蒼咲きの日

作者:崎田航輝

 穹を映したように、花々が蒼く色づいている。
 なだらかな丘の間に広がる、開けた花園。その一面に咲き誇るのは鮮やかな色を抱くネモフィラだった。
 柔くそよぐ蒼花は近くで見れば一輪一輪が美しく、遠くを望めば地平線で空と交わり区別がなくなる。
 幻想世界のような景色の中、穏やかな風に導かれて歩めば、空を泳いでいるかのような軽やかな散歩が楽しめた。
 そんな花の旺盛の季節には、人々も多く訪れ賑わいを齎す。
 はしゃぐ子供達も、それを微笑ましげに見つめる大人達も。春だけに望める眺めを、涼風の中でのんびりと味わっていた。
 けれど、花の薄命のように──愉しい時は長く続かない。
 不意に鋭い風が吹いたかと思うと、花の揺れる音に混じって悲鳴が劈いた。
 人々が振り向くと、そこ在るのは斃れる人の姿と──それを見下ろすひとりの巨躯。
「花が咲き誇る景色は悪くない、けれど」
 暖かな季節に寒々しい色は似合わない、と。
 言って刃を握るそれは鎧兜の咎人、エインヘリアル。
「心が滾り、熱くなる。そんな赤色の方がいいだろう?」
 だから鮮血に染めてあげよう、と。振るう刃で一人、二人、数え切れぬ命を斬っていく。
 逃げ惑う人々の背を裂き、血潮で花を彩ると──咎人はただ愉快げに、赤く汚れた相貌で嗤っていた。

「みんな、聞いて。エインヘリアルの出現が察知されたみたいなの」
 春の爽風が吹くヘリポート。クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)はケルベロス達へと声をかけていた。
 そこへ歩みつつ頷くのがイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)。
「クラリスさんの情報により判明したことですが……自然の美しい花園にて散歩している人々が、危機に遭ってしまうようですね」
 敵はアスガルドで重罪を犯した犯罪者。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人でしょうと言った。
 放置しておけば人々の命が危うい。
「だから、みんなに力を貸して欲しいんだ」
 クラリスの言葉を、イマジネイターも継ぐように説明を続ける。
 現場はなだらかな丘の間にあるネモフィラ畑。
 明媚なだけでなく、街からそれほど離れてもいないためか、散歩に訪れている人々がそれなりにいる。敵は畑の背後側に位置する丘から現れるだろう。
「私達はそこを待ち伏せすればいいんだね」
「ええ」
 人々については、警察が事前に避難をさせてくれる。こちらが到着するころには皆が逃げ終わっていることだろう。
「戦いに集中できる環境となるはずです」
 侵攻を許さず倒せば花も荒らされずに済むはずですから、とイマジネイターは続けた。
「無事勝利できた暁には、皆さんも散歩などしてみては如何でしょうか?」
 どこまでも青色が続く景色を眺めて過ごせる。美しい花を愛でてもいいし、お弁当を持ってピクニックを楽しんでもいいだろう。
 澄んだ空の下で春の爽やかさをゆったりと味わえるはずだ。
 クラリスは静かに頷く。
「その平和な時間のためにも……誰かを傷つける事なんて、させないようにしなきゃ」
「皆さんならば、きっと勝利が出来るはずです」
 健闘をお祈りしていますね、と、イマジネイターは言葉を結んだ。


参加者
ゼレフ・スティガル(雲・e00179)
ランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)
キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)
ヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)
クラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●蒼の情景
 花が優しく揺れて、空に淡い香りを乗せる。
 蒼に満たされた世界では、涼風までもが色づくようで美しい。
 けれどそれ故に、影を落とす濁りは強く目につくから──降り立ったヨハン・バルトルト(ドラゴニアンの降魔医士・e30897)は花園を背に振り返っていた。
「綺麗な花は蝶や観光客だけでなく、困ったヒトまで呼んでしまうようですね」
 丘を望む翠の景色。
 その先に見えるのは、鈍く光る鎧に身を包んだ巨躯の罪人。悠々歩き、揺らす剣先に殺意を顕している。
 ゼレフ・スティガル(雲・e00179)は陽を透かす雲の瞳を細め、柔らかな声音を零した。
「こんな場所に来てもゆっくり眺めて昼寝しよう、なんて気分にならないとは恐れ入るよ」
 ある意味真面目なのかな、と。
 その呟きに、レフィナード・ルナティーク(黒翼・e39365)は静やかに目を伏せて。
「少なくとも花見、というわけではないようですから。此方がやるべきことは一つ」
 ──不粋な方にはお帰り願いましょうか。
 声と共にすらりと刀を抜き放ち、幽玄なる霊力を振り撒いて戦線を強化していた。
 罪人は立ちはだかる此方に気づき、刃を強く握りしめる。
「番犬か。花を赤にするには、丁度いい相手だ」
「……皆一辺倒に、赤、赤と」
 と、仄かな呟きが零れる。
 エヴァンジェリン・エトワール(暁天の花・e00968)が蒼に映える花緑青の瞳を、そっと閉じていた。
「エインヘリアルの罪人の中では赤が流行中なのかしら」
「天地ともにずっと続く青がうつくしいのに、自分の好きな色で染めようとするなんて随分と無粋だねぇ」
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)もまた緩やかに言ってみせる。
 機巧の肩を微かに竦めさせ、呆れを表す仕草には罪人への怯みなど欠片もなく。
 ヨハンも心同じく頷いていた。
「何にせよ、大人しくお花を眺めるだけならともかく、乱暴なのはいけません」
「ああ。花も命もいつかは散るが……勝手な都合に付き合わされてたまるかっての」
 空に銀毛煌めかせ、跳躍するのはランドルフ・シュマイザー(白銀のスマイルキーパー・e14490)。
「だからよ、花が散るより先にテメエ『終わり』をくれてやる──笑顔も命も刈らせねえ! 血に染まるのはテメエだけで十分だ!」
 瞬間、輝きの残滓を描きながら蹴り落とし。鋭利な一撃を巨体へ見舞った。
「……っ、君達は赤は嫌いかい。この蒼を全部染めるのも、いいと思うけどね」
 下がった罪人は、それでも言いながら刃を振り上げた、が。
「……蒼だからこそ、よ」
 キリクライシャ・セサンゴート(林檎割人形・e20513)が静かに紡げば、翠の視線の意を汲んだテレビウム──バーミリオンが疾駆していた。
 突き出す刃で足元を突き刺せば、巨体が僅かに傾ぐ。
 その一瞬にキリクライシャは『陽光の珠』。浄化の力を耀ける光と成し、ヨハンへ加護を齎した。
 ヨハンもまた鮮烈な雷壁を巡らせて防護を広げながら、視線を傍へ。
「クラリスさん。行けますか」
「……ん、大丈夫」
 応えたクラリス・レミントン(夜守の花時計・e35454)が、真白い髪を踊らせて巨躯へ飛び込んでいた。
 『鼻唄猫の散歩路』──指揮棒より顕した七彩の五線譜に乗って。羽衣の如き白銀を腕へ纏わせて真っ直ぐの打突を加える。
 よろめく巨躯が、氷の斬線を放とうとも──ディミックが小型ユニットを八方へ射出。
 相互にレーザーを巡らせて城壁を描くと、形を持ったエネルギーと成して護りと治癒を兼ねていった。
 仲間が癒えれば、エヴァンジェリンが反撃へ。
 花の如き嫋やかさを、凛とした戦乙女の鋭さへ変えて。青銀の星を奔らすよう、輝く槍の刺突を放った。
「──ゼレフさん」
「了解。ご褒美の前の一仕事といこう」
 同時、ゼレフは焔の揺蕩う刃を振るって『白化』。突き立てた膚に螺旋の焔を重ねて絡め、巨体を灼いていく。
 体勢を崩した罪人へ、レフィナードがファミリアを解放。鷹狩をこなすよう、腕に足を咬ませたイヌワシを翔び立たせて鋭利な爪撃を放たせた。
「では、次撃を」
「……私が行くわ」
 血飛沫が飛び散る中へ、キリクライシャも優美な細枝の如き槌から砲撃。山なりを描いた紅の弾を弾けさせ──こがねの火花で巨体の全身を穿つ。

●彩を背に
 番犬の攻撃の雨に、罪人は膝をつく。
 苦渋の表情の中には、しかし未だ殺意と欲望も浮かんでいて。クラリスは悲しげに、声音を落とした。
「アスガルドで罪を犯してしまえば、自然の蒼の美しさも分からなくなってしまうの?」
「……ただ、赤が好きなだけさ」
 罪人は嗤うように立ち上がる。そこに如何な咎があるのかというように。
 ならば、と。ディミックは仰いでみせた。
「人々を殺さずとも済む手がある。夕方まで待てば良いんだよ」
 それも出来ないほど堪え性がないのかね、と。
 言ってみせればヨハンもええ、と頷く。
「地球のもの達が魅せる一瞬がどれだけ力強く美しいか、観て貰いたいくらいですよ」
 それは飾らぬ本心。
 幼少期から鍛錬ばかりで友人もおらず。皆で賑やかに花畑を見るのが憧れだった──それは罪人が相手でも例外ではない。
「花と夕焼けを見たいと思ってくれるなら。僕達は友人になれませんか?」
「……いいや。空の移ろいより、僕は其処にある赤を望む」
 罪人は変わらぬ声で答えた。
 そう、と。クラリスは零す。
 元ダモクレスの父を持つ身として、敵であるが故に侵攻を諦めてほしいと願っていた。
 けれど、躊躇すれば人々の命を危険に晒すとも闘いの中で学んだから。
「黄昏時まで待てないと言うのなら、血で彩られた大地が見たいと、そんなに言うのなら」
 ──ごめんね、私はそんなに優しくないの。
 迷いなく巨躯へナイフを振るう。
 腹を裂かれながら、罪人も縦横に刃を振り回した。が、ヨハンは癒やしの雨滴に『竜眼旺霑候』──焔生む靄を交え。
「嵐が来ますよ」
 雷光と合わせて痛みも傷も吹き飛ばす。
 罪人はその只中へも踏み込み刃を掲げた、が。
 吹き荒ぶ風の中に眩い灯りが差し込む。風を叩いて飛翔したキリクライシャが、体を翻して焔の蹴撃を打ち込んでいた。
「……その斬撃も、暖めたら鈍るのかしら」
 炎に刃を焦がされて、罪人は呻くしかない。それでも無理矢理に刃先を突き出すが──。
「浅いですよ」
 滑り込んだレフィナードが刃文に刀を滑らせ力を逸らす。
 余波の衝撃を受けるが、そこへはディミックが治癒物質を瞬間燃焼させ、掌より閃光にして照射。光に呑み込むように傷を癒やした。
 同時に『面忘れる瑪瑙』──鉱石を媒介に魔力を明滅させ、罪人の内奥に心の濁りを固めさせて精神を損傷させる。
「次を、頼むよ」
「ええ」
 揺らぐ巨体へレフィナードも攻勢。
 声音はあくまで微風の涼しさで。けれど抱く焔は苛烈に、剣筋は鋭利に。刃を滑らせ一閃、炎の流線を描き袈裟に傷を刻みつける。
「エヴァンジェリン殿」
 と、声をかければ頷く花天使が清冽な矛先を掲げて。
「鮮血の赤はやがて心を染める黒になる。滾るだなんてとても思えない」
 だから──赤以外の美しさを目に宿して、お還りなさい。
 斬撃を光と成して『Jeanne』。慈悲無く罪人の片腕を斬り飛ばした。
 苦痛に喘ぐ巨躯へ、ゼレフは遥かな雲海から冷気を吹き下ろすよう、縦一閃。刃に絡めた凍て風で体を抉り裂く。
「最後は任せるよ」
「ああ」
 ランドルフは白銀の銃口を敵へ突きつけながら、背後の花を一度見遣って。
「ネモフィラの花言葉は『成功』、『可憐』、『貴方を許す』ってな。なるほどテメエにゃMismatchだ」
 だから仕舞いだ、と。
「喰らって爆ぜろッ! Unforgiven! コギトの欠片も残さず逝きな!!」
 刹那、魔法力による爆破を引き起こす『バレットエクスプロージョン』。着弾と共に、豪炎に巨体を散らせていった。
「そんなに血が好きなら血の池にでも浸かってろ。あの世で、な」

●蒼咲き
 花園に平和な賑わいが帰る。
 皆は景観の無事を確認後、人々を呼び戻していた。今はもう子供達も駆け回る穏やかな景色が広がっている。
 番犬達も散策を開始。
 ランドルフは花の間を歩みながら、思いを巡らせていた。
 脳裏に浮かべるのは他でもない、想い人。
(「“小さな森を愛する”を意味するネモフィラ──アイツにも、この花を見せてやりたいな」)
 カメラを向けて景色を収める。
 その色彩も十分綺麗。でも、やはり直接連れてきたい思いに変わりはなかった。
(「誘って来てくれるかはわからんけどな……」)
 きっと多分玉砕だろう──今回は。
 予想できることではある。同時に、未来は未来。
 そこにこの花園の如き美しい彩が広がっていればいい。思いながら、ランドルフは歩みを続けていった。

 水筒に用意したのは青のアイスティー、ブルーマロウ。
「どうぞ」
「それじゃあ、ありがたく」
 レモングラスと蜂蜜で味付けたそれをエヴァンジェリンが勧めると──ゼレフは淡く笑んで受け取っていた。
 爽やかな春空と花々に良く似た色のお茶は、そよ風めいた香りも、ほのかな甘さも。
「この風景に良く合うね」
 ゼレフが実感すれば、エヴァンジェリンも頷いてそっと歩を進め出す。
 花は好きだ。青の海のようなこの花畑も。
 それに自分と似た髪の色を持つ彼は、何の緊張も要らずに穏やかにいられる友だから。
 一歩歩むごとに、風に乗るようで。真っ青な世界で、ふぅわり揺蕩う雲の気分。
「綺麗ね」
「ああ、一つ一つは小さいのに、これだけ咲くと壮観だね」
 ゼレフも歩調を合わせて漫ろ歩きながら、お茶のお礼に水色をしたソーダ味のドロップを一つ。
「ありがとう」
 言って口にしたエヴァンジェリンは、そのしゅわしゅわとした心地に尚足取り軽く。
「青空に浮かぶ雲って、こんな気分なのかしら」
「はは、どうだろう。今度飛んでるときに尋ねてみてよ」
 融け合う天地の青に、天使の翼と髪の花が鮮やかに映えて──ゼレフは目を細めた。
 そうね、と。エヴァンジェリンは呟きながらも天を見上げる。漂う雲の、行く末を辿ろうとするように。
「ふわふわのんびり漂って、好きなところに行って。一休みにお昼寝したりして──そしたら、雲もいつか、何処かに根を下ろすのかしら」
 人が、誰かがそうするように、と柔く笑んで。
 その対の緑に、ゼレフも笑いかけた。
「そうだなあ――風に逆らえない雲じゃ、こんな風に寄り道もできないからね」
 ゆらゆらといつまでも漂っているのかもしれないね、と。
 降りて来られないのは、どんな気持ちだろうかと考えながら。
 けれどそれはそれで心地いいのかもしれないと思いつつ──ゼレフはまたエヴァンジェリンと共に園を歩く。

 見渡す限りの花の世界を、キリクライシャは眺めていた。
「……少しずつ広がって、これだけの広さになったのね」
 近い一輪から遠い蒼の絨毯。視界を動かして雄大さを感じる。
 歩めば心地よい浮遊感に包まれて。
 飛ばなくても、空を泳ぐ感覚に、傍らを見た。
「……リオンも、飛ぶ気分は楽しめた?」
 と、バーミリオンは返事の代わりに自分を指して抱きしめるジェスチャー。そして上への矢印を表示する。
「……抱えて飛べ?」
 キリクライシャは一瞬ためらった。
 というのも、はしゃぐのが恥ずかしいという気持ちがあったから……けれど。
「……ええ、でも、これだけ綺麗だと、踏まないように、って気にもしてしまうわね?」
 じゃあ、少しだけ、と。
 バーミリオンを抱えて翼を動かし、低空飛行。
 すると──ふわりと風が頬を撫で、蒼穹を見下ろすような感覚で。
「……良い、眺めね」
 バーミリオンも腕の中で頷くから──暫し、空の散歩を続けた。

 ヨハンが手を伸べると、クラリスはそっとその手に触れて。
 二人は共に園を散策し始めていた。
 さわさわと花が風にそよぐと、その音と色彩が快い。
「空も地面も青いと空を飛んでいる気分ですね」
「そうだね。今だけは翼が生えた気分」
 クラリスが笑むと、ヨハンも穏やかな微笑みを返す。
「ふふ、並んで空に立てる日が来るとは思わなかったです」
 果てない景色に、今はたった二人だけのような心地になって。クラリスはその中をふわふわ翔ぶような気持ちで歩を進めた。
 風に揺れる蒼は花言葉の『可憐』をそのまま表すようだ、なんて思ってたけど。
「ネモフィラの花言葉には、『あなたを許す』というのもあるんでしたね」
 ヨハンが思い出すように言えば、クラリスもうんと頷く。
 ただ可愛らしいばかりでなく。優しい赦しの意味も持つと知れば、その蒼い花が益々好きになる思いだった。
 ヨハンも心は同じ。
 この一面の蒼からは、確かに何処か包容力のようなものも感じるから。
「此処を守れて良かったです」
「……私もだよ」
 クラリスも心から応える。
「一緒に守れて、隣で見られて、ほんとによかった」
 途中、少しだけ瞑目する。
 戦いの時、ヨハンがあの罪人へかけた言葉を思い出して。
(「誰もが真っ直ぐにそう言える世界だったらいいのに」)
 考えるほど、小さく胸が痛んだ。
 それでも今この時、守れたものもあったから。その実感を心に抱くように、また歩みを再開した。

 青い花畑の中に伸びる道を、人が歩んでいく。
 ディミックはそんな景色を暫し眺めていた。
 幻想的な色合いを辿る人の流れを見ていると、まるで天へと昇っているようだと錯覚する気持ちになりながら。
「明媚なものだねぇ」
 カメラを向けて花の色彩をのんびりと撮影もする。
 と、そこで散歩をしているレフィナードと行き会った。
「撮影ですか?」
「珍しい景色のようだからねぇ」
 ディミックは頷きながら撮ったものを見せてみる。
 鮮やかに収められた色彩に、レフィナードは感心しつつ。暫し共に散策してみようかと歩むことになった。
 穏やかな空気は、空の只中のように澄んでいる。蒼が何処までも広がっていればその感覚は尚更で。
「良い景色ですね」
「そうだねぇ。美しく見えるように年中手を入れる人々の苦労を想うと──護った甲斐があったと、改めて実感できるものだねぇ」
 ずっと先まで続く、この景色は芸術品。そんな感覚を得ながら、ディミックは近距離の花もしっかりとカメラに収める。
 ええ、と。レフィナードも頷いて蒼色を瞳に映していた。
 その色合いは清廉で無垢。
 だからだろうか、ふと内心で自嘲する。
(「花言葉の『貴方を許す』──私自身にも当てはまらないな」)
 宿敵の策略であったとはいえ、主や国を守らなかったこと。
 かつての仲間との間に生まれた誤解を解けずに、宿敵となった友を倒したこと。それが今も胸の奥で、消えずに在る。
 きっとこれは色褪せることはない。そう思いを抱えながら、それでも花の彩も美しく。
 ──今は蒼に身を委ねましょうか。
 レフィナードはそう心に呟いて。ゆったりとした散歩を続けていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月14日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 3
 あなたが購入した「複数ピンナップ(複数バトルピンナップ)」を、このシナリオの挿絵にして貰うよう、担当マスターに申請できます。
 シナリオの通常参加者は、掲載されている「自分の顔アイコン」を変更できます。