野遊び南天

作者:五月町

●他愛ない冬の夢
 ましろの大地に雪が降る。小さな少女は空を見上げ、くるくるくるくる踊っていた。
 雪国に住む大人たちはすっかり雪に飽いているけれど、五歳の少女の目には未だきらきらしい銀色の世界。揺れる足を止めて駆け出せば、いつのまにか白い子うさぎたちが一緒に駆けてくる。
『わあ、ひなたとあそんでくれるの?』
 南天の目に、笹の葉の耳。ぴょこぴょこと可愛らしく駆ける雪うさぎたちを、膝の上に乗せ、肩の上に乗せ、てのひらに掬い上げる。
『ネエ、ボクトモ、アソンデクレル?』
『うん、いいよ!』
 不意に聞こえた声に振り向くと、そこにいたのは小山のような、大きな大きな雪うさぎ。
 ぽかんとする少女の前に、大雪うさぎは嬉しそうに近づいてきて──、

「──わああ!」
 ぱちりと目覚めた少女は、どきどきする胸を押さえて辺りを見回した。いつものお部屋、いつものベッド。
「ゆ、夢だったんだ……ひなた、つぶされちゃうとこだった……! びっくりしたー」
 幼い驚きを思い返し、溢れそうになった少女の笑い声を、無遠慮に止めるものがある。
「私のモザイクは晴れないけれど──あなたの『驚き』は、とても新鮮で楽しかったわ」
 唐突に胸を貫いた無慈悲な鍵。美味しい夢に呼び寄せられた第三の魔女・ケリュネイアは、奪い取ったそれを味わうように目を細める。
 解けない眠りに落ちた少女から、白い影がふわりと抜け出した。
 大粒の南天の目をきらめかせ、しなやかな笹の葉の耳を震わせて、生み落とされたのは大きな大きな雪うさぎ。
 お行きなさいと促す魔女に小首を傾げ、ドリームイーターは雪の舞う外界へ、ふわりと跳び出していった。

●雪うさぎと遊ぼう
「そういう訳だ。あんた方、ちょっくら行って巨大雪ウサギと戯れてくる気はないかい」
 顛末を語り終え、グアン・エケベリア(霜鱗のヘリオライダー・en0181)はにやりと牙を見せた。
 無論、戯れに終わる筈もない。敵はパッチワークの魔女が一角、ケリュネイアが奪った『驚き』を元に生まれたドリームイーターだ。ケルベロスにとっては倒すべきデウスエクスに違いない。
「こいつが事を起こす前に討伐を頼みたい。そうすりゃあ、眠ったままの嬢ちゃんもいずれ目を覚ます筈だ」
 少女の部屋を飛び出した巨大雪うさぎは、眠りに落ちようとしている住宅街の路地を、驚かす相手を探して移動している。辺りに足を踏み入れれば、その気配を求めて自ら移動してくることだろう。
 その大きさは、笹の葉の耳を含めなくとも大人をゆうに越えるほど。南天の瞳はまんまるくあどけなく、笹の葉の耳はぴょこぴょこと揺れる。手足らしいものがなく簡略化された姿ゆえ、動きはぶきっちょで、それがかえって愛らしい。
 けれど、されどドリームイーター。
 ひとたび哭けば吹き荒れる魔力の雪は、ほの淡いパステルカラーの愛らしさに反し、強烈な冷たさで自由を奪う。あどけないじゃれつき──もとい突進は、相手を魅了して仲間にしようとすらする。
 そして、どこからともなく呼び寄せられた小雪うさぎたちは、巨大雪うさぎを傷つける武器を決死の体当たりで止めようとするだろう。
 ケルベロス達は顔を見合わせた。可愛らしいものに弱い質なら、少しばかり辛い戦いになるかもしれない──いつもとは違う意味で。
「なりはそんなだが、嬢ちゃんを脅かしてることには変わりない。目覚めて現を生きるからこそ、眠って見る夢も楽しめるってもんだろう?」
 手荒く可愛がって、夢に還してやってくれ──と、グアンは少しばかり人の悪い笑みを浮かべてみせたのだった。


参加者
真柴・勲(空蝉・e00162)
泉本・メイ(待宵の花・e00954)
知識・狗雲(鈴霧・e02174)
レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779)
花露・梅(はなすい・e11172)
アラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)
リリス・セイレーン(ちょっとこリリ太郎・e16609)
御厨・礼(プシューケーの導影・e32840)

■リプレイ


 こんこんと雪の舞い落ちる中、ケルベロス達は用心しながら住宅地を往く。暖かに備え、幾つもの柔い灯りを吊り下げて。
 レティシア・シェムナイル(みどりのゆめ・e07779)の殺界で人払いも完了し、後は巨大雪うさぎを待つばかりだ。
「アスナロは驚いちゃダメだぞ。雪うさぎの攻撃を引き付けるのが仕事だからな」
「イチマツさんも、皆をかっこよく庇って頑張ってくださいネ」
 知識・狗雲(鈴霧・e02174)とレティシアにこくこくと頷いて、サーヴァント達は周囲を警戒する。
「けど、現れるの分かってても、でっかいのが急に出たら驚くよね」
「わかるぞ! 雪まつりの雪像とか大仏とか、アラタも驚く!」
「おいおい、大丈夫か? アラタの嬢ちゃん」
 真柴・勲(空蝉・e00162)勲に茶化されて、アスナロ達と共に守りを担うアラタ・ユージーン(一雫の愛・e11331)は胸を張った。
「大丈夫だ! メイが予告してくれるし──」
「……わあっ!」
 それは歓声のような驚声だった。
「雪うさぎさん、来るよ!」
 親友の声に続き、どむん! と雪を舞い上げ着地した、大きな大きな白いかたまり。
「すごいの、とっても可愛い!」
「わぁ、びっくりしました……! とてもとても可愛らしいです!」
 泉本・メイ(待宵の花・e00954)と花露・梅(はなすい・e11172)は兎のように跳ねて喜び、
「でっか……! えっ、ちょっと、でかい!」
「まあ、なんて立派なうさぎさん」
「お、おお……想像してたより遥かにデカいな」
「……本当に」
 大人達も思わず目を瞠るサイズ感。
 驚くケルベロス達に身を震わせて喜んだ南天の目が、不意にきらりと光る。そこには、驚きに懸命に耐える少女と涼しげな顔のサーヴァント達があった。
「ぐぐっ……我慢……!」
 アラタを見定め、雪うさぎは楽しげに飛び跳ねた。メイの凍れる拳より僅かに早く、
「わああっ!」
 積もりたての雪の中にどーんと吹き飛ばされるアラタ。仲間達の声にむくりと起き上がって一言、
「……~だめだっ、BIGでも可愛いー!」
「アラタちゃんー!?」
 ぐるぐる催眠に囚われるまま、捧げた果実の加護の光は雪うさぎへ。
「……みゃあ!」
 ウイングキャットの先生の煌めく風は、予めの指示通り礼へ。澄んだ癒しを一跨ぎして、敵前へ躍り出たのは勲だ。
「遊ぶ相手を探してるんだろ? 年食った中年相手で悪いが、一つ愉しく戯れ合おうぜ」
 振り下ろす脚の風圧で削り取られても、すぐにもこりと膨らむ雪うさぎ。遊び相手を得て楽しそうだ。
「雪ウサギ……なんて恐ろしい……! 待ってろよ、今正気に戻してやるからな!」
 狗雲の果実の輝きが癒しを広げていく。庇うように前に出たアスナロのブレスが戦場を明るく染めた。
「足止め……はないから、催眠でお返しでス!」
 レティシアの切り替えは素早く、番えた矢は一瞬で雪うさぎを貫く。
「ウサギさん可愛いんだけどナ……ちょっと悲しい気持ち」
「にゃ!」
 主を励ましながらイチマツさんが飛ばした尻尾の輪を受け、雪うさぎは身を震わせた。その動きに呼び込まれる幻想の雪は柔らかな七色で、けれど思いがけなく冷ややかに、前衛の動きを凍らせていく。
「く……っ、冷てえ!」
「では、雪合戦とまいりましょう!」
 ぶかぶか帽子をきゅっと被り直し、梅は武器に力を込める。みるみるうちに牙剥く竜へ変化した鎚は、雪玉ならぬ砲弾を次々と撃ち込んでいく。その間に、
「可愛らしいうさぎさん。ほら、私たちとも遊びましょう? 『Kommen Sie,Geister Schnee』──」
 リリス・セイレーン(ちょっとこリリ太郎・e16609)の頭上に現れた光の陣が、六花結晶の羽持つ精霊達を生み落とす。加護の力を携え、後衛へと忙しく駆ける彼らと共ににこやかに誘いかけると、
「皆々方に仇なす穢れ、祓い清め給え」
 澄んだ弓弦の音は御厨・礼(プシューケーの導影・e32840)自身のように凛と響いて、空気を浄め、未だ加護のない仲間へ厄を退ける力を施していく。
「……っ、みんなごめんっ、ありがとう!」
 髪についた雪をふるふると払い、アラタは元気に起き上がった。溢れ出す金の光で万全の守りを施すと、安堵の先生も鋭い爪を雪うさぎに突き立てる。
「お二方とも、さすがです!」
 頼もしい姿にエールを送り、梅は空へと駆け上がる流れ星に。叩きつけた足を巧みに滑らせれば、流星の煌めきは燃え上がる炎へ転じる。
「まだまだですよ、もっと一緒に遊びましょう!」
 削がれては戻り、溶かされては戻る体こそが魔の力を持つしるし。
 雪うさぎは燃える熱を厭うどころか、ぴこぴこと耳を揺らしてみせた。


「くそう、かわいい!」
 雪と混じり合う癒しの雨の中、狗雲の叫びが谺する。
「もっと違う形で愛でたかった……!」
 いちいち愛らしいその仕草も、術を伴ってケルベロス達を翻弄するとなれば、可愛さあまって何とやら。仲間を術から解き放つべく奮闘する狗雲に、アスナロも勇ましい突撃で応える。
「あなたにも分けてあげるね。甘い魔法を──ひとさじ」
 幸せなおやつの時間を思い浮かべるメイの手に、顕れる金の匙。真っ白な氷菓を掬うように柔く動かせば、飾りの鈴が歌い、メイに気力を満たしてくれる。
 機敏な敵の動きを見極めようと目を細め、礼は跳躍する巨体の影を潜り背後に踏み込んだ。込めた力に斬霊刀がぼうと透ける。
「……人々に仇なさぬ存在なら良かったのですが」
 霊体だけを切り裂く一閃に驚いて、雪うさぎが耳を立てる。けれどすぐ、楽しげに身を震わせて──ぽぽぽぽん! と小さな雪のかたまりを呼び出した。
「おや、愛らしい」
「……っ、反則だわ……!」
 もきゅもきゅと雪を駆け、前衛へ突進していく子雪うさぎ達に、リリスは微かな悲鳴を噛み殺す。
 小さくて、抱き上げて守ってあげたくなるほどの愛らしさ。けれどこの『攻撃』はそれほど可愛いものではないと、ケルベロスの本能が知っている。
「本当に、倒してしまうのが勿体無いわね」
 残念そうに呟いて、子うさぎ達の突進を跳び越える。宙に躍れば柔く従う華やかな裾に、流星の尾が沿った。
 足止めの一撃を横目に、子うさぎの突進を受けた勲も飛び出す。
「……雪礫でもぶつけられてる気分だ」
 攻撃を果たし、目の前で砕けていく健気さは胸に痛い──が、これもデウスエクスの成した幻夢の欠片。ここは心を鬼にして、
「──嬢ちゃんの夢を喰い物にさせる訳にはいかねえからな」
 縛霊手を纏う腕をぐんと翳し、砕くかの勢いで眉間に叩きつける。瞬時に縒り出された霊力の糸が網をかけ、敵を捕らえると、
「追いかけっコは好きかナ?」
 問いかけを待たずに射出されたレティシアの矢が、ころころ転がる雪うさぎを追い上げる。
「追い付かれたら、貴方の負けだヨ」
「にゃあん!」
 命中を確信するかのようにイチマツさんが鳴く。矢に続いて突き立てた爪に、雪うさぎは体を揺らして応えた。
「本当に遊んでいる気分なのですね。可愛らしくてときめきます……!」
 胸震わせる感情をぎゅっと拳に握り込み、梅は大きな鎚を雪うさぎへ。倒さなければならない相手であることは承知──けれど、楽しく終われるのならそれが最良だ。
「今度はわたくしが驚かせる番ですよ!」
 大きな鎚から繰り出されるのは打撃ではなく、竜の砲撃。冷たい空気ごと貫く一撃に、まるい体が吹き飛ぶと、
「あいつのお蔭でアスナロがもっと小さく見えるな……可愛い」
「ギャウ!」
「はっ、こんなこと考えてる場合じゃないね」
 アスナロの警告で我に返った狗雲、天を押し上げるように掲げた掌で、癒しの雨を降り続かせる。
 起き上がった雪うさぎは、今度は勲を狙い定めた。尻尾をふりふり跳びつくけれど、
「いいぜ、来るか? ──おっと!」
 幾重にも重なった術に足をとられ、地面へと体当たり。
「遊び疲れちゃった? もう少し遊んでいたいな」
「そうね、私もまだ可愛い貴方を眺めていたいの。──こんなお友達はどうかしら?」
 御業を炎へ織り上げたメイがボール遊びのようにそれを放つと、リリスが滑らかに紡ぐ古代語の響きは、炎吐く竜の幻影を喚び覚ます。
 友達の笑顔に、胸を痛める仲間に、アラタの笑みは微かに翳った。
 この子が何も害せずいられたなら、この時間がいつまでも続くなら。けれど、既にひとりの少女が眠りに落ち、自分も皆も傷ついている。叶わぬ願いと知るからこそ、
「……今だけはめいっぱい、だよな!」
「だな。今暫くは愉しもうぜ」
 楽しい戦いの時を繋ぐ為、仲間へ分け与うアラタの気力の結晶は眩く輝いた。頷き合う眼差しで次手を繋ぐのは勲。
 高く跳躍し、なだらかな雪うさぎの体に掌で着地すると、二歩、三歩、反動のままに手で辿り、
「さて、あんたの気脈はどこだろうな──っと!」
 望む気配を探り当てると、指一本でそれを絶つ。
「……あまり長くご近所をお騒がせする訳にもいきませんから」
 冴えざえとした表情は変わらずも、礼の声音には罪悪感が滲んだ。
「せめて、楽しくお送りしましょう」
 斬霊刀を手に駆け抜けるは一瞬、その斬撃を喩うなら静謐。冷たく澄んだ空の霊気を纏った一閃は、一切の無駄を削いだ動きで斬り重ね、雪うさぎを喜ばせる。
「ふかふかの突進も可愛いケド、今度はワタシ達が魅せるヨ! これでモ、忍者なのデ……!」
 波打つ淡い髪が雪風に戦いだ。雪うさぎの心──かもしれないところを貫いたレティシアの魅了の矢に、大きな体はふるふると震える。その隙にもう一手、ねじ込むのは忍術『陰流・癸』。
 手印に喚び寄せられた水の気が、レティシアの背を押し加速させる。速くも確かな一撃を叩きつけた直後、
「イチマツさん、もう一発がんばっテ!」
「にゃあっ」
 レティシアの肩を足掛かりに、イチマツさんは跳んだ。尻尾の輪が、きらきらと光を溢して飛んでいく。


 ごしごし、ごしごし。何かを拭い取るように地に顔を擦りつけて、雪うさぎは施された異常に気を取られていた。
「……チャンスです!」
 素早く手印を組むとふわり、その周囲に漂い始める紅梅の花弁。
「忍法・春日紅──!」
 梅の声にさっと散り、空に躍った紅色の花嵐が雪を塗り潰す。鮮やかな彩りの中に姿を消した梅は、いつの間にか大きな背中の上。
「鬼さんこちら、ですよ!」
 ぽこんと膨らんだ尾に打ち込むと、雪うさぎはぼわっと体を膨らませた。
「まだ遊びたいんだね……でも、……ごめんね」
 大きな瞳を潤ませて、メイは幸せな記憶で紡いだ匙を振るう。掬い取った雪うさぎの気力を、戦い遊んだ記憶と共に自分の内へ受け取ると、
「うん。アラタ達が、お前と遊んだことを覚えてるよ」
 ピ・リ・リ・と! ──の掛け声で放つ深紅のスパイスビームに、真っ白な雪うさぎも熱で染まってしまいそう。けれど、辛くて痛いそれすら、楽しい遊びと受け止めて見えて──胸がつんと痛くなる。
 力強く爪を立てる先生に続き、礼は強く弓を引き絞る。射抜く瞳の強さは揺らがずも、表情だけは和らいでいた。
「……童心に返ったようでした。私も、楽しかったですよ」
 雪の体躯を貫いた矢の効果か、心なしか好意が浮かんで見える──気がする円らな瞳に、淡く微笑みを向ける。
「でも、ごめんな。そろそろお開きの時間だよ」
 瞬きの間に勲の傷を縫い合わせ、狗雲が告げた『遊び』の終わりに、雪うさぎの耳がぴんと立った。
 ぽぽぽぽん、と魔法のように飛び出した子雪うさぎ達の突進は、まだ、もっと、とねだるよう。
 次の矢を番えるレティシアの目にも、狙うべき雪うさぎはどこか悲しげに見えた。
「楽しい時間が終わるのハ……ちょっぴり、寂しい気持ちかナ」
「……にゃー」
 慰めるように身を擦り寄せるイチマツさんの姿が勇気をくれる。本当の温もりはここにある──この雪うさぎは、夢に還るべきものだ。
 迷いなく描かれた射線に淑やかに頷き、リリスは癒しの霧でふんわりとメイを抱き締めた。大人びた顔立ちには、少女達ほど分かり易くは表れない。けれど、愛らしいものを惜しむ心はきっと同じ。
「本当に残念だけど……ね、涙を拭いて。最後まで楽しく遊んであげましょう?」
「……うん、そうだよね」
「さァて、それじゃあとっておきの餞別だ」
 勲の腕から溢れ出す雷が鎖を結び、握り締めた拳へと返り来る。絡み付く雷霆を鋭く沈めた瞬間、巨体はぼぉん! と吹き飛んだ。
 全身を震わせて巻き起こすお返しの雪ももう、ケルベロス達の術に囚われ、楽しく危険な夢を彩るだけ。
「あー、本当に残念だ……けど、本当にこれで終わり。頼んだよ!」
 狗雲の掌に一瞬燃えた光が、後衛の仲間のもとへ四散する。そのひとつが唐紅の鎖と化し、自身の掲げた御業に絡みついたのを認め、メイは頷いた。
「夢の世界に帰ってね。ちゃんと覚えておくよ……ばいばい」
 せつない思いも一緒に包み込み、鮮やかに透き通る炎は火球と化した。その輝きは、ふわふわで可愛くて、とても危険なドリームイーターの姿を鮮やかに照らして──、一撃を受け止めた大きな体を、夢のように消し去った。
 降りつむ雪をふうっと揺らす夜の風。それはまるで、雪うさぎの満足げな溜め息のようだった。


 メイの涙の気配に、アラタは迷わずその手を取った。
「大丈夫か?」
「うん、ありがと。女の子も今頃目覚めたかな……」
 戦いの時が終わり、誰の胸にも微かな寂しさが吹き寄せる。けれど、救った命と得た思い出を思うと、寂寥も仄かに暖もりを帯びる。襟元を掻き寄せながら、勲は確かにその温度を感じていた。
「よし、仕事は果たしたし、俺達もちょっと遊んでいこうよ──うわっ!?」
「ギャッギャ!」
「このっ、アスナロー!」
「加勢しますネ。イチマツさんも」
「にゃ!」
「えっ、加勢するってそっち!? くそっ、礼さん助けてー!」
「えっ? ……いえ、もう夜ですし、ご近所の迷惑に……」
「ちょっとだけ! よーし、反撃だ!」
「……、少しだけですよ」
 俄かに始まる雪合戦に巻き込まれ、礼の顔にも仄か、困ったような笑みが浮かぶ。微笑ましく見守りながら、リリスは少女達の傍らに屈み込んだ。
「あら、可愛い」
「わあ、わたくしもお手伝いします!」
 それはアラタたちの手になる雪うさぎ。梅も加わって、大小さまざま沿道に並んでいくさまはなんとも愛らしい。
「昔は俺も、雪が降る度庭を駆け回ってたっけな」
 無邪気に遊ぶ仲間の姿は、弟とふたりはしゃいだ冬の日を勲に思い出させた。──次の雪の日には、久々に雪達磨でも作ってみようか。
 ひとときの遊びに興じながら、アラタはうん、と頷いた。きっと女の子も、目覚めればこんな風に雪うさぎを作るだろう。──大切な友達と一緒に。
「……次は、普通の雪うさぎになれるといいわね」
 ほんの少し後ろ髪を引かれつつ、微笑むリリス。降り続く雪の中、今夜の思い出を記した雪うさぎ達を残して、彼らは帰り路に就いた。

作者:五月町 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2017年2月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 2
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