その戦いは、命を消費するだけの防戦だった。
大聖堂に集まる大勢の避難民。それを守るのは、少数のパラディオン達。
襲ってくるのは、巨大な体を持ったドラゴン。倒すことなど不可能としか思えない侵略者、デウスエクスだった。
ドラゴンは咆哮を上げて、聖堂を襲おうと飛来する。それを、パラディオンは聖なる歌で迎撃。寄せ付けないでいることだけを、ひたすら続けていた。
「いったい、いつからこんな戦いをしているんだろうな」
先頭に立って戦うパラディオンの3人、そのうちの1人が呟いた。
消えていく命、ドラゴンの猛攻。それが“永遠に続いている”ような気がして、ふと声が漏れていた。
「わからない。それでも俺達は、戦わないといけないんだ」
「ああ……。こんな時に、彼らがいてくれれば……デウスエクスなど」
と、3人のうちの別の1人が呟く。他の2人は怪訝な顔をした。
「彼ら? 何のことだ」
「……え? いや。すまない、少し混乱していた。……そうだな、デウスエクスに勝てるものなど、いるはずもないのに」
そのパラディオンは、顔に暗いものを浮かべて、上方のドラゴンに向き直った。
そう、自分達は一方的な大侵略を受けている、無力な人間にすぎないのだ。
今は一時的にドラゴンを足止めしている。しかし、少し見回せば、力の代償で次々と仲間たちが息絶えていくのが見える。
「この力でも……耐えることしか出来ないんだ」
もうどれくらい戦っているのか。3人の顔は、少しずつ、潮が満ちるように、絶望に染められていく。
死んだはずの仲間はいつの間にか復活していて、それがまた息絶える。その光景が残霊によるものであることに、3人は気づかない。
それは絶望の輪廻。心を砕くための、繰り返される大侵略期の悲劇だった。
「皆さん、寓話六塔戦争はお疲れ様でした。皆さんのお力によって、無事この戦争を勝利で飾ることが出来ました」
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、まずは集まったケルベロスたちに労いの声をかけていた。
それから、言葉を続ける。
「この戦いで、囚われていた失伝ジョブの人達が救出出来ました。その上で──救出できなかった失伝ジョブの人達の情報も得られたことを、伝えさせていただきますね」
予知も加えて判明した情報は、こうだ。
失伝ジョブの系譜に連なる人々は、『ポンペリポッサ』が用意した特殊なワイルドスペースに閉じ込められている。そこでは、大侵略期の残霊によって引き起こされる悲劇を、繰り返させられているというのだ。
「これは、失伝ジョブの人々を絶望に染めて、反逆ケルベロスとする為の作戦だったと思われます。しかし、こちらが勝利したことによって、彼らが反逆ケルベロスになる前に、救出する事が可能となったというわけですね」
そうなれば、行うべきは1つ。
「この特殊なワイルドスペースに乗り込み……繰り返される悲劇を消し去って、閉じ込められた人々の救出をしてください」
作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、ドラゴンの残霊が1体。出現場所は、山にあるワイルドスペースとなります」
木々の開けた場所だが、人通りがある場所ではない。たどり着くのも容易にできるだろう。
ただ、とイマジネイターは声を続ける。
「この特殊なワイルドスペースは、失伝ジョブの人々以外の人間は出入りする事が不可能であるようです」
すなわち、作戦に参加できるのは、失伝ジョブを持つケルベロスのみ。一応注意をしておいてください、と言った。
ワイルドスペース内では、大侵略期の悲劇が繰り返されているという。
少数のパラディオンにより、ドラゴン相手に絶望的な戦いが続けられている、というのがその状況だ。
「その中で、救出する人は3名。それ以外の存在は残霊なので、助けたりすることなどはできないと思ってください」
敵となるドラゴンも、残霊だ。弱い相手ではないが、実際のデウスエクスに比べれば弱体化しているため、十分に勝機はあるだろう。
「3名は、繰り返される悲劇に、精神を疲弊させられている状態です。それでも、このドラゴンさえ撃破できれば、絶望を振り払うことができるはずです」
そうすれば、彼らを助け出し、共に帰還することができると言った。
「ただ、こちらも気をつける必要はあります。現場に長くいれば、閉じ込められている人々と同様、悲劇に飲み込まれてしまう可能性がありますから」
戦闘を行う猶予は十分にある。だが、辺りの捜索などをする時間はないと思ってください、と言った。
では敵戦力の説明を、と続ける。
「爪撃による近単ブレイク攻撃、炎のブレスによる遠列炎攻撃、雷のブレスによる遠列パラライズ攻撃の3つを行使してきます」
各能力に気をつけてくださいね、と言った。
「彼らが見ている悲劇は、実際にあったこと……だからこそ。その悲劇を乗り越えてきた先達の為にも、必ず救出してあげてくださいね」
イマジネイターはそう言葉を結び、頭を下げた。
参加者 | |
---|---|
ソフィア・タチバナ(ヴァルキュリアのパラディオン・e44076) |
霧蕗・マシロ(心の中の雪景色・e44278) |
鬼神断・刃奈(神魔両断・e44479) |
ベリアル・エルブレッドスター(叛逆の光輪拳士・e44534) |
刈安・透希(ウェアライダーのパラディオン・e44595) |
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629) |
コロル・リアージュ(ふりーだむぺいんたー・e44660) |
黛・馨(その手で繋ぐは未来への道・e44764) |
●対敵
ケルベロス達は、ワイルドスペースへと侵入してきていた。
「大侵略期、か。おばあちゃんが話してくれた調停期の戦争も、あんな感じだったのかな……」
鷹崎・愛奈(天の道を目指す少女・e44629)は、その奥に見える光景に、祖母の話を少し想起する。
それは聖堂と、そこで戦うものの姿。3人の末裔達と、残霊の数々だ。
繰り返されるのは、巨大なドラゴンへの無謀な戦い。蔓延するのは絶望の空気だった。
「こんなひどい夢をずっと見せられたらたまったものじゃないよね!」
コロル・リアージュ(ふりーだむぺいんたー・e44660)はそこへ疾駆しながら、息をつくように声を零す。
それでも、明るいその面持ちには、絶望など浮かんではいない。
「だけど悪夢だっていつか覚めるものだからね! 絶望なんて、あたし達が希望の色に塗りつぶしてあげよう!」
「ああ」
刈安・透希(ウェアライダーのパラディオン・e44595)は、それに冷静な頷きを返す。
「私達にケルベロスから救いの手が差し伸べられ、私達はそれを掴んだ……なら、今度は私達が手を差し伸べる番だ」
「ん、請け負ったからには、やる。敵、倒す。仲間に、強さ、見せる」
そう声を継ぐのは、霧蕗・マシロ(心の中の雪景色・e44278)。その表情は薄いが、そこに内在する思いはおそらく、仲間と変わらない。
「自信、ある。……無くても、ある。──初陣、がんばる。成功、させる」
その言葉にも皆はそれぞれに頷く。
そうして全員で、その絶望の輪廻へと介入していった。
無限に続く戦いに、末裔の3人は疲弊しきっていた。
その1人は歌う声も止め、忍び寄る絶望の中で、巨影を仰ぐ。
「やはり、駄目なんだ。結局デウスエクスに、勝てるものなど……」
「──いるさっ、ここに8人ね!」
と、その時。3人の耳を明るい声が打った。
それは直後に、高い跳躍をして、ドラゴンに強烈な蹴りを放ったコロルのものだった。
3人が目を見開いていると、次いでそこに飛来してくるものがある。
「みなさん、おまたせ」
それは声とともに、光の翼で羽ばたく、ソフィア・タチバナ(ヴァルキュリアのパラディオン・e44076)。
ふわりと降り立つと、プリンセスモードの格好のままで3人に声をかけた。
「ケルベロスがたちゅけに……、……助けに、きたよ。ここはわたしたちにまかせて」
ちょっと顔を赤らめつつも、言い直す。そうして、ソフィアはあどけなさを含む声を響かせて、3人を寂寞の調べで癒やし始めた。
温かなその感覚に、末裔達は不思議そうな顔をする。
「君達は、いったい……」
「私達は──ケルベロスだ!」
と、声が大きく響く。それは駆けつけて、ドラゴンへと立ちはだかっている透希だ。
同時、聖堂の頂上からも、勇壮な声が響いていた。
「うむ、これまで善き守りであった!」
それは、ベリアル・エルブレッドスター(叛逆の光輪拳士・e44534)。飛び降りると、3人の前に着地し、凛とした表情を見せた。
「ならば次は叛逆だ。絶望を叛逆させ、失墜させてやろうではないかッ!!」
仁王立ちしてみせる立ち居は、どこか心を勇気づけるものがある。3人は、半信半疑ながらも、微かに表情を変えつつあった。
「叛逆……なんて、可能なのか」
「……それこそ、夢幻ではないのか」
それでも1人が言うと、その肩に手を置く人影があった。
「そいつは、どうかな」
言いながら、末裔達を下がらせる、黛・馨(その手で繋ぐは未来への道・e44764)だ。
「こんなおっさんじゃ、お前らのヒーローにゃなれねぇが。それを支える存在くらいにゃなれるってもんよ」
馨は肩をすくめるようにしつつ、仲間達を視線で示していた。
「いいか、アイツらのこと、危なくねぇとこからよく見てな。絶望するにゃまだ早いぜ」
「──その通りだ。必ず助ける……だから絶望の中の光から目を逸らすな!」
言葉を返しながら、透希は疾風のように駆け、跳躍。そのまま獣化した拳で一撃、ドラゴンの鼻っ柱を殴りつけていた。
ベリアルは後光を輝かせ、阿頼耶光として発現。眩い光でドラゴンの動きを抑制する。
マシロは刀にオウガメタルを纏わせ、強烈な斬撃で龍鱗を切り裂いていた。
空中を後退するドラゴン。その姿を、末裔達は信じられぬように見上げている。
「ドラゴンに傷が……まさか、本当に?」
「ええ」
と、楚々と頷くのは鬼神断・刃奈(神魔両断・e44479)。大太刀をすらりと構え、敵へ向いていた。
「ドラゴンは確かに強大です。しかし、ケルベロスの力を持ってすれば倒せないことはありません」
「……勝てる、のか」
「私の剣技にて、それを証明しましょう」
清廉な声を返した刃奈は、瞬間、低い姿勢で駆ける。高度を落としてきていたドラゴンに正面から接近すると一閃、冷気を巻き込んだ斬撃で痛烈なダメージを与えた。
「じゃ、俺も行くかね」
馨も、零の境地を拳に乗せ、一打。ドラゴンの動きを鈍らせつつ傷を加えている。
微かに轟きを漏らしたドラゴンは、炎のブレスで前衛に反撃してきた。が、そのダメージに、高空から降下してきた愛奈が、まっすぐな歌声を響かせていた。
その声音が治癒の効果を生み、前衛の炎を吹き飛ばすように消していく。
「よくここまで我慢できました。花マルをあげます」
愛奈は、未だ惑う様子の末裔達の前に舞い降りると、優しく言った。
「ですから──ここからはバトンタッチです。あなた達は下がっていてください」
●闘争
末裔3人は、最後には言葉を聞き入れて、一先ず後方へ下がっていく。
反してドラゴンは、未だ体力に余裕があるように、攻撃の機会を窺っているようだった。
コロルは警戒を浮かべつつも、眺めるように口を開く。
「しかし、改めて間近で見ると、ドラゴンってでかいね!」
「残霊、とはいえドラゴンには違いないということなのだろうな」
ベリアルは声を継ぎつつも、そこに怯んだ様子は見えない。
「だからといってそれが退く理由にはならぬがな!」
「ま、そうだな」
馨は周囲を見回す。
そこは、悲嘆に暮れる一般人、そして死に絶えたパラディオンの残霊が垣間見えている。全ては幻影、しかし、それは確かにあった戦いの名残でもある。
「……相手が何であれ、こういうやり口は気に入らねぇからな──ぶっ潰させて貰うぜ」
「そう、いくら強い敵でも、勝つ。可能な限り、自分、強く、見せる。それが、作戦」
応えたマシロは、地を蹴って駆けると、ひと息にドラゴンとの距離を詰めていた。
瞬間、妖刀に陽炎の如き力を漂わせて、鋭い斬撃を叩き込む。ドラゴンの血が飛散すると、タイミングを合わせたように、刃奈も逆側から肉迫してきていた。
「──遅いですよ」
ドラゴンはすぐにそちらに振り向いてくる。が、刃奈の斬撃の速度が先んじて、霊体を伴った剣撃がその顔に深い裂傷を刻んだ。
「さあ、今です」
「うむ、了解したぞ!」
同時、刃奈に声を返したベリアルも、上段に刃を振りかぶっていた。そのまま縦、横、そして袈裟に連続斬撃を叩き込み、ドラゴンの全身に傷を抉りこんでいく。
咆哮を上げるドラゴンは、振り払うように爪撃を繰り出してくる。が、それはベリアル自身が防御態勢を取り、威力を軽減。
直後には、ソフィアが胸の前で手を合わせ、癒やしの力を発現していた。
「ちょっとだけまってね。すぐに、回復してみせるから」
そうして、純な声で愛を歌う。朗々と響き渡る歌声は、歪曲した空間にあってもまっすぐに届き、ベリアルを治癒。
次いで、愛奈も手元に煌々とした光を作り出していた。
「それじゃあ、これで仕上げにするねっ!」
そのまま、手を伸ばしてそれを投擲。温かな光をベリアルに与え、浅い傷を完治させていた。
「攻撃は、おねがいねっ!」
「よーし、それじゃ行くよ~」
あっけらかんと応えたコロルは、局所的に爆縮させたグラビティを拡散させ、爆破攻撃。
同時に、馨も腕から弾けるような雷撃を飛ばしていた。それは、続く仲間のために隙を生むことに注力した攻撃だ。
「透、次は頼むぞ」
「ああ、任せろ」
声を返す透希は、一度息を整えてから、喉を震わせて禁歌を歌い上げている。
その声は呪縛の力を伴って、大気を奔るように伝搬。ドラゴンの咆哮すらかき消すほどの衝撃を与え、その巨体の動きを抑制していた。
●意志
ドラゴンは呪縛を振り払うように、一度間合いを取って宙へと浮かんでいた。体の傷は増えているが、体力自体はまだ底が見えぬようでもある。
ソフィアは観察するように見上げていた。
「だいぶ削れてきたけど。たおすにはもう少しかかるかな」
「それなら、こっちも、どんどん攻撃、するだけ」
マシロは言って、冷静に呪力を集中している。
ただ、敵へ向ける手は一瞬だけ、巨影に対する怯みを見せてもいた。
非情に見える部分は自信の無さの裏返し。それは確かに、マシロの中にある子どもらしい甘さでもある。
「……この呪術、食らうといい」
だが、それは虚勢であるだけ、行動を伴ってもいる。立ち位置を変えて放つ魔弾は、残霊の一般人すら守って見せるように、ドラゴンの視線を逸らしていた。
その隙に、刃奈は疾駆して距離を詰めていっている。
「連撃で、仕掛けましょう」
「よかろう、全力で征くぞ!」
応じるように腕を広げるのはベリアル。同時に阿頼耶光をひときわ眩く輝かせ、形を持った光線としてドラゴンに撃ち当てていった。
「フハハハッ! 叛逆だ、叛逆である! 愛しの侵略者よ、その怒りを、憎しみを叛逆してやろう!」
高らかな声に対し、ドラゴンは微かに苦しげな唸りを漏らす。
そこへ、刃奈は冷気の刃で狙いすました袈裟斬りを叩き込み、表皮を凍結させていた。
再び地に落ちたドラゴンは、それでも雷のブレスを前衛へ放射する。が、その轟音を塗り替えるように、ソフィアが美しい調べを紡ぎ、ダメージを回復していた。
次いで、愛奈も翼を広げ、強い意志を篭めて歌を編んでいる。
「これで、絶対に、癒やしきってみせるよ……!」
物心ついた頃から好きだった、祖母の調停者についての話。自分もそんな活躍をしてみたいと思っていたからこそ、イメージを体現するように。芯のある歌声は前衛を万全な状態に持ち直させていた。
「では、こちらは反撃だ。一切の手加減は──加えんぞ!」
と、透希は攻勢に移り、足元に眩い光を形成。それをフェアリーブーツで蹴り出して、煌めく軌跡を伴った打撃をドラゴンへ与えている。
衝撃で巨体がのけぞると、馨はそこへ肉迫。下方から殴り上げるように一撃を加え、ドラゴンの体勢を崩していた。
「さ、もう一発叩き込んでやってくれ」
「わかったよ! ざっくりと刻んじゃおうね!」
馨と入れ替わりに敵へ接近したのは、コロル。
掲げた粗剣を全力で振るうと、凹凸の刃を食い込ませるように一閃。肉を抉り、骨を砕きながら、ドラゴンに深手を与えていた。
●決着
体力の減ったドラゴンは、体を明滅させ、その一部を消失させている。
それでも攻撃を狙って飛来してくるが、ベリアルは怯まず前進。連続斬撃でさらに体力を刈り取っていた。
「フハハッ! このまま一気に畳み掛けてくれようぞ!」
「ええ。剣の道の一端を──ここに示させてもらいましょう」
間断を置かず、刃奈も疾駆し、駆け抜けるとともに斬撃を喰らわせている。
衝撃でドラゴンの翼が裂かれると、そこへマシロは『氷刀雪椿・閃』。
「雪椿……拒絶せよ」
それは、氷の呪印から仮初の妖刀を抜き放つ、高速の居合い。その冷気の剣撃は苛烈に、ドラゴンの胸部を切り裂いていた。
凍結する傷口に、ドラゴンは吼え声を上げながらも、刃奈へ爪撃を繰り出してくる。
が、その一撃に、馨が雷撃を奔らせて衝撃を相殺。そのまま追撃の雷を生み出し、ドラゴンを麻痺に陥らせていた。
「さあ、行け」
自分の子供と言ってもいい程の若者達。馨は、自分の役割は彼、彼女らが飛び立つための踏み台だと思っている。
未来へ繋ぐ道筋は、全て自分達大人の後ろを歩く子らのために。確固たる思いで、馨は敵の隙を作る役割を果たした。
「じゃあ、わたしがこうげきするね」
そこへ、ソフィアが呪縛の歌を響かせて攻撃しさらに行動を奪う。
ドラゴンは唸りながらも再び動き出そうとするが、そこへ透希も、声に力を乗せていた。
「もう、終りだ。いつまでもお前らデウスエクスの思い通りになると思うな!!」
同時、届かせた歌声は鋭く、ドラゴンの体力を削り取っていく。
ドラゴンはそれでも無理矢理に飛び上がるが、愛奈はマインドリングを輝かせ、光の巨人となって剣撃を喰らわせていた。
「何と神々しい……本当に、勝ってしまうのか……!」
末裔達が驚嘆していると、コロルは筆をとって頷いた。
「もちろんだよ」
言葉は最後まで、明るかった。
それは自分の不安や緊張を和らげたい思いを含むと同時に、ペインターとしての性でもある。そしてまた、自身と同じ境遇の末裔達を助けたいという、強い思いの表れでもあった。
「あたし色に染め上げてやるぜ~! なんてね☆」
瞬間、描いた絵は独創的で不可思議。
それが敵を塗りつぶすように広がっていくと、霧散。跡形も残さず、ドラゴンを消滅させていた。
「本当に倒してしまうとは……」
半ば呆然とする末裔達。そこへ馨は歩み寄り、声をかけた。
「諦めなけりゃ何時だって救いはあるもんだ。お前らもよく頑張ったな。心折れずにいたお前らもまた、ヒーローだぜ」
「……有難う、本当に」
末裔達が頷きを返していると、透希も口を開く。
「追い返すしか術が無い時代は終わったんだ。行こう。ここを出れば戦いのためだけではなく、歌が……好きな歌が歌える」
「時代……そうか。ここは現代……」
末裔達は少し頭を抑える。洗脳が解け、正気に戻りつつあるのだった。
ソフィアは頷き、先導するように歩み出す。
「ここはもう大丈夫。わたしたちと、次の場所へ行きましょう。今度はあなたたちの番ですよ」
「そうそう! あなた達の力も必要なの!」
コロルが朗らかに言うと、3人は力強く頷く。
「ワイルドスペース、脱出する」
マシロの言葉に皆も続き、この歪曲した空間を出る方向へ走った。
「……次に此処に来るならば、是非とも調べ上げてみたいものだな」
ベリアルは一度振り返る。それでも足を止めることはなく、皆でワイルドスペースを脱出した。
外は普通の山中。ようやく人心地がつける場所だった。
ようやく元の風景が見えると、愛奈は呟く。
「……大変だったけど、やりがいがあったなぁ」
「ええ。……今回は残霊でしたが、何れ本物のドラゴンとも立ち会うことになるのでしょうね」
刃奈は呟き、一度刀の柄を握っていた。
「剣技を磨き、その時に備えましょう」
それでも今は、敵を倒した戦果と、救えた者がいる事実を胸に携えつつ。皆は帰るべき場所へと、帰還していった。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年12月27日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 1
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