最強の拳

■リプレイ

●対峙
　ケルベロス達は山へとやってきていた。
「山の方で危険なものが見つかったみたいなので、近づかないでね！」
　麓の周辺で、草薙・ひかり（闇を切り裂く伝説の光・e34295）は付近の市民へ呼びかけている。
　人々は、著名なプロレスラーでもあるひかりの姿に、『あれ、草薙・ひかりじゃない！？』『こんな場所で有名人に会えるなんてラッキーだな！』などと噂しつつも、言葉に従い、避難。辺りはすぐに無人になった。
　それで不安もなしと、皆は一路山へ。竹林を目指し始めた。
　東雲・苺（ドワーフの自宅警備員・e03771）は道中、口を開く。
「今回の事件って、武術家さんがドリームイーターの犠牲になっちゃってるんだよねっ」
「ふむ。幻武極おねえ──何じゃか運命的な物を感じるのじゃ」
　ウィゼ・ヘキシリエン（髭っ娘ドワーフ・e05426）は、敵の背後にいる存在に、物思うように言っていた。
　だが、視線はしかと竹林に向いている。
「じゃが、今はあの者の残していった敵を確実に倒さねばのう」
「うん。気合入れないとだねっ。きっとすごく強い武術家さんが生まれてるだろうしねっ」
　苺が言葉を返す。
　デリック・ヤング（渇望の拳・e30302）はそれに一度、自分の拳同士を打ち当ててみせる。
「武術家の夢から生まれたドリームイーターか。相手にとって不足はねぇ。さっさと、見つけちまおうぜ」
　言って、歩を進めた。そうして竹林に入ると、声を上げた。
「俺は拳士、デリック・ヤングだ！　戦ってやるから出てこいよ！　……怖気づいたかッ！」
　それは竹林が震えるほどの叫び。
　すると程なく、がさりと竹の間から現れたものがあった。
『我は、あらゆるものに打ち勝つ拳なり！』
　そう言って皆の前に立つ、引き締まった体を持つ男。
　武器を持たぬ武術家のドリームイーターだった。
　眺めるようにドールィ・ガモウ（焦脚の業・e03847）は呟く。
「最強の拳を求めた男の理想、か。悪くねェ」
　そして自身も拳を握り、戦えの構えを取った。
「俺も武術には覚えがあってな。お前の拳、まずは俺達に見せて貰おうか」
『我の最強の拳を見たいと申すか。面白い！』
「最強の拳とやら、僕もぜひとも一発受けてみたいね。いい拳だったら、倒して僕の糧にするよ」
　言って、同じく戦闘態勢を取るのは榊原・一騎（銀腕の闘拳士・e34607）だ。
　ドリームイーターも構えながら、言葉を返す。
『我は倒されることはない。どんな武器も破るのだからな！』
「如何なる武器も、か。武器は素手同士の戦いから有利になるように開発されていったものじゃからのう。それを覆す武術とは、一体どんなものか──」
　ウィゼがグラビティを集中しながら声を返す。と、ドリームイーターは接近してきた。
『それを、これからお前達に見せてやる！』
「来いよ。てめぇの拳と俺の拳、どちらが上かここで証明してやるぜ！」
　すると、同時にデリックも地を蹴って距離を詰めている。
　瞬間、互いの拳がぶつかる。
　それは威力を殺し合い、２人を風圧で反発させて終わる。だがデリックはそれで終わらず、直後に再び肉迫して一撃。腹部に拳を打ち、その動きを鈍らせた。
　その間に、ウィゼはグラビティを増幅させる力場、『反響増幅装置』を自身の周囲に展開し、戦闘態勢を整えている。
　ドリームイーターへは、一之瀬・白（八極龍拳・e31651）が風を掃いて飛来していた。
「余も一人の武術家として、存分にお相手つかまつろう！」
　そのまま間合いを詰めると、拳に霊力を込めて、腕を引く。
「我が『八極龍拳』に、穿てぬもの無し……！　その身でとくと味わうと良い！」
　放たれた拳は、斜め方向から命中。霊力でその体を捕縛した。
「まずは攻防に制限を掛けるのは基本じゃな」
『ぬぅ……！』
　体を縛る力に、一瞬惑うドリームイーター。
「隙ありっスよ！」
　と、そこへ、黒岩・白（シャーマン系お巡りさん・e28474）も踏み込んでいた。
　低い姿勢から眼前に迫ると、グローブにホワイトタイガーの精霊・粉雪を憑依。
「まずは一撃、この『すっごいタイガーバスター』を喰らうっス！」
　瞬間、掌底とともに虎の形をした気の塊を放ち、ドリームイーターを数メートル後退させた。

●拳撃
　竹の密集地帯に激突し、ドリームイーターは一時、唸り声を上げる。
　だが再び歩んでくると、愉快げに笑った。
『面白い！　お前たちを打ち砕けば、いっそう拳に磨きがかかるに違いない！』
「武術家たるもの、自分を磨くだけじゃなく、他人を見る目も養わないとね」
　そう言葉を返すのは、ひかりだ。
「私のプロレスからも、学ぶべきものは多いかもしれないよ？」
『お主もお主の拳法も知らぬ。それでも、我の拳こそ最強なのだ！』
　ドリームイーターはそうとだけ言うと、まっすぐに迫ってきた。
「私のこと、知らない？　……まぁ、今は知らないか。なら、私のプロレスと貴方の武術、実際にどっちが“凄い”か、ここで試してみる？」
　そう言うひかりも、怯まず敵の間合いに入り込む。そしてすんでで拳を躱すと、逆に敵の首元に強烈なラリアットをかました。
「じゃあ次はわたしの番だねっ」
　微かに苦悶を浮かべる敵へ、間断を置かず苺が走り込んでいる。
「わたしの家もそれなりに戦う技は鍛えてるからねっ、見せてあげるよっ」
　瞬間、苺は地面に拳を叩き込んだ。
　それが地裂を生み、下方からの衝撃を与える。同時に苺のボクスドラゴン、マカロンも羽ばたいて飛来。速度を上げたまま、タックルを喰らわせていた。
　ふらついたドリームイーター。そこへ次に狙いを定めるのは一騎だ。
「行くよ。轟竜の一撃で──地面ごと撃ち砕く！」
　言葉と共に、砲撃形態の大槌から砲弾を発射。
　煙を上げて地面に当てると、土煙と共に小爆発が発生。ドリームイーターは宙に煽られた。
　一之瀬・白は、そこで上空へ飛び、竹の高い位置に飛び込む。
　そのまま竹を掴むと、揺り戻しの勢いを利用して、凄まじい速度で空中のドリームイーターに接近した。
「竹を破壊するしか出来ぬ貴様には……こういう使い方は分からぬじゃろ！？」
　同時、全ての勢いを乗せた回し蹴りが直撃。ドリームイーターを地に叩きつけていた。
『く……！』
　倒れ込んだドリームイーターは、それでも起き上がり、一之瀬・白へ風圧を飛ばす。
　が、それが途中で立ち消える。
　ドールィが盾となり防御していたのだ。同時、ドールィは拳に煌々とした炎を生み出し、翼で真正面から距離を詰めた。
「流石に強ェな。なら、次は俺の拳を受けてみるか」
　言うと、熱気をたなびかせ、苛烈な拳撃を顔面に叩き込んでいた。
　敵が吹っ飛ぶ間に、ウィゼは再び反響増幅装置を生み出し、ドールィを回復強化している。
「見たところ、相手の守りを崩し攻撃を打ち込む武術じゃったのじゃな」
　ウィゼはこれまでの敵の動きを見て、ふと言う。
　苺も頷いた。
「理想の武術家っていうだけあって、結構凄い技が使えるんだねー」
「そうじゃな。じゃが、それでは対武器の武術としては不充分じゃのう。相手の武器の性能を落とす、そんな一撃があれば、より上手く戦えそうじゃが」
　ウィゼが考えるように言うと、ドリームイーターは鼻を鳴らす。
『己の拳さえ頑強ならば、それでいいのだ！』
「果たして、そうっスかね」
　と、そこに駆けてくるのは黒岩・白。エアシューズにグラビティを込めると、高速回転。鋭い蹴撃の乱打を喰らわせた。
　全身から血を散らしながらも、ドリームイーターはそれを拳で振り払おうとする。
　だが、その拳を、今度はデリックの拳がいなした。
「その程度か？　もっと俺を楽しませてみせろ！」
　刹那、逆の拳に降魔の力を込めたデリックは、裂帛の一撃。
　頬を直撃するような殴打で、ドリームイーターを回転させながら飛ばし、地に転がせた。

●力
　ドリームイーターは、呻きながら立ち上がる。
『馬鹿な、この拳術をもってして苦戦するとは……』
「素手で全ての武器に勝つ、って、実は相当難しいんじゃよ。必然相手の間合いに飛び込まねばならぬしの」
　一之瀬・白は、不思議でもないというように頷いて言った。
　黒岩・白も静かに声を続ける。
「それに、『武』は戈を止める、とも読める。戦いに向かうにしろ止めるにしろ、大事なのはその意味っスよ」
『意味、だと』
「何のために強くなるか、強くなって何をするのか。それ無しに身につく強さなんてたかが知れている。だから、みんなを守るための『僕たち』の一撃が、受けきれないんじゃないっスか」
『下らぬ……拳の強さ、それこそが意味だ！』
　ドリームイーターは反抗するように拳を放つ。
　それを受けながらも、威力を殺して後退するひかりは、口を開いた。
「私はひたすら強い、ってのも悪くはないと思うよ。だけど──」
　そのまま、群生している竹に背を預けると、ロープのように反動で加速する。
「強い上に“魅せる戦い”ができる方が、“凄い”に決まってるよね！」
　瞬間、速度をつけてドロップキック。
　ほぼ同時、ドールィも宙から降下し、剛烈な威力の蹴りを畳み掛けていた。
「少なくとも、てめェには仲間と協力して戦うことは出来ねェだろうな。なら俺達には、勝てねェよ」
　ドールィの言葉に、ドリームイーターは唸る。
『拳が強ければ、人数の差など……』
「ならばもっと、仲間がいる強さというのを見せてやろう……白殿！！」
　すると、敵へ飛ぶ一之瀬・白が呼びかける。
「おっけー！　行くっスよ白くん！」
　応えるのは、その背後から跳び出た黒岩・白。２人は左右に分かれ、挟撃体勢をとった。
「白殿、粉雪！」
「了解っス！　憑依武装・銀牙！　……白虎掌！」
　呼応して、黒岩・白は再び気の塊を撃ち出す。一之瀬・白は逆側から『八卦八極拳奥義 降龍十六掌』。凄まじい連撃を放ち、回避の隙も与えなかった。
　苦しむ声を上げながらも、ドリームイーターは拳を乱打。前衛へかなりのダメージを与えてくる。
　が、そこにすぐさまウィゼがドローンを展開。皆に治癒のエネルギーを注いでいた。
「これで全快とは行かぬかもしれぬが──」
「わたしも手伝うよっ。これでみんな、大丈夫だねっ！」
　すると苺が、自身の生命力を癒しの力に転換する『大地の恵み』で、ひかりを回復。マカロンにはデリックを治癒させることで、前衛の体力を万全状態にした。
「攻撃は頼むねー」
「ああ」
　苺に応えるのはデリック。敵の乱打をその身に受けて、むしろ笑みを零していた。
「間違いねぇ。夢から生まれたとはいえ、こいつぁ俺が求める強者の魂って奴だ！　久しぶりに滾ってきたぜッ！」
　言うが早いか、敵へ疾駆。
　ドリームイーターも対応しようとするが、その横合いから、一騎が跳躍していた。
「おっと、その機動力、奪わせてもらうよ！」
　豪風のような勢いで、一騎は敵の脚部を正確に射抜くような蹴撃。ドリームイーターの動きを止めた。
「今だよ、攻撃を」
「悪いな。全力でいかせてもらうぜ！」
　言ったデリックは、プラズマを纏った超音速の拳を放つ。
　それは、衝撃波と共に繰り出された紫電の拳、『超音速・電磁加速拳』。重い一打は肋骨をひしゃげさせ、ドリームイーターを派手に転倒させていた。

●決着
　ドリームイーターは、いっそう不可思議そうに、呻いていた。
『うむむ、何故だ……最強の拳が、何故劣勢に……』
「拳だけじゃなくてよ。使えるものはなんでも使う。それが喧嘩の基本だぜ？」
　ドールィはそう応えてみせる。
　だけでなく、竹に掴まり横回転して敵の背後を奪っていた。そこから放つのは、『ドラゴンサマーソルトB』。地獄の火力を上げた猛烈な蹴り上げで敵をつんのめらせた。
『拳以外のものなど……！』
　ドリームイーターは唸りつつ、なんとか踏みとどまる。
　が、そこへ一騎が踏み込み、ガントレットのブーストを上げていた。
「なら、僕の拳を一発、受けてみるかい」
　瞬間、繰り出すのは『バーストナックル』。命中と同時に破壊の魔力を送り込むことで、体内から爆破の衝撃を加えた。
　一時正体を無くしたドリームイーターへ、一騎と入れ替わるように接近するのはひかりだ。
「次は、私だね。一騎くん、見ててね、私の凄いとこ！」
　敵を抱えて仕掛けるのは、『セブンカラーズ・スープレックスホールド』。７種のスープレックスを連続で決め、一気に体力をもぎ取った。
　連続して、一之瀬・白の霊力を含んだ拳撃と、黒岩・白のスピン攻撃も命中。ドリームイーターは機動力と防御力も限界近くまで削られ、膝をついていた。
　それでも、反撃の拳を放ってくる、が、それは防御態勢を取っていた苺が、受け止めた。
「中々強いねー。でもわたしも、簡単には倒れないよっ」
　言葉通り、苺は再び大地の恵みを自己に施し、体力を保つ。
「あとは、お願いするねっ」
「うむ。ならばあたしも攻撃させてもらうかの」
　苺に応えるウィゼは、攻性植物を解き放ち、ドリームイーターを捕縛。
　そこへ、デリックが全力の拳を放った。
「それじゃあ貰うぞ、てめぇの魂をなッ！」
　降魔の力の篭った拳は、暴風の如き威力。その一撃で、ドリームイーターの命を打ち砕いた。

　ドリームイーターは、空気に溶けて消えていった。
　霧散する煌めきを取り込みながら、一騎は呟いている。
「ご馳走様。思い返せば今日の戦闘、あまり拳技を使わなかったな……」
「でも中々いい相手だったね。ウチのリングに欲しいくらいだったよ」
　ひかりは、敵が消えた跡を見て、そんなふうに言っていた。
　それから皆は、武術家を保護しに向かう。
　武術家は無事だった。事情を聞くと皆に礼を言い、同時に不甲斐なさげでもあった。
「これも己の修行不足のせいです……」
「なら、今からでも鍛錬するか？　強さを目指すのは俺も同じだからよ。打ち込み相手になるぜ」
　ドールィが応えると、武術家はぜひに、と拳を打ち込み始めるのだった。
「様々な武器の利点や弱点を学んでからというのも良いと思うがのう。敵を知り、己を知れば百戦危うからず……とも言うしのう」
　一之瀬・白の助言にも、勉強になります、と、武術家は熱心に頷いていた。
　苺も応援するように声をかける。
「めげずにがんばって修行してねー。わたしくらいの年になったら強くなるよっ」
　それから苺の年齢を聞いた武術家は、少々恐れをなしたようにしていた。
「一生修行ということですな……」
「強くなれるさ。お前が夢見た強さ、紛れもなくホンモノだったんだからよ」
　デリックは拳の感触を思い出すようにして、言っていた。
「では、そろそろ帰るっスかね」
　黒岩・白の言葉に、皆は頷いて山を降りる。
　ウィゼは最後、空を仰ぐようにしていた。
「幻武極──いずれ、あの者と壮絶な闘いをする、そんな予感なのじゃ」
　未来の事は未だ知る由もなく。風は穏やかに青空に吹いていた。

作者：崎田航輝	重傷：なし 死亡：なし 暴走：なし
種類： 公開：2017年9月5日 難度：普通 参加：8人 結果：成功！
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