第二王女ハール決戦~逆転の時

作者:baron

「まずは第九王子サフィーロとの決戦に勝利、おめでとうございます。ブレイザブリクを完全に支配下に入れた事で、エインヘリアルの本星に繋がるアスガルドゲートの探索が開始されました。しかし、エインヘリアルが、この状況を座して待つわけがないと推測されます」
 セリカ・リュミエールは溶離への祝辞を述べた後、険しい顔で説明を始める。
 フローネ・グラネット(紫水晶の盾・e09983)の予測などから、ホーフンド王子勢力から『サフィーロ王子の裏切りによるブレイザブリクの失陥』という報告も行われており、ブレイザブリクを奪取する為の軍勢を起こすのは間違いないと思われる。
「大阪城方面の情報を収集していた、アビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さん他ケルベロスのみなさんから、重要な情報が齎されました。大阪城の攻性植物勢力が、軍勢を整えて侵攻の準備をしているというのです」
 ブレイザブリク侵攻に合わせ、大阪城からも攻める合同作戦の危険があるとのことだ。
「エインヘリアルと攻性植物は長年の仇敵でしたが、近年は、ケルベロスを共通の敵として対立関係が緩和していました。更に、大阪城のハール王女が、ホーフンド王子の軍勢に援軍を派遣するなどの工作も行っていた為、この合同作戦が行われる可能性は、かなり高いと言わざるを得ないでしょう」
 だがケルベロス達の調査により大阪城側の準備がまだ整っておらず、隙がある事も判明。
 そこで複数のルートから大阪城に攻撃を仕掛け、共同作戦をできないようにする作戦が建てられた。
「ここで重要なのは、この二者は仇敵同士だったという事です。攻性植物とエインヘリアルとの連携に大きな役割を果たしていると思われる『エインヘリアルの第二王女・ハール』を撃破する事ができれば、当面の合同作戦は行えなくなるでしょう。撃破できなくても、攻性植物勢力の『ハール王女への信用』を大きく下げる事が出来れば、同様の効果を期待する事が出来ますし、場合によっては、ハール王女を攻性植物勢力の手で排除させる事もできるかもしれません」
 発動段階で合同作戦を邪魔できるほか、ハールが居なければ連携そのものが危うくなる。
 それだけではなく攻性植物勢力がハール王女を処断した場合、エインヘリアルと攻性植物との対立の激化が見込める為、ただ撃破するよりも良い結果になるかもしれない。やはり元が仇敵であり、一時的な共闘でしかないのだ。ハールの存在が大きいと同時に、欠ければその意義が失われる可能性も高いのである。

「ハールは多くの失態を重ねている事から、最前線の防衛拠点の守護を任されています。
 更に、子飼いの軍勢をホーフンド王子の援軍に送った為、戦力も充分ではありません。
 問題点としては最前線の防衛拠点『要塞ヤルンヴィド』は、ダモクレス勢力の城塞であること」
 ハール王女の部隊とは別に、ダモクレスの軍勢も駐屯しているのが厄介だ。
 そこでダモクレスの部隊と、ハール王女を分断する作戦が必要になる。
 分断する方法は、戦闘によって物理的に距離を取らせる方法と、心理的な間隙を生む策略が存在する。或いは、この双方を組み合わせても構わないだろう。

「作戦概要としては敵本隊に楔を打ち、その間に敵の指揮官たちを討つという物です」
 本隊を叩けば相手全体の動きが鈍く成り、仮に倒せなくともハールへの増援を止めることが可能。
 ゆえに本体への攻撃は要塞攻略の為というよりは、陽動に近いだろう。
「その上で重要なのは残る戦力で誰を倒すのか。戦力を集中するか重要人物全てを狙うのかです」
 王女であるハールの他、要塞の守備担当に、交渉担当。
 様々な人材が居り、このいずれを倒しても相手陣営の価値は揺らぐだろう。
 同時にそれぞれを狙う事で、ハールを守る為、あるいは要塞を守る為に動かねばならぬと行動を固定化させることができる。本隊の場合と同じく、それぞれに狙う価値があるのが難しい所だろう。
「エインヘリアルと攻性植物に連携されれば厄介ですし、ハールの策謀を許せば危険なことになるでしょう。しかしここで止めることができれば、大きく逆転することができます」
 要塞ヤルンヴィドと大阪城から攻められる可能性があるが、ここで倒せば逆転する。
 大阪城から来る戦力と逆行して、こちらから攻め込む班も居るという。
 ハールの手腕は厄介だが、ここで倒せば連中の連携そのものが食い止められる可能性が高い。サフィーロ王子との決戦に勝利したばかりだが、因縁重なる第二王女ハールとの決着を付ける事の意義は大きいだろう。
 セリカがそういうとケルベロス達は頷き合い、熱心に相談を始めるのであった。


参加者
水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)
スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)
テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)
円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)
獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)
如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)

■リプレイ


 ケルベロス達は総勢五班で要塞内に突入した。
 先行して敵兵を迎撃する班の後ろに立つことで、殆どの者が消耗抜きでハールの元に辿り着くことに成功したのだ。
「進めば進むほど敵が多くなってくる。やっぱり……」
「こちらで待ち受ける方が増援との協調を含めて、生存率が高いと思われます。高い確率が見込めるでしょう」
 表情こそ変わらぬものの先を睨むようにして駆ける円城・キアリ(傷だらけの仔猫・e09214)の言葉を、テレサ・コール(黒白の双輪・e04242)が肯定する。
 他の班に任せているので先の事は見えないが、相手の防御を見れば敵将の居所は丸判りだ。
「しかし、そう思わせてコソリと逃げ出している可能性はないでしょうか?」
「ありえる話だけど……班が一つ探索に分かれたな。道はあっても狭そうだ、この状況で逃げたらむしろ危険なだけだろう」
 如月・沙耶(青薔薇の誓い・e67384)と水無月・鬼人(重力の鬼・e00414)は周囲に隠された道がないかを確認しながら走り抜けたが、存在しないかちょっとした小道だった。
 こんな場所から逃げたら袋の鼠だし……参謀格のリリー・ルビー狙いで捜索を始めた班もある。
 この期に及んで逃げれば危険なだけだし、人数次第・増援次第で十分に勝ち目があるのだ、敵将ハールは待ち構えている可能性が高いだろう。
「あの時から、あなたを討つことをずっと望んできたわ。失墜の王女ハール――その命、貰い受ける……!」
(「ハールの撃破を目指す、か。今更ながら重要なことに少し緊張しちゃうんだよ」)
 キアリはかつてハールに敗北した過去を思い出しながら気合を入れ、スノーエル・トリフォリウム(四つの白翼・e02161)は逆に委縮しそうになった。
 言葉にこそ出さないが僅かに緊張を感じてしまう。
「ってそんなこと考えてる場合じゃないよね、マシュちゃん。私は私にできることを、ずっとそうしてきたんだから、今回もおんなじ、なんだよ」
 スノーエルは抱えている箱竜のマシュをぎゅっと抱きしめて勇気を分けてもらった。

 やがて先行する班が消耗に耐えかねて後退を決意するころ、ようやくハールの居場所に辿り着いたのである!
 ケルベロス達は逃がさぬように、戦い易いように陣形を組み直しながら徐々に距離を詰め始めた。
「どうした? ようやく待ちに待った出番だというのに」
「いや、な。隠れて急進するつもりと聞いて色々外して来たが、存外まともな攻城戦になってしまった。こんなことならば名乗りを上げても良かったなと思っただけだ」
 不敵な笑みを浮かべて突入時期を探るヴォルフ・フェアレーター(闇狼・e00354)に対し、カジミェシュ・タルノフスキー(機巧之翼・e17834)は苦笑を浮かべざるを得ない。
 全員で潜伏と探索の準備を整えたのだが……そのことが逆にハールを警戒させたのだろうか?
 大仰な警戒網と防御網で待ち構えられ、結局は普通に戦うことになったのである。
「お互いに策を考えるのであれば大多数の策は無駄になるかと」
「まあいい。これもまた戦の華。出た時から心残りなぞない」
 どこまでも冷静なテレサに頷きながら、カジミェシュは苦笑いを晴れ晴れとした笑顔に変えて突入の合図を待った。
 伝来の戦装束で暴れまわるのは別の機会で行うだけだ。
「逃げる気は無し……か」
「その代わり、随分と壁が厚そうだけどね。ここは先に削らないと辿り付けなさそう」
 鬼人は様子を探りながら幾つかの思案を心に秘め、獅子谷・銀子(眠れる銀獅子・e29902)は素早くどう行動すべきかを判断した。
 時ここに至れば戦うだけだ。ならば役目を配分してどこかの班が敵の壁役を削り、辿り着けそうな班が前に出るしかない。
「って、やっぱり出れば抑えられるわよね。ここは突破するしかないわよ!」
「構わんさ! 倒してしまえばよいのだろう!!」
 奔り抜けようとした銀子は同じく走り寄る敵兵と相対し、ヴォルフは牙をむいてグラビティを高め始めた。
「いつでも行けます!」
 沙耶は援護と回復を兼ねるため、足を留めて戦場の様子を改めて確認するのであった。

 ハールの元に辿り着けたのは一班、残り二班が敵の護衛を受け持った格好である。
 できれば放置したいところだが、無視すれば被害がでるのみならず、援護と治癒でガチガチに固められてしまうだろう。
 ならば目の前の護衛を倒すことで、ドロ試合の千日手を避けなければならない。
「来るわよ! 構えて!」
 銀子は撃ち込まれて来る氷の波に備えつつ、振り下ろされる斧に備えた。
「アロン!」
「テレーゼ。防ぐでございます」
 キアリはオルトロスのアロンに、テレサはキャリバーのテレサに素早く支持を出した。
 横並びではんかう僅かに前に出て迎撃し、その間に攻撃役が下がる時間を稼ぐ。
 もちろんそれで確実に防げるわけではないが、今はこれで十分だ。
「これでいかがですか!?」
「はいよ。ちょうどいい塩梅だ!」
 沙耶は攻撃を受けた鬼人に治癒を施すと同時に、神経系を活性化させて援護に変えた。
 その補助があるとは知らなかったが、鬼人は傷に怯むことなく突進しており愛刀を構えて切り掛かる。
「Brechen……喜べその逝く先は地獄だぞ」
 ヴォルフはエインヘリアルたちの敗北とハールたちの失墜を祈った。
 それはやがて訪れる未来、我らにこそ勝利はあり奴らには敗北が訪れるのだと語り始める。
 今は混乱させダメージを与えるだけで良い、いつか自分で殺し絶望させてやるのだと精霊に命じた。
「直撃した奴も居るが……流石に連中も陣を組んでいるか。仕方あるまい」
 こちらの攻撃に対しダメージだけではなく負荷が聞いていないのを見て、カジミェシュは相手もまた自分たちと同じように結界や盾役・回復役の連携があるのを見て取った。
「天漢半ばに輝けるヤニナの星々、ソビェスキーの方盾よ。願わくば我らの下にその光注ぎて力となしたまえ!」
 カジミェシュは夏の南天、天の川の中に輝く楯座の星々への祈りを捧げる。
 祖国の英雄に対する祈りであり、その栄光と加護を仲間たちが授からんことを祈るのだ。
「丁度良いタイミングなのであります」
「そうだね、同感だよ。マシュちゃんは結界をお願い」
 テレサは当てられたちかっを受け取り、砲撃にそのまま注ぎ込んだ。
 同じようにスノーエルは暗黒の太陽を呼び出すのに使いつつ、その間に箱竜のマシュに仲間の支援をお願いしておいた。
「悔しいけど突破にはもう少し時間が掛かるかな」
「そうみたいね。目の前の敵を先になんとかしないと」
 キアリと銀子はそれぞれ敵の攻撃役を狙った。
 手裏剣を投じて剣で攻撃しようとしていた敵の腕に牽制し、あるいは斧を振りかぶった敵の腕を取って投げ飛ばす。

 一刻も早く護衛達を倒しハールへの援護を止めると当時に、自分たちの方こそ応援に駆け付けねばならない。
 そんな中で何とか壁役や治療役を中心に倒して行ったが、完全に撃滅する前に戦況に変化が訪れた。それもどちらかと言えばよろしくない状況である。
「マズイな。そろそろ保たん時が来ているようだ」
「とはいえ護衛は倒しきれてないよね。残りは任せるしかないかな」
 ヴォルフが見たところハールを担当した班が崩壊しかかっている、スノーエルはひとまず介入して戦線を支えるしかないと判断した。
 後は護衛を排除しているもう一班と、交代した班の残存メンバーに任せるほかはあるまい。
 本当は先にこちらが護衛を壊滅させ、二班で援護に向かうのが最善だったのだが、それだけハールが強力だったのだろう。
「ごめん、後退させてもらうよ」
「交代だ。任せておけ」
 アビス・ゼリュティオ達が下がって来るのと交代して、カジミェシュ達はハールの方へ向かう。
 しかし主を思う騎士たちの攻撃はとても苛烈で、本当に牽制なのかそれとも自分達の生死よりも優先しているのではないかと疑わしいレベルだ。
 だが逆に言えばここで支えれば後が楽になる。そう思って同じ壁役の仲間たちと共に必死に耐えるのであった。
「早くハールを倒しに行きたいのに……っ」
「ここは後退を援護するでございます」
 ここでキアリとテレサは共に豪砲を叩き込むことで、傷ついた仲間たちの援護を行った。
 撃ち返した衝撃波で相殺できたという訳ではないが、怯んだ隙にこちらも素早く割り込んでいく。
「ここは私が支えるから……って。気楽に言える状況じゃないか。それでも!」
「共に戦う仲間たちに救いの手を」
 ハールの元に行かせまいと行われる牽制攻撃に対し銀子が立ち向かう。
 そして沙耶は翼から暖かな光を伸ばし、傷ついた仲間たちを包み込むのであった。
「切り込むぞ」
「当然! ここが賭け時ってところだな!」
 ヴォルフが大振りなナイフをぬいてハールへ肉迫すると、鬼人は刃で空間ごと切り裂きながら距離を詰める。
 それは追い打ちを掛けようとしたハールの態勢を崩し、動きを変えるのに十分な威力を秘めていた。
『おのれ、下郎めがまた現れましたか。煩わしいことです』
 先に戦った仲間たちが追い込んだこともあり、ハールもまた態勢を立て直すのに手一杯の様だ。
 二人が拡大した負荷の一部を払いながら、傷を治療して一息を吐いている。
「仕切り直しをさせるわけにはいかんな」
「……いい加減に気付きなさいな。あなたはもうとっくに『終わっている』のよ」
 カジミェシュはバールのようなナニカを構えると、ハールが構え直したところへ接近。
 頭を強打したところへ、キアリが手裏剣を叩き込もうとグラビティを集中し始めた。
 だがそれよりも先に、飛び込んだ仲間の方が早い!
「切り裂け!! デウスエクリプス!!」
 テレサはグラビティで空間を曲げてティーシャを呼び出すと突撃してもらい、双円刃を操りながら支援していたのだ。
「チャンスごと潰させてもらうね」
「再起の可能性は、無いわ」
 スノーエルはハールの周囲の時間を固定し、キアリの手裏剣と共に攻撃を叩き込む。
 吹き払ったはずの負荷が彼女を苦しめ、再び追い込むことに成功したのである。

 やがて時間が過ぎ、護衛の騎士たちも次々に倒れていく。
 残る護衛は数名、ハールもまた大きく傷つき情勢は確定したかに見える。
「まだまだ、これで倒れるつもりはない。ネバーギブアップ!」
 銀子は腕全体で上半身を覆う攻撃をガードした。
 目線だけは相手を睨み、二本の腕の隙間から闘志を見せる。
「何とか、なりそうですね」
「……良い頃合いかな」
 沙耶は荒い息を吐きながら何度目かの治療を開始し、その効果を待たずして鬼人は弧を描く攻撃で防御を掻い潜りながら斬撃を浴びせた。
 愛刀が閃き剣閃がその身を切り裂く。見ればこの間にも、また一人の護衛が倒れた。
 増援が現れた時に間に合う瀬戸際があるとしたら、それは今この時だろう。もはや到着までに押し切ることができそうだ。
「楽しい時間も、もう終わりか」
「油断は禁物だろう。詰め将棋というやつかな。ボハテルはそのまま回復を頼む」
 ヴォルフは獲物を追い詰めたことに笑みを浮かべるが、カジミェシュは眉間にしわを寄せて箱竜のボハテルに傷ついた仲間の治療を頼んでおいた。
 ここで残りの騎士に命がけの特攻をされ、その隙に逃げ出されても困る。
 ヴォルフが突き立てたナイフを引き抜き血を浴びる間にも、カジミェシュは巧みな捌きで凍気を叩き込み逃走されても直ぐに追い込めるようにしておいた。
「あと三人……いえ二人。もはや大勢は決したでございます」
 テレサは何度も周囲を確認しつつ衝撃波を放った。
 ハールの体というよりは三半規管を強打し、簡単には逃げ出せないようにゆっくりと動きを止めていく。
「また一人。やった……のかな?」
 スノーエルは四葉のクローバーをあしらった弓をギュっと握り、その幸運を願う。
 そしてハールが回避しようとする先に撃ち込み、鋭い一撃を浴びせた。
「あちらこちらへパタパタと寝返って……まるで蝙蝠みたいな女ね。節操が無くて……実は王女でも、本当の生まれは下賤だったの?」
『私は私の側に居るのです。交渉と寝返りを混同するのはおよしなさい。根拠のない罵倒など届きませんよ」
 キアリは衝撃と共に言葉を浴びせるが、ハールは言葉を持って切り返した。
 追い込まれてなお癇癪を起さないように冷静さを保ち、最後の余力をチャンスに賭けているかに見える。

 そして最後の騎士が武器を取り落とす。
 反撃に転じようとしたのか、それとも回復でもしようとしたのか分からないがその前に攻撃を受けたようだ。
「スリーカウントね。最後の護衛も落ちそう」
「逃がさん。囲んで討ち取るとしよう」
 銀子が二本のチェーンでデスマッチを試みるべく攻撃し、ヴォルフが逃げ道を塞ぎながら攻撃すべく身構えた時。
 彼よりも僅かに速く、掛けられた声と力がある。
「ハール、なぁ……。ここまで来たら、デウスエクス側に居続ける理由もそうないとは思うんだが、どうだろう?」
「水無月さん……」
 鬼人は攻撃ではなく降伏勧告を行う。
 その間も沙耶は油断せず、傷ついた前衛陣を回復すべく気力を振るって治療を始めていた。
「どっちにしても、挽回の余地のない所にいるより、こっちについた方が有利だと思うんだがな。ザイフリートって例もあるしよ」
『……それも、そうなのかもしれませんね』
 鬼人の言葉にハールは反応したかに見えた。
 周囲を取り巻いていたルーンは、杖に戻るかのように集結を開始している。
 これで戦いは終わったのか? もしかしてハールもまた味方に成ってくれるのだろうか?
「あ……?」
 そう思うよりも先にグラビティの奔流が戦場を貫いたのである。
 圧倒的な力が鬼人の腹を貫き、その体がグラリと崩れ落ちた。
『何か勘違いして居ませんか? 兄を例に出すよりも、妹を殺すのではなく味方につけておくべきたね。できればの話ですが』
「貴様!」
 それはハールの拒絶の一撃。
 降伏に応じるのではなく、あくまで自らの価値と増援を信じて最後まで戦い抜くと告げたのだ。
「いかん! 治療を!」
「私が回収するわ!」
 一瞬の間に戦況が崩れた。
 正確には治療や回収の為に手が取られ、ハールの次なる一撃の為に備える必要が出たからだ。
『繰り返しますが、私は私の側に立っているのですよ。アスガルドの覇権を提供した上で、相互に手出し無用と言うならば心が動いたかもしれませんが』
 言葉が足りなかったのではない、ハールの目標としては降伏するのは最初から論外だからだ。
「どこまで先が見えてないの!? レリだって貴女が……」
 キアリは足元が見えてないのではないかと怒りの声を叩きつけるようとするが、その声は救援に駆け付けた仲間たちの声に飲まれていった……。
 彼らの合流により戦況は持ち直し、戦いもう少しだけ続くのであった。

作者:baron 重傷:水無月・鬼人(重力の鬼・e00414) 
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
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