想いの亡骸

作者:崎田航輝

 小雨の中、人通りのない路地で、1人の青年が倒れていた。
「う……」
 横向きの視界に、流れていく自分の血。
 その直前には、大きな音と、強烈な衝撃、そして走り去っていくエンジン音が聞こえていた。朦朧とした意識の中で、青年は自分が車にはねられたことだけ、理解していた。
「友……美……」
 ただ、青年は、本能的にそんな言葉を零すと、歩くために起き上がろうとする。何か大事なことがあるというように。
 だが青年には起き上がる力も残っていない。
 青年は力ない手で、懐を探る。そこには指輪の入ったケースがある。
 それをどうにかしようとしたようだが、しかしそれも叶わず、青年はそこで力尽き、ケースは地に転がった。
 そこへ、死神・エピリアは現れた。
 深海魚型の死神を引き連れたエピリアは、死んだ青年へ、歪な肉の塊を埋め込む。
 すると、青年は元が人間だったこともわからないような、異形の屍隷兵へ変化した。
 エピリアは屍隷兵へ語りかける。
「あなたが今、一番会いたい人の場所に向かいなさい。そして会いたい人を、バラバラにできたら、あなたと同じ屍隷兵に変えてあげましょう」
『……ァ、……』
「そうすれば、ケルベロスが2人を分かつまで、一緒にいることができるでしょう」
 その後、エピリアは深海魚型死神だけを残し、すぐに去っていってしまった。
 残された屍隷兵は、そのままゆっくりと歩き出した。
 知性も記憶も、ほとんど残ってはいない。ただ、会いたい人に会うために、蠢くように、進み始めた。

 死神『エピリア』なる個体が事件を起こしている。
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は集まったケルベロスに、その説明を始めていた。
「この死神は、死者を屍隷兵にした上で、愛するものを殺すように命じているみたいです」
 元々青年であった屍隷兵は、知性をほとんど失っている状態だ。
 そこにエピリアの言葉に騙される形で、愛する人をバラバラに引き裂こうと移動しているという。
 放置しておけば被害者が出てしまうだけでなく、結果として、屍隷兵が増えることにもなってしまうだろう。
「こんな悲劇が起こってしまうまえに、この屍隷兵を撃破して貰いたいんです」

 イマジネイターは詳細の説明を続ける。
「敵は、屍隷兵が1体と、深海魚型死神が2体ということになります。場所は市街地の中にある路地です」
 町中ではあるが、人通りの少ない路地であり、作戦中に人が介入する心配はないという。
 ただ、屍隷兵は人の多い場所に移動しようとしているので、その前に戦闘を仕掛けて撃破することが必要でしょうと言った。
「この青年……武さんというらしいのですが、恋人さんの元へ向かう途中だったみたいです」
 結婚ももうすぐと周りから言われるような仲睦まじい恋人同士だという。
 屍隷兵となった武の目的地は町中のようだ。路地から出さないように立ち回ることを意識すると良いだろうと言った。
 では敵の能力について説明を、とイマジネイターは続けた。
「深海魚型死神は、噛みつきによる近単ドレイン攻撃と、怨霊弾による遠列毒攻撃をしてきます。屍隷兵は纏ったヘドロをオーラ上にして、バトルオーラ相当の能力を使ってきます」
 各能力に気をつけておいて下さい、と言った。
「悲しい出来事の連鎖になる前に。撃破をお願いしますね」
 イマジネイターはそう言って頭を下げた。


参加者
十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)
ギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)
ジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)
ラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)
茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)
六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)

■リプレイ

●挟撃
 小雨の路地を、死神と異形の屍隷兵が蠢いている。
 目的は路地の先の町。それ以外のものは見えぬというように、屍隷兵は一心不乱に歩み始めていた。
 と、その先に、立ちはだかる者があった。
 それは、4人のケルベロス。
 その1人、茶斑・三毛乃(化猫任侠・e04258)は微かに沈痛な面持ちで、口を開いた。
「酷を承知で申し上げやす。お前さん──想い人を想うなら、せめてこれ以上ここより先へ進もうとしなさんな」
 向けるのは、リボルバーの銃口。
『……ァ……』
 屍隷兵はそれを見てほんの一瞬静止する。だが、知能の絶えた表情で、それを解さないように、再び歩みを始めた。
 横に立つジョージ・スティーヴンス(偽歓の杯・e01183)は、少し息をついた。
「意志は変わらずか。情熱的すぎてまったく、恐れ入るぜ。……死んだあとまで会いに行きたいとはな」
 動く亡骸を見るジョージの視線は何かを物思うようだ。
「こんな光景をまた見ることになるとは、思いもしていなかったぜ──」
 脳裏に浮かぶのは過去だった。それは村が滅びた祭りの夜、漂う怪魚と死んだ筈の男の光景。
 感情が薄れる感覚を得ながら、ジョージはゆるりと首を振る。
「……何にしても、やることはやらせてもらうさ」
「うん、そうだね。皆、いくよ!」
 応えるように護符を掲げるのは六壬・千那(六壬エンチャンター・e35994)。
「十二天将が一柱、南東を守護せし災火ノ凶将、丁ノ炎蛇よ。六壬の巫女が願い奉る。万物を焼き払いしその神威、彼の者らに与えたまえ──!」
 瞬間、そこへ十二天将の一柱、騰蛇の神威を卸す。
 それを味方に貼り付ける『六壬式神威付与術・騰蛇』によって、前衛の力を飛躍的に高めていた。
「ええ。決してここを通させは致しませぬ」
 次いで、グラビティを集中しているのはギヨチネ・コルベーユ(ヤースミーン・e00772)。
「詩人の後胤よ、我が見るは、汝が母なり──」
 言葉と同時、生まれるのは幻想の花園だ。
 蔓延る蔓植物が取り巻いていくと、その力、『法悦の殉教女』が精神をかき乱すように、屍隷兵に怒りの感情を植え付ける。
 同時、三毛乃は連続でマズルフラッシュを閃かせ、屍隷兵を穿っていた。
 派手な砲火と怒りの感情に、屍隷兵はこちらに注意を奪われる。
 一方、死神は様子を窺っているようでもあった。
 が、そこへはジョージが素早く走り込み、無骨なナイフで殴りつけるような斬撃を加えている。
 これによって死神も反撃を狙うように、こちらへ飛来してきた。
 そのタイミングで、3体の後背に迫る影があった。
 それこそ、挟撃するように距離を詰める、4人のケルベロスだった。
 こちらの初撃は、光の剣を手に、翼を羽ばたかせて飛来する、エヴァンジェリン・ローゼンヴェルグ(真白なる福音・e07785)だ。
「さぁ、いこうか……」
 自らを奮い立たせるように呟いたエヴァンジェリンは、そのまま一閃。無防備な死神の1体に、勢いをつけた痛烈な斬撃を叩き込んだ。
 宙に煽られた死神は、体勢を直そうと空を泳ぐ。
 が、もう1体もまとめて巻き込むように、銃弾の雨が降る。
「悪いが、貴様等はもう包囲されているんだ」
 それは、気迫とともに銃を向けている、リューディガー・ヴァルトラウテ(猛き銀狼・e18197)の攻撃だ。
 威力を伴った威嚇射撃、『Donner des Urteils』に、死神達は一時行動を失う。
 そこへ、十夜・泉(地球人のミュージックファイター・e00031)が静かに、しかし素早く疾駆していた。
「まずは、あの1体に消えてもらいましょう」
「わかりました。助力させていただきます」
 泉に声を返すように、ロッドを向けるのはラズ・ルビス(祈り夢見た・e02565)。
 瞬間、そこから光の塊の如き雷撃を生み出し、死神を撃ち落とす。
 満身創痍で高度を落とした死神へ、泉は丁度ゼロ距離に迫り、一撃。大鎌による鋭い斬撃で、その死神を両断。霧散させるように消滅させた。

●屍隷
 連続攻撃とその包囲網を、屍隷兵と死神は一瞬、惑うように見回している。
 その間にもケルベロス達は距離を詰め、2体を路地に閉じ込めるように位置していた。
『……ド、ケ……』
 すると屍隷兵は、憎らしげな呻きを漏らしながら、再びまっすぐに進み始めようとする。
「阻まれようとも、目的は一つというわけか」
 エヴァンジェリンが零すように言うと、千那もふと口を開く。
「最後の願い、か。死の間際に会いたいのが恋人とはね。きっと何事もなければ幸せだったのだろうね」
「ああ。夢半ばで若い命を絶たれる無念。察するに余りある」
 口を継ぐリューディガーは微かにだけ目を伏せる。
 リューディガーは妻がいる身であり、青年が同じ幸せを掴むはずだったと思えばこそ、その憐憫は深まるばかりだった。
「なればこそ、その想いを弄び、人の尊厳を踏みにじるエピリアの所業、断じて許してはならん」
「ええ、そうでございますね」
 応えるギヨチネは、厳しい死生観のもとに、屍隷兵には静かな視線を注ぐ。
 だがそれでも、人の死と生の理を乱す死神たちの所業を許せるとは考えていない。
「──偽りの神たちよ。死を弄ぶことは、涜神行為であると心得なさい」
 武器を手に言うと、その言葉に反応したか、死神は宙を泳いで接近してくる。
 だが、そこに轟音と光が襲う。リューディガーがアームドフォートから一斉砲撃を加えていたのだ。
 屍隷兵の方は、それを縫うように、ギヨチネに近づき殴りかかっている。
 が、ギヨチネは腕を盾にするように、その攻撃を防御した。強烈な衝撃に、両腕がきしみを上げ、わずかに血が噴き出す。だがギヨチネは倒れずに、道も通しはしない。
「こちらも負けられぬ戦いなれば、命を賭すだけです」
 言葉と同時、屍隷兵の懐へ入り込み、苛烈な蹴撃を喰らわせて後退させていた。
 死神へは、ジョージが迫る。
「死者に死神。本当に……まるであの晩のようだな」
 疾駆しながら、ジョージは独りごちる。記憶に浮かぶのはやはり過去、男が村人を惨殺する光景だ。ジョージにとっては何度となく思い出し、その度魂を摩耗させてきた記憶でもある。
 屍隷兵と死神を見ると、まるで目の前にそれが形を持って蘇るようだった。そしてそれは摩耗しきった魂を削るように、心を停止させてゆく。
「──いや、あの男はこんなに若くはなかったか。こいつは若すぎる。記憶と違う。今はいつだ。あいつは今何歳だ。……いや。とにかく、切らなければ──」
 極限まで心の薄まったジョージがすることは、ただ敵を切るだけ。それこそ、自分が破壊されるまで。
 文字通りの『深追い』を見せるジョージは、そのままゼロ距離で、死神に斬撃を喰らわせる。
 死神もすぐにジョージに噛みついてきたが、その直後にはラズが、癒しの雷光を生み出していた。
「今、回復を致します、少々お待ちください」
 増大した光は、弾けるようにジョージに溶け込んでいき、傷を癒していく。
 同時、千那も月の如き美しい光のオーラを生成している。それをギヨチネに注ぐことで、大幅な治癒をもたらしていた。
「これで回復は大丈夫かな。矢星は攻撃をお願いね」
 するとそれに呼応して、千那のテレビウム、矢星が疾駆。死神に凶器での打撃を与えていく。
 そこへラズのミミック、エイドも連続でメスを飛ばし、死神の体力を削っていった。
 弱る様子を見せる死神に向け、泉は高く跳び上がる。優美に弧を描いて迫った泉は、そのまま、体を翻して蹴り落としを喰らわせた。
「とどめを、頼みます」
「……ええ、あっしにお任せを」
 応える三毛乃は、静かな視線を死神に向ける。
 そして銃把を握ると、『猫目時計・改』を行使。猫の伝承を具現化することで、死神の動きをスローモーションのように捉え、弾丸を連射する。
 それらはまっすぐに突き刺さり、あるいは跳弾として体を穿ち、死神を四散させていった。
『ァアッ……!』
 この間に、屍隷兵が再び前進をしてきている、が、それをエヴァンジェリンが阻んでいた。
「遅いな」
 瞬間、エヴァンジェリンはオウガメタルを流動させて鋭い拳を形成。
 屍隷兵の表皮を裂きながら、剛烈な衝撃でその体をも吹っ飛ばしていく。

●手段
 死神は消え、ケルベロスに囲まれているのは、屍隷兵1体だけだった。
 だが屍隷兵はすぐに起き上がると、道の先を見据えて、進み出す。その先に希望があるのだと言うように。
『……ト、モ……ミ……』
「……恋人の名前か」
 エヴァンジェリンが、小さく口を開く。
 千那は、屍隷兵の顔を見やっていた。
「会わせてあげたくはあるけど……。でも、今の君を会わせるわけにはいかないんだよね」
「ええ、大切な方を自分の手で殺める……。絶対に許されないことだと思います」
 泉もそう言葉を続ける。
 屍隷兵は、茫洋とした知能と自意識の中で、しかしそれだけには反抗するように、唸り声を上げている。
 だが、泉も諭す為に言ったわけではない。あるいはそれは宣言のようなもの。
「……絶対にすぐに終わらせます」
「ええ」
 小さく頷くのはラズだ。
 その表情は、常と変わらず乏しい。だが、その内には、他者を思いやる心が確かに内在している。
 だからこそ、というように、ラズは言葉を続ける。
「命が失われる、その瞬間は止められずとも。……せめて。せめて、迅速に解放して差し上げなくてはなりません。亡骸を、想いを、利用などさせないために……!」
 屍隷兵は、叫声の如き唸りを上げて、進行してこようとする。
 だが泉がそこへ、切り込むように肉迫。速く、重く、正確に、一切の無駄を省いた動きでナイフを振るい、腹部を斬り裂く。
 たたらを踏んだ屍隷兵に、エヴァンジェリンは稲妻を纏わせた槍で刺突。風圧も交えて再び転倒させる。
 屍隷兵はそれでも起き上がり、どす黒いオーラで反撃してくる。が、それが途中で弾けるように消えた。
 三毛乃が、右手の異形の縛霊手で受け止めるように庇っていたのだ。
 そのまま三毛乃は、左手のリボルバーに火を吹かせ、屍隷兵の足元を穿つ。
「次は、頼みまさァ」
「ああ、少し間、おとなしくしていてもらおうか」
 応えて、銃口を向けるのはリューディガー。そのまま連射された銃弾に手足を貫かれ、屍隷兵は一気に動きを鈍らせていた。
 三毛乃の傷には、ラズが体を活性させる雷を生成し、投射。内部から治癒を進めていく。
 次いで、千那も黄金の光の塊を現出。それで三毛乃の全身を包み、体力を大幅に持ち直させていた。
 屍隷兵はあくまで歩みを続けようとしている。が、その一切の動きを、ギヨチネが防ぐ。
「通さぬと申したでございましょう。この言葉は、軽くはございませんよ」
 眼前で言ったギヨチネは、大槌を振り上げる。
 軋み、骨の折れかける音が鳴る腕にも構わず、全力でその巨大な槌を振り下ろすと、一撃。凄まじいまでの膂力を発揮して、屍隷兵を剛烈な殴打で吹っ飛ばす。
『ァァッ……!』
 それでも、屍隷兵は叫ぶように、再び起き上がって突き進んでくる。
 が、そこへジョージがまっすぐに近づく。
 そのまま、武器と敵、そして自身まで燃やし尽くすような地獄の炎を生み出し、一閃。屍隷兵の腕を斬り落とし、腹部近くまで切れ目を入れる斬撃を喰らわせていた。

●決着
 再び、屍隷兵は倒れ込んでいた。苦しげに蠢く様は、大幅に弱っているようにも見える。
 しかし、屍隷兵は片手だけで起き上がると、これまでにないほどの殺気を滲ませた。
『……トモ……ミ』
 そして名前を繰り返すように、足を引きずって進む。
 それに対し、三毛乃は目を伏せるようにして、銃を向けるだけだ。
「……申し訳ありやせんが。街へは行かせぬ──あっしらはそのために来てるんでさァ」
 瞬間、放たれた銃弾が屍隷兵の足を貫通し、体勢を崩させる。
 膝をついて、しかしすぐに立ち上がってくる屍隷兵。
 邪魔者を排除するように、片腕を振り回してくるが、それを受けるジョージは、自身が血に塗れることを意に介するでもなく、懐へ迫る。
「そんな攻撃じゃ──弱えな」
 虚ろな言葉とともに、ナイフで腱を裂き、屍隷兵の片足の機能を殺す。
 この間に、千那は月のオーラを注いでジョージを回復させている。
「あとは、頼むね」
「ええ、ここで畳み掛けさせていただきます」
 そう言って雷撃を生み出すのはラズ。それを撃ち出すと、白色の小爆発が、屍隷兵を再び転倒させた。
 片腕と、折れ曲がった足で、屍隷兵はゆらゆらと立ち上がる。
 リューディガーはそこへ砲口を向ける。それから、口を開いた。
「いつか、奴は必ず倒す。だから今は、止めさせてもらう。愛した女性を、その手で殺す前に」
 同時、砲撃が屍隷兵の片足を焼き尽くす。
 倒れながらも、屍隷兵は強力な波動を撃ち出してきた。
 それを正面から受けとめたギヨチネは、腕の骨が壊される感覚を得ながらも、倒れない。
 血を滴らせながら、逆に蹴りを命中させた。
『……ァ』
 地に転げる屍隷兵は、満身創痍だった。
 泉はそこにナイフを突き立てる。
「悲しみに向かう行為は、ここで終わりです」
「……ああ。これで、仕舞いだ」
 エヴァンジェリンは、『天を裂く極光の白刃』を顕現。両手で構えた光の刃を、縦に大きく振り抜き、屍隷兵の命を両断した。

 戦闘後。
 ジョージは血に塗れた姿のまま、どこか虚ろに立ち尽くしていた。
 ギヨチネは、その横で、消え行く死体に最後、言葉をかけている。
「武。どうか天上で平穏を得られますよう、安らかにお休みなさい」
 その内に死体が消滅すると、黙祷していたエヴァンジェリンも、目を開ける。
「……じゃあ、出来ること、やっておこうか」
 皆は頷き、周囲にヒールをかける。
 三毛乃は轢き逃げがあったらしいということを、警察に通報していた。
 ヒールも終える頃、ラズは地面に転がる小さな箱を見つける。
「指輪、ですね」
「婚約指輪か。遺品となってしまったな」
 リューディガーはそれを見て、呟きながら思いを馳せる。
「こんなことがなければ、彼も幸せな将来を送っていただろうにな──」
「恋人さんに、届けるだけでもしておこうか」
 千那は言って、皆とともに路地から町へ出た。
 そして、武の恋人の友美に会い、事情の説明をして指輪を渡した。
 友美は、武の死に泣き崩れていた。
 それでも、暫くの後には、ケルベロス達に礼を言った。彼もありがとうと言っていると思います、と。
 友美は気丈に帰っていった。けれど千那はその友美の背中に、痛ましさを感じた。
「儘ならないね、本当に」
 千那は呟き、歩いて行く。皆もまた、それぞれに帰還していった。
 平和の戻った町。そこには未だ、小雨が降り続いている。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年9月2日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 3
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