風を斬る拳士

作者:崎田航輝

「……シッ! シッ!」
 山の中、風切り音のようなものが響いている。
 それは1人の若い青年が、シャドウボクシングに勤しんでいる音だった。
 細身ながら筋力のある体は、紛うことなきボクサーのそれ。ロードワークをしながら、山の中で自分の拳の感覚を確かめるのが、この若きボクサーの日課であった。
「この拳を、どこまでも強く。最強の格闘技であるボクシングで頂点に立ち、俺は最強の拳士になるんだ!」
 夢は遠く眩しく。青年は拳で風を切る。
 と、そんな時だった。
「お前の最高の『武術』、見せてみな!」
 言葉とともに、突如、木々の間から現れた者がいた。
 それはドリームイーター・幻武極。
 その瞬間に、青年の体は操られたように動き、勝手に幻武極に拳を打ち込んでいた。
 ひとしきり攻撃を受けると、幻武極は頷いた。
「僕のモザイクは晴れなかったけど、お前の武術はそれはそれで素晴らしかったよ」
 そうして、言葉とともに、青年を鍵で貫いた。
 青年は地面に倒れ込む。するとその横に、1体のドリームイーターが生まれた。
 それは、立ち姿だけで闘気のようなものすら感じさせる、強豪ボクサーの風格。
 繰り出したストレートで風を裂き、木々を吹っ飛ばす。それは正に青年が理想とする拳士の姿であった。
 幻武極はそれを確認すると、外の方向を指す。
「さあ、お前の力を見せ付けてきなよ」
 ドリームイーターは、言われるがまま、森を歩いて出ていった。

「拳士の理想の姿、ですか。少し、興味はありますね」
 立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)の言葉に、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は頷いていた。
「実際に、実力もある敵でしょうから。気を引き締めていきたいですね」
 それから改めて皆に説明をする。
「今回は、立花・吹雪さんの情報で判明した、ドリームイーターの事件について伝えさせていただきますね」
 最近現れた幻武極の仕業のようで、自分に欠損している『武術』を奪ってモザイクを晴らそうとして起こしているという事件だ。
 今回の武術家の武術ではモザイクは晴れないようだが、代わりに武術家ドリームイーターを生み出して暴れさせようとしているのだ。
 このドリームイーターが人里に降りてしまえば、相応の被害も出てしまうだろう。
「その前に、この武術家ドリームイーターの撃破をお願いします」

 それでは詳細の説明を、とイマジネイターは続ける。
「今回の敵は、ドリームイーターが1体。場所は山林です」
 山奥であり、木々の茂る一帯だという。
 ひとけもなく、一般人などの被害を心配する必要もないので、戦闘に集中できる環境でしょうと言った。
「皆さんはこの山中へ赴いて頂き、人里に降りようとしているドリームイーターを見つけ次第、戦闘に入って下さい」
 このドリームイーターは、自らの武術の真髄を見せ付けたいと考えているようだ。なので、戦闘を挑めばすぐに応じてくるだろう。
 撃破が出来れば、青年も目をさますので心配はない、と言った。
「武術の真髄とは、つまり青年が理想としていたボクシングということですね」
「ええ。青年は格闘術としてもそれが最強だと信じていたようで、鍛え上げれば相手が武器を持っていても勝てる、という信念のもとに鍛錬していたみたいです」
 吹雪に、イマジネイターは応える。
 ドリームイーターは、その理想を体現した存在。行使してくる技も勿論強力だと言った。
 能力としては、ジャブ連打による近列服破り攻撃、踏み込んでストレートを打つ遠単追撃攻撃、ボディブローによる近単パラライズ攻撃の3つ。
 各能力に気をつけておいてくださいね、と言った。
 吹雪は1つ頷いて口を開く。
「夢の如き存在、とはいえ、最強を名乗る相手ならば手合わせをしてみたいですね」
「きっと、皆さんならば勝てると信じています。是非、撃破を成功させてきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)
立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)
椿木・旭矢(雷の手指・e22146)
藤堂・水蓮(運否天賦・e25858)
ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)
ユッフィー・ヨルムンド(エルムンドの竜使い・e36633)

■リプレイ

●対峙
 ケルベロス達は山中へと入ってきていた。
「この辺りか。もういつ出てきてもおかしくないね」
 その中腹。ヴィットリオ・ファルコニエーリ(残り火の戦場進行・e02033)は、立ち止まって見回している。
 既に敵との接触予測地点でもある。椿木・旭矢(雷の手指・e22146)は無表情ながら、しかと警戒の視線を巡らせていた。
「ロードワークの道中だし、山道も傍だ。敵もここは通るだろう」
「戦いやすい場所だし、ここで準備しておきましょうか」
 と、木々にロープを張っているのは稲垣・晴香(伝説の後継者・e00734)だ。
 するとそこは簡易のリングのようになる。さらに装飾の多い入場コスチュームを纏い、晴香は山中にあって目立つ格好となった。
 皆はそこで、敵影を探しつつ待つことにする。
「そういえば、依頼で一緒になるのは初めてですね。共に戦えて頼もしいです」
 立花・吹雪(一姫刀閃・e13677)はふと、横に声をかける。
 それに応えるのは、佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)。明るく笑んで返した。
「わたしもだよ。一緒に頑張ろうね!」
「ええ。男性を悪夢から助け出す為に。皆さんも頑張って参りましょう!」
 吹雪が言うと皆もまた頷く。
 そこで、ユッフィー・ヨルムンド(エルムンドの竜使い・e36633)が上を仰いでいた。
「見つかったようですわよ」
 直後に空から降りてくるのは、ボクスドラゴンの夢竜ボルクス。ユッフィーが索敵をさせていたのだった。
 ボルクスが視線をやる方向へ、皆は立ちはだかるようにして待ち伏せる。
 すると程なく。そこから人影が歩いてきた。
 引き締まった体の男。強豪ボクサーの風格を持った、ドリームイーターだ。
『こんな山中に人がいるとは。それに興味深いものもあるな』
 ドリームイーターはリングと晴香の衣装、そしてそのチャンピオンベルトにも視線をやっていた。
 晴香は口を開く。
「貴方が最強のボクサー? まぁボクサーとしては最強かもしれないけど……一番凄いのはプロレス、そしてこの私、稲垣晴香よ!」
『……聞き捨てならんな。最強は、ボクシングに決まっている!』
 ドリームイーターも眉を上げて言う。
 すると晴香は衣装を脱ぎ去り、愛用の真っ赤なリングコスチュームをあらわにした。
「なら、最強のボクサーと最高のレスラー、どっちが凄いか確かめる? 真っ向勝負、世紀の異種格闘技戦といきましょうか!」
『面白い。お前達も全員打倒し、ボクシングが最高の武術と証明しよう!』
 ドリームイーターは言ってリングに跳んだ。
 すると、同時に翼を輝かせ、ドリームイーターを迎え撃つものがいた。
 武装ハルバートを掲げる藤堂・水蓮(運否天賦・e25858)だ。
「最高の武術ですか。俺達もすぐに魅せてあげますよ。俺達なりの武術を!」
 風を掃き距離を詰めると、水蓮は一閃。稲妻を宿した矛先で初手、強烈な刺突を繰り出した。
 ドリームイーターが衝撃に立ち止まると、晴香はそこへドロップキック。勇華も拳の一撃を放ち、吹雪も剣撃を叩き込んでいた。
 その間に旭矢は魔法陣を描き、前衛の守備を固めている。
 敵も体勢を直すが、そこへ、ダンサー・ニコラウス(クラップミー・e32678)が怪力無双で巨大な岩を持ち上げ、威嚇するように迫っていた。
「今日のダンは森のクマよりムキムキかも」
『ぬぅ、岩程度、砕いてこそ!』
 ドリームイーターは怯まず、それを拳で砕く。
 が、そこへヴィットリオが遠隔の爆破を喰らわせ、たたらを踏ませた。
 連続して、ユッフィーが剣を奔らせ傷を刻んでいくと、ダンサーも大槌を構えている。
「いい隙ができた、ね」
 瞬間、ダンサーは爆炎を上げて砲撃。敵の横っ腹に砲弾を直撃させ、木へと吹っ飛ばした。

●拳戟
 ドリームイーターは横倒れになりつつも、すぐに立ち上がる。
『……成る程。多様な攻撃をする。それがお前達の戦い方か』
 その顔には苦悶はなく、むしろ好戦的な笑みがあった。
『ならば本気を出す甲斐がある。どんな武器も、拳で砕いてみせよう!』
「徒手空拳で武器を打倒し、最強を証明ですか。確かに、理想を模した存在らしいですね」
 吹雪が言うと、頷くのはヴィットリオだ。
「相手にとって不足はないよ! こっちも本気で挑むだけだ! ディート!」
 そう声を上げると同時、ヴィットリオはライドキャリバーのディートに乗って疾走。弧を描くような軌道で敵を翻弄すると、横合いを取って、蹴りを打ち当てた。
 ディート自身にはガトリングを撃たせ、ダメージを刻む。が、ドリームイーターも銃弾の中を突進してきた。
『まだまだ──!』
「なら、わたしの拳、受けてみる?」
 言って、敵の拳に拳をぶつけたのは勇華だ。
「拳使うのはわたしも得意とするところ! 引けを取るつもりはないよ!」
 そのままガントレット“咲き誇る桜花”に力を篭め拳を弾く。
 その瞬間は両者、ダメージはない。だが、勇華は同時に逆の腕を突き出し、指を使っての刺突。文字通り刺すような一撃を与えていた。
「吹雪さん!」
「ええ、了解しました」
 同時、吹雪も応えて肉迫している。振り上げるのは、斬魔刀【絶花】。
「武器を破ることが簡単でないと、教えて差し上げましょう」
 瞬間、目にも留まらぬ刃の連撃で、血を散らせた。
 ドリームイーターは痛みに顔を顰めながらも、反撃に、ジャブを連打してくる。
 回避困難な攻撃、だが、ヴィットリオは防御態勢を取りダメージを抑えていた。
「当たっても、重さが乗ってなければ意味がないね!」
『ぬぅ、これで終わるか!』
 そのジャブは広範囲に、さらに晴香も襲う。だが晴香は真っ向から受け止めると、後退。同時にロープの反動で速度を付けていた。
「これが、プロレスラーの戦い方よ!」
 そのまま流れるような動きで、ラリアットを首元に叩き込んでいた。
 派手に転倒したドリームイーター。だが、地に手をついて起き上がる。
『見事だ。が、そちらのダメージとて軽くはあるまい──』
「見ていろ」
 と、声とともに光を生み出しているのは、旭矢だ。
「戦いは殴り合うだけが花ではない。お前の与えるその傷全て、俺が癒し切ってやる」
 相手の目を見つめながら、それは宣言するような言葉。
 生まれた光は、直剣Alreschaから煌めく、星々の灯りだ。その力を解き放つと、流星のような軌跡を描いて癒しの力が広がり、前衛の傷を回復させていた。
「ストーカーもがんばって、ね」
 同時に、ダンサーは背後に立っているシャーマンズゴースト、ストーカーに指示を出す。
 ストーカーはカメラを手に、ダンサーは視界に捉えたまま、晴香を治癒していた。
 ダンサー自身は、踊るような動きで飛び蹴り。敵をよろめかせる。
「続けて攻撃、お願いしたいかも」
「お任せを。一撃打ち込んでみせましょう」
 と、声を返すのは水蓮。間を置かず、逆方向から敵へ迫っていた。
『く──』
「遅いですよ」
 慌てて振り向くドリームイーター。そこへ水蓮は素早くハルバートを奔らせ、腕に裂傷を刻む。さらに翼をはためかせて旋回すると、広い角度から連続の斬撃を見舞った。
「今ですわ。ボクちゃん、攻撃を!」
 次いで、ユッフィーが声を張るとボルクスも羽ばたいて飛来。至近から、モザイクのかかった炎のブレスを浴びせた。
 ユッフィーは宝玉斧ヘイムダルを掲げ、石化魔法を発現。引き絞ったような光線を多重に命中させ、その足元を硬化させ、転倒させた。

●理想
 ドリームイーターは、膝をついて体勢を戻す。
 だが先刻と異なり、そこには微かに苦悶の色があった。
『何故だ……俺は最強のボクシングを会得しているはずなのに』
「そちらの戦闘力は、たしかに高いでしょう」
 水蓮はそこへ、楚々とした声を返す。
「しかし、こちらも劣っていないというだけのこと。その上独りではない──ともに戦う仲間がいるのですから!」
『仲間? ……下らん!』
 ドリームイーターは激昂するように拳を握る。
『それならその仲間ごと、殴り殺してみせるとも──ボクサーとしてのこの拳で!』
「ボクサー、ね。スポーツマンは無闇に、人を傷つけたりしないかも」
 ダンサーは無表情のまま、淡々と言う。
「だから、あなたの姿が理想だとしても、それを叶える場所はここじゃないかも」
『……強者だからこそ、力を証明する。それだけだ!』
 ドリームイーターは反抗するように、ただ攻めて来る。
 水蓮はしかし、揚力で体をずらし、敵の拳の動線からずれている。
「言っても無駄ならば。こちらも最後まで、受けて立つだけです。そして、貴方の風を見切ってみせましょう!」
 瞬間、宙で体を翻し、胸元へ強烈な飛び蹴りを打った。
 つんのめるドリームイーターへ、ダンサーは煙を上げて砲撃。大音を上げて後退させる。
 敵もまたロープの反動を頼りに戻ってくるが、そこへ、晴香が高く跳んでいた。
「ちょうどいい受けの体勢ね!」
 直後、接触点でドロップキック。勢いも相まって、ドリームイーターは反り返るように倒れた。
「あなたも魅せる戦い、わかってきたかしら?」
『そんなもの……ッ!』
 ドリームイーターは立ち上がると、旭矢に狙いを定め、風を裂くストレートを放つ。
 かなりの重い拳、だが、それは滑り込んだヴィットリオが庇っていた。
「……やるじゃないか、流石理想像。でも!」
 腕の軋むような感覚を覚えながらも、ヴィットリオは倒れない。逆に、体を纏うオーラ・レイヴニスロガルに地獄の炎を滾らせ、一撃。敵の胸へ拳を打ち込み、炎を燃え上がらせた。
「任せてくれ。今、癒やす」
 と、直後には旭矢が、素早く力を集中。
 その過剰なまでのグラビティを全て癒しの効果へと変換し、『傲慢過保護な癒し手』。ヴィットリオを大幅に回復させた。
 その間も、旭矢は冷静に油断なく、敵を観察していた。
「しかし、恐ろしい技ばかり使うものだ。元々のボクサーも、練り上げられた技を使う猛者だったのだろうな」
「その理想だからこそ、多彩な攻撃が厄介ですね」
 吹雪も言葉を継ぐ。だが、吹雪とて生半可な鍛錬をしてきていない。あくまで怯まず、凛と刀を構えた。
「最後まで、気を付けていきましょう!」
「もちろんですわ。このまま剣のサビにして差し上げます」
 応えるユッフィーは、低い姿勢からドリームイーターへ接近。無数の斬撃を繰り出し、動きを鈍らせていく。
 それでもドリームイーターは接近してくる。
『この拳を全ての人間に知らしめるのだ……!』
「いいや、ここで絶対に、食い止めるよ!」
 だが、そこに勇華が立ちはだかるように一撃。氷を纏わせた拳で顎を打ち、宙へ煽らせる。
 吹雪も連続の剣閃を放ち、猛攻。鮮血とともにドリームイーターを倒れ込ませた。

●決着
 血だまりの中で、ドリームイーターは立ち上がる。体はふらつきつつも、戦意は失っていないという表情だった。
『認めんぞ……この拳が、負けるなど……!』
 そのまま、がむしゃらに突っ込んでくる。
 だがヴィットリオは、放たれた拳を木を盾にして躱した。
「強力な拳も、当たらなければ意味がないよ!」
 直後、回り込んで飛び蹴り。同時にディートにもスピン攻撃をさせ、体勢を崩させる。
 そこへ、水蓮は『Malsokande』。空中へ追いすがる一撃で、ドリームイーターを地に叩き付けた。
「俺達の戦い、そして仲間とともにあることの強さ。それが理解できたでしょう」
『まだ、だ……!』
 ドリームイーターは、それでも起き上がり、反撃に拳の連打。水蓮には当たらなかったが、ユッフィーには命中し、衝撃でレオタードが破れ胸があらわとなった。
「きゃあっ! なんと破廉恥な!」
 甲高い声を上げたユッフィー、だが、すぐに斧を構える。
「しかし──わたくしとて、誇り高き戦士のはしくれ。この程度で、動じはしませんわ!」
 そのまま攻勢に戻り、魔法の光で敵の足元を石化させた。
「攻撃のチャンス、かも」
 その間隙に、ダンサーが跳躍し接近。踏みつけるように踵落としを与えていた。
 旭矢は地面に守護星座を描き、中衛を回復している。最後まで迷いなく治癒だけに邁進するのは、その分攻撃を行う仲間を信頼しているからでもある。
「後は、頼めるか」
「もちろんよ!」
 応えた晴香は、敵の肩を引き寄せ、ショートレンジでのラリアットを直撃させる。
 よろめくドリームイーター。吹雪はそこへ歩み、雷の霊力を自身の体に駆け巡らせていた。
「私の全身全霊の拳術をお見せいたしましょう。……貴方にこの一撃が見切れますか?」
 瞬間、『紫電衝』。雷の霊力を纏わせた拳で、腹部を打ち貫いた。
『がっ……!』
 血を吐いて宙に浮いたドリームイーター。そこへ、勇華も『勇者パンチ』。
「わたしの全力の一撃! 受けて見ろ!」
 マントとスカートを靡かせながら、跳躍からの落下に全体重を乗せて放つのは、渾身の拳。その一撃がドリームイーターを穿ち、千々に散らせていった。

 ドリームイーターは霧散するように、煌めきとなって消えていく。
「本当は最後に捕食させたかったのですけれど……ボクちゃん、どうですの?」
 ユッフィーは、その残滓をボルクスにつつかせていた。ボルクスはそれこそ霞を食べているようで、何ともいえない反応だった。
 その内にそれも消滅すると、戦闘は終わりとなった。
 その後、皆は青年の元を訪れる。青年は丁度、目をさましているところだった。
「えぇと、お怪我はありませんか?」
 勇華が確認すると、青年は健常な返事を返す。
「そっか。無事でよかったよ」
 ヴィットリオは安堵しつつ、一応事情の説明もした。
 青年はそうですか、と頷きつつも、不甲斐なさそうでもあった。
「俺がもっと強ければ良かったのかもしれません」
「力はタダじゃない。けど努力をすればきっと、強くなるかも。ケルベロスだってそうだから」
 ダンサーがそう言葉を返すと、旭矢も頷いた。
「少なくとも、ドリームイーターに狙われるほどの技術を持っていたわけだ。俺は、あんたが世界を獲るのを楽しみにしている」
「チャンピオン目指してがんばって、ね」
 ダンサーも続けると、青年は少し黙ってから、はい、と深く頷いていた。
 晴香も笑いかける。
「今度は真っ当なリングで異種格闘技戦やりましょ!」
「有名なプロレスラーにそう言っていただけるなら、嬉しいです」
 青年は晴香のコスチュームに少し照れつつも、光栄そうに応えていた。
「では、ヒールをしてから帰るとしましょう」
 水蓮が言えば、皆も頷き、戦場を修復して歩きだす。
 ユッフィーは山を振り返った。
「ドリームイーターなのに、選定されたエインヘリアルみたいな敵でしたわね。純粋に強さを求める分、本家より『らしい』ですの」
「確かに興味深い相手でした。強かった分、勝ててよかったですね」
 吹雪がそう応えると、皆はまた頷いた。
 そうして人里へ下りると、皆はそれぞれに、帰還していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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