太極の拳

作者:崎田航輝

 竹林の中に朽ちた石畳が広がっている。
 山中の廃墟。建物らしきものもあるが、それがいつのものかも分からない、寂れた一帯。
 その中でひとり修行に励むものがいた。
「……ふっ! はっ!」
 裾の長い衣服を纏った青年である。手には曲刀を携えて、徒手だけではなく剣術も交えた攻撃を、断続的に竹に打ち込んでいた。
 それは独特の呼吸法から、静と動のリズムで攻撃を繰り出す格闘法。中国武術である太極拳を元に作り上げた、実戦武術であった。
「まだまだだな。だが、これがあらゆる戦法の中で最強なのは間違いない」
 青年は息をついて修行不足を実感する。だがすぐに、その高い目標へ邁進するように、修練を再開した。
 と、その時だった。
「お前の最高の『武術』、見せてみな!」
 言葉とともに、突如背後から現れた者がいた。
 それはドリームイーター・幻武極だ。
 その瞬間に、青年の体は操られたように動き、勝手に幻武極に技を打ち込んでいた。
 しばらくすると幻武極は頷いた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 そうして、言葉とともに青年を鍵で貫いた。
 青年は地面に倒れ込む。するとその横に、1体のドリームイーターが生まれた。
 それは、細身ながら力強い膂力を窺わせる武術家の容貌。
 拳で竹を砕き、刀では真っ二つにする。その姿は正に、青年が理想とする格闘家の姿であった。
 幻武極はそれを確認すると、外の方向を指す。
「お前の力を存分に見せ付けてきなよ」
 ドリームイーターはひとつ頷くと、林を歩いて出ていった。

「集まって頂いて、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロス達に説明を始めていた。
「本日は、ドリームイーターが出現したことを伝えさせていただきますね」
 最近確認されている幻武極による事件だ。
 幻武極は自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとしているのだという。今回の武術家の武術ではモザイクは晴れないようだが、代わりに武術家ドリームイーターを生み出して暴れさせようとしている、ということらしい。
 このドリームイーターが人里に降りてしまえば、人々の命が危険にさらされるだろう。
「その前に、このドリームイーターの撃破をお願いします」

 それでは詳細の説明を、とイマジネイターは続ける。
「今回の敵は、ドリームイーターが1体。場所は東北にある山林です」
 竹林の茂る、廃墟の見える一帯だという。
 一般人などの被害を心配する必要もないので、戦闘に集中できる環境でしょうと言った。
「皆さんはこの山中へ赴いて頂き、人里に降りようとしているドリームイーターを見つけ次第、戦闘に入って下さい」
 このドリームイーターは、自らの武道の真髄を見せ付けたいと考えているようだ。なので、戦闘を挑めばすぐに応じてくるだろう。
 撃破が出来れば、青年も目をさますので心配はない、と言った。
「戦闘能力ですが、被害にあった青年の方が理想としていた武術を使いこなすらしいです。太極拳を元にした拳法らしく、中々強力ではあるようですね」
 能力としては、掌打や蹴りによる近単足止め攻撃、斬撃による遠単捕縛攻撃、舞うような連撃による遠列ジグザグ攻撃の3つ。
 各能力に気をつけておいてくださいね、と言った。
「敵は使い手……とはいえ、皆さんもお力では引けを取らないはずですから。是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)
三和・悠仁(憎悪の種・e00349)
クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)
パトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)
ドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)
アイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)
鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)
ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)

■リプレイ

●対峙
 ケルベロス達は竹林に踏み入っていた。
 場所は既に、敵の出現予測地点の近く。皆は警戒のもとに探索をしていた。
「……向こうの方から音が聞こえるわ」
 そこで、遠くを指し示すのはアイオーニオン・クリュスタッロス(凍傷ソーダライト・e10107)。冷静な表情で、その違和感を確かに感じ取っていた。
 聞こえるのは、足音。戦意に満ちたように人里の方向を目指している。
「間違いなさそうですね」
 三和・悠仁(憎悪の種・e00349)がそちらへ歩を進めると、皆も続いて移動を開始。
 そして、しばし廃墟を進んだその先。
 竹林の間を歩く、1体の影を見つけたのだった。
『……何奴だ』
 そう言って振り返る人影。中国の拳法着に身を包んだ、武術家のドリームイーターだ。
「ケルベロスだよ」
 と、そこへ踏み出すのはドールィ・ガモウ(焦脚の業・e03847)。
 挑発するように、腕を突き出してみせていた。
「武術と言うには我流が過ぎるが、俺も喧嘩にゃ自信があってな。どうだ、どっちが上か、俺達と試してみねェか?」
『……戦いを望むか。都合がいい』
 それに、ドリームイーターも笑みを浮かべて、構えを取る。
『この最強の武術。受けて生きては帰れんぞ?』
「うん。いいじゃない、その感じ」
 すると、それを見てうきうきと言う者がいる。ユリア・ベルンシュタイン(奥様は魔女ときどき剣鬼・e22025)だ。
 武術家ドリームイーターとの戦いを好んだ結果、既に同様の討伐は7戦目。今回もまた、戦いを前に怯むでもなく、わくわくとした様相を浮かべていた。
「己の信じる武術を突き詰めた、その理想の体現! やっぱりこういう正統派が一番だわ!」
「そうだね。ゼヒその実力を、存分に見せてもらわなきゃね!」
 声を継ぐゼロアリエ・ハート(晨星楽々・e00186)もまた、強敵の威容に飲まれることはなく。楽天家の性格のままに、期待感を滲ませていた。
 そして、そこには油断もない。敵の構えに同じく、こちらも大鎚を掲げていた。
「──まあこっちも、手加減するつもりも、負けるつもりも無いけど!」
『いいだろう。その全てを打ち砕いてくれる!』
 ドリームイーターはそれを開戦の合図に、地を駆けてくる。
 が、直後にそこへ、風の唸りが接近してきた。
 翼を駆って豪速で飛来する、クロハ・ラーヴァ(熾火・e00621)。
「先手は、譲りませんよ」
 声音はどこまでも沈着に、しかし攻撃は苛烈に。ブラックスライムを槍のように飛ばすと、ドリームイーターの足元を激しく穿ち、前進を止めさせた。
 そこへ、ユリアも二刀を抜き放って衝撃波を飛ばし、ゼロアリエも砲弾の射撃を加えていく。
 ドリームイーターは体勢を直し、掌底を打ってきた、が。
「簡単に、攻撃は通させないよ」
 言葉とともに滑り込み、その衝撃を真正面から受け止めた影がある。
 鏑木・郁(傷だらけのヒーロー・e15512)。防御態勢で衝撃を軽減しながら、霊力を込めた紙兵を手に携えていた。
「まずは回復と──それから態勢も整えさせてもらうよ」
 即座にそれを撒くと、前衛を淡い光で包み、自己の回復と仲間の守護を兼ねていく。
「デハ、回復の仕上げはワタシがしておきマスネ」
 と、治癒の力を集中しているのはパトリシア・バラン(ヴァンプ不撓・e03793)。
 その力で郁の分身体を生成すると、そこに傷を吸収させて浅いダメージを完治させていた。
「コレデ完璧デスネ。反撃はお願いシマスね」
「ええ」
 短く応えたアイオーニオンは、白衣を翻し、ドリームイーターへ飛び蹴り。
 連続して、悠仁も“凝魂塊マスカルウィン”を流動させる。その魔塊は、内在する負の感情を顕すようにどす黒く、敵の足元を飲み込んで捕縛した。
 動きの止まったドリームイーターへ、ドールィは『ドラゴンサマーソルトD』。
「挨拶代わりだ。特大の一発を噛ましてやるぜ」
 それは増幅させた両脚の地獄とともに、宙返りで叩き込む猛烈な蹴り技。
 逆巻く焔とともに襲った衝撃は、剛暴にして痛烈。ドリームイーターの顎を打ち、地に膝をつかせていた。

●闘争
 ドリームイーターは、口元の血を拭い、立ち上がる。痛みに顔をしかめてもいたが、すぐに興味深げな様相を浮かべた。
『成る程、素晴らしい強さだ。これなら、我が武術を見せるにふさわしいというもの』
 そうして、曲刀を手に取る。
『小手調べはここまで。至高の武術、その境地を見せてやる』
「境地、ですか」
 と、クロハはそれに声を返していた。静々と、同時に鋭く。
「それは人間の青年が求め、辿り着こうとしたものですよ。他人が、それも夢喰いなぞが手を出して良いものではない」
 瞬間、低空で飛翔すると、一気に速度を上げた。
「ですから──退場願いましょうか、我らの世界から」
 そのまま繰り出すのは、地獄の炎を揺らめかせる連続の蹴撃。その技、『炎舞』は文字通り炎が踊るように、陽炎の中で視認すら困難な乱打を与えていた。
 ふらつくドリームイーターに、悠仁は地を蹴って頭上を取っている。
『く──』
「遅い。お前は、この一撃を避けられないだろう」
 顔を上げる敵を見下ろし、悠仁は呟く。
 嘗て失った育ての親、親友達、仲間、居場所。戦いに向かう悠仁の心はただ、デウスエクスと、無力だった自身への憎悪と復讐に駆り立てられる。
 グラビティを篭める脚装、“凝念靴サクルフ”も、また魔に堕ちた代物。戦うほどに鋭く、悍ましく。黒色の衝撃を伴って、ドリームイーターを吹っ飛ばしていた。
 ドリームイーターはそれでも、起き上がりざまに刀を振るう。
 が、ユリアもそこに刀を打ち、鍔迫り合いを演じた。
「剣もこんなに強いのね。武芸百般の中国武術、とっても素敵!」
 敵の膂力を感じながら、零す声は、楽しげに。
「――こんな感じかしら?」
 次の瞬間、剣閃を真似るように、ユリアはドリームイーターの刃を弾く。
 そのまま返す刀で『剣理』。無造作で、同時に強靭な斬撃を放った。
 ユリアは剣術を修めたことはない。携える刀も安物だ。しかし道理の通じぬ剣筋は、それ故に読みきれず、ただ強く。ドリームイーターの腹部を裂き、鮮血を散らせた。
 ドリームイーターは呻きを零すが、それでも連撃を放つ。
 だがそれも、ドールィが竜爪で受け止めていた。
「あくまで拳と剣技に拘るか。面白れェ。それなら──こっちも付き合ってやる!」
 ドールィはそのまま刃を押し返すと、逆に攻めに転じ、爪撃。深い一撃で、胸部を抉る裂傷を刻み込んでいた。
「支援は任せてクダサイネ。肉壁以外の方法でチームを支えるのは初めてダケド──仕事はきっちりさせていただきマスカラ!」
 直後には、パトリシアがグラビティを集中。
 ドールィの全身を淡く光らせて保護すると、傷を溶かしていくように回復させていた。
「誰一人倒れさせないカラ、安心してイってチョウダイ!」
「よし、ついでにリューズも回復だ! ……ってあれ? もうやってる?」
 次いで、ゼロアリエもウイングキャットのリューズに指示を出している。が、リューズは主を無視してさっさと前衛を治癒。言われなくてもやってるとばかり、ツンとした顔を一度ゼロアリエに向け、すぐに逸らしているのだった。
 ゼロアリエはちょっと寂しそうな顔をしつつも、気を取り直して敵へ飛び蹴り。
 アイオーニオンも追随するようにブラックスライムを流動させていた。
「此方が学んでるのは医術くらいだけれど。それで良ければ、受けてみなさい」
 淡々とした声とともに放たれたそれは、しかし神経を侵すようにドリームイーターの体内まで浸透。全身を侵食するように深いダメージを与えた。
『おのれ……ッ』
「おっと、やらせるか!」
 拘束から逃れようと、曲刀を縦横に振るうドリームイーター。郁はそこに飛び込むと、乱打をいなしながらゼロ距離へ接近していた。
 同時、縛霊手にグラビティを篭め、腕を振りかぶる。
「歯でも食いしばっててくれよ──!」
 そのまま、強烈な掌打で一撃。体内に霊力を巡らせると、それを炸裂させるように表皮を裂き、ドリームイーターを転倒させていた。

●意志
 地に手をついて起き上がるドリームイーター。
 その顔は納得できぬとばかりに歪んでいた。
『何故だ……この武術は最強のはずだ。苦戦を強いられるなど……』
「武術自体が強いのは分かるケド。結局、ドリームイーターに作られた紛い物じゃあネェ」
 パトリシアが肩をすくめると、ドリームイーターは馬鹿な、と顔を上げる。
『紛い物ではない……ッ! この拳、この剣は本物だ。わからぬか、この武術の崇高さが』
「拳法それ自体は無論、興味深いですよ。それに、生物の根底にあるステゴロを求める欲求──力を力で制したいという考えも、中々好ましい」
 クロハはそれにも静かに、口を開いていた。
 それから目を細める。
「ですが──それを成すのは夢喰いではありませんね。そもそも血の滲むような鍛錬を横から掠め取るような真似など、行儀が悪い」
「そうね。修行してる本人の意思そっちのけで勝手に理想の形を生み出すなんて、ただ無粋なだけ」
 アイオーニオンも声を継ぐと、郁も頷いている。
「力を肯定するその気持ちは、分からないでもないけどな」
 郁はそれから少し拳を握って、敵の顔を見据えた。
「でも、だからこそ。強くなる為に日々精進してる身としては──純粋に強さを追求している人の情熱をこういう形で利用するのは、許せないんだよ」
『……戯言をッ……ここにある力、それが全てだッ』
 ドリームイーターは反抗するように、走り込んでくる、が。
「やはり、きつい仕置きが必要なようだ」
 クロハは一度首を振ると拳で打突。敵の勢いを殺していた。
 そこへドールィも肉迫し、グローブに地獄を纏わせる。刹那、回避も叶わぬ速度の拳を腹部に見舞っていた。
『がっ……!』
「それで終わりじゃねェだろ。全力を出してみろ」
 ドールィが言うと、ふらついていたドリームイーターは歯を食いしばり、刀を振るう。
 だがユリアは、その刃を刃で弾いていた。
「その調子よ。もっと、この時間を楽しみたいもの。だから──うまく受けて頂戴ね?」
 楽しげに言うと、踏み込んで斬撃。二刀で胸部を切り裂いた。
 血を散らしながらも、ドリームイーターは舞うような連撃を放つ。
 だが、前衛を襲ったそのダメージを、パトリシアが花のオーラを散らせて回復していた。
「持っててよかったフェアリーブーツ、って感じダワ」
「それにしても、案外搦め手な攻撃もしてくるのね」
 アイオーニオンがふと言うと、ゼロアリエは目をキラキラと輝かせて敵を見ている。
「やっぱり太極拳はカッコイイね! 俺もこう、少し応用できないかな──っと!」
 言いながら、自身も大鎚を振るい、打撃。まるで演舞のような連続攻撃を放っていた。
「おお、映画みたいでカッコイイかも?」
「よし、このまま連撃で行こう」
 追随する郁は、そのまま走り込んで、氷の魔力を宿した蹴撃。さらに、アイオーニオンも冷たい光を放って敵の動きを鈍化させていた。
『く……俺の力は、こんなものでは──』
「……愚かだな。自らの力を見誤れば、そこにあるのは闇だけだ」
 無理矢理に前進を試みるドリームイーターに、悠仁は言い放つ。
 そして“凝骨斧セザルビル”で縦一閃。慈悲のない斬撃で、脳天から体力を刈り取っていく。

●決着
 血だまりの中で、ドリームイーターはゆらゆらと起き上がる。
『見誤ってなど……この武術は、どんな戦法よりも強いのだ……』
「確かに、すごく強いと思うよ。でも、コッチは仲間がいるから、連携すれば負けないよ!」
 ゼロアリエは声を返すように『紫電』。打撃とともに凄まじい閃光を放ち、多重のダメージを与えていた。
 同時、ユリアは再び剣理を示す。柔和な見た目に、斬り合いを愛する剣鬼の内面を滲ませて放つその剣撃は、苛烈そのものだ。
「ふふ、最後まで全力で、行きましょう?」
「じゃあ、此方の医術の一つを見せようかしら」
 応えたアイオーニオンは、氷のメスによる斬撃、『氷葬執刀』。敵の胸部を切り開き、同時に神経も凍結させていく。
 ドリームイーターは血を吐きながらも拳を打ってくるが、ドールィは竹林を盾に衝撃を緩和。
 直後にはパトリシアが治癒のミストを注いでいる。
「ほぼ回復できたはずデス」
「悪りィな、これで派手に動けるぜ」
 返したドールィは炎の蹴り。敵が下がるとさらに膝蹴りと前蹴りを畳み掛け、吹っ飛ばした。
 そこへ、悠仁は『八針爾取辟久』を行使している。
「祓われ流れた不浄の掃き溜め。打ち捨てられた罪に穢れ。怨み憎んだ悪念の果てよ。嗤え──遂に今、求められたのだと」
 それは神聖な儀式に呪詛と地獄を籠め、殺傷用の呪法に仕立てる外術。
 その呪いは歪な植生となって襲いかかり、ドリームイーターの片腕を裂き、霧散させる。
 同時、クロハは蹴りの応酬で敵を地に叩き付けていた。
「我らは番犬、楯突いたことを地獄の底で後悔するが良い」
『まだ、だ……』
 ドリームイーターは這うように手を伸ばす。
 郁はそこに、力を込めた拳を放っていた。
「悪いな。俺達も、救わないといけない人がいるんだ」
 意志の内在した打撃は、ドリームイーターを直撃。その体を千々に散らせていった。

 戦闘後、皆は青年の元へ赴き介抱した。
「大丈夫ですか?」
 助け起こすクロハに、青年はありがとうございます、と礼をして起き上がる。意識ははっきりしていて、その体も至って健常だった。
「デウスエクスに関心を持たれるほどの武術、感服いたしました」
 と、悠仁は微かに興味を惹かれて口を開く。
「元があるとはいえ、我流ともなれば練り上げるに要した努力は並大抵のものではないはず……何か、鍛え始めた切っ掛け等はあったのですか?」
「強い戦士に憧れただけですよ」
 応えた青年は、元々ケルベロスの存在に触発されて、その高みを目指したと語っていた。
 ユリアはぽんと手を合わせ、笑む。
「とっても、素敵だったわ。……ねえ、良かったら続きをしない? ダメ?」
「俺も、武術見せてもらいたいかも! 自分の攻撃に応用するんだ~……って何リューズ、その顔は」
 ゼロアリエは、じとっとした目のリューズを見つつ言っていた。
 パトリシアも頷く。
「ソウデスネ。手合わせならご本人に、とワタシも思っていたところデス」
「……自分で良ければ」
 と、青年はそれらに応え、皆と剣戟を演じたのだった。
 一段落したところで、ドールィは言った。
「武術が満足行く出来になったらでもいい、またいつか勝負しようぜ? 今度は一人の格闘家として、相手になってやらァ」
 青年は真摯に頷き、また改めて皆に礼を言っていた。
 それから皆は場をヒール。それも終わると郁は歩き出した。
「じゃあ、帰るか」
「ええ」
 アイオーニオンも応え、皆もそれに続く。
 平和となった竹林は、静謐の中で風に揺れていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 6/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 0
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