天の川が空に光の帯を作る、七夕の夜。
道々にはところどころに笹が飾られており……結び付けられている短冊には、人々の願い事がしたためられている。
そんな街道に、1人の少年が、歩いてきていた。
「“七夕の幽霊”……絶対、どこかにいるはずだよね」
夜の深い時間だからか、ひとけのない周囲を見回しながら……少年は呟く。
それは初夏から聞いていた噂だった。
「織姫様と彦星様にも関係ある幽霊らしくて……天の川の星を従えて、すごくきれい、なんだよね」
七夕に、笹のあるところで出会えるらしいという。
それで、わざわざ夜中に出てきたのだった。
「でも怖い死霊だから、人間を見つけたら呪い殺しちゃう、って言うけど……」
それでも、少年は好奇心が勝って、その影を探す。
手に持った短冊には、幽霊に出会えますように、などとも書きながら。
しかし──少年がいくら探しても、死霊が見つかることはなかった。
「――私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
代わりに、背後に1人の魔女が現れていたからだ。
手に持った鍵で、少年の心臓をひと突きする――第五の魔女・アウゲイアス。
少年は意識を失い、地面に倒れ込んだ。
すると奪われた『興味』から――和装の女性の影が現れる。
幽霊の如き、ぼんやりとした表情ながら……同時に、星々のような光を纏ってもいる。
茫漠としながらも、きらびやか──そんな姿をしたその影は、そのままどこかへ去っていく。
「七夕にどんなお願いをするか、みなさんは決めていますか?」
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はそう言って、集まったケルベロス達を見回していた。
それから改めて説明を始める。
「今回は、ドリームイーターの出現が予知されたことを伝えさせて頂きます。第五の魔女・アウゲイアスによる、人の『興味』を奪うタイプのもののようで――街道にて、少年の興味から生まれるようです」
放置しておけば、ドリームイーターは人間を襲ってしまうことだろう。
それを未然に防ぎ、少年を助けることが必要だ。
「皆さんには、このドリームイーターの撃破をお願い致します」
それでは詳細の説明を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、人型の幽霊のような姿をしたドリームイーターが、1体。場所は街道です」
当日は笹が飾られて、七夕の風景の色濃い場所になっているという。
ただ、夜中ということもあり、他の一般人の姿はない。戦闘にも邪魔になるようなものはないだろうと言った。
「現場で誘き寄せるための行動を取れば、ドリームイーターは現れてくれるはずです」
この幽霊の噂話や七夕に興味のあるような話をしていれば誘き出すことが出来るでしょうと言った。
「ドリームイーターを倒せば、少年も目を覚ますことが出来るので心配はないでしょう」
敵の能力は、霊力による遠単催眠攻撃、星の光を纏わせる遠単パラライズ攻撃、銀河のような光の雨を降らせる遠列プレッシャー攻撃の3つだ。
「撃破できれば、天の川を眺めたり、短冊を書いたりする時間もありそうですから……是非、撃破を成功させて来てくださいね」
イマジネイターはそう言葉を結んだ。
参加者 | |
---|---|
泉本・メイ(待宵の花・e00954) |
国津・寂燕(好酔酒徒・e01589) |
舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841) |
夜陣・碧人(影灯篭・e05022) |
アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574) |
レイヴン・クロークル(水月・e23527) |
皆守・信吾(激つ丹・e29021) |
レオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059) |
●七夕の幽霊
ケルベロス達は、夜の街道にやってきていた。
辺りにひとけはなく、人々が飾り付けた短冊だけが、葉と一緒にさらさらと揺れている。
「この辺りでいいだろうな」
と、周囲を見渡すのはレイヴン・クロークル(水月・e23527)。
そこは少年からは距離を取った位置であり……戦闘にも適した場所だ。
皆も既に、準備はできている。
それぞれに、頷き合い……早速、作戦を始めることにした。
すなわち、誘き出すための話である。
「七夕ってわくわくするよね。短冊を書くのが楽しいし……私は飾り付けを作るのも好き」
最初にそう口を開いたのは泉本・メイ(待宵の花・e00954)。
半ば本心から、空を仰いでいた。
「天の川もキラキラしていて嬉しいな。それに……七夕の幽霊も気になるよ。会ってみたいな」
「幽霊ですか。すぐに、会えるのではないかと思いますよ」
それに、少しおどろおどろしい口調を作ってみせるのは夜陣・碧人(影灯篭・e05022)。
語り部らしく、雰囲気のある口ぶりで続けた。
「柳の下にはおばけがいると言いますけど、竹の下にも……いますからね。ほら、竹がサラサラーと揺れる音がすると、その下に……」
と、その言葉に合わせて、竹が揺れる。
それは自然の力だけではない、気配のようなものにも思えた。
国津・寂燕(好酔酒徒・e01589)はその違和感に気づきつつも、話を続ける。
「実際、竹その物って妖怪もいるようだし。幽霊が居たっておかしくはないかねぇ」
それに、と夜空を見上げる。
「彦星織姫伝説なんてのは、正に悲恋よ。星の悲痛な想いが哀れな魂を引き寄せる、なんて事もあるのかもね?」
「哀れな魂、か。……噂では、織姫と彦星に縁のある幽霊だという話だが、どのようなものなのだろうな」
言葉を継ぐのは舞原・沙葉(ふたつの記憶の狭間で・e04841)。
その尋ねるような素振りの言葉に……アーティラリィ・エレクセリア(闇を照らす日輪・e05574)はふむ、と腕を組んでいた。
「しかし、七夕に2人以外の人物などおったのか?」
「もしかしたら、2人の仲を妬んだ悪霊かもしれないな。織姫と彦星は七夕にしか会えないのに……そうだとしたら心が狭すぎると思うが」
沙葉は眉をひそめて応える。それから、自分にしてはロマンチックな話をしたと、少し恥ずかしさでばつが悪そうにもしつつ。
「でも、呪い殺した人の数だけ纏う星の煌きが増す、とかだったら怖いね」
皆守・信吾(激つ丹・e29021)が言うと……また葉が揺れ、視界の端に星のような煌めきが瞬く。
レイヴンは警戒心を高めつつも、言葉を続けた。
「あるいは、良い幽霊かも知れないぞ。夜にこっそり願い事を叶えてくれる、とな」
「さりとて、少しでも害悪をなすのであれば捨ててはおけぬよ」
そしてレオンハルト・ヴァレンシュタイン(ブロークンホーン・e35059)が言う頃には……。
葉が揺れるだけではなく、そこに、形を持った影が現れていた。
半透明の体を持つ、女性の幽霊──ドリームイーターだ。
●開戦
「出たか。なるほど確かに、見た目は幽霊じゃな」
レオンハルトは、光をまとったドリームイーターの姿を見て言う。
寂燕は頷きつつも……日本刀・鬼哭を抜いていた。
「見た目は確かにねぇ。でも、ドリームイーターに作られた幽霊なんてのは──不粋だよねぇ?」
同時、地を蹴ってドリームイーターへ肉薄すると、一閃。弧を描く斬撃で、光もろとも半透明の体を斬っていく。
ドリームイーターは、鋭い形相を浮かべて、攻撃態勢に入った……が。
「やらせないの──えいっ!」
そこへ走り込んだメイが、跳びはねるように跳躍して、蹴撃。光を凍結させて、ドリームイーター本体にも衝撃を与えていく。
「では、私も行きましょうか」
と、大槌を構えるのは碧人。
そのまま、ドリームイーターへ砲撃を撃ち込むと……。
レイヴンは地獄化した己の左眼から焔を棚引かせ、銃へ装填。【地獄ノ射手】蘭──その業炎を伴う射撃で、半透明の体を貫いていった。
「ミュゲ、頼むぞ」
レイヴンの声に呼応して跳び出すのは、テレビウムのミュゲ。そのままドリームイーターへ駆け込むと、傘で一撃を加えていく。
ドリームイーターも、反撃に星の光を飛ばして来るが……。
その衝撃を、沙葉が滑り込んで庇い受けていた。
「すまないな」
「この程度ならば、まだ平気さ」
レイヴンに応えた沙葉は、霊力を宿した紙兵をばらまいて、自身とともに前衛を回復防護していく。
「じゃあ、こいつで仕上げと行くか」
同時、信吾は描いた魔法陣から治癒の光を輝かせ、前衛を包んでいた。
その力は、沙葉の体力を治癒するとともに、仲間の防御力をも高めていく。
この間に、敵へはアーティラリィが接近していた。
「よし、行くぞレオン殿!」
「うむ。──ドリームイーターよ、竜王の不撓不屈の戦い、括目して見よ!」
応えるレオンハルトも、扇子をパチンと鳴らすと、地を蹴って肉迫。そのまま真正面から、オウガメタルを纏った拳を打ち当てる。
後退したドリームイーターへ、アーティラリィは如意棒を素早く突き出し、刺突。
剛烈な威力を伴った一撃で吹っ飛ばし、敵を転倒させていた。
●決着
ドリームイーターは、纏う光を弱めつつも……ゆらゆらと立ち上がっていた。
『……皆に、呪いを──』
言葉とともに、手元に光を集中させ、攻撃を狙ってくるが……。
「だめだよ。七夕の日に哀しい出来事は似合わないの」
と──メイが、敵に負けぬほどの眩い輝きを生み出している。
それは、思い出から形作られた、プロペラの模型飛行機。『廻る回転翼』──穏やかな風と共に飛翔するそれは……光の雨を降らせるように、ダメージを与えていく。
次いで、寂燕は刃を掲げ、疾駆していた。
「このまま、一気に畳み掛けるとするかねぇ」
「では、私も参りましょう。フレア、よろしくお願いしますね」
と、言葉を継ぐのは碧人。
すると、ボクスドラゴンのフレアがギャウ、と鳴いて、光弾を敵へぶつけていく。
碧人自身は『冬刃精の語り』を行使していた。
すると、氷の粒子とともに冬刃精“フロスト”が召喚され──氷の刃を振るいながら、突撃。衝撃とともに、敵の体の一部を凍結、粉砕していた。
「よし、ではゴロ太も行くのじゃ!」
レオンハルトも、爪撃を放ちながら言うと……オルトロスのゴロ太が鳴き声を上げて突進。勢いのままに、刃での斬撃を喰らわせていった。
後退するドリームイーターに……さらに、明るい光が訪れる。
アーティラリィが全身から放つ、太陽の如き熱き煌めきだ。
「幽霊であろうと、日輪の輝きにて浄化してくれようぞ!」
瞬間、拳とともにその熱量が叩き込まれる。
その力、『飛翔する英雄を堕とす裁きの太陽』が──ドリームイーターの全身を燃やすように、深いダメージを刻んでいく。
ドリームイーターも、光を雨のように放射してくるが……。
「悪いが、予想済みだ」
レイヴンが花のオーラを展開し、即座に回復している。
次いで、信吾も重ねるように、治癒の花嵐を吹かせると──皆の傷はほぼ完治していた。
敵も連撃を狙ってくるが──。
「もう、させないさ」
と、それよりも早く、沙葉が『氷点風花斬』を放っている。
その冷気を宿した一刀が、光を完全に断ち切ると……。
寂燕と信吾が、同時に攻め込む。
「この鬼の一哭きで、成仏するかい」
寂燕が縦一閃に苛烈な剣撃を放ち、ドリームイーターの半身を斬り裂くと──。
信吾はケルベロスチェインを、そこに飛ばす。
「星は、夜空を彩るもの。責任持って、還してやるからな」
ドリームイーターを縛る鎖は、そのまま締め上げるように、巻き付く半径を狭めていく。
そうして鎖が締まりきったとき──半透明の体が千々に裂かれるように……ドリームイーターは光の塵となって、消滅した。
「ひとときの逢瀬、夢のようだったよ」
最期には、信吾の優しい声だけが響いていた。
戦闘後。ケルベロス達は少年を介抱した。
少年は怪我もなく、無事だった。目を覚ますと事情を理解して、ケルベロスたちに礼を言っていた。
「気を付けて帰ってね」
メイの言葉にも、少年は頭を下げ、帰っていく。
そうして、街道が平和になると……皆は傷ついた部分を修復。
七夕の風情漂う景観を取り戻したあとで……改めて、それぞれに七夕を楽しむため、街道へと歩きだしたのだった。
●願い
レオンハルトとアーティラリィは、2人で七夕飾りと夜空を見上げていた。
ゆったりとした空気の中、星を背景に、無数の短冊が揺れている。
「七夕といえば願い事じゃな。アーティ殿は何かあるのかのう?」
レオンハルトが言うと、アーティラリィは、ふむと考える。
「そういうものは自分で成し遂げるものだと思うのでな。あまり考えてなかったのぅ……」
「それでも、何かしらはあるであろう?」
レオンハルトが続けると、アーティラリィは一応頷いた。
「願いというか、目標でいいなら、あるがのぅ」
「もちろん、それでも構わぬじゃろう。折角の七夕ということで、用意してきたのでな」
と、レオンハルトが取り出したのは短冊。
それをアーティラリィにも渡した。
ふぅむ、とアーティラリィは一瞬困った顔をするが、最終的には、受け取った。
「まあ、せっかくじゃし、書くとするかの」
神頼み的なものはしない、という性格のアーティラリィではあったが……たまには、ということで、短冊に書き始めていた。
アーティラリィは、ふとレオンハルトの方を見る。
すると、レオンハルトはサラサラと迷うこともなく何かを書いて、笹に結んでいた。
揺れる短冊を見てみると、そこには──『もっとモテモテになりますように!!』。
アーティラリィは呆れ顔になって首を振る。
「……やれやれ、レオン殿は歳より見た目寄りに若いのぅ」
すると、ゴロ太もレオンハルトの足元をがぶっと噛み始める。
「痛い痛い……や、じ、冗談じゃ」
レオンハルトは少々慌てたように、短冊を再び手にとって、何かを書き加えた。
アーティラリィが再びそれを確認すると……先頭に、『アーティ殿に』という一文が足されているのだった。
「これなら問題なかろ?」
レオンハルトは邪気もなく笑ってみせる。
アーティラリィは一瞬だけ反応しかねてから……すぐに苦笑していた。
「全く……そういうのは、心に決めた者に言うものじゃぞ?」
ただ、それ以上にレオンハルトを咎めることはなく……ゴロ太を撫でてやる。
ゴロ太は心地よさそうな鳴き声を零しつつ……2人と一緒に、七夕飾りを見ていた。
2人の短冊は、皆の願いと共に、風に揺れ……美しい七夕の光景を彩っている。
レオンハルトとアーティラリィは暫しそれを静かに眺め、夜の涼しい空気に身をませていた。
レイヴンは、藤守・つかさと落ち合っていた。
「ま、待たせた……」
七夕飾りの下、待っていたつかさに近づいたレイヴンは……少しどきっとして、止まった。
それはつかさが浴衣姿だったからだ。
黒の浴衣を見つつ、レイヴンは一瞬惑ってから、言葉を継ぐ。
「……よく、似合っている」
「うん? ああ、せっかくの七夕だしな?」
つかさは、走ってダイブしてきたミュゲを抱き上げつつ、穏やかに応える。
「なんなら、今度あんたの浴衣でも見に行くか?」
「……考えておこう」
レイヴンは言って……つかさと共に、道沿いを歩き、七夕の風景を楽しみ始めた。
つかさは歩みつつ、横に向く。
「にしても、意外だな……あんたはこういうの興味ないと思ってた」
「時と場合によるさ」
レイヴンはそんなふうに応え……短冊を取り出した。
「つかさ。良ければ一緒に短冊を書かないか?」
「いいよ。願いは……そうだな」
受け取ったつかさは、一瞬だけ考えてから、願いをしたためる。
そうしてそれを、枝に結びつけた。
そこに記された願いは、『大切な人がこの日に願う願いが叶いますように』。
「あんたは、何を願ったんだ?」
「ああ──」
つかさが聞くと、レイヴンは静かに応えるように、短冊を結び終えていた。
隣に揺れるその願いは、『三人の幸せな時間が長く続く様に』。
つかさの肩で、ミュゲがはしゃぐように動く。
「あぁ……短冊も星も綺麗だな?」
それに応えたつかさは、レイヴンと2人で笑い合い……改めて、空を仰ぐ。
短冊が揺れ、星が光る。
初夏の夜は、恋人達を祝福するように……いつまでも、その美しい風景を上空に広げていた。
夜空にそよぐ短冊を、メイもまた、見上げていた。
そして自身も、白紙の短冊を取り出している。
「幽子さんも一緒に短冊を書きませんか?」
それから、同行していた巫山・幽子に話しかけた。
幽子はこくりと頷いた。
「はい……ご一緒させてもらえるなら」
「よかったの。じゃあ、はいこれ」
メイは幽子に短冊を渡す。そうして、自分もペンを走らせていた。
「私の願い事はこれなの」
惑ったりせずに完成させたそれには、『諦めずに、たくさん頑張れますように』と書かれている。
「学校の勉強も、ケルベロスのお仕事も、他にもいっぱい。頑張ると決めた事は、投げ出さずに精一杯やりたいの」
それに、と、前向きに微笑んで見せる。
「もし努力が実らなくても、頑張った事はきっと力になるもんね」
「素敵な……願い事ですね」
幽子が言うと、えへ、と笑んでメイは言葉を返す。
「幽子さんは何をお願いしたのかな」
「……私は、『もっと皆さんのお力になれますように』、と」
言って短冊を見せていた。
「並んで飾りたいな。背、届くかな」
メイは言いながら、幽子と隣同士の場所に短冊をくくる。
それから、少し目を閉じて、祈った。自分たちだけではなく、皆の願いも叶いますように……と。
「多くの願いが、ここに託されているのだな」
と、周囲の短冊も含め、眺めているのは沙葉だ。
沙葉も、短冊を手に、少し逡巡してから筆を執る。
「いい機会だ、ひとつ、書いてみるか」
そう言って書き上げたのは、2枚の短冊。
1枚には、『故郷の皆の魂が安らかでありますように』と、静々とした字で書かれている。
そこに込めたのは、デウスエクスに滅ぼされた故郷の人々への思い。
(「私はまだそちらには行けないが……見守っていてくれ」)
星空を見て、沙葉は微かに目を瞑る。
それから目を開き、もう1枚も、笹に結んだ。
そちらに書かれた願いは──『大事な者達がいつまでも笑顔でありますように』。
過去にも未来にも目を向けながら……沙葉は2つの願いを笹に躍らせる。
そうして少し、物思うように、短冊と夜空を眺めているのだった。
「皆さん、短冊を書かれているのですね。私も、せっかくですし何か書きましょうか」
皆の近くでは、碧人もそう言って、短冊の準備をしていた。
すると、フレアが翼をぱたつかせ、興味深げに見ている。
碧人は撫でてやりながら、語りかけた。
「フレアは何をお願いします?」
「ギャウッ」
フレアは、元気に鳴いて、碧人に擦り寄るようにする。
碧人は微笑んで、それを抱きとめていた。
「――そっか、お腹いっぱいご飯が食べたいか。よしよし、美味しいご飯を作ってあげますからね」
そしてそう言って、短冊はポケットにしまう。
したためた願いは、『今年も無事にフレアと一緒に過ごせること』。
そんな想いを見守るように……葉は優しくさわさわと、風に音を鳴らしながら、碧人たちを見下ろしているようだった。
「じゃ、俺もひとつ飾るか」
と、その横では、信吾も短冊を書き始めていた。
文字は力強い達筆。真っ直ぐな筆致で書かれたそれは……『百折不撓』。
そして『雲外蒼天』──どちらも、前向きな勇壮さの篭った言葉だ。
「ま、願い事というよりは座右の銘かな。でも、笹飾りの賑やかしにはなるだろ」
「うん、とってもいいと思うの」
と、それを見たメイも言う。
メイは、自分の短冊を付けたあとで……折り紙で作った、織姫と彦星の飾りも取り出していた。
「作ってきたの。これも、一緒に飾り付けるね。2人仲良く、並べて……やっぱり、こんなふうに一緒が良いよね」
言葉とともに、飾り付けられた織姫と彦星は……仲睦まじげに、並んで位置している。
時折風に揺られて翻ると、まるで2人で星空を眺めてでもいるかのように見えた。
「天の川、とはよく言ったものだよねぇ」
寂燕は、煙管をひとふかししながら、見上げる。
空には雄大な光の帯が流れ、文字通り、天を通る川のようだ。
「織姫と彦星──年に一度、星々の氾濫も無く無事に逢えるといいねぇ」
穏やかな笑みとともに、そんな言葉を零す。
皆も、それには頷いて、夜空を仰いでいた。
七夕の夜──煌めきに満ちた夜空はいつまでも美しく、輝きを湛えている。
皆はそんな中、今暫く……それぞれの願いと思いを胸に、初夏の時間を過ごすのだった。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年7月7日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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