日拳乱撃

■リプレイ

●対峙
　山中に入ったケルベロス達は、木々の間を歩いていた。
「あの辺りにしましょうか。戦闘に適していそうです」
　と、歩を緩めて皆に言うのは風魔・遊鬼（風鎖・e08021）。衛星画像を確認しつつ、敵が出現してもおかしくない位置だと確認。その上で開けた場所を選定し、皆を招いた。
　頷いた皆は、そこを戦闘場に決めることにする。
　そして行うのは、敵の誘き出し。
　周囲に聞こえる声で会話をし始めたのだった。
「青年の理想の拳法を使う武闘家、ということでしたね。近くに居るなら、是非手合わせをお願いしたいです」
　最初に口を開くのは、ルフィリア・クレセント（月華之雫・e36045）。無表情ながら少々声を張る。
　それに、ヴィルベル・ルイーネ（綴りて候・e21840）も半信半疑というように頷いた。
「武術の真髄を見せたいんだっけ？　でも、人と相対して戦う時に使う技術なのに、こんな山の中にいて身につくものなのかなぁ──」
「そもそも今の世の中、山奥深くで籠って修行するような人が、いるもんなのかね？」
　松葉瀬・丈志（紅塵の疾風・e01374）も、周囲に気を配りつつも、声を継ぐ。
　応えるように、高飛車に言ってみせるのは琴城・雪白（黒妖の閃花・e39471）だった。
「いたとしても。こんな山の中で修行するような古臭い奴が、戦いで私を満足させられるとは思えないわねぇ？　──手練れだというのなら出て来て相手してほしいものよね」
　と、その時だ。がさりと、遠くで葉が揺れた音がした。
　皆は視線を交わす。天谷・砂太郎（チンピラなお兄さん・e00661）はそちらを見つつも、笑いながら言った。
「いやいや、いないだろー。このご時世に山籠もりとかないわー。いつの時代だよ、ははは」
『──先刻から、聞き捨てならないな』
　と、そのタイミングで、響いた声があった。
　木々を縫うように歩き、森の奥から現れた人影。青年の姿をした、拳法家のドリームイーターであった。
『まだ見ぬ武人に対して、実力を侮る言動。看過できんな！』
「へぇ、だったらその武人様はどうするんだ？」
　砂太郎が返すと、ドリームイーターは戦いの構えを取った。
『武人は拳で語るものだ』
「そうですか。のぞむところです」
　すると、ユリス・ミルククォーツ（蛍狩りの魄・e37164）は言って、前面に立った。
　柔らかな立ち居ながら、ぎゅっと拳を握ってみせる。
「ぼくにも武術の心得がありますから。是非とも手合わせを願いたく思います」
　ドリームイーターは、いいだろうとばかり、地を蹴って接近してきた。
　それは戦闘開始の合図。
　だが、敵に先んじて剣を掲げるものがいた。
「今まで、随分とデウスエクスと戦ってきたが……此度は如何程か──」
　それは表情ひとつ変えることなく、剣から星々の如き光を生み出す、霧島・奏多（鍛銀屋・e00122）だ。
「──さて、試そうか」
　瞬間、広がった光は前衛を覆うように展開。煌めきを伴って、前衛を守護していった。
　ヴィルベルと丈志も雷壁を生成し、味方の護りを万全に整える。同時にドリームイーターへは、砂太郎が雷撃杖・雷光を差し向け、閃光を放って攻撃していた。
　さらに、ルフィリアが疾駆して飛び蹴りを加えると、ユリスも接近して回し蹴り。連撃でドリームイーターをふらつかせていた。
　ドリームイーターは体勢を直そうとする、が、そこへ疾風のように駆けた遊鬼が、棒苦無を腹部に突き刺していた。
　それは、火薬で成形された特殊な刃。瞬間、風魔式斬撃術『爆魔』によって棒苦無は爆破し、ドリームイーターにたたらを踏ませていた。
　そこへ、雪白は手を伸ばす。
「これでも、喰らいなさい」
　放たれるのは炎渦巻く、幻竜。
　熱波の塊となって飛来したそれは、ドリームイーターの全身に襲いかかり、喰らいつくように体を炎上させていた。

●拳戟
　ドリームイーターは、一度間合いを取るように飛び退いていた。
　炎で微かに煙を上げながらも、その表情はしかし、愉快そうですらある。
『成る程、言うだけはある実力だ』
　それから改めて、戦闘態勢を取っていた。
『我が最強の拳法を披露するにふさわしい。全霊を懸けて、この技を見せてやろう』
「全霊の技、ですか。悪くありませんね」
　ルフィリアは淡々としつつも、ほんの僅かにだけ好戦的な色を声に滲ませる。
「私も格闘を好みますから。こちらも最後まで、全力で戦ってあげましょう」
『いいだろう、お前達の技、存分に披露するが良い！』
　ドリームイーターは再び、駆け込んでくる。
　それを迎え撃つのは、丈志だ。
「なら、やるさ。そちらの好みに合うかはわかないけど──」
　言いながら、丈志はオウガメタルを流動させ、頑強な拳を作り上げている。
「この拳は、ちょっと響くぞ」
　瞬間、豪風のような一撃。痛烈な正拳突きを、ドリームイーターの胸部に叩き込んだ。
　体から軋みを上げ、止まるドリームイーター。
　その間隙に、ルフィリアは木の上部へと跳び上がっていた。
「魂は目覚め、炎と成りて燃え上がる──」
　そして言葉とともに、漆黒の炎を全身に纏わせる。
　それは、今までに取り込んだデウスエクスの魂の力を変換した、魔炎だ。
　直後、しなった枝の反動を利用して、高速で肉迫。飛び蹴りから拳の連打に繋がる『黒炎撃』で、敵を後方の木に激突させた。
「今です、連撃を」
「了解っと」
　応えて地を蹴っているのは砂太郎だ。敵の眼前で放つのは、『全てを撃ち貫く拳』。
「挨拶代わり、っつーには重いかもな」
　気力と体力、そして精神力を拳に託して、裂帛の気合いとともに、一撃。衝撃波を伴った拳で、ドリームイーターを吹っ飛ばしていた。
『……見事。だが、まだまだ！』
　地に転がりつつも、ドリームイーターはすぐに起き上がり、反撃の拳を放つ。
　だがその一撃を、ユリスが壁となって庇い受けていた。
　強力な衝撃に、ユリスは一瞬、後退しそうになる。しかし、すぐに踏みとどまった。
「下がりません。タフではなくても……ドワーフには「戦言葉」がありますから――」
　守れると言い聞かせることで、それは真実になる。肉体強化による回復も相まって、ユリスはそれを耐えきってみせていた。
「少し、待っていろ。すぐに癒やす」
　直後には、奏多が『銀の一睡』。銀を媒介とした魔術で特殊な弾丸を生成していた。
　その仕草は静かに、しかし守り手としての意志は固く。まっすぐに弾丸をユリスに撃ち込むと、それが状態そのものを変革。ダメージを無かったことにするように、傷を逆戻しに消滅させていた。
「さて……反撃は頼む」
「おっけー、じゃ、俺がやろうかな」
　応えて、ブラックスライムを解き放つのはヴィルベルだ。
　それは敵の手前で加速するように跳び、喰らいかかって全身を丸呑みにした。
　スライムにまとわりつかれながらも、ドリームイーターは藻掻くように前進する。が、その頭上へふと影がかかった。
　疾走し、高々と跳躍していた雪白だ。
「遅いわ。その程度じゃ、捉えられないわよ」
　宙でくるりと体を翻し、ゴスロリの服をひらひらとたなびかせる。その動線すら優美に、勢いをつけて落下。脳天に蹴り落としを喰らわせていた。
　思わず、ドリームイーターは膝をつく。その体を、今度はうねるような植物が捕らえた。
　それは遊鬼が手元から放っている攻性植物。
　ドリームイーターは拘束から逃れようと、跳んで退こうとする。だが、遊鬼は正確に攻性植物を操り、逆方向に力をかけて、敵の動きを静止させた。
　次には、遊鬼自身がそこへ疾駆。腹部に強烈な打撃を加え、ドリームイーターを地へと転倒させていた。

●夢
　地に手をついて、ドリームイーターはゆっくりと立ち上がる。歪む表情は、先刻よりも消耗していることを窺わせていた。
『最強の武術をもってして苦戦するとは……何故だ』
　歯噛みして漏らす言葉は、不可解そうでもある。
『力を目指して頂点へたどり着く……それが間違っているというのか』
「それ自体が間違いとは、言わないさ」
　奏多は静かに、感情を滲ませぬような声で返していた。
「強く。より高みに──願う事は、直向きに前進し続ける事は、罪じゃ無い」
「そう、何か一つの道を見定めて研鑽を続けるのは素晴らしいことだと思うんだ。でもそのために積み上げた時間も、経験も、そして得た技術も、デウスエクスのものじゃない」
　そう言ったのは、ヴィルベル。ドリームイーターに対し声を続ける。
「全ては、修行をしていた人間のものだろう？」
「そうだな。今時珍しく、山篭りしてひたむきに修行する……そんな人を利用するのは見過ごせない。だからお前以上の力で阻止する、それだけだ」
　丈志も声を継ぐと、雪白も頷いた。
「そういう奴を救うのもケルベロスの仕事だからね」
　言うと、雪白はその頭に、圧倒的な美麗さを持つデンファレの花を咲かせる。
「──だから、サクッと片付けさせてもらうわよ」
　瞬間、それを模した花が敵の体にも咲き、体とともに精神を蝕んだ。その力、『我儘な美人』によって、ドリームイーターは呻くように座り込む。
　ヴィルベルはそこに星の如きオーラを蹴り込んで追撃した。だが、ドリームイーターも無理矢理に立ち上がり、走り込んでくる。
『人間のことなど関係ない。俺自身が、強さを求め、力を持っている。それが正義だ──！』
「強さを追い求め、か。俺も昔は似たようなモンだったから気持ちは判らなくもないが、なんというか……うまく言えないけどな」
　砂太郎は複雑な表情をしつつも、横合いに迫っていた。
「……まあ、少なくともそれだけじゃ、俺達には勝てないさ」
　そのまま、旋風のような蹴りを加えて体勢を崩させる。
　ふらつきながらも、ドリームイーターも前衛に蹴りを放ってきた。だが、その一部を丈志が前面に出て受け止め、ダメージを盾役だけに留める。
「中々強力だな。こっから傷抉られるのは勘弁だからな──早めに治すぜ」
　そして即座に雷光を輝かせ、自身を含む前衛を癒した。
　奏多も治癒の力を雨にして注ぎ、回復。前衛を万全状態に持ち直させている。
　この間に反撃に出ているのは、遊鬼だ。
　その動きは影のごとく素早く。高速機動でドリームイーターの胸元へ迫ると、火薬製の棒苦無を胸元へ穿った。
『く……！』
　ドリームイーターが振り払おうとすれば、遊鬼は真後ろに跳んで宙返り。さらに棒苦無を投げ放って、即座の着火で連続爆撃を見舞っていた。
「私達も、行きましょうか」
　ルフィリアが敵へ接近しながら言うと、ユリスも頷く。
「わかりました。できるだけ、合わせられるようにしてみますね」
　言葉とともに、ユリスはルフィリアと逆方向に走り、腕にグラビティを篭める。
　ドリームイーターはこちらへ向いてくるが、ユリスはそのタイミングで、地面を一撃。土を砕きながら、衝撃波を生み出してドリームイーターを宙へ煽った。
「上です、お願いします」
「ええ、分かりました」
　ユリスに応えるルフィリアは、既に高く跳躍している。
　木の幹を蹴り、さらに高度を増すと、降下しながら敵の頭上へ縦回転。風の唸る音を上げながら、豪速の蹴り落としで、ドリームイーターを地に叩き付けた。

●決着
　しばし倒れ込んでいたドリームイーターは、呻きながら起き上がる。その表情は半ば憎悪に歪んでいるようでもあった。
『認めんぞ……この俺の最強の力が破られるなど……』
「勝てないなら、それは最強じゃなかったってことでしょ。諦めなさい」
　雪白はそれだけ言うと、魔弾を生成して発射。ドリームイーターの全身に氷を広げていく。
　ドリームイーターはそれでも、感情を高ぶらせたように走り込んできた。
　が、それを見据える奏多には、反して敵への憤りも遺恨も無い。ただ役割を果すように、魔術の弾丸を放つ。それは先刻と異なる状態変化を見せ、逆に敵の体力を削り取っていた。
「このまま、畳み掛けていくか」
「そうだな。相手のペースに合わせる事もない。頭に血が上ったやつには──遠距離攻撃だ」
　砂太郎は言いつつ、激しい雷撃を放ち、弾けんばかりの衝撃を与える。
　後方へ吹っ飛んだドリームイーターを、次には遊鬼が攻性植物で捕縛。締め上げてダメージを与えると同時に、慣性を活かすように振り回し、木に激突させて痛打を加えていた。
『かはっ……』
　声を漏らしながら、ドリームイーターは突っ伏す。だが、それでも力を振り絞るように立つと、雪白へと踏み込んで攻撃を仕掛けてきた。
　それは打撃から組技へ展開する強力な技。だが、そこにもユリスが立ちはだかり、攻撃を通さない。
「ぼくは雪白さんを、仲間の命を守る」
　最後まで諦めずにやってのけるという、戦言葉による自己暗示。思いが形となるように、それによって攻撃を受けきり、耐え抜いた。
　直後には、ルフィリアが魔炎を纏った体で肉迫。拳の連打で敵を横倒れにさせる。
「もうそろそろ、終わりですかね」
『まだ、だ……！』
　ドリームイーターは、それでも這うように蠢いていた。
　ヴィルベルはそこへ『蝕』。左手で触れると、食い破るようにドリームイーターの体を消滅させていく。
　同時、丈志は銃口から弾丸を放っていた。
「後は、お前の夢の世界で一人で探せよ」
　飛来した弾丸は、違わず命中。ドリームイーターを衝撃で撃ち抜き、そのまま千々に四散させていった。

「さーて終わった終わった」
　戦闘後。砂太郎の言葉に皆は戦闘態勢を解いている。
　ユリスは自己暗示が解けた影響で、座り込んでいた。
「……誰かの為に戦うのは力になるのですね」
　体には疲労を感じながらも、それで戦いに勝てたことに、少しの感慨も持ちながら。ユリスは少しだけ息をついていた。
　ルフィリアは荒れた箇所をヒールして、景観を綺麗に戻していた。
「修復は、このくらいで大丈夫でしょう」
「後は倒れたっていう男の人探しに行こうか」
　ヴィルベルが言うと皆も頷き、森を歩く。そして程なくして、気を失っていた青年を見つけたのだった。
　皆で介抱すると、青年はすぐに無事に目を覚ました。
「さて、命に別状はないかな」
　丈志が言うと、青年は健常に頷く。そして皆に礼を言っていた。
　丈志は頷いて返す。
「大変なものに巻き込まれたようだけど、もう大丈夫さ。──それじゃ、修行頑張ってな」
　そうとだけ言うと、踵を返して歩き出していた。
　奏多も、青年が何故強くなりたいのか気にはなった。だがそれを聞くのも無粋かと、口を噤んで、申し出る。
「大事はないようだが、町までは距離もある。送っていこう」
　青年はありがとうございます、と頭を下げ、奏多に同行していく。
　それを機に砂太郎も歩を進め出した。
「じゃ、俺達もずらかろうかね」
「ええ、帰りましょ」
　雪白も応え、山を降りる方向へ。遊鬼も静かに歩き出していた。
　皆もそれぞれ帰路へ。平和となった山を背に、帰る場所へと歩き去っていった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年11月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
得票：格好よかった 2／感動した 0／素敵だった 0／キャラが大事にされていた 2
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