喪失の吟遊詩人

作者:崎田航輝

 夜の公園に、清らかなメロディが響く。
 1人の音楽家の青年が、流麗なシルエットの楽器を演奏していた。それは少しだけ乾いた音色から、哀愁のある旋律を紡ぐ、アイリッシュ・ハープ。
 オーケストラに使われるグランドハープよりも一回り小さいそれは、音もわずかに硬質で、耳触りのいい音の粒を生み出す。爪弾くメロディがよりはっきりと響き渡るだけ、軽やかさも寂しさも、その感情を色濃く映す音楽が奏でられていた。
 公園で練習しているのはただ気まぐれだったが、夜の中に響き渡る音楽が心地よくて、長い時間続けているのだった。
「もうこんな時間か。今日の練習はこんなものでいいかな……」
 と、その青年が腕を止めたときだった。
「とても素敵な旋律だったわ。貴方には、素晴らしい才能がある」
 不意に、言葉とともに公園に1人の女性があらわれた。
 それは紫の衣装をまとったシャイターン・紫のカリム。
「君はいったい……」
「──だから、人間にしておくのは勿体ないわ」
 青年は口を開こうとする。だがそのときには、カリムが手元から炎を生み出し、青年を燃やし尽くしてしまっていた。
 そして、代わりに出現したのは、エインヘリアルとして生まれ変わった巨躯の体。
「これからは、エインヘリアルとして……私たちの為に尽くしなさい」
 カリムが言うと、青年だったエインヘリアルは、従順な頷きを返す。
「殺戮の音色も、悪くはなさそうだ」
 そして、武器と化したアイリッシュ・ハープを携え、街へと向かい始めた。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、集まったケルベロス達に説明を始めていた。
「本日は、シャイターンのグループによるエインヘリアルの事件について伝えさせていただきますね」
 そのグループ『炎彩使い』は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルにする事ができるようだ。
「エインヘリアルとなった者は、グラビティ・チェインが枯渇している状態みたいです。なので、それを人間から奪おうとして、暴れようとしているということらしいですね」
 エインヘリアルは、既に町中に入っている状態だ。
「急ぎ現場に向かい、そのエインヘリアルの撃破をお願いします」

 状況の詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、エインヘリアル1体。出現場所は、市街地です」
 夜ではあるが、町中であるために、人通りも多い一帯だ。
 エインヘリアルはここに現れ、殺戮を始めようとしている状態だという。
 幸いまだ被害者は出ていないので、急行して人々との間に割って入れば、そのまま戦闘に持ち込むことで被害を抑えることが出来るだろう。
「戦闘に入りさえすれば、エインヘリアルも、まずはこちらを脅威と見て排除しにかかってくるはずです」
 そこで撃破すれば、被害はゼロで済むはずだと言った。
 ではエインヘリアルについての詳細を、とイマジネイターは続ける。
「ハープ型の武器を使った攻撃をしてくるようですね」
 能力としては、音の衝撃波による遠列氷攻撃、物理攻撃による近単ブレイク攻撃、音色で耐性を高める自己回復の3つ。
 それぞれの能力に気をつけてください、と言った。
「高い殺意をもった相手みたいです。油断せずに、頑張ってきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
八代・社(ヴァンガード・e00037)
眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)
エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)
据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)
茶野・市松(ワズライ・e12278)
藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)
フィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)

■リプレイ

●接敵
 ケルベロス達は、夜の街を現場へと駆けていた。
 既に視界の先には、騒乱の起きかけている人垣が見えている。
「いましたね」
 エステル・ティエスト(紅い太陽のガーネット・e01557)は、その中にいる敵影を捉えて呟く。
 元は人間であった、巨躯。それを可哀想だと思い、不幸だと思う心はエステルにはある。
 だが、デウスエクスとなってしまったのであれば、同時にそれは憎悪の対象でしかない。
「生かしておきはしない──急ぎましょう」
「そうだね、とにかく、犠牲が出る前に止めないと……!」
 応えるのは藤林・シェーラ(曖昧模糊として羊と知れず・e20440)。疾駆しながらも、仲間たちを見回し、その心強さにひとつ頷いた。
「ウン、これだけ戦力揃ってれば、怪我人も出さないことだって不可能じゃないハズだし! というわけでみんな、行くよ!」
 シェーラは剣気を解放。人を逃しながら、一気に距離を詰めていく。
 茶野・市松(ワズライ・e12278)もそれに続き、速度を上げる。急ぎながらもその顔はどこか楽しみな様子も含みつつ。近づく巨躯を見据え、呟いた。
「さぁて、どんな勝負をさせてくれるかね」

 人々の中に現れた巨躯、エインヘリアルは、ハープを弾こうとしていた。
 響く騒乱を、伴奏にするように。今まさに、虐殺の演奏を開始しようとしているのだった。
「さあ、殺戮の音色を奏でよう──」
「いいや。生憎、ステージの準備がまだだ」
 と、その時だ。声とともに巨躯の頭上に影がかかった。
 それは地を蹴って跳んでいた、八代・社(ヴァンガード・e00037)。月を背に、魔力を篭めた刃“缺月”を抜くと一閃、巨躯の肩を切り裂いてその動きを阻止していた。
 着地する社を、エインヘリアルはたたらを踏みつつ見返す。
「何だ、君は……」
「番犬だよ。人間だったなら──わかるでしょ?」
 次いで、その眼下から光が閃く。疾駆して肉迫していた眞月・戒李(ストレイダンス・e00383)が、流光“Danser Ifritah”を弾丸の形に飛ばしていたのだ。
 弾ける光に巨体がよろめくと、その間にレティシア・アークライト(月燈・e22396)はラブフェロモンを拡散。人々へと呼びかけている。
「さあ、ここは私達にお任せを。皆さんは、退避をお願いしますね」
「怪我しないようになー。慌てなくても、何とかするから平気だぜ」
 同じく市松も、ウイングキャットのつゆと共に人々を誘導している。剣気によって人波が引き始めていたこともあり、それらの呼びかけで淀みなく、退避は進んでいっていた。
 エインヘリアルは反射的に、周囲に視線を走らせている。
「僕の観客が……」
「どこを見ている──お前の相手は、こっちだ!」
 と、そこへ、エステルが音楽プレーヤーから音を増幅。憎悪と拒絶を込めて、幻影のリコレクションと共に声を放っていた。
「かかってくるがいい。その楽器、砕いてくれる」
「僕のハープを? 馬鹿なことを──」
 エインヘリアルは音の衝撃に顔をしかめつつも、鼻を鳴らす。
「いくらケルベロスでも、今の僕には勝てまい」
「ならば、試してみますかな」
 すると、そこに声を返すものがある。
 据灸庵・赤煙(ドラゴニアンのウィッチドクター・e04357)。泰然とした面持ちで、巨躯の前に立って見せていた。
「殺戮の音色とは言いますが、そんな武器では人間は殺せてもケルベロスは殺せませんぞ」
「……何だと」
「嘘だと思うなら、私の防御を貫いてみればよろしい」
 同時、赤煙は防御態勢を取りながら、魔法陣を発現。後衛に防護の効果を与えていた。
 次いで、レティシアはルーンの加護をエステルへ宿し、市松も妖精弓の魔力で自身に破邪の力を纏わせていた。
 エインヘリアルは怒りに任せるように、ハープを振り回して赤煙に攻撃する。だが、そのダメージに対し、即座に癒しの光が煌めいていた。
「今回復するから、待ってて!」
 それはフィオ・エリアルド(ランビットガール・e21930)が注ぐ、月光の如き魔力。
 煌々と輝くその力が赤煙の傷を癒していくと、敵へはシェーラがライフルの銃口を向けていた。
「もう少し、大人しくしていてもらおうかな」
 瞬間、光の本流を撃ち出して射撃。巨躯の足元を凍結させ、その体勢を崩させていた。

●剣戟
「……なるほど、確かに僕は見くびっていたみたいだ」
 エインヘリアルはよろめきながらも、未だ余裕を含んだ表情をしていた。
「だが、本気を出せば君達も街の人間たちも、すぐさ。僕の演奏で、全員あの世に送ってあげるよ」
「あの世に、ね」
 と、フィオはそこに声を返す。
「殺しちゃったら、聴いてもらえることもできないでしょ。それが貴方の考える最高の音楽なの?」
「……何が言いたい?」
 眉をひそめるエインヘリアルに、フィオは挑発するように言った。
「ここは、私達の舞台。あなたの出番はないってことだよ」
 エインヘリアルはそれに微かに反応したように、弦に手を当てる。
「面白いね。君達なら僕よりいい音楽を奏でられるとでも……!」
「いい音楽かどうかは知らないが。一曲ぐらいなら演ってやれる──レクイエムなんて名前を付けるにゃあ、煩いビートだが」
 と、地の弾ける音と共に、肉迫する影があった。魔術回路から拳に冷気を湛えた、社だ。
 同時、逆側の上方からは、戒李が跳躍してきている。
「そうだね。子守唄にしては煩いけど──我慢してね。すぐ終わる」
 瞬間、戒李は旋風と共に宙返り。強烈な踵落としを繰り出すと、衝撃で巨体に一度膝をつかせていた。
「ヤシロ」
「わかってるさ。ギグを始めよう」
 間断を置かず、社は下方から顎へ、殴り上げ。氷を纏った打突で、エインヘリアルをのけぞらせた。
「くっ……!」
「それで終りと思うなよ」
 巨躯が体勢を直そうとすると、そこへエステルはライフル・エース530DMRから発砲。長大な光線を撃ち出して、全身の表皮に氷を広げていた。
 エインヘリアルは対抗するように、ハープの音波で前衛を襲う。が、そのダメージに、即座に癒しの効果を持った霧が顕れていた。
「霧よ、恭しく応えよ。暁を纏いて、彼の者共を癒やし守護せよ──」
 それはレティシアの『敬虔なる守護の庭』。目を閉じてそっと生み出す真白の霧は、薔薇の香りを伴って前衛の傷を癒していく。
 同時、フィオは全力の歌声を紡いでいた。
「傷ついた想いでも、まだ僕たちは飛んでいける──淀んだ雲の向こうの蒼、信じてるから──」
 それは進み続ける心を歌い上げる、『chase the blue sky』。
 フィオにとって、歌や音楽は誰かに聴いてもらって、喜んでもらうもの。敵への言葉は、挑発だからというだけではない本音だ。だからこそ凛とした、よく通る歌声は力強く、皆の傷を癒し万全としていった。
「回復は大丈夫だよ、あとは攻撃を!」
「了解、と。一撃、撃ち込んであげるよ」
 応えたシェーラは、くるりとライフルを取り回し、射撃。巨体の足元を薙ぐようにレーザーで焼き付け、場のグラビティを一時的に消滅させることで動きを淀ませる。
「さあ、このまま連撃を」
「では私が行かせてもらいますぞ」
 次いで、声を返した赤煙が高々と飛び上がっていた。
 巨躯を遥かに見下ろす高度から、落ちると同時に繰り出すのは、光の軌跡を描く蹴撃。どこか燃ゆるように煌めく光をたなびかせ、脳天から叩きつけるような踵落としを加えていた。
「ちっ……!」
「おっと、そうそう、やらせはしないぜ」
 視線を上方に上げる巨躯へ、足元から声が響く。それは低空を飛翔し、距離を詰めていた市松だ。
 エインヘリアルは視線を戻し、ハープで攻撃を狙う。が、力強く風を掃いた市松は、瞬く間に懐へ入り込んでいる。
「凶器もいいが、ステゴロも、ってな」
 瞬間、市松は上方へ角度を変えながら、激しい爪撃。巨体の全身に深々と裂傷を刻んでいた。

●音
 膝をついたエインヘリアルは、呻くように自らの血潮を見下ろしていた。
「何故だ……僕の音色が、僕の音楽は間違っているのか」
 何か疑うように、本来のハープとは大きさも形も歪んだそれを握り締めている。
「本当は……こういった形でなく、貴方の奏でる音を聴いてみたかったです」
 レティシアはそれを見てふと声をこぼす。
「今となっては、詮無いことですけれど」
「……今の僕のほうが、いい音を奏でられる。まだ終わっていない」
 エインヘリアルは反抗するようにハープを掲げる。
 だがそこに、低い姿勢で走り込む影。月夜に白の髪を靡かせ、刃を抜刀しているシェーラだ。
「悪いケド。それ以上演奏されても困るから、邪魔させてもらうよ」
 言葉と同時、跳躍しながらの斬撃。エインヘリアルの脚部を切り上げると共に、その腕部の上まで跳び上がった。
「く──」
「まだ攻撃は終わってないよ」
 反撃を狙うエインヘリアルに、シェーラは返す刀で連撃。全身の傷を抉りながら、ハープの弦を数本切り飛ばす。
 ふらつくエインヘリアルに狙いを定め、戒李はオーラを手元に輝かせている。
「ボク達も畳み掛けさせてもらおうか」
「オーケイ。クライマクスに向けて、盛り上がりも必要だ」
 それに応えたのは社。素早く疾駆してエインヘリアルへ肉迫すると、拳に魔術を纏わせていた。
 エインヘリアルは攻撃を試みてくるが、社はそれを弾くように拳で打ち上げ、連打。腹部に重い拳を叩き込んでいる。
「あとはお気に召すまま、だ」
「撃つよ!」
 瞬間、戒李が閃光を奔らせてオーラを発射。打突点に衝撃を重ね、腹部を貫いた。
 鮮血を散らすエインヘリアルは、声を漏らしながらも、攻め込んでハープで薙いでくる。が、その攻撃は市松が滑り込み、庇い受けていた。
「甘いねぇ、この程度じゃ、まだまだ」
「すぐに治療するからね」
 直後には、フィオが月の魔力を与えて傷を治癒。
 同時、レティシアも流れるような美しい所作で、戦斧“sourire de deesse”からルーンの力を引き出す。そのまま淡い光を注ぐように、市松の浅い傷を完治させた。
「ルーチェは、攻めに回ってね」
 次いで、レティシアの声に呼応して、ウイングキャットのルーチェが飛翔する。中性的な顔立ちに『しょうがない、やってやろう』とばかりの表情を浮かべ、ひっかき攻撃。巨体に無数の傷を刻んでいく。
「よし、つゆ、オレ達も行くぞ!」
 それに鼓舞されるように、市松も攻めに転じ、疾走する。一方のつゆは兄貴分としてそれをなだめつつ、自身も攻撃へ。市松の炎を湛えた蹴りに連続して、リングを打ち当てていた。
 赤煙はその間隙に『飛鍼』を行使している。
「気脈を、整えさせてもらいます」
 それはオーラを鍼の形に凝縮して飛ばす、東洋医術の応用技だ。
 淡く光るそれはエステルに溶け込み、気の流れを活性化。凄まじいまでのグラビティの増幅をもたらせた。
「さあ、攻撃を」
「ありがとうございます」
 声を返すエステルは、敵へ苛烈な視線を向ける。手を伸ばすと、そこに昏い光球を作り出していた。
「デウスエクスを殺す為のこの痛み、味わうがいい」
 その力は、『新月』。デウスエクスを憎みつづける暗い気持ちが形を取った、憎悪と拒絶の具現だ。
 まっすぐに腕を突き出しそれを飛ばすと、一撃。巨躯の全体を包む暗い衝撃が奔り、エインヘリアルは転倒。さらに生命を蝕むように体内に侵入した力が、苦痛を伴って巨躯を悶えさせていた。

●決着
 エインヘリアルは、慌てて自己回復を行う。だが、蝕まれた治癒は、満足な回復量を生まない。
 唸る巨躯へ、エステルは連続で新月を撃ち込み、深い憎悪で巨体を覆っていった。
「一時しのぎなど無駄な事だ。そのまま朽ちて行け」
「まだ、だ……」
 エインヘリアルは手をついて起き上がり、反撃の意志を見せる。
 だがそこへ、赤煙が深く踏み込んで、拳の一撃。気を乱すように空気を波打たせ、巨躯の魔的防護にひびを生んでいた。
「もう少し、というところでしょうな」
「オレに任せろ!」
 次いで、市松が声を上げながら矢をつがえている。刹那、弓弦を弾いて狙いすました一射を放ち、エインヘリアルの耐性を完全に打ち砕いた。
「じゃあ、ついでに武器も壊しておこうかな」
 同時にシェーラは至近からレーザーで直撃。巨躯のハープの破片を飛ばしていく。
 フィオもそこへ、光線で連撃。巨体の足元を凍結させ、再び地に伏させていた。
「戦いの手段じゃない、本来のあなたの演奏も聴いてみたかったな。こんな終幕、納得いかないだろうけど……ごめんね」
「マスター、眞月さん。あとはお願いします」
 レティシアはエネルギー球で追撃。同時に社達へ声をかけていた。
「ああ」
 応えた社は戒李に視線を送る。
 それに戒李も頷き、日本刀“銀弧・艶姫”の柄を握り締めていた。
 直後、先駆けて敵へ吶喊したのは社。両手のリボルバーに魔力の「空想銃弾」を装填、疾駆と共に無数の魔弾を発砲している。
 それは弾丸速度の加減と自身の加速により、無数の銃弾の着弾を同期させる『銃弾拳法・終式』。衝撃の嵐が巨体を穿つと、社はそれを置き去りにすれ違う。
「――トドメは、刃が刺してくれる」
 刹那、その声に呼応するように戒李が肉迫。全てを切り刻む事だけを目的とした空間、『久遠の斬鋭』を解放していた。
 そのまま、距離がゼロになると同時に、戒李は巨躯の胸部を両断。一歩過ぎ去って立ち止まると、刀についた血を振り払った。
「――これで終曲だよ。おやすみなさい」
 その言葉と、エインヘリアルが命を失って倒れたのは同時のことだった。

 戦闘後、皆は周囲をヒール。傷ついた街路などを修復し、景観を取り戻していた。
 エステルはその中で、敵が散った跡を見下ろしている。
「デウスエクスにさえならなければ、こうなりはしなかったのでしょうね」
「演奏自体は、悪いものではなかった。もし人のままならば、どれ程の音楽家になったのか、と思ってしまいますな」
 赤煙はそんなふうに応える。
 それから少し視線を落としていた。
「それでも、誰一人手にかけさせなかった。それが青年としての尊厳を守ったことになるでしょう」
「……ええ」
 エステルは小さく頷く。それから事件を作り出した元凶へ、怒りをにじませていた。
「罪なき人を平気で利用するデウスエクス──もはや、何の理解も示すべきではないですね」
「うむ……早く、尻尾をつかまえたいものです」
 赤煙もそう言って遠くを見るようにしていた。
 人が街に戻り始め、活気が帰ってくると、シェーラは歩きだす。
「とにかく、被害を出させなかったことは喜んでいいと思うよ」
 戦争も控えている現在、その士気高揚になると、シェーラは町並みを眺めていた。
 皆もそれぞれに頷き、帰路につき始めていく。
 戦いの後には哀愁の音色はなく。ただ夜の街に、人々の祝福の声が響いていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年12月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 7/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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