攻性惑星撃墜作戦~愛しき星の世界樹

作者:銀條彦

 ヘリポートへと到着するや、開口一番、急を要するのですとネイ・クレプシドラ(琅刻のヘリオライダー・en0316)は告げた。
 城ヶ島奪還の決戦時、謎の魔空回廊を探るため消失間際のそこから響く歌声を追って幾人かのケルベロス達が飛び込み、そしてそのまま行方知れずとなっていたのだが……彼らからの通信がつい先ほど復旧したのだという。

「歪な回廊を抜けた先にあったのは『島根県隠岐島』。かつてビルシャナ勢力のミッション地域が置かれ、その上空には無限増殖要塞『累乗曼荼羅』が出現した事もあった土地と聞き及んでおります」
 今やその場所こそが攻性植物残党――『聖王女』と呼ばれる存在戴く勢力の本拠地と化していた事を調査隊のケルベロス達は困難を乗り越えて暴き、伝えてくれたのである。
「もしも彼らからの情報が無いまま後手に廻っていたとしたら……『聖王女』の戦力は飛躍的に増強され私達にはもはや為すすべが無かったかもしれません」
 攻性植物の『聖王女』アンジェローゼ率いる勢力は現在、竜業合体ドラゴンの到来を察知し拠点ごと移動を開始している。
 直径約1キロほどの惑星型に変形した拠点『攻性惑星』は『聖王女』の歌声とともに隠岐島から飛翔し成層圏に到達したのだという。
「『攻性惑星』は竜十字島上空にまで移動し、そこで宇宙を渡り終えたドラゴン達を回収した後に空域から離脱するつもりです」
 たとえニーズヘッグが全滅したとしてもグラビティ・チェインが枯渇した竜業合体ドラゴン達を見捨てず回復させるといった旨の敵証言も有ったらしい。
 そして、これらの重大な敵情報をいち早く入手できたことで間一髪の際どいタイミングではあるが移動中の『攻性惑星』へ対処する猶予がいま生まれたのである。
 『聖王女』勢力との合流さえ阻止できれば、竜業合体ドラゴンはたとえ地球に現れたとしても壊滅状態である筈だと、タイタニアのヘリオライダーははっきりと断言した。

「その為にも急ぎ『攻性惑星』を撃破せねばなりません……ですが、敵は対空能力に特化した攻性植物『ウイングスナッチャー』を砲台のように配備して『惑星』表面を埋め尽くしており、私達ヘリオンの接近を決して許しはしないでしょう」
 迂闊に近付けば撃墜あるのみというこの絶対の防空網だが衝くべき隙は存在する。
 対空砲としての性能や運用と引き換えに『ウイングスナッチャー』達から個は失われ、『聖王女』の側近である8体の有力な攻性植物によって完全な制御下に置かれている。
 しかし敵防空網はヘリオンを最大限に警戒するあまりそれより遥かに小さな、人間サイズの標的に対しては絶対たりえないと重力子演算は弾き出した。
 ヘリオンで『攻性惑星』の移動ルートの遥か上方に先回りし、タイミングを計って飛び降りるという段取りをヘリオライダーは説明した。
 つまり……極限まで集中力を高めたケルベロスならば成層圏を降下しつつ弾幕を掻い潜り『攻性惑星』上へ突入する事も不可能ではない、という中々に無茶振りなのである。
 弾幕は『捕縛、足止め、服破り』の効果を備えた粘液の塊のようなもので回避に失敗した分だけその後に悪影響を齎す厄介な遠距離攻撃だが、とりあえず星の表面に降り立ってさえしまえばそれ以上の砲撃は受けずに済む。
 配備された『ウイングスナッチャー』達が厳命されているのは対空砲火であり、司令官から命令変更が行われてかつ時間を掛けて隅々にまで行き渡らない限り、彼らの攻撃が対地に切り替わる事は決して無いからである。
「突入完了後『ウイングスナッチャー』についてはまったく無視して構いません。防空網を指揮する8体の司令官達をピンポイントで撃破できればおのずと無力化されるでしょう」

 続いてネイは、倒すべき敵司令官についてのデータを提示する。
 『ヨイヌエ』と呼称されるその攻性植物は、ウェアライダーに似た獣部位を持ち、花々をその身に纏う清らかさはオラトリオをも想起させる、美しき豊饒の乙女である。
 しかし『聖王女』アンジェローゼに仕える側近であり、司令官の一角という大役を任されるに足る戦闘力を備えた強きデウスエクスなのは間違いないのだが……彼女にとっての一番は『聖王女』ではないようだと怪訝そうにネイは首を傾げる。
「彼女が何よりも護りたいものとはユグドラシル――その根で出来た『攻性惑星』そのものなのです」
 あの『星』がいずれふたつめの世界樹となるその日を待ち侘びる夢想はただ虚しいばかりにも思えるが、ヨイヌエにとってそれは不死の命懸けて戦う理由たり得るのである。
「……理解しがたい価値観ではありますが……『攻性惑星』撃破の前に立ちはだかる障害となるのならば他の司令官となんら違いはありません」
 そう結論づけたタイタニアの少女からは改めて、確実な撃破をと念が押される。

「ケルベロスの皆さんが城ヶ島のニーズヘッグを全滅させた事は『聖王女』にとっても本星ドラゴンにとってもこの上無い痛恨だった点は揺るぎません。そして今、危険を顧みず回廊に挑んだ皆さんのお蔭で『聖王女』が切ろうとした切り札すらも奪えるかもしれません……いいえ、皆さんならきっと!」
 眼前に居並ぶ戦士たちの勝利を疑わぬ黒き蝶翅が高揚のままに震える。
 羽撃き、誘うは――『星』すら見下ろす天の涯て。


参加者
幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)
シル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)
立花・恵(翠の流星・e01060)
レヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)
北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)
鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)
カロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)
滝摩・弓月(七つ彩る銘の鐘・e45006)

■リプレイ


 星墜とす為、重力に引かれて自らも落ちる。
 そんな自由落下にケルベロス達は次々と身を躍らせる。

「さあ、ショータイムの始まりだ!」
 漆黒のライドキャリバーに跨る北條・計都(凶兆の鋼鴉・e28570)が、晴れやかなサムズアップを披露しながら成層圏へと飛び込めば。
「あぁいくぜっ! 超絶スリルの……スカイダイビングだっ!」
 とびっきりの笑顔とともに立花・恵(翠の流星・e01060)もまた仲間の後へと続いた。
 ドローン機従えた鞘柄・奏過(曜変天目の光翼・e29532)は穏やかな微笑を湛えながらのフォール。
 コンセントレーションを高めるコツは寒冷適応と蜂蜜を溶かした紅茶を一杯だと彼自身は語っていたが……。
 彼の寒冷適応がその実、大量の使い捨てカイロによって齎されている点、レヴィン・ペイルライダー(キャニオンクロウ・e25278)は釈然としなかったが……今日はシリアスで行くと心に決めていた彼は全スルーを決め込み粛々と降下に入った。
 ごくまっとうな寒冷適応に守られながらである。

 縦に細長く伸びる戦列の底にして牽引役の先頭を務めるのはシル・ウィンディア(鳳翼の精霊姫・e00695)だ。
 蒼髪を靡かせて風を切る少女は、惑星地表まで最短でおおよそ2分との目測を弾く。
 落下速度が瞬く間にジェットパック・デバイスの最高速を越した今その力で加速する狙いこそかなわなかったがシルを通してケルベロス全員に飛翔能力が行き渡る。
 計都と恵とカロン・レインズ(悪戯と嘘・e37629)はそれぞれ強化ゴーグルを実体化。
 他にもこの激しい風圧の中、できるかぎりクリアな視界を確保する目的で、デバイスとは別にゴーグル装着を選んだ者は多く見受けられる。
 カロンはゴッドサイト・デバイスで敵司令官ヨイヌエの現在位置を特定しようとしたが、果たせず。
 デバイスで把握できるのはあくまで敵味方のおおまかな配置だけで事細かな敵種の判別は出来ず、まして無数のウイングスナッチャーに囲まれた司令官だけを見分けるなど不可能にも思えたからである。
「肉眼で直接探した方がよっぽど早そうですね……」
 そんなため息と同時、強制的に切り替わった橙瞳の兎の視界に飛び込んで来たのは――。

 眼下の星より押し寄せる大弾幕の、怒涛。


「何年も功夫を積んできたのです、このくらいはっ!」
 紅蓮たる魂燃え上がらせた幸・鳳琴(精霊翼の龍拳士・e00039)の叫び。
 たとえどれほどの猛攻に曝されようと彼女が怯むことなど無く、その降下姿勢すらも凛と勇ましい。
(「……それに……シルと一緒なら何処だって、どんな相手だって」)
 その上、先陣を飛ぶ恋人から与えられた『翼』が合わされば少女の回避機動は冴えわたるばかりだ。
「調査隊がくれたこのチャンス、張り切らない訳にはいかないだろうがっ!」
 レヴィンは内心で暴走者の行方を気にかけつつも……いま己が為すべきはまずいつも以上の真剣さでこの任務に臨んで勝利する事だ。
 アームドアームの駆動を力強く操っての自在な連続移動がレヴィンの被弾率を格段に下げてくれている。
 ……常は陽気な青年の、今日の横顔はいつになく険しい。
 ジャマーを選んだ滝摩・弓月(七つ彩る銘の鐘・e45006)はフェアリーブーツの更に上から履く形となったチェイスアート・デバイスへ神経を集中させようとする。
 ミミックのフォーマルハウトを腕にしっかりと抱えて落下中のカロンは弓月からのビームが繋がったのを確認し、回避力上昇を図ろうとした。
 しかし、双方ともその効果は発揮されぬじまいのまま砲撃を浴びる事となる。
「ダメ元でしたが……」
 自由落下中の弓月ら現在のケルベロスはいわば攻撃の発射元であるウイングスナッチャーへ向かって自ら急接近を続けている状態で、デバイスはこれを「逃げている」とは取ってくれなかったようだ。
「滝摩さん! レインズさんも、早く立て直しを!」
 叫びよりも速く思念でレスキュードローンを飛ばした奏過の救援は寸での所で間に合い、ぐるぐると錐揉みのような挙動を繰り返したドローンは2人に襲いかかる粘液塊のことごとくを引き受けてくれた。
 意思を完全喪失した自動防空網と化す敵群に対しドローンは盾兼デコイとしてきわめて有効的で、その後しばらくの間は派手な旋回を続けた奏過のドローンだけが狙い撃ちされる事となった。が。それも長くは続かない。
 通常任務でなら到底有り得ない数の被弾に耐え切れず、硬き装甲を誇るメディックデバイスにも遂に限界の時が訪れて粉々に砕け散ってゆく。
「なんと! ……それでも幸いにしてジェットパックやチェイスアートとの接続が途切れるという事は無いようですね」
 司令官戦を前にドローンを早々失った奏過だが、もとより非戦闘用機体。
 それにパワーアップや重傷耐性といった基本能力は依然として維持されているようだ。
「ありがとうございます鞘柄さん!!」
 ドローン消失直後の砲撃だけは躱しきれず被弾した弓月だったが、器用にもシャウトと感謝と立て直しを並行してこなす彼女は以降、自力での回避行動だけに注力する。
 一方カロンもキュアヒールを携えてはいたが使用時に生じる隙と足止め・捕縛の同時発動による回避率低下を秤にかけた末に、彼は腕中のフォーマルハウトに庇われながらの強行降下を選ぶのだった。

 そして――地表到達まで残すは1分たらず。
「良いねえ、地球の重力を最大限に生かした作戦だ……負ける道理がないね!
 いざ尋常に! ダイブトゥディープッ!!」
 昂ぶると同時に研ぎ澄まされてゆく感覚に包まれた計都とこがらす丸の人車一体ぶりは、加速する一方。 ……だったがどうやらそれだけではない。
 攻性惑星へと近付く程に弾幕密度は徐々に薄らいでいくようだった。
「あくまでも長々距離砲。最警戒対象はやっぱりヘリオンなんだろうぜ」
 推察の通りであればこっちにとっては好都合だと、ニヤリ。レヴィンは笑う。
「予知を持たない聖王女側からしてみれば、敵投入戦力が私達8チーム限りで終わりという保証など何処にも有りませんからね」
 奏過もまた呟きを漏らす。
 キャスター不在の今回、自由落下中に会話を交わす事は困難だったが各々で考え当たった結論はおおよそ同じであるようだった。

 渾身の姿勢制御、抜群の空中機動、時には神業的な相殺攻撃すらも駆使をして。
 ケルベロスの隊列は、ぐんぐんと誰欠けることなく落下し続ける……。


「指揮官……いたぜっ!」
 恵が指し示したのは、世界樹の根から創られたという星の上の、とある一点。
 遠目にもそれと判る少女の『異彩』はまさに百花繚乱。
「ヨイヌエ――ようやくあなたへと辿り着いたようですね」
 握り締めた弓月の手にぎゅっと力が篭る。
 花纏う獣の乙女は司令官としての実力を備えた格上敵として当然とばかりに先制攻撃に討って出る。
 ヨイヌエの蔓花が繚乱と花開けば、踊るような足取りに乗せてヴァイン・ワルツが振り撒かれたが列減衰と厚い盾勢のカバーでこれを耐え凌ぐ。
「成層圏からご挨拶っ! 流星の煌めき受けてみてっ!」
 落下の勢いそのままに。
 すかさずシルの脚から閃いたスターゲイザーが反撃の烽火となる。
『なんて野蛮な。ユグドラシルにこれ以上の手出しはさせない!』
 憎むべきケルベロスに蹴り飛ばされますます激昂するヨイヌエだったが、その周囲に控える無数のウイングスナッチャーは全くの無反応。対空警戒に専念しているのだろう。
 命令変更には大幅な時間を要するとはいえ、これほどの火力。侵入者排除に振り分ければ有利に戦えるだろうし、あるいは、攻撃には参加させぬまま数に物を言わせた防御陣を敷くだけでもケルベロスは消耗を余儀なくされただろう。
 しかし、それは同時に対空能力の低下へと直結する。
 攻性植物の『聖王女』一派に属しながら、アンジェローゼ以上にこの『攻性惑星』こそを至上とするヨイヌエにとって愛しいこの星をみすみす危険にさらす可能性を引き上げるような指揮は絶対に執れないのだ。
「つけこませてもらうぞ、デウスエクス。守りたいものを守る……分からなくもないが、
 分かるわけにはいかないんだ!」
 殊更に己が人間的部分を鋼鴉へと押し包み、計都の轟竜砲が少女司令官を荒々しく穿つ。

「ここからが本番ですよ」
 前衛列に残ったディフェンダー勢の中でも特に自力回復手段を持たないまま盾役を務めたサーヴァント2体のダメージやBSの蓄積を重く見た奏過はメディカルレインで彼らを洗い流してゆく。
 レヴィンもカロンに気力溜めを施し、効率よくキュアが手分けされてゆく。
「はい、調査隊の方々の頑張りに応えましょう。絶対に攻性惑星を撃墜します!」
 鳳琴からのハキハキと生真面目な返答に、ヨイヌエが怒気を露わにして振り返れば既にそこに少女の姿は無く……素早く死角へと廻り込んでからの旋刃脚が叩き込まれる。
 その隙に弓月がスターサンクチュアリを展開して後衛列に加護を与える。僅かばかりの列減衰などジャマーである彼女ならば物ともしない。

 あるいは交戦前からヨイヌエとの闘いは既に始まっていたと云えるのかもしれない。
 弾幕突破後にも残存するBS被害次第では、格上敵からの先制列ジグザグで掻き乱されたまま押し切られ、ケルベロスに勝機は無かったかもしれないからだ。

 心惑わせる花葬の囁きは、ヨイヌエ最大のダメージソースでありケルベロス優位の戦況をいつでも覆し得る脅威だったが……。
 射程に捉えられるのは堅守誇る2人と2体のディフェンダー勢だけである。
 それでもサーヴァント達が催眠状態となれば催眠やプレッシャーなどが遠列で自陣を襲う恐れがあったが、防具耐性の合致や密な連携がヨイヌエに戦いの主導権を渡さない。
「折れることなき、心をもって――」
 龍の輝きをもって、鳳琴がこがらす丸を催眠の魔力から解放する。
 彼女や奏過の手厚いヒールに加え、『催眠時はシャウト』の方針がチーム内にほぼ徹底されていた事でレヴィンが祝福の矢で破剣使いを増やす余裕が生まれた。
『そんな……っ!?』
 遠き星の世界樹を想って唄われるララバイが途絶えた事で、ヨイヌエを護るBS耐性もまた力を失ってゆく。
 きらきらと星屑撒いて兎のような跳躍からカロンのスターゲイザーが突き刺さり、足止めは充分との確信を得た恵は零距離射撃を敢行する。

 彩とりどりのフローレスフラワーズを舞い散らせながら。
 とうとう堪えきれぬといった面持ちで弓月は敵たる少女へと語り掛ける。
「ケルベロスではない絵描きとしての私は、あなたの美に心惹かれています」
『!! 美しいというのはユグドラシルやこの星のような存在のことを言うの。
 まるでヒトやケダモノみたいな、こんなみにくいカラダのことじゃないわ』
 可憐な乙女そのものの唇から吐かれた、心の底より厭わしげな自虐。
「随分な言われようだけど……」
「まぁまぁ。ほら、相手は世界樹たん強火担の攻性植物だから」
 兎獣人であるカロンが不機嫌そうに振り翳したロッドから傷穢す呪詛が注がれ、『空』の霊力込めた恵の弾丸が狙い澄まし重ねて射ち込まれる。
 ジグザグ連弾が直撃した敵司令官の弱体化はいよいよ、深緑の子守唄の加護では抑えきれぬ領域に差し掛かろうとしていた。
「いいえ、ちがいます」
 醜くくそして浅ましいのは、創作意欲という名の狂わしき衝動。
 世界のすべてを知ろうとして止まない自らのこの内なる嵐なのだと訴える代わりに――弓月は1本の絵筆を手に取る。

「どうぞ、御覧あれ」
『なっ!? これは……』

 心おもむくまま奔らせた少女の筆が描いたのは、
 ――世界樹そのもののと化した星の上に咲く、一輪の孤高の花。
 ヨイヌエが焦がれ夢想した理想郷の風景そのままが弓月の幻画(トロンプルイユ)の内には在った。それは彼女が戦うべき理由、だったもの。
 嗚呼と絶句したまま立ち尽くすヨイヌエの有り様はもはや自らが司令官であることすらも忘れてただただ『騙し絵』の底へと墜ちてゆき、堕ちてゆき……。
 絵描きの少女は、沈黙を湛えたまま、一刻も早い決着をと仲間達に促す。

「わかった。見せてやる――これが北條・計都の精一杯だ!」
 胸の古傷からグラビティ迸る妖剣を創り出し、引き摺り出し、繰り出された『覚悟の刃(レゾリューションブレード)』。
 ヨイヌエの背の翼のごとき蔓枝が一刀の下両断され、咲き誇る花々を儚く散らす。
 レヴィンが銀色の銃の引き金に指を掛け、攻撃へと転じた奏過もメタルオウガの『鬼瓦』とともに炎纏う飛走を見舞う。
 その全てに対して、ヨイヌエはただ浴びるに任せるばかりだった。
 まるで心喪い棒立ちのまま、虚空を見上げ続けるウイングスナッチャーの様に。
 そして。
 既に終わってしまった戦いの、最後の幕を引いたのは詠唱紡いだシルから放たれた複合精霊魔法『六芒精霊収束砲(ヘキサドライブ・エレメンタルブラスト)』。
「みんなの想いを込めて……。全部、持ってけーっ!」
 詠唱句の『母なる大地』というくだりを耳にした瞬間、ヨイヌエの口元がユグドラシルと紡いだようにも見えたが……戦場に蒼き翼が羽撃いたその時にはもう全てが清浄たる弾幕の内へと飲み込まれていった。

「綺麗なモノを、ありがとう……ヨイヌエ」
 瞬きすら忘れてその全てを見届けた後。
 弓月のパレットは、また、まっさらな純白にと回帰してゆく。


「それじゃ急ごうぜ。撃墜担当のケルベロス達を待たせるのも悪いしな」
「あ、待って待って。目の前まで来てくれないと再牽引できないっぽいんだよねー」
 帰路を急ごうとするレヴィンにシルがそう声を掛ける。
 戦術の都合上いったん飛行付与を解除した2人の内の片方、レヴィンに対してシルは再び牽引を施した。
 そして。
 もう1人は、既にシルへと左手を差し伸べていた。その指先に光る約束の指輪に、そっと永遠の指輪が重ねられる。
「さぁ、行こう!」
「一緒に飛ぶよ――琴」
 14歳という齢相応に親しげにくだけて、甘やかで。
 シルと言葉交わす鳳琴の声は先迄とはがらり別人のようだった。

 かくて全対空能力を無力化させられた攻性惑星へと振り下ろされた、重力の切っ先。
 万能戦艦ケルベロスブレイドと多くの戦友達による一斉砲撃をもって、撃墜作戦はここに完遂と相成った。が。
「なにぃ!?」
「竜業合体ドラゴンの本隊か……だが一歩遅かったな。合流なんてさせないぜ!」
 新たな敵のあまりに唐突な出現に驚愕するレヴィン。だが再びホルスターから銃を抜いた恵の言葉にすぐさま強く同意する。
 列を先導するシルと鳳琴もまた。

「ねえ琴、まだまだ飛べるよね」
「勿論。『こんなところで止まってられないっ!』でしょ、シル」
 見つめあい、ふふっと笑い合った少女達の手と手は固く結ばれたまま。

 この絆あれば、何も恐れることはないのだ――。

作者:銀條彦 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2021年2月11日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 4/感動した 0/素敵だった 3/キャラが大事にされていた 0
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