩口を切り裂いていた。
 着地したジョーイはぼやくように見上げる。
「どうだよ。クッソ面倒くせェんだから、年明け3日位は休んどけっての!」
「……君達は……?」
 痛みで数歩下がる巨躯は、此方に視線をやってくる。
 そこに、ジンが殺界を広げて立ちはだかっていた。
「番犬ね。仕事の時間よ……苦痛はないしてあげるね」
「ケルベロス……。そうか。僕の獲物を逃すつもりか」
 ようやく気づいたように、エインヘリアルは周囲を見回す。
 と、その視界に飛び込んでくるものがある。それは地を蹴って跳んでいた、ユリス・ミルククォーツ(蛍狩りの魄・e37164)。
「あなたの相手は、こちらですよ!」
 そのまま、宙でくるりと回転して、回し蹴り。巨躯の顔面に狙いすました一撃を入れると、着地して包囲陣を敷いていた。
 この間に、クラリス・レミントン(奇々快々・e35454)も殺界を広げ、人々を誘導している。
「ひとまず、逃げていて。ここは私達が何とかするから」
「ええ、必ず、敵は倒してみせますから! 冷静に、慌てずに避難してください!」
 さらに、トパジア・ランヴォイア(療源の黄玉・e34314)も広く市民に呼びかけつつ、包囲陣に加わる。それによって、敵の動きを制しつつも、素早く人々を退避させ始めていた。
「まずは態勢、整えるよ」
 時を同じく、ジンは自身の分身体を作り守備を固めている。
 同時、クラリスはグラビティで己の感覚を増幅し、破邪の力を武器に宿す。さらにラーヴァは水瓶座の加護を後衛に降ろし、トパジアもオウガ粒子を一帯に煌めかせて仲間の知覚力を増大させていた。
 ユーディアリアもグラビティを集中すると、虹色に発破する眩い光を展開。前衛の力を底上げしている。
「これで準備万端です。攻撃は任せますよっ!」
「ええ」
 声を返してエインヘリアルへ肉迫するのは、八神・鎮紅(紫閃月華・e22875)。日本刀・緋鴉を抜き放つと、下段に刀身を構えていた。
「――断ち切るッ!」
 想起するのは、1人の親友の姿。
 それに倣うように繰り出した鋭い一閃は、すくい上げるような弧を描き、直撃。巨躯の全身に傷を与えながら、血を散らせていた。

●剣戟
 エインヘリアルは膝をつく。その頃にはもう、一帯は無人となっていた。
 ユリスは夜目を駆使して、逃げ遅れがいないことを確認する。
「これであとは、たたかうだけですね!」
「いつのまに……。いや、流石ケルベロス、という感じか」
 エインヘリアルは一度憮然としつつも、すぐに首を振って向き直っていた。
 構えるのは氷の刃だ。
「それなら君ら相手にやるだけだ。氷楽器とはいかないが、これで良い音色を奏でるさ」
「むしろ私は、氷楽器の方に興味があったのですがねえ」
 と、ラーヴァは兜の顎を撫でてみせていた。
「きっと他者を癒せるような音色でしたでしょうに──残念ですねえ」
「……遠い過去だよ。今はこの刃で、もっと良い音色を響かせればいい」
 巨躯は反抗するように剣を掲げる。
 だが鎮紅は、小さく首を振っていた。両手に取るのは、ユーフォリアの銘を持つ深紅のダガーナイフ。
「いいえ。これから奏でるのは、そんな美しさからは程遠い、ただ命を削るだけの雑音です」
 言葉と同時、袴をはためかせて疾駆。
 二刀に魔力を流し、深紅の光刃を形成していた。
「――だから、早々に終わらせましょう。其の全てを、此処で断ち切ります」
 その力は、『斬華・千紫万紅』。閃く連続の剣撃を放ち巨体の全身に傷を刻みつけていた。
 連続して、ラーヴァは脚付き弓“Bow with Flame & Infinity”から光を射出し、巨躯の足元を凍らせる。そこへ、ジョーイも踏み込んで、冥刀で一閃。水平方向に円月を描く斬撃で、巨体の腹部を切り開いていた。
「油断していると、このまま真っ二つだぜ!」
「……やられるものか」
 エインヘリアルは歯噛みするように、ジョーイに剣を振るう。しかし、そこには鎮紅が滑り込み、防御態勢を取って威力を軽減していた。
 直後にはユーディアリアが光の翼を広げている。
「待っていてください。すぐに治します!」
 同時、煌めかせる癒やしの光は、『virtus.01』。暖かな感覚を運ぶ輝きは、溶け込むように鎮紅の体力を回復させていた。
 トパジアも妖精弓に、眩い治癒の力を収束させている。
 光の矢として形成されたそれは、光の粒子を散らしながら、鎮紅へ飛来。癒やしの効果を齎していくと、破剣の力を与えながらも体力を万全にしていた。
「これで回復は完璧なはずです!」
「じゃあ、クォーツは攻撃お願いしますね!」
 トパジアに応えてユーディアリアが言うと、ライドキャリバーのクォーツが高速で疾走。巨体にスピン攻撃をかまし、後退させていた。
「ぼくも、攻撃に移りますね」
 間を置かず、ユリスは燃え盛る幻竜を発現。掌から豪速で飛ばすと、巨躯に喰らいつかせてその体を炎で包んでいく。
「く……!」
「遅いね。後ろが、がら空きよ」
 エインヘリアルがユリスへ向くと、その背後から不意に声が飛んだ。
 それは突如後背に現れた、ジン。影霧を纏う能力、『影』により姿を晦まし、気取られぬ内にゼロ距離にまで迫ってきていた。
 暗殺術の名を体現するように、短剣・月食は正確に巨躯の背に突き刺さる。
 鮮血が散ると、その間に高く跳躍したクラリスが、頭上に迫っていた。
「悪いけど、全力で行かせてもらうから」
 刹那、体を翻して繰り出された回し蹴りは、強烈。巨躯の顔面を打つと同時に麻痺を与え、その巨体を吹っ飛ばしていた。

●音
 よろめきながら起き上がるエインヘリアル。
 その顔は憎しみに歪んでいるようでもあった。
「まだだ……。雑音じゃない、この姿だからこそ奏でられる音が、あるんだ……!」
「それが誰かの命を奪うことになるなら。尚更、私達が止めてあげないといけないの」
 クラリスは静かに、しかし毅然と声を返す。
 ユーディアリアも、頷いていた。
「うん。全力で、止めますよ」
 目を伏せて零す声音には、悲しさも滲んでいた。記憶のないユーディアリアは、世界をもっと知りたいと思っているからこそ、彼の音楽にも触れてみたいと思っていたのだ。
 しかし、だからこそ、この戦いは退けない。
「素敵な人に殺戮者になんて、なってもらいたくないですから」
「うん。だから、その剣もあなたの使命も、ここで打ち砕いてみせる」
 クラリスが言うと、エインヘリアルは激昂したように攻め込んでくる。
「これが──今の僕の音楽なんだ!」
「ですから、それを砕くと言っているのですよ」
 ラーヴァは地獄の炎を溢れさせながら、弓を向ける。そこに番えるのも、やはり炎を纏った矢だった。
「熱源を名乗る以上、やはり氷は溶かしていかないといけませんからねえ」
 刹那、巨大な炎塊と化した矢を放ち、巨躯の剣を燃え上がらせていく。
 ほぼ同時、ジョーイも正面から接近。体に鬼神の如きオーラを纏わせ、刀に全力を篭めていた。
「隙ありってな。もう一発、デケエのもらっとけや!」
 瞬間、長い溜めからの縦一閃を脳天に打ち、巨躯を地に転がせる。
「今のうちだ、叩き込んでやれ!」
「ええ」
 ジョーイに応えた鎮紅も、疾駆して接近。納刀状態の緋鴉を抜刀し、冷気を巻き込んだ斬撃を喰らわせていた。
 苦悶の声を零すエインヘリアル。だが、それでも起き上がってくると、剣の冷気を強めた。
「……聴かせてあげるよ、これを」
 瞬間、剣から音を生むと、音波を氷波に変えるように前衛へと放ってくる。
 が、そこで巨躯へ、連続の銃弾が飛来してきた。
「音楽には音楽で対抗しようと思ったけど、生憎今は楽器がないから……これで!」
 それはクラリスの連射するガトリング弾。氷波を貫くように飛んだ銃弾は、巨体を穿ち、攻撃を中断させる。
 前衛に残ったダメージには、トパジアが即座に癒やしの力を集中していた。
「その氷、溶かしきってみせますよ」
 天に昇ったグラビティは、治癒の雨滴として、一帯に降り注ぐ。清浄な癒やしを齎したその雨は、前衛を蝕む氷を溶解させ、体力も回復させていた。
 さらに、ユーディアリアも花のオーラを広げて、前衛を癒やしきる。
 この間に、ジンは疾風の如き速度で敵へ疾走していた。
 そのまま、姿を完全に視認される前に眼前に迫り、回し蹴り。強烈な一打で体勢を崩させている。
「さあ、畳み掛けるね」
「ええ、わかりました!」
 応えたユリスも、低い姿勢から走り込み、足元へ近づいていた。
 エインヘリアルは剣を振り回して払おうとするが、ユリスは素早く体を動かして、紙一重で回避。そのまま脚部へ足払いを繰り出していた。
「これで、どうですかっ!」
 瞬間、刃のような蹴撃が直撃。エインヘリアルを横転させ、地に叩きつけていた。

●決着
 エインヘリアルは、地に手をついて起き上がる。傷は深まり、息は絶え絶えに近かった。
「こんなところで死ねるか……。僕には、これしか……」
 声を漏らしながら、巨躯は音色で自己回復する。
 だが、その直後には、ユリスが次元魔法を行使していた。
「夢想の門を遥か越え。思い描く理想の大地へ。我らを導け虚人の鍵よ。阻む全てを斬り裂いて──」
 それは次元の狭間から掴み取る、『水晶剣』。振り抜くことで巨躯の魔的防護を打ち砕いていた。
 鳴る音は氷の音。だが古い硝子の砕けるような、寂しい音でもあった。
「……美しく悲しい音……」
 ユリスは呟き、目を伏せる。それは少し、敵の境遇を慮ったからかも知れなかった。
「ある意味では彼も被害者でしょう。ですが、仕方のないこと。ここで止まって戴きましょう」
 ラーヴァは応えるように言いつつ、地獄で燃え盛る矢を天へ撃つ。
 その能力は『ラーヴァ・フォールズ』。瞬間、それが炎の滝となって巨躯に注ぎ、全身の傷を深めさせていった。
 巨躯は呻きながらも、立ち上がって攻撃を狙ってくる。
 が、そこへは鎮紅が立ちはだかり、ユーフォリアに歪な濃紺のオーラを纏わせて連撃。無数の剣閃を見舞い、傷を抉りこんでいた。
「最後まで……やらせはしませんよ」
「うん、一気に攻めていきますよ!」
 声を継ぐユーディアリアも、オウガメタルを流動。鋭い拳を作り上げ、腹部に殴打を加えていく。
 たたらを踏む巨躯へ、クラリスは『黒猫影路』を行使していた。
 それは影を蠢かせ1匹の真っ黒な猫に象る力。にゃあ、と鳴いた猫は、どこか舞い踊るような足取りで駆けだし、巨躯に体当たりをかましていく。
「……あと、少し」
「では、私も攻撃に回りますっ!」
 そう応えたトパジアは、弐之祕術【メルクリオ】を発現していた。
「天上の霧よ、罪深き者を清め、御霊を清浄と為せ。悪しきを啜り尽くし、我が身を以て浄化せん――!」
 瞬間、巨躯の周囲に淡く光る霧が出現。何が起こるのか、それを知覚させぬままに、体力を奪い取ってゆく。
 エインヘリアルは朦朧としながらも剣を振り上げていた。が、その腕を、ジョーイが振るった冷気の刃が切り落とす。
「そろそろ、終りにするぜ!」
「そうね」
 と、応えたジンは影のように疾駆。すれ違い様にナイフで喉を撫で斬った。
「眠るなら静かに。アナタ愛する音色、邪魔しないよ」
 倒れたエインヘリアルは、そのまま絶命。風に流れるように消滅していった。

 戦闘後、皆は周囲をヒールしていた。
「チッ、帰って寝ようと思ったのによ……クッソ面倒くせェ……」
 ジョーイはぼやきつつも、率先して片付けや、傷ついた人がいないかを確認している。
 結果として、一般人に被害はなく、皆で修復作業を進めたため、すぐに景観は綺麗に戻った。人々も帰ってきて、街にも平和な空気が戻り始めている。
 その中で、ユーディアリアはふと、敵が散っていった場所を見下ろしていた。
「素敵な演奏聞けなくて残念でした。どうか安らかに……です」
「……音楽を一緒に楽しめる仲間がいれば、彼が選ばれることはなかったのかな」
 クラリスもふと呟く。ただ、今はもうその疑問も、寒風に流れていくばかりだ。
 トパジアも少ししゃがみこんで、悼むように目をつむっていた。それから声を零す。
「何故、このようなことを……」
「デウスエクスの考えは結局、読めませんねぇ。エインヘリアルとなってしまった青年にしても、元凶のシャイターンにしても」
 ラーヴァが応えると、ユーディアリアは小さく声を継ぐ。
「ボクは、こんな無理矢理に人を変えてしまうシャイターンは許せそうにないです」
「……そうだね。紫のカリム……それに残りの炎彩使いも早く見つかるといいんだけど」
 クラリスがそう言うと、皆も静かに頷いていた。
 それでも人々を守り、戦いには勝利した。皆は、まずはその戦果を胸に、夜の中を帰還していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年1月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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