閃突の剣

■リプレイ

●対峙
　山中に入ったケルベロス達は、木々の間を歩いていた。
「この辺りかな。多分、いつ出てきてもおかしくないと思う」
　歩を緩め、視線を巡らせたのは飛鷺沢・司（灰梟・e01758）。おおよその接触予測地点であるため、警戒心を高めていた。
「早く会ってみたいね。銃と剣の真っ向勝負とかドキドキものだし！」
　と、葛城・唯奈（銃弾と共に舞う・e02093）は軽い口調。ただ目線は警戒を欠かさぬように周囲を巡っている。
　一方、屍・桜花（デウスエクス斬り・e29087）は、無表情で応えた。
「そうね……剣の心得を持ったドリームイーター……私も楽しみだわ……」
　言葉も抑え気味ではある。だがその中には、敵を斬りたくてウズウズとしている様が俄に窺えた。
　皆もそれぞれの心構えのもとに、探索を継続。
　それから暫し歩いた、その時だった。
「皆、あれを見て」
　司の言葉に、全員が立ち止まる。
　その視線の先に、山を降りてくる影。細身の直剣を携えた、剣道家のドリームイーターがいたのだった。
　皆は視線を交わし、急行。その行く手を阻むように、立ちはだかった。
　ドリームイーターはすぐに気づき、視線を向ける。
『……何奴！』
「やあ、剣士殿」
　と、そこに柔和な表情を浮かべてみせるのは、ロザリア・シャルクハフト（涅の羽・e36943）。
　ひゅるんと回転させた大鎌・Kaliを携えると、その刃を突きつけた。
「腕には自信があるのだろう。ならば僕達にもその力、見せておくれ」
『ほう、手合わせを望むか』
　ドリームイーターは、好戦的な笑みを作る。そして剣を水平に持つように構えた。
『いいだろう。だが俺の突きはすべてを貫くぞ』
「成る程。刺突剣、というわけでござるか」
　天尊・日仙丸（通販忍者・e00955）は少しばかり興味深げに、それを見ている。
「以前この手の敵と戦った際は獅子の闘気を用いていたでござるが……武術家の扱う技とはかように幅広いものでござるな」
『無論、武術は無限よ。その中でも最強なのが、刺突剣なのだ』
　ドリームイーターは誇らしげに戦闘態勢を取る。
　大神・凛（ちねり剣客・e01645）も白と黒の二刀、白楼丸と黒楼丸を抜き、戦闘の構えを見せた。
「ならばかかってこい。私とライトがキミの攻撃を防いで見せよう！」
　傍らのライドキャリバー、ライトは応えるようにエンジンの唸りを上げてみせる。
　それを開戦の合図にしたように、ドリームイーターは走り込んできた。
　だが、距離が詰まる前に、その頭上に影がかかる。
「……悪いが俺は、お前みたいなやつは興味無い」
　それは、倦怠感の滲む声とともに、葉の間から飛び降りてくる夜刀神・罪剱（星視の葬送者・e02878）。
「……だがその力で罪無き人々を傷付けようとするのなら、相手になってやろう」
　暗殺者に相応しく、その動きに一切の無駄はない。重力を乗せ、強烈な蹴りを加えてドリームイーターの動きを止めた。
　この間に、日仙丸はヒールドローンを前衛へ展開。
　凛は刀から増幅させた霊力を広げていた。
「我らを守る盾となれ！」
　その技、『守護刀心』により、霊力は盾へ変化。前衛の防備がより一層固まっていく。
　唯奈は木や地面に跳弾させ、複数の銃弾を敵へ撃ち込んでいた。
「これは剣じゃ躱せないだろ？」
『ぬぅ、だが、これしき！』
　ドリームイーターはまだまだ傷は浅いとばかり、再び踏み出す。
　しかし、そこへ司も飛び蹴りを打ち当て、再度バランスを崩させる。
　連続して、手元にグラビティを集中しているのは九条・櫻子（地球人の刀剣士・e05690）だ。
「まずは、これで牽制させていただきますわ」
　瞬間、収束された力が敵の手元で爆散。僅かに剣先に傷を付けていた。
「このまま攻撃を、お願いしますわ」
「ああ、わかったよ。──戦いの時間だよ、アルマ」
　答えて敵へ飛来するのはロザリア。
　呼応してビハインドのアルマがドリームイーターを金縛りにかけると、ロザリアは黒翼を羽ばたかせ滑空。虹の軌跡を描いた蹴撃を直撃させた。
　怒りに駆られるドリームイーターは、そのまま駆け込んでくる。
　だが、そこへ桜花も接近していた。
「ふふ……ふふふふ……」
　零すのはどこか狂的な笑い。
　戦闘前から抑えていたものが溢れるように、喜色とともに刀を抜いていた。
「小難しいことを考えずに斬るだけ……まさにうってつけの仕事じゃない……。ふふふ、あはははははは！」
　刹那、豪速の剣閃でドリームイーターを斬りつけていく。その技、『血桜』の名の如く。血しぶきがまるで花のように咲き誇っていた。

●剣戟
　ドリームイーターは、傷を押さえて数歩下がっていた。
　だが、その表情にはまだ、余裕も感じられる。
『確かに、言うだけの実力はあるようだな……』
　それからむしろ嬉しげに、剣を構え直した。
『ならばこそ、全霊の刺突剣を披露する価値があるというものだ！』
「これからが本番、とでも言いたげですわね」
　声を返した櫻子は、こちらも怯まず、日本刀をすらりと抜いていた。
「それなら、私も刀剣士として剣で手合わせを願いますわ。そちらが刺突ならば、こちらは斬撃で挑みましょう」
　ドリームイーターは面白いとばかり、そこへまっすぐの突きを繰り出してくる。
　が、櫻子はそれを刃でいなし、懐へ。横一閃に、敵の腹部に裂傷を刻んだ。
　唸るドリームイーターに、唯奈は二丁拳銃を向けている。
「その程度じゃ俺らは傷一つつかねえぜ？　銃弾を切るくらいはしてみろよ！」
　同時、２つの銃口から一斉に弾丸を放ち、マガジンを空にした。
　襲いかかる銃弾の雨。数発防いだドリームイーターだが、全ては逸らせず、血を零した。
「よし、もっとやってやれ！」
「了解」
　唯奈に応えて指鉄砲を作っているのは司。
　囁くような詠唱をすると、そこに魔法の光が生成されていく。
「俺の相棒はナイフ、だけど。これも愛用だ」
　瞬間、それは光の弾丸となって飛来。敵の脚部に命中し、体を硬化させていった。
「──これは反則かな？」
『……ふん、構わぬさ。勝負に反則はない──魔法すら剣で凌駕すればいい！』
　威勢よく言ったドリームイーターは、ロザリアへ刺突。
　ロザリアは、それを敢えて避けず、耐えきってみせていた。自身も戦闘狂の血が騒ぐからか。敵の技を正面で見たいという好奇心が、血のように赤い瞳に滲んでいる。
「大丈夫だよ」
　心配げな面持ちのアルマには、笑みを１つ返し。ロザリアは体を光に変遷させた。
「反則がないというのは道理かもね。ならば僕も、全力だ」
　瞬間、粒子となったロザリアは、光の槍となって体当たりを喰らわせる。
「回復は、任せるでござる」
　と、直後に癒しの螺旋を生み出しているのは日仙丸だ。
「螺旋の加護をここに！」
　渦巻く回復力を、掌からロザリアの内部へ浸透。その力、『螺旋掌・癒』は瞬く間に、傷を吸い込むように消し去っていった。
『ぬぅ、怪我を癒すとは……』
「敵の手に目を取られるなんて、愚かだな」
　と、ドリームイーターが唸るそこへ、罪剱は肉迫している。
　反応してドリームイーターが剣を突き出すも、罪剱は右へ左へ躱し、翻弄。その内に直剣・刻影の罪を縦横に振るって無数の傷を刻んだ。
　ふらつくドリームイーターへ、桜花も距離を詰めていた。
「ふふふ……それで終わりじゃないわよ……？」
　口元についていた血をぺろりと舐めると、桜花は刀で連撃。昂ぶった表情に、さらに血を浴びて笑顔を作っていた。
『く……！』
　一気に体力を奪われ、ドリームイーターは飛び退るように間合いを取る。
　そこに、高らかに排気音が響く。凛がライトを駆って、豪速で接近していたのだ。
「戦いに休んでいる暇はないぞ。──ライト！」
　凛が相棒から高く飛び上がると、ライトは呼応して速度を上げ、敵へ突撃。
　次いで凛も二刀の剣撃を繰り出し、ドリームイーターの両肩を深々と斬り裂いた。

●最強
　地に叩き付けられ、呻くドリームイーター。
　手をついて、ゆらりと起き上がる。
『むぅ、何故だ……最強の剣術で、苦戦など……』
「キミの剣術は確かに、強いかもしれない。だが、突きばかりが最強ではない」
　着地した凛は、言葉を返していた。
「突きは早く鋭くとも、それだけでは単調になる。斬りや払いも組み合わせなければ」
「そうだな。それに、武器もそれが最強というわけじゃない」
　司も、ナイフを握り、言葉を継ぐ。
「ナイフなら間合いは短いが、その分体重を乗せて大きく斬り込める。軽いから身軽に動けるし、刺突じゃ狙い辛い、小さな敵も相手取ることが出来る」
「ああ。武器も含め、あらゆる要素を加味した上で、なおかつ心技体を鍛える──そうでなければ最強とは言えない」
　凛が言うと、ドリームイーターは黙り込む。
　だが、それでも剣をただまっすぐに構えた。
『理由は分からぬ。だが俺はやはり、この刺突剣が武器も、技の差も越えられると信じる』
「……その存在故に、ってとこか」
　罪剱は達観した口ぶりで言うと、静かな視線を向ける。
「なら、最後までその剣術を見せてみろ。……俺とどちらの技量が優れているか比べてやるよ」
『無論、そのつもりだ！』
　ドリームイーターは全力で駆けてきた。
　罪剱は飄々と、その動線から横にずれる。そのまま剣を振り上げ、相手の脇腹を斬り裂いた。
　司は『月の熱』。煌めかせた白刃を天に翳すと、月光が劔を模り飛来。ドリームイーターの腹を貫いていく。
　血を吐きながら、敵も前衛に連続刺突を繰り出してきた。
　が、その衝撃の幾分かを、浮遊する機械が盾のごとく軽減する。日仙丸が再度ばら撒いた、ヒールドローンの群だ。
「物量で攻める。これも通販忍法の一手でござる。尤も、かなり壊されてしまったようでござるが……」
　日仙丸はちょっと残念そうに、剣で貫かれたドローンを見下ろしていた。
「ともあれ、皆を守れたのなら良かったでござる」
「私も支援しよう」
　凛も守護刀心を行使。それで皆の体力も持ち直されていた。
　敵は連撃を狙って再び踏み込む。が、その頭上から突如、燃える斬撃が襲った。
　それは、楽しげな色と余裕を消し去ったロザリアの攻撃。
「無事かい、アルマ」
　ロザリアは傍らのアルマを気遣う。この大事な存在が僅かにでも負傷を受けたこと、今のロザリアの中には最早それしか無かった。
　だから、その憤怒は敵へ向く。
「少し時間をくれ。あの敵を今すぐに殲滅するから」
　そして鎌に炎を纏わせ、連撃。剛烈なまでの威力で敵の皮膚を焼き切っていく。
　ドリームイーターは呻きながら再び距離を取る。しかしそこへ、無数の衝撃波が飛んできた。
「どこにいようが斬って斬って斬りまくる……それだけよ……ふふふ、あはははは！」
　それは高らかに笑いつつ、剣を振るう桜花の遠距離攻撃。剣撃が風圧を生み、風圧が凄まじい衝撃となって敵に一層、血潮を噴かせていた。
「剣が避けられないなら、こいつを避けるのも骨だろうぜ」
　同時、銃を構えるのは唯奈だ。
　マズルフラッシュを閃かせると、撃ち出すのは『魔法の弾丸』。見えざる何者かが操作しているかのごとく不思議な軌道を描くそれは、違わずドリームイーターの手元を貫く。
　敵はふらつきながらも反撃の突きを放つが、櫻子が刀身や柄を利用してそれを受け、威力を殺していた。
「いいですわね。剣対剣の戦い、ぞくぞくしますわ」
　楚々とした中に熱を窺わせ、櫻子は連続して『桜龍殲滅斬』。
「古の龍の眠りを解き、その力を解放する。桜龍よ──！」
　瞬間、斬撃とともに古龍を突撃させ、ドリームイーターを吹っ飛ばしていく。

●決着
　倒れ込んだドリームイーターは、憎らしげに起き上がっていた。
『負けてなるものか……この剣術は最強なのだ……！』
　そのまま、がむしゃらに踏み込んでくる。
　だが、司はナイフに纏わせた焔を燃え上がらせ、その剣線をそらす。同時に押し通すように敵の胸部を斬り裂いた。
「ケルベロスも、簡単にはやられないよ」
「お次は任せろ！」
　後退したドリームイーターへ、唯奈は早撃ち。動作をほぼ視認させぬ射撃で、敵の剣を半分ほどに欠けさせた。
　間断を作らず、櫻子は濃密なグラビティを篭めた斬撃で、ドリームイーターの腹部を裂く。
「さぁ、そろそろ苦しいはずですわ」
『くっ、まだだ……！』
　ドリームイーターは欠けた刃で突きを繰り出す。が、その一撃は凛が盾となり受けきっていた。
　凛はそのまま、二刀に雷を宿して刺突。敵の胸部を刺し貫いた。
「諦めろ、キミはまだ最強には遠かったのだ」
　ドリームイーターは喀血し、剣を取り落とす。だが、それでも弱った力で拾い上げ、ゆらゆらと構えた。
『俺は最強、なのだ……』
「中々頑丈なようでござるな。ならばこちらも最後まで付き合うでござる」
　そこへ、日仙丸も攻勢に移る。氷の力を込めた拳で殴打し、数メートル吹っ飛ばした。
　桜花はその先でそれを受け止めるように、刃を縦横に走らせていた。
「まだ死んでないのよね……！　ならまだ斬れるのよね！　あははは！」
　斬撃の嵐に、ドリームイーターは鮮血を散らして倒れ込む。
　ロザリアはそこに、焔で燃え上がった鎌で一閃。腕を切り落とした。
「さっさと死んでもらおうか」
　慈悲のないその一撃で、意識を明滅させるドリームイーター。
「悪く思うなよ。せめて安らかに眠ってくれ」
　と、そこへ罪剱は『原罪の果実』。リンゴのような果実をかじることで戦闘能力を高め、強烈な斬撃を放つ。
「――貴方の葬送に花は無く、貴方の墓石に名は不要」
　言葉とともに振るわれたその一撃で、ドリームイーターは両断され、そのまま散っていった。

「君も十分強かったよ」
　戦闘後。司は消え行く敵の残滓に、語りかけるように声を落としていた。
　その内に、ドリームイーターは完全に消滅する。
「皆さん、お疲れ様ですわ」
　それを機に、櫻子は武器を収め、眼鏡を外して汚れを拭いている。その顔は普段のクールな印象と違い、可愛らしいものだった。
　皆はその言葉に頷きつつ、被害者の青年の元へ。青年が無事目覚めていることを確認した。
「怪我もないようで良かったでござる」
　日仙丸が言うと、青年はありがとうございました、と丁寧に頭を下げていた。
　ロザリアは彼やその武器、周辺などに幻武極の手がかりを探す。だが、それらしきものは発見できなかった。
「向こうも簡単に足取りは掴ませない、という感じかな」
　そう口にするロザリアに、唯奈も少し呟いた。
「幻武極だけじゃなく、ドリームイーターの活動が活発になってるのは、何か起こる前触れなのかな……？」
「何とも言えないけれど、警戒は必要なのだろうね」
　ロザリアが言うと皆は再度頷く。
「じゃあ……ヒールだけして帰りましょう」
　桜花は刃を振るえたことにどこかすっきりした顔で言う。
　皆は荒れた箇所の修復をし、山を降りる。そうしてそれぞれの帰る場所へと、帰還していった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月29日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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