疾風蹴撃

■リプレイ

●対峙
　ケルベロス達は、緑の豊かな山中へと分け入っていた。
「向こうも山を降りてきているわけだから、もうこの辺りにいてもおかしくはないね」
　そう周囲を見回すのは長篠・ゴロベエ（パッチワークライフ・e34485）。敵影を探しつつ、既に警戒を浮かべている。
　皆も、歩を緩めて、探索に専念した。そこで、空を飛んで捜索していたレミ・ライード（氷獄騎兵・e25675）が、降りてくる。
「少し先で、動く影を、見つけた、です。こっちの方に向かってる、です」
「おそらく、敵ですね。この辺りで、誘き寄せられるようにしてみましょう」
　応えるのは沙更・瀬乃亜（炯苑・e05247）。開けた戦いやすい位置で、注意を引くように噂話を始めた。
「このあたりに強いものが出るらしいです」
　それは向かってくる影に聞こえるような声。
　近づくその気配を感じながら、瀬乃亜は続けた。
「いるのなら、ぜひ手合わせして欲しいものですね」
『──強い者を探しているのか？』
　すると、木々の間から応えた者があった。
　それこそ待ちわびていた影。道着を身に着けた青年の姿をした、格闘家のドリームイーターだった。
「あいや、出ましたデスね武術家さん！」
　皆が包囲するように移動すると、シィカ・セィカ（デッドオアライブ・e00612）も立ちはだかり、びしっと指差していた。
「ボクたちとどっちがロックか、勝負デース！」
『ロックは、よく分からぬが……要は、戦うということだろう？』
　ドリームイーターは言いつつも、構えを取る。
　既に戦う気は満々といった風で、見回すその表情は好戦的だった。
　レミは、こくりと頷いてみせる。
「武術、見せつけたいというのなら、相手、私達、する」
「ええ。一般の方々に手を出さずとも。あなたのお相手は最後まで、わたくし達が務めさせていただきます」
　ドゥーグン・エイラードッティル（鶏鳴を翔る・e25823）も、言葉を継いだ。
　ドリームイーターは楽しげに笑う。
『いいだろう。だが最強の蹴り技を受けて、生きては帰れんぞ？』
「最強、ですか」
　芥川・辰乃（終われない物語・e00816）は、一度目を伏せている。
「高みを目指すための研鑽。そこから生まれた夢ならば、確かにその力は相応のものでしょう」
　それから、凛とした佇まいで、オウガメタルを流動させていた。
「だからこそ、その尊いものを悪用はさせません。高みに至らぬ身なれど、全力をもってお相手しましょう」
　瞬間、拡散したオウガ粒子は前衛を包み、その知覚力を向上させる。
　直後には、瀬乃亜も楚々と一礼して、魔力を集中。シィカに幻影を纏わせ、グラビティ能力を増幅させた。
　シィカは幻影とともに、多重の炎を纏った蹴りをドリームイーターへ打ち当てる。同時にレミも空中から飛び蹴りし、数メートル後退させていた。
『中々やるな──』
「こんなものでは、終わりませんよ」
　目を見開く敵へ、ドゥーグンも飛翔し、勢いをつけた蹴り落とし。
　続けてゴロベエも走り込んで、刺突の如き拳の一打でバランスを崩させた。
「よし、後、頼むよ」
「了解です！」
　ゴロベエに応え、翼を輝かせるのは、ユーディアリア・ローズナイト（宝石の戦乙女・e24651）。豪速で接近しながら、ライドキャリバーのクォーツにも呼びかけていた。
「さぁ、クォーツ、バンバンいっちゃってくださいね！」
　クォーツは、高らかに駆動音を発し、突撃。
　炎の打撃を与えると、ユーディアリアも肉迫し、大斧で脳天からの一撃を加えた。
『ぬぅ……ッ』
　微かに血を散らしつつも、ドリームイーターは踏みとどまり、蹴りを放とうとする。
　が、それを、霧祓・天美（妹至上主義・e09726）が同じく蹴撃で相殺していた。
「そう簡単には、やらせないわよ？」
　衝撃に互いが後退しつつも、天美はにやりと笑んで、後背に声をやる。
「さ、天祢、よろしくね♪」
　すると、呼応してビハインドの霧祓・天祢が念を篭めていた。
　そのままポルターガイストで枝を飛ばし、敵の足先を穿つ。すると天美自身は、オーラを形成。高速でそれを蹴り放ち、ドリームイーターごと木に激突させた。

●応酬
　一度倒れ込みつつも、ドリームイーターは、すぐに体勢を直している。
　体から砂を払うその表情は、どこか嬉しげでもあった。
『お前達の強さは本物だな。それでこそ、この最強の足技で本気を出す価値がある！』
「最強の足技、ね。そこまで拘るなんて、やっぱり面白いじゃない」
　天美は少々感心するように言葉を零す。
　それから自身も、敵と相対するように改めて構えを取った。
「分かったとは思うけど、アタシも蹴りには自信ある方だし。蹴り技仲間のよしみってことで、正面から叩き潰して、武術の悪用を止めさせてもらうわよ！」
　瞬間、天美は飛び蹴りで距離を詰め、連撃で蹴り上げを喰らわせる。
　のけぞる敵へ、レミは砲口を向けていた。
「そう、です。被害者、一刻も早く、目覚めさせる為。早急に撃破、します」
　言葉は辿々しくも、その意志に違いはなく。大音を上げると、爆炎を生み出してドリームイーターを連続砲撃した。
　煙に包まれる敵へ、ユーディアリアは間を置かず、豪速で接近している。
「やられる前にやります。突貫ですよ！」
　繰り出すのは『Reversus.03』。それはグラビティを体内へと逆転させ、瞬間的に身体能力を向上する力だ。
「さあ、走り抜けます！」
　瞬間、目にも留まらぬ速さでゼロ距離に迫っていく。
　逆転したグラビティは、同時に身体を蝕み、痛みとともに漆黒の地獄をも生んでいる。
「それでも……そんなの関係ないですよ！」
　自分の力が誰かの助けになるならば、こんな痛みぐらいは我慢してみせる。
　ユーディアリアの決意が力になるように、高速の打撃はドリームイーターを直撃し、吹っ飛ばす。
　だが、地に転げつつも、ドリームイーターは素早く起き上がり、反撃の突き蹴りを放ってきた。
　しかし、その一撃はゴロベエが盾となって庇い受けている。
　直後には、瀬乃亜が紅色のオーラを投擲。その傷を淡い光で治癒していた。
「赤薔薇も、回復を頼みますね」
　次いで、瀬乃亜の声に応じるように、テレビウムの赤薔薇も画面を発光させ、治療を進める。
　さらに辰乃が『或旧友へ送る』を行使。銃口へ灯した治癒の光を撃ち出し、ゴロベエへ。傷口を穿つと、光で拭い去るようにそれを消し去っていった。
「これで、体力に問題はないでしょう。攻撃は、よろしくお願いいたします」
「うん。──丁度いい、その至高の蹴り技、魂ごと喰らってあげるよ」
　応えたゴロベエは、『自宅の番犬　ケルベロス』を召喚。降魔の力で具現化した三つ首の犬をけしかけ、ドリームイーターの脚部を食い破らせた。
『ぬぅ、まだまだ──！』
　血を滴らせつつも、ドリームイーターは、尚反撃を試みてくる。
　だがそこへ、シィカが迎え撃つように走り込んでいた。
「こっちもまだまだデスよ！　今日のケルベロスライブも、もっともっとロックにキメるデスからね！　イェイ！」
　掛け声とともに、シィカはギターをひと鳴らし。意気漲るように、次の瞬間にはチェーンソー剣をかかげ、縦一閃に斬撃を叩き込んでいた。
「続けて攻撃頼むデース！」
「ええ。さあ──ご覧になって」
　応えるドゥーグンは、ドリームイーターの瞳を見つめる。
　すると、敵はそこに巨大な蛇を幻視する。それは『瞳持つ杖』。文字通り、自身が杖となるように、幻像を通して敵を蝕んでいた。
　その力は恐怖と衝撃を伴って全身に広がり、その動きを静止。自由の利かなくなったドリームイーターは、慣性にすら抗えず、倒れ込んだ。

●夢
　短い時間の後には、ドリームイーターは再び立ち上がっている。
　だがその表情には余裕はなく、微かな苦悶も浮かんでいた。
『何故だ。最強の蹴り技をもってして、苦戦するとは……』
「あなたの力は、確かに立派なものでしょう」
　瀬乃亜は表情を変えず、しかし言い含めるように返していた。
「でも、その力は、あなたのものではありません。あくまで、夢──」
『夢だと……。お前達も見たであろう。この力。今ここにある、この凄まじい力を！』
「何がすごいとか、ボクはそーいうのあんまりわからないですけど」
　拳を握るドリームイーターへ、ユーディアリアが、ふと口を開く。
「すごい技術を磨いていたのは、人間のおにーさんの方ですよね。それを奪って悪用するのは、やっぱり許せませんです」
『……何を言っているかわからんな。俺はここにいて、俺自身の強い力を持っている』
「だとしても。その力は、弱き者を守るために使いたいものですわね」
　ドゥーグンは楚々と言葉を返す。
　面持ちは穏やかながら、人を守る思いは、何よりも固く。
「無差別な殺戮に向くのであれば、それこそ無意味な力です」
『……意味はあるだろう。凄まじい技、強い膂力。それ自体、何よりの価値だ！』
「確かに、すごい技が見れるなら興味がありますですよ」
　ユーディアリアは頷く。だがすぐ後には、首を振っていた。
「でもでも、それは頑張ってる本人が見せてくれるから凄いんです」
「その通りです。貴方の持つそれは、鍛錬で得た力ではない……前進をやめた、古い夢」
　瀬乃亜は言って、たん、と地を蹴った。
「古い夢は、夢の世界へ。新しい力を持たなければならないケルベロスには、勝てません」
　瞬間、軽い跳躍から、鋭い蹴りを打つ。
　連続して、ユーディアリアも斧を叩きつけ、ドゥーグンも大槌の打撃を畳み掛けていた。
　ドリームイーターは呻きながらも、倒れない。逆に疾風を伴う蹴りで、前衛を広く襲ってきた。
　だが、風の中で、辰乃は精神を集中。治癒の力を生み出している。
「──晴らします。悪夢も、その企みも」
　それは花びらのような優しいオーラ。その内に、花嵐のようにそれらが散り、光を撒いていく。
「私に描けぬ夢を、どうか守れるように。疾風に耐える護りを、この子竜と共に。疾風に耐える癒しを、この祈りの下に。世に高みを求め、歩き続ける者の為に。……そう言いたいんですよね、棗？」
　その光が前衛の傷を拭い去っていくと、辰乃はふと傍らに視線をやる。
　そこでふわふわと飛んでいるいるボクスドラゴン、棗は応えるように鳴き声を上げる。そして自分も淡い緑の光を注ぎ、ドゥーグンを治癒していた。
「それじゃあ、ボクも一曲歌うデス！　盛り上げていくデスよ！」
　同時、シィカもギターと歌でブラッドスターを演奏。前衛を元気づけ、万全状態に整えた。
　ドリームイーターは連撃を狙って蹴りを繰り出す。
　が、それらはゴロベエが拳で払い、衝撃を殺していた。
「確かにいい動きだし、体幹とバランス感覚もしっかりしている。けど、最強と言うにはまだまだなんじゃないかな」
『これ以上があるものか。理想の格闘術なのだ！』
　ドリームイーターは反抗するようにさらに攻めこむ。だがレミも、氷獄槍でその攻撃をいなしていた。
「それなら、その理想の技、上回ってみせる、です」
　レミはそのまま、槍に雷光を纏わせ刺突。腹をまっすぐに貫いた。
　ドリームイーターは血を吐きながら、それでも進軍をやめない。
『簡単に、上回られて、たまるか……！』
「ええ、簡単じゃないでしょう」
　応えるように言うのは、天美。跳躍し、宙で星のオーラを生成していた。
「でも、越えてみせるわ。こっちだって、妹を守るために鍛えてきたんだもの！」
　同時、それを次々蹴り込んで、ドリームイーターを吹っ飛ばしていく。
「天祢を想えば何だって出来る。つまりね、何が言いたいかというと……天祢は世界一可愛いということよ！」
　誇らしげに着地する天美。
　その後ろで、妹であるところの天祢は、『うちのお姉ちゃんがごめんなさい』とでも言うような申し訳なさげな顔をしているのだった。

●決着
　倒れ込んだドリームイーターは、木の幹に縋って起き上がる。
　零す声は、憎らしげなものだった。
『認めん……俺の蹴り技が、頂点なのだ……！』
「甘いデース！　キミの蹴りのロックさは認めるデスが、あくまで２番目！」
　シィカは言葉を返しながらギターを掻き鳴らすと、そのまま疾駆する。
「１番ロックなのはそう！　このボクデース！」
　同時、剣を連続で奔らせ、敵の表皮を裂いていく。
　次いで、瀬乃亜も至近に迫り、赤々としたブレスを浴びせていた。
「このまま最後まで、追い込んでしまいましょう」
「了解いたしました。私も攻勢へ移らせて頂きますね」
　応えて銃口を向けるのは、辰乃。マズルフラッシュとともに早撃ちし、敵の胸部を穿っていく。
　ドリームイーターはよろめきながらも、足止めを狙って回し蹴りを乱発してきた。
　が、ドゥーグンは構わず、光の粒子に変遷し突撃する。
「この足は最初から、あなたを倒す間合いにあるのです。──留められたとて何が変わるものでしょう」
『が……っ！』
　蹴りを伴う体当たりを躱せず、ドリームイーターは膝をつく。
　それでも起き上がりざまの攻撃を試みてくるが、ユーディアリアは再度グラビティを逆転。流星の如き軌跡を描き、神速の打撃を加えていた。
「絶対に、やっつけてみせます！」
『まだ、だ……！』
「喰らわない、です」
　苦し紛れにドリームイーターが放つ蹴り、それをレミは木を盾にして回避。直後に回り込んで、熱波の伴う蹴りで転倒させていた。
　這いつくばるドリームイーターへ、天美は回し蹴りで一撃。
「もうそろそろ、終わりよ！」
「うん、それじゃあ──いただきます」
　ゴロベエはそこへ、合唱して、敵を模倣するような突き蹴り。魂を喰らいながら、ドリームイーターを霧散させていった。
「ごちそうさまでした」
　ゴロベエが祈りを上げる頃には、その跡形もなく。敵の消えた木々だけが残っていた。

「終わりましたわね。皆さま、お怪我などはございませんか？」
　戦闘後。ドゥーグンの言葉に皆は頷き、健常な声を返していた。
　それから皆は、青年の元へ移動し、介抱する。
　青年は無事に目を覚まし、皆に礼を言っていた。
「実にロックなキックだったデス！　いつかロックな完成を見れるのを楽しみにしてるデース！」
　シィカが言うと青年は頷きつつ、まだまだ修行が必要ですねと自戒していた。
　天美は思いついたように言う。
「せっかくだし、ちょっと蹴り技教えてもらえないかしら？」
「俺も気になるね。実際に鍛え上げた技を見てみたいと思ってたところだし」
　ゴロベエも言うと、青年は頷く。そしてそれ自体を修行とするように、真摯に特訓の成果を披露していた。
「やっぱり本当の技は違う気がするのです」
　ユーディアリアはそれを、好奇心に満ちた目で眺めていた。
　それが終わると、シィカは戦闘場所で演奏してヒール。
「これで完璧デスね」
　美観も取り戻された所で、皆も頷き、山を下りる方向へ。
　平和となった空の下、それぞれに帰還していった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月20日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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