斑の喧嘩仁義

作者:崎田航輝

「ほー! こら確かに、きな臭いものを感じますわな!」
 黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)は、モザイクに覆われた空間をながめていた。
 今では不良の溜まり場になっている町外れの荒れ地。
 ふと思い立って調査に訪れたある日、物九郎はそれ、ワイルドスペースを見つけたのだった。
 瓦礫などが転がる風景の中、そこだけが内部の窺えない、混濁したモザイクの塊だ。
「ま、ほっとくわけにも行かないってんで。ひとつ、入ってみやしょうかね」
 物九郎はそこに、躊躇するでもなく踏み込む。
 中に何が待ち受けているのか、それに好奇心を覚えてもいるのだった。
 空間の中は、瓦礫や地面なども含め、全てがない混ぜになっている。
 ここまでは話にも聞いた通り、だが。ふと物九郎は耳をぴこりと動かす。
「これは……いる! 間違いなく何かが!」
 それは、すばしっこい足音のようなもの。
 物九郎は素早く視線を走らせる。すると、それは唐突に現れた。
「ウラーー!! 人様のシマに勝手に入るとは、てめぇの家は礼儀も仁義も躾けてないっスか!?」
「!?」
 物九郎は驚く。走り込んできたその影。それは少年のような見た目、猫耳、斑の入った髪の毛と、まるで物九郎の生き写し。
 ただ一つ、物九郎とは黒と白を入れ替えたような色合いをもった人影であった。
「……何スかこの、俺めの2Pカラーみたいな姿は!?」
「何ワケわかんねーことを! ……いや、何だかこの姿に因縁のありそうな奴っスね」
 その物九郎の生き写しは、警戒するような瞳で見ていた。
 物九郎もまた気づいている。それが自分の暴走姿で、敵であるワイルドハントだということに。
「これは面倒な敵に出会っちまいやしたね」
「それはこっちの科白でさァ。悪ぃですが、秘密を漏らすわけにはいきませんでな。死んでもらいやしょうか」
 ワイルドハントが構えると、物九郎は笑った。
「別に、いいっスよ。喧嘩には喧嘩。わかりやすいじゃないっスか!」
 敵の強さは想像できる、それでも物九郎に退く気はなかった。

「集まっていただいて、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、集まったケルベロス達を、見回していた。
「本日は、ワイルドハントについての事件です。調査をしていた黒斑・物九郎さんが、廃墟で襲撃を受けたみたいなんです」
 ワイルドハントは周辺をモザイクで覆って、内部で何かの作戦を行っていたようだ。
 そこへ踏み込んだ物九郎へ、攻撃を仕掛けたということらしい。
「こちらも、フォローの用意はしてあります。今からならば素早く救援に向かえるので、急ぎ現場へ向かい、物九郎さんに加勢して敵を撃破して下さい」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、ドリームイーター1体。現場は廃墟です」
 モザイクに覆われ、奇妙な空間となっている場所だ。全体が謎の粘液に満たされているようでもあるが、移動や戦闘に支障はないという。
 道中、戦闘を邪魔してくるものもいないはずなので、急行して即、戦闘を行ってくださいと言った。
「物九郎さんは戦闘に入っています。こちらもすぐに到着できるはずですが、敵に先手を取られている可能性もあるでしょう」
 合流までに若干のタイムラグがある可能性を念頭に置いておくと良いかもしれません、と言った。
 それでは敵の能力を、とイマジネイターは続ける。
「物九郎さんが暴走をしたような姿をしているようですが、別人であり使う力も異なるようです」
 能力としては、蹴り技による近単パラライズ攻撃、拳による近単プレッシャー攻撃、咆哮による遠列足止め攻撃の3つ。
 各能力に気をつけてください、と言った。
「敵の正体もまだまだわかりませんが……まずは救出と撃破を目指して、頑張ってきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)
ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)
黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)
ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)
千里・雉華(明日死ぬかのように生きよ・e21087)
フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)
上里・藤(黎明の光を探せ・e27726)
黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)

■リプレイ

●集結
 全ての風景が歪む空間。
 そのワイルドスペースへと、ケルベロス達は突入していた。
「右も左も分からないって感じだね」
 そんな光景を見回しつつ、ルージュ・ディケイ(朽紅のルージュ・e04993)は仲間の影を探している。
「とにかく、合流を急ぎたいところだけど」
「こうなると頼りは……音ッスかね」
 上里・藤(黎明の光を探せ・e27726)は耳を澄ますように、その居場所の手かがりを求めていた。
 フィオ・エリアルド(鉄華咲き太刀風薫る春嵐・e21930)も頷き、周りを見回す。
「そうだね。既に戦ってるなら戦闘音くらいは──っと」
 と、そこでフィオは気づいたように遠くを見た。
 その方向から、衝撃音にも似た音が聞こえてきたのだ。
「あの打撃音、何だか聞き覚えあるかも?」
「まずは行ってみるっスよ! 手がかりはそれだけっスから!」
 言って走り出すのは、黒岩・白(シャーマン系お巡りさん・e28474)。
 皆も頷くと、そちらへと疾駆し始めた。
 すると遠目に、飛び交っては交錯する、2つの人影が見えてくる。
 星黎殿・ユル(聖絶パラディオン・e00347)は白衣をひらひらとはためかせつつ、それを視界に収めていた。
「間違いなさそうだね。間に合えばいいけど」
「間に合わせられるように、急ぎましょう。せっかくのショウタイム、見逃すのは勿体無いワ」
 ドローテア・ゴールドスミス(黄金郷の魔女・e01306)は駆けつつも、どこか余裕を含んだように笑んでみせる。
 千里・雉華(明日死ぬかのように生きよ・e21087)にも焦りの色はなく。
 静かに目を細め、その戦地にいる仲間と、敵を見据えた。
「……では、サツのお仕事しまシょうか」

 黒斑・物九郎(ナインライヴス・e04856)は、ワイルドハンドの猛攻を受けていた。
 拳の乱打を腕でガードしつつも、声を上げる。
「ヴォー! いきなり容赦なさすぎじゃニャーですかよ!」
「たりめーでさ! 喧嘩が始まりゃ、殴るだけですでよ!」
 ワイルドハントは言って、ひたすら拳を打ってくるだけだ。
 鏡写しのような似姿。それに対し、物九郎もやられるだけではない。直後には『招福猫児・起源』による信仰の具現化で、相手に雷を落として見せた。
「どうですかよ! これぞオリジナル限定技ですわ!」
「……浅ぇですよ!」
 だがワイルドハントは、煙を上げつつも、未だ健常に踏み込んでくる。
 物九郎も回し蹴りを畳み掛けるが、相手も蹴りを打ち、物九郎は麻痺。
 静止したところを拳の連打で追い込まれた。
「ヌヌヌ……好き勝手にハメ技使ってくれやがらっしゃいましてからに!」
「実力差ですわ。どっちの方が2Pカラーか、理解したでしょうな!」
 ワイルドハントは言って、拳を振り上げる。
 物九郎は膝をつきながらも、しかし、負けの未来は見ていなかった。
「……まあ、イイですわ。見てなさいや。どんだけ姿形を似せたトコで、おたくにゃ無いモンが俺めにはあるんですからな」
「技なら、耐え抜きましたでよ」
「それだけじゃないですわ。イズ――困った時に助けに来てくれるナカーマ!」
 と、物九郎が言った、丁度その時だ。
 ワイルドハントが振り下ろしかけた拳を、稲妻の衝撃が弾き返した。
 疾駆したフィオが、武装・銃剣付き重力粒子バヨネットで強烈な刺突を喰らわせていたのだ。
「あちらのお客様から援軍の差し入れでーす!!」
「──フィオちゃん!」
 物九郎が声を上げると、ルージュも駆けつけ、駆動剣・Die Sterntalerで連続斬撃。
 次いで、白も地を砕く打撃で、ワイルドハントを後退させていた。
「黒斑くん! 助けに来たっスよ! 僕達が守るからもう大丈夫っス!」
「というか、平気? 間に合ってるよね?」
 フィオも言葉を掛けると、物九郎は元気に応える。
「もちろんですでよ! 皆々様方のおかげですが!」
 実際体力は減っていたが、それには雉華がすぐにオーラを施し、回復。
 さらにユルも、光の盾を展開して、物九郎の麻痺と傷を取り除いていた。
「ボクも助けに来たよ。前とは逆の立場になっちゃったね」
「ユルおねーさん、粋な義理の返し方、あざッス!」
 と、物九郎が応える横で、藤は何か、迷うように歯噛みをしていた。
 視線は、敵と行き来している。
「くそッ。黒斑物九郎、白斑物九郎……! どっちだ、どっちが本物だ……!」
「え!? そこ間違う!?」
 突っ込むのは、支援に来ていた有枝・弥奈だ。
 ただ、樫木・正彦も二者を眺めて口を開いている。
「おのれ、わいるどはんと、どっちがほんとうのものくろうなんだ」
「ヘイヘイヘーイ各々方ァー! 俺め! 俺めの方が本物ですでよ!」
 物九郎は自分を指す。
 藤は暫し考えてから言った。
「命中率を計算する限り、この黒斑物九郎が本物っぽい気がする。──けど、ここはあえて、白斑物九郎を推してみたい!」
「まさかの俺めの命の危機!」
 物九郎が叫ぶと、弥奈は皆を見回した。
「というか、ここぞとばかりにボケてるけど! これガチ依頼だからな!」
「……うん、まあ、そうッスね。──冗談だよ。助けにきたぜ、物九郎」
 藤は言って、回復を施す。
 茶斑・三毛乃も頷いてリボルバーを構えていた。
「勿論、若を見間違うことなんざァ、有り得やせん」
 その銃撃がワイルドハントを穿つと、ドローテアも、物九郎の似姿に向かい合っていた。
「この黒いモノクロちゃんが、喧嘩の相手ね? ワイルドな雰囲気で可愛らしいけド──」
 言うとドローテアは少し辞儀をしてみせる。
「ごきげんよう。先ずは喧嘩の流儀として、名乗りをあげさせてもらうワね。“魔女”ドローテア・ゴールドスミス。気軽に『マダム』とでも呼んで頂戴」
「包容力のありそうなおねーさんスけど。容赦はしませんでよ」
 ワイルドハントが構え直すと、ドローテアは笑んで、地を蹴っていた。
「勿論よ。それが喧嘩だものね」
 瞬間、肉迫して一撃。腹に痛烈な飛び蹴りを見舞った。

●拳戟
 ワイルドハントは衝撃に、再び後退していた。だがすぐに体勢を直し、攻撃の機会を窺っている。
「まだまだ! さァ、どっからでもかかって来いですわ!」
 声を上げる敵と対峙しながら、藤はどこか感心したように声を零す。
「でも、本当によく似てるな。それで同じ口調なもんだから常にステレオな気分だぜ」
「こうして見ると、随分楽しそうな喧嘩に巻き込まれてたんでスねえ、モノクロさん」
 雉華も、そんなふうに声を継ぐ。
「いや、楽しいどころかピンチでしたでよ!」
 物九郎は、敵の強さを分析とともに皆に伝える。技はこちらの使うものに酷似しているが、その威力が並ではない事も含めて。
 頷く雉華は無論、元より一切の油断はなく。自身もまた戦闘の構えを取っていた。
「何にせよ──知人の暴走した姿なんぞめったに見るもんでもないでスし。さっさと帰って頂きまスか」
「そうだね。救出して、撃破。目標は分かりやすい仕事だし」
 ルージュも、大鎌・Der Gevatter Todを掲げ、ワイルドハントを見据える。
「事件の手がかりを見つけるのは難しそうだけど。それならそれで──本来の目的に集中できる」
 瞬間、ルージュは疾走するように距離を詰め、鎌で一閃。袈裟の斬撃で、ワイルド・ハントの生命力を奪い取る。
 それを機に、物九郎も走り込んでいた。
「ウラー! 一斉攻撃! 反撃の狼煙ですでよ!」
 そのまま、降魔の力を込めたまっすぐの拳を叩き込む。間を置かず、藤へと振り返った。
「藤君、連撃頼みまさ! 連撃!」
「了解。──畏れろ」
 呼応するように、藤は『霆の畏れ』を行使する。
 それは雷への恐怖、そして信仰心を核に、雷神の畏れをグラビティで形成する技。
 閃光が輝いたかと思うと、雷の槍が顕現。投擲されたそれがワイルドハントの腹へと突き刺さった。
「フィオさん!」
「うん、私もたたみかけていくよ!」
 さらに、応えてフィオがバヨネットを構えている。
 その立ち位置は、藤が攻撃をした対角側。視界外から斬り裂くように、刃を奔らせ、連撃。敵の背へ無数の裂傷を刻んだ。
「同じ人型なら、死角も同じでしょ」
「こいつは不覚! ですが!」
 ワイルドハントはすぐに振り向き拳での反撃を狙う。が、それは白がナイフの柄で受け、衝撃を軽減していた。
「簡単にはやらせないっスよ」
「回復は任せてー」
 直後には、ユルが【緋炎聖女】を行使している。
「我が魔力、汝、救国の聖女たる御身に捧げ、其の戦旗を以て、我等が軍へ、勝利の栄光を齎さん──!」
 光とともに、顕れるのは救国の聖女のエネルギー体。それが鼓舞するように、白を含む前衛を回復防護していく。
 同時、差深月・紫音もマインドシールドを発現して、白の回復を支援していた。
「ヒールってのは苦手だが、文句は言ってられねぇからな」
「じゃあ僕は攻撃を。物九郎くん、きみの2Pカラー、僕にも一発殴らせてもらうよ」
 次いで、イブ・アンナマリアは敵へ接近。音を拳に纏わせ、思い切り殴りつけていた。
 ワイルドハントがたたらを踏むと、その間隙に、蠍座の輝くゾディアックソードを握るドローテアが、踏み込んでいる。
「タイミングを合わせていくワね」
「おっけーっス!」
 声を返すのは白。逆側から挟み込むように接近し、ナイフで鋭い斬撃を加える。
 そのタイミングで、ドローテアも縦一閃。卓越した剣さばきで、ワイルドハントの胸部から足元までに深い傷を奔らせた。
「包容力、感じるかしラ?」
「こいつは鋭すぎっス!」
 ワイルドハントは振り払うように間合いを取る。
 が、その背後からは既に、雉華が回り込んでいた。
「隙ありでスね」
 瞬間、焔の燃え上がる、刃のような蹴撃。斜め下方から痛打を受けたワイルドハントは、空に煽られ、一度地に転げた。

●闘争
 血だまりの中で、ワイルドハントはふらりと立ち上がる。
 その顔には、当初なかった苦悶も浮かんでいた。それからちょっと訴えるように言う。
「……あんだけ仲間と似てる似てる言いながら、一切容赦なしってのも非道いですでな!」
「そりゃあ、だって、割といつものことと言うかなんというか…」
 フィオが応えるように言うと、ワイルドハントは怪訝だ。
「これがいつものこと?」
「……まあ、ね。手合わせしてるって意味では、普段から戦ってるようなものだし」
 フィオの言葉に、雉華も静かに頷いていた。
「いつも、戦闘訓練をしている仲でス。だから今更、心乱れたりはしないのでスよ」
 それから拳を握り、突き出してみせる。
「こんなことは日常茶飯事。今回ばかりは喧嘩売る相手間違えまシたね。加減はするんで――死ぬより苦しんで下サい?」
 言葉と同時、雉華は走り込んで、腹部に重い拳を打ち込む。
 続けてフィオも、銃剣に雷光を纏わせ接近した。と、そこへ暁星・輝凛が虹色の光を展開し、前衛の力を増幅させている。
「ふぃおりん、これで攻撃を!」
「うん、ありがとう!」
 フィオは高まった力を乗せるように刺突。ワイルドハントの腹を貫いた。
「フギャッ……!」
「続けていくっスよ!」
 ふらついたワイルドハントに対し、白はグラビティを集中。『黒岩動物大隊』を行使して、精霊を人の姿へ具現化して喚び出している。
「さぁ、群れとしての力を見せてやるっスよ!」
 顕れるのは、白虎の精霊・粉雪、ペンギンの精霊・リエラ、そして白狐の精霊・幽。それぞれが爪、弓、刀を持つ少女の姿として顕現し、一斉にワイルドハントへ襲いかかった。
 斬撃と射撃を受け、呻きを漏らすワイルドハント。それでも倒れはせず、反撃の咆哮を上げてきた。
 それは衝撃となって前衛を襲う。だがその中でも物九郎は、波動の間を縫うように疾駆していた。
「そういやまだ、こいつをやり返してませんでしたでよ!」
 放つのは、跳躍しての回し蹴り。正面から顔に直撃させ、敵を転倒させた。
「待ってて。すぐに癒やすよ」
 その間にユルは、クレジットカード型シャーマンズカード・星降る金符を掲げている。そこへ霊力を篭めると、再度【緋炎聖女】を召喚。
 その勇壮さ、そして威圧感によって敵の波動を吹き飛ばし、前衛の傷も癒していた。
「これで、だいぶマシかな」
「私も援護します!」
 さらに、ルーチェ・プロキオンも魔法少女コスチュームでオウガ粒子を展開。前衛を万全な状態にしていた。
 ワイルドハントも起き上がり、拳を打ってくる。が、それをドローテアは刃で逸らした。
「もっと痺れさせてあげるワ」
 返す刀で、ドローテアは刃に稲妻を纏わせて一撃。至近からの刺突で、敵を真後ろへと吹っ飛ばす。
 そこへ、ルージュが追いすがるように駆けていた。
「僕らも行こうか」
「分かりました。逆からいくッス」
 応じて藤も、同時に疾駆している。
 2人は挟み込むように、宙を舞うワイルドハントへ。まずは跳び上がった藤が、斜め下方から、獣化した拳で殴り上げる。
「ヌォッ……!」
 上方へ煽られながら、ワイルドハントも防御態勢を取ろうとする。だが、その頭上に、さらに高く跳び上がったルージュの影がかかった。
「遅いよ。それでこれを、受けきれるかな」
 同時、刃を駆動させて一閃。
 ルージュの切り下ろすような一刀を躱せず、ワイルドハントは地へと叩き付けられた。

●決着
 声を上げて倒れ込むワイルドハント。
 起き上がるその足元は、おぼつかなかった。が、最後まで、戦意は失われていないようでもある。
「言葉に違わぬ強さですわ……こうなりゃ、こっちも死ぬまで喧嘩するだけですでよ!」
「それが、君の正義というわけかい」
 ルージュはふと声を零す。そこに、強い信念にも似たものを感じたからだ。ワイルドハントは拳を構える。
「敵は倒すだけってことでさァ」
「それならこっちも、阻止するだけだよ」
 声を返したフィオは、一気に近づいて、銃剣を縦横に繰って斬撃を叩き込んでいく。
「ここで何やってたかは知らないけど、偽物はここで退場!」
「だから偽モンじゃないと──」
「おっと、まだだよー」
 と、体勢を直そうとするワイルドハントへ、ユルが飛び込んでいる。青髪とともに、豊かな胸部も揺らしながら、敵の眼前へ着地した。
「覚悟は良いか? 歯を食い縛れー!」
 瞬間、強烈な蹴り。直撃によろめいたワイルドハントへ、さらにルージュも『朽紅の叛逆』を行使していた。
 それは無数の未来を演算で予測し、最善手を引き寄せる能力。ワイルドハントの回避の叶わぬ位置へ繰り出した斬撃は、確かにその体を捕らえ、鮮血を散らせた。
「続けていくワよ。《蠍の星剣/Scor-Spear》──!」
 次いで、ドローテアは“蠍の刻印”。蠍座の星剣に魔法を宿し、赤い軌跡を描きながら胸部を突き刺した。
 血を吐きながらも、ワイルドハントは、拳を繰り出す。が、それは防御態勢をとっていた白がガードし、衝撃を殺す。
「その生命力、逆にいただくっスよ!」
 直後、白はゼロ距離でナイフを振るい、敵の体力を我が物にする。
 同時にヨル・ヴァルプルギスはオウガ粒子を拡散。前衛の体力を保ちつつも、知覚力を向上させていた。
「願わくば、今後、あの姿になられた旅団長様御本人と御会いする機会がありません事を──」
「そのためにもここで確実に、倒しまシょうか」
 応えるように、雉華は『狂犬の発露』。文字通りの獰猛な精神を載せ、至近からボディブロー。ワイルドハントを地に打ち倒す。
 それでもワイルドハントは、地を這ってくる。
「ま、まだまだ……!」
「いいや、これで終わりだ。──物九郎」
 藤は呼びかけながら、霆の畏れを発現し、雷槍を突き刺していく。
「ウッス! ブチのめしてやりまさァ! ブチネコだけに!」
 物九郎は呼応して走り込み、一撃。黒ブチ模様のオーラを揺らめかせた渾身の拳を叩き込み、ワイルドハントを霧散させていった。

「終わったね。みんな、お疲れ様」
 戦闘後。ルージュの言葉に皆は頷き、息をついていた。
 物九郎は改めて皆を見回している。
「各々方、助かりましたでよ! ありがてぇっス!」
「まあ、とにかく無事でよかった」
 藤が言えば、ドローテアも頷く。
「よく頑張ったワね、モノクロちゃん。あとでごほうびあげるワ」
「ごほうび? 何だか心躍る響きですでよ!」
 物九郎がわくわくを浮かべる、その横ではユルが周囲を見渡していた。
「一応、周囲を調べるだけ調べていく?」
 未だ謎も多いワイルドスペース、それを眺めつつ皆は再び頷き、何か手がかりがないか探ることにした。
 ただ、それでも情報を得られそうなものはその場にはなかった。ユルは周囲の粘液を気にしていたが、それの採取はうまく出来ないようだ。
「このヌルヌル気になってたんだけどな……」
「……早くも、消滅しているようでスね」
 雉華が視線を巡らせる。周りのモザイクは消え、元の風景に戻っていっていた。
「ワイルドハントについても一応、録画はしておきまシたが。役に立つかどうか」
「そうだね。……でも一応は、敵を倒せたから良かったのかな」
 フィオが言えば、皆は頷く。
 周囲に異常もないと見ると、ひとまず帰還することにした。
 白は帰り道の方へ歩き出す。
「今回は、中々大変だったっスね」
「楽しい喧嘩だったけれど、少々疲れたワね。ごはんでも食べにいく? ウチにくるならサービスするワよ」
 ドローテアが言うと、それぞれに頷きつつ、帰路へ。静けさの戻った廃墟を背に、歩いていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月18日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 5
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