正太郎の野望

作者:東公彦

 宇都宮市内にあるホテルのワンフロアを賃貸するという特殊な形式で、平塚・正太郎はバーを経営していた。ホテル自体が親族の持ち物であるからして可能な荒業であったが台所事情は芳しくない。
 それもそのはず、ホテル自体が中堅都市のターミナル駅から距離が開いており便が悪い。そもそも昨今、バーに訪れる人物など稀で、そういった人々は隠れ家的な密室空間を好む傾向にあるだろう。手軽に手頃な値段で酒を飲む自由人などが、まさかホテルの正門をくぐるとは思えない。ついで恋人の熱い夜のはじまりに花をそえるには、安くないホテルの格式は立ち入りがたくある。
 ではホテルに訪れる客を狙って……と思ってはいけない。駅前ホテルに泊まらず、わざわざここを訪れる客は、ホテルにあぶれた類の人間か設備や食事を主眼においた人間くらいだろう。前者はバーなど使わないし、後者の大半は食事中に酒を嗜む。
 つまり客はこない。絶望的なまでに来ないのだ。
 ここまでの理屈を叔父から叩きこまれて、正太郎はようやく店の未来について考えた。どうにか顧客開拓せねばならない。だが何が出来る?
「予知の力で宝くじを……」
 そんなに便利な力ではない。
「デウスエクスをお客さんに……」
 一顧だにする必要さえないだろう。さんざ悩んだ挙句、正太郎はとうとう閃いた。
 ケルベロスを呼ぼう、と。彼らは誰であっても『侵略者と戦うヒーロー』として有名だ! ケルベロスが通う店として知れわたれば彼ら彼女らのファンが集まり、一種聖地となるかもしれない!!
 思いつくとすぐさま正太郎は筆をとった。
「拝啓、今年も芒種の季節を過ぎまして――」


■リプレイ

●21時00分
「こ、これはっ」
「うん…間違いなく……」
「黄金郷ですっ!」
 朱藤・環は咄嗟目をかばった。まぶしい、眩しすぎる! バーカウンターが盛況な今、料理長が作り上げた珠玉の品々は事実上、三人の為に作られたといっても過言ではなかった。
「ここはめいっぱい」
「はい、お腹いっっっぱいになるまで」
「ビュッフェに突撃しようか……」
 アンセルム・ビドーの声に頷き合うと瞬時に三人は散開した。
 目を合わせずとも意思を疎通し、時には冷徹と思えるほどの信念を以て、それぞれの目的を成し遂げる――即ち、食事とは戦であった。
「タンドリチキンにカルパッチョ、パエリアも華やかで目移りしちゃいますねっ! ケーキにプリン、チョコフォンデュ、しっかりスイーツも攻めますよー!」
 環は旋風のように素早くトングをふるった。奔放な猫の性か、さらう料理に一貫性はなく、どこまでも嗜好に正直である。
「サイコロステーキに、ローストビーフを山にしてもらって、揚げ物も積もう。野菜……お代無しで何でも食べていいなら肉一択じゃないの? 甘いものはお肉を片付けてからだね」
 宣言に違わず、アンセルムは一心不乱に肉を載せてゆく。肉の土台とローストビーフの拱廊が揚げ物を支える、罪深い肉のバベルの塔を築く。
「そうですね、まずは小手調べに生ハムサラダ。それから肉汁たっぷりハンバーグか肉厚ステーキ、これは子羊のパイ包み?頂きましょう。コーンスープにあとは……ふふっ、こっそりお二人へのスイーツを選んじゃいましょう」
 エルム・ウィスタリアにとって最大の武器は経験を伴う知識である。故に料理の山の中から極めて冷静に逸材を選び出す。
 やがて三者三様の戦果が一つのテーブルに集えば、緊迫感は失せ、途端に和やかな雰囲気が卓上を占めた。
「あはは、流石ですねぇ。エルムさんのはおしゃれな雰囲気、アンちゃんは随分量を取ってきましたね?」
「ウィスタリアのパイ包み、ちょっと貰ってもいい? 環が持ってきたスイーツも後でほしいな……ボクが山にしたお肉をあげるから」
「アンセルムさんのローストビーフも環さんのスイーツも美味しそうです。あ、僕が持ってきたものもご自由に」
 三人が揃えば、その場所が蔦屋敷となるのだろう。友人達との会話に興じる、そんなあどけない横顔を、どこからか真紅の瞳が見つめていた……。


「いやぁ、ほんとに助かったよ。このお礼は必ずね」
「接客は慣れていますシ。時々ハ、バー営業もしておりますノデ」
 正太郎に返しながらエトヴァ・ヒンメルブラウエは持ち寄った花束を手頃な花瓶に飾り付けた。
「なんというか……。平塚さん、意外とマルシュアスさんに似てるよね。抜けてるとことか」
 村崎・優が首をふるった。バーカウンターは予想以上に盛況で、適度な距離を保ちつつ多数のケルベロスが腰かけて談笑している。これを一人で回すには無理がある……そこで半ば強引に見栄えがして器用な幾人かの『お客様』がカウンターの中に招かれていた。
「あはは、面目ない」
「俺ぁ強ェ酒をタダで飲めりゃ、それでいいけどな」
 伏見・万がショットグラスで深い飴色のカウンターを叩く。ストレートで強い酒を飲み続けるあたりバーテン泣かせである。
「ははッ。そんで酔い潰れて、また危ねえ奴に捕まんのか?」
 ブラック・ルシアンをあおりながらグラハ・ラジャシックが愉快とばかり手を叩くと、
「そういえば……そんなこともあったわね」
 つられてセレスティン・ウィンディアが微笑んだ。
「そう何度も同じ手を食わねェよ」
 万は拗ねたように声をあげた。
「まったく、大人って……」
「まぁまぁ、優さん。誰でもハメを外したいこともあります」
 ホットミルクを片手にイッパイアッテナ・ルドルフがやんわりとたしなめると、エトヴァも苦笑しつつ、正太郎の作ったカクテルを滑らせた。
「そうですよ、村崎殿。これで中々、大人も大変なものデス」
「これは……?」
「抹茶のノンアルコールカクテルだよ。折角だから優さんに飲んでもらわなきゃ」
 巌のような顔の正太郎が相好を崩す。優はどことなく恥ずかしくなってカクテルに口をつけた。
「苦いけど、美味しいね」
「ふふっ、味覚はりっぱに大人の仲間入りね。…あら?」
 不意に後ろから伸びてきた手にセレスティンが振り返る。そこには馴染みの顔が居心地悪そうなスーツ姿で立っていた。
「ん、こちらサービスだ……になります」
 悪戦苦闘して盛り付けたのだろうナッツと生ハムのサラダ。僅かに乳白色のグラスがカウンターに置かれた。
「おいガデッサ、こっちにもツマミくれよ」
「うっせえ。飲んだくれは自分で行きやが――りくださいませ」
 グラハに毒づいて、立ち去り際に小さく囁く。誕生日、おめでと。
 ぐいと袖を引いてセレスティンも耳朶を噛むように、ありがとうね、と囁きかえした。彼女の小さなウィンクに気づいたのはガデッサと卓上のホワイト・レディだけだったろう。


「雑用代わりとはいえ素人立たせるとは、まず経営方針から見直すべきじゃないか。この店は」
「でも、すっごく似合ってると思う…」
  紙ナプキンを口元にやって、にやけてしまう顔をごまかすと、ぼやく恋人に僕はそう返した。暖色の白熱球に照らされる横顔はどこか不機嫌そうでも、手元は決して止まらず動く。
 カウンターの中に『招かれてしまった』玉榮・陣内は、よく撫でつけた白金の髪にすらりと伸びた四肢も相まって店の主人のような風格があった。
「気の利いたものは作れないがね」
 幾つかのジュースを注ぎ、彼はシェイカーを握った。紗に包まれた光がぼんやりと手元を照らす。太く男性らしい薬指にライトが反射して、きらり、きらりと鈍く光る。僕は黙ってその姿を見つめながら、同じように左手を光のもとにかざした。
 色は違えど同じ温もりを秘めた輝きが、確かな証として薬指を彩っていた。
 目を細くして僅かに頬を緩ませる新条・あかりを、気づかれぬように覗く。魔法と同じで気づかれれば解けてしまう微笑だ。
 ワンピースの肩口をぐりると取り巻くラッフルフリルはさながら天使の羽根のようで……いや彼女の内面からすれば、それは風に揺蕩う儚い翅でなく、自ら羽搏く力強い翼か。
「どうぞお姫様――シンデレラ」
 薬指をよぅく見せるようにして、俺は彼女の前へと手を滑らせた。ぴくっと震えて赤くなる耳と、蜂蜜色の瞳にはしった感情の色を見れば、それ以上の言葉はいらないだろう。


 正太郎に軽く手をあげて、鍔鳴・奏はカウンターへ視線を巡らせた。ぽつねんと座る後姿に近づき、驚かせてやろうと顔を覗いて――大人しく席についた。
「お待たせ」
「あ、奏くん」
 豊満な体を夜色のディナードレスに包み、金糸雀のような髪をまとめたリーズレット・ヴィッセンシャフトは、別人のような雰囲気で奏に微笑みかけた。
「無事に着いてなによりだぞ」
「俺は子供か」口を尖らせるところなど子供さながらだろう。差しだされたカクテルをうけて椅子に座ると「落ち着いて飲むのは久々かな」奏は小さくもらした。
「そう、かもしれない。私達、付き合いは多少長いけど結婚してからはまだ半年しか経ってないもんなぁ。ふふ、いまだに夢でも見てるみたい」
 目を糸のようにしながらリーズレットは指輪を大事そうに手で包んだ。奏はそっと彼女の手に指をからめた。
「何て言うか……俺が結婚できるなんて思ってなかったし、長いこと待たせたよな。至らなくてごめんな」
 でも――と掌に力を込めて。
「これは夢じゃない。リーズ、いつも俺の傍に居てくれて、ありがとう」
 ぽわっと赤みが頬に広まる。潤んだ瞳は宝石のように美しかった。
「貴方と過ごすこの瞬間が何にも代え難い私の『幸せ』一緒に居てくれてありがと。……ねぇ、奏くん。XYZのカクテル言葉って知ってる?」
「永遠にあなたのもの、だっけ。バックスフィズは」
「心はいつも、君と」
 ああ、言われなくても、勿論だ。
「……お熱いねぇ」
 ひとりごち、火傷しないうち正太郎は体を縮こめて退散した。


「こ、恋話? そう、だね……前から付き合ってる人なら…いるね」
 胸中の狼狽を気づかれぬよう、アトリ・セトリはカクテルを口に運び――強い風味にわずかうめいた。
「お口に合わないかしら?」
「これは、少し背伸びしすぎたかもね。……一之瀬さんは誰かいい人はいないの?」
 すると一之瀬・瑛華はくすぐるような妖艶な手付きでグラスの縁をひとなぞり、ふっと臈たけた貌をつくる。
「お生憎、わたしは…悪い女、なので。――冗談ですよ」
「一之瀬さんの冗談はわかりにくいなぁ」
 今日は終始こんなペースに振り回されそうだね。アトリは思いながら、薔薇よろしく他者を寄せ付けぬ瑛華の不思議な魅力を苦とは感じなかった。
「でも、こうしていると。なんだか友人っぽくて良いですよね」
「なら今日から友人になる?」
 ぽろり、言葉がこぼれたのは酒の悪戯だろうか。目を丸くする瑛華を見やって、しまったとばかり慌てて言葉をつむぐ。
「いや、そのっ…これは軽口だから、軽口! お酒の勢いで言うものじゃないね」
「いいえ。……それも、素敵ですね」
 独りごちると、瑛華は三角グラスの首を持った。
「それじゃぁ、改めて。友達の乾杯をしましょうか」
 思わぬ提案を受け、アトリも戸惑いがちにグラスを持つ。
「ん、乾杯」
 触れ合ったグラスの澄んだ音が染み渡る。これは冗談じゃないといいなぁ。考え、アトリは舐めるようにグラスに唇をつけた。
 ドレスにくるまれた二輪の薔薇はそのまましばし語らい合った。昵懇の友のように。

●22時10分
「正太郎殿のお店には来てみたいと思っておりましたので、まず素敵なお誘いに感謝を」
「私からも、おめでとう。初対面ではあるが、めでたい日であることに変わりはないからな」
「なんだか恐れ入るなぁ、二人ともありがとう。それで、お飲み物はどうします?」
「ええ……と」少しばかり月隠・三日月の視線が泳いだのを見逃さず、レフィナード・ルナティークが助け船を出した。
「三日月殿はこういったお店は初めてですか?」
「恥ずかしながら。どう振る舞えばいいものか……少し緊張している」
「あまり形式ばらず楽しむのがよいかと。三日月殿は甘いものがお好きですし、そういったオーダーでも良いのですよ」
「それなら、少し気が楽だ。なら私は飲みやすい、甘いものをお願いするよ」
「こちらはウィスキーでおすすめがありましたらロックで。お願いします」
 ふぅと息を吐きだして、三日月は視線を膝に落とした。どうも緊張していけない。
「さすがにルナティーク殿は慣れてるよな。私もお洒落はしてきたつもりだが、浮いていないだろうか?」
「そうですね」しばし考えるようにレフィナードは首を傾げて「少女らしい恰好は見慣れませんね」
「やはり似合わないか……」
 彼女はどこか寂しげに瞼を伏せたが、同時に。
「いいえ、だからこそ、よくお似合いですよ」
「――ありがとう」
 その声音がどこかくすぐったく、三日月は熱くなった頬をぽりぽりと掻いた。
 やがて運ばれてきたカクテルに「カシスソーダですか、私も賛同です」レフィナードは弾むような声を投げた。三日月はその理由を後に知ることになるのだが、それはまた別のお話し。


「それじゃぁ、無事帰ってこられました記念にかんぱい!」
「乾杯」
 軽くグラスを打ち合わせて、ハル・エーヴィヒカイトとエリザベス・ナイツはそれぞれ顔を見合わせて微笑んだ。
 さほど齢は離れていないのだが、落ち着きのあるハルが正反対のエリザベスと並ぶと一種老成した印象が強く、二人は兄妹か父子のようにも見えた。
「ほんと心配だったんだよ、ドラゴンがどれだけ強大かは知ってるし、あれだけの数だもの」
「ああ、強大な敵だった。が、戦いやすくはあったさ、気心知れるメンバーだったからね。……それに俺達が斃されてしまえば最悪の事態になる。いざという時には――」
 ハルが言いかけると「あーっ」とエリザベスが遮った。
「そういうこと言ってると、プレゼントあげないから」
「プレゼント?」
 うんっ。と元気よく首を振って、彼女は一本の葡萄酒を取り出した。
「知り合いに買ってもらったの。有名な赤ワインで、名前の由来は『忘れ得ぬ勝利』。ぴったりよね!」
「それは、参ったな。俺こそ、この前のお返しをと思っていたのだが……」
 面食らったような顔でつぶやいた後、ハルはふっと頬をゆるめた。彼女の前で意地を張ることはないか。
「頂こう。代わりに今度、ご馳走させてくれ」
「その時はとびきり甘えさせてもらうねっ」

●23時
「お帰りかな?」
 扉へ向かう背中に声を投げると、振り返った男は唇をめくりあげて笑った。
「鐘が鳴るまでには帰るものだろ?」
 陣内の胸で丸くなるあかりに気づき、正太郎は小さく頭を下げて二人を見送った。と、
「よォ正太郎、飲んでっかァ?」
「いや、僕は勤務中で――」
「そーかそーか、そりゃいいこった!」
 首に手を回して、万は一升瓶を正太郎の胸に押し付けた。
「こいつは普段の礼と今日の祝いだ。いらねェなんていうなよ、こういうのはきっちり祝われとけ。歳食うのなんざ特に嬉しかねェ、ってンでも、飲んだくれる理由があるってだけで、イイ日なもんだ」
「さぁさ、行きましょう万さん」
「いま襲われたら負ける自信があるよ、まったく」
 イッパイアッテナと優が万の両脇を固め、引きずるようにして出てゆく。
「乱暴に見えて良い人だよね、あの人」
「なんだかんだ言っても、ね。私はまたいつか、お邪魔させてもらうわ」
 紗の羽織りを夜空のヴェールのように纏わせて、セレスティンはひらひらと手をふるい、ゆっくりと夜気に溶けるように消えた。
「……皆さん、お帰りになられるト、なんだか寂しくなりますネ」
「だね。けれど、働いてもらった分はエトヴァさんにもゆっくり静かにカクテルを味わってもらいたいからね」
「では美味しいカクテルの御伴とシテ、正太郎殿のバーへのこだわりナド…お伺いし出来ればト」
「こっちこそ教えてほしいくらいだよ。エトヴァさんの喫茶店みたいな温かなもてなしが出来るようになりたいからね」
「ふふっ、長くなりそうデス」
「へっちゃらだよ。時間はまだまだあるさ」
 キールから伸びる朱い影が、二人のめぐり逢わせを祝福していた。

●23時55分
 満天の星空が霞むほど、街の灯は煌びやかで、人々の営みが感じられるようであった。
「考えようによっては命の輝きと言えるのかもしれない」
 瀬入・右院がひとりごちたその時、あろうことかカウンターに腰かけて柄倉・清春が言った。
「クソっ、男連れの女ばっかじゃねーか」
「……行儀が悪いですよ。それと、下手な鉄砲の考えでいくからじゃないでしょうか。闘技場でも攻撃一辺倒だから俺がフォローを――」
「うっせーよ。あーオレの心を癒してくれる女の子がどっかに転がってねーかなぁ」
 実際、女性が路傍に転がっていたら怖いだろうに。思うも右院は言葉にはしなかった。この男のことだ、下手な道理など通用しない気がする。と、清春の頭に何かが落ちた。
「痛づっ――」
「そりゃ警察沙汰だろ? 人相悪いんだから真っ先に捕まるぞ、お前」
「な、長久さん……どうしてここに」
「誕生日を祝いにきたに決まってるだろ。プレゼントもほら、ここに」
 包みをふりふりと揺らして、長久・千翠はにっと白い歯を見せた。
「てめぇ、やりやがったな!」
「細かいことを気にすんなよ。とりあえず…右院、誕生日おめでとう、これからもよろしくな!」
「――あ……ありがとうございます」
 右院の顔に、はにかむような笑みが広がってゆく。
「その顔が見られただけで、酒飲んで粘ってた甲斐があったな」
「んじゃ、長久の『その顔』も見ねぇとな」
 次の瞬間、千翠の顔にひやりとナニかが押し当てられた。
「んなっ――!?」
「はははっ、予想以上の反応だな」
 鋭い犬歯をぎらりと覗かせたグラハが彼の頬からマティーニを離す。どうして? 聞くよりも早くグラハはからからと話し出す。
「どっかの誰かさんに知らされたんだよ、存外に誕生日の近い見知り合いが多いってな。となりゃ……これは酒で祝う良い機会だろ」
「ま、そーいうこった。ククク、驚きのエッセンスってやつは人生の妙だぜ?」
 含み笑いをし清春は包みを二人に投げた。
「オレには邪魔なだけだ、てめーらにやるよ」
「そういうことなら偶然居合わせた私達も参加させてもらおうか」
「うんうん。ぐーぜんね!」
 そこへ計ったようにハルとエリザベスが出てくる。ここに至って、ぽかんと口を開けていた二人はようやく状況を飲みこんだ。
「つまり知らなかったのは……」
「俺達だけだったみたいですね」
 同意するように、振り子時計の鐘が時を告げた。
「これをどうぞ、蜂蜜酒の炭酸割りを作ってみたんだ」
 正太郎が成人している各人にのみ、ゆらめく琥珀酒を手渡した。
「それじゃぁ、これからも一緒に戦っていけるように、そんな願いも込めて――」
「「「乾杯!」」」
 一口つければ途端爽やかな風味がアルコールのほのかな香りを伴って広がり、次いでとろりとした蜂蜜の甘みがゆっくりと喉を落ちる。
「どーだよ、酒の味は」
 問いかけに右院は伏し目がち、朱のさした恥じらうような笑顔を向けた。
「ええ、美味しいです。それに」
 仲間達と過ごす時間……最高のプレゼントを貰ってしまったみたいです。

作者:東公彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年6月19日
難度:易しい
参加:22人
結果:成功!
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