鉄に咲く昏花

作者:崎田航輝

 甲高さと、くぐもった低さの混在した音が響いた。
 それは硬質なものに亀裂が入り、内部が砕けてゆくような奇妙な音色で。
 ただ瓦礫が風に転がっただけじゃなく――金属が不自然に破壊されてゆく音なのだと、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)には判った。
「どこに、居るんだ?」
 陽も空にあるはずなのに薄暗い、町の端。
 崩れたビルの長い影に覆われた、ひとけもない廃墟だった。その廃工場の地面に何かの存在が在るのだと――歩みを止めた広喜は気づいている。
 語りかけるような口ぶりなのは、それが確かに這い、蠢いているのだとも判るから。
 敵でなければいい。だが、そうではないのだろうともすぐに理解した。
 音の発信源を特定し、広喜がそこに目を向けた瞬間――地面に倒れていた金属板が裂け、一体の異形が姿を現していた。
「攻性植物、か」
 それは花弁も、額も、茎のように見える部位も、全てが金属的な光沢を持つ奇花だった。
 故に機械種族の仲間かと一瞬、見紛うが――似て非なるもの。
 奇花が触れた金属板は何かに侵食されたように歪んでいる。
 それは決して機械の仲間などではなく。機械すら侵して糧にしてしまう程の、危険なるデウスエクス。
「来るのか」
 故に広喜は、拳を握りしめる。
 奇花は歯車を廻し、舌なめずりするかの如く花弁を擦らせ、そこへ飛びかかった。
 まるで新たな苗床を見つけたかのように。それが運命なのだと、無慈悲な現実を突きつけようとするように。

「尾方・広喜さんが、デウスエクスに襲撃されることが分かりました」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達に説明を始めていた。
「予知された出来事はまだ起こってはいません。ですが――」
 時間の余裕はないでしょう、とイマジネイターは語る。
 広喜に連絡は繋がらず、広喜自身も既に現場にいる。おそらく、敵と一対一で戦いが始まってしまうところまでは、覆すことは出来ないだろう。
「それでも今から急行し、戦いに加勢することは出来ます」
 合流までは、時間の遅れはある程度生まれてしまうだろうが……戦いを五分に持ち込み、広喜を救うことは十分に可能だ。
「ですから、皆さんの力を貸してください」
 現場は町の端にある廃工場だ。
 周囲にひとけは無い環境で、一般人については少なくとも心配は要らないだろう。
「敵は攻性植物のようです」
 名は鉄侵シ(くろがねおかし)……嘗てダモクレスにも脅威とされていたという個体だ。強力な能力を有しており、一人で相手をするのは難しい敵だろう。
 故にこそ、一刻の猶予もない。
「ヘリオンで到着後は、戦闘に入ることに注力して下さい」
 現場は静寂の中。広喜を発見すること自体は難しくないはずだ。
「広喜さんを助ける為に。さあ、急ぎましょう」


参加者
伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)
ウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)
カルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)
フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)
アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)
櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)
尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●花
 がちりがちりと、硬質な花弁が鳴る。
 蟲にも似た音を響かせながら飛びかかってきた奇花――鉄侵シの躰を、尾方・広喜(量産型イロハ式ヲ型・e36130)は後ろへ跳んで避けていた。
「寄り道なんざするもんじゃねえな」
 見つめるその異形は、捕食を求めるように花弁を、葉を、根を蠢かす。それは確かに金属すら侵してしまう存在なのだと判った。
 でも、だからこそ。
「てめえが工場以外を喰う前に会えてよかったぜ」
 広喜は拳同士をぶつけて、構えを取る。
 きっと強敵だけれど。
「暗くなる前に帰れっかなあ」
 言いながら、その顔には変わらぬ笑顔を見せて。
 深く踏み込んで、肘を強く引き絞ってから打撃。青炎纏う拳を花へと叩き込んでいた。
 僅かに鈍い音を立てて、鉄侵シは後退する。だが根で床を咬んで慣性を殺すと再び前進。花弁を開いてその一端を飛ばしてきた。
「――っと」
 広喜は転がっていた機材を盾にして大半を防ぐ。それでも無数の花弁の内、一つが迫ってくると見れば――自身の手に絡ませた。
 鉄侵シはそのまま寄生を目論む、が。
「鉄だと思ったか? 悪いな、俺の手足は地獄製だ」
 ゆらり。その手が焔に変わる。
 瞬間、体勢の崩れた鉄侵シを逆の拳で突き飛ばし――同時に爆破を見舞った。
 花弁の一枚が破片となって散る。鉄侵シはその衝撃に僅かに身じろいでいた。
 だが、広喜も無傷ではない。別の小さな花弁に胴体を穿たれ、侵され始めている。
「やっぱり、強いんだな」
 気合を込めて自己を治癒するが、瞬時には癒えきらない。鉄侵シはそこへ根を絡ませ、広喜の体力を蝕み始めていた。
 広喜は素早く振り払うが、微かにだけふらつく。
 その時点で、一手前よりも傷は深くなっていた。
 このままであれば、優位は相手のもの。鉄侵シもそれを判っているのか、一気に攻めきろうと這い寄ってきた。
 ――けれど。
 その刹那。薄暗がりの彼方から光が明滅する。
 それはデバイスで飛翔してきた櫟・千梨(踊る狛鼠・e23597)が瞬かす、オーラの輝き。
 宙を滑るようにして鉄侵シを射程に捉えた千梨は、翳した手からその光を撃ち出して――弾ける衝撃で動きを阻んでいた。
「千梨!」
 広喜が目を向けるそちらに――更に見えるのは伏見・勇名(鯨鯢の滓・e00099)の姿。
 揺らいだ敵へと正確に狙いを定め、赤い槌で砲撃。一直線の軌道を描いた砲弾で爆炎に巻き込んでゆく。
 直後にそこへ走るのはウォーレン・ホリィウッド(ホーリーロック・e00813)。未だ蠢く奇花へと、真っ直ぐに腕を突き出すと――。
「広喜さんから離れて!」
 渦巻く螺旋の力を爆散させて、大きく吹き飛ばしていた。
 その頃には残る仲間達が皆、駆けつけてきていて――広喜は目を輝かせて喜びを表す。
「皆ーっ、来てくれたんだな!」
「ああ」
 応える千梨は変わらぬ飄然とした声音だった。
「無事か、なんて聞くだけ野暮かな」
「広喜さん……良かった……」
 と、ウォーレンも広喜の姿にほっとして。涙に瞳を潤ませながら、ようやく自身が癒し手だったと思い出してその立ち位置に下がっているのだった。
 そんな皆の様子にも、広喜はにこにこと表情を和らげる。
 それは安堵の表れでもあろう。喰われてやるつもりこそなかったけど――きっと少しばかり、緊張していたのかも知れないから。
 エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)もそれを感じて近くに歩み寄っている。
「傷が残っていマス。すぐに治しますネ」
 光源を投入して周囲を明るく照らしながら――その手元に輝かせるのは淡く優しいエネルギーフィールド。
 そっと包むように広喜に触れたその温度が、穏やかに損傷を癒やす。同時に翼猫のエトセテラもふわりと羽ばたいて治癒の風を送っていた。
 その間にも、起き上がっていた鉄侵シが再接近を目論む、が。そこへ光の軌跡を描きながら舞い降りてくる姿が一人。
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)。ビームシールドを煌めかせながら、敵の攻撃を真正面から受け止めていた。
「錆びることなき紫水晶の盾! ――ここは突破させません!」
 光が弾け、閃光が明滅する。
 衝撃は重い、それでもフローネは決して下がらず逆に鉄侵シへと組み付いていた。
「今のうちに!」
「ええ、判ったわ」
 応えてひらりと広喜の元へ向かうのが、アウレリア・ノーチェ(夜の指先・e12921)。
 ビハインドのアルベルトには敵をしかと狙撃させながら――自身は夜の如き漆黒のオーラを凝集して投射。広喜の負傷を癒やしきっていた。
「こちらは問題ないわ」
「では、後は守りを整えておきますね」
 と、柔らかな声音で返すのはカルナ・ロッシュ(彷徨える霧雨・e05112)。きらきらと清廉な魔力の光を注ぎ、加護を生み出して後方に護りを広げていた。
「これで万全ですね」
「皆、ありがとな」
 助かったぜ、と。広喜が笑めば、カルナは頷いて。
「広喜さんがピンチと聞いては、駆けつけないわけには行きませんから」
 言うと改めて敵へと視線を向けていた。
「僕たちが来たからには、相手の好きにはさせません」
「ええ。皆で、無事に帰りまショウ」
 エトヴァの言葉に、千梨もちらりと広喜へ視線を流す。
「では、一暴れしようか」
「ああ!」
 それに広喜が楽しげに構えれば――鉄侵シはなお敵意を見せるように擦過音を上げ、こちらへ迫ろうとする。
 が、そこへ先んじるのが勇名。
「だれももぐもぐさせないのだ、ぞー」
 瞬間、煙を上げて撃ち出すのは『ポッピングボンバー』。
「ささっとぱぱっと、どかーんだ」
 足元に着弾したそれが、言葉通りに無数の火花を烈しく爆裂させ――鉄侵シを大きく弾き飛ばしてゆく。

●反撃
 ばきりと金属の割れる音が響く。
 倒れていた奇花は、足元の板に根を張って起き上がっていた。
 その金属板はまるで栄養を吸われた土壌のようにくすみ、歪んでいて――改めて見やったカルナは声を零す。
「鉄侵シ、ですか。金属を好むとは、色んなタイプの攻性植物がいるものですねー」
「ああ」
 千梨も軽く頷く。広喜に以前、向日葵の世話を手伝いたいと言った事を思い出していた。
「向日葵ならいいが、こんな花じゃ物騒過ぎて育てられないよなあ」
「んう……はな、か。やっぱり、おかしちがうか……」
 その名に仄かな期待もあった勇名は、今一度その姿を観察してから……少々眉尻を下げているけれど。
 千梨はそんな様子を横目にしながらも、灰刃の鎌を手に握る。
「ま、お菓子は後として――今は鉄が好物の食いしん坊の方を、どうにかするか」
 判り合えない存在ならば、せめて華々しく散らしてやろう、と。
 刹那、振り抜きながら刃を投擲。宙で弧を描かせて花の一端を斬り飛ばした。
 鉄侵シは体を震わせながらも反撃の姿勢を取る、が。
 千梨は僅かの焦りもない。それは信を置く仲間でもある――アウレリアが既に動いていると判っているから。
 瞬間、ステップを踏むように横へ跳んだアウレリアは黒鉄の拳銃から射撃。放った弾丸に、更に弾丸をぶつけて弾道で鉄侵シを取り囲んでいた。
 『バラ・グリザンド』。それは意図させぬ方向から花弁を穿ち、貫き、煽るように衝撃を連ねてゆく。
 鉄侵シは苦悶に身を捩りながらも、そこから這い逃れる。が、広喜へ花弁が伸びるより疾く――エトヴァが立ちはだかっていた。
「……触れさせはしませんよ」
 ――ヒロキは、俺の大切な友人ですかラ。
 意志と共に、組み上げるパズルが蒼空の幻影を生み出していた。それは奇花の心をも囚え、惹きつけ、逃さない。
 エトヴァに軽合金の組成を見て取ったからでもあろう、鉄侵シは前衛に狙いを変え、葉を広く放射してくる。
 けれどエトヴァが守りの態勢をとって防御すると――同じく標的となったフローネもまた、一歩も下がらず受け止めていた。
 構える盾は異形の葉に縛られ、僅かに明滅する。
 だがそのアメジスト色の輝きは決して途絶えない。フローネ自身の精神が、強敵に相対しても決して折れる事はないから。
「――」
 一度だけ、フローネは広喜を振り返る。
 旅団の仲間として、優しきその“ココロ”にいつも励まされてきた。
 彼の相棒が今同時刻別の場所で戦っている。なら今、自分が出来る事は――ここで護りきる事だから。
「――倒れません!」
 瞬間、鮮烈な光と共に葉を払うと、そのまま鉄侵シに迫って動きを抑え込んでゆく。
「回復は任せてね」
 と、その間にウォーレンは長大な鎖を手に握っていた。
 ひゅるりと踊らせたそれは、優美に靡きながら淡い光の流線を虚空に刻む。その煌めきが円陣となり、眩く前衛を包む加護となって――盾役の仲間を癒やした。
「これで、あと少しかな」
「ええ」
 応えたカルナも植物から光を注がせ、前衛に温かな護りを与えている。
「これで万全。護りはきちんと固めておきますから――広喜さん、後ろは気にせず、思いっきりやっちゃってください」
「ああ!」
 明朗な笑顔で返した広喜は、真っ直ぐに敵前へ。
 蠢く鉄侵シに対し、ピアス型のスイッチだけは死守するように拳を振り翳し――仄青く輝く陽炎を伴った、強烈な打突を喰らわせた。
 下がる鉄侵シに、勇名も槌の先端を向けている。
 それに気づいた鉄侵シはそちらに向く。勇名の体の部位や武器にもまた金属を察知しただろう、花弁を揺らがせるが――。
「させない、ぞー」
 勇名は一歩も近づけさせず、放つ砲弾で足元を爆砕する。
 よろめく鉄侵シは、ならばと標的をアウレリアへと向けていた。
 アウレリアもまた首、胴体、左腕の生体部位を除けば、機械と金属で構成されている。土壌にするには理想的という判断だろう、が。
 伸びる花弁をアルベルトが撃ち払えば――アウレリアも既に銃口を向けていた。
「下がりなさい下郎」
 ――私に触れて、私を変えて良いのは夫だけ。
「貴方からの侵食など僅かたりとも受け入れるつもりはないわ」
 刹那、フラッシュと共に無数の弾丸が飛ぶ。それは鋭く違いなく、花弁、葉、茎を貫き破片へ変えてゆく。
「それじゃあ僕も」
 と、好機と見たカルナも、くるりと廻りながら空間に次元の裂け目を描き出し――憑魔を喚び出していた。
 ――『憑魔召喚陣ー破天ー』。
 氷の翼で羽ばたいたそれは、周囲の時間を凍らせながら鉄侵シを静止させ、その極低温の呪いで生命力を蝕んでゆく。

●帰り道
 響く細い音は、鉄侵シ自身に入った罅の音だった。
 金属を侵し糧にしてきたその身は、力に相反する脆さも得たのかも知れない。
 それでも殺意のもとに這い寄ってくるから――皆は前に出て、後ろを支え。広喜を守るように立っていた。
 広喜はそんな皆を見回す。
 前は壊れる為に戦ってた自分が、今は壊れない為に皆と戦っている。その変化が、前にはなかった感情を運んでくれるようで。
(「すげえ、嬉しいな」)
 だからへへ、と笑みを零し。
「皆、ありがとなっ」
「……ええ。最後まで力をお貸ししますかラ」
 広喜を無事に相棒の元へ、帰したいから。
 エトヴァは『Hoshiakari no Uta』――優美で、けれど輝かしい光を伴った歌を響かせて皆へ護りの加護を与えていた。
 それを機に皆は攻勢。フローネがライフルから鮮やかに輝く光芒を放ち、鉄侵シを押し留めれば――。
「今です、攻撃を!」
「んう、わかった、ぞー」
 応える勇名が大鎌を振るいながら投げ放つ。回転しながら高速で飛来したそれが、鉄侵シの根元を寸断して横倒れにさせていた。
 それでも鉄侵シはうねりながら前進する、けれどカルナはそれに対し怯みも見せない。
 元より金属は持たず、大切な銀の懐中時計は懐の奥にある。そうでなくとも、そのおもては飄然としたままで。
「ネレイド」
 応じたファミリアの白梟が高速で飛び抜け、幾重もの斬撃を重ねてゆく。
 葉を散らされながらも、鉄侵シは花弁を伸ばして寄生を狙う、が。フローネが盾となって防ぎきれば――ウォーレンが上方より静やかな雨滴を降らせていた。
 それは『真珠雨』。雨の中から拾い上げるよう、清廉な光を手に抱いたウォーレンは――その輝きを投げかける事でフローネを癒やしきる。
 直後には千梨が結界の中へ降ろした御業を紅の影へ変容させていた。『隠鬼』――舞い散る紅葉の間に潜むそれは、鋭い爪を振るって鉄侵シの半身を引き裂いてゆく。
 大きく傾ぐ奇花へ、既にアウレリアも跳んでいる。
「行きましょう」
 思いに応えて伴侶が放つ弾丸と共に、敵に呉れてやるのは焔だけ。
 蹴り出したその灼熱が花の体を灼いてゆくと――ウォーレンもその至近へ迫っていた。
「咲いたなら散るのが花の運命だよ」
 だから大地へお還り、と。
 旋風を逆巻かせた掌打を放って鉄侵シを突き飛ばす。
 そこへ正面から踏み込みながら、拳を握り込むのが広喜だった。
「これで終わりだぜ」
 最後のその時まで藻掻くその敵に、あくまで笑顔を向けながら。
「じゃあな」
 刹那、瞳と体の回路へ青の獄炎を奔らせ、拳にも煌々と眩い焔を纏って。『狙イ詠』――繰り出すその一撃で確かに、鉄侵シを砕いて散らせていった。

「……終わりましたね」
 静寂が戻ると、フローネは声と共にそっと盾を下ろす。
 千梨も頷いて、皆を見回していた。
「全員、無事かな?」
「ええ」
 そう答えたエトヴァが、横へ視線を向ければ――広喜もまた笑顔を見せる。
「大丈夫だぜ。皆のおかげだ」
「……ほんと、無事で良かった」
 ウォーレンがほっと息をつけば、皆も心同じく頷いていた。
 周囲を見回せば、少々工場内も荒れているから――勇名はそこへヒールをかけてゆく。
「んう、できるだけ、なおしていく、かー」
「そうね」
 アウレリアもそう言って修復を始めれば、カルナもまた助力していった。
 同時にアウレリアは工場について検索し、管理者の情報も得て――連絡を取って報告も済ませる。
「これで、仕事は終わりね。早く帰りましょう」
 待っている方もいるのでしょう、と。
 アウレリアが言えば、広喜は頷く。カルナも並んで歩み出していた。
「何事も無くて良かったです。さぁ、行きましょう」
「ああ!」
 広喜が帰路へと進み始めると、千梨は勇名の言葉をふと思い出す。
「せっかくだ、マシュマロで打ち上げ……いや、今回は帰宅するまでが任務か」
「一つずつくらいは、いいんじゃないかな?」
 ウォーレンが言ってマシュマロを取り出すと、勇名や皆も受け取るのだった。
 そんな様子にも、広喜はへへっと笑みを見せる。
「すげえ楽しい寄り道だったなっ」
 だからこそ、暗くなる前に帰ろう、と。
 いつもみたいに、部屋の灯りをつけて。一緒に住んでる相棒が帰ってきたら――「おかえり」とそう言う為に。
 廃墟を出ると、陽が傾いているのが見えた。
 でもきっと、夕刻より前にはつくだろう。だから広喜はそれを楽しみにして……帰るべき場所へと歩んでいった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年6月26日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 7
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