薄雲が風に流れて光が現れた。
深藍の空に浮かぶのは──曇りない満月。それは夜を淡く、そして美しく照らす。人々は夜長に望める月の明るさに、穏やかな賑わいを見せていた。
長屋の並ぶ趣深い和の色の道。
そこは今宵、月灯りを邪魔しないほどの優しい灯りが立ち並んで──和やかな祭りの様相を呈していた。
月見祭りと謳われたそこでは、人々が月のように丸い団子を味わって、遊戯や食の屋台でも楽しんで。時に静かな芒畑や花々の間に歩んでは、景色と月を眺めている。
少しずつ秋も深まってくる、その時間をゆったりとした夜の中で楽しむように。月光の下で皆が銘々に過ごしていた。
けれどその道へ、招かれざる咎人が歩み入る。
「やあ、何とも美しい夜じゃないか」
愉快げな声音と相貌で、ぎらりと剣を煌めかすそれは鎧兜の罪人エインヘリアル。
「そんな夜には血の饗宴が良く似合う」
そうだろう、と。
自明の理を語るよう、刃を振り上げ月光に輝かす。
血潮が飛び散り絶望の噎びが響き渡る。それで漸く祭りが完成したとでもいうように──罪人は喜色を浮かべ、凶行を続けていった。
「秋の夜長……こんな時には眺める月は、とても綺麗ですね」
夜のヘリポート。
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へそんな言葉をかけていた。
「とある街でもお月見のお祭りが開催されていて、多くの人々が訪れているようです」
ただ、そんな場所へエインヘリアルの出現が予知されてしまったと言った。
現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
放っておけば、人々が危機に晒される。
「お祭りも人々の命も……護るために、この敵の撃破をお願いします」
戦場は祭りが行われている市街の道。
そこに現れる敵を、此方は迎撃する形となるだろう。
「人々は警察によって事前に避難します。戦いに集中できる環境でしょう」
周囲にも被害を及ぼさずに終われるはずですから、とイマジネイターは言葉を続ける。
「無事勝利出来た暁には、皆さんもお祭りを過ごしていってはいかがでしょうか」
美しい月や芒を眺めて、道や丘を歩いたり……お団子屋や種々の屋台に寄って、食や遊戯を楽しむのもいい。
夜が長くなってきた季節、ゆったりと涼しい夜を過ごせるだろう。
「そんな憩いのためにも……是非撃破を成功させてくださいね」
イマジネイターはそう言葉を結んだ。
参加者 | |
---|---|
ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243) |
ヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187) |
ゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499) |
エアーデ・サザンクロス(自然と南十字の加護を受けし者・e06724) |
アンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974) |
ノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615) |
マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402) |
オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471) |
●秋宵
真ん丸な月色が、宵空を照らす。
その優しい燿きを、道へと歩むヴィ・セルリアンブルー(青嵐の甲冑騎士・e02187)は見上げていた。
「もう中秋の名月の季節なんだね」
「暗夜の宝石と分かったあとでも、月光は変わらないようだね」
神秘が暴かれても、美しいものはうつくしい。オズ・スティンソン(帰るべき場所・e86471)も実感と共に満月色の瞳に穹を映す。
美観を愉しむ祭りの夜。だからこそエアーデ・サザンクロス(自然と南十字の加護を受けし者・e06724)は仄かな嘆息を零した。
「こんなに綺麗な満月の日に、楽しいお祭りの日に……まったくデリカシーの無い輩はお引き取り願いたいわね」
言って見据える薄闇の間。
そこに鎧兜の罪人──エインヘリアルの姿を捉えていたから。息をついて、エアーデは声を投げている。
「そこの坊や? 折角の美しい月と楽しい時を台無しにしないでもらえるかしら?」
「……、番犬か。……美しい夜だからこそ、斬り合うんだろう」
返す罪人は、愉快げに刃を握る。
垣間見える狂的な殺意に、オズは呟きを零した。
「月の狂気って、無くなったんじゃなかったかな……?」
「ルナティックという言葉があるように──その美しさが人を狂わせる事もある。あの咎人がどうなのかは知らないが」
ならば俺の狂気を見せてやろうか、と。
魔力を纏う鎖を踊らすのはゼフト・ルーヴェンス(影に遊ぶ勝負師・e04499)。振るった軌跡で魔法円を描き、仲間への加護を戦いの狼煙にした。
「行くぞ、エアーデ」
「ええ。招かれざるお客には早々にお帰り願いましょう」
エアーデも星の光の柱を昇らせ護りを厚くする。
それに罪人は喜色を見せた。
「面白いじゃないか。やはり今宵は血の饗宴に相応しい──!」
「美しい夜には同意するが」
と、その視界へ滑り込む影。
星屑の艶めきを髪に煌めかせ、脚を強く引き絞るノチユ・エテルニタ(宙に咲けべば・e22615)。
「鮮血が似合うわけないだろ」
此処にある刃はお前を殺す為だけにあるのだと。『終へ奔れ』──慈悲ない未来を告げるよう鋭い足払いを叩き込んだ。
罪人は体勢を直そうとする、が、その脚に靭やかな衝撃が訪れる。
「自由なんて、与えないさ」
柔らかな晴天が冴え冴えとした星月夜に変わるように。
穏やかな声音に冷たい鋒を含み、ラウル・フェルディナンド(缺星・e01243)が蔓を奔らせていた。
傾ぐ巨躯へ、高々と跳んで天の逆光を浴びるのがアンゼリカ・アーベントロート(黄金騎使・e09974)。
月は夜を照らす輝き。
太陽とは違うけれど、人の心を癒すものだからと。
「月見の祭り、守ってみせる。さぁ、黄金騎使がお相手しよう」
刹那、輝きを纏った苛烈な蹴撃。巨躯の腕を弾きながら、仲間へ鼓舞の声を響かせる。
「人々が迎えるべきは、血の饗宴ではなく優しいひと時さ」
ならば私たちケルベロスがそれを作らずしてなんとする、と。
「暴力を振るうだけの侵略者に負けるわけがない──そうだろう?」
「勿論だよ」
応えるように疾駆するのがヴィ。掬い上げる流麗な剣閃で、罪人の刃先を寸断していた。
罪人はそれでも剣圧を返す、が。
ヴィが己が身で受け止めれば、オズが物語の綴られた詩篇の頁を撒いて。癒やしの世界を顕して回復と防護をしていく。
オズの翼猫、トトも治癒の光を注ぐと──マヒナ・マオリ(カミサマガタリ・e26402)もシャーマンズゴーストを撫でていた。
「アロアロも、手伝ってあげてね」
臆病気味に震えていたアロアロだけれど──その声音に落ち着きを得て、澄んだ祈りでヴィを万全にする。
マヒナ自身は優美な翼で軽やかに跳んで、流星の煌めきを刷く蹴撃を見舞っていた。
同時、ゼフトもオウガメタルで耀く拳を打ち放てば──エアーデも連撃。藍色の流体を操って、鋭い刺突で巨躯を突き飛ばす。
●静寂
「……愉しいじゃないか」
血溜まりの上で、罪人はなお愉快げな色を見せていた。
「やはり只、月を見るよりも、斬り合いがあってこそだろう」
「そう、かな」
マヒナは月を見つめる。
月見の文化はとても素敵で、大好きだと心から言えるから。
「月がキレイって感覚はアナタにも分かるはず……それなら、周りの人間を排除するよりさ、皆で同じ月を見てキレイだね、って言い合えるほうが楽しいと思うの」
皆が仲良く。
それは月並みな願いだけれど、いつか叶ったら良いとそう思っているから。
その言葉にノチユも小さく頷いていた。星が瞬かなくても、月灯りが人に寄り添う──それだけでいい夜もあるんだと。
それでもノチユは、敵にそんな感性を期待しない。見れば今も、罪人は殺意に満ちているから。
「血飛沫を浴びたけりゃ浴びればいい。お前のだけなら、街の汚れもすぐに落とせる」
星色の光刃を握って一閃、奔り抜けながら清冽な斬撃を刻んだ。
呻きながらも、罪人は刃を掲げる。
「……足りないよ。全てを血に染める程でなければ──!」
「いいや、月の優しい彩りを纏った美しい夜に、お前が望む赤は不似合だ」
ラウルも翳す指先の軌跡に、鮮やかな花を生まれ咲かせていた。
「それに……俺にとって満月は特別だから」
命も月の彩も散らせはしないと。『弥終の花』──織物を束ねるように、重なる花の色彩で心を囚えゆく。
止まった罪人へ、マヒナは光の羽衣を明滅。煌めきの残滓でヤシの木の幻影を作り出していた。
瞬間、『ココナッツフォール』──落ちたその実で巨躯の脳天を打つ。
ふらつきながらも、罪人は斃れず刃を振り回した。けれどヴィはそれを剣で弾き、逸らし、いなしてゆく。
時に身を以て受けながらも、決して退かず。
「やられはしないよ」
護るべき人々がいるからと。淀まぬ心で獄炎を燃え盛らせ、巨躯の鎧を灼き裂いた。
ヴィの傷へはオズが寓話語り『奇跡の娘』──幸運の物語を連ねて奇跡を顕し、苦痛を祓い去ってゆく。
同時にゼフトが加護の魔法円を描けば、戦線は盤石。
「それじゃあ攻めようか」
直後にオズが攻勢に羽ばたき巨躯の頭上。体を撓らせて鋭い尾撃で打ち据えた。
揺らぐ罪人へゼフトも肉迫。銃口を零距離に押し当て『死の遊戯』──灼けつくマズルフラッシュと共に弾丸で膚に風穴を開けた。
「さあ、今だ」
「ええ!」
応えるエアーデも翳した手へと、天より光を呼び寄せる。
「そろそろお眠の時間よ、おやすみなさいね?」
夜に耀くそれは、南十字の力を聖なる衝撃へと変えた──『聖十字光』。放出された光で罪人を斬り裂き倒れ伏させた。
巨躯は敗北を認めぬように、手を伸ばす。
「何故、だ……」
「罪人よ、君には分かるまいよ──人々に託された想いを受け、闘う私達の強さを!」
アンゼリカは太陽の如き天光色のグラビティを収束していた。
個の力がいかに強くとも、想いを背負う自分達は負けないのだと。
「そして、これが想いの力のひとつ──光だ!」
この目映さに耐えられるものかと、放つ一撃は『終の光』。濁った闇を晴らすよう、罪人の命を跡形もなく消滅させた。
●月宵
夜長の月下に、賑わいが満ちる。
番犬達が周囲を癒やして人々を呼び戻したことで、祭りはすぐに再開されていた。長屋通りには既に多くの人が行き交って、秋宵を過ごし始めている。
だから番犬達もまたそれぞれに、歩き始めて──。
「いつかの七夕祭りで願った想いが、届いたね」
空にはまあるく仄彩づくお月様。
ラウルは柔く笑んで、隣の燈・シズネを見遣る。
シズネは、ああ、と頷いて。
「満月の夜に出歩けるような日が来るなんて──」
見上げた月がぴかぴかと、まんまる眩しいのが現実味がなくて。けれど、隣を見れば柔く笑むラウルがいてくれて。
願ったあの七夕の日と変わらないけれど、空には確かに満月があると実感できるから。
──夢じゃないんだ。
二人で見る初めての秋の満月に、穏やかな笑みを交わした。
そうして共に歩み出すと、月影に揺れる芒野原が見えて──ラウルはそのささめきに耳を傾けて、降り注ぐ淡い光にも眦を緩める。
「満月の下で君とこうして過ごせるのが、夢みたいだ」
浮き立つ心地で伝えれば……ふと瞳に映るのは、買い込んだ月見団子を頬張るシズネ。ぱくりぱくりあむあむと、今までの人生分のお団子を食べ尽くそうと大格闘してるから。
「シズネは月よりお団子に夢中だね」
「おめぇと一緒に、満月の下で食べる団子がこんなにうまいなんて知らなかったから──」
応えるシズネの、月よりも丸く膨らんでいる頬はご愛嬌。
見合わせた瞳にも、月色の光が燈るのが嬉しくて。笑い合えるのがラウルには愉しい。
シズネもまた、ラウルの柔らかい金色が月光を浴びていっそう輝いていたから。
──この月夜を過ごせて本当に良かった。
心の底から想う。
ラウルはそんなシズネへ素直な声を聞かせた。
「俺、今とっても幸せだよ」
「なんだ奇遇だな。今、オレも幸せだって、おめぇに伝えようと思ってたんだ」
その言葉が嬉しくて、ラウルは頷く。
「また来年も、一緒にお月見をしようね」
大好きな月の彩に染まる世界で、君が隣に居てくれる事が何より幸福だと識る。その心と共に、感じる夜風は優しかった。
空に昇る光を見つめながら、ひんやりとした空気の中を散歩する。
お祭りは一人で楽しむのも良いものだけれど。仲間と一緒だと愉しさも一入で──アンゼリカは思いと共に呟いていた。
「みんなで歩くのも、いいものだね」
「うん」
横を歩むオズも頷く。
オズにとっては見慣れない初めての祭り。
人々の和やかさと、趣きある月夜の家並み。地球に根付く風習の、その特別な雰囲気を味わうように見回していた。
「お月見って、こんなふうなんだね」
「今日は月がよく見える空で、良かったわね」
エアーデが仰げば、隣り合っているゼフトもそうだな、と応えて。
「後は月見団子さえ有れば完璧だな」
茶屋へと足を向けると──茶屋の店員にも協力してもらい、月見団子を皆に配った。
「お代は全部俺が持つぞ。遠慮なく食べて行ってくれ」
それはゼフトなりの皆への労い。
礼を述べて受け取ったマヒナは、幾つかをアロアロへ。
「食べる?」
するとこくこく頷くアロアロは、早速もりもりと食べ始めた。
それに微笑むマヒナと共に……ノチユも巫山・幽子と共に有り難く受け取って。お茶で頂きながら、満月をのんびり眺める。
今夜は星が見えないけど、雲間から覗く月もやわくて綺麗で。
視線を下ろせば芒や、月灯りを浴びる花々も見えるから……ノチユはその名を確かめるように一つ一つに目を留めた。
「あれがミセバヤで、あれがエキザカム……だよね」
「はい……」
幽子はこくりと頷き視線を共にする。
いつもより賑やかな茶会の中、ノチユはなんとなくそれがこそばゆく。それでも隣でいつもと変わらず甘味を楽しむ姿を見て、幸せを噛み締めた。
「おいしい?」
「はい、とても……」
そう幽子が笑むから、そっか、とノチユも瞳を和らげてまた食を進めていく。
マヒナはそんな二人を微笑ましげに眺めつつ、自身もはむりと団子を食べる。
「ニホンには月見団子があるし……お隣の中国ではゲッペイを贈り合うんだっけ」
「ほう、ゲッペイ?」
それはどんなものかなと、アンゼリカは団子を片手に興味深げ。マヒナはお店に丁度月餅も見つけて、それを示した。
「これがゲッペイだよ」
「なるほど……」
アンゼリカはこがねの瞳に物珍しげな色を湛える。
「こういったものは、中々一人では手に取らないものだね」
「せっかくだから、皆でシェアする?」
というわけで、マヒナはそれも買って皆で分けることにした。
受け取ったアンゼリカは、綺麗な焼き目を少々眺めつつ……一口。柔らかな触感と小豆餡の甘味に頷く。
「ん、これは美味だね」
「うん」
マヒナも優しい風味を楽しみながら空を見る。
月に見立てたお菓子を食べながら皆でお月見をする、そんな時間もいいなぁと、心から思いながら。
オズもまた夜天を仰いでいた。
「人にとって、月は大事なものなんだね」
「ええ、本当に綺麗だもの」
満月なら尚更と、エアーデはその光を見つめる。
「見てるだけでも飽きないわ」
「そうだね、暗夜の宝石だったって分かっても、やっぱりキレイ……」
いつまででも眺めていられると、マヒナも思いを新たにする心持ちだった。
「今年は傍に火星も見えて、共演が楽しめるね」
「火星か……どれだろう」
と、探す素振りオズに、マヒナは双眼鏡を貸してあげつつ場所を示す。
礼を言って、月も観察しながら……オズはマヒナから月に纏わる話を幾つか聞いた。
昔話に、外国の話。
誰にでも、物にすら物語がある。人々が天体へいだく神秘的なその数々に、オズは文化の深さを改めて感じる。
そんな語らいに耳を傾けつつ、アンゼリカはお茶を一口。
甘いものと共に頂くそれは格別に美味で……澄んだ風と共に、戦いの疲れを癒やしてくれるようだ。
周りを見れば、行き交う人々も穏やかな笑顔で。
「この祭りを護ることができて良かった」
皆が頷きを返すと、アンゼリカもまた月を眺める。
緩やかな秋の憩い。
楽しいこの時間を糧に。
「次も勝とう」
決意は強く。今は寛いだこの時間を堪能しようと、月見団子を口へ運んだ。
心地良い夜気の中、ヴィは香坂・雪斗と合流。
「お疲れさま!」
ぱちんと二人でハイタッチして、隣同士に並んで屋台へと歩み始めていた。
月灯りが主役の祭りでも、その辺りは仄かに明るく、温かく。愉しげに見回しながらも、ヴィは早速団子の店に足を向ける。
「月見には団子が欠かせないからねぇ」
「うん、お月見といえばやっぱりお団子!」
雪斗はほんわり応えつつ、それでも翠の瞳が惹きつけられるのは……。
「雪斗はみたらしが好きだね」
「ん、月見団子とはちゃうけど……だ、団子は団子やし、大丈夫やよね?」
「だいじょぶだいじょぶ、俺もみたらし食べる」
おいしいよねと、ヴィは視線を迷わす雪斗に穏やかに微笑みかけて。一緒に買って、月夜に歩み始めた。
路をのんびり進むと風が快く。甘じょっぱい団子の風味が、何とも風流で。
そして空を仰げば、美しい月灯り。
その優しさに、ヴィはふと思いが心に擡げる。『月がきれいですね』なんて言った文豪もいたっけ、と。
「ねぇ、月が……」
言いかけて、けれど途中で止める。
隣の雪斗もまた──心は同じ。
心に浮かんだその一言を、さらりと言えたらロマンチックなのだろうと思いながら……それでも何となく。
(「俺ららしくないかなぁ」)
だから背伸びせず、等身大の言葉にして。
同時に雪斗なりの大好きを込めて。
「ね、ヴィくん。一緒に食べるお団子が、一番おいしいねぇ」
「ああ、雪斗と食べる団子が一番美味しい」
ヴィもまたそう応えた。
そういう「大好き」があってもいいよね、と。そんな想いと共に。
だから雪斗もまた柔らかな微笑みを返す。
──こんな風に笑い合える小さな幸せが、ずっと続いていきますように。
その願いに応えてくれるように、月は目映い光で二人を照らし続けていた。
宴の後、緩やかに皆が解散してゆく中で──ノチユは幽子にそっと視線を向ける。
「まだ少し足りない気がするし、食事の屋台も見て回ろうか」
「はい……」
嬉しそうに幽子が頷く。と……そんな二人へマヒナが去り際、静かに歩み寄ってこっそりと言葉を伝えた。
「よかったね、幸せになってね」
ノチユはそれに少し照れたように礼を述べ。幽子も仄かに顔を赤らめつつも、頭を下げて──マヒナが帰ってゆくのを見送りながら、二人で歩み出す。
そして鯛焼きや苺飴を買って、一緒に食べながら月見。
空は月灯りに眩く、星は覗かないけれど。
「星だけじゃなく月もすきだよ」
ノチユの言葉に、幽子も頷いて月の光を楽しんでいた。
「幽子さんには、月の影って何に見える?」
「やっぱり、兎さんに……でも、お団子が沢山あるようにも見えます……」
と、幽子からそんな言葉が返れば、ノチユは成程と頷いて。いとしいと想う気持ちと共に、ゆったりと夜の時間を送っていく。
エアーデとゼフトもまた暫し、二人きりで歩む。
静かな路を進んでゆくと、仄かに吹き抜けていく風が優しくて。賑やかさとは違った穏やかな空気が快い。
何より月の下、隣で歩けることが嬉しくて──エアーデはふふっとほほ笑んだ。
「依頼の後だけど、こういうデートもいいよね?」
そう、悪戯っ子のようにウインクしてみれば……ゼフトも表情を柔らかくして。
「そうだな」
言いながら瞳を見返す。
「月明かりのせいか、君がいつもより綺麗に見えるから本当に来て良かったぞ」
そうしてエアーデの手を握ると、エアーデもまた握り返して、ゆっくりと歩んでいく。
家並みのある路から少し離れると、見えるのは遠大な自然の景色だ。
なだらかに続き、地平で空と交わる芒畑。さらりさらりと響くその音に揺蕩うように、風に揺れる秋の花々。
少し視線を動かせば、遠い街明かりも垣間見えて。
「夜だが、眩しいくらいだな」
「ええ」
幾つもの光が揺れて瞬いて。
少しだけ星空に似ていると、エアーデはそんな事をふと思う。
「しばらく、眺めていきましょうか」
それから一角に腰を下ろして、美観を愉しむ。
長くはない秋の、いっときの夜長。その心地を味わうように、二人は月と遠景を見つめていた。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年10月13日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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