八極の拳

■リプレイ

●対峙
　山中に入ったケルベロス達は、戦場となる場所を求めて歩いていた。
　それは、敵がやってくる位置で、且つ戦いやすい、開けた環境だ。
　フィロヴェール・クレーズ（飛び跳ねるうたうたい・e24363）は宙を漂いつつ、きょろきょろと見回している。
「どこかいいところないかしら、かしら？」
「あの辺りなどは、どうじゃ？」
　一之瀬・白（八極龍拳・e31651）は、隠された森の小路の能力を駆使し先行。多少開けた、平坦な場所を見つけていた。
「位置も、理想的っスね」
　黒岩・白（シャーマン系お巡りさん・e28474）がスーパーＧＰＳで現在地を確認すると、皆も頷き、そこを戦場に決めた。
「さて、後は誘き寄せるとしようか」
　言って横を見るのは、ヴァジュラ・ヴリトラハン（戦獄龍・e01638）。その瞳は、好戦的なそれ。
　頷くのは、ウォリア・トゥバーン（獄界の流浪者・e12736）だった。
「そこに戦いがあれば……彼の敵も、興味を惹かれることだろう……」
「では、やるか。同志、いや同類よ。模擬とはいえ、拳を交わせるならば嬉しいぞ」
　ヴァジュラはウォリアと向かい合う。
　ウォリアも拳を握った。
「我とて、剛の者と一戦交えるのは無上の喜び……行くぞ……準備運動と言えど、滾る血の侭に！」
　それから２人は地を蹴り、互いに拳を打った。
　やるのは、戦士を戦いで誘き出すこと。グラビティでは無いとはいえ、気合いは裂帛。同時に互いの拳に当たった２人は、大音を上げて木に激突した。
「これは凄い迫力デスネ……！」
　レヴィア・リヴァイア（海星の守護龍・e30000）は風圧に目を細めつつ声を零す。それから皆を見た。
「ワタシ達は、離れすぎナイように敵影を探しマショウカ」
「では私は、斥候役を与ろう」
　応えて木々の中へ入るのは、桜咲・つるぎ（桜龍の銃刀士・e37687）だ。身を隠すようにしながら、敵を探し始めている。
　一方、アリッサム・ウォーレス（花獄の巫竜・e36664）はプリンセスモードで目立つ衣装へと変身し、誘き寄せをサポートするように声を張った。
「おふたりとも、頑張ってくださいね！」
「無論だ……もう一撃、行くぞ……！」
「来い。受け止め、それ以上の破壊でもって薙ぎ払おう」
　ウォリアとヴァジュラは言い合って、衝撃音を連発させていた。
　そんな中、一之瀬・白も遠くに届くように声を上げている。
「余も、腕が鳴るのう。何処かに、この拳と渡り合える強者はいないのか！」
　と、その声が響き渡った時だった。
　つるぎが、木陰から皆に合図を送る。
　その方向から、武道着を来た人影が、がさりと現れた。頑強な肉体を持つ、拳法家のドリームイーターである。
『拳の衝突に、挑戦的な声。心地よい戦いの誘い水ではないか』
「……来たっスね！」
　黒岩・白が戦闘態勢を取る。その頃には既に、皆もドリームイーターを囲う位置に立っていた。
　ドリームイーターは見回す。
『俺と相手してくれるのか？』
「無論じゃ。そのために来たのじゃからのう」
　一之瀬・白が応えると、ドリームイーターは笑んで、構えを取った。
『俺の八極拳を受けて無事でいられるかな』
「八極拳か。妾も噂だけは聞き及んでいる。超実戦的且つ超攻撃的拳法だと」
　レヴィアは敵へ言いながら、光の剣を具現化していた。
「同じ超至近戦闘を好む者として、是非堪能したいところだ」
「ええ。随分と腕に自信がおありのようですし、８対１でも問題はありませんよね？」
　アリッサムも符を手に、ドリームイーターに言う。
「まさか怖気付いたり、お逃げになったりはしないでしょう？」
『笑止。まとめて倒してみせるとも！』
　首を振ったドリームイーターは、地を蹴って攻撃を仕掛けてきた。
　だがそれより速く、頭上から狙う影がある。
「初陣は空想の武人、というわけだ──」
　呟きながら、陽光と木の葉に紛れ飛翔している、つるぎだ。
「よし、精一杯頑張るとしようか」
　その言葉はつるぎにとって、“手段は一切選ばない”と同義。リボルバーの銃口を向けると、ためらうことなく敵の腕を弾丸で穿った。
　ドリームイーターが唸って立ち止まると、その間にフィロヴェールは守護星座の輝きで前衛を守護している。
　一之瀬・白はドリームイーターの足元へ回し蹴り。たたらを踏ませたところへ、レヴィアは輝く刃を掲げた。
「まずは試させてもらうとしよう」
　瞬間、光の煌めく刺突。ドリームイーターの胸部めがけて痛烈な一撃を叩き込んだ。

●打合
　ドリームイーターは、微かに血を散らせつつも、交差した腕で防御し深手を免れていた。
　体勢を直すと、楽しげな表情を見せる。
『成る程、強い。八極拳の真髄を見せるに充分な相手だ！』
「八極拳──武において道に在らず。実利一辺倒の破壊拳か」
　ヴァジュラは敵の戦意に、滾るような目をもって言葉を零す。
「その真髄とやら、どの程度のものか。破壊力特化の拳技──この身に味わわせて貰おうか」
『言われずともだ！』
　応えたドリームイーターは、再び疾駆してくる。
　だが、こちらも攻撃を待つばかりではない。黒岩・白も敵へ肉迫。握り締めた拳に濃密なグラビティを込めていた。
「僕のことも忘れてもらっちゃ困るっス。こんななりでも戦えるってのを、見せてやるっスよ！」
　ぬぅ、と声を上げ、防御態勢を取るドリームイーター。だが、黒岩・白の狙いは足下だ。
「そこっ！」
　拳は、ちょうど相手の足先と地面へ。爆発するような衝撃とともに地面を炸裂させ、ドリームイーターの機動力を奪った。
　敵は動きを遅めつつも踏み込んでくるが、ウォリアは尾を振り回して、その体を弾く。そのまま距離を詰め、続けて鼻先の角を使った頭突き。
　のけぞるドリームイーターは、それでも踏みとどまった。が、ウォリアにとってもそれはただの牽制。
「これが本命だ……渾身の一撃、受けてみろ……！」
　同時、至近から跳び蹴り。相手の顎を痛打して、木に叩きつけた。
『がっ……！』
「これで終わりでは、ありませんよ」
　次いで、アリッサムは符を掲げると御業を顕現。座り込んでいたドリームイーターを締め上げ、宙に浮かせた。
　ヴァジュラがそこへ鉄塊剣・暴風龍ルドラで重い一撃を加えると、敵は吹っ飛ぶ。
「それで終わりではないだろう。来い！」
　ヴァジュラの声に、ドリームイーターは立ち上がる。そのまま強力な体当たりを噛ましてきた。
　それは巨岩をも砕かんばかりの威力。だが、衝撃で背後の木が砕ける中、ヴァジュラは仁王立ちで耐えきっていた。
「かいふくはわたしに任せてねっ！　ねっ！」
　直後には、フィロヴェールが紅瞳覚醒を歌い上げる。勇壮で前向き、それでいて愛嬌も含んだその歌声は、朗々と響き渡り、ヴァジュラを回復。同時に前衛の守りも固めていた。
「白くん、こうげきをおねがいねっ！」
「了解なのじゃ」
　応える一之瀬・白は、素早く敵へ踏み込んでいた。それは敵と似た、八極拳の動き。
「相手にとって不足無し。ならば余の一撃も受けて見るが良いのじゃ！」
　瞬間、放つのは超至近からの、肘打ち。爆発力のある打撃で敵をふらつかせていた。
　ドリームイーターは、それでも前進を再開する。が、レヴィアもまた近距離に肉迫していた。
「これこそ此方の間合い。喰らうがいい──深海より御出でませ。慈愛の刃、海竜の背鰭よ──！」
　生み出すのは『渦巻く海竜の薄刃』。深海水による巨大海竜を極細の刃に圧縮。それで一閃、ドリームイーターの表皮を袈裟に斬り裂いた。
「次の攻撃、頼みマス」
「ああ、わかった」
　と、声を返して迫るのはつるぎだ。
「その傷、抉らせて貰うとしよう」
　淡々とした言葉とともに掲げるのは刀。桜の花弁のような余波を舞わせながら、つるぎはその刃を縦横に走らせた。
　試合ではなく殺し合いなれば、全力を尽くさねば申し訳が立たない。自身の武士道を体現するように、一撃一撃に全力を篭め、つるぎは敵の全身を刻んでいく。

●夢
　血だまりを広げながら、ドリームイーターは地面に手をついていた。
『最強の八極拳でも圧倒できぬとは……信じられん』
「お主も確かに強いであろう。夢想の産物であるが故、なおのことな」
　一之瀬・白はそれを見下ろして言っている。
「じゃが、武を究めんとするのはこちらとて同じ。余の『八極龍拳』に穿てぬものは無いのじゃ……！　その上仲間達も最高のメンツ。負ける理由が思い付かぬのう！」
　それに唸るドリームイーター。だが、再び立ち上がり、踏み込みの構えを作る。
『その仲間ごと、全てを砕けばいいだけのことだ！』
「その意気は褒めるに値しよう……！　ならば此方も全霊の拳で応えるのみ！」
　接近してくるドリームイーター、それを、ウォリアが迎え撃つ形を取っていた。
　敵の肘打ちに対し、ウォリアは流動させたオウガメタルで拳を固め一撃。クロスカウンターの如く、顔面を殴りつけた。
　ドリームイーターは口から血を流し、ふらつく。それでも再度の攻撃を狙ってきた。
『まだだ……この、理想を体現した八極拳を全て受ければ、貴様らとて──』
「受けきって見せるとも。そしてその理想、食い破らせて貰う！」
　敵が肘打ちをすると同時、そこへ庇いに入ったヴァジュラが、正面から衝撃を受ける。
　それは体が割れんばかりの一撃。だが、ヴァジュラは『鎧装地獄化』で防御力を高め、それもまた耐え抜いていた。
　直後には、アリッサムが巫女の舞を踊る。すると、陽だまりのような光とネモフィラの花が辺りを満たしていた。
「”可憐”な青は、幸福の兆し。困難を乗り越え、”どこでも成功”です──」
　おまじないとともに、舞と風景は癒しの力となっていく。その力、『花獄の舞～瑠璃唐草～』によって、ヴァジュラの体力は万全となっていた。
　アリッサムは敵に目を向ける。
「あなたは青年が日々努力して磨き続けてきた『武術』、その夢そのもの。だからこそ、彼の夢を、きちんとお返し出来るように、負けるわけには行きません」
「海に育まれた人間──そこから生まれた夢デスから、本来は傷つけたくはナイのデスが」
　そう零すのはレヴィア。海を愛するゆえに、人から生まれたとも言える存在には慈愛の気持ちがあった。
　それでも攻撃は苛烈。雷撃を宿した刃でドリームイーターの腹部を貫いていく。
『ぐっ……これしき……！』
　それを、何とか耐えるドリームイーター。だが、その頭上から突如食いかかるものがあった。
「頭上は万人の死角だな」
　と、つるぎが放つブラックスライムだ。木々を滑るように肉迫したそれは、ドリームイーターの頭部に喰らいつき、鮮血を噴出させた。
　敵が呻いて静止すると、一之瀬・白はその手にオーラを纏わせている。
「フィロ、頼むのじゃ！」
「わかったわっ。やっちゃえ白くん！」
　フィロヴェールは呼応するように、『あなたのためのめざめ唄』を紡ぎ始めていた。
　地獄で補う声は、それ故に人を鼓舞し、強める力がある。一之瀬・白は高まった力で一撃。至近からオーラを放ち、敵を吹っ飛ばす。
「白くん、すごいわすごいわっ！」
「フィロのおかげじゃよ」
　一之瀬・白が間合いを取ると、入れ替わりに黒岩・白が敵へ接近していた。
「さすが白くん、僕も負けてられないっスね──！」
　黒岩・白はそこへ『破魂掌』。九字を唱え、左手に精神を集中する。
「臨める兵、闘う者、皆陣列れて、前に在り！　この拳が砕くは邪なる魂！」
　瞬間、掌底を放った。
　それは霊の力を借りない白自身の技であると同時に、魂を攻撃する技。その一撃は文字通りドリームイーターの内部から衝撃を与えるように、その場に転倒させた。

●決着
　体の内外に傷を刻まれ、苦悶を浮かべるドリームイーター。
　それでも起き上がると自己回復をし、素早さを高めて再度攻勢に移ってくる。
　が、そこへ即座に、ヴァジュラとレヴィアが爪撃を叩き込み、素早さを帳消しにした。
　直後にはアリッサムが氷結の槍騎兵を召喚し、体表を凍結。体力を削った所で、フィロヴェールが新たな歌を歌い上げていた。
「おもちゃは歌う、餞の代わりに──去りゆく幼少期の終わりと、未来のワルツ」
　それは可愛くもどこか切ないメロディ。どこか不思議な響きはドリームイーターに染み込むように、腕力を奪っていく。
『ぐぅ……っ』
「八卦と八極の合わせ技、味わうが良い」
　呻く敵へ、一之瀬・白は『八卦八極拳奥義 降龍十六掌』。気と打撃を連続して操り、十六の衝撃を与えていた。
　血を吐いたドリームイーターは、唸りながらも何とか耐えきる。が、同時に黒岩・白がオルトロスのマーブルを解き放っていた。
「さぁ、思いっきり斬りつけてあげるっス！」
　声に応じるように、マーブルは駆け抜けながら刃で斬撃。ドリームイーターの腹部を裂いていく。
　ドリームイーターも体当たりを仕掛けてくるが、それは黒岩・白自身が防御して受け止めていた。同時に、回転力を付けた拳で反撃し、敵の肋を砕ききる。
「そろそろ終わりといこうか」
　ふらついた敵の頭部を、つるぎは銃で射撃した。
　意識を明滅させたドリームイーターへ、ウォリアは『戦神竜皇・翔崇星影ノ断』。地獄の炎を噴出させ、自身の顔面をも丸ごと炎に包む。
「……オマエに死を告げる赫赫たる星を見よ……！　生まれる時を違えた強者よ、地獄に堕ちる覚悟はできているな？」
　直後、地獄で己の分身を作り、一斉攻撃させた。
「……さぁ、オレ／我がオマエを此処で殺す……終焉の時は、来たれり」
　斬撃、打撃、射撃。分身はあらゆる武器と攻撃で襲う。それに耐え切れず、ドリームイーターは燃え尽きるように四散していった。

　戦闘後。皆は近くに青年の姿を見つけて、介抱した。
「大丈夫かしら？　かしら？」
　フィロヴェールの言葉に青年は頷く。始めは朦朧としていたが、すぐに元気を取り戻し、ケルベロス達に礼を言っていた。
「とにかく無事で良かったデス。風邪とか引きマセン様、養生シテください」
　レヴィアの言葉にも青年は頷く。それから、もっと精進せねば、とやる気を新たにしていた。
　アリッサムは少し微笑む。
「きっと、理想以上の八極拳の使い手になれると思います」
「現実は理想を越え、故に理想は更なる高みを目指す。強さに果てなど無い──なんと素晴らしい事よな？」
　ヴァジュラが満足げに言うと、アリッサムは頷いた。
「お手合わせが出来るように　私も精進しなくてはなりませんね。丁度周りには信頼し、切磋琢磨出来るライバル達がたくさんいますし」
　それからふふ、と笑みを零す。
「いつか皆さんを追い抜いてやりますとも」
「ふむ。仲間が強くなるのもまた、楽しみじゃのう」
　一之瀬・白は歓迎するとでもいうように応えていた。
　それから皆は荒れた箇所は修復し、山を下りる。そうしてそれぞれの帰る場所へと、歩いていった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年10月2日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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