春に過ぎゆくカペラ

作者:崎田航輝

 夜空には、無限の星々があった。
 ひとけのない山の中。一角が崖となっている場所に、1体のダモクレスがいる。
 少年の姿形をした、アンドロイド型の個体である。星を見ているのは、単身での行軍中にぼろぼろの望遠鏡と星図を見つけたからだ。
 忘れられたのか、捨てられたのか。定かでないが、ダモクレスは星図と照らし合わせつつ、大小の星と星座を眺めてみていた。
 星図には“季節の星座を楽しもう”と書いてある。
「……人というのは、楽しむために星を見るのですね」
 始めは、空を観賞することに意味があるとは思えなかった。けれど、数多の星に対して人間が愛情を持って観察していたらしいと知ると、認識も変わってきた。
「……あ、僕の名前?」
 そしてダモクレスは、遥か北西の空にぎょしゃ座の星を見つける。
 冬の星座の中にあるその星は、夏になるにつれて見えにくくなってゆくという。
 それでも今は見えた。遠くに燦然と輝く一等星が。
 量産型ではない、他のどの星でもないものとして、人間はそれを眺めていたことだろう。
 ダモクレスは、その星をどうしてか強く記憶に焼き付けたくなって立ち上がる。
 だが、丁度その時だった。
 星空が明滅して、土の地面に変わる。自分が倒れ込んでいたのだ。
「──これでいいでしょう。さあ、お行きなさい」
 背後から聞こえるのは、女性の声。
 ダモクレスの体に手を伸ばし、『死神の因子』を植え付ける、黒衣の死神だった。
 直後には、ダモクレスの思考はグラビティ・チェインを求める強迫観念に支配された。
「グラビティ・チェインを蓄え、ケルベロスに殺されるのです。それが貴方の使命です」
 声に頷くと、ダモクレスは人里へ向かう。もう、空を仰ぐことはなかった。

「集まっていただき、ありがとうございます」
 イマジネイター・リコレクション(レプリカントのヘリオライダー・en0255)は、ケルベロスたちに説明を始めていた。
「本日は、死神によって『死神の因子』を埋め込まれたデウスエクスの出現を伝えさせていただきます」
 そのデウスエクスは、アンドロイド型のダモクレスだ。
 街に現れ、虐殺によってグラビティ・チェインの獲得をしようと目論んでいるようだ。
 仮にこのダモクレスが大量のグラビティ・チェインを獲得してから死んだ場合、死神は強力なデウスエクスの死体を得ることとなってしまうだろう。
「こちらの急務は、このダモクレスがグラビティ・チェインを得る前に倒すことで、死神の目論見を阻止することです」
 何より、放置しておけば多くの市民が犠牲となってしまうことだろう。
「敵戦力増強、そして人々の虐殺を防ぐために、このダモクレスの討伐をお願いします」

 作戦詳細を、とイマジネイターは続ける。
「敵は、ダモクレス1体。出現場所は、市街地です」
 夜間だが、街の中心ということでそれなりの人の数がいる。
 ダモクレスが目指してくるのは、その人混みの中だ。
「皆さんが到着するのは、ダモクレスが現れて人々を襲おうとしているときです」
 到着段階では敵も現れたばかりでまだ被害者はいない。だが放っておけばその限りではないだろう。
「虐殺を阻止するように割り込みつつ、そのまま戦闘に入って下さい」
 ケルベロス達が邪魔すると分かれば、敵もまずはこちらを排除しようとしてくるはずだ。
 最低限人々を現場から遠ざけつつ、素早い撃破を目指して下さい、と言った。
「それから、このダモクレスを倒すと、死体から彼岸花のような花が咲いて何処かへ消えてしまう、ということが分かっています」
 つまりは、死神に回収されてしまう、ということだ。
「ただ、敵の残り体力に対して過剰なダメージを与えて死亡させた場合、死神の因子も破壊され、回収を阻止することが出来るようです」
 敵の体力とこちらの攻撃力、両方を鑑みながら戦うと良いでしょう、と言った。
 では敵の戦闘力について説明を、とイマジネイターは続ける。
「刃と銃器を使い、遠近で上手く攻撃をしてくるようですね」
 能力としては、腕を刃にする近単服破り攻撃、炎弾による遠単炎攻撃、広域射撃による遠列パラライズ攻撃の3つ。
 各能力に気をつけてください、と言った。
「するべきことは多いですが、まずは撃破を優先に。是非、頑張ってきて下さいね」
 イマジネイターはそう言葉を結んだ。


参加者
マイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)
エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)
左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)
鴻野・紗更(よもすがら・e28270)
アンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)
梅辻・乙女(日陰に咲く・e44458)
峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)
夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)

■リプレイ

●接敵
 星夜の街を、ケルベロス達は疾駆している。
 道々を縫って駆ければ、街の中心部も程近い。遠目には既に、人波に近づきつつある機械の少年の姿が確認できていた。
 峰・譲葉(崖上羚羊・e44916)はそれを見据えつつ呟く。
「死神の因子ってのも厄介なもんだな」
「……そうだね。そのせいで最後まで、死神に利用されるしかなくなるわけだから」
 と、静かに声を継ぐのはアンセルム・ビドー(蔦に鎖す・e34762)。声音に滲むのは憐れみの色でもあった。
 譲葉は一度首を振る。
「神様って名前がつくやつはどうにも好かない。人の人生を勝手に弄っていくなんて悪趣味だろう? あの因子ってやつも、埋めた当人に叩き返してやりたくなるぜ」
「それが出来ないなら。せめて、静かに終わらせてあげたいよね」
 アンセルムは空を見上げる。
 都会の中心でも、煌めく星はよく見えた。
「……こんな素敵な夜なんだから」
 ただ、「静かに」だなんて無理だとアンセルムも分かってはいる。それでも、そう願わずにはいられなかった。
 そして、そうでなくてもやるべき事がある。鴻野・紗更(よもすがら・e28270)はまっすぐに、よどみない足取りで敵へと距離を詰めていた。
「このような美しい夜に、悲劇は不似合いなもの。ですからまずは人々へ救援を、そして確実な撃破を」
 焦りの色のない慇懃な声音は、それが出来るだけの自信に裏打ちされている。
 起こる事実を語るように、紗更は冷静な表情で言った。
「さあ、悲劇を止めに参りましょう」

 街の中心へ着いた機械の少年、ダモクレスは、人々へと銃を向けていた。
 そこにいた市民は、既に半ば騒乱状態となっている。反してダモクレスは、機械的な殺意だけを浮かべて引き金に手をかけていた。
「使命を、果たしましょう……」
「──悪いけど、させられないよ」
 と、丁度そこへ、影が迫る。それは疾走してきたアンセルム。素早く飛び蹴りを放つことで、ダモクレスを後退させていた。
 よろけたダモクレスは、目を向ける。
「あなたは……?」
「ケルベロスだよ! わたしたちが来たから、もう好きにはさせないよ!」
 そう応えた声の主は、上空にいた。
 宙を翔けてきたマイヤ・マルヴァレフ(オラトリオのブレイズキャリバー・e18289)。滑空しながらファミリアを解放し、ダモクレスの足元を切り裂かせていく。
 着地したマイヤはそのまま、仲間とともにダモクレスの行く手を阻む位置についていた。
 この間、梅辻・乙女(日陰に咲く・e44458)もそれに加わりながら、周囲に呼びかけている。
「今のうちに、避難をしておいてくれると助かる」
「そーそー、今なら無傷で帰られるからね? けひひっ」
 と、声を継ぐのは夜巫囃・玲(泡沫幻想奇譚・e55580)だ。隣人力も発揮して人々に言葉を届け、戦場外へと誘導を進めていた。
 ダモクレスは反射的に見回す。が、そこにも視界を塞ぐように譲葉が立っていた。
「間違えるなよ、お前の相手はこっちにいる」
「……それならば」
 ダモクレスは応じるかのように譲葉に炎弾を撃つ。
 が、譲葉は防御態勢を取って衝撃を抑えると、直後に虹に輝く光を発破。自身を回復させるとともに前衛の戦闘力も高めていた。
 次いで、エレオス・ヴェレッド(無垢なるカデンツァ・e21925)も、手元に治癒の光を生み出している。
「これで回復と、防護も行いますね」
 白色に輝くそれは、眩いエクトプラズム。大きく広がって辺りを満たした煌めきは、前衛の皆の体に溶け込み、抵抗力を増幅させていた。
「前衛の守りは最低限、整ったはずです」
「じゃあ、後ろは俺に任せてな」
 そう言って手を伸ばすのは、左潟・十郎(風落ちパーシモン・e25634)。そこから温かみのある光を創り出し、発散させていた。
 星明りに輝くその力は、後衛の仲間の体を纏い、防護を固めさせていく。さらに、乙女も魂の力を自身に巡らせて感覚を鋭く保ち、戦闘態勢を整えていた。
 ダモクレスも連撃を狙う。が、そこに頭上から衝撃。避難を終えて建物の上に位置した玲が、飛び降りながら一本刃下駄で蹴りを打ち込んでいたのだ。
「さあ、今がチャンスだよ?」
「ええ、活かさせていただきます」
 声を継いだ紗更は、ふらつくダモクレスに大槌で一撃。氷気を伴った打撃を与え、膝をつかせていた。

●心
「ケルベロス……やはり、強いのですね」
 ダモクレスはよろめきつつも起き上がる。その瞳には変わらず、切迫した衝動だけが浮かんでいた。
「ですが、僕はまだ死ぬわけにはいきませんから……倒さないと」
 そう零す声音も、書き換えられた本能による、歪な色を含んでいる。
「やはりもう、貴方は星を見上げることはないのですね」
 エレオスは目を伏せていた。想像するのはダモクレスが星を見ていたであろう姿。
「見上げる星明かりが心に灯っていれば、分かり合えることもあったかも知れないのに……」
「星……」
 と、ダモクレスは不意に、感情の色の無い声を零す。それはまるで、記憶を探っているようでもあった。
 紗更は変わらず丁寧な口調で、尋ねる。
「古来、ひとは夜という時間に魅せられてきました。多くの星をその目で見た貴殿も、そうだったのでございましょうか」
「……わかりません」
 ダモクレスは首を振る。続く声は、はるか昔の事を話すようでもあった。
「……遠い北西の一等星。自分の識別名と同じものを見つけたときは、なにかを思った記憶があります。けどそのときの自分とは、既に違ってしまったようです」
「カペラ、って名前なんだよね」
 マイヤは一度、その方向を仰ぐようにする。十郎も少し上方を見て呟いた。
「星の名を持つ少年、か」
「星の数ほどある物語。それにキミは焦がれていたのかもしれないね」
 玲がそんなふうに言うと、十郎は頷く。
「実際に、彼にもあったかも知れない。昔の人が星に物語を見たように。量産型じゃない、彼だけの物語が──」
「尤も、今となっては分からない事なのかもだけど、けひひっ」
 玲は狐面に触れてその位置を直す。それは戦いの姿勢を整える仕草でもあったろうか。
 マイヤも、脚に炎を湛えて攻撃の態勢を取る。
 この敵を助ける事が出来ないことが、悲しかった。それでも相棒のボクスドラゴン、ラーシュが振り返ってくると、マイヤは頷いた。
「うん、判ってる、わたしが今出来る事を全力で精一杯やるだけだ──だから、回収させたりなんかしないよ!」
 炎が力をくれる。それを脚全体に纏って飛翔すると、マイヤは強烈な蹴撃でダモクレスを後退させていく。
 連続して、アンセルムもオウガメタルを脚に纏い、鋭い回し蹴りを叩き込んでいた。
「次、いける?」
「ええ、参ります」
 次いで、紗更も熱波を伴った飛び蹴り。痛烈な連撃で敵の体から破片を散らせていく。
 ダモクレスは反撃しようと刃を振るってきた。が、それをうまく防御した十郎は、バックステップしながら『偲月の隼』を飛ばしていた。
 それは月の如く淡く光る隼。高く鳴きながら飛来したそれは、一筋の光線となって腹部を穿っていく。
「皆さん頼もしいです。回復は任せてくださいね」
 と、直後にはエレオスが大地から魔力を抽出することで十郎を癒やしていた。
 ダモクレスはそれでも連撃を狙う。が、乙女は剣閃を縫うように距離を詰めていく。
「こちらも、退けないんだ。だから全力でいかせてもらう」
 紙一重で剣撃を避けていくと、くるりと回転し、音もなく艶やかに、大槌を手に携える。そのまま至近で衝撃の塊を撃ち出し、ダモクレスを宙へ煽った。
「今のうちに、次撃を」
「ああ、あのまま無防備でいてもらうぜ」
 応えた譲葉は『氈鹿の眼差し』。渦巻く感情を込めたひと睨みをすることで、瞬間的にダモクレスの残り火のような精神に働きかけ、怯ませる。
 そこへ、玲は壁を蹴り上がり、空を背に切りかかった。
「其の心の在り方に、迷い迷えど答えを見い出せぬなら……──あの星(そら)を見上げてご覧! けひひっ」
 繰り出す連続斬撃は、『冥界時雨』。妖力を纏った刀による剣閃は、文字通り雨のように。衝撃を降り注がせ、ダモクレスを地に叩きつけていた。

●星
 血のような油が、地面を伝う。ダモクレスは短い時間、仰向けのまま星を見ていた。
「空を見ても星を見ても、僕には何も思えません。あなたたちは、こうやって星を見ることが、楽しいのですか?」
「俺は空を見るのは、好きだよ」
 譲葉は言って、少し星を仰ぐ。
「お前も以前は好きだったんだろう。だからこういう状況じゃなけりゃ、何かが変わっていたのかもな」
「……想像がつきません。殺戮をすることしか考えられないから。それは悲しいことですか」
 ダモクレスは、ケルベロス達の顔を見てふと言っていた。
 乙女は静かに頷く。
「……虐殺を強いられるのは、嫌だな。殺める事しか出来ない歯痒さも」
 ただ、それをもうダモクレス自身が感じ取れないとも分かっている。
 エレオスは少しだけうつむいた。
「たとえお星様に願っても、彼は救われないんですよね……」
「そうだな。救う……と思うなんて烏滸がましいのかも知れない」
 乙女はそう返す。それでも、出来ることがあるのだと、喰霊刀を抜く。
「せめて、彼が星々の仲間になれるよう。我々の手で、この力で、必ず……終らせよう。彼には一人たりとも……殺させやしない」
 瞬間、乙女はまっすぐに切り込んだ。
 ダモクレスの剣閃が体を掠め、白い衣が、肌が血に濡れる事すら厭わず。『刃毀』による裂帛の剣撃でダモクレスの胸部を深々と切り裂く。
 同時、マイヤもファミリアを飛ばして、攻撃を仕掛けさせていた。
「みんなも、止まらないで攻撃を!」
「それじゃあ、ボクが合わせよう」
 それに声を返したアンセルムは、高く跳躍。マイヤのファミリアが敵へ斬撃を刻むと同時、自身は背後へと着地し、死角から刃の如き蹴りを繰り出した。
 衝撃に転げたダモクレスは、広域射撃で前衛を襲う。だがそこにはエレオスが治癒の力を収束。清浄な風を吹かせて即座に傷を癒やしていた。
「もう少し回復が必要そうです」
「俺が、やっておこう。皆、少し待っていてくれ」
 声を継いだ十郎は、空にグラビティを昇らせて、それを雨滴へ変化。癒やしの雨にして仲間に注ぎ麻痺を癒やしていく。
 負傷の大きかった紗更は、譲葉が掌から黄金の光を与えることで万全としていた。
「支援に感謝致します。こちらは反撃に移らせていただきますね」
 紗更が言うと、玲はけひひ、と笑みを零す。
「それじゃあ挟撃といこうか?」
「わかりました」
 冷静に頷く紗更は、地を蹴って敵の横合いへ跳んだ。ダモクレスは一度そちらに目を向けるが、逆側の上方から迫る玲に、判断が遅れる。
 玲はそのまま、宙で回転して蹴り落とし。そこへ、紗更も手を伸ばして炎で形作った竜を生み出していた。
「──そこでございますね」
 その狙いは、的確。ダモクレスがよろめいたところへ命中し、巨大な炎でその体を包んでいった。

●決着
 倒れていたダモクレスは、煙を上げながらもよろよろと起き上がる。
 元よりそこに本来の意志はない。文字通りの機械人形のように、ふらつきながらもただまっすぐに近づいてきていた。
 譲葉は阿頼耶識の光を輝かせながら、一度そこへ声を投げる。
「お前も災難なやつだ、ご苦労様」
「声が届いているかも怪しいが。その因子だけはきっちり破壊させて貰うからな」
 十郎はオウガメタルを拳に纏ってダモクレスへ接近していた。
 表情はあくまで冷静。ただ目の前の存在の可能性が摘み取られたことにはいささかの口惜しさも感じている。そして同時に、幾ばくかの反抗心も。
「──そう簡単に何もかも攫って行けると思うな」
 敵の裏にいる存在にまで言ってみせるように呟くと、そのまま強烈な殴打を叩き込んでいく。
 譲葉も流星のような光を飛ばして連撃を加えると、ダモクレスは吹っ飛ばされて転倒。マイヤがそこに黒色の波動を撃つことで、敵は瀕死となっていた。
「これでぎりぎりみたい。みんな、注意して!」
「おや、打ち止めか。なら、アタシの魂を分けてあげるとしようか」
 言った玲は、陽炎のように揺らめく力を紗更へ施し、感覚を鋭敏にする。
 同時にエレオスもオウガ粒子を拡散し、前衛の知覚力を高めていた。
「これであとは、攻撃するだけです……!」
「ああ」
 うなずく乙女も、魂を媒介にグラビティを注ぎ、アンセルムの狙いを研ぎ澄ませている。
 満身創痍のダモクレスは、体の破片を零しながら、最後まで立ち上がってきていた。
「使命……を……」
「……いいや。もう誰も、殺さなくて良い」
 乙女が言うと、頷いた紗更は『雨久花』。不可避を宿す魔術を、ほの光る青い雨粒として身に纏うと一閃。狙いすました斬撃で袈裟に機械の体を切り裂いていく。
「──おやすみなさいませ」
「うん、これで終わりにしよう」
 刹那、アンセルムも『変容:致命の獣』を行使していた。
 それは攻性植物“kedja”の外装たる少女人形に蔦を纏わせ、「己の領域に踏み込んだ者の命を刈る兎」の姿に変形させる力。
 蔦の兎は虚空より現れた剣で斬撃。ダモクレスの首を飛ばし、体を両断。因子のかけらに至るまで四散させていった。

「皆様、お疲れ様でございました」
 戦闘後、紗更の言葉に皆はそれぞれに武装を解く。
 十郎は敵の残骸を見下ろしていた。
「因子は、破壊できたみたいだな」
「そうだね。あとは、片付けをしておこうか」
 アンセルムが言うと、皆は頷いて周囲をヒールしていく。
 それが終わる頃、玲が1人遠くから歩んできていた。山で、古びた望遠鏡と星図を見つけてきていたのだ。
 玲はそれを添えて、ダモクレスの亡骸を葬ることにした。
「ほら、キミの一番星みーつけた」
「どうか……良い眠りを」
 埋められていくそれを見下ろしながら、エレオスは言葉を贈る。せめて同じ名を持つ星のもとへ、迷わず還れますように、と。
 譲葉は空を見上げる。
「この街は都会でも、星が見えるな。ダモクレスもこんな星を見ていたんだろうな」
「ああ、そうだな……」
 乙女もそっと、夜空を仰いでいた。少しだけ、この星を見ていたい気持ちだった。
 マイヤもラーシュを胸に抱いて、星々を見る。
「街の明かりもあるけど、でもたくさん星が見えるね」
 山から見ていた星空はもっと綺麗だったのかも知れない。それでも、この満天の星空は確かに美しかった。
「あの星も、よく見えるんだね」
 マイヤが指さしたのはぎょしゃ座の一等星、カペラ。遥か遠くの北西で輝くその星は、どの星にも負けないほどの存在感だ。
 それは山陰と星の流れで、すぐに見えなくなるだろう。けれど消えゆく前にもう一度だけ眩く瞬いた、そんな気がした。

作者:崎田航輝 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2018年5月28日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 2/感動した 0/素敵だった 5/キャラが大事にされていた 1
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