学校の怪異

作者:崎田航輝

 夜の中学校に、1人の少年が忍び込んでいた。
「人体模型が動くとか……ベタすぎて、ねえ……」
 ぶつぶつつぶやきつつ、忍び足で入るのは、理科室。
 何処の学校にも不思議というものはある……が、この学校で噂される怪談というのが、夜に校内を歩き回って人を襲う人体模型、という典型的な恐怖話なのだった。
 その噂を聞いた少年は、今時そんな怪談話……などと思いつつも、逆に気になってしまい、こうして確かめに来たのだった。
「うーん、やっぱり何にもないのかな……」
 特筆することのない人体模型を前に、少年は安堵したような、がっかりしたような表情を浮かべていたが……。
「私のモザイクは晴れないけれど、あなたの『興味』にとても興味があります」
 少年の背後に突如、魔女が現れた。
 手に持った鍵で、少年の心臓をひと突きする――第五の魔女・アウゲイアス。
 少年は意識を失い、地面に倒れ込んだ。
 すると奪われた『興味』から――ある人影が出現する。
 それは半身から臓物を覗かせて、グロテスクな裸体を晒す、人体模型。否、血肉の通うその見た目は、模型と言うよりも皮膚を裂かれた人間そのものに見えた。
 その怪物は、獲物を求めるように歩き出すと、そのまま夜の校内に消えた。

「人体模型さん、ですか……」
 神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)の言葉に、ええ、とセリカ・リュミエール(シャドウエルフのヘリオライダー・en0002)は頷いた。
「学校というと、怪談話がつきもののようですね」
 それから改めて皆を見回す。
「というわけで、今回は神白・鈴さんの情報により、ドリームイーターの出現が予知されました。第五の魔女・アウゲイアスによる、人の『興味』を奪うタイプのもののようで――神奈川県内の中学校にて、少年の興味から生まれるようですね」
 放置しておけば、ドリームイーターは人間を襲ってしまうことだろう。
 それを未然に防ぎ、少年を助けることが必要だ。
「皆さんには、このドリームイーターの撃破をお願い致します」

 それでは詳細の説明を、とセリカは続ける。
「敵は、人体模型のドリームイーターが、1体。模型とは言いますが、リアリティのある人間っぽい見た目のようですね」
 場所は夜の校舎内。
 無人なので、特に避難活動などをする必要は無い。
 校舎内に立ち入る許可も既に取れているので、ケルベロス達だけでドリームイーターを見つけ、撃破すればいいということだ。
「誘き出すことは、できるんでしょうか?」
 鈴が言うと、セリカははいと頷いた。
「ドリームイーターは怪談に関する話などをすれば、遭遇できる可能性は上がるでしょう。ただ噂通り、学校内を徘徊する行動を取っているので……校内を捜索して歩き回りながらの方が効率は良いでしょう」
 理科室に留まらず、音楽室や図書室、体育館や普通の教室など、何処で遭遇する可能性もある。
 校内を歩き回る場合は警戒を欠かさずにしておくと良いでしょう、と言った。
「ドリームイーターの能力ですが、臓物を撒き散らす遠列トラウマ攻撃、人体についての知識を披露してくる遠単催眠攻撃、自分の臓器をセットし直す自己キュアの3つです」
 それぞれに気をつけておいて下さい、と言った。
「変わった敵さんみたいですけど。頑張ります……!」
 鈴が自分の手をぎゅっと握ると、セリカも、よろしくお願いします、と返した。
「夜の建物は不気味かと思いますが……是非、学校の平和を取り戻してきてくださいね」


参加者
佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)
楡金・澄華(氷刃・e01056)
神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)
神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)
フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)
月霜・いづな(まっしぐら・e10015)
久瀬・了介(二二二九七号・e22297)
月島・彩希(未熟な拳士・e30745)

■リプレイ

●探索
 夜の学校にやってきたケルベロス達は、暗い廊下を歩いていた。
「まっくらな、よるのがっこう、はじめてですの。なんだか、ふしぎなふんいきです」
 月霜・いづな(まっしぐら・e10015)は行燈を片手に、興味深げに眺めている。
 その隣で、月島・彩希(未熟な拳士・e30745)は少しおどおどとした様子だ。
「結構、怖いね……」
「光源は充分だが、敵がいつ出るとも限らない。出来る限り纏まって行動することにしよう」
 周囲を照らしつつ言うのは久瀬・了介(二二二九七号・e22297)。
 実際、皆が灯りを持っているため視界は良好だが……広い校舎の奥までは見えない。死角が出来ないよう、皆で警戒しつつ移動する事にした。
「まずは、理科室に行きましょうか? 一番、居そうですし」
 と、神白・鈴(天狼姉弟の天使なお姉ちゃん・e04623)はぽんと両手を合わせて言う。
 その様子に、神白・煉(死神を追う天狼姉弟の弟狼・e07023)は目を向けた。
「姉ちゃん、何だか嬉しそうだな……」
「そうかな? でも、勇華ちゃんも彩希ちゃんもいるし、一緒に肝試ししてる……って思うと、ちょっと楽しいかも?」
 鈴が言うと、佐竹・勇華(は駆け出し勇者・e00771)は頷く。
「確かに、鈴ちゃんや煉くんと一緒に来られて、良かったかな」
「うん。わたしも、心強いよ」
 そんなふうに彩希も応えていた。
 フォルトゥナ・コリス(運命の輪・e07602)も口を開く。
「こうしてみんなで一緒に行動していれば、夜の建物でも怖くないね」
「そうだな。それでも警戒を欠かさずに……最後までいくとしよう」
 楡金・澄華(氷刃・e01056)も応え、ランタンで前方を照らす。未だ見えない校舎の最奥にある理科室を目指して、皆は歩みを進めた。

「そういや、なんで勇華はエーゼットの奴連れて来なかったんだ?」
 廊下を進む途中、煉は作戦に参加しなかった仲間のことを聞いた。
「学校で肝試しなんざ恋人に公然と抱き付けるチャンスだろ。ほんとは連れてきたかったんじゃねぇの?」
「そ、そんなことないよー」
 勇華は少し照れて、首を振る。ただ、呟くように付け加えた。
「でも一緒に来れなかったのは残念、かな」
「お? やっぱり連れてきたかったん――痛たた!」
「もう、レンちゃん! 勇華ちゃんをからかわないのっ!」
 すると、鈴が見咎めて煉の耳をぐいっと引っぱっていた。煉は耳を押さえて離れる。
「からかってねぇって。友人への気遣い、っつぅのかな。これはあれだよ、多分だが、恋人が居ない人にはわからねぇ……」
「どうせ、わたしには彼氏さんいませんよーだ」
 ぷいとそっぽを向く鈴だった。
 そんなちょっとした姉弟喧嘩の間に、廊下も中頃。
「怪談話を始めておくか?」
 未だ周囲に異常が無いのを見て、澄華が言うと、了介も頷く。
「そうだな。早いに越したことはない」
「怪談話……うぅ、そうだよね。ホラーはあまり得意じゃないけど……怖がってばかりもいられないよね」
 ちょっと尻尾を丸めていた彩希も、意を決したように頷いていた。
 最初にそれを始めたのは、いづなだ。
「……あの、わたくし、おともだちからききましたの。がっこうで、なくなってしまった子が……おうちに、かえれないのだと」
 いづなは何となく、皆を見回すように続ける。
「まいにち、よるになると、まいにちまいにち――もんをくぐれず、ないているのですって」
「……。結構、普通に怖いやつなの……」
 ぺたりと耳を伏せているのは彩希だった。行燈のせいもあってどこか怖さも増している。
 ガタガタガタッ!
「きゃっ!」
 トイレの前を通ったところで、異音にフォルトゥナがびくりとする。
 が、すぐに音の正体は掴めた。
「風で窓が揺れた音みたいね……」
 皆はそれぞれ安堵したり、無反応だったり。
 鈴も、きゃっと声を上げて勇華に抱きついていたが……それは何となく、雰囲気を楽しんでいるようでもあった。

●怪談
 その内に理科室に着いた。異常はなく、室内は静かな暗闇だ。
「こうして見ると、結構不気味ですよね」
 鈴は見回す。元からあった人体模型や、実験道具なども見える。
「骨格標本とかホルマリン漬け……はないみたいですけど」
「とりあえず、一通り見ていこうか。用具室もあるようだ」
 了介の言葉に皆は頷き……室内を観察するように歩き出す。
 と、人体模型近くの床に、倒れている人影がある。
 興味を奪われた、今回の被害者である少年だった。
 皆は頷き合って、少年をなるべく安全そうな場所へ移し――探索を再開する。
 それから改めて怪談話を続けることにした。
「さて。これはご先祖から伝わる話なのだがな――」
 と、次に話すのは澄華である。
「戦国の世は中々に怨みが渦巻いていたようで……それこそ、怨霊が跋扈する世であったという。祟りや呪い、死霊も見られたとか――」
 それからは、落ち武者や亡霊の話なども織り交ぜつつ、それが現代でも見られるというような怪談話として進めていった。
「それが本当なのだとしたら、わたくし、とても怖いですの」
 いづなは自身の手をきゅっと握り、怖がっているような仕草を取っている。
 もっとも、いづなは神社育ちであり、その方面の教えもあるため、実際には幽霊が怖いということもないのだが……。
 と、どこか遠くで、足音のような音が微かに響いた。
 皆は一度視線を交わしつつ……廊下で態勢を整えて、話を続ける。
「しかし、そういう話に比べると……動く人体模型ってのはマジでベタな噂だな!」
 煉がそう口を開くと、それに勇華が頷いて見せた。
「確かに、どこにでもある怪談だよねー。もっとこう、バリエーションが欲しいなー」
「そうだよな。独りでに鳴るピアノとか、無人放送とか、窓に血の手形とか――いや、この辺は人体模型でもできなくはねぇか? まぁ、人体模型がやってたらどれも笑うが」
 煉が想像を巡らせるかのように言うと……彩希も言葉を継ぐ。
「そう考えると、学校って色んな怪談話とか、七不思議があるよね。夜中に段数が変わる階段とか、絵画や肖像画が動きだしたりとか」
「俺の学校では動くのは骨格標本だったな、そういえば」
 そう応える了介は……周りに注意は払いつつも、怪談話に何か懐かしい物を感じるような気分でもあった。
 澄華はふむ、と頷く。
「人体模型に骨格標本。それらが動くというのは、余り気分のいい話とは言えないが……学校での怪談となるとやはり、その辺りが定番になるのよな」
「見た目が気持ち悪いからそうなるのかな?」
 勇華も小首をかしげつつ言うと……。
 また、遠くから足音が響く。今度は先程よりはっきりとしていた。
 了介は武器を携えつつも、昔を思うように語る。
「それも含めて、今にして思えば他愛ないともいえる、どこにでもあるような話で盛り上がっていたものだな。……いや、ありふれているからこそ、か」
 明確に感じられる敵の雰囲気。
 その方向に向きながらも、了介は言葉を続ける。
「普遍的だから、逆に信憑性を感じたのかもな。もしかしたら、百に一つくらいは本当なのかもしれない、と」
「本当にいるなら、面白そうだし、早く見てみたいね」
 そして、フォルトゥナが追随するように辺りを眺めたところで――。
 廊下の奥、暗闇の中から出現する影が見えた。
 ――人体模型のドリームイーター。こちらに向かって駆けて来ており……響いていた足音は、長い廊下を走っていた音らしかった。
「まあまあ、もけいさんも、かけっこしたいのかしら?」
 いづなは目を丸くして言っていたが……彩希はそれどころではないというように、またも尻尾を丸めさせている。
「やっぱり、見た目が想像以上にキツイの……」
「確かにあれだと、肉々しすぎて模型じゃないね……」
 鈴も、何とも言えない表情だ。
 実際、人体模型は、特に傷ついている訳でもないのに、辺りに血を滴らせている。構造的に体が切れているからだろう。端的にグロテスクであった。
「ともあれ早く倒してしまおうね」
 勇華が言えば、澄華も頷き……斬霊刀・黒夜叉姫を抜いた。
「ああ。祓魔は私の仕事でもあるのでな――お化け退治の時間だ」

●対決
 人体模型は距離を詰め、こちらに迫ってくる。
『お前達モ……肉塊ニしてヤル……』
 たどたどしい言葉と共に、疾走してくる……が。
 そこに煌々とした光が閃いている。鈴の番える矢から零れる、力の陽炎だ。
「申し訳ありませんけど、させませんよっ」
 瞬間、飛来した矢が人体模型の内蔵に突き刺さった。
 ふらつきつつも、倒れはしない人体模型だが――そこに煉が疾駆、床を蹴って顔の高さに跳んだ。
 宙で回転してからの、鋭い蹴り。その一撃には敵も後ろに転げた。
 着地した煉は、しかし人体模型がすぐに起き上がるのに気付く。
「っと、攻撃来るぞ!」
 言葉通り、人体模型は自らの臓物を掴み、撒き散らすように投げつけてきた――が。
「そう簡単にやらせないよ!」
 ほぼ同時、勇華が手をのばし、ヒールドローンを展開していた。
 広域に飛んだドローンの群は、敵の投げた臓物や血の幾らかを防ぎ、威力を軽減させる。
 それでも、前衛の皆はダメージとトラウマを植え付けられるが……。
「燃しきよめ、流しそそぎ――吹きはらいたまう――阿奈清々し」
 どこか朗々とした声が響く。
 それはいづなの紡ぐ言葉。炎、水、風の三行により穢れを祓う禊ぎの御業――『三禊詞』。清浄な空気がそこに流れたかと思うと、皆を癒し、精神をも浄化させていく。
「つづら、おきなさい、まいりますよ!」
 それが終わると、いづなは背から降ろしていたミミック、つづらに呼びかける。ぐうたらな和箪笥ことつづらは、がたごとと身じろぎしつつも、敵へエクトプラズムをぶつけていた。
 彩希は紙兵を散布して、前衛の回復を補助すると共に、耐性を高めている。
「あの攻撃はもう、出来れば喰らいたくないの」
「そうだな。これ以上、下らぬ瞞しを受けたくもない」
 澄華も言いつつ、分身の術を行使し、降りかかった血を払う。
「リューちゃんも回復お願いね」
 と、鈴の言葉で、ボクスドラゴンのリュガも蒼い光を煉に施し……前衛の体力はかなり持ち直された状態となる。
 そして人体模型の方へは――了介とフォルトゥナが肉迫している。
「連撃で行くか」
「うん、分かったよ――!」
 了介に応えたフォルトゥナが、まず敵に踏み込む。同時、日本刀を抜くと、目にも留まらぬ速度で、下から弧を描くように払い上げた。
 強烈な斬撃で人体模型の血が散ったところで……了介も懐に入り込んだ。
 繰り出すのは拳。無駄のない動きからの痛烈な打撃は、人体模型を真後ろに吹っ飛ばし、大きく転倒させた。
 さらに、鈴が光を弾けさせるような魔法矢を放ち、敵を穿っていくと――。
「レンちゃん、攻撃を絶やさないようにいくよっ」
「ああ、分かった」
 と、鈴に煉が応え、駆け出している。
「銀狐の降魔拳士が3人揃い踏みなんだ、同時に行くか? 競う意味も込めてよ」
「いいね。面白そうじゃん」
「勿論だよ」
 煉に応えるのは勇華と彩希。煉も合わせ、3人で一気に接近する。起き上がっていた人体模型に、煉がすかさず苛烈な拳を打ち込むと――。
 勇華は低く跳び、敵の腹へ切り裂くような回し蹴り。
 人体模型が壁に激突したところで、彩希は頭上からの、苛烈な蹴り下ろしを喰らわせた。

●決着
 人体模型は、床にたたきつけられ、血だまりを作る。
 それでも、まだ体力はあるようで、ゆっくりと起き上がるが……。
 その辺に、臓物が幾つも転がり落ちていた。
「うぅ……やっぱり見た目がよくないの」
 彩希は眉尻を下げて呟いている。
 すると人体模型は自らの腸を掴んで、ぺたぺたと接近してきた。
『お前達モ……人体模型とナルのだ……』
 言って、鎖のように腸を振り回す。
 そのまま、それを武器にして投擲。狙いは、澄華であったが――。
「おいたはいけませんよ。さあ、つづら」
 いづなが呼びかけると、そこへつづらが駆け込む。腸に巻き付けられつつも、澄華へのダメージを庇った。
『腸ノ長さハ10メートル弱……大部分ガ小腸……』
 腸に捕らえられたつづらは、拘束されたまま、人体模型にぶつぶつと呟かれて催眠にかけられていくが――。
 今度はそこに、澄華が素早く跳んでいた。
「すまない、助かった。今、救ってみせよう」
 言葉と同時、繰り出すのは、愛刀に眠る力を解放する、『断空』。まるで光のような剣線を閃かせると……空間ごと敵の腸を分断して、つづらを解放した。
 ごろんと転がったつづらは、すぐにいづなが連れ戻して、祈りをかける。
「おおかみさま――どうか、おちからぞえを!」
 すると、中天から光が注ぐように、つづらの傷を瞬時に癒していった。
「人を人体模型に、か。それが怪談で済むならましだが」
 と、手をのばすのは了介。
 その手にグラビティを集中し、魔法光を生み出している。
「――実際に被害が出るならば、単なる災害だ。災害ならば、排除させて貰う」
 瞬間、それが光線となって命中。強烈なダメージと共に、臓器の一部を石化させていった。
 すると人体模型は、固まった臓器を鈍器代わりに攻撃を狙ってくるが……その即席の武器が、一瞬にして切り落とされる。
「――死は確かなり、然れど時は不確かなり」
 フォルトゥナが祈りを捧げて生み出す力――『運命の糸切り鋏』によるものだ。
 刀に与えられた、死を司る神の加護の力は……振るう事で不可視の斬撃を生み出す。フォルトゥナはそれを縦横に操り、人体模型の臓器、そして本体に深々と傷を刻んでいった。
 いっそう血みどろとなる人体模型は、それでも威嚇するかのように、うなり声を上げて走り込んでくるが……。
 澄華が刀を構えて待ち構えている。
「悪いが――私が怖いのは親父だけだ!」
 瞬間、神速で抜刀された一撃が、人体模型の五臓を一気に両断してしまった。
 その間にも、いづなは祝詞の書かれた札を撒いて、その霊力で仲間を回復。前衛の浅い傷を完治させていく。
 次いで、了介が拳での一打で、人体模型の脚部の骨を破壊。膝をつかせると……。
 フォルトゥナが再度刀を大振りに振るい、残りの臓器もバラバラに刻んでいった。
 人体模型は、散った臓器を集めてセットし直そうとするが……。
「後は頼む」
「分かったの!」
 了介に応えた彩希が、駆け出している。
「アカツキも一緒に行くよ!」
 彩希のその言葉に呼応して、ボクスドラゴンのアカツキも飛翔。敵へ強烈なタックルをかます。直後に、彩希は零距離に迫り、拳で打ち付けて敵の攻撃を止めた。
「皆、今なの!」
 さらに、彩希が呼びかければ――煉、勇華、鈴の3人が一斉に人体模型に迫った。
「勇華、姉ちゃん、合わせるぜっ」
「オッケー、連携決めるよ!」
「うん。――これが、わたし達の絆っ!」
 右方向へ跳んだ煉の声に応え、勇華は中央、鈴は左側へ。
「チーム天狼勇歌の拳、受けてみろっ!」
 同時、煉が『天星狼牙』。蒼き狼と化した烈火の闘気で右手全体を包み込み、炎を迸らせながら拳を放つと――鈴も同じく奥義『天星狼牙』。狼のエネルギー体を拳に宿し、自身を光の矢と化して逆側から拳の一撃。
 それに合わせるように、勇華は手刀に凄まじい闘気を纏わせ、振り下ろしていた。
「これで、終わりだよっ!」
 その技、『気刀・八文字長義』も真っ向から命中。それらの衝撃に吹っ飛ばされた人体模型は、そのまま耐えきれず四散、消滅した。

 校舎に、静寂が戻ってくる。
 鈴は敵が散った跡を見つめ……小さく呟いていた。
「……お父さん……わたし、強くなれたのかな?」
「姉ちゃん……」
 と、そこだけは煉も少し、声をかけづらそうにして。
 フォルトゥナは皆を見回した。
「お疲れさま。とにかく、勝てて良かったね!」
「そうだな。ひとまず、少年の所へ戻るか」
 了介が言うと、皆も頷き……少年の元へ。
 鈴は、未だ意識の不明瞭な少年を膝枕して介抱。ヒールもかけてあげた。
 すると程なく少年は目を覚まし、起き上がった。
 事情を知った少年は皆に礼を言う。煉はそれを受けつつも……少々厳しめに言葉をかけた。
「助かって良かったってのは別にして。やったことは不法侵入だからな?」
「……ごめんなさい」
 少年が頭を垂れると、鈴は苦笑して止めてあげた。
「レンちゃん、お説教はほどほどにしてあげてね」
「ま、別に分かったんならしつこくやるつもりはねぇって」
 そんなふうにお説教も、一段落。
「じゃあ、傷ついた部分を直そっか」
 彩希の言葉を機に、皆で戦闘場所の周囲をヒールした。
「うん。こんなものかな?」
 勇華が見回して、頷く。校舎の中はすぐ綺麗になり……今や血の跡も見えないのだった。
「幽霊退治完了、だね」
 その勇華の言葉に、いづなはちょっと頷きつつ……。
 少し、校舎を走り回っていた人体模型のことを思っていた。
「さびしかった、かどうかはわかりませんけれど」
 それから暗い校舎を見遣る。
「おばけがほんとうにいたら、わたくし、なかよくなりたいとおもいますの」
 その呟きは……何者も居なくなった校舎に、静かに響く。
 そして皆は、校舎を出る方向へ歩いた。
 澄華は場に残って、愛刀に対して呟いている。
「お化けとはいっても、お前さん程じゃない。なぁ? 黒夜叉姫――」
 それから、静かに刀を下げ直し……自分もまた、学校を去っていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年5月19日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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