甘花の丘

作者:崎田航輝

 木々を抜けると、なだらかな丘が広がっている。
 そこは爽やかな風の吹く、自然の楽園だった。町からは遠くないものの、人工物もなく、連なる丘に無数の花が咲き誇っている。
 この時期花開くのは、スイートアリッサムの花々だ。
 小さく真っ白な花弁を持つ花で、甘い香りを漂わせている。丘に広がる様は、白くて美しい絨毯のようにも見えた。
「こんな場所あったんだ。凄いなあ」
 と、それを1人の少年が眺めている。幼さの残る少年は、探検もしたい年頃。学校帰りに道草をしていたらここにたどり着いたのだった。
「何だか、絵みたいな世界。これ、何の花だろ?」
 少年は感心するように、スイートアリッサムの花を覗き込んでいる。
 と、そんな時だった。
「自然を破壊してきた欲深き人間が、花を眺めるとは愚かしい。──自らも自然の一部となりこれまでの行いを悔い改めるがいい」
 言葉とともに、そこに、1人の人影が現れた。
 羽のような植物を生やした人型攻性植物、鬼薊の華さまだ。
 彼女はスイートアリッサムへ、謎の花粉を振りかける。
 するとそれは巨大化して蠢きだし、攻性植物化。少年を捕らえ、体内に取り込んでしまった。
 鬼薊の華さまはそれを満足気に見ていた。
「そのまま人間を襲い、暴れてくるがいい」
 それだけ言うと、立ち去ってしまう。あとに残ったのは、甘い匂いを香らせる、異形のスイートアリッサムだけだった。

「集まっていただいてありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、集まったケルベロスたちに説明を始めていた。
「本日は攻性植物の事件について伝えさせて頂きますね。人型攻性植物が、独自の人類絶滅計画のために動いているらしい事件の1つで……今回はそのうちの1体である、鬼薊の華さまが、起こしたものです」
 鬼薊の華さまは丘に咲いていた花を攻性植物化。その花が少年を取り込み、宿主としてしまった状態だという。
 放置しておけば、少年は助からないだろう。
 だけでなく、そのまま人々を襲ってしまう可能性もある。
「皆さんには、この攻性植物の撃破をお願い致します」

 それでは詳細の説明を、とイマジネイターは続ける。
「今回の敵は、人間に寄生した攻性植物が1体。場所は丘です」
 自然の風景が広がる一帯であり、他の一般人はいない。
 戦闘中も人が介入してくる心配はないので、避難誘導などを行う必要はないだろうと言った。
「戦闘に集中できる環境と言えるでしょう。ただ、今回の敵は、一般人の少年と一体化している状態となります」
 普通に攻撃して倒すだけでは、攻性植物と一緒にその少年も死んでしまうことでしょう、と言った。
「しかし、作戦によっては、助け出すこともできるかもしれません」
 それがヒールを使った戦い方だという。
 相手にヒールをしていくことで、少しずつ、深い傷だけを蓄積させていく。そうやってヒール不能ダメージで倒すことによって、攻性植物だけを倒して少年を救える可能性があると言った。
「ただ、敵を回復しながら戦うので、簡単ではないでしょう」
 試みるなら、しっかりと戦法を練って臨む必要はあるでしょう、と言った。
「では、攻性植物の能力の説明を。蔓を伸ばしてくる近単毒攻撃、炎状の光を飛ばしてくる遠単炎攻撃、催眠効果のある香りを発する遠列催眠攻撃の3つを行使してきます」
 各能力に気をつけておいて下さい、と言った。
「きれいな風景に、悲しい事件は似合いませんから。少年の救出も含め、尽力して貰えればと思います」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)
フレア・ガンスレイブ(ガラクタ・e20512)
レヴィア・リヴァイア(海星の守護龍・e30000)
木乃枝・久遠(弁証論治のアンチノミー・e30308)
草津・翠華(地球人の鎧装騎兵・e36712)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)
戒業・誠至(地球人の鎧装騎兵・e40810)

■リプレイ

●対峙
 ケルベロス達は青空の下、広い丘に辿り着いていた。
 現場へ疾駆しつつも、穂村・華乃子(お誕生日席の貴腐人・e20475)はスマートフォンで検索しながら、花を見回している。
「あぁ、この花がスイートアリッサムって言うのね……名前、初めて知ったわ」
「甘い香り、ですネ」
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)も敵を目指しながら、その香りを確かめ、学習していた。
「しかし、こういった花を眺めるのハ、それこそ共生の証ではないのでショウカ──」
「奴らにそんな理屈は通用しないかもな」
 応えて前方を見やるのは、ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)。一つの丘を越えた先に、花の異形、攻性植物を見つけていた。
「“自然を破壊してきた欲深き人間”、か。まるで人間の様な言い方だが……言葉と違ってやっている事は然程面白くない」
「みんな、見て」
 草津・翠華(地球人の鎧装騎兵・e36712)が指す、その先。無数の触手と化した蔓の中に、少年が囚われているのが見えた。
 皆は頷き合い、一気に距離を詰めていく。
「必ず助けて見せます! 待っていてください……!」
 フレア・ガンスレイブ(ガラクタ・e20512)は近づく少年へと声を届ける。ただ、少年の意識は混濁しているようで、うなされるように顔を歪めるばかりだ。
「まずは出来ることをするだけか。行くぞ」
 戒業・誠至(地球人の鎧装騎兵・e40810)は目を細め、冷静に。髪の毛を後ろに纏めて結び、精神を戦闘に適する鋭敏なものへと切り替える。
 木乃枝・久遠(弁証論治のアンチノミー・e30308)は一方、あっけらかんと。白衣を翻して敵の面前に着地した。
「人型攻性植物も色々と、ご高説は結構だけど……。自分たちのためにどこまでもゴーマンになれるのが、人間なんだよネ」
 それからにまっと笑んで、花を見上げる。
「だから今回も、こっちの思い通りにさせてもらおっかな」
 攻性植物は、ケルベロスの姿を捉えると、まるで反意を示すようにわななきを上げてくる。
 それを、レヴィア・リヴァイア(海星の守護龍・e30000)も見つめていた。
「妾とて、海を愛せばこそ、草木も花も愛おしい。しかし滅ぶ者は滅び、そして新たに生まれ出ずるのが自然の摂理──」
 その言葉は、この攻性植物を作り上げた元凶に向いているようでもあった。
「下らぬ妄言なぞに付き合う義理も無い。妾の愛しき星の子を返して貰うぞ」

 それらに対し、攻性植物はただ、攻撃を狙って蔓を伸ばしてくるだけだった。
 が、それより一瞬早く、ヴァジュラが肉迫。自らの古傷に鉄塊剣を突き立てて地獄を解放している。
「命の取り合いに、小手調べは要らんぞ!」
 瞬間、剛烈な地獄の焔による『暴風龍砕鎧焔武』で、その蔓を焼き切った。
 レヴィアも間を置かずに飛翔。滑空しながら、勢いとともに爪撃を与えていく。
 攻性植物は後退する。が、同時に一層鋭く蔓を飛ばしてきていた。
 だが、それはレヴィア自身が防御態勢を取り、威力を軽減。
 直後には、翠華の発現した黄金の果実、そして誠至の癒しの雨によって傷も治癒していた。
「敵の傷は、まだ浅いな」
「そうだねー、ま、回復できるならしとこうか?」
 誠至にゆるく応えるのは久遠だ。よっ、と攻性植物へ近づき、手元に治癒の光を纏わせて蔓をつなぎ合わせていた。
 フレアも『サプリケイション』。集中治療用のドローンを飛ばして、攻性植物の浅い傷を完全に修復している。
「ひとまずは、これで猶予は出来たはずです」
「わかりまシタ。では俺は攻撃に移りマス」
 フレアへ返したエトヴァは、すらりと剣を抜く。
 そのまま沈着に間合いを計り、一閃。濃密なグラビティを篭めた斬撃で、根元を広く切り払った。
 バランスを崩しつつも、再度の攻撃を狙う攻性植物。だが、蔓の間を縫うように、華乃子が地を蹴って高速で肉迫していた。
「甘いわよ!」
 間近で放たれた蔓もひらりと躱し、跳躍して一撃。苛烈な踵落としで、攻性植物を横倒れにさせていた。

●意志
 体勢を崩した攻性植物だが、傷の蓄積はまだ少ない。虫が這うように流動すると、花に光を集める形態に変貌し、攻撃の機会を窺い始めていた。
 警戒を浮かべつつ、翠華は難しそうな顔でそれを見る。
「まだまだ撃破は遠いわね。小遣い稼ぎ程度に引き受けたけど……敵を癒しながら戦うなんて本当、難易度高くない?」
「簡単な仕事では、無いだろうな。だが困難であろうと、救う。必ずな」
 ヴァジュラは怯む様子も見せず。事実を述べるかのように、少年に視線を注ぐ。
 傍らのフレアも、強く頷いていた。
「ええ。絶対に救出します。それこそが、ケルベロスの在り方だと思っていますから」
 フレアはケルベロスに救われてケルベロスになった。
 だからこそ、信念は強く、銀色の瞳はまっすぐに敵に向いていた。
「敵を攻め滅ぼすのは守るため。私の原点は常に救う事、守る事。──だから、退きません」
「ならば俺もそれを全力を以て支えよう。レヴィア、行くぞ」
「わかりマシタ。連携して合わせマス──!」
 ヴァジュラが敵へ駆けると、レヴィアも頷いて、低空を飛んだ。
 そのまま、ヴァジュラは正面から鉄塊剣・暴風龍ルドラで殴りつけるような一撃。間断を作らず、レヴィアもゼロ距離に迫り、大斧で縦一閃の斬撃を加えた。
 攻性植物が苦しむようにいななくと、フレアは素早くドローンを展開。想いを共鳴させるように、治癒機構から一層眩い光を輝かせ、攻性植物を癒した。
 続けて、久遠も短いスカートを翻して、ジャンプするように接近。薬を塗るようにグラビティを浸透させ、攻性植物の深い傷以外を消し去った。
 依然意識の薄い少年へ、久遠は間近から呼びかける。
「がーんばれ、少年。生き残ったらおねーさんがいーコトしてあげるから♪」
 それはまるで道化じみた声音ではあった。が、つぶさに少年の様子を観察するその意識は、人命の救助へと全力が傾けられている証左でもある。
 華乃子も、拳を握りながら、少年へ声を伝えていた。
「今そこから出してあげるからね──」
 呻く少年から、返る言葉はない。だが、ほんの少しでも声が届いているのならば、その意志は通じているはずだった。
「──だから一緒に、頑張りましょう!」
 そのまま華乃子は『渾身の一撃』。凄まじい打撃で、花弁の数枚を吹っ飛ばす。
 攻性植物も、燃えたぎる光をヴァジュラへと放ってくる。だがヴァジュラはそれを、戦闘狂にふさわしい、昂ぶった笑顔で正面から受けきってみせた。
「熱い……だが俺を燃やし尽くすには足らんな」
「回復は、任せて」
 そこへ、即座に翠華が治癒の光を生み出す。光は魔法盾へと形成され、ヴァジュラを回復防護していった。
 同時、エトヴァは『Ein Resonanzwort』を行使している。
「Das Zauberwort heisst Schnee──」
 それは、グラビティ場を解析し、固有の振動数に声を同調させる事で共振を起こす能力だ。
 純度の高い声色は、共振によって自然治癒力を増幅。ヴァジュラの体力を万全に持ち直させていた。
「治療は完了デス。後は、攻撃をお願いしマス」
「ああ。──起きろ、オーヴェロン」
 応えて、アームドフォート・オーヴェロンを起動させるのは誠至だ。
 蝶を思わせる儚い燐光を生みながら、砲口から放つのは『モルフィン・コロージョン』。
「恐れよ、力ある者よ……!」
 瞬間、増幅させた重粒子のビームが命中すると、弾ける光の渦の中で蝶が舞う。その煌めきは攻性植物を蝕むように、傷を深め、動きを縛り、蔓の束を消し飛ばしていた。

●希望
 攻性植物は、バランスを崩しながら後退している。
 だがそれでは倒れず、今度は大地と融合する形態を取って、体と周囲に無数の花を咲かせていた。
 誠至はそれを窺いながら、冷静に思考を働かせている。
「あの傷の状態では、まだ撃破には時間はかかるか」
「エエ、ですガ、着実にダメージは与えられていマス」
 エトヴァも分析をしながら口を開く。
「焦らず確実に戦えバ、戦況はこちらに傾く筈デス」
 静かに語られた言葉。しかしそれは、確かな計算による確信でもある。誠至も頷いて、少年へと言葉をかけた。
「安心しろ、我々が必ず助ける。──未来を奪わせることなどはさせん」
「ええ、だからまずは確実に、ダメージを与えていくわよ!」
 呼応するように、華乃子は走り込んでいた。
 攻性植物は蔓を弾丸のように飛ばしてくるが、華乃子は地面を蹴ってふわりと飛び上がる。そのまま蔓を踏み台に高々と跳躍すると、縦回転をして一閃、刃物のような蹴りを叩き込んだ。
 ダメージが入れば、誠至は魔術切開で攻性植物を治癒する。
 久遠も素早く近づいて、連続で回復。敵の内部にグラビティを与えるようにして、切れた蔓や根元を修復していた。
「あっと、攻撃くるよー!」
 直後、久遠は気づいて声を投げる。攻性植物が花粉をばら撒き、前衛へ催眠を伴った衝撃を喰らわせてきていた。
 しかし、声に反応するように、エトヴァが即座に治癒の歌を歌い上げている。
『──』
 それは、柔らかな旋律。異国の言葉で語るように歌う、優しい声音だ。
 それが前衛を癒していくと、翠華も自身の攻性植物を広く解き放っていた。
「私も、支援させてもらうわね」
 言葉とともに皆の頭上へと広がったそれは、グラビティを栄養にするように、黄金の光を生み出す。零れるように降るその光は、前衛を暖かく回復し、健常な状態へと保っていた。
「ふぅ、これで何とかなったかしら? 敵の方は、任せるわ」
「ああ、全霊の力で応えさせてもらおう」
 ヴァジュラは言いながら、地獄化した自らの傷へ、再び鉄塊剣を突き刺す。溢れる地獄の焔は、一層どす黒く、そして激しく。敵の花弁を焦がし、焼き切っていった。
 攻性植物は、未だ敵意を示すように、全身で擦過音を放っている。フレアはそこへ果敢に、治癒を続けていた。
 退かないのは強い思いばかりではなく。ヴァジュラとレヴィア、義を継ぐ2人がいるからでもある。2人が一緒ならば、何も恐れることはなかった。
「治療できました。いつでも攻撃できます!」
「ではワタシが行きマス」
 再び花粉を撒こうとしている攻性植物。レヴィアは低く飛翔し、それと真正面から向き合った。
「ワタシは海に育まれた植物を愛してイマス……そして海に育まれた人も。デスから──植物を自然の摂理に還す為に、ソシテ人の命を救う為に、全力で行かせていただきマス」
 瞬間、速度を上げ、疾風のように肉迫。曲線を描いた飛行から、熾烈な爪撃を繰り出して、全ての花弁を切り裂いた。

●決着
 濃緑の異形が、鈍く蠢く。
 花を失った攻性植物は、蔓だけになって尚、不気味に蠢いていた。
 だが体には深い傷も刻まれ、確実に弱っていることも見て取れている。
 レヴィアはくるりと大斧を掲げて、そこへ接近していた。
「最後まで、油断せずに参りマショウ」
「ああ、無論だ。殺し合いには命を懸ける、それだけだ!」
 ヴァジュラは最後まで意気漲らせるように、鉄塊剣で旋風を巻き起こし、蔓の端々を切り飛ばしていく。するとレヴィアもそれに続き、斧で根元を寸断していった。
 フレアは同時にドローンを飛ばし、攻性植物へのヒールも継続している。
「治療が効きにくくなってきました。もうすぐ、だと思います」
 そのフレアの言葉に皆は頷く。
 体力の底が見えながらも、攻性植物は誠至へと蔓を鞭のようにしならせてきた。が、その一撃は、エトヴァが素早く滑り込んで庇い受けている。
 直後には、翠華がマインドリングから光の盾を顕現。エトヴァの傷をすぐさま回復していた。
「大丈夫?」
「ありがとうございマス。これで万全デス」
 頭を下げたエトヴァは、攻勢に移る。高速で接近すると、豪風を伴った蹴りで薙ぎ払い、攻性植物を転倒させた。
 久遠はそこに触れて治癒の力を与えている。その効果もいよいよ薄いと見ると、シャーマンズゴーストの万業老師に指示を出した。
「よーし、じゃ、後は攻撃よろしくー!」
 万業老師はそれに呼応して爪の一撃を加える。
 誠至も連続して、オーヴェロンを構えていた。瞬間、そこからレーザーを放って少年を取り巻く蔓を焼き切っていく。
「あとは頼む」
「ええ」
 華乃子は応ずるように、拳に力を込めていた。敵の体に狙いを付けつつ、少年に向く。
「君の探検は大正解だと思うわ。こんなに素敵な場所を見付けられたんだもの」
 同時、そのまま全力で、拳を放った。
「だから、もう一度この景色を楽しむために。終わりにしましょ」
 渾身の力で打たれたまっすぐの拳は、攻性植物を千々に霧散させる。そうして花の絨毯の上に、少年の体だけが残っていた。

 戦闘後、ケルベロス達はすぐに少年を介抱した。
「大丈夫?」
 久遠が抱き起こして声をかけると、少年は目を覚ます。最初はぼんやりしていたようだが、すぐに意識もはっきりとしてきた。
「本当に、無事でよかったです」
 フレアはヒールをかけて、優しく少年へと言う。少年は立てるほど元気になると、ありがとうございます、と丁寧に礼を言っていた。
 少年の無事を確認すると、レヴィアは周囲の修復。攻性植物の残骸も拾って、埋めていた。
「セメテ土へと還って欲しいデスからね」
「ああ、いずれまた、美しい花としてここで咲き誇れるように……」
 誠至も小さく言って、しばし黙祷を捧げていた。
 翠華は少年に言葉をかけていた。
「知らない所を行くと危ないよ。道草しないで帰りなさい」
 諭すような口調でもある。とは言え、そういう翠華自身が興味本位で廃墟に入ってケルベロスになった身でもあるのだが。
 一方、エトヴァは白い花の絨毯を見回して言った。
「ですガ……見惚れてしまうのもわかりマス」
「そうね、素敵な場所を見付けたと思うわ」
 華乃子も声を継ぎ、褒めるように言って風景を堪能していた。
「とってもきれいで気に入っちゃった」
 すると、少年は笑顔になって頷き、自分も景色を眺めているのだった。
 エトヴァはふと自分の中で見覚えのある風景だと感じて呟く。
「……ア、雪景色に似ているのですネ……」
「確かに幻想的とも言えるな。ほぼ傷つけずにすんでよかった」
 ヴァジュラは無事な花を確認して、そんなふうに言っていた。
 それからふと、この事件の元凶を思うように息をつく。
「しかし、自然破壊を貶しながら花を利用するとは、主義主張が矛盾しているというか幼稚というか──。いずれは話してみたいものだ」
 そうして一度だけ拳を握り、後は帰路へつく。
 皆も丘を去り、少年を送り届けてそれぞれの帰る場所へ。
 平和の戻った丘には、美しい花だけが、風に揺れていた。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年11月8日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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