ダイヤモンド・リリー

■リプレイ

●対峙
　公園へ入ったケルベロス達は、現場へと疾駆していた。
　花の植わる一帯に到着すれば、巨大化した花の姿も、すぐに見えてくる。
「それにしても、攻性植物って意外と組織で動いてるのパオね」
　エレコ・レムグランデ（小さな小さな子象・e34229）は、それを生み出した元凶へと思考を巡らせ、呟いていた。
　ライゼル・ノアール（仮面ライダーチェイン・e04196）も頷く。
「自然を破壊する人間に報復……って目的で動いているんだよね」
「その気持ちだけならば、わからなくもないのだがな──」
　言って速度を緩めるのは、戒業・誠至（地球人の鎧装騎兵・e40810）。既に近くに迫ったそれを見上げていた。
　ダイヤモンドリリーの、攻性植物。うねる蔓の間には、１人の少年が囚われていた。
　朦朧としている少年を見据え、誠至は髪を後ろに結び、気持ちを戦いへ切り替える。そして固定砲台・オーヴェロンを構えていた。
「──それで力なき者を狙うのならば、こちらも全力で対抗するだけだな」
「そうですね。先ずは救出に、全力で邁進いたしましょう」
　天壌院・カノン（ペンタグラム・e00009）も声を継ぐように聖槍・Damnatioを握っていた。
　攻性植物も、こちらに気づいたように、音を上げて蠢く。
　アデレード・ヴェルンシュタイン（愛と正義の告死天使・e24828）は、それに怯む様子も見せず、仁王立ちして迎えた。
「チキュウの貴重なグラビティを奪っとる連中が自然を語るという詭弁。その上無業の少年を人質にとり徒らに暴れさせるのが、そなたらの主の断罪というなら……笑止！」
　勇壮な声音は、紛れもない戦いの意志。
　アデレードはロッドをくるりと回し、まっすぐに突きつけた。
「人の罪を断罪する前に、己が罪を悔い改めさせてくれようぞ！」

　攻性植物は、反意を示すように体をわななかせ、攻撃行動に移ってきた。
　だが、そこへふわりと舞い降りてくるものがある。
　姫宮・愛（真白の世界・e03183）。風に、その髪で揺らすのは同じネリネの花だ。
「愛と同じこのお花を、きれいだって言ってくださったから──」
　視線を注ぐのは、囚われた少年。そこへ、愛は語りかけるように言っていた。
「お兄さん、すぐに助けます……！」
　瞬間、宙で体をひらりと翻し、鋭い蹴りを打ち込んでいく。
　次いで、攻性植物へ走り込むのは、凪沢・悠李（想いと共に消えた泡沫の夢・e01425）。
「本気で戦えないのは残念だし、もどかしいけど……ま、いつも通りにやる事をやりますか♪」
　軽い口調で繰り出すのは『軽業師の独り舞台』。
　それは文字通り、捉え所のない動きで飛び回り放つ、連続の斬撃だ。
「それじゃあ始めるよ……♪」
　蔓も枝葉も切り刻みながら、悠李はハイになったように笑う。それこそが、悠李が戦闘に入り込んだ証左でもあった。
　さらに敵へ、カノンの刺突と、アデレードの雷撃が命中。同時にライゼルはオウガ粒子を拡散し、自己と周囲の知覚力を向上させていた。
　攻性植物も反撃とばかりに蔓を伸ばしてくるが、その一撃は防御態勢をとっていた誠至が受けきっている。
　その直後には、エレコが魔力を集中していた。
「待っててパオ！　今すぐに、回復してあげるのパオ！」
　生成されるのは空色のオーラ。投げ放たれたそれが、誠至の体を覆って傷を消していた。
　攻性植物は変わらず敵意を滲ませているが、ふとそこへ、そっと歩むものがいた。
「Indignation……この子も無茶な作戦をさせられて可哀想ですの」
　そう零す、シエナ・ジャルディニエ（攻性植物を愛する人形娘・e00858）だ。
　自己の攻性植物の一部を接ぎ木する『アグレッションプラント・グリッファージュ』で敵を治癒しながら、シエナが行うのは接触テレパスでの語りかけ。
「わたしは、あなたを助けたいんですの」
　それは説得しようという試みだった。
　だが、攻性植物は聞き入れる素振りは見せない。逆に蔓を伸ばして攻撃しようとしてきた。
「難しいか……ならば」
　と、そこへ光が閃く。誠至がすかさず砲口を向け、射撃していたのだ。その一撃は違わず蔓に命中し、焼き切るように攻撃を防いでいた。

●闘争
　攻性植物は一度下がると、全身を蠢かせて花を上方へ向け、光を集める形に変化していた。
　花は美しく輝きつつも、破壊に特化するその姿は尚、異形と言える。
　愛は少し、声を零す。
「これ以上、お花を悪くしてほしくないのに……」
「植物も、被害にあった側と言えるのでしょう」
　カノンも微かに目を伏せる。花が好きだからこそ、心が痛む。そして人の命までもを弄ぶ行為に、怒りも抱いていた。
「必ず、少年を、救い出しましょう」
「うむ。これ以上、この邪悪な行いを見てはおれぬ」
　アデレードは応え、槍を構える。
「お天道様に代わって、裁いてくれようぞ！」
「……みんな、くるのパオ！」
　攻性植物が動き出す、それを見て、エレコは声を上げていた。
　頷くカノンは、既に手を伸ばし、グラビティを収束させている。
「分かっています──こちらから、攻撃させて頂きます」
　瞬間、翼から凝縮した地獄を弾丸状にして撃ち出し、花弁の一部を貫いた。
　アデレードも飛翔し、雷光を宿した鋭い刺突。その花弁を散らしていく。
　愛は翼を広げ、光線を無数に発現。光の雨を降らせて、攻性植物の全身に衝撃を浴びせていた。
　すると、愛はそこで敵の異常に気づく。
「少し、苦しんでいるようです」
　攻性植物とともに、少年も薄い意識の中で、苦悶を浮かべるように声を漏らしていた。
「すぐに回復しますの。さぁ、受け取って」
　シエナはすかさずそこに寄り添っている。そうして自らのグラビティを分け与え、攻性植物を癒し始めた。
　同時に再び、言葉をかけていく。
「Demander……あなたはこんな所で果てて良いですの？」
　気を使うように。そして、自身とともに生きて欲しいというように。
　しかし、それでも敵に言葉は届かない。体力を取り戻した攻性植物は、巨大な光線をカノンへと放ってきた。
　が、そこにライゼルのライドキャリバー、クラヴィクが疾走し、衝撃を庇う。
「よくやったよ、クラヴィク！　反撃だ！」
　直後には、ライゼルの言葉に応え、クラヴィクはスピン攻撃を見舞っていた。
「ボクもやらせてもらおうか。変身するまでもないけどね！」
　間断を作らず、ライゼルは鎖神降臨を起動。爆破を起こして、攻性植物を後退させた。
　クラヴィクの傷は、エレコのオーラと、エレコのテレビウムであるトピアリウスの放つ光が治癒している。
　その間に、敵へは誠至と悠李が疾駆していた。
「まだ、敵の体力には問題なさそうか」
「そうだね、少しの間は存分に戦えるかな♪」
　誠至に応える悠李は、地を蹴って、アクロバティックに攻性植物へ接近。攻性植物も狙いをつけてくるが、それを右に左に、そして上下にも翻弄していた。
「あはっ、遅い遅い♪　全部ハズレだよ♪」
「隙ありだな」
　敵が悠李に気を取られる間に、誠至は踏み込んで一閃。日本刀・スラストセイバーによる斬撃で、蔓をさらに斬り落としていく。
　悠李も同時に、日本刀・魔天狼を抜き、縦横に走らせる。その剣撃は全身に及び、花弁から、深い根の部分までもを断ち切っていた。

●意志
　攻性植物は後退しつつも、未だ活発な流動を見せていた。
　今度はエネルギーを体内に行き渡らせるように蠢き、小さな花を無数に咲かせる。
　それは、続く攻撃の準備。同時に、一層寄生が進んだように、少年は花々に飲み込まれ、顔を蒼白に、表情を苦痛に歪めていた。
『う……う……』
「意識をしっかり持つのじゃ、少年！」
　アデレードはそれを見上げて、声を張る。
「邪悪に屈するでない！　我等が勝利、ひとえにそなたの意思と、正義を愛する心にかかっとるのじゃ！」
「そうなのパオ。もう少しだけ、我慢していてパオ……そうしたら、ぜったいにぜったいに、助けてみせるのパオ！」
　エレコも必死に言葉を届ける。すると、少年は明滅する意識の中で、僅かにだけ、表情に力強さを取り戻したようだった。
　ただ、攻性植物自体は、大地へ侵食し、ケルベロス達を取り巻くように小花を生らせている。
「これでどこまでも広がっていくつもりじゃあるまいね」
　悠李は見回しながら、魔天狼を握り直す。それからぺろりと唇を舐め、視線を走らせた。
「ま、何にしても。人類滅亡なんてSFみたいな事、起こさせるわけにはいかないんだよね！」
　同時、疾走して連続剣撃。
　飛び、跳ね、舞うような動きで周囲の花々を斬り裂いていく。
　アデレードも円を描くように杖を動かし、雷光を迸らせて枝葉を吹き飛ばしていた。
　カノンは本体へと向かうが、敵の負傷状態を鑑みて、撫でるような打撃。力を抑え、致命傷を避けていた。
「回復を、お願いできますか」
「ええ」
　カノンに頷くシエナは、既に攻性植物に治癒の力を施している。
　先程と同様に、注ぐ力も言葉も、慈愛に満ちている。だがその表情はわずかばかり、悲しげなものも含まれていた。
　カノンはそちらに目をやって聞く。
「うまく、行きそうですか」
「精一杯語りかけてはいるつもりですの。けれど……」
　攻性植物は、それで態度を変える様子は見せなかった。
　諦めるシエナではなかったが、攻性植物自身はそれに構わず、前衛へと催眠効果の花粉をばら撒いてきている。
　それは鋭い衝撃も伴った広範囲の攻撃。だが、すぐ後には、その花粉を消し去るような輝きが一帯を満たしていた。
　エレコの魔力による、花のオーラだ。
「あんしんしてね、みんなの痛いのも、苦しいのも。我輩がぜーんぶヒールするのパオ！」
　煌めくオーラは花嵐のように周囲を踊り、花粉を吹き飛ばす。同時に傷も癒し、皆を健常な状態へと保っていた。
　ダメージの大きいカノンも、トピアリウスによる治癒の光と、シエナのボクスドラゴンであるラジンシーガンの属性の力で、万全となっていた。
　攻性植物へは、ライゼルが接近。縛霊手へ霊力を込め、陽炎を揺らめかせる。
「じゃ、これから反撃させてもらうよ」
「ああ。俺も合わせよう」
　呼応して、誠至も砲台を構えている。
　攻性植物は、再び花粉を撒こうとしていた。が、それよりも早く、誠至はレーザーを放射。根を焼き切るように、小花の一つ一つを絶っていく。
「よし、今だ」
「了解だよ」
　誠至が言うと同時、ライゼルも走り抜けながら、拳を振るう。
　すると霊力の波動が弾けるように爆発。風圧で吹き飛ぶように、侵食していた花々が散っていった。
　攻性植物は大地から引き剥がされ、ふらついている。それでも、残る大きな花弁から、絞るように花粉を放とうとしていた。
　しかし、そこへは愛が飛び込んでいる。
「させません。これ以上……お兄さんにお花を、嫌いになってほしくないから」
　その凶行を阻むように。愛は翼をはためかせ、滑空して蹴撃。痛打を与え、攻性植物を転倒させた。

●決着
　うねるように、攻性植物は起き上がる。
　だが弱っているためか、その動きは鈍い。蔓や枝葉も、端々が朽ちている状態だった。
「もう少しだけ、削れるかのう」
　アデレードはその様子を注視しつつも、まずは槍で突き攻撃を加え、追い込んでいく。
　カノンも頷いて接近した、が、その目は一度伏せられていた。
「ええ。ですが、それもそろそろ、終わりでしょう」
　言いながら聖槍で刺突すれば、言葉通り、攻性植物は瀕死に近くなっていた。
　体力の減る速度は先程よりも早い。それは深い傷が限界近くまで蓄積しているからでもあったろう。
　シエナは急ぎ、繋げた攻性植物を通して治癒する。が、それでも回復量は少なく、それが最後の機会であることもわかった。
「今、死んでしまっては、きっと生みの親の思いも無駄になるんですの。だからお願い──」
　自分の元へ来てと、シエナは言葉を重ねた。
　それでも攻性植物は、敵であるケルベロスの言葉を聞き入れることはなかった。
　蔓を豪速で飛ばして連撃を加え、シエナの胸部を貫いて鮮血を噴出させる。
　体力を失って倒れたシエナを乗り越え、攻性植物は次の攻撃行動に移り始めたのだった。
　だがその動きを止めるように、悠李が剣閃を走らせ、全身の蔓を斬り裂いている。
「残念でした。ここまでだ！」
「こうなったら、撃破を急ぐしか無いかな」
　ライゼルも鎖神降臨にグラビティを込め、爆破攻撃で花弁の全てを吹き飛ばした。
　破片を落としながらも、攻性植物はゆらゆらと近づいてくる。
　エレコは紙兵で霊力を撒きながら、皆を見回した。
「弱っているみたいだけど……みんな、最後まで気をつけてなのパオ！」
「ええ、全力で、いきます。お兄さんを、助けないといけませんから」
　愛は応えるように、光線を発射。少年を取り巻く蔓を払うように、焼き切っていく。
　花も蔓も失った攻性植物は、枝葉だけを不気味に揺らめかせ、少年を締め上げようとする。だがそれを、誠至のスラストセイバーが断ち切っていた。
「悪いが、これで終わりとしようか」
　連続して、誠至は剣閃を走らせる。その剣撃が残る植物の全てを斬り落とし、そこに少年の体だけを残していた。

「……ふぅ、みんなお疲れ様」
　戦闘後。表情も雰囲気も元に戻った悠李は、息をついて皆に言っていた。
　頷いた皆は、まず少年を助け起こし、介抱した。
「怪我はないですか？」
　愛が心配するように言うと、少年ははい、と健常に返す。意識も明瞭で、体に異常も無いようだった。
　ライゼルは一応ヒールをしつつも、安堵するように口を開く。
「無事でよかったよ」
「頑張ったのぅ、少年よ。そなたの正義、しかと見せてもらったぞ」
　アデレードも満足げに、言葉をかけているのだった。
　少年は頷きつつ、攻性植物の残骸に目をやる。
「僕はあの花に、飲み込まれてたんですね……」
「こんなことになってしまったけれど、またあのお花を、好きになってほしいです」
　愛が心を込めて言うと、エレコも言葉を継いだ。
「そうなのパオ！　このお花は、『また会う日を楽しみに』っていう花言葉があるのパオ」
　そうしてエレコは、攻性植物化を免れていた花を見やる。
「お花は、悪くないのパオ！　だからこの綺麗なお花をまた見に来るといいと思うのパオ」
　その元気な言葉に、少年はゆっくりと頷き、また来ます、と声を返していた。
　誠至は、シエナにヒールをかけ、起き上がらせていた。
「大丈夫か？」
「ええ。ありがとうございますの」
　無事に目の覚めたシエナは、攻性植物の残骸の一片を手に取り、残りは埋めて弔った。
　カノンは、周りの一帯をヒール。公園の美観を取り戻している。
「それでは、帰還しましょうか」
　その内にカノンが言うと、皆も頷き帰路へ。平和となった公園を後に、それぞれに歩き去っていった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月21日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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