硝子の剣士

作者:崎田航輝

 ひとけのない廃墟を、1人の少年が探索していた。
 広く瓦礫が散らばった一帯だが……目指すのはそんな中、洋館だったらしき建物跡である。
「ここに本当に出る、のかな……“硝子の剣士”が」
 朽ちた内装を眺めつつ、少年は好奇心をあらわにしていた。
 それはある怪異談を聞いてのこと。
「とても綺麗な、硝子の西洋甲冑……むかし、戦の多い時代に英雄の体に合わせて作られたけど、飾り物だから使われなかった。それで、後世に残って貴族の人の洋館に飾られることになった、だっけ……」
 だがその洋館も廃墟になり……残った硝子甲冑は幽霊騎士と化して、戦いを求めて彷徨っている――というのが噂の骨子だ。
 そんなことを反芻しながら、少年は洋館跡を見て回る。
「出会うと、襲われちゃうって話だけど。でも見るだけなら……」
 剣士というかっこいい響きに何となく惹かれやってきた、その心持ちのままに、少年はその面影を探した。
 無論、そこに幽霊騎士は現れなかったが……。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 ふと、少年の背後に影が現れた。
 手に持った鍵で、少年の心臓をひと突きする――第五の魔女・アウゲイアスである。
 少年は意識を失い、床に倒れ込んだ。
 すると奪われた『興味』から――甲冑のような影が出現する。
 その色合いは、鉄色でも青銅色でも無く……透き通った透明。
 硝子の剣士……その名のままに、抜いた剣すら透明で、それを一振りすると、硝子の破片のような煌めきを周囲に生んでいた。
 剣士はそのまま、洋館を出て行く。その足取りは何かを求めているかのようだった。

「作られたまま、ずっと放置されてしまう……本当だとしたら、どのような気持ちなのでしょうね」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は少し静まったような声で言っていた。
 それから、集まったケルベロス達を見回す。
「今回は、ドリームイーターの出現が予知されたことを伝えさせて頂きます。第五の魔女・アウゲイアスによる、人の『興味』を奪うタイプのもののようで――廃墟にて、少年の興味から生まれるようです」
 放置しておけば、ドリームイーターは人間を襲ってしまうことだろう。
 それを未然に防ぎ、少年を助けることが必要だ。
「皆さんには、このドリームイーターの撃破をお願い致します」

 それでは詳細の説明を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、西洋甲冑の姿をしたドリームイーターが、1体。場所は廃墟の洋館跡です」
 現場の辺りに人の姿はない。
 周囲は瓦礫で荒れており、内装も朽ちた古い廃墟だと言った。
「洋館で誘き寄せるための行動を取れば、ドリームイーターは現れてくれるはずです」
 誘き寄せには硝子の剣士の噂話をするといい。
 また、戦いを求めて彷徨っているという性質もあるために、その辺りを刺激する言動を取っても現れやすくなるだろうといった。
「ドリームイーターを倒せば、少年も目を覚ますことが出来るので心配はないでしょう」
 敵の能力は、斬撃による近単ジグザグ攻撃、薙ぎ払いによる遠列武器封じ攻撃、硝子の煌めきによる遠列氷攻撃の3つ。
「是非、撃破を成功させて来てくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)
相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)
クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)
ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)
夜刀神・罪剱(熾天の葬送者・e02878)
紅狼・蓮牙(紅茶の人・e04431)
沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)
エルム・ユークリッド(夜に融ける炎・e14095)

■リプレイ

●策戦
 ケルベロス達は、廃墟の中を、現場へと進んでいた。
 写譜麗春・在宅聖生救世主(誰が為に麗春の花は歌を唄う・e00309)は、時折羽ばたいて瓦礫を避けつつ、口を開く。
「それにしても、パッチワークも全然尻尾つかめないねー」
「ああ。――興味を奪う魔女、アウゲイアス、か」
 それに、ヴァジュラ・ヴリトラハン(戦獄龍・e01638)も頷きながら、呟いた。
「俺としてはそのモザイクが晴れるとどうなるかにも、興味が有るのだが……それより今は硝子の剣士とやらだな」
「そうだな。丁度、着いたみてえだしな」
 と、見上げるのは相馬・泰地(マッスル拳士・e00550)。
 視線の先には、かつては栄華を誇っていたであろう大きさを持つ、朽ちた洋館があった。
 皆は一度頷き合い、そこへ潜入する。
「廃墟の洋館跡、って言葉らしい雰囲気を感じるね……」
 エルム・ユークリッド(夜に融ける炎・e14095)は、言いながら興味深げだ。
 ウイングキャットのロウジーを小脇に抱えつつ、くすんだ絨毯や砕けた壁を見回していた。
「とても探検したくなる……ような気がしないでもない……けれど。まずは仕事をしないとね」
 と、歩いた先に……横たわる少年の姿があった。
 皆は、すぐに少年を保護。
 安全な場所へ移した上で――自分達は、比較的動きやすいホールのような場所へ移動した。
「では、始めるか。話をすれば出てくるのだろう」
 壁を背に口を開いたのは、クローチェ・ドール(愛迷スコルピオーネ・e01590)。
 涼しい顔で、淡々と告げるのは――敵を誘き出す、作戦の事だ。
 夜刀神・罪剱(熾天の葬送者・e02878)がそれに頷き、静かに口火を切っていた。
「硝子の剣士、か……戦いを求めてるって噂だったな」
「貴族が用意した、西洋の甲冑、でしたか」
 と、楚々とした声を継ぐのは沙更・瀬乃亜(炯苑・e05247)だ。
「目的があるのに使われなければ、そういう思念もうまれるのでしょうね」
「そうだね……飾り物だとしても、甲冑は戦のためのもの。戦いを求めて彷徨うのも、当然のことなんだろう」
 エルムも、周囲に注意を払いつつ、言葉を続ける。
 瀬乃亜はこくりと頷いて見せた。
「ですから、私たちが手合わせをすることによって、古い夢を夢に返してあげないといけませんね」
「ああ。俺としても、その剣士としての振るまいがどうなのか、興味深い」
 と、半ば本音を交えて言うのはヴァジュラだ。
「脆い硝子細工でどんな戦い方をして見せるのか――決して弱くも無いだろう。興味が尽きん。昂ぶると言ってもいい」
 すると、どこか遠くから、硝子を踏み砕くような音が聞こえる。
 罪剱はそれに気付きながらも、言葉を続けた。
「そうだな。正々堂々だの騎士道精神だの欠片も持ち合わせちゃいない、俺のような暗殺者でも良ければ、戦ってやるから――出てきて欲しいものだな」
 それに反応するように……また、彼方から硬質な足音が響く。
「強者出てこーい! オレはテメエをぶっ倒しに来たんだぞー!」
 泰地も、じれったそうに叫ぶと――。
 がしゃり、と、音は確実にホールに近づいた。
 クローチェはナイフを持ちながらも、話を繋ぐ。
「硝子というからには、どこまでの透明度なのだろうね。水のように透明なのだとしたら、美しいかと思うが」
「正直に言えば、飾りとしても強度が心配ですし、手入れにも細心の注意が必要になりそうですがね……」
 と、感想を述べるのは紅狼・蓮牙(紅茶の人・e04431)。
 執事としてであろうか、そこは実に現実的な評価でもあった。
「とはいえ――あれが相応に脆いものには見えませんが」
 そこで、蓮牙は前方に視線をやる。
 同時に、かちゃりと、ホールに姿を現した者があった。
 透き通った体を持つ、硝子の西洋甲冑――ドリームイーター。
 蓮牙は細めていた目を開き、半獣人の姿へと変身していた。
「さて、始めましょうか」

●剣戟
 硝子の剣士は――兜から脚装まで、全てが艶のある透明で出来ていた。
 崩れた天井から差す光を反射し、煌めきを内包しているようでもある。
「硝子の剣士、ですね。では、手合わせをおねがいしましょう――」
 瀬乃亜は剣士に対し、まずは敬意を示すように一礼。それからテレビウムの赤薔薇と共に、立ち位置についていた。
 剣士もまた、それを合図にしたかのように、剣を構える。
 そして一瞬の間のあと……一気に踏み込んできた。
「綺麗だねー。まぁ、やっぱり実戦向きっぽくないけど」
 と、その剣士の横合いから声。
 風を掃き、弧を描くように飛翔していた在宅聖生救世主だ。そのまま、横回転するように体を翻し――。
「というわけで早速、粉々に砕いてやるんだよー! 破片に注意ー!」
 同時、横薙ぎのような蹴撃を喰らわせた。
 剣士が横方向に煽られると……そこへ疾駆するのは、泰地。
 その格好は半裸に裸足という、いつもの格闘家スタイル。散乱する硝子の破片を気にする風でもなく、むしろ、蹴散らすほどの勢いで駆けると――。
「まずは、じっとしててもらうぜ!」
 正面から、『足止め蹴り』。
 豪速の払い蹴りにも似たその技は、剣士の脚部に直撃し……微かに関節部から破片を散らせた。
 数歩下がる剣士だが……体勢を直すと素早く走り込み、薙ぎ払いを放った。
 それはこちらの前衛を広く斬る技。一気に複数人が、体に裂傷を刻まれたが……。
 それを正面から受けたヴァジュラは、笑んでいた。
「やはり、ただ美しいだけではないか……面白い」
 敵は全て愛おしく、それが強ければ尚、昂ぶる。
 だからこそ、鋭く刻まれた傷に、ヴァジュラは楽しさすら覚えていた。
「ならば、此方も只管打ん殴ってやる。それこそ、粉々になる迄な――!」
 同時、ヴァジュラの拳は剣士の胸部を痛打。甲冑を軋ませながら、壁にまで吹っ飛ばした。
 その直後には、瀬乃亜がグラビティを集中。
 薔薇にも似た赤いドローンを散開させ……前衛を治癒すると共にその防御力をも高めていった。
「攻撃は、おねがいしますね」
「分かったよ」
 と、応えるのはエルム。
 直後に『にゃあ』と声が聞こえるが――それはエルムではなく、ロウジーの発したものだ。
 瞬間、その不可思議な響き――『黒白猫の一声』によって、エルムの姿がかき消える。
 直後、剣士の至近で姿を現したエルムは……そのまま足元から斬り上げるような斬撃を浴びせ、たたらを踏ませた。
 剣士も反撃を試みようとするが……。
「おや、まだまだ、足元がお留守ですよ?」
 そこに高速で迫る影。
 銃撃の反動を利用するように距離を詰めている、蓮牙だ。
 そのまま、右左に移動して近接の間合いを取ると、剣を振られるよりも早く、脚部に苛烈な蹴りを打ち込んだ。
 ふらついた剣士を――クローチェが乱暴に蹴り上げ、壁に打ち当てる。
「Va bene.やはり美しいな、砕ける様が」
 甲冑から僅かに落ちる欠片を見て、あくまで静かな表情で呟くと――。
 そのまま、手で弄んでいたナイフを振り、『金剛石の処女』で無数の傷を刻んでいく。
 次いで罪剱が、剣士が床についたところを足払いし、横倒しにした。
「俺は剣士でも騎士でも無いからな、戦法が卑怯と謗るなよ」
 そのまま、跳躍すると、剣士の足に狙いを定める。
「壊すには勿体無いが……悪く思わないでくれ」
 その声色は、冷静沈着なままに――強烈な蹴り下ろし。
 硬質な音と共に……剣士の片脚の一部を砕ききった。

●相撃
 剣士は、素早く立ち上がっている。
 が、片脚の下部が欠けて空虚になっており――その動きは確かに鈍っていた。
「連撃が効いたみてえだな。だが、まだ終わりじゃないぜ!」
 と、泰地は床を蹴ってひと息に接近する。
 鍛え抜かれた肉体から、轟風のような体の回転を生み……刃物のような蹴り。
 剣士はとっさに剣で防御をするが――泰地は構わず、剣ごと力で吹っ飛ばした。
 空中で、剣士は体勢を直そうとするが……。
「遅いよー! 空ならこっちのもの!」
 そのさらに上方から、在宅聖生救世主が飛来してきていた。
 在宅聖生救世主はそのまま、きりもみのような軌道を取って、剣士の後背から大鎌の斬撃を見舞う。
 床に落ちた剣士が、反撃に跳び上がってくると……今度は、飛行を止めて自由落下で回避し、エアライドで華麗な着地を決めていた。
 落ちてくる剣士を狙うのは罪剱だ。
「砕くのもいいが、硝子なら、きっとこいつも効くことだろう」
 と、脚に宿すのは煌々とした炎の力。
 その目つきは、倦怠感を纏うように、どこか捉え所がない――だが、繰り出される攻撃は、確かに熾烈。
 蹴り上げると共に業火で剣士を包み、硝子を僅かに溶解させていた。
 轟と燃える火の中……しかし剣士も倒れない。
 剣を振ると、硝子の棘のようなものを生んで……斬撃の雨と共に前衛に降らせてきた。
「これは――」
 ヴァジュラはそれに微かに目を見開く……と。
「すこしお待ちください。今すぐに、回復をしますから――」
 そこへ、硝子の煌めきに勝るような光が生まれる。
 瀬乃亜が展開した、オウガ粒子の銀色だ。それらが周囲を取り巻くと、仲間に刺さった硝子棘が消滅するように、治癒をもたらしていく。
「赤薔薇も、お願いしますね」
 さらに、声に呼応して赤薔薇も画面を発光させ、蓮牙を治療。
「……じゃあ、ロウジーも頼むよ」
 次いで、エルムが言うと、ロウジーはにゃご、と鳴いて翼から光を発散し――前衛の体力を持ち直させていた。
「これでほとんど万全かな……」
「ああ、ありがとう」
 と、エルムに応えながらも、既に剣士の眼前に迫る影がある。
 猛然と拳を振り上げる、ヴァジュラだ。先の攻撃には無論、怯んだわけでもなく――逆に、その剣術に感嘆していたのだ。
 最高の戦いのために生きる身ならば、敵の攻撃は即ち、糧のひとつ。
 それを存分に味わったヴァジュラは、お返しとばかり攻勢に移っていた。
「受けろ、我が拳」
 瞬間、繰り出した豪腕が、硬質な音を上げて剣士の胸に突き刺さる。
 それが甲冑前面にひびを生むと――エルムがそこへ、炎を湛えた矢を打ち込み、胸を破砕した。
 次いで接近するのは蓮牙。
「脚、胸――。次は、腕はいかがでしょうか」
 再び、銃撃の勢いを交えつつ、高速の移動で剣士の背後を取る。
 弾薬を仕込んだ尻尾で銃をひと撫でして、リロードをしながらも……銃撃を続け加速。
「――砕けなさい」
 瞬間、鉄式銃闘技から繰り出される、その回し蹴りで……剣士の片腕の一部を粉砕した。
「おや、まだ残っているようだな」
 と、その片腕が破壊しきっていないのを見て、クローチェが口を開く。
 次には、床の硝子片を蹴り散らして、ほんの一瞬だけ剣士に隙を作った。
 そこにナイフを振り上げたクローチェは……しなやかに、且つ暴力的にそれを振り下ろし……剣士の片腕を完全に粉々にした。
「これで綺麗になったな」
 ついでに、足癖悪く剣士を蹴り飛ばし――壁に激突させ、膝をつかせていた。

●決着
 剣士は体の多くを失っており、立ち上がる様もぎこちない。
 だが、それでも退く様子は見せず……剣を振り上げて駆け込んできた。
 ヴァジュラはそれを、鉄塊剣・暴風龍ルドラで受け、数回打ち合う。
「硝子の剣舞、力もさることながら確かに美しかった。こちらの返せる物が無骨極まりない鉄塊の一撃だと言うのが残念だがな――」
 と、言葉と同時、『暴風龍焔鎧嵐武』。
 地獄の炎を伴う斬撃で、剣士の兜を両断した。
 首無しとなりながらも、敵は剣を振るってくるが……そこへ泰地が踏み込んでいる。
「よし、連撃でいくぜ!」
「分かったよー。天言は届く、太陽と月が照らす領域の全てまでに――」
 応えながら巨大な光の十字架を形成するのは、在宅聖生救世主だ。
 その力こそ、『ガルド流拠点防衛術・普く識らす天言』。
 追尾するように放たれた十字架が、剣士を包み――光を拡散。全身から破片を散らせる程の衝撃をもたらす。
 同時、泰地は零距離に迫り、外回し蹴り。
 さらに逆回転しての後ろ回し蹴りに、跳んでの踵落とし。熾烈な蹴りの応酬で、剣士の全身を刻んでいった。
 剣士はふらつきながらも、剣撃を放つが――。
 それを、蓮牙が銃床で弾き返す。
「そろそろ、ご就寝のお時間ですよ」
 そのまま腕の動きを蹴りで止め、『CQCインフェルノ』。弾倉ごと銃弾を撃ち込んで、剣士を仰向けに転倒させた。
 さらにそこへ、エルムと瀬乃亜が接近する。
「……このまま、追い込んでいこうか」
「わかりました。赤薔薇も、いきますよ」
 瀬乃亜が応えると、赤薔薇は、赤い薔薇の飾りが付いたバールで剣士を殴打。同時、エルムから飛び立ったロウジーも、引っかき攻撃でダメージを重ねていくと――。
 その後ろから、エルムが炎をたなびかせて、剣士の体を蹴り上げる。
 次いで、瀬乃亜もふわりと浮き上がり、打ち落とすような蹴りを喰らわせていた。
「Addio.せめて美しく砕けてくれ給え」
 と、クローチェはナイフを走らせ――胸部をも散り散りにしていく。
 崩れ落ちていく剣士に罪剱は呟く。
「……まあ、安らかに眠ると良いさ」
 そのまま、罪剱は『零刻弔』。緋々色金の瞳を、淡く緋色に発光させ……短時間、剣士の動きを止める。
「――貴方の葬送に花は無く、貴方の墓石に名は不要」
 静かな声と共に、そこへ刃を一閃。剣士を切り裂き、千々に散らせた。

 戦闘後、皆は少年の元に戻り、介抱していた。
「具合は大丈夫か?」
 目を覚ました少年に泰地が尋ねると……少年はうん、と頷く。
 それから、事情を聞いてケルベロス達に礼を言っていた。
 蓮牙はどこから取り出したか、入れたての紅茶を少年に渡す。
「ひと心地つきましたら、お帰りください。好奇心を咎めるつもりはございませんが、あまりご家族に心配をかけませぬように」
 少年は、それを受け取りつつ……ごめんなさい、とも謝っていた。
「――さて、無事に済んだな」
 少年が帰っていくのを見送り、ヴァジュラが見回す。
 辺りは一層、硝子が散乱している。
 エルムはその中の、暗がりになっているところを、ランプ片手に探検し……硝子の欠片が煌めく通路を通って、一回りしてきていた。
「……結構雰囲気はあったよ」
「そうだねー。でも入り込んでくる子もいるかもしれないし、一応掃除しておこうか?」
 と、在宅聖生救世主の言葉を機に、皆はそれぞれ、硝子を片付けていった。
「それじゃ一曲、いっくよー!」
 さらに、在宅聖生救世主が高らかに歌声を上げることで、洋館と周辺がヒールされていく。
「あの甲冑に与えられたものが、少しでもはたせたのならば、よかったのかもしれませんね」
 廃墟と残骸が直っていくのを見て、瀬乃亜は少し思いを馳せていた。
 そうして、平和で静かな洋館となったそこから――ケルベロス達も、帰還していった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年6月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 5/感動した 0/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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