色彩の花灯り

作者:崎田航輝

 深い秋には、夜の時間が長くなる。
 そんな季節に色彩の光を灯らせる庭園があった。
 まるで花のように咲いているのは、色とりどりのランプ。色と形で花を象ったそれは、一つ一つが違った輝きと眩さを持っていた。
 秋桜の形の灯りは、優しい淡紅で仄かに辺りを照らす。竜胆を模したものは清廉な青色で静かな光を見せる。
 小さな金木犀はきらきらと明るい金色を、大きな皇帝ダリアは優美な白紅を。薔薇はそれぞれの色味の上品な光で宵を飾っていた。
 夜長の時節、澄んだ空気の中では一層その光達が美しい。並べられたランプが売られている工房もすぐ近くにあるからだろう、多くの人々がその庭園へと訪れ、光を楽しんでいた。
 ──と、光の夜の只中へ、長い影を落とす者がひとり。
「灯りで照らすのもいいけれど。夜は暗い方が美しいね」
 言葉と共に、光の反射しない黒色の剣を握りながら。照明が眩しすぎるというように瞳を細める巨躯の男──エインヘリアル。
「命の灯りも、何もかもが無い静謐。それこそが綺麗な宵だよ」
 だから余計な灯火は消してしまおう、と。
 エインヘリアルは闇を描くように剣を振るい、命と光を切り裂いていく。血潮が散って、灯りが消えていくたびに──夜の暗闇は深くなっていった。

「夜を照らす花の灯り──とても素敵ですわね」
 秋の深まるヘリポート。
 その公園に見られるという景色に、シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)は華やかな声を零していた。
 ええ、と応えるのはイマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)。頷きながら、それでも少し眦を下げている。
「綺麗な景色のようです、けれど……そこにデウスエクスが現れる事が判ったのです」
 出現するのはエインヘリアル──アスガルドで重罪を犯した犯罪者。
 コギトエルゴスム化の刑罰から解き放たれて送り込まれるという、その新たな一人だろうということだった。
「放置しておけば、その場の人々が危機に晒されるでしょう」
「ならば、私達で守らなければなりませんね?」
 そう言ったシアに、イマジネイターは頷いて説明を続けた。
 現場は広さのある庭園。照明が多く並んでいて、夜間でも視界に問題はないだろう。
 エインヘリアルはその外側から園内へと踏み込んでくる。
「園内には人々がいますが──今回は警察と消防の協力で避難が行われる事になっています。こちらが到着する頃には、現場の人々は丁度逃げ終わっていることでしょう」
 こちらは到着後、敵を迎え討つことに専念すればいいと言った。
「周りに被害を及ぼさず終わらせることもできるはずですので……無事勝利できた暁には、景色を眺めていってもいいかも知れませんね」
 花の形をした灯りが並んでいて、一つ一つ色も形も違う。柔らかな灯りに綺羅びやかな灯り……そんな景色の中でゆっくりとひとときを過ごすのもいいだろう。
「このランプを作っている工房が近くにあって、買うこともできるみたいですよ」
 自分に合った花の色彩やデザインを探してみるのも楽しいでしょうと言った。
 シアは嫋やかに頷く。
「そのためにも、景色も人々も、守りたいですね」
「皆さんならばきっと勝利できるはずです。是非、頑張ってくださいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)
神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)
シア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)
小柳・玲央(剣扇・e26293)
小柳・瑠奈(暴龍・e31095)
オルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)

■リプレイ

●花彩
 澄んだ夜気が、仄明るい花々に耀く。
 グラデーションを作る灯りが、宵に虹のような彩を描いていた。それが美しいから──ローレライ・ウィッシュスター(白羊の盾・e00352)は広場を見回している。
「わぁ、綺麗ね──」
 小花に大輪、後でどれを買おうかと目移りしてしまう程。
 故にこそ、その美しさを目にして小柳・玲央(剣扇・e26293)はふと瞳を伏せる。
「せっかく、綺麗な場所を楽しめると思っているのに、ね」
 と、視線を向け直した先。
 夜陰から歩み来る巨躯の姿が見えていた。
 静寂を血に染めようと闊歩する罪人、エインヘリアル。
「無粋ってのはこういう事を言うんだろうな」
 水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は、軽く息をつきながら。それでもすらりと日本刀を抜いて戦いに備える。
 それはローレライも同じ。ランプは楽しみでもあるけれど。
「その前にしっかりと戦わないとね!!」
「ん……そうだね」
 かつりと蹄を鳴らし、頷くのはオルティア・レオガルデ(遠方の風・e85433)。
 早く討つべきというのなら、遠慮する意義もないと。蒼の瞳を俄に鋭くして──眩い雷光を発現。苛烈な光量を巨体にぶつけていた。
 たたらを踏んだ罪人は、此方の存在に気づき──はっとする。一歩、二歩。流麗にステップを踏んで、三拍で高く跳んだ玲央の姿を瞳に映したから。
 鮮やかに回転した玲央は、細身の槌から砲を撃ち下ろして罪人の足元を浚う。
 それで気を惹くには十分だったろう。罪人は真っ直ぐに此方へと踏み寄って来ていた。
「灯りに命。眩しいものが沢山あるね」
 眩しすぎるくらいに、と。
 刃を握りしめる声に、敵意も交えて。
「──じゃあ目ぇ閉じてろよって話さ」
 と、肩をすくめる相馬・竜人(エッシャーの多爾袞・e01889)は巨躯の殺意にもまるで怯まない。
 髑髏の仮面の奥に宿すのは、寧ろ罪人をして怯ませる程の乱暴な敵意。
「ま、心配しねえでも俺らがすぐオヤスミさせてやるよ。永遠にな」
 瞬間、呼応して飛び出るのは竜人のテレビウム、マンデリン。凶器で一撃、巨躯に痛打の跡を刻みつけた。
「うむ。少なくとも私達番犬がいる限り──凶行は此処までだ」
 声を継いで空から舞い降りるのは蒼き翼。
 風を掃き、宙を滑るように飛翔する神崎・晟(熱烈峻厳・e02896)。
 箱竜のラグナルが耀くブレスを浴びせると──自身は蒼雷を纏う青龍戟を突き出し、煌めく刺突を叩き込んだ。
 その苦痛に巨躯は堪らず後退しようとする、が。
「下がらせはしません」
 夜風に交じって花が薫る。
 罪人が振り向くと、そこに耀くのは灯りではなく、灯りを受けて清廉に光るシア・ベクルクス(花虎の尾・e10131)のミモザ。
 後背側へ翔んでいたシアは、花柄の鞘から刃を滑らせ一閃。光を浴びた斬閃で三日月を象ってみせた。
 よろける罪人は、包囲に気づきながらも笑んでいる。
「……良いじゃないか。全てを斬って、闇を手に入れよう」
「闇、か。漆黒の静謐は美しいけれども……いいのかな?」
 と、耳朶を打つ声に罪人は視線を巡らせる。
 そこに疾き影が横切っていた。
「闇が迫れば……私の、忍の世界だよ?」
 走り飛び、音も無く。
 瞳で見ても捉えられぬ程の速度で奔る小柳・瑠奈(暴龍・e31095)。
 灯りに耀く空間に伸びる、いくつもの影を縫うようにして。横合いを取ると一閃、雷を纏った爪撃で巨躯の脇腹を裂いてみせた。
「……!」
 罪人は苦渋に顔を歪めながら、それでも闇色の波動を放ってくる。
 が、晟がその身を以て防御してみせると、ローレライが即座に砲撃をして敵の動きを止める。同時に竜人が混沌を広げることで治癒して対処していた。
 オルティアが星剣で星座を描き、護りの加護を燦めかせれば、戦線は万全。
「じゃあ、反撃と行くか」
 直後には鬼人が疾駆して罪人の眼前へ。
 刃に円を描かせながら、その刀身に鮮烈な雷光を宿して。罪人が反応する暇も与えず一撃、光の流線を描いて腹部を貫いた。

●宵光
 夜は花灯りに尚、明るく彩られている。
 罪人は血を零しながら、その景色を嘆く声を洩らす。
「……今頃は灯も命も、無駄な光が全て無くなっているはずだったのにね──」
「すべての光が無駄、とはな」
 晟は小さく目を伏せていた。
「どうにもこういった輩は風情というものが理解できないらしいな。 発想が貧相というか豊かさに欠けるというか──」
「……ええ」
 シアは小さく言って、空を仰いでいる。
「命の灯がないのが、綺麗な宵というのなら──この夜空の瞬きは? 全て星という命の輝きではありませんか?」
 案外、夜というのは賑やかで鮮やかなものよ、と。
 美しい金の瞳を下ろして見回す。
「このランプたちのように」
「……、その全ての光が無くなることが一番美しいと、僕は思っているだけだよ」
 罪人は口を噤みながら、それでも反抗するように言った。
 オルティアはそれに頷かない。
「何が一番綺麗かは、人それぞれが決めること。押し付けは、邪魔……その程度もわからないから、使い捨て止まりなんだ」
「……言ってくれるね」
 罪人は俄に感情を見せて踏み込んでくる。
 けれど既に、その面前へ晟が羽ばたいていた。
「いずれにしてもはた迷惑な奴であることには変わりはない」
 だから早々にご退場願うとしよう、と。
 蒼竜之戟から放たれる突きは、烈しい雷で巨体の全身を襲う。『霹靂寸龍』──渦巻く雷光は膚を抉り、消え得ぬ電撃傷を刻みつけていった。
「そういうこった。欲しい環境が手元に無きゃあるとこ行けよ」
 それが出来ないのなら、ただ迷惑なだけ。
 ならば退けられるのみだ、と。竜人は『ワイルド・雷貫影矢』。爆ぜ暴れる光の強弓から影の矢を放ち巨体を縫い止める。
 その足元からフェアリーサークルのよう咲くのはシアの『菫花』。
 淡く、同時に鮮麗に。花弁が夜風に散るとそれは魔法陣に変わって──罪人の魂を浄化するように灼いていく。
 唸る罪人は、剣を振り回し暴れようとする。が、背後から切り込む鬼人は敢えて目を引くようその場で声を投げた。
「随分自由に荒れてくれるじゃないか、いつからそうなのか教えてくれよ」
 巧みに、剣筋を誘導するように。
 罪人は誘われるよう、剣を振り上げた。
「……最初からさ。綺麗なものを好んでいる、それだけのことだよ」
 そのまま鬼人へ振り下ろす、が、その一撃を滑り込んだローレライが受け止めると──すぐ後には竜人が二彩燦めくオーラで治癒している。
「ありがとう」
 言いながら、ローレライは艶紅の瞳を再び前へ。
 テレビウムのシュテルネがフラッシュを放ち、敵を怯ませると──自身は押さえていた刃を弾き返して廻転斬撃。剣閃の旋風で巨躯を切り刻んでいった。
 罪人は耐えきれずに下がる、が。
 そこでオルティアが張り巡らせた感知魔術に触れた。刹那、オルティアは反射的に刃を奔らせ、神速の斬撃を見舞う。
 蹂躙戦技:舌鼓雨斬──その一閃が巨躯の胸部を抉り命を削り取る。
 畳み掛けるよう、鬼人は『無拍子』。極限まで無駄を省き澄み渡らせた純然たる一閃で腕を切り飛ばした。
 同時、玲央が奔り出している。
「瑠奈、行くよ?」
「うん」
 と、そう応えた瑠奈と目を合わせると──玲央は獄炎で作り上げた爆竹を弾けさせ、眩さと音色で夜を包む。『炎祭・彩音煙舞』。その熱とリズム、そして舞う玲央から罪人は視線を外せない。
 そこへ瑠奈は一本の光の苦無、そして無数の影の苦無を射出していた。
 影の刃は四方八方から巨体の四肢を縫い止める。
 エインヘリアル自身がそれに気づく頃には、もう遅い。『BEFORE I FORGET』──最後に飛来した光が急所を貫き、巨体を四散させていった。

●花灯
 多色燦めく宵に、平和な静寂が降りる。
 戦いの後、皆で周囲を癒やせば景観は元通り。灯りにも傷一つなく、美しい光が変わらず夜の世界を飾っていた。
 皆はそれぞれに景色を眺めに歩み出す。
 竜人も近くの茶屋に寄り、灯りがすぐ傍で見える席で茶を飲んでいくことにした。
 夜風が差し込んで涼しく、温かな茶を啜ると快い。
 一息ついて見つめる灯りが仄かに明滅して見える。
 それがまるで風にそよいでいるようで。
「ま、場が荒らされずに済んでよかったな」
 竜人はふと呟く。
 マンデリンは自分も茶を頂いて、ただ静かに光の響宴を眺めていた。
 そんなマンデリンの様子をちらと見つつ──竜人はまた視線を戻す。灯りはいつまでも美しく照っていた。

「デートの前に周囲の状況に気を配るのは当然の嗜みだよ? なんてね」
 瑠奈は改めて丁寧に、しっかりと景観が保たれているかチェック。
 それも済むと、玲央に微笑みかけていた。
「……さ、楽しもうじゃないか。仄かで優雅な灯の彩りを♪」
「うん。私も楽しみにしていたんだ」
 玲央もそう頷いて早速歩み出そうとする。
 エスコートでも、と瑠奈に手を差し出そうとして──その前に、瑠奈がその手を優しく取っていた。
「それじゃ、エスコートは私に任せて貰おうかな、我が愛しのお姉様」
「……って、私がされる方なの?」
「デートコースは事前に調べてあるから、心配しなくても良いよ?」
「そう? じゃあ──道行は任せちゃおうかな♪」
 玲央が笑むと、瑠奈もまた笑み返して。姉妹仲良く、灯りの道へ歩み出す。
 温かな暖色の花。
 涼やかな寒色の花。
 季節を超えて咲く灯りは眩くも優しくて。
「夜に改めて見るのも貴重だよね」
 玲央はその美しさを感じて言った。
 幻想的な演出もあるけど。
「陽射しの中育つ姿とは違って、休んで、落ち着いているっていうのかな。生きている印象が強まって、綺麗だ」
「そうだね。蒼然とした闇を仄かに照らす光が、私たちの命のようだよね」
 瑠奈も頷いて一度瞳を閉じた。
「1つ1つは儚くとも集まれば大きく闇を照らすことが……と」
 そこで少し首を振る。デートにしてはちょっとだけ辛気臭いかな、と。
 それから隣に肩を触れ合わせ、腕を取り──むぎゅ~とくっつく。
「少し寒くなって来たこともあるし……どうかな、姉様?」
「うん? じゃあ私からも♪」
 玲央もまた、ぎゅっと返してみせた。それが灯りに劣らず暖かくて──二人は暫しそのまま散歩を続けていた。

 ぱたりぱたりと羽ばたくラグナルと共に、晟は並ぶランプを目に留めていく。
 涼やかな秋の花型や落ち着いた冬の花型も美しいけれど、絢爛な春の花々もまた同じくらいに魅力的。
 特に淡い白紅が清廉な、満開の桜が灯っているのは──。
「何とも不思議な感覚だな」
 季節に依らぬ美観に、晟は感心混じりの声音を零した。
 それからふむ、と思い立って工房へ。
「桜と言えば、花弁が青く見える桜もあるらしいからな──」
 そういった雰囲気のものが此処の灯りにもあればと、木造りの趣深い店内に入ると──桜型の灯りが並ぶ一角を眺める。
 すると柔らかく灯る、青い桜のランプがあった。
 彩度が強すぎず、少し小ぶりで上品な一品。
「良さそうだな」
 見つめて頷くと晟はそれを購入。夜の中を帰路についていく。

 婚約者からもらったロザリオに手を当てて、無事に終わった事を静かに祈る。
 鬼人はそれを終えると、庭園を歩み出していた。灯りを眺めながら、夜風でクールダウンをしようと思ったのだ。
「……二人で来た時の為に、見どころも押さえたいからな」
 過ぎらせるのはやはり、婚約者の顔。
 紅の薔薇に蒼の紫陽花。とりわけ美しいものを見つけては、次に来た時に見せてあげようと決めて覚えてゆく。
 その時間もまた、心地良くて。
「ここの所、一人になるって事無かったからな……たまには静かに過ごすのも悪くないな」
 そうして暫し寛いだ気分になると、次は工房へ。からんとドアベルを鳴らして静かな店内を入り、お土産になるランプを探し始めた。
「さて、と」
 どの品も美しい中、鬼人は少々迷って小さめのランプを選ぶ。優しい光が特徴的な一品で、それを買うことにした。
 この灯の下でゆっくりと珈琲でも飲みたい。
 そう思うと楽しみになって……その内に帰路についてゆく。

「まあ、まあまあ?」
 花冠が風にくるくる踊るよう、シアは庭園へ視線を巡らせては声を咲かす。
「こちらは竜胆? あちらは、金木犀?」
 仄かな高貴さを思わせる青に、可愛らしい金色。そんなの、どれも大好きに決まっているから──シアの笑顔は灯りに劣らず輝いた。
「この冷えて澄んだ空気の中で見る灯りの、なんて清々しい事かしら!」
 夜の夢に誘われ、花の世界に迷い込んだようで──感動のため息ばかり出てしまう。
 だけでなく、絵本のような木造りの工房に入れば、灯りを手にとって眺められるから。
「あああ、どれも素敵です……なんて悩ましいの!」
 本当なら全て買ってしまいたい程に魅力的。
 けれどぐっと堪えて、選ぶのは一つと決めた。
「リビングに置きたいから……ふさわしいものを……、ああ、やっぱりどれも素敵です……!」
 と、四季折々の花を見ていると、これと決めるのは大変だったけれど。
 それでも最後に選んだのはヤドリギを模したランプ。
 造形の美しい逸品で、艶めく実の灯が思わず目を惹いて。ずっと眺めていたくなる、そんな灯りだった。
 そうしてそれを大事に手にしたシアは──温かな気持ちの中、夜へと歩いていく。

 店の中にも沢山の花が咲いているようだ。
「本当に全部、綺麗ね──」
 ローレライはそれを一つ一つ見ながら、選んでいる。
 内緒でプレゼントしたいから、より一生懸命。何しろ、撫子に百合に秋桜に椿……春夏秋冬、どの灯りも甲乙付けがたいから。
「迷ってしまうわ」
 きっとどれを贈っても喜んでもらえるとは思う。
 でも、だからこそ特に良いと思うものを選びたかった。
「あ、これ、良いわね……」
 暫しの後、目に留まったのは緑と水色のもの。
 その彩が美しくて、思わず手にとっていた。
 これがいいと、心から思える。だから決めたら迷わず購入した。
 驚く恋人を思って目を細める。
 その時間が少し待ち遠しいと思うから──ローレライは帰路へついていった。

「わぁ……」
 オルティアは工房のランプを見て、声音を和らげている。
 戦時のきりりとした様相とは違った──それはオルティアの素の姿。
「戦闘中もつい見ちゃったけど、やっぱり綺麗です」
 目に痛くない、優しい光。
「ひとりで過ごす時にも、とっても落ち着きそう……」
 そして、淡い色の花。
 或いは、濃い彩の花。
 どんな色味も揃っていて。一つとして同じものがなくて、どれもが美しいから視線が彷徨ってしまうのだった。
「あ、これ、秋桜の形……欲しい……!」
 中でも気に入ったのは、薄紅が楚々とした秋桜。
「ぬいぐるみを横に置いたら、さらにかわいい光景になると思うのです……!」
 それを想像して、やわい笑みを零しつつ。
 オルティアはそれを購入して、帰り道に歩み出した。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2019年11月21日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 0/感動した 0/素敵だった 2/キャラが大事にされていた 2
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