夜の曇天から、霧のような滴が降っていた。
注ぐ雨音に漣の響きが混じるのは、遠くない何処かに海辺が在るからだろうか。天気の変遷が齎す音の中で、天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)はふと立ち止まっていた。
「……」
ぐるりと周囲を見回す。
それは夜を満たす雨の景色を眺めているだけではない。
暖かな季節に肌を撫ぜる雫は、快さも与えてくれる。けれどそれ以上に心を粟立たせる何かをその空気に感じていたのだ。
祇音にとってそれは確かに、記憶にある予兆だったのかも知れない。
水溜りがぱしゃりと弾ける音が聞こえて、振り返る。すると無人の景色の中、立っている一人の影が見えていた。
「……アエテルヌス。……」
祇音は呟いてから微かに口ごもる。
それは水面のように美しい髪を持つ、ドリームイーター。けれどその美貌の中で、モザイクが強く明滅し、昏い翼が俄にはためいていた。
「おぬし、まさか自身の力を……」
『きっと、変わる事は出来ていない。けれど判ったことがある』
彼女は小さく言って、一歩一歩と歩んでくる。
自分の声音に、何処かまだ確信し切れていない色もありながら。それでもモザイクは夜闇を照らすほどに眩く鋭かった。
『大いなる変化の為に小さな変化を無視できない。ならば、全てを変えてしまえばいいと。全てに、死を齎せばいいと』
あなたにも、それ以外の全てにも、と。
夢喰いは水晶を煌めかせ、静かな殺意を発露する。いつしか雨が、痛いほどに強くなっていた。
「集まって頂き、ありがとうございます」
雨の夜のヘリポート。
イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロスへ説明を始めていた。
「天崎・祇音さんが、デウスエクスに襲撃されることが判りました。予知された未来はまだ訪れてはいませんが、一刻の猶予もないのが事実です」
祇音は既に現場にいる状態。
こちらからの連絡は繋がらず、敵出現を防ぐ事もできないため、一対一で戦闘が始まるところまでは覆しようがないだろう。
「それでも、今から現場へ急ぎ、戦いに加勢することは可能です」
時間の遅れは多少出てしまうけれど、充分に祇音の命を救うことはできる。だから皆さんの力を貸してください、と言った。
現場は海辺に近い丘。
辺りは無人状態で、一般人の流入に関しては心配する必要はないだろう。
「皆さんはヘリオンで現場に到着後、すぐに戦闘へ入って下さい」
夜間ではあるが、周辺は静寂。祇音を発見することは難しくないはずだ。
「敵はドリームイーターです」
高い戦闘力を持っており、一人で長く相手できる敵ではないだろう。放置しておけば祇音の命が危険であることだけは確かだ。
それでも祇音を無事に救い出し、この敵を撃破することも不可能ではない。
「祇音さんを助け、敵を倒すために。さあ、急ぎましょう」
参加者 | |
---|---|
天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948) |
ミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815) |
イッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770) |
深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812) |
月岡・ユア(皓月・e33389) |
安海・藤子(終端の夢・e36211) |
アルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784) |
ラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547) |
●不変
夜天が昏く明滅するように、雲を畝らせ雨を降らす。
「なんとも陰鬱な天気ですね」
空より降り立ったミリム・ウィアテスト(リベレーショントルーパー・e07815)は、頬に触れるその冷たさに呟いていた。
既に髪も露濡れている、けれどそんな事を気にするのはほんの一瞬。この何処かに、危機に瀕する仲間がいるのだから。
翼で風雨の中を舞い降りた月岡・ユア(皓月・e33389)も、静けさの中に確かに響く剣戟を捉えている。
「――あっちから、戦う音聞こえる。行くよ!」
そうして真っ直ぐに前進すれば、皆も走り出した。
ミリムもまた頷いて。
「今、助太刀しに行きます……!」
言葉と皆に続いて──その戦場へと向かってゆく。
「やはり来たか……」
透明な滴に水晶の光が反射する。
触れてもいないのに、暴走する力が膚を灼くようで。その夢喰いの姿に天崎・祇音(忘却の霹靂神・e00948)は警戒交じりに口を開いていた。
「しかし、そう来るとは予想外じゃな」
『これが私に出来る、唯一の方法』
夢喰い──アエテルヌス・アポカリュプスは手を翳すとモザイクで刃を為す。
『だからあなたに死を与える』
瞬間、その全てを雨のように注がせてきた。
だが黒竜のレイジが飛び立ち衝撃を受け止めると──祇音は嵌めたリングのトルマリンを煌めかす。
「戦わぬ訳には、いかぬのだろうな」
刹那、雷光色の刃を顕現。地を蹴って眩い剣閃を奔らせた。
靄を散らしながらも、アエテルヌスは一切退く様子を見せない。力を暴発させるよう、巨大に成長させた水晶で祇音とレイジを包む。
生命を奪われる感覚に、祇音は紅の瞳を細めた。
「……これがお主に秘められた力か」
難儀しそうじゃな、と。祇音の呟きは戯れではない。
事実、レイジの回復を以てしても追いつかず、微かにふらついていた。
体力を奪う斬撃で自己治癒を兼ねても、直後には宝石化で蝕まれる。今一度、この夢喰いの力を認識させられる思いだった。
アエテルヌスは優位を決定づけようと手を伸ばす。
『あなたに勝って、私は全てを得る』
「──いいや、そうはいかない」
──と。
声と共に降りしきる雫を浴びて、宙に燿く銀色があった。
それは柔らかな尾と髪を眩く靡かせ、夜空に跳躍する深緋・ルティエ(紅月を継ぎし銀狼・e10812)。
アエテルヌスへと一瞬で迫ると一撃、鋭い拳でモザイクごと手を払いのける。
後退する夢喰いへ、同時に翔び抜けるのがユア。
昏い空に月を象るよう、光を刷いて蹴りを打ち──下がった敵を双子妹のビハインド、ユエの金縛りで押し留めさせ、振り返った。
「お待たせ♪ 怪我、大丈夫?」
「……うむ。済まぬ」
祇音は現れた仲間の姿に、瞳を和らげて頷く。
その頃にはミリムもまた駆けつけて。
「助けに来ましたよ天崎さん!」
内心は心配満々に、けれど声は元気を保って。『コルリ施療院の紋章』を描き、優しく照らして傷を治癒していく。
「それじゃ、外せるものは今のうちに外しましょうか」
と、次いで歩み寄るのは安海・藤子(終端の夢・e36211)。
雨に濡れた大地の奥底から揺らめく冷気を昇らせて。魔力として顕した零下の霧を、体内へ注ぐことで祇音とレイジを蝕む麻痺を祓っていた。
同時に駆け寄ったイッパイアッテナ・ルドルフ(ドワーフの鎧装騎兵・e10770)も、救護のオーラを瞬かせて。
真っ直ぐな意志を光に具現するように、優しく苦痛を拭い去っていた。
「これで傷の方は問題ないはずです」
「じゃあ、後はやっておくよ」
と、憂愁の旋律を奏でるのはアルシエル・レラジェ(無慈悲なる氷雪の白烏・e39784)。メロディを空へ昇らせ、祇音を万全にしながら仲間へ破魔の力も与えていく。
遣るべきことをこなしながら、声音も口調も飾られていないのは、余裕を欠いてもいるからだろう。
それでも祇音が斃れていないことへの安堵はあった。
「……無事みたいだな。良かった」
「皆のおかげでのぅ。助かった」
祇音が言えば皆は頷いて、敵へ向き直る。
アエテルヌスは宙で体勢を直し、攻撃の機を窺っていた。故にその姿をアルシエルはしかと見据えて。
「好きにさせるかよ。兄……ラグエル、護りを」
「うん。判ったよ」
頷くラグエル・アポリュオン(慈悲深き霧氷の狂刃・e79547)は剣に星の光を凝集させている。
敵へ向かうアルシエルの背を見つめて、その心を少しだけ慮るように。今はただ見守りながら──冬の星々を写し取ったように星座を煌めかせ、前衛を防護した。
アエテルヌスも既に攻撃態勢に入っている、が。
「さあ、今です」
イッパイアッテナの声に応えて、相箱のザラキが疾駆。跳びながら足元に咬み付き、敵を地へ振るい落とす。
そこへ藤子の足元からオルトロスのクロスも奔り抜け、鋭利な斬撃を見舞えば──アルシエルがカードを翳していた。
「死の洗礼を、受けろ」
刹那、描かれた死神を虚空に喚び出す。
ⅩⅢ【Tod】──死の化身に、魂を狩る刃を大振りに震わせて。膚を一閃に斬り裂いた。
●識変
雨滴に水晶の欠片を交えながら、夢喰いは宙へ間合いを取っている。
此方が複数に増えたと見ても、その瞳には変わらず殺意が浮かんでいた。
『全てに死を与えるなら、同じことだから』
「……本当に、祇音も変なのに付きまとわれてるね」
ルティエが小さく呟くと、祇音は一度目を伏せながら──またその敵を仰ぐ。
「これも因果じゃろう。因縁、といっても良いかも知れぬが」
「何度も戦った、あの変化の権化、か」
藤子は仮面に手をかけると、それを取り払ってアエテルヌスを見据えた。
「縁が深いのはいいが。最近の様子からして面倒以外の何物でもないな」
それでも声音に憂いもないのは、ここに信頼する仲間達が並ぶからでもあろう。
「ま、今回も凄いメンツがそろってることだしな。みんな無事に、帰れるだろ」
「……ああ」
ルティエも無論、敗走するなど考えもしていないから。同意するように、鋭い声音を夢喰いへ向ける。
「お前に祇音をやるつもりは無い。祇音を死なせるつもりも無い。今日、死を得るのはお前だけだ」
『……それでは、変化は齎されない』
アエテルヌスが言っても、ルティエは首を振り。
「お前にもたらされずとも私達は変わる」
「その通りです。夢喰いの思い通りになど──させはしない!」
イッパイアッテナは濁らぬ心で言ってみせると奔り出して。突き出す杖で風を裂く打撃を加えていた。
敵が傾ぐ一瞬に、藤子は剣先で円周を描くように。
「これ以上のおいたをさせないためにな」
奇跡に星屑を散らせて、加護を降ろして前衛の護りを確固とする。
「では、私は皆さんへ力を」
と、声を継ぐラグエルは夜陰よりも昏い冥色の靄を揺蕩わせ、己の殺戮衝動の一端を味方へ分け与えていた。
「アルシエル」
「ああ」
戦線が整えば、応えるアルシエルは攻勢へ。燿く翼で夜風を除けて、高速飛翔で距離を詰めて夢喰いへ氷杭を抉り込む。
『……っ』
「こっちだよ」
宙でよろめくアエテルヌスを、頭上から見下ろすのは月色の瞳。
ユアが薄雲に溶ける月光のような、淡くも輝かしい焔をその脚に宿して。空中で踊るように旋転しながら、燃え盛る蹴撃を直上より叩き込んでみせた。
地へ墜ちたアエテルヌスは、モザイクを鉱石状に変えて撃ち出す、が。
祇音へ迫る衝撃をイッパイアッテナが身を挺して庇っていた。祇音の邂逅を、その戦いを支える為に。己に出来ることをただ尽くせるようにと。
直後にはミリムが景色に眠る命の記憶から、息づく生命の魔力を抽出。雨に交えて降らせることで前衛を癒やしていく。
ミリムは掌の光球にも魔力を注ぎ、煌々と輝かせ。ルティエへと与えることで膂力を飛躍的に引き上げた。
「攻撃はお願いします!」
それに応えるよう、ルティエは既に敵前。はっとするアエテルヌスに、一瞬の猶予も与えず剣閃を奔らせ月弧の傷を刻み込む。
モザイクを零しながらもアエテルヌスは抗う姿勢で。水晶を伸ばして前衛の躰を捕らえてくるが──。
揺らぐ陽炎でそれを溶解させるように、藤子が濃密な魔力を昇らせていた。
「あとのフォロー頼むぞ、ラグエル」
「了解」
声を返すラグエルもまた、凍て風を高空に吹かせて。
降りしきる雨を凍結させて、澄んだ氷粒を注がせて──治癒の力と共に膚に融かすことで苦痛を退けていく。
ルティエの匣竜、紅蓮も治癒の焔を盾役に注げば前衛は万全。自由を取り戻した祇音は──下がらず夢喰いを見ていた。
「……成程」
不変の力を幾度も浴びて。
アエテルヌスというその存在を、間近で感じて。
以前から覚えていた感覚に、今改めて得心するように。そうかと、呟いていた。
「お主の不変が何なのか……ついに分かった」
尤も、と。艶めくオウガメタルを拳に纏い、アエテルヌスに踏み込む。
「ここで答えは言わぬ。今のお主には届かぬからな」
『……ならば私も、死を運ぶだけ』
アエテルヌスは敵意の瞳で、水晶を激しく煌めかせ連撃を狙ってきた。けれど祇音は躊躇わず懐に入り、稲妻の弾ける打突を見舞う。
宙へ煽られながらもモザイクを差し向けようとする夢喰い、だが。
「させないよ」
ふわりと風が吹いて空が燿く。
雨の間をユアが真っ直ぐ滑空しながら、靭やかに脚を撓らせて──刃の如き鋭い蹴撃を打ち込んでいた。
●雨夜
地に倒れ込むアエテルヌスは、それでも這うように起き上がる。
その姿を祇音はじっと見つめていた。
想起するのは幾度も重ねてきた戦いのこと。
「アエテルヌス。手稲鉱山でお主を見つけ、そこから全てが始まったな。そこから幾度と相まみえ、お主と対峙できるまでに至った」
それは終わりを見据えた言葉。
アエテルヌスはふらつきながらも立って、拒むように声を零した。
『私はまだ、終わるわけにはいかない。変化を、齎す為に……』
「いいや。……決着をつけよう。アエテルヌス。これが最後じゃ」
瞬間、祇音が奔るとアエテルヌスは目を見開いて、モザイクを飛ばして来ようとする。けれどその足元に這い寄る冷気があった。
「──氷に、裂かれるといいよ」
それは声と共にラグエルの漂わせる『氷華咲檻』。侵食するように、脚を凍らせ膚を氷に蝕んで。動くほどに鋭い氷で躰を切り裂いてゆく。
敵が止まった一瞬に、アルシエルは再び指先にカードを挟み、召喚する死の使いに夢喰いの生命力を断たせてゆく。
宿す光を弱めながらも、アエテルヌスは水晶を伸ばしてくる、が。
「通すかよ」
アルシエルは素早く横っ飛びに防御。攻撃を祇音へ及ばせない。
受けた傷は決して浅くないが──直後にはミリムが剣を輝かせて癒やしの紋章を描き始めていた。
「誰も死なせはしませんよ。なんていったって私がついてますからね!」
耀く紋章は深き慈愛を与えるように、傷を浚って消してゆく。
同時にイッパイアッテナも小型機を撒いて、治癒の光を照射させて。余波を受けていた前衛を、眩く照らし出すように回復させていた。
「皆さんの体力は、大丈夫でしょう。後は攻撃を──!」
「ええ!」
頷くミリムは身に纏うブラックスライムに大口を開けさせて。
「さあ、たっぷりと食らい付きなさい……!」
共に真っ直ぐに飛び込んで、水晶を食い破るようにして深手を与えていく。
弱りながらも、アエテルヌスはあくまで祇音を狙うが──。
「そんなに祇音ばっかり見られちゃ寂しいじゃないか」
横合いから飛び込む藤子の姿。
夜に溶けるような闇色の魔力を剣に宿して。至近に入り込み、不敵に笑んだまま連閃、剣撃を奔らせ全身を斬り刻む。
よろめく夢喰いへ、ルティエも地獄を纏わせた刃で一閃。詠唱と共に獄炎を紅の飛電へ変えて、梅香を纏う大狼の姿へ変貌させる。
『紅月牙狼・雷梅香』──噛砕する一撃がアエテルヌスの翼をもぎ取った。
「ユア」
「うん」
応えながら、ユアは雨音に美しい歌声を交えた。『月魄ノ夢』──昇る月魄の旋律が月を顕現させ、その輝きで虚無を与えゆく。
命を薄らがせる夢喰いを見下ろして、祇音は雷の力を解放して纏い、高く翔んでいた。
「さらばじゃ、アエテルヌス。必ずそこへ至ると、やつに伝えておくがよい」
目も眩む程の雷を、巨大な狼の如く変貌させて。
墜ちる一撃で落雷のように──弾ける衝撃でアエテルヌスの命を貫いた。
水晶の残滓が消えていくのを、祇音は最後まで見届けていた。
そうしてその跡形も完全になくなるのを確認して──ゆらりとよろめく。大放電によって力を失い、極度の疲労に苛まれたのだ。
ユアは駆け寄って声をかける。
「大丈夫?」
「うむ。皆も、かたじけない」
「……そう。無事で良かった、けど。……あんまり周りを心配させるような無茶はしないようにね」
ルティエが言うと、祇音は小さく頷いて。それきり座り込んで眠りについた。
横たわるその体を、藤子は膝に寝かせる形にしながら──アルシエルを見上げる。
「ほら、祇音が寝ちゃったんだから運んでくれる? 筋力なくて」
「……」
アルシエルが戸惑っていると、ユアもその様子を見て悪戯っぽく笑った。
「そうだね。お願いしてもいい?」
「……ああ」
少し迷うも、最後にはアルシエルは頷いて。宝物に触れるように、祇音をそっと抱き上げる。
ラグエルは弟のその背中をじっと見つめていた。応援したいような、そっとしておきたいような、諦めさせたいような、複雑な心境で。
イッパイアッテナもまた、面々を静かに見守る中──藤子は立ち上がり、周囲のヒール。ミリムもまた助力して一帯の景観を保った。
「これでやるべきことは終わりましたね」
「ええ」
応えながら、藤子は戦場の跡へ一度、振り返る。
「変化、ね」
変わらぬものもあれば、避けられない変化も有るのかも知れない、と。
「いつまでも変わらずに瞬く星はないものね……滅びに向かい輝く星はもう空にはいないかもしれない──」
なんて感傷的かしらと。
その呟きに、ラグエルは小さく頷いて。
「人知れず変わるモノ、意識的に変わるモノ、変えなきゃいけないモノ……変化って様々だよね」
でも、それが良いのか悪いのかはきっと誰にも判らないだろうと。
弟の姿を見て──自分もこの年でまともに恋愛なんてしてこなかったよなぁ、と自身を振り返りながら。
でも弟優先なのは変えられそうにないから。変化は大事だけれど無理に起こす事ではないのだろう、と思って歩み出す。
そんな会話を背に聞いて、アルシエルは祇音の顔を見下ろした。
──傍で守る事さえ出来ればそれでいい。
(「これはきっと俺にとっての『変化』……なんだろうな」)
思いを抱きながら、腕にまた少し力を込める。
その姿を見送って、ユアもユエと共に歩を進め出していた。
──無事で、よかった。
心から呟けば、雨滴の間に月が覗いて。それがとても眩く見えた。
作者:崎田航輝 |
重傷:なし 死亡:なし 暴走:なし |
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種類:
公開:2020年6月17日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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