手毬咲きの日

作者:崎田航輝

 絹のような白雲が陽光を和らげている。
 吹く風は優しく穏やかで、仄かに潤いを含んでもいて。その空気は夏本番の前の、涼やかな時節の訪れを告げているようだった。
 そんな時期に庭園に咲き誇る──美しい花々がある。
 他の季節では強く色づかぬ散歩道を、清廉な色彩で染めるそれは紫陽花。
 歩みながら横を見れば、澄んだ青色の手毬咲きが見えて。そこから少し視線を動かせば、今度は淡い紫の萼を見つけることが出来た。
 時に同じ色の絨毯のように、時にグラデーションを描くように。同じ紫陽花でも景色は飽くことなく鮮やかで、この時期には訪れる人々も多い。
 園内にあるカフェでもまた、その景色を眺めながら季節のスイーツを味わえるから。過ごしやすい気候も相まってこの日は一層賑わっていた。
 ──けれど。
 そんな花々の色彩に、影を落とすような暗い影が現れる。
「花、か。儚く無為なものだな」
 静かな声音で見回すそれは、鎧兜に身を包んで鋭い剣を握り締める罪人──エインヘリアル。
「見る間に散って、消える。──力無い者の命と同じように」
 昏い瞳で言ってみせると、庭園の道を踏み出して。刃を振り抜き人々を斬り裂いていく。
 花弁と共に血潮が散ってゆく。絶望の声が劈く中、罪人だけが静かに剣を奔らせ続けていた。

「紫陽花の季節、ですね」
 涼風の吹くヘリポート。
 輝島・華(夢見花・e11960)は快い空気の中で、呟きを零していた。
 ええ、と応えるのはイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)。
「ある庭園では、丁度満開になって見頃だという話ですよ」
 言いながら、ですが、と声を微かに鎮めて皆を見回している。
「そんな中にエインヘリアルが出現することが予知されました」
 現れるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人だろう。
 放置しておけば無論、人々が危険だ。
「それでも、華さんの情報提供のおかげで悲劇を未然に防ぐことも出来ます」
 ですからぜひ撃破をお願いしますと、イマジネイターは言った。
「勿論、出来ることならば力を尽くしましょう」
 華が言えば、イマジネイターは頷いて説明を続ける。
 現場は庭園の道の一角。
 戦場となる場所は道幅も広いため、戦うのに苦労はしないだろう。
「一般市民は警察により事前に避難させられます。皆さんは戦いに集中できるでしょう」
 周囲の景観も荒らさずに終われるはずだ。
「ですから、無事勝利出来ましたら……皆さんも庭園やカフェを楽しんでいってはいかがでしょうか」
 青や紫の紫陽花が連なって、美しい景色だという。
 カフェでは旬の枇杷を使ったメニューが特に人気で……パフェにケーキ、コンポートやソルベ、タルトなど様々な形でその味を楽しめるだろう。
 傍らのライドキャリバー、ブルームと共に──華は頷く。
「そのためにも、平和を護りましょう」
「ぜひ、頑張ってくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)
輝島・華(夢見花・e11960)
シャルンホルスト・レギンレイヴ(静寂を奏でる熾天の抱擁・e22853)
レヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)
小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)
伊礼・慧子(花無き臺・e41144)
キャルディム・ヴァレファール(黒猫は自由を求め天意に叛逆す・e84163)
ティニア・フォリウム(小さな鏡・e84652)

■リプレイ

●彩園
 涼風に青と紫の色彩が靡いている。
 見回せば、美しい花が咲き誇っていて。
 園に歩み入ったキャルディム・ヴァレファール(黒猫は自由を求め天意に叛逆す・e84163)は鮮やかなその景色を眺めていた。
「紫陽花はうちの庭には無いわよね。あの庭色々咲いてるからよくわかんなくなるけど」
「うん。こうやって咲く姿を見ると、紫陽花も綺麗だね」
 と、応えるのはシャルンホルスト・レギンレイヴ(静寂を奏でる熾天の抱擁・e22853)。初夏の美観に瞳を優しく細めていた。
 けれど。
 道の先から、不似合いな巨躯が顕れるのが見えたから──ジョーイ・ガーシュイン(初対面以上知人未満の間柄・e00706)は息を吐く。
「またアスガルドの奴らが地球にゴミ捨てやがったか……クッソ面倒くせェ」
 ぼやきは乱暴に。
 けれどやる気満々に、顔に戦意も表して。
 冥刀を手に奔り出せば──皆も続いて前進。鎧兜の罪人、エインヘリアルへと正面から立ちはだかっていた。
 罪人は此方に気づくと、静かに刃を抜く。
「……自ら斬られに来たか。花と同じ、脆く儚い命が」
 その声音は憐れむようだった。
 故に、ティニア・フォリウム(小さな鏡・e84652)は淡く瞳を閉じる。
「儚いからこその輝きもあるのに、それが理解できないのね。目の前に素敵な見本があるのに……残念」
 憂いを含みながらも、宣戦の代わりにひらりと蝶の翅で翔び。
「それとも、あなたを散らしたら理解してくれる?」
「……、やってみればいい」
 罪人は剣を握り締め、踏み込んでくる。
 が、その頃にはジョーイが刃を振り上げていた。
「次から次へと粗大ゴミが出てくんなら──こっちも暇つぶしがてらに処分してやるよ!」
 瞬間、眩いオーラを纏い『鬼神の一太刀』。肩口を一閃、深く抉る。
 その間隙にシャルンホルストは虚空を輝かせ『ベリアル・バンシィ』を招来。告死の妖精が、それ故に死を拒み遠ざけて。仲間へと魔を退ける活力を与えた。
「ありがとうな、これで存分に攻められるぜ!」
 護りを受け取ったレヴィン・ペイルライダー(己の炎を呼び起こせ・e25278)は、そのまま奔って跳躍。
 靭やかに旋転すると、氷雪煌めく冷気を脚に纏って一撃。痛烈な蹴り落としで膚を氷に蝕んだ。
「今だ、宜しく頼むよ」
「それじゃあ、ねーさん、行くよ?」
 と、涼やかな声音で目を向けるのは小鳥遊・涼香(サキュバスの鹵獲術士・e31920)。
 ロシアンブルーの翼猫が応えるように、白翼で爽風を送り仲間を守護すると──涼香は漆黒の髪をふわりと揺らして敵へ。
 手を突き出すと流動するスライムを放ち、巨躯の鎧を穿つ。
 よろけながらも、罪人は剣圧を繰り出してくる、が。
「少しだけ、耐えていてください」
 ──皆様の苦痛はすぐに祓いますから。
 柔く、けれど真っ直ぐな言葉で。
 杖に花色の光を瞬かせるのは輝島・華(夢見花・e11960)。
 弾ける稲妻で眩い花を咲かせるように。雷光の壁を展開し、前衛の護りを固めながらも傷を拭い去ってゆく。
 キャルディムもデンドロビウムの攻性植物を解き放っていた。
 小さな人型にも見えるそれは、頭の花弁をふりふり揺らすと蔓を伸ばし。果実を生らして黄金の光で戦線を強固に保つ。
「これで大丈夫そうね」
「ええ。ブルームは攻撃を」
 と、華が声を向けると疾駆するのはライドキャリバー。さらりと花弁を踊らせて、花風に乗って鮮やかなスピンを繰り出した。
 衝撃に揺らぐ巨躯へ、ティニアは『杯に湛えし勝利への渇望』。咲かせた苧環を、絡みつくよう急成長させ巨体を縛り上げる。
「さあ、今の内に」
「──ええ」
 声を返して、疾風の如く奔るのは伊礼・慧子(花無き臺・e41144)。地を蹴って空に上がり、星を纏うように脚に光を抱いていた。
 罪人は藻掻きながらも、敵意を収めず仰ぐ。
「……抗おうとも無為だ。貴様らは最後には儚く散る。花のように」
「そうでしょうか」
 と、慧子は風を切って降下しながら返す。
「花が散るのは、伸びた髪を切るように、不要になった部分を切り捨てたに過ぎません。つまりは……アスガルドに切り捨てられた貴方こそが散る花弁と大差ないのです」
 ならば何方が負けるのかは、決まっていると。放つ蹴りで鋭く巨躯を突き崩す。

●決着
「……俺が散る花弁なら」
 膝をつきながらも、罪人は声を返す。
「俺に斬られる花や命は、それこそ無為なものだろう」
「花や人が無為?」
 そうかな、と。レヴィンは肩を竦めていた。
「皆ここまで咲くのに苦労したと思うぜ?」
「うん。儚いかもしれないけど、無為ではないよ。花は摘むものじゃなくて、愛でるものだもん」
 涼香が言うと、罪人は首を振る。
「すぐに消えてしまうことに、変わりはない」
「それでも皆、精一杯日々を生きています。だからこそ……あなたに壊させはしません」
 華が言葉に意志を込めれば、シャルンホルストも心同じく頷いた。
 花々の美しさや力強さを少しでも感じられたのなら、別の出会い方もあったのかも知れないけれど、と。
「命の尊さを知る事も出来ないのは不幸な事だと思いますが。それを踏み躙ろうとする者を見過ごす事は、決して致しません」
「……ま、とにかく今日はこの場所に用があるだけだから」
 と、手を掲げるのはキャルディム。
「──敵には興味無いからさっさと死んで。邪魔」
 瞬間、天より無数の光剣を注がせる。『シャイニングイラプション』──巨躯を縫い付けマグマで飲み込み、光の鎖を巡らせた上で光刃で串刺しにした。
 転げる罪人へ、慧子は刃を突き立て鎧を継ぎ目から破壊。肉体ごと貫いてみせる。
「散る恐怖を、少しは感じられますか」
「……っ」
 罪人は呻きながらも、反撃を目論み起き上がる。
 が、その後方の空へ軽やかに翔び回るのがティニア。ひらひらと光の残滓を刷いて、剣閃で裂傷を刻んだ。
「次、お願いするね」
「うん」
 頷く涼香は鮮麗な氷の杭を撃ち放ち、巨躯の腹部を抉ってみせる。
 血を吐きながらも、罪人は剣を振り回した。暴風の如き衝撃に、ジョーイは自身の剣先を逸らされる。
(「チッ……流石に簡単には当たらねェか」)
 だが、それが退く理由になりはしないと更に踏み込んで。
「この間のドラゴンに比べりゃあなんてこたァねェな!」
 横一閃に振るう刃で残る装甲を両断する。
 直後にはシャルンホルストが命の旋律を詠い治癒。華も清廉な雨を降らせ体力を保った。
 華はそのまま『青薔薇の奇跡』。風に舞わす花弁で巨躯を囚え、反撃を許さない。
 そこへキャルディムがビームの刃で四肢を裂き瀕死に追い込むと。
「後は頼むわね」
「ああ!」
 レヴィンが銀色のリボルバーを向けていた。
 確固とした決意と、迷わぬ心で引き金を引いて。
「終わらせるぜ」
 繰り出す射撃は『贅沢な弾丸の使い方』。無数の弾で命を貫き、罪人を四散させた。

●花彩
 涼色の花園に平和が帰ってくる。
 番犬達の手で美しい景観を取り戻したそこは、人々も戻り元通りの賑わいとなっていた。
 そうして番犬達がそれぞれの時間を過ごし始める中、ジョーイもカフェへ。
「適当に暴れたら帰る予定だったがな……」
 コーヒーブレイクくらいはしていくかね、と。
 静かなBGMの中、席について注文。豆はストレート、焙煎はシティローストと推されているスタンダードな一杯を頂く。
 カップを傾け一口啜ると、苦味と酸味が丁度良く。すっと入り込む、癖のない風味が楽しめた。
「ふぅ──」
 息をついて外を眺める。どの席も紫陽花が見える位置にあり、ジョーイの座る場所も例外でなく。
「花眺めるって柄でもねェが……」
 呟きつつ、コーヒーの味は悪くないので心は寛ぐ。
 あてに注文した菓子も中々美味だったので、つまみつつ。コーヒーを二杯三杯と、味わいながら過ごしたのだった。

 道の舗装が無事であることを確認しつつ、ヒール作業を終えた慧子は──賑わいが戻る中、カフェへと歩んでいた。
 枇杷と聞いては、行かずにはいられないから。
 紫陽花は道すがら眺める程度に留めて……真っ直ぐに店へ。涼やかな席につくと早速メニューを開く。
「どうしましょうか──」
 品は多彩で、楽しみにしていた分迷ってしまう。
 生のまま食べるのは慣れていて、それなりに酸っぱいというイメージもあるから、想像がつくのはタルトだけれど──。
「ケーキ、気になりますね」
 どんな仕上がりだろうか、と。注文するとやってくるのは綺麗なショートケーキ。
 クリームは淡く橙色がかっていて──果実はシロップ漬けだろう、きらきら艶めいている。
 一口食べると……芳香の豊かなクリームは口溶け良く、果実は仄かに柔らか。溢れる果汁と優しいスポンジも相性良くて。
「美味しいです……」
 紅茶で一息つきつつ、次はタルトも頼もうかと。食を進めながら、慧子はメニューに視線を落としていた。

 瞳に似た青、髪に似た紫。
 そんな彩の紫陽花には、とても親近感を覚えるから。
「こんなに綺麗で力強く咲いているのに壊そうだなんて」
 エインヘリアルも勿体ない事をしようとしたものです、と。呟きながら、華は庭園を散歩していた。
 だから阻止出来て本当に良かったと、感慨も一入で。花を楽しんだ後は、お腹も空いてきたからとカフェへ。
 席について開いたメニューには、沢山の枇杷の文字。
「確かに美味しい季節ですよね。私は……パフェが食べたいです、いただけますか?」
 注文すると、琥珀色の果実たっぷりのパフェがやってくる。
 香りは仄かに芳しく……果実は滑らかな口当たりと上品な甘味で。
「……とっても美味しいです!」
 クリームやアイスにも果汁が入っていて、最後まで飽きずに完食。紫陽花も綺麗だったしパフェも美味しくて楽しかったと、満足だ。
「ここを守れて良かったね、ブルーム」
 ブルームも駆動音で応えるから、華は微笑み……暫しゆっくりと時間を送っていく。

「庭園とカフェとどっちから行きたい?」
 私はどちらも好きだからキャルちゃんが選んでいいよ、と。
 シャルンホルストの言葉に、キャルディムはうん、と応えながら……少しその顔を見つめていた。
(「緋色とは全然違うけど、時々似てる……自分を置いてあたしを優先するとことか」)
 強い既視感を覚え、温かいような、恥ずかしいような気持ちだ。
 勿論それを口にするでもなく。
「ぐるっと庭を見て回ってからカフェ行きたい」
 というわけで花を眺めて散策。
 青に紫、美しい色を見せる紫陽花をシャルンホルストは見つめていく。
「花の色が土の酸性度で変わるのは有名だけど、実際に育ててみると思った色に咲かせるのは意外と難しいんだよね。思い通りにならないことも含めての楽しみだと思うけど」
「ふーん」
 キャルディムは頷きつつ、花に顔を近づける。
 どんな香りだったかと思ったのだ。雨のにおいというイメージが頭にはあるけれど。
「少しだけ、甘いにおい」
「うん。でも全体に、香りが強い花じゃないよね」
 穏やかな花なのかも、とシャルンホルストが呟く。
「花言葉は多彩だけど──」
 と、言って挙げられた中の一つが、キャルディムは少し気になって。
「家族の結びつき、ね。……そう。……ねえ、紫陽花って、今からでも育てられる?」
「苗木があれば植え替えは間に合うと思うよ。紫陽花は育てやすい方だし……うちで育ててみる?」
 それに、うん、と──キャルディムは頷いていた。
 その後、二人でカフェへ。
「ここもいい感じね。一緒に思いっきり食べちゃいましょ」
 と、キャルディムはジャンボパフェを注文。果実にアイスにワッフルに、たっぷり盛られた甘味を二人で味わって。
「ん、おいしいわ」
「そうだね」
 シャルンホルストも優しく笑んで。共にゆったりと過ごしていった。

 風に波打つ花々が、色の濃淡を作っている。
 レヴィンはそんな景色を眺めて漫ろ歩いていた。
「キレイだな、本当に絨毯みたいだ」
 見下ろす高さで何処までも続く花。敷地を満たす色彩は幻想的な程だ。
 故にこそ、先刻の敵を想起する。
「オレもアイツだったら、花や景色に対して何も感じなくなるのかな……それじゃあ世界を旅しても全然楽しくなさそうだなぁ……って」
 はっとして緩く首を振り。
「また旅の事考えてるなオレ。……よし、カフェに行こう」
 思い直して、丁度見えてきた店に入ってお品書きを眺めた。
「枇杷大福は……おっ、あるな」
 餅好きには堪らないその品を早速注文。もっちりとした皮と、中にまるまる一つ入った瑞々しい果実に舌鼓を打つ。
「景色も良いし。紫陽花が見頃のうちに今度デー……いや、3人で来るか! うん」
 彼女も頭に浮かべつつ、同居人の友達の顔も過ぎらせて。そう決めて、今日は一先ずお土産を手に帰ることにしたのだった。

 涼香はカフェにて、お品書きを見ているところ。
「ビワって、他にない果物だよね、今しか食べられないし」
 品の写真に心踊るように、端まで眺めて迷いつつ。
「ううん、なやむけど……やっぱりパフェかな!」
 注文すると、後は心待ち。
 大きめの器がやってくると瞳を煌めかせて迎えた。
「あっ、来た来た! わぁ……なんてやさしいオレンジ色なんだろう」
 パフェは生の果実がふんだんに乗っていて、色味も新鮮。フォークで刺して頂けば、果汁と風味が広がる。
「味も……やわらかくて、甘くっておいしい」
 風流な香りに品があって。ピューレと共にアイスを食べると、それも無二の美味だった。
「ねーさん、羨ましくなっちゃった?」
 と、隣でねーさんが見ているのに気づくけれど、器をちょっと引き寄せて。
「でもコレは私のです。帰ったらカリカリあげるから、ね?」
 小さくねーさんが鳴いて応えると、涼香はその前にお庭もみていこうか、と。
 食後に外へ出て、羽ばたくねーさんと隣り合って。一緒に花を眺めて帰路についていく。

 翅をはらりと広げて、ティニアは空中散歩。
 うきうきと、庭園に咲く色彩を上から眺めている。
「綺麗ね──」
 ふわふわ漂うようにしてまずは全体像を観賞。円形の園は、青と紫のグラデーションが揺蕩う幻想の泉のようだ。
「空から眺められることも考えているのかしら?」
 上機嫌に呟きながら。特に色味が濃いところを見つけると、そこへ舞い降りてゆく。
 広がるのは紫の紫陽花が鮮やかな一帯で──ティニアは瞳にその花色を映して、暫し手毬咲きの可憐な造形を見つめた。
 球形が綺麗な株ばかりでなく、やんわりと広がる額咲きの花も多い。清らかな香りを放つ品種もあって、浚うように眺めるだけで楽しくて。
 花が好きなティニアにとっては、心浮き立つ空間だ。
「紫陽花は花言葉も、面白いのよね──」
 『無情』であったり、『寛容』であったり、時に『移り気』だったり。空模様のように多彩なのも魅力だから。
「もう少し、見ていこうかな」
 またふわりと翔び立って。初夏の空気に咲く花を、ティニアは楽しんでゆく。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月16日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 5
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