なだらかな丘に、一面に広がる金色があった。
初夏に咲き始める黄金の花……マリーゴールドだ。きらきらと光る絨毯が敷かれたような一帯は、どこか幻想的な光景でもある。
そこに、1人の少女が歩いてきていた。
「本当にいるのかな……でも、本当なら見てみたいな」
小さく言いながら、金色の花を一輪一輪、見て回る。
それはとある噂を聞いてのことだった。
「とっても綺麗なマリーゴールド。……その中に、花よりも綺麗な妖精さんがいる――だよね」
確認するように、少女は独りごちて、花弁を観察していく。
その妖精はとても美しいらしい。同時に、見た目に反して気性は荒いらしく、非常に攻撃的。見れば人を襲ってくるのだとか。
「だからこそ見るのが難しいらしいけど……でも、見るだけなら大丈夫だよね」
そうやって、花々を見回すが――。
そこに現れたのは……妖精ではなく1人の魔女。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
少女の背後に立ち、手に持った鍵で、その心臓をひと突きする――第五の魔女・アウゲイアスだ。
少女は意識を失い、花の間に倒れ込んだ。
すると奪われた『興味』から――羽をひらひらと羽ばたかせるものが出現する。
花弁のような金色の美しい妖精。しかし、どことなく不機嫌に歪んだその顔は……攻撃する相手を探しているかのようでもあった。
妖精は、飛んでいき……そのままどこかへ消えた。
「お集まり頂き、ありがとうございます」
セリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は、ケルベロス達を見回していた。
「今回は、ドリームイーターの出現が予知されたことを伝えさせて頂きます。第五の魔女・アウゲイアスによる、人の『興味』を奪うタイプのもののようで――花畑のある丘にて、少女の興味から生まれるようです」
放置しておけば、ドリームイーターは人間を襲ってしまうことだろう。
それを未然に防ぎ、少女を助けることが必要だ。
「皆さんには、このドリームイーターの撃破をお願い致します」
それでは詳細の説明を、とセリカは続ける。
「敵は、妖精の姿をしたドリームイーターが、1体。場所は丘にある花の咲く一帯です」
現場は、美しいマリーゴールドが沢山咲いている場所だという。
丘ではあるが、勾配が激しかったりすることはなく、戦闘には難儀することはないだろうと言うことだ。
「現場の花畑付近で少々の噂話をすれば、ドリームイーターは現れてくれるはずです」
一度敵が出現すれば、相手の望み通り戦うだけだ。
「ドリームイーターを倒せば、少女も目を覚ますことが出来るので心配はないでしょう」
敵の能力は、花を棘にして飛ばす遠単麻痺攻撃、花嵐による遠単催眠攻撃、キュア効果の自己回復の3つだといった。
「そういえば、マリーゴールドの花言葉は哀しい雰囲気の物が多いみたいですね」
曰く、嫉妬であるとか、絶望であるとか、そんな言葉だ。
だが、同時に、品種によっては健康であったり予言であったりと、明るい受け止め方を出来る言葉もあるという話だ。
「悲しいものも、花言葉としてはいいかも知れませんが、未来の事を考えられる花言葉も、希望が感じられていいですよね」
幻想的に輝く花畑を見ながら、そういったことを考える時間も、時にはいいかも知れませんね、とセリカは言った。
「それでは、少女と花畑を守れるように……皆さんの健闘をお祈りしています」
セリカはそう言葉を結んだ。
参加者 | |
---|---|
鵺咬・シズク(黒鵺・e00464) |
エピ・バラード(安全第一・e01793) |
リーズレット・ヴィッセンシャフト(アルペジオは甘く響いて・e02234) |
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458) |
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092) |
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652) |
テトラ・カルテット(碧い渡り鳥・e17772) |
モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843) |
●策戦
丘を訪れたケルベロス達は、金色の花畑を目の前にしていた。
「わ、わ、一面マリーゴールド! 黄金色でいっぱいです!」
周囲を見渡すのはエピ・バラード(安全第一・e01793)。何処を見ても金色で、まるで幻想のような光景だ。
「とてもいい風景ですね!」
「うんうん、そうだねっ」
応えるテトラ・カルテット(碧い渡り鳥・e17772)も、その中で楽しげな表情だ。
「初夏の快晴に綺麗な花畑! 今日のあたしはゴキゲンだね!」
言いながら、舞い踊るようにする。空と揺れる髪の青、そして花の金が美しいコントラストを作っているようでもあった。
「成る程ね。これは確かに中々――っと。みんな、あっちを」
と、眺めつつも、少し離れたところを指し示すのは鵺咬・シズク(黒鵺・e00464)。
そこに……花の間に横たわっている影があった。
今回の被害者とも言える、興味を奪われた少女だ。
エフイー・ゼノ(希望と絶望を司る機人・e08092)は、少女の衣服についていた土埃を少し払ってあげると、呟く。
「少女の儚い興味すらも糧にする、か。相変わらず、厄介極まりない存在だ」
「うん。この子も、お花畑も守る為に、しっかり討伐だ!」
ぎゅっと自分の手を握ってみせるのはリーズレット・ヴィッセンシャフト(アルペジオは甘く響いて・e02234)。
その仕草に、リーズレットの頭の上のボクスドラゴン、響も、同意するように柔らかな青羽をぱたつかせていた。
皆は、少女を安全と思われる位置に移すと――そこから距離を取った場所を陣とした。
「じゃ、黄金畑をあたしたちで貸し切りってことで!」
仕上げとして、テトラが殺界を形成して態勢を整えると……。
「では早速、始めましょうか」
モニカ・カーソン(木漏れ日に佇む天使・e17843)の言葉を機に……皆は、作戦を始める。
それは花の妖精に関する、噂話だ。
「花より綺麗な妖精が出る……ッつう話だッたな」
クラム・クロウチ(幻想は響かない・e03458)がまず口を開く。
するとエピもこくりと頷いた。
「お花の妖精さんなんて、何だかおとぎ話みたいですね!」
「それはいいけども。妖精さんが何で人を襲うんだろうねぇ?」
テトラは、指を顎に当ててうーんと考える素振りだ。
「もしあたしだったら、あたし以外の美少女はいらぬー! って感じで、美女美少女を襲っちゃうかな?」
「どういう意思を持っているのかは分からないが。危険な存在には違いないんだろう」
緋色・結衣(運命に背きし虚無の牙・e12652)が言うと、そうだな、とクラムは頷いた。
「まァ……妖精ッつーと小柄とか可愛らしいとかのイメージではあるが、元々伝承次第じャ魔物や妖怪、果ては巨人や天使なんかとも似たような存在だしな。……どうせなら、善良で大人しく無害な存在であッて欲しかッたが」
「妖精といっても千差万別ということだな」
シズクも応えるように言った。
すると微かに、花の群が、風に揺れる。ただの微風と言うよりは、何かの気配が訪れているようでもあった。
皆で視線を交わしつつ……シズクは話を続ける。
「大きさも色々だと思うが……今回の妖精は、花に隠れるくらいだからやっぱり小さいのか……?」
「こんなに綺麗な花の丘に出る妖精だからなー! きっと見た目も大きさも、可愛らしいに違いないと思うぞ!」
リーズレットも、周囲に一応目を配りつつ、期待を滲ませるような声で言う。
臨戦態勢を取りながら、クラムも言葉を途切れさせず続けた。
「――何にせよ、噂が気になッておちおち花も観賞できやしねェな」
「いっそのこと、呼んだら出てきてくれるかもしれませんよ? よーせーさんよーせーさーん!」
エピは手でメガホンを作り呼びかける。と――。
花の間から何かが煌めいたかと思うと……それがばさっと飛び出した。
「現れましたね」
モニカの視線の先。
そこに子犬程度の大きさのドリームイーター――金色の妖精が出現していた。
「さて。ドリームイーターもいい加減に元を断ちたいところだが――」
と、結衣は、炎を纏う剣を抜き、目を細めている。
「――先ずはその前に、目先の敵を駆除させて貰うとしようか」
●開戦
薄羽を羽ばたかせて、妖精はこちらを見回していた。
テトラはそれを見て、ほーと感心した声を零す。
「あれが金色の妖精! うぅむ、納得の気品……あたしの旅のお供にならない?」
と、ちょっと手をのばしてみるが……妖精はテトラを含め皆を観察し、言うだけだった。
『人は、キライ……』
「きゃん、まさかの拒否! というか予想通りの拒否! 気むずかしそうな妖精さんだねこれは!」
テトラが両頬に手をあてていると――妖精はこちらへ向けて接近を始める。
「ま、戦おうってんならやるだけさ」
そこへ、シズクが既に、螺旋の力を集中していた。
「こっちの力を見せてやるよ。一気に攻撃、行くぞ!」
そのまま氷結の力にして、それを撃ち出した。
氷の渦が妖精に命中すると同時……エピもそこへ迫っている。
「了解です! チャンネルも頼みますよ!」
言って、零下に冷やしたオウガメタルの拳で一撃、熱を奪うと――テレビウムのチャンネルも疾駆し、凶器で殴打を加えていた。
妖精は衝撃に煽られ、宙へ後退。
そこへ、エフイーが間合いを詰めるように踏み込んでいる。
「リーズレット、私が先に切り込む。隙が出来たら遠慮なく叩き込んでくれ」
「分かった! 言うとおりにやってみるぞ!」
リーズレットが応えるのに、頷きをひとつ返すと――エフイーは一気に肉迫。
射突槍・スティールピアサーにフォトンエネルギーを集中し、赤いエネルギーを纏わせた。
避けようとする妖精に追い縋り、放つのは『紅光の転輪剣』。凄まじい刺突で、一点集中のダメージを与えた。
そこへリーズレットが、機械鎌・Deathscythe Hellを投擲。狙い違わぬ斬撃で、妖精の守りを砕いていく。
「いいぞ、よくやってくれた」
「ゼノさんのおかげだよ!」
エフイーに応えつつ、リーズレットは鎌をキャッチしていた。
『人なんか、殺してやる……!』
妖精は、反撃にと魔法のような力を行使。花を棘にして、リーズレットへ飛ばしてきた――が。
「やはーっ☆」
そこへ、テトラが猫のように跳躍。攻撃をその身で庇い受けた。
テトラはそのままくるりと一回転し、着地。
「あたしがいるから大丈夫!」
と、笑顔のままに、グラビティを集中。碧の木の葉を舞わせて、自己回復すると共に、グラビティの力をも高めていった。
それでも、完全な回復には至らないが――周囲に、発光する魔法陣が展開される。
「私も、支援させていただきますね」
言葉と共にケルベロスチェインを繰る、モニカの癒しの力だ。
魔法陣から溢れた碧色の光は、魔法盾となるように、前衛に収束。テトラの体力を持ち直させつつ、前列の仲間を防護していく。
妖精へは、結衣が接近。
その剣に刃を重ね、激しい炎を迸らせていた。
「殺すなどという言葉を滅多に使えば、自分に返ってくることになるぞ」
同時、結衣が双剣で斬り上げると、生まれた火柱が妖精を上空へ飛ばす。
自らも、そこへ高く跳んだ結衣は――炎を増大させた刃で、苛烈な振り下ろしを喰らわせた。
衝撃に落下する妖精、だが……すぐに体勢を直し、地面すれすれで留まっている。
「早々に倒れる程やわではないか」
「みてェだな」
と、応えるクラムは、しっかと敵に砲撃形態の大鎚を向けている。
「ま、だとしてもやることは同じさ」
同時、連続砲撃。
こちらへ迫ってくる妖精に、一切近づけさせぬとばかり、全弾命中させ――だめ押しの一射で、大きく吹っ飛ばしていった。
●応酬
妖精は何とか宙で止まる。が、その動きは僅かに振り始めていた。
シズクは刀を抜き、突きつける。
「その程度か? それが全力なら、大したことないな」
言葉は挑発的。
すると妖精も、眉根を寄せるように不機嫌な声を出した。
『負けない……。人間なんかに……』
「うーん、本当に気性が荒いね? 何に怒ってるのかな?」
テトラはちょっと不思議そうに言う。
結衣がグラビティの力を手元に集めつつも口を開いた。
「噂で決まってないのなら、知ることは出来ないかもな。結局は、興味から生まれただけの怪物だ」
声音は一切の躊躇も同情もない、ドライなもの。
結衣はそのまま剣を握り直すと――踏み込んで、炎の刃で袈裟に斬撃を与える。
「つまりは、ただ倒すべき敵、ということだな」
「ま、とにかく攻撃、ってのは同意だね」
次いで、そこへシズクが疾駆している。
掲げるのは二刀流の刀。距離を詰めると同時――それを神速で振り下ろし、妖精の体に深い傷を刻んでいった。
妖精は僅かに悲鳴を上げて後退すると――手元を光らせる。
それを花畑に飛ばすと、花が巻き上がって花嵐となり、シズクに襲いかかった。
だが――そこで、リーズレットの頭から響が飛び立ち、滑空。ダメージを受け止める。
「響! よくやったぞー!」
言葉に応えるように戻ってくる響も、かなり傷ついていたが……。
すぐに、一帯に大きな治癒の力が発生した。
「今治療させていただきますので、少しお待ちくださいね」
と、モニカが生み出した、大樹の幻影によるものだ。
「――大樹よ、そのお力でこの者たちを癒したまえ」
その力こそ『大樹の癒し』。現れたそれは、どこか心地の良い涼しさと共に、柔らかで淡い光を注ぎ……響の裂傷を治癒していく。
「あっ、あたしも回復支援します! ちょっとじっとしててくださいね!」
エピも、再生能力を増進させる黄金の弾丸を用意し、右手の機械部位に装填。
響に対して零距離で撃ち込むことで、治療を進めていった。
「これで体力は心配なさそうですね!」
「催眠はまだ残ってるみてェだな。……クエレ」
そこで、響の様子を観察したクラムが、ボクスドラゴンのクエレに指示を出す。クエレはひとつ鳴き声を発して、暗色の光を注ぎ……響を万全にした。
「やはっ☆ じゃあついでに、皆にこれもあげておこうかな!」
と、テトラがばらまくのは霊力を宿した紙兵。それが前衛の耐性を高めていく。
「攻撃はお願いします!」
「ああ、そろそろ反撃も必要だろうさ」
エピに応えたクラムは、あくまで敵と間合いは取ったままに、爆破スイッチを操作。
足元から強烈な爆発で巻き込むことで、深いダメージを与えていた。
ただ、妖精は煙の中から、すぐに飛び出してくる。
「チッ……見た目よりタフ、ッてわけか」
「どうであれ、ここで完膚なきまでに叩き潰すだけだ。二度と同じ悲劇が起こらぬようにな」
エフイーは応えると同時、素早く地を蹴って妖精に肉迫している。
槍に宿すのは、花畑に映えるような美しい稲妻。
「リーズレット、頼めるか」
「もちろん! 準備は完璧だ!」
互いの意思をくみ取るように……リーズレットは弓にエネルギーの矢を番えている。
高速で撃ち出したそれで、妖精を射貫き、意識を一時的に奪うと……。
エフイーが水平に一閃。光の刺突を喰らわせ、妖精の腹部から血を散らせていく。
●決着
地に激突した妖精は、短い時間、花の上に倒れていた。
が、すぐに飛び上がると、顔に憤怒を浮かべる。
『殺してやる……殺してやる……』
「わ、何だかちょっと怖いですけど……やらせませんよ!」
向かってくる妖精に対しては、エピも引かず前進。腕部を大振りに、真正面から拳の一打を打ち当てていた。
同時、テトラも体にグラビティを巡らせている。
「とにかく、理由は分からないけど……絶好のピクニック日和なんだし、怒っちゃやーよん☆」
引き出すのは、魂に封じたデウスエクスの力。
テトラは左眼を碧く光らせ、右手に碧い刀を生み出すと――左眼で狙いを定めて刀を振る。居合いの如き碧い風の斬撃、『慟哭する山河也』――その一撃が妖精の片翼を断った。
妖精も怒りのままに、花を棘にして撃ち出してくる。
狙いはエフイー……だが、今度はエピの側からチャンネルが疾駆し、衝撃を肩代わりした。
「流石です! チャンネル!」
エピはその動きを讃えるが、チャンネルは寡黙に佇むのみ。背中で語るタフガイといった風体だった。
その間に、リーズレットは束縛魔法『黒影縛鎖』を組み上げ、解放している。
「見えなき鎖よ、汝を束縛せよ――」
同時、妖精の全身が不可視の魔力に縛られ、動きを止めた。
「よーし! ゼノさん、今だ!」
「ありがとう。この隙を最大限に活かさせてもらおう」
次いで踏み込んだエフイーは、再び『紅光の転輪剣』。オーラで赤く発光させた槍で痛烈な突きを繰り出し……妖精の体を深々と貫く。
「一般の人々にも、仲間にも……最後まで、被害は出させませんよ」
と、モニカもまた、再び『大樹の癒し』を行使し、辺りを治癒の光で覆っていく。
それがチャンネルを含め、皆を回復させていくと……。
結衣はグラビティを集中し、爆縮させた力を発散。巨大な爆撃で妖精を吹っ飛ばしていく。
「そろそろ、本当に苦しいだろう」
結衣の言葉通り……妖精は倒れはしないものの、動きを大幅に鈍らせている。
それでも、花嵐を発生させて攻撃を狙ってくるが――。
「……これでも聴いてけよ」
と、そんな中に、歌が響く。
クラムの『Secular Stagnation』。それは嘆きと後悔が渦巻く、停滞の歌だ。
多くのものを破壊してきた記憶は消えず、未来へと踏み出せない停滞を生む。クラムが近接戦を避け、敵と取り続けているこの間合いが、あるいは留まっている未来への距離か――その絶望は妖精の内部にまで染み渡り、冷たい針のように苦痛を与えた。
飛行する力も失い、落ちてくる妖精を……シズクが迎え撃つ。
「いい退屈しのぎにはなったかも知れないな。だがこれで、終わりだ」
両腕で振り抜くのは、交差させたふた振りの刀。
十字を描くように虚空を切り裂き、飛ばされた剣風は――妖精を巻き込み、切り刻み、四散させた。
●金花
戦闘後。
皆は少女の無事を確認し、見送った後……花畑の傷ついた箇所を修復し、ようやっと息をついていた。
「よーし! あとはお花畑を満喫しよう!」
テトラは早速、駆けるように花畑の中心に向かい、そこでくるくると回る。
金色の中で舞い踊る姿は、まるで妖精のようでもあった。
「やははー♪ 花言葉が悲しい? 品種で違う? 知らぬ存ぜぬどーでもよい! 綺麗なものは綺麗、見てれば心が洗われるの! 今ここには、それ以外の意味なんてないでしょっ☆」
「確かに、中々いい景色だな」
と、シズクも一面のマリーゴールドを観賞している。
「それに、悪い花言葉ばかりでもないしな。『信頼』に『勇者』に、『悪を挫く』……ケルベロスにぴったりだろ」
「そう言われりャそうかもな」
応えるクラムもまた、辺りを眺めていた。
360度の金色を見て、少し息をつく。
「『聖母マリアの黄金の花』……大層な名だが、この光景見てると合ッてるような気がしてくるから不思議なもんだ」
それに、と、クエレの方を見た。
「良い意味だけじャねェッてのも、いいもんさ」
クエレは花を気に入ったように、辺りを飛んでいる。明るいだけの花ならそうはならなかったろうか。
エフイーとリーズレットは恋人同士、2人で散歩している。
リーズレットははしゃぐように、右に左に、満開の花へ視線をやっていた。
「本当に綺麗なマリーゴールドだな!」
「ああ、改めて見てみると、立派な花畑だ」
エフイーは応えつつ、そんなリーズレットを微笑んで見ている。
リーズレットはそれに笑みを返した。
「ふふっ、私このお花好きなんだ~♪」
「そうなのか?」
リーズレットは頷く。花と同じ名の、妹のように可愛い存在を思い浮かべて。
エフイーはふむと考える。
「なら、家でもこの花を育てようか」
「それは良さそうだな!」
リーズレットは上機嫌になったように、ちょっと手を天に突き上げる。
「哀しい雰囲気の花言葉とか吹き飛ばせー!」
「うむ。湿っぽいのは私も好きではないし、な」
エフイーも応え、2人は歩いて行く。
エピも花畑にダイブし、その景色を楽しんでいた。
「花も、ここから見上げる空も綺麗ですねっ」
そうして少し空を仰いでから――微かに目を閉じていた。
結衣も頷いて、花を見下ろす。
「そうだな。綺麗な花があるんだ、余計なものを探さなくても花を見ればいい」
それから、しゃがみこんで、花を近くで見てから――また立ち上がる。
「折角の花を手折りたくはないな。今度、家族と一緒に来るのもいいか」
そうしてまた小さな楽しみを作ったというように、踵を返していた。
エピは、目を開けると、ゆっくりとマリーゴールドを見ている。
「どうしてでしょう、黄金色を見ていると何だか懐かしい気持ちになります」
エピには過去の記憶がない。だから、何かがあったとしても分かることはない――筈だが、この一面の黄金色には、不思議と懐かしさを感じる。
それを確かめるように、未だじっと、金色の絨毯を見ていた。
モニカも、歩いたり、空に浮遊したりしつつ、花を楽しんでいた。
「この花畑を守ることができて、よかったですね」
それには、皆も頷く。
美しい金色の中……ケルベロス達は、まだ暫し、その風景を眺めていた。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2017年5月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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得票:格好よかった 1/感動した 0/素敵だった 1/キャラが大事にされていた 2
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