歪曲する暴機

作者:崎田航輝

 関東の町外れ。
 今では不良の溜まり場となっているという、そんな廃墟にその空間はあった。
「ワイルドスペース……! こんなところにあったのか……!」
 それを見据えているのは、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)。
 ふと思い立って、この近辺を調査に訪れた。そこで、この奇怪な空間を見つけたのだった。
 モザイクに覆われた空間を見るその心は、普段は冷静なだけ、どこかざわつきを覚える。
「それでも、放置してはおけないな……」
 中には敵がいるかもしれない。それはこれまでの調査からも予測できること。
 しかし、だからこそ、マティアスは内部へと、歩を進めた。
 瓦礫に、建造物だったと思しきもの。中ではそれが混ぜ合わさり、歪曲しているような奇妙な風景が広がっている。
 全体を満たす粘液の中を進むと、マティアスはそこで、その影を見つけた。
「お前は……」
「──このワイルドスペースを発見するとは。貴様は、この姿に因縁を持つものか」
 マティアスの目の前に現れたもの、それはドリームイーター・ワイルドハント。
 だが、その姿がマティアスの心を捕らえる。
「これは……俺の姿、なのか」
 それはどこか竜を象ったような機械のよう。マティアスと共通した機構を持つ、戦闘機の姿をしていたのだ。
「ワイルドスペースの秘密は、守る。そのために貴様には、死んでもらおうか」
 ワイルドハントは、問答無用とばかり、襲い掛かってきた。
 マティアスは戦う他にない。
 波立つ心を戦いに切り替えて、すぐに冷静な面持ちを作った。
「──戦闘モードに移行する」

「集まっていただいて、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、集まったケルベロス達を、見回していた。
 その言葉は少し急ぐ調子だ。
「本日は、ワイルドハントについての事件です。調査をしていたマティアス・エルンストさんが、とある廃墟で襲撃を受けたみたいなんです」
 ワイルドハントは廃墟一帯をモザイクで覆って、内部で何かの作戦を行っていたようだ。
 そこへ踏み込んだマティアスへ、攻撃を仕掛けたということらしい。
「こちらも、フォローの用意はしてあります。今からならば素早く救援に向かえるので、急ぎ現場へ向かい、マティアスさんに加勢して敵を撃破して下さい」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、ドリームイーター1体。現場は廃墟です」
 モザイクに覆われ、奇妙な空間となっている場所だが、戦闘に支障はないという。
 特に戦闘を邪魔してくるものもいないということで、急行して即、戦闘を行ってくださいと言った。
「マティアスさんは戦闘に入っています。こちらもすぐに到着できるはずですが、場合によっては敵に先手を取られている可能性もあります」
 短時間でも、一対一で敵と相対する時間は出来てしまうかもしれない。そういったことを考慮しつつ、加勢後の立ち回りを考えておくといいでしょう、と言った。
 それでは敵の能力を、とイマジネイターは続ける。
「マティアスさんが暴走をしたような姿をしているようですが、別人であり能力も異なるようです。この敵は、近接攻撃やレーザーを主体とした攻撃をしてくるでしょう」
 能力としては、近接攻撃による近単服破り攻撃、レーザー光による遠単追撃攻撃、拡散エネルギーによる遠列パラライズ攻撃の3つ。
 各能力に気をつけてください、と言った。
「ワイルドハントについては分からないことも多いですが……今回は撃破が優先です。是非、頑張ってきてくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)
イグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)
レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)
館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)
ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)
五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)
マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)
岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍ガンナー・e29164)

■リプレイ

●救援
 廃墟の中の歪曲した空間、ワイルドスペース。
 ケルベロス達はその内部へ突入していた。
「これは、マティアスの戦闘モードの信号……? ノイズが多くてはっきりしないけど、やっぱり既に戦闘には入っているのかも」
 館花・詩月(咲杜の巫女・e03451)は見回しつつ呟く。方向も判然としない中、センサーのレンジを広げ索敵をしていた。
 頷くイグナス・エクエス(怒れる獄炎・e01025)は、アイズフォンでの連絡を試みている。それは一度通じた気配があったが、衝撃音とともに途切れてしまった。
「応答できないほど、激しくやりあってるのかもな」
「とにかく、早く見つけるのみだな」
 ティーシャ・マグノリア(殲滅の末妹・e05827)は言って、疾駆し始めている。
 通信から聞こえた衝撃音は、現実の剣戟音としても、遠くから響いてきていたのだ。
「あちらですね。急ぎましょう」
 ミオリ・ノウムカストゥルム(銀のテスタメント・e00629)もすぐに発信源へ移動を始める。
 皆も頷き、まずはそこへ急行した。
 道中、岩櫃・風太郎(閃光螺旋の猿忍ガンナー・e29164)はふと呟く。
「しかし、我が友は多くの人から慕われておるのだな」
 見回す視線は、『レプリフォース』団員も含め、駆けつけた数多くの仲間に向いている。
「なればこそ、必ずや助け出さねば!」
「……うん……。マティアスさん……レプリフォースの団長は……私たちが守る……」
 頷くのは、団員の1人でもある霧崎・天音。
 レーン・レーン(蒼鱗水龍・e02990)はそれに優しく声を返す。
「レプリフォースの団員がこれだけいるのですもの。必ずマティアス様を無事に助けられますわ」
「では皆のもの、行くでござるよ!」
 風太郎が言えば、遠目に2つの人影が戦っているのが見えてきた。
 バラフィール・アルシクはそれを見据え、翼を羽ばたかせる。
「前を向いて進みながらも……純粋で少年のようなあの方を。こんなところで死なせはしません!」
「ええ──目標捕捉、オープンコンバット。一気に、近づきます」
 ミオリは冷静に、確実に、速度を上げる。仲間の元へ。

 目の前にいるのは、機械竜型の戦闘機。
「これは、ダモクレスだった頃の、俺の見た目と……」
 歪む景色の中、マティアス・エルンスト(レプリフォース第二代団長・e18301)はワイルドハントと対峙していた。
 その姿に思い出されるのは自らの過去。
 否が応でも蘇る光景。気持ちの悪さと苦しさを、マティアスは覚えていた。
「どうした、殺されるのを待つだけか」
 ワイルドハントは言いながら、問答無用で爪撃を繰り出してきている。
 だがマティアスも、ビーム状のシールドで威力を軽減。心を落ち着かせようとしていた。
 それはある意味で、マティアスもまた戦闘機である証左か。静かな調子で、体勢を直す。
「──防戦フェーズ、継続。体力自己モニタリング、水域軽度グリーン──」
「すぐにその体力も底をつかせてやろう」
 しかしワイルドハントも、エネルギーを集め、レーザーへと収束し始めている。
 元々一対一では分の悪い戦い。連撃を受ければ、すぐに危機が訪れるのは、マティアスにも分かっていた。
 それでも1人だからこそ、戦況を覆すのは難しかった、が。
 その時。突如、別方向から光が閃く。
「イヤーッ! エイプニンジャ見参ッ!」
 それは、風太郎の放った光線だ。
 弾けるようにそれが敵のレーザーを消し飛ばすと、次に朗々と声が響く。
「我が手は惹き合う手。我が手は請い合う手──」
 ワイルドハントが振り向く、その先。胸部の宝玉から非実体の矢を生み、弓に番える詩月の姿があった。
「我が手は焦がれる手。我が手は相打つ手。されば我が手が放つは──恋の弓なり」
 瞬間、高速で飛来した矢が、ワイルドハントの胸を穿つ。
 その力、『口伝・恋桜』が意識に介入するように、暫しワイルドハントの注意を逸らせた。
 マティアスが目を向ける。そこに、五嶋・奈津美(地球人の鹵獲術士・e14707)も駆けつけてきていた。
「マティアス、無事?」
「……皆……!」
 微かに驚くマティアス。奈津美は、すぐにオーラを集中していた。
「少し待って、今、回復するわ」
 オーラは癒しの光となり、マティアスに浸透。傷を優しく治癒していった。
 次いで、アンセルム・ビドーも駆け寄り、オーラを施す。
「助けに来たよ、エルンスト」
「深手では、ありませんね」
 言いながら素早くドローンを展開するのはテレサ・コールだ。
 集まった仲間達。その姿にマティアスは、戦闘行動中でありながら、一度目を伏せる。そして表情をほころばせていた。
「支援に感謝を……皆」
 それに皆は頷きを返す。
 同時、イグナスの花のオーラとミオリの描く魔法陣が、戦闘態勢を整えていく。
 ワイルドハントも動き出していたが、そこへはティーシャが、大槌カアス・シャアガによる砲撃で足止め。
 レーンも『超収束荷電粒子砲・弐式』。荷電粒子フィールドを形成し、眩いビームを発射していた。
 激しい爆発、そして閃光。『やったか!?』という声がどこからともなく響いてくるのに、レーンは首を振った。
「いいえ、まだこれからですわ!」
 煙が晴れると、確かに未だ倒れぬ機械竜の姿がある。だがその体には、確かに連撃によるダメージが刻まれていた。

●剣戟
 ワイルドハントはケルベロス達に視線を走らせている。
「纏めて死にに来たか、愚かな者共め」
 そう言う姿は、煙を上げつつも、未だ健常でもあった。
 イグナスはその姿をまじまじと見つめている。
「あれがマティアスの暴走体の姿ってやつか」
「機械のドラゴン……。全然違う姿なのに、マティアスとの繋がりは感じる……」
 奈津美も声を零すと、マティアスは静かに頷いていた。
「ああ、あれは間違いなく俺の姿でもあるんだ」
「だが別人? わけわからねえな──本人に成り代わる事でも企んでるのか」
 イグナスの言葉に、ワイルドハントは敵意を向けるだけだ。
「余計なことを話すと思うか。貴様らには死、あるのみだ」
 そして再びレーザーを放とうとしてきた。
 が、同時にイグナスも膨大なエネルギーを掌に集中させている。
「やらせるかよ。俺の命の輝きよ! 光の奔流となれ! オルゴンストリームッ!」
 瞬間、それを光線状に放つ『命力奔流』を行使。衝撃で敵を後退させる。
 レーンも凍結の螺旋を放ち、機巧の一部を凍らせていた。
「まだ分からないことだらけですけど。一先ずは撃破、ということですわね?」
「無論でござる。やられる前にやる、でござるよ!」
 応えつつ、風太郎は敵の背後からレーザーを発射していた。先刻から建物の影に位置取り、攻撃の機会を窺っていたのだ。
 言霊銃AMATERASUから放たれたその光線は視界外から直撃し、重いダメージ。
 だがワイルドハントもすぐに体勢を直していた。
「小賢しい──全員、破壊してくれる……!」
「やれるものならばな。重騎士の本分は守りに有り! 全て守護してみせるぞ!」
 声を返すのはジョルディ・クレイグ。ドローンを展開し、皆を防護していく。
「自分も助力させていただきます……!」
 玄梛・ユウマは敵に踏み込み、大剣で連撃。機動力を集中的に奪っている。
 そこへマティアスも、駆動させた腕部で強打。装甲を破っていた。
 衝撃で宙に煽られたワイルドハントは、それでも反撃のレーザーを敢行してくる。が、標的となった詩月は、緋色の装甲を展開。受け流す態勢を取って威力を軽減した。
「反撃させてもらうよ」
 直後には、雷光を纏わせた槍で一撃。ワイルドハントの胸部を穿っていく。
 目減りした詩月の体力は、奈津美が気力を賦活させるグラビティを送り込み、回復。
 敵へはティーシャが、バスターライフルMark9の銃口を向けていた。
「この多勢を前に、いつまで余裕を保てるか見ものだな」
 言うが早いか、長大なレーザーを発射。ワイルドハントの武装の一部を焼き切り、衝撃で本体をも吹っ飛ばしていく。
 間を置かず、ミオリも砲塔で狙いをつけていた。
「砲撃パラメータ問題なし、セイフティリリース」
 砲口に篭めているのは、タングステン製の鏃型弾頭。それをグラビティで帯電させることで、その兵器はレールガンと化す。
「──撃ち方、始め」
 瞬間、凄まじい速度でそれは撃ち出された。
 その砲撃、High Velocity Launcher──『HiVeL』は、回避の間もなくワイルドハントに直撃。破片を散らせながら、脚部の先端を吹っ飛ばしていた。

●意志
 倒れ込んだワイルドハントは、苦渋を浮かべるように起き上がる。
「おのれ……人間共が、邪魔を──」
「人間、か。そうだな。俺は心を得た」
 マティアスはその機械竜へ、言葉を向けた。
「その姿だった頃とは違う。もう俺は、地球を侵攻することはない……逆に守るんだ」
 その視線には、意志が内在している。それは心を得たからこその強い思い。
「だからこそ。その姿のお前には、必ず勝つ!」
「そうやね。君は姿は同じでも、マティアス君やない。今の彼を知るからこそ、成長を、心を知るからこそ言えるよ。キミには、負けんよ」
 癒月・和が言葉を継ぐと、ワイルドハントは、俄に憤怒の表情を浮かべた。
「……定命の弱者の戯言だ……!」
 そのまま高密度エネルギーを収束し始める。
 だが、そこへレーンが素早く疾駆していた。左目の地獄を呼び起こせば、それは蒼く燃え上がり、拳を覆っていく。
「イグナス様、行きますわよ」
「了解だ。派手なのを打ち込んでやるぜ」
 応えるイグナスは、星の如き輝きを持ったオーラを形成する。それを強烈な力で蹴り出すと、ワイルドハントの顔面に命中させ、体をのけぞらせた。
 そこへ、間断をおかず、レーンが踏み込む。刹那、陽炎を靡かせながら、腹を抉るように入れた一撃で、ワイルドハントを地に叩き付けた。
「く──!」
「遅いな」
 起き上がろうとするワイルドハント、それをティーシャは見下ろしていた。
 その表情は徹頭徹尾冷静に。敵の破損箇所を見極めるように視線を走らせると、脚部に炎を宿らせた。
 直後、力を込めて、燃える蹴撃。蹴り上げるように敵を宙へ浮かせる。
「連撃で頼むぞ」
「了解しました」
 それを補足しながら、ミオリはティーシャに応え、エネルギーの塊を複数生み出していた。
「一気に行きますね」
 言葉と同時、それを豪速で蹴り出し、ワイルドハントの翼を貫いていく。
 地に落ちたワイルドハントも、しかしすぐに起き上がり、エネルギーを拡散。前衛を広く麻痺性の熱で襲ってくる。
 だが、そこに奈津美がかつんと、軽く足を踏み鳴らしていた。するとそこに花びらのオーラが舞い散り、花嵐の如き光景を作り出す。
 降り注ぐ花弁は癒しの力となり、前衛を治癒。熱を奪い去り、麻痺も回復させていた。
「バロンも、頼むわね」
 次いで、奈津美の声に応じて、ウイングキャットのバロンも羽ばたき、清浄な風で前衛の治癒を進める。
「これである程度は、治療できたはずよ」
「では、これで万全にさせて頂きます」
 と、ルフィリア・クレセントは同時に『幸運の塔』を招来。皆の浅い傷を完治させていた。
 雪村・達也はワイルドハントへと走り込んでいる。
「マティアス、風太郎、攻撃行くぞ!」
「無論でござる!」
 応える風太郎は陰から陰に飛び移り、敵に位置を補足させないままに移動。
 マティアスは、その間にワイルドハンドへ向けて山なりに跳躍していた。
「攻撃軌道計算完了。命中率百パーセント超──2、1、ブースト」
 そのまま、脚装からエネルギーを噴かせて加速。ワイルドハントの頭部に熾烈な蹴りを打ち当てた。
 ふらついたワイルドハントに達也が斬撃を畳み掛けると、風太郎も敵の背後を取っていた。
「拙者の黄金の左足の威力、とくと味わうでござる! 射威壬猴王刃怒雷武忍者蹴屠ッ!」
 瞬間、風太郎は螺旋を込めた光球を宙に投げ、左足でボレーシュート。凄まじい衝撃音とともに炸裂した一撃で、ワイルドハントの装甲を破砕した。
「くっ、まだまだ──」
「なら、これも受けてみる?」
 踏みとどまるワイルドハントへ、肉迫しているのは詩月だ。
 掲げるのは巨大なパイルバンカー。そこへ凍気を篭めると一撃。ワイルドハントの腹部にパイルを抉り込んでいく。
「がっ……!」
「まだ終わりじゃないよ」
 詩月は、それで離れず連撃。続けてパイルを撃ち込み、金属音とともに腹部を貫いた。

●決着
 機巧から火花を散らせながら、ワイルドハントは暫し倒れていた。
 それでも、ゆらりと起き上がってくる。
「皆殺しだ……全員、藻屑にしてやる……!」
「やられるかよ。必要なら、神だって倒すさ!」
 だが、敵の行動よりも速く、イグナスがそこへ疾駆している。そのまま巨槌を大振りに一撃。ワイルドハンドを横殴りに煽った。
 つんのめったワイルドハントへ、狙いを定めるのはミオリだ。
「足と装甲は破壊。次は、牙ですね」
 瞬間、銃に火を吹かせて連射。甲高い音を上げながら、爪、牙、鋭利な部分を弾き飛ばしていく。
 ワイルドハントはそれでも、砕けた腕部を振り上げて近接攻撃を試みてくる。
 だが、レーンはそれを流れるような動きで回避していた。
「その攻撃は、予測済みですわ!」
「腕も体も。さらに破壊してやるさ」
 入れ替わるように敵へ肉迫するのはティーシャ。
 腕を破砕アームに換装すると、そのままワイルドハントを掴み、引き寄せていた。瞬間、『全て破砕する剛腕』。アームによる苛烈な打撃を加え、敵の腕部を粉々に粉砕した。
 ワイルドハントは呻きを上げ、苦悶する。
 そこへ風太郎は低い姿勢から接近していた。
「マティアス殿、畳み掛けるでござるよ!」
「了解。特殊コマンドを実行する」
 呼応したマティアスは、プログラムを組み上げ、『Befehl "Breitschwert"』を行使する。
 すると空中に無数の大剣が出現。追尾するようにワイルドハントを襲い、集中的な斬撃を見舞っていった。
 体が切り裂かれていくワイルドハントに、風太郎は螺旋を篭めた掌底。翼の破片、四肢の端々を散らせながら、吹っ飛ばす。
 この間に、奈津美は『摩利支天の加護』を行使していた。
「オン・アニチ・マリシエイ・ソワカ──」
 前衛に与えられた軍神の加護。それが飛躍的に力を増幅し、戦闘力を底上げしていく。
 同時、マーク・ナインも『無人機火力支援』を展開している。
「識別情報入力──攻撃目標設定。支援開始」
 飛び出したレーザードローンは、そのまま前衛を火力支援。
 仲間が一気に攻撃を仕掛けていく中、ユーリエル・レイマトゥスもブラスターを閃かせていた。
「このまま、破壊してしまいましょう」
「勿論。偽物の時間は、ここで終わりだよ」
 詩月は応えるように、槍に稲妻を纏わせ刺突。ワイルドハントの胸部を刺し貫いた。
 ショートするように意識を明滅とさせるワイルドハント。
 レーンはそこへ、螺旋を収束させ、打撃とともに打ち込んでいた。
「これで最後ですわ!」
 氷の渦巻く衝撃は、氷片を辺りに煌めかせながら、体を破壊。ワイルドハントを、打ち砕いた。

 死にゆくワイルドハントに、詩月は声を落とす。
「ワイルドハント。その意味を知る貴方は、誰──?」
 しかしその存在は最後まで何も話すことはなく。空気に溶けるように消滅していった。
 戦闘が終わると、ミオリは皆を見回してからにっこりと笑う。
「周囲に敵性存在なし。クローズコンバット、お疲れ様でした」
 皆はそれに頷きつつ、ようやっと息をついた気分だった。
「怪我だけじゃなく、気分が悪かったり頭がボーっとしたりする人はいない?」
 奈津美が言うと、皆は健常な声を返す。今のところ、ワイルドスペースによる悪影響などはない。重い怪我を負った者もおらず、作戦は成功と言えた。
「そう。よかったわ。無事に終わって」
 奈津美は皆と、そしてマティアスにも言っていた。
 バロンが心配そうに周りを飛んでいるのを見ながら、マティアスは改めて皆に向き直る。
「皆が来てくれたお陰で勝てた。本当にありがとう。助かった」
 その顔は心から、嬉しそうに。
 イグナスは頷いた。
「マティアス自身と、それから仲間全員の力だ」
「見た目を真似ても、偽物は偽物だったということかもな」
 ティーシャは敵が散った跡を見下ろして、言っていた。
 それからマティアスは周囲を窺う。
「何か、情報になるものがあればいいが……」
「敵の残骸もないし、それ以外はモザイクだし、難しそうね」
 奈津美は、特に採取すべき残留物も見つからず、困ったような表情でもある。
 実際、少しの間捜索をしても、手がかりになるようなものは発見できなかった。
「敵も簡単に情報は残さないということかもしれませんわね」
 レーンが言うと風太郎は頷く。
「今は帰還が最優先でござる。無事に戻ってこそ、任務でござろう」
 それに皆も同意し、空間を出る方向へ歩くことにした。
 イグナスは一度、モザイクの風景を振り返る。
「そのうち俺に似たやつも出てくるのかもしれねえなあ」
「敵も活発だ。そういうことも、あるのかもな」
 ティーシャも一度、遠ざかるモザイクに視線を送りつつ。それから皆は三々五々、それぞれの帰る場所へと去っていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年10月3日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 9
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