月影

作者:崎田航輝

 崩れた石の窓から、藍白の月光が差し込んでいる。
 眩しい程のその月色は、灯り一つない空間をも詳らかに照らし出して。立ち並ぶ美しい紋様の柱に長い影を作らせていた。
 そこは廃墟に鎮座する古城跡。
 建造物としての原型は判然としない程、大部分が朽ちていて、遠目には不規則に積み上がった石材が夜より黒い色を浮かび上がらせるばかり。
 だが中に踏み入れば、広間の形を残した場所もある。
 天井は崩れ、床にも穴が空き、いつの時代のものとも知れない事に変わりはないが──そこだけは柱や月光が不可思議な趣きを作り出し、無二の美観となっていた。
 故に、そんな光景を見ようと赴く者もいる。
 近辺では少しばかり名も知れているからだろうか。この日も幽玄な眺めを写真に収めようと、仲間内で連れ立って訪れる人々がいた。
 石で出来た影のような外観から、広間へ。ファインダーに覗く視界を、人々は理想の一枚に仕立て上げていく。
 ──と。
「此処は旧い時代のものらしいが、拭えぬ戦いのにおいを感じるな」
 低く響く声が不意に聞こえて、カメラを持つ人々は見合う。
 けれど誰もが言葉を発していないと知って──広間の奥へ視線を遣った。
 そこから闇が形を取ったように、一人の影が歩んでくる。月光に照らされて漆黒の鎧を艶めかせるそれは──剣を佩いた巨躯の男。
「お前達も戦を求めて来たのか。……いや、それ程の覇気は感じぬか」
 だが構わぬ、と。
 マントを翻した男は、抜剣して一閃、数人を斬り捨てて血に沈めていた。
 いずれ強者も現れよう、と。呟いた男は数呼吸の後、剣を収めて闇に歩いていく。既にそこに生きた人間はなく、静寂に血溜まりが広がるばかりだった。

「集まって頂きありがとうございます」
 夜半のヘリポート。
 涼風が吹く中で、イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)はケルベロス達へ説明を始めていた。
「本日出現が予知されたのは、エインヘリアルです」
 市街の中心からそれほど離れてもいないところに、古城跡がある。
 そこは廃墟となっているのだが、石造りの建築が残っている部分もあり、どこか異国情緒漂う美しさに、時折観光に訪れる者もいるという。
 敵はそんな人々を襲うつもりのようだ。
「やってくるのはアスガルドで重罪を犯した犯罪者です。コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれる、その新たな一人でしょう」
 これを放置しておけば人々の命が危うい。
「皆さんにはこの敵の撃破をお願い致します」
 戦場となるのは城内の広間に当たる空間。
 敵は廃墟の奥からその場所へ現れてくるだろう。
 人々は事前に避難がされるので心配はいらない。こちらは到着後正面から迎え討つか、柱の影や崩れた天井の上などで待ち伏せ強襲をしかける形となるだろう。
「適宜作戦を考えてみてくださいね」
 今回の敵は、非常に好戦的な戦士だという。相手を殺すことに躊躇なく、無論こちらのことも喜んで斬り伏せようとするだろう。
「実力も相応のものを持っているようです。ぜひ警戒をしてあたってください」
 それでも皆さんならばきっと勝利できますから、と。
 イマジネイターは声音に力を込める。
「健闘を、お祈りしていますね」


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)
リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)
刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)
リュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)
ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)

■リプレイ

●月夜
 宵空の色を溶かしたような、蒼みがかった月灯りが広間を照らす。
 柱の影の暗闇から、リンネ・リゼット(呪言の刃・e39529)は澄んだ光を深緋の瞳に映していた。
(「月の光とは幻想的で綺麗なものですね」)
 深い静謐の中だから、尚強く思う。
 この古城の雰囲気も好みに合って、ゆっくりと眺められたら、という心が擡げていた。
 尤も、それは戦いが終わってからの話。
 視線を奔らせれば、既に皆が陰に隠れているのが見える。後はただ、その時を待つだけの状態だった。
 そして数瞬の後、金属音と共に踏み込む影が見える。
 黒色の鎧を纏った罪人、エインヘリアル。
 剣の柄に触れて一度だけ周囲を見回していた。
「……この場に相応しい、戦いの気配がした筈だが」
 気の所為か、と。
 声音は予感と状況に齟齬を覚えたような、不可思議な疑念に満ちている。
 おそらく此方に気づくのも時間の問題。故にその前に──跳び出た影が一つ。
「気のせいじゃないさ」
 それは光学迷彩の外套によって、影色に偽装していたジャスティン・アスピア(射手・e85776)。消音のコンバットブーツで地を蹴り跳躍していた。
「場に相応しい戦いか。確かに不法投棄の罪人エインヘリアルでも、こんな場所で戦うのは余り違和感ないな。だから──」
 ここで始末してやる、と。
 健脚を十全に活かした飛び蹴りで、痛烈な初撃を叩き込む。
「……!」
 罪人は下がりながら、漸くジャスティンの姿を捉えた。
 が、次に動いたのはその足元。崩れた床を利用して、自身の巨躯を段差に収める機巧の戦士がいる。
 ディミック・イルヴァ(グランドロンのブラックウィザード・e85736)──銀灰の躰で石材の色に溶け込みながら、腕部を引き絞っていた。
 そのまま視認されることすら無く肉迫すると、噴出するエネルギーの位相を逆転。霊的な力を伴った打突を放つ。
 横っ腹に痛打を受けて罪人が体勢を崩すと、そこでディミックは視線を横に遣って。
「続いてくれるかい」
「ええ!」
 凛然と跳び出すのがリンネ。
 翼猫の氷雪に冷気を纏ったリングを放たせると、自身は月灯りをナイフで乱反射。敵の瞳に像を結ばせ幻夢に蝕む。
「皆さん、一緒に行きますよ!」
「うん!」
 応えてリュシエンヌ・ウルヴェーラ(陽だまり・e61400)は月空を仰いでいた。
 瞬間、ふわりとローズブラウンの髪が揺れたかと思うと、天より光が降り注ぐ。『Coin leger』──眩く燿く粒子が巨体の影へ突き刺さり動きを縫い止めていた。
 翼猫のムスターシュが同時に肉球パンチを放って追撃すると──次には差し込んでいた月光が僅かに翳る。
 それは天井上より、ひらりと跳ぶ影があるから。
 夜風を裂いて舞い降りる、羽鳥・紺(まだ見ぬ世界にあこがれて・e19339)。
 鳶色の髪に弧を描かせて、ひらりと身を翻すと蹴撃。彗星の如き一打を与えて巨体を傾がせた。
 襲撃の応酬に、罪人は待ち伏せの強襲だと遅れて気づく。
「……番犬、か!」
「遅いですよ」
 だが紺が言って素早く飛び退くと、開いた空間に続けて滑空する蒼竜の姿。
「征くぞ、ラグナル」
 碧色の匣竜に語りかけながら剛速で距離を詰める、神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)。戟に峻烈な稲妻を纏わせると、大きく振りかぶっていた。
 風に乗る速度と天井を蹴った膂力、重力加速度の全てを乗せた突撃は、とっさの判断で避けられるものではない。雷光を帯びた刺突が鎧を穿つと、ラグナルの放つブレスがその傷を深く抉っていく。
 倒れず踏み止まった罪人は、ここで初めて反撃の本能を働かせた、が。
「させると思うか」
 涼やかなアルトと共に、柱の陰より刈安・透希(透音を歌う黒金・e44595)が奔り出る。
 かつん、と小気味良い靴音を奏でると、段差の角を踏みしめ跳躍。
 漆黒の髪を棚引かせ、毛先の金色を月光に眩く縁取らせながら。宙を滑るよう面前に迫ると靭やかな拳で顎を打つ。
 罪人は視界を明滅させると、一度間合いを取ろうと暗がりに下がる。
 けれど水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は十分に暗闇に鳴らした瞳で、その姿を余さず視界に捉えていた。
「逃げ場はないぜ」
 元より敵がどう出ようとも、斬り込める準備はしてある。直後には至近に迫り、業物の一振りを握っていた。
 罪人は体勢を不安定にさせながらも、剣で受けようとする。だがその動きとて、奇襲する側にしてみれば慌てた足掻きでしかない。
 瞬間、鬼人は抜き放つ一刀へ風を纏わせると連閃。刃を舞わせて畳み掛け、巨体の全身に深い傷を刻みつけていった。

●戦場
 逆光を浴びながら、罪人は石造りの窓際へと背を預けている。
 包囲する番犬を見ながら、声音には感心すら浮かんでいるようだった。
「待ち伏せとは、油断したものだ。いや、お前達が強者なのだろう」
 首を振ると、次には喜色さえ見せて。
「このような戦いを待っていた。この城は猛者を斬る、その舞台に相応しい──」
「ふぅん。古の戦場に新たな血を流す、ねぇ」
 と、対する鬼人は敵の温度にも乗らぬよう、獄炎で周囲を照らす。
 皆が点けた灯りも手伝って、既に広間は明るい。それは時間に摩耗した、空間の古さを如実に知らしめさせていて──。
「撥当たりというか、なんというか、な」
「ああ。此処での戦はもう必要無い物だ」
 透希もつい先刻の静謐を思い起こすように、呟く。
 リュシエンヌも拳をきゅっと握り頷いていた。
「そうなの。こんなろまんちっくな場所は、おでーとでこそ来てみたいの」
「まあ、そういうことだよ。思い出は亡霊とともに眠るのが地球の流儀というものだ」
 ディミックは緩やかな声音に、平素以上の敵意を籠める。
 異星より降りた咎人がこの地球の、日本の侘び寂びを無視して悪戯に戦いを求めようとすることに、感情が動いていた。
(「ああ、しかし。もし私もいまアスガルドの民であったのならば、この美しい淋しさに気付くこともなかったのかもしれない……」)
 故に敵の心を解する事とて不可能ではない。
 だが、それが判るからこそ今自分はこの星の味方であるのだと。
「いまの戦がしたければ現在の戦場を選ぶがよかろう。焦土地帯などお誂え向きだが」
「……この素晴らしい戦場を、逃しはしないとも」
 罪人は反抗心を顕に剣を握る。
 そして殺意に満ち満ちるよう、踏み込んできた。
「戦のにおいの残る城。そして覇気に溢れた敵。最高の戦場だ──!」
「そうですか。あなたからは、私たちに見合うほどの覇気を感じられませんね」
 仕方がないので相手はしてあげますが、と。
 紺は敢えて挑発の言葉を投げる。
 罪人の剣筋が忿怒でぶれれば──狙い通り。紺は斜めに前進して、剣撃を避けながら横合いを取り銃を向けていた。
 瞬間、弾丸の雨が巨躯を穿つ。
 鎧がひしゃげる音と共に罪人が煽られれば、そこへ鉱石を輝かすのがディミック。
 『俤偲ぶ蛍石』──淡い光から幽かな幻を生み出し、過去を眼前に映し出させる。斬られた幻を目にしたのだろう、罪人はその迷夢に惑いふらついた。
「行けるかねえ」
「ええ、勿論です」
 応えながらそこへ奔り込むのがジャスティン。
 欠片たりとも手心は加えない。
 暴風の如き突撃から繰り出すのは『メガチャージ』。槍の刺突を見舞うと、深々と腹に刺した穂先を引き抜き二撃を与えた。
 そのまま回転して脚撃を至近から撃ち込み、巨体を吹っ飛ばす。
 大音を上げて倒れ込む罪人は、それでも起き上がりざまに炎の剣波を放った。
 が、ぶわりと翼を広げて滑り込む晟が硬い鱗と鎧、何よりも揺らがぬ意志の強さを以て──暴熱を正面から受け止めてみせる。
 一瞬後には、リュシエンヌが翠の鎖を優しく輝かせていた。
 色を失った灰色の景色。そこに瑞々しい緑の香りを薫らせるように。
 ゴシックドレスを仄かに揺らす爽風と共に魔法円を描き、護りの力で晟を含む前衛を治していく。
「ムスターシュも、お願いするの!」
 声に鳴いて応えたムスターシュは、柔らかな毛並みをそよがせながら羽ばたいて、優しい癒やしを重ねていた。
 同時にリンネも傍らに目をやって。
「私達も行きますよ氷雪。サポートは任せました」
 応じた氷雪が清らかな冷気で炎を消していくと──自身は手を天へ向け、透明な氷色の魔力を上方へ撃ち出していた。
「高き大空からの風よ、地上に舞い降りて仲間を癒す力を与えよ!」
 瞬間、降りてくるのは『大空からの祝福』。天空で癒やしの風と成った魔力が地上に吹き下ろされて、皆の傷を祓い去った。
 戦線が保たれれば、リンネは掲げていた腕を正面に向けて。
「影の弾丸よ、敵を侵食してしまいなさい!」
 渦巻いた闇色を魔弾にして奔らせ、巨体へ毒を染み込ませてゆく。
 罪人は苦渋を零しながらも刃を突き返そうとした、が。くるりと旋転するよう、透希は避けながら歌を口遊む。
 ──さぁ、愛に飢えしモノよ。
 ──踊り狂え。
 紡ぐメロディは澄んでいながら力強い声音のロック──『Masquerade』。
 旋律が譜の上を踊るように、ステップと共に奔らせる剣閃は優美ながら鋭く。腕を裂き、背を抉り、消えぬ痕を描いていった。
 罪人が慌てて振り向いてくれば、あしらうように透希は天井へと跳び上がり。
「ほら、何処を見ているんだ。私はここだぞ」
 声に巨体が跳んでくれば、そこへ刃を突き下ろし墜落させる。
 衝撃に呼気を洩らす罪人は──激憤に立ち上がり、振り上げる刃に力を込めた。
「全て、斬り裂いてくれる」
 が、それをも晟が槌で受け止める。
 対照的な程に冷静に、至近から咎人の顔を見据えていた。
「高尚な目的を口にはしていたようだが。ただ殺人衝動に駆られているだけのようにしか見えんがな」
 犯罪者扱いだったと考えれば当然か、と。
 声を零せば、横合いで刃を構える鬼人もまた肩を竦めて呆れを表す。
「なんていうかなぁ。戦場の匂いにつられてくるあたり、元々まともな奴じゃないんだろ」
 それから尋ねるように声を差し向けた。
「大体、なにやらかしたら、牢獄に入れられるんだよ? それに、どこから来たよ?」
「……どうでもいいことだ」
 罪人はそうとだけ返すから、鬼人はそうかよ、と呟く。
 情報収集の意図はあったが、答えを期待していなかったのもまた事実。
 晟も槌に鮮烈な冷気を込めて。
「いずれにしても一般市民を害する存在を野放しにはできん」
 ただそれだけのことだ、と。刃を弾いて一撃、鎧を砕きながら巨躯の膚を零下の衝撃で凍結させてゆく。
 呻いて体を抑える罪人へ、鬼人も容赦なく連撃。月光に燦めく剣撃で足元を斬り裂くと、体勢を崩した巨体に霊力を伴った斬撃を重ねてゆく。
 横方向へ罪人がよろけると、そこへ直走るのがジャスティン。不安定な足場にも速度を落とさず迫ると一撃、剛速の刺突で罪人の胸部を突き通した。

●月光
 滂沱の血潮を流しながら、罪人は膝をつく。
 眼前にちらつく死の未来に、声音は信じ難いとでもいうようだった。
「……まさか、これほどまでとは」
「戦いを求めていたのでしょうが。私たちを相手にしたのが運の尽きです」
 静かな紺の声に、巨躯は始め言葉を継げない。
 だが足掻くように立ち上がると、気力で自己回復していた。
「まだ、戦は終わりではない。戦場に相応しい血を、流させてやる──」
「そんなことさせないの。ここはもうそんな場所じゃないし……そもそも地球はアスガルドの犯罪者なんかの捨て場所でもないのよ!」
 リュシエンヌが言ってみせれば、頷くジャスティンが既に疾駆。その拳に魔力を凝集して振り被っている。
「だから、ここまでだ」
 瞬間、繰り出す打突で罪人の力を削ぎ落とす。
 ディミックも剣に微細な振動波を伝搬。スラスターを噴射しながら振り抜き、巨躯の加護を残らず斬り裂いた。
「畳み掛けてくれるかい」
「ああ」
 応える晟は竜頭の如き戟へ蒼雷を閃かせて『霹靂寸龍』。風を掃いて加速しながら雷撃を見舞い傷を抉り裂く。
 血煙を散らせながら、罪人も薙ぐように前衛を斬りつけた、が。
 リュシエンヌは柔らかな翼を広げて虹を架けるよう、七彩に燿く光を揺らがせて皆を治癒していた。
 透希も短く踊って靴で拍を鳴らし、月に燿く花吹雪で戦線を万全とする。そのまま敵へ跳び剣撃も加えていくと──。
「後は、頼みたい」
「ええ」
 頷く紺は銃身を向けて『葬送の神話』。月光にも照らされぬ夜色の影を撃ち出し、巨体を貫いていった。
 リンネはそこへ氷の如き刀身のナイフを振るう。
「貴方を鮮血に染めてあげましょう」
 氷晶を舞わせながら蒼の剣閃を踊らせて。言葉に違わず巨躯の全身を斬り裂いた。
 倒れゆく罪人へ、鬼人は『無拍子』。
「じゃ、これで最後だ」
 余分な挙動を排除した単純にして流麗な剣撃。その一閃で、罪人の命を両断した。

 月灯りの差し込む広間に、静寂が帰る。
「終わったな」
 罪人の亡骸が消滅すると、それを見下ろした晟は呟き武器を収めていた。
 紺も銃を下げて頷く。
「ええ、皆さん、お怪我などはありませんか」
「ん、大丈夫」
 透希が答えれば皆も頷き、健常な声を返していた。
 婚約者からもらったロザリオに手を当て、無事に終われたことへ祈りを上げていた鬼人は──それが終わると息をついて見回す。
 残ったのは、僅かに破損が進んだ古城の姿。
「広間は多少、壊れちまったか。本当、手に負えない奴らを不法投棄するの、やめてくれねぇかなぁ……?」
「最低限、訪れた人が怪我をしない程度に片づけておこうか」
 治してしまうのは風情がないから、と。ディミックが瓦礫を片付け始めると、鬼人も頷いていた。
「確かに、全部ヒールで治しちまったら、趣もなんもなくなっちまうしな」
「手伝いますね」
 と、リンネも撤去を助力して、荒れた場所だけ綺麗にする。
 残りは修繕のプロに任せればいいと、鬼人は専門の者へ連絡。あとでケルベロスカードを渡して処置してもらうことにした。
 それも済めば、鬼人は仲間に飯でも食べて帰らないかと提案。頷く者が居れば、共に帰路についていく。
 リュシエンヌは暫し一人で廃墟を見渡していた。
 景色は眺める程に、美しいけれど。
「……やっぱり、うりるさんがそばに居ないとあんまりステキには感じないの」
 だから今度はいっしょに来られたらいいな、と。
 愛する人の顔を浮かべながら、翼猫をぎゅっと抱きしめて。
「ムスターシュ、早くお家に帰ろうね。うりるさん、待ってるから」
 鳴き声を返したムスターシュと一緒に歩み出していく。
 そうして皆が去った後も、ジャスティンは広間から外壁へと散策をしていた。
「こんな古城はアスガルドにもあったな──」
 月光が大きなシルエットを照らし、幽玄さを演出する。それを仰ぎつつ、心に懐かしい気持ちを抱きながら。
 夜風の中を、ジャスティンはゆっくりと歩いていった。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年4月10日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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