崩れる砂楼

作者:崎田航輝

 夜の浜辺に、美しい楼閣が出現していた。
 風に細かな粒子が飛んで行くそれは、全てが砂でできている、サンドアートだった。
 彫刻のような立体でありながら、絵画のような遠近法も用いられた芸術。平面と立体の特徴を併せ持つ造詣は、細かな描写と、スケールの大きな立体感を同居させていた。
「これだけのものを作れば、少しは注目を……浴びられるかな」
 言いながら、それを作っているのは1人の青年だ。
 才能こそありながら、未だ無名の芸術家。呟く独り言と表情には、その不満が顕になっていた。
「誰も俺を認めない。だが、一度目立ちさえすれば──」
 青年は躍起になる様に、巨大な砂の城を作り上げていく。
 だがその時だった。
「とても素敵ね。それは、無二の才能だわ」
 不意に、砂浜に1人の女性があらわれた。
 それは紫の衣装をまとったシャイターン・紫のカリム。
 青年が振り向く頃には、手元から炎を生み出し、青年を燃やし尽くしてしまった。
 そして、代わりに出現したのは、エインヘリアルとして生まれ変わった巨躯の体。
「それこそ、人間にしておくのは勿体ない程の……だから、これからは、エインヘリアルとして……私たちの為に尽くしなさい」
 カリムが言うと、青年だったエインヘリアルは、自分の体を見下ろした。
「そうか……俺の才能は、選ばれるためにあったのか」
 そこには長い煩悶から解き放たれたような、快楽に酔う表情があった。
 エインヘリアルは、足を踏み出す。目指すは市街地、人がいる場所だった。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、集まったケルベロス達に説明を始めていた。
「本日は、シャイターンのグループによるエインヘリアルの事件について伝えさせていただきますね」
 そのグループ『炎彩使い』は、死者の泉の力を操り、その炎で燃やし尽くした男性をエインヘリアルにする事ができるようだ。
「エインヘリアルとなった者は、グラビティ・チェインが枯渇している状態みたいです。なので、それを人間から奪おうとして、暴れようとしているということらしいですね」
 エインヘリアルは、既に町中に入っている状態だ。
「急ぎ現場に向かい、そのエインヘリアルの撃破をお願いします」

 状況の詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、エインヘリアル1体。出現場所は、市街地です」
 夜ではあるが、町中であるために、人通りも多い一帯だ。
 エインヘリアルはここに現れ、暴虐の限りを尽くそうとしている。
 幸いまだ被害者は出ていないので、急行して人々との間に割って入れば、そのまま戦闘に持ち込むことで被害を抑えることが出来るだろう。
「エインヘリアルも、戦闘になればまずはこちらを排除しようとするはずです」
 そこで撃破すれば、被害はゼロで済むはずだと言った。
 ではエインヘリアルについての詳細を、とイマジネイターは続ける。
「砂で作り上げた刃で攻撃してくるようですね」
 能力としては、剣撃による近単ブレイク攻撃、砂塵を起こす遠列氷攻撃、剣を二刀に分けて斬り込んでくる近単パラライズ攻撃の3つ。
 各能力に気をつけてください、と言った。
「街も人の命も守れるように、頑張ってきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)
八柳・蜂(械蜂・e00563)
鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)
毒島・漆(魔導煉成医・e01815)
高辻・玲(狂咲・e13363)
御船・瑠架(紫雨・e16186)
ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)
ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)

■リプレイ

●対敵
 ケルベロス達は、夜の市街地を現場へと疾駆していた。
 大通りを進めば、既に遠目に1体の巨躯が見えてきている。
 ラグナシセロ・リズ(レストインピース・e28503)は速度を上げながら、人の姿ではなくなった敵の威容に、呟きを零した。
「しかし、才能ある方があのような姿になってしまうとは……」
「とんだ白羽の矢が立ったもんだな」
 鳥羽・雅貴(ノラ・e01795)も、緩い口調ながら、どこか面白くなさそうな風合いでもある。
 頷く御船・瑠架(紫雨・e16186)も、その表情は静かだ。
「才能を認められないのは、お辛いことでしょう。ですが、それがこのような顛末を招いてしまうとは……上手く立ち行かぬものですね」
「本当、人の心の隙間につけ込むなんて、狡いわね。──紫のカリム」
 八柳・蜂(械蜂・e00563)は、元凶であるその存在に思考を向け、かすかに嫌悪感を見せる。
 それでも、目の前の敵を倒さなければいけないことは、分かっていた。
 ラグナシセロはまっすぐに前を見据える。
「せめてこれ以上の犠牲は、防がなければなりませんね」
 その言葉に皆は頷き、全力で、敵へと向かう。

 道の中央に現れた巨躯、エインヘリアルは、砂の剣を振り上げていた。
「これが、俺の力だ」
 騒乱に見舞われる人々を、見下ろしながら。巨躯は刃と自身を誇示するように、今まさに殺戮の刃を下ろそうとした。
 が、その時だった。
 振られた剣は、滑り込んだ影によって、阻まれる。
「ふふ……罪もない人々の虐殺など、許すわけには参りませんよ……?」
 それは、自らの腕で刃を受け止めている、ロフィ・クレイドル(ペインフィリア・e29500)。どこか被虐趣味的な笑みを浮かべながら、人々の盾となっていた。
「その刃はこちらがしっかりと、受け止めさせて頂きます……♪」
「何だ、お前は──」
「私達は、ケルベロス」
 怪訝顔になった巨躯の、その視界に眩しい炎が閃く。
 それは、声とともに地獄の翼を噴き上げる、レクシア・クーン(咲き誇る姫紫君子蘭・e00448)。
 飛翔しながらも、蒼い地獄の炎弾『迦楼羅の炎』を無数に放ち、巨躯を炎上させていた。
 レクシアは翼を大きく広げ、燐光を輝かせながら声を響かせる。
「ここを通りたければ、まずはこちらの相手をしてもらいましょう」
「ええ、その通りでございます。貴方の相手は、我々ですよ……!」
 ラグナシセロも同時、彗星の如き光を描きながら飛び蹴りを入れる。さらに、瑠架も走り込んで鋭い回し蹴り。連撃で巨躯を後退させていた。
 この間に、毒島・漆(魔導煉成医・e01815)は周囲に呼びかけている。
「皆さん落ち着いて下さい! こいつは俺たちが抑えます!」
「ああ、兇徒の相手は番犬が務めよう。必ず阻むから、安心して避難を」
 声を継ぐのは、高辻・玲(狂咲・e13363)。雅やかに、しかし確かな宣戦布告の意志を表すように、声を届けていた。
「怪我しないように、慌てず行動してくれよ」
 次いで、雅貴も声をかけていくと、人々は早々に退避を始めていく。
 体勢を直したエインヘリアルは、ようやく事態を理解したようだった。
「ケルベロス、か。人が危なくなると現れるってのは本当なんだな」
「ええ。人々を傷つけさせるわけにはいきませんから。ここで、討たせていただきます」
 そう言った漆は、黎刀【憑呪】を行使。
 手甲型武装・装刀【腕】に昏い呪詛を纏わせると、陽炎とともに掌打と貫手の連打を浴びせる。
 雅貴も日本刀で斬り込んでいくと、その隙にロフィは『血色の雫が下垂る日』。呪言とともに血流を生むことで、自己の傷を回復していた。
 蜂は周囲を確認して言う。
「戦いが及ぶ範囲からは、皆さん、逃げてくれましたね」
「──後は斬り合いのみ、というわけだ」
 応えた玲は、エインヘリアルに肉迫して、『紫電』を放っていた。
 それは、刹那の剣閃。斬撃か、あるいは戦いを求める意志そのものが顕現したか、判別できない程の衝撃が、巨体の腹部を切り裂く。
 たたらを踏んだ巨躯は、反撃に剣を振り上げる。が、そこへ蜂は『蜂毒』を放っていた。
「まずは少しだけ、おとなしくしていてもらいますね」
 それは、血液と地獄から生み出す毒針。鋭い一射はその腕を穿ち、麻痺毒を巡らせてその攻撃を阻止していた。

●剣戟
 エインヘリアルは腕を押さえて、暫し唸る。
 だが、痛みを強い戦意で押し殺すように、再度戦闘態勢を取り直していた。
「確かに、ケルベロスってのは強いな。でも、俺は負けない」
 言って握るのは、砂を流動させて作った大剣だった。
「砂の剣、か。興味深い、けれど──」
 玲はそう口を開きつつ、少し言葉に窮する。
 敵の背景を思うと、猛者相手だと言って単純には喜べない、そんな遣る瀬無さがあったのだ。
 エインヘリアルはしかし、半ば笑みを浮かべてみせる。
「鋭い剣だろ。これなら、どこへ行っても注目の的かもな」
「……注目を浴びるなら、なんでもいいのでしょうか」
 蜂はふと目を伏せて、返していた。
「あなたは、人を傷つけるためのそれじゃなくて……人を楽しませられる、綺麗なモノを作れるのに」
「ええ、このような形で注目を浴びたとしても。これはあなたの本意ではないはずだ」
 瑠架もそう声を継いでみせる。
 それにエインヘリアルは、笑みを消して俄に怒りを浮かべた。
「……知ったようなことを。俺にとっては、今のほうがよほどマシなんだ」
 そして感情のままに、走って接近してきた。
 玲は一度目を閉じる。
「芸術ではなく暴虐で目立っては、本来の才も形無しというもの。──残念だけど、こうなっては最早……君の望みも刃も、何一つ通す訳にはいかない」
 瞬間、地を蹴って肉迫すると、真正面から疾風の如き斬撃。
「雅貴君──」
「ああ、わかってるさ」
 同時、玲に応えるように、雅貴は巨躯の後背を取っていた。
 腐れ縁ながら、互いの得手は熟知したように。玲が正面から行くならば、雅貴は死角から強襲して、『閃影』。
 小さな詠唱から繰り出される影より生じた鋭刃は、巨躯に存在を悟らせる間もなく、強烈な斬撃で血を散らせていた。
 エインヘリアルは反撃に剣を振る。が、その一撃は、蜂が腕で庇い受けていた。
 地獄化された左腕は、紫の炎を揺らめかせて痛みを伝える。しかし蜂は、肉を切らせて骨を断つように、鎖を放って巨体を縛り上げた。
「今です、攻撃を」
「ええ、お任せください」
 応えて、低空を飛翔するのはレクシア。翼の地獄を推力にするように接近すると、敵の面前で着地してエアシューズを駆り、火花を上げながら背後へ。
「ちっ……!」
「させません。速度なら、負けませんから」
 そのまま、反応しようとする巨躯よりも早く、レクシアは縦横に刃を奔らせていた。
 この間に、ロフィは再び自らの血を宙に昇らせ、赤い川を作り上げている。
「赤、緋、紅い水。命を抱きし紅い水。再生せ燦たる紅い水──」
 祝詞のように読み上げる呪言とともに、それは蜂に注がれてゆく。赤々とした色は、しかしその魂までもを修復するように、体力を持ち直させていた。
 さらに、ロフィのテレビウムであるクーも、メイドらしい楚々とした仕草で、画面を光らせて治癒を進めている。
「では、反撃はお願いしますね」
「了解しました」
 と、そこでロフィに声を返すのは漆。巨躯へと疾駆していた。
 エインヘリアルは無論、攻撃を狙ってくる。だが漆は白衣を翻して一気に懐に肉迫。装刀の指先を鋭い刃に変化させていた。
「申し訳ありませんが連続で行きますよ」
 瞬間、貫手を放つように、斬撃を含んだ打撃の連打。全身に傷を刻んだ。
 そこへ、高空からラグナシセロが視線を落としていた。
「流れ変化する砂も、凍らせてしまえば怖くはないでしょう──行きますよっ」
 言うと、まるで夜に光る星のように瞬く。刹那、光を眩い光線にして発射。流星を落とすように、敵の手元を凍結させた。
「瑠架様、連撃をっ!」
「ええ」
 応ずる瑠架は、刀を抜いていた。
 その刃は霊魂が集い、黒く染まっている。己が斬り殺してきた者達の怨念だ。
 それは、己へ向けられた恨み辛みすら力として利用する外法の一端。だがそれが往く道であるならば、瑠架は手段は選ばない。
 瞬間、一太刀。慈悲のない斬撃が胸部を裂き、巨躯に鮮血を流させた。

●闘争
「ちっ……俺は、押されてんのか……」
 エインヘリアルは、自分の血に目を落としながら、憎らしげに呟いていた。
「ついてないな。折角、もう悩む必要も苦しむ必要もなくなったのに──」
「煩悶からは解放されても、な」
 と、雅貴は刀を肩に乗せ、緩く首を振っている。
「悪意に染まって、目的も手段も違えちまったら元も子もない」
「そうですよ。その砂は人々を傷付けるものではない──あなたの行いが、あなたの芸術に泥を塗る行為だということに、なぜ気付かないのですか?」
 瑠架も諭すように、言葉を続ける。
 だがエインヘリアルは、歯を噛んで刃を握りしめるばかりだ。
「……その芸術は、世間に俺を認めさせなかった。だから、俺にはこれしかないんだ」
「そうかい。……こんな形で選ばれちまったのは、そりゃ災難だケドよ。殺戮で注目浴びてそれで満たされようなんて、悪いケド認められねー。その目論見は、崩させて貰うぜ」
 雅貴は言うと同時、疾駆。敵の剣閃の届かぬ位置から跳躍し、頭上を越えた位置から炎の幻竜を撃ち当てていた。
「巨剣と正面から、やりあわねーさ。玲も、オレを見習っていいんだぜ」
「搦め手の類は君に譲っておくよ」
 軽口に返した玲は、真っ向から敵と鍔迫り合い。数間の後、敵の刃を弾き、刺突を喰らわせた。
 そこへ、蜂も素早く疾走している。
「私達も、行きましょう」
「ええ、合わせます」
 応える瑠架は、刀で袈裟の斬撃。同時に、蜂は壁を蹴って体を翻し、炎を纏った鎖で刺すような一撃を見舞った。
 たたらを踏む巨躯は、それでも砂塵で前衛に反撃してくる。
 が、それには、ロフィが踵を鳴らして花のオーラを舞わせていた。
「今すぐ、回復します。……それにしても、全身に衝撃を受けながらの踊りは格別ですね……♪」
 砂塵のダメージをその身に受けつつも、恍惚とした表情で踊れば、そのオーラが砂を吹き飛ばし、前衛を癒していく。
「では、俺も支援を」
 同時、漆も治癒のグラビティを天に昇らせていた。
 癒しの水滴となったそれは、清浄な雨として広く降り注ぐ。それが全ての砂塵を洗い流し、仲間を万全状態に整えていた。
「回復はこんなものでしょうかね。攻撃の方は、ひとまずお任せしますよ」
「ええ、全力で行かせていただきますっ!」
 漆に声を返し、体を光へと変遷させているのはラグナシセロだ。
 そのまま無数の星のような、輝く粒子へと変化。銀河の如き光の塊となったラグナシセロは、凄まじい速度で突撃。巨体の腹を貫くと、光から孵ったように人の姿へと戻っていた。
「が……っ」
「まだ、終わりではありませんよ。──追い縋る者には燃え立ち諌め、振り離す者には燃え上り戒めよ。 彼の者を喰らい縛れ――迦楼羅の炎」
 血を吐いたエインヘリアルへ、レクシアは手を突き出している。
 声とともに放たれた蒼の炎弾は、全弾が命中。敵の生命力を燃料に燃え盛りながら、巨体を吹っ飛ばしていた。

●決着
 倒れ込んでいたエインヘリアルは、這うようにして起き上がる。そこに残っているのは最早、狂的な表情だけだった。
「皆殺しだ……全員、殺してやる……!」
「いいえ。そんなことは、絶対にさせません」
 ラグナシセロは高く飛びながら、毅然と声を落としていた。
「何があっても、凶行に及んでいい理由にはなりません。ですから人も街も──我々が守ってみせますっ!」
 同時、星屑の光を零しながら豪速で滑空。強烈な蹴りで体力を奪っていく。
 巨躯はがむしゃらに斬り込んでくる。が、その一刀は、地獄をたなびかせて飛んだレクシアが防御。髪に咲くトリテレイアの花言葉『守護』を体現するように、仲間の壁となって、耐えきってみせていた。
 周囲に舞う火の粉を映す青い瞳で、レクシアはまっすぐに敵を見据える。
「簡単に手出しはさせませんよ」
 そのまま刃で無数の斬撃を叩き込むと、皆へ振り返る。
「護りは任せて安心して攻めてください!」
「では、お言葉に甘えさせていただきますね」
 応えたロフィは、敵へ接近。クーがレクシアを回復する間に、自身は空手を踏襲するような、重い拳の一撃。自身をも痛めつけるような激しいダメージを与えた。
 よろめくエインヘリアルは、呻くように毒づく。
「くそ……どうして……俺が……」
「あなたがそうなってしまったことには、罪はないけれど。……ごめんなさい」
 蜂は静かに言いながら、それでも攻撃の手は止めず。蜂毒を体内へと打ち込んでいた。
「ああ、芸術を生んできたその手が、血に穢れ罪を生む前に。切り崩させて貰うよ」
 玲も声を継ぎながら、神速の一閃、紫電で袈裟に斬っていく。
 同時、雅貴も雷撃を伴う刺突。腕部を貫き、剣を取り落とさせていた。
「そろそろだな。頼むぜ」
「ええ」
 応えた漆は、装刀の手刀部を刃に変化。巨躯へ走り込みながら跳躍し、弧を描く剣撃を叩き込んでいた。
「これで本当に、終わりです」
「──どうか安らかに」
 そこへ、瑠架は『黄泉葬送』。嘗て斬り殺してきた者達の怨念を刃に纏わせて、十字に斬り裂いた。
 怨嗟のたゆたう斬撃は重く鋭い。巨体を違いなく両断し、霧散させていった。

「では、ヒールをしておきましょうか」
 戦闘後。漆の言葉に頷き、皆は周囲を修復。人々も呼び戻し、街に平和と賑やかさを取り戻していた。
 皆はそれから、青年が居た場所だった浜辺に立ち寄る。
 レクシアはそこに、砂で出来た荘厳な楼閣を見つけた。
「これが、あの方のサンドアート……美しいですね」
「ええ、とても素敵です」
 ラグナシセロもそれを見て、素直に言っていた。
 砂の城は未完成であるものの、非現実的な美麗さがある。
 だが、強風が吹くと、砂はさらさらと散っていく。土台も不安定であり、おそらく、長く形は保てないだろう。
「砂上の楼閣……とは。なんとも皮肉ですね……」
 瑠架は呟くと、その跡の前で祈り、青年への黙祷を捧げた。
 雅貴もまた、暫し目を閉じて、弔いを上げる。
 レクシアは静かに口を開いた。
「こうして後手に回ってしまうのは悔しいですね……」
「ああ。人の心や才を、徒に弄ぶ元凶……一刻も早く断たなくては、ね」
 応える玲も、楼閣の跡に花を供えていた。
 目を開けた雅貴も呟く。
「そうだな……さっさと突き止めてやりたいもんだ」
 それから、暫しの後にロフィは踵を返す。
「では、帰還しましょうか」
 それに皆も頷いて、三々五々、浜辺を去り始めた。
「……」
 蜂は最後に一度、浜へ振り返る。
 崩れ行く城はただ静かに、他者の目に触れず。空に砂の粒を舞わせていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月23日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 0
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。