剛を裂く棒術

■リプレイ

●対峙
　沖縄県の山中。
　ケルベロス達は現場を目指し、原生林を歩いていた。
「皆、疲れてはいないか？」
　鬱蒼とした中を進みつつ、四之宮・柚木（無知故の幸福・e00389）は皆を気遣うように見やる。それから、水分補給の為の飲みのものを取り出していた。
「戦闘に入る前に消耗しては何だからな」
「わぁっ！　ありがとうございます、頂きますっ！」
　鵜飼・海咲（粉砕アンカーガール・e21756）は明るい笑みでそれを受け取り、こくこくと飲む。ついでに、ウイングキャットのアドミラルにも飲ませてあげていた。
　現場も近づいてくると、弘前・仁王（魂のざわめき・e02120）はふと口を開く。
「それにしても、幻武極、ですか。また厄介な相手がでてきましたね」
「『武術』を奪うドリームイーター、だったか」
　狩魔・夜魅（シャドウエルフの螺旋忍者・e07934）も少し考えるように頷く。
「……っていうか、武術を極めたいなら、自分で修行しろよって話だよな。他人から奪うとか、横着すぎるだろ」
「そうですね。ただ、ドリームイーターですし、モザイクを晴らすことが目的らしいですから」
　マリー・ブランシェット（ソラフネ・e35128）は、応えるように言った。可愛げのある容姿とは裏腹に、その口調は大人びている。
「デウスエクスである以上、人間の常識では測れないものがあるのかもしれませんね」
「ええ。ともあれ──まずは、目の前の敵ですね」
　仁王は言って、視線を前にやる。
　その方向。木々の間から歩いてくる１体の影が見えていた。
　六尺棒を携えた武人の姿。棒術家のドリームイーターだ。
　皆は頷き合って、すぐに接近。行く手を阻むように立ちはだかった。
「止まれ。ここから先は通行止めだ」
　柚木が声を投げると、ドリームイーターも気づいて、目を向けた。
『こんなところに人がいるとは。丁度いい、我が武術を見るか！』
　そして、棒を握りしめて戦闘の構えを取っていた。
　月城・黎（黎明の空・e24029）は、その様子に目を走らせて、口を開く。
「琉球古武術の系統かな？　元々、棒術が重視されてる武術でもあるし」
『源流はな。しかし、我の棒術はそれも凌駕した。我は全てを砕く最強の武術家となったのだ』
　ドリームイーターは、自信満々に笑っていた。
　柚木はゆるく首を振っている。
「お前は武術家なんかじゃない。ただの暴力に酔った殺人鬼だ」
『何を言おうとも、我が最強であることに変わりはない』
　ドリームイーターも反抗するように言った。
　椿木・旭矢（雷の手指・e22146）は少し物思うように視線をやった。
「……なら、あんたのその棒術、見せてもらおう。ある武術家が理想とした、一つの技の到達点をな」
「うん、かかってきなよー。私の武術も見せてあげるんだよー！」
　写譜麗春・在宅聖生救世主（誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309）も、戦闘態勢を取ってみせている。
　ドリームイーターはそれを見て、望むところとばかり、突っ込んできた。
　だが、ケルベロス達は上手く間合いを取り、先手を取らせない。
　仁王と海咲はまず、霊力を込めた紙兵を散らして防護を整えていた。すると夜魅も拳を突き上げ、『螺旋掌・獣牙』を行使する。
「じゃ、オレもまずは準備させてもらうぜ。──突き立てろ、獣の牙！」
　それにより自身の螺旋の力を増幅し、力を高めていく。
　それと時を同じく、黎は『須佐之男ノ御剣』。
「──吹き抜ける風は鋭く、早く！　我らへ加護を！」
　それは神の一柱の力を借りる秘術。取り巻いたそよ風は、やがて吹き荒れる風の加護となり、前衛の戦闘力を増していた。
　同時に、柚木は『戦巫女の舞』。幽玄な舞を、戦の神に捧げていた。
「今ここに武士（もののふ）集いて戦に挑む。――照覧あれ！」
　それにより生まれるのは、さらなる加護だ。前衛の力はいっそう強まり、戦闘の準備は万全に整っていた。
　それを活かすように、旭矢は初手、大槌・赤日による殴打を喰らわせる。
　マリーも大槌・天目一箇神による砲撃を撃ち込むと、ドリームイーターも反撃を試みてくる。が、それより速く、在宅聖生救世主が山なりの軌道を描いて飛来していた。
「いくよ、ガルド流拠点防衛術ーっ！　腕前は免許皆伝！　貴方の武術の真髄と、私の武術の神髄、どっちが上か競ってみよーじゃないかー！」
　瞬間、敵の振った六尺棒を弾き、在宅聖生救世主は斧を脳天から叩き込んだ。

●闘争
　ドリームイーターは衝撃に唸るように、一度膝をついていた。
　だがすぐに立ち上がると、笑みとともに棒を振り回してみせる。
『貴様らも強いな。だが、まだまだ。我ならば、何人も一撃で両断してみせるぞ？』
「その様が、暴力に酔っているというのだ」
　柚木は微かに鋭い眼光で、敵を見返す。
「武術は玩具じゃないんだ。見せびらかすものでも　ましてや一般人を殺戮するものでもない」
『武術家が武勇を誇って何が悪い』
　ドリームイーターがあくまでそう言うと、マリーが言葉を零した。
「人を襲うことは、武勇を誇ることではありませんよ」
　元は武術を極めたいという健全な感情。それが殺しを厭わぬドリームイーターと成り果てたことに、マリーは悲しみと憤りを感じていた。
　だからこそ、というように、如意棒・久久能智神を構える。
「同じ棒術を使う人間として、止めさせてもらいます」
　瞬間、翼を輝かせて肉迫。久久能智神で六尺棒を打ち払うと、腹部に強烈な蹴りを叩き込んだ。
『面白い、誰の武術が最強か試してみようぞ』
　ドリームイーターは反撃を試みる。
　だがそこへ海咲も踏み込んでいた。
「あたしも無手での戦いを得意とするものとして、全力でお相手しますよっ！」
　敵が縦に棒を振り下ろす、それをすんでで避けると、海咲はそのまま横回転。遠心力をつける。
「これでも一応レプリカント、結構威力には自信があるんですからっ！」
　瞬間、豪風のような回し蹴りを脇腹に打ち込んだ。
　数メートル飛ばされたドリームイーター。そこへ仁王も迫り、逆側から蹴り上げていた。
　ドリームイーターはさらなる連撃を警戒し防御態勢を取ろうとする、が、仁王は言う。
「打撃ばかりが攻撃ではありませんよ」
　直後、飛来したのは仁王の相棒のボクスドラゴンだ。そのままドリームイーターの全身にブレスを浴びせ、傷を刻んでいった。
　血を滲ませつつも、ドリームイーターは在宅聖生救世主へ六尺棒を振るってくる。
　しかしその一撃は、海咲が盾となって庇った。ダメージはそれなりに強力なものだった、が、直後には黎が癒しの力を集中していた。
「ふっふっふー、お医者さんの出番かな？」
　言葉とともに、黎は光る手で海咲をそっと施術。傷を見る間に修復していく。
　同時に柚木も、光の盾を顕現して海咲に与えることで、体力を万全状態とした。
「さて、ヨミ君もしっかり働いてね！」
　次いで、黎の声に呼応してボクスドラゴンのヨミが飛んだ。無表情に、そして声も出さず、静かに飛来したヨミは、死属性のブレスでドリームイーターを蝕んでいく。
　苦悶を浮かべたドリームイーターへ、夜魅も疾駆。素早く地を蹴って、顔面に蹴撃を加えていた。
「全然、遅いな！　その程度か？」
『ぬぅ、まだまだ──！』
　ドリームイーターは再び最前の在宅聖生救世主を狙う。
　が、在宅聖生救世主は幹を盾にするように攻撃を躱すと、旋回して敵の背後を取った。
「隙ありだよー！　背中を取られるなら、まだまだだねー」
　言うが早いか、いっそう強く羽ばたき、風の如き速度で蹴りつけ、つんのめらせる。
　そこへ、旭矢が『雷の手指』。
「これも、躱せないだろう」
　瞬間、天空より数多の稲妻を喚び出し、ドリームイーターの全身を打つ。
　光に掴まれるような衝撃を受けたドリームイーターは、一度空へ吹き飛ばされ、地に叩き付けられた。

●武術
　ドリームイーターは呻きながら、如意棒を杖に立ち上がっていた。
　それから気を取り直すように首を振る。
『ううむ、油断したようだ。……最強の武術が負けるはずはないというのに』
「最強の武術、ですか」
　仁王が言うと、ドリームイーターは頷く。
『無論だ。誰にも負けない棒術……最も強く尊いだろう』
「力は、自ら求め、磨くから尊いものだろう」
　それに、旭矢が言葉を返していた。
　ドリームイーターの目をまっすぐに見る。
「あんたの力や姿は、あの武術家がやがてなるべきものだ。あんた自身が強さを語るのは、侮辱しているのと同じだ」
「そうですよっ！　鍛錬した日々は裏切らない、だからこそ、それを横取りしちゃうのはずるいですよっ」
　海咲も言葉を継ぐと、ドリームイーターは鼻を鳴らす。
『何を言っているかよく分からぬな。今ここで強ければ、それで良いであろう』
「確かに貴方の武術は弱くはない。あの武術家が理想としていた型、威力を持っているでしょう」
　仁王は言って、グラビティで印を形作る。
「ですが、貴方のそれは文字通り、心がこもってない武術。そんなものに、私たちは負けませんよ」
　瞬間、その印、『飢餓印』が光り、ドリームイーターの体力を奪い取っていった。
　海咲も走り込み、正面から降魔の拳を打ち込んでいく。
　ふらつきながらも、ドリームイーターは踏みとどまる。
『詭弁を。我はただ、武を示すのみだ……！』
「あくまでも、意志は変わらずか。なら、見せてみろ。あんたの技の神髄を……！」
　旭矢は武器を構え、そう言ってみせた。
　するとドリームイーターは棒で高速の剣閃を走らせる。旭矢はしかし、それを掠めるだけで躱し、反撃に、凍結の殴打を喰らわせた。
　大木に激突するドリームイーター。しかしそれで倒れず、六尺棒に炎を灯して薙いできた。
　前衛を業火が襲う。が、それらによるダメージが、降り注ぐ黄金の光に消されていく。
　柚木が攻性植物を解き放ち、癒しの力を発現していたのだ。
「これで、体力は心配要らないだろう」
「なら、火傷も治しちゃおうかな」
　声を継いで、天に治癒のグラビティを昇らせるのは黎。それが癒しの雨となると、燃えていた炎も消え去った。
「アドミラルも、回復してあげてくださいっ！」
　さらに、海咲に呼応してアドミラルも翼から光を生み、皆を万全状態にしている。
　その間に、夜魅は敵の懐へ迫っていた。
「反撃といくか」
　刹那、掌底に螺旋を篭め一撃。弾くようにドリームイーターの体を上方へ打ち上げた。
「飛ばしたぞ！　次の攻撃、頼むぜ！」
「わかったよー。本気の一撃を叩き込んであげるねー」
　螺旋を描くように木々を縫い、空中のドリームイーターへ追いすがるのは、在宅聖生救世主。そのまま、斧を振り下ろした。
　スピードの乗ったその一撃は重く、痛烈な衝撃となって、ドリームイーターを打ち落とす。
『まだまだ……！』
　血を流しながら、ドリームイータも起き上がり、六尺棒を縦横に振るう。
　マリーは久久能智神で数度、それと打ち合った。
「強いですね。その力が本当の武術に活かされれば、よかったです」
　静かに言ったマリーは、敵の刺突を、角度のずらした刺突でいなす。
　同時、ゼロ距離に迫り、脚部に炎を宿して強力な回し蹴りを喰らわせた。

●決着
　地に転げたドリームイーターは、ふらつきながら、立ち上がる。
『まだ、だ……死ななければ負けではない……！』
「死ぬまで戦うのは賢明じゃないと思うけどねー」
　黎が言うと、ドリームイーターは走り込んできた。
『無論死ぬつもりはない、我が勝つ……！』
「そう。なら、ボクともいざ勝負、なんちゃって」
　黎はどこか間延びした口調。しかし、同時に猛禽のような目で敵を見る。瞬間、眩い魔法矢を発射し、敵の腹を貫いた。
　呻きつつも足を止めないドリームイーター。だが、横合いから迫った仁王が、回し蹴りで足払いし、バランスを崩させた。
「余所見をしている暇はありませんよ」
「そうですよっ！　こっちは１人じゃないんですから！」
　海咲も後方から、くるりと前方宙返りして蹴り下ろしを喰らわせた。
　それでも黎を狙って攻撃したドリームイーターだが、その一撃は仁王が庇う。
　その傷も、柚木が魔法の盾を生成し、癒していた。
「あとの攻撃は、頼めるか」
「了解。オレにまかしとけ」
　柚木に応えて、夜魅はひらりひらりと、木の幹を蹴って飛ぶ。
　そのままドリームイーターの頭上を取るように接近すると、枝を蹴って速度を付け、縦回転の蹴りを打ち込んだ。
　再び膝をついたドリームイーターへ、マリーは『闇御津羽神』を行使する。
　それは生成した水の刃による、氷結の斬撃。敵を袈裟に斬り裂くとともに、傷口を凍らせて蝕んだ。
「もうそろそろ、終わりですね」
『我は、死なぬ……』
　ドリームイーターは朦朧としながらも棒を構える。
「じゃあ、私の防衛術をもっと見せてあげるよ。本当は私のガルド流拠点防衛術、一対一の武術じゃないんだけど、これならどうかなー」
　在宅聖生救世主は言いつつ、『ガルド流拠点防衛術・普く識らす天言』。
　それはガルド流拠点防衛術には珍しい、対単体の技だ。頭上に巨大な光の十字架を形成すると、それを発射。膨大な破壊力で衝突させた。
　意識の飛んだドリームイーターへ、旭矢は拳を引く。
「あんたが喰ったその夢、返してもらおうか」
　瞬間、放たれた拳がドリームイーターを穿ち、千々に消滅させた。

「皆さん、お疲れ様でした」
　戦闘後。マリーの言葉に皆は頷き、息をついていた。
　それから、武術家の男性のもとへ赴く。
「大丈夫か？」
　柚木が介抱すると、男性は無事に目を覚ました。
　そして、事情を聞くと、皆に丁寧に礼を言った。ただ、同時に不甲斐なさそうでもあった。
「これも修行不足のせいです」
「相手がデウスエクスじゃしょうがねえよ。それに、いいこともあると思うぜ」
　そう応えた夜魅は、デジタルカメラを取り出す。戦闘中、それで敵の動きを録画していたのだった。
「よかったらこれ見て、今後の修行の参考にしてくれ」
　男性はそれに驚き、熱心に見入ってから、ありがとうございます、とまた頭を下げた。
　旭矢はそこに声をかける。
「それはあんたの影だ。いつか、その極みに到達する日もくるといいな」
　その言葉に、男性は気を引き締め直したように、粛々と頷いていた。
　皆はその後で、周囲のヒール作業に入る。
「ヨミ君、がんばれー！　ボクはちょっと休憩ー……」
　黎は、忠実にヒールをしていくヨミを見つつ、ぐうたら気味だった。
　ヨミのヒールで若干ホラー気味な風景が生まれる横で、海咲もアドミラルと一緒に、というよりアドミラルに引っ張られるようにヒールをしていた。
「これで大体大丈夫ですねっ！」
　海咲が言う頃には、荒れた場所も直り、戦闘の痕跡もなくなっていた。
　山は平和を取り戻した。平穏な青空のもと、それを機に皆は帰還。山を降り、それぞれの帰る場所へと歩いていった。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月9日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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