第二王女ハール決戦~女王になろうとした女

作者:土師三良

●音々子かく語りき
「お集まりいただき、ありがとうございまーす!」
 ヘリポートに並ぶケルベロスたちの前で、ネジがついた頭をぺこりと下げたのはヘリオライダーの根占・音々子。
「そして、第九王子サフィーロの軍団との戦い、お疲れさまでしたー! 八王子を奪回することもできましたし、このままいけいけドンドンでアスガルドゲートの場所を突き止め、攻め込みたーい! ……ところですが、敵はこちらの快進撃を黙って見ているつもりはないみたいですねー」
 ケルベロスの勝利に反応して新たな動きを見せたのは大阪城を占領しているデウスエクス連合軍だ。
「大阪城方面の調査をしていたアビス・ゼリュティオ(輝盾の氷壁・e24467)さんの報告によりますと、連合軍は大規模な侵攻作戦の準備を着々と進めているそうです。また、それがエインヘリアルとの合同作戦であることを同氏は推測されています。近いうちにエインヘリアルはブレイザブリクを奪い返すために動くでしょうから、同じタイミングで連合軍も大阪城から侵攻を開始するのではないか、と……」
 連合軍の主体である攻性植物の勢力はエインヘリアルと敵対関係にある。しかし、ケルベロスという共通の敵が力を増していることや『第二王女ハール』の働き等もあって、最近はその敵対関係が少しばかり緩和していた。
「エインヘリアルの主力派からすれば、ハールは裏切り者も同然でしたけれど、今はちょっぴり流れが変わってるみたいです。この前、ハールは第八王子ホーフンドの勢力に援軍を寄越して、主力派に貸しを作りましたから」
 思惑通りに主力派に貸しを作ることができたハールではあるが、その代償は高くついた。配下の軍勢を援軍として送った(そして、大半を失った)ため、戦力が大幅に減少してしまったのだ。
「ハール軍は弱体化していますし、連合軍全体の準備はまだ整ってはいません。だったら、こっちからから先に仕掛けてやりましょう! 連合軍のところに攻め込み、ハールを討ち取って、エインヘリアルとの合同作戦を未然に阻止しちゃってください!」
 エインヘリアルと攻性植物とのパイプ役であるハールを倒すことができれば、当面の間は二勢力の合同作戦はおこなわれないはずだ。
 いや、必ずしも倒す必要はない。攻性植物勢のハールへの信用を落とすだけで同じ効果を期待することができる。場合によっては、攻性植物勢がールを処断するかもしれない。そうなれば、攻性植物とエインヘリアルとの対立が再び激化する可能性が高い(反主力派とはいえ、ハールは王族なのだから)ので、ただ倒すよりも良い結果になるだろう。

「ハールがいる場所は大阪城の本丸ではなく、最前線の防衛拠点『要塞ヤルンヴィド』です。大阪城からの援軍を遅らせるために複数のチームが大阪城地下への潜入作戦を実行しますので、その間にヤルンヴィドを叩いてください」
 ヤルンヴィドはダモクレス勢の城塞であるため、ハールの軍とは別にダモクレスの軍も駐屯している。よって、ハール軍とダモクレス軍を分断する必要があるだろう。
 分断の手段は大きく三つに分けられる。戦闘によって物理的に距離を取らせるか、策謀を以て心理的な間隙を作るか、あるいはその二つを組み合わせるか。
「要塞の総司令はダモクレスの『インスペクター・アルキタス』という奴です。要塞の中央と東側の防衛を担当していて、かなりの数の量産型ダモクレスを率いているんですよ。もっとも、『絶対にハールを守ってみせる!』なんてことは思ってませんから、うまく分断すれば、少数の戦力でハールで討つことができるでしょうねー。
 で、そのハールはといいますと……城塞の西側の三分の一を担当して、フェーミナ騎士団に守られています。また、要塞の防衛部隊である炎日騎士団もハールの勢力に組み込まれています。もっとも、アルキタスの本隊と同様にハールへの忠誠心はありません。ハールよりもアルキタスの命令を優先するはずです」
 ハールの下には三人の将がいるという。
 彼女たちについて、音々子は解説を始めた。
「一人目は『戦鬼騎士サラシュリ』。二つ名から想像がつくと思いますが、所謂『脳筋』ですねー。兵としての戦闘力は高いものの、将としての指揮能力は皆無。いとも簡単に挑発や陽動に引っかかっちゃうタイプです。
 二人目は『槍騎士アデル』。多くの戦いに加わってきた古強者ですが、敗戦続きで自信を失い、行動が防御的というか消極的になっているようです。それにハールの行動に疑問を持ち始め、忠誠心も揺らいでるみたいですねー。『もっと早い段階で疑問を持てよ』と思わなくもないですが。
 三人目は『策謀術士リリー・ルビー』。アスガルドの情報工作の担当官にしてハールの腹心です。なかなかの切れ者のようですから、ハールを倒すことができたとしても、彼女が健在であれば、エインヘリアル勢と攻性植物勢とのパイプがすぐに復活する恐れがあります。逆にハールが健在のままでリリーが戦死したら、両勢力の連携が円滑に進まなくなるかもしれませんね」
 ケルベロスが攻撃を仕掛ければ、ハールはアデルたちに応戦を命じるだろう。そして、自分は前線に立つことなく、守りを固めて、大阪城からの援軍が来るまでじっと待つはずだ。
「ハールが隠れるであろう場所は、最も警戒が厳しいの要塞の深部です。つまり、より警戒が厳しい方向に行けば、居所を容易く掴めるということですねー」
 籠城を決め込むハールの心理を読む取ることも容易い。彼女はアデルたちの勝利は期待していない。時間を稼いでくれれば御の字だと……いや、それどころか、時間さえ稼いでくれたら、全滅しても構わないと思っているのだ。
「でも、そうは問屋がおろさないってんですよ!」
 音々子は片側の掌に反対側の拳を叩きつけた。
「失態ばかりの第二王女サマとも長い付き合いですけども、そろそろ因縁に終止符を打ちましょう!」


参加者
青葉・幽(ロットアウト・e00321)
エニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)
伏見・万(万獣の檻・e02075)
若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)
チェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)
ジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)
エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)
エトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)

■リプレイ

●激しき攻防
「ここからは別行動だね。リリーはキミたちに任せた!」
 シスター姿の娘が手を振った。
「はい……行ってきます」
 黒衣のシャドウエルフが答え、幾人かの仲間とともに去っていく。
 シスター姿の娘もまた仲間たちと別方向に歩き出した。少しばかり距離を置き、二十余人の一団が後に続く。
 ここは要塞ヤルンヴィド。
 大阪城のデウスエクス連合軍が築いた防衛拠点だが、シスター姿の娘を始めとする侵入者たちはこの地に別の意味を与えるつもりでいた。
 第二王女ハールの墓場だ。
「一時期に比べるト、連合内でのハールの立場も落ちたようでスガ――」
 後続の一団に属しているレプリカントのエトヴァ・ヒンメルブラウエ(フェーラーノイズ・e39731)が言った。
「――この戦いを生き延びレバ、また連合の要になるかもしれませンネ」
「はい」
 エリオット・アガートラム(若枝の騎士・e22850)頷いた。
「だからこそ、絶対に倒さなくてはいけないんです」
 声音は穏やかだが、胸中では戦意の炎が激しく燃え上がっている。デウスエクス連合軍に対するエリオットの怒りと憎しみは尋常なものではなかった。
 記憶にしっかりと刻まれているからだ。
 かつて大阪城に潜入した時に見た光景が。
 幾百もの死体の山が……。
「レリさんを見殺しにした極悪な姉君に今のお気持ちを訊いてみたいものですわね」
 馬の獣人型ウェアライダーのエニーケ・スコルーク(黒馬の騎婦人・e00486)が言った。
 べつに皆に同意を求めたわけではなく、自分の思いを述べただけなのだが――、
「極悪な姉か……」
 ――と、複雑な表情を見せた者がいる。
 レプリカントのジェミ・フロート(紅蓮風姫・e20983)だ。
『妹』に相当するダモクレスを討ち果たしたことがある彼女としては、ハールと己を重ねずにはいられなかった。やむなく敵対した末に討ち果たすこと、利用した末に見殺しにすること――その違いはよく判っていたが。
 そうとも知らず、エニーケはフレーメン反応のように歯を剥き出し、要塞の深部にいるであろう標的に語りかけた。
「首を洗って待ってなさいな、ハール」
「ハールを倒すことも重要ですが……」
 オラトリオのチェレスタ・ロスヴァイセ(白花の歌姫・e06614)が気遣わしげに眉をひそめた。
「できれば、メリュジーヌの皆様を助け出したいですね」
「うーん」
 と、首を捻ったのは伏見・万(万獣の檻・e02075)。狼の人型ウェアライダーである。
「べつに助ける必要なくね? あいつら、他の妖精八種族と違って、『隷属させられてる感』とでも呼ぶべきものが薄いしよ」
「しかし、ハール亡き後、攻性植物たちがメリュジーヌの皆様をどんな目に遭わせるか判ら……」
 チェレスタは言葉を切った。
 剣戟の響きが前方から聞こえてきたのだ。
「ナノー! ナノー!」
 ナノナノのらぶりんが興奮気味に鳴いた。
「斥候隊の皆さんが敵とぶつかったみたいですね」
 らぶりんを落ち着かせるべく、その小さな頭を指先で撫でるサキュバスの若生・めぐみ(めぐみんカワイイ・e04506)。
 彼女が言うところの斥候隊とは、あのシスター姿の娘がいたチームである。
「斥候隊が露払いをしてくれてるおかげで、戦力の消耗を抑えることができるんですよね。ありがたいことです」
 戦いの喧噪が流れてくる通路の奥に向かって、めぐみは深々と頭を下げた。
「そうですね」
 エリオットも一礼した。
「彼らだけでなく、他にも沢山のチームが別の場所で戦ってくれています」
「はい。各チームの負担を減らすためにも――」
 めぐみが頭を上げた。
「――できるだけ早くハールを倒しましょう!」

 行く手を阻む敵を次々とかたづけて、他のチームを先導する斥候隊。
 その奮戦振りには目を見張るものがあったものの、限界が来ることは避けられなかった。
「ここらが潮時かな?」
「ハールまで行けなかったのは残念だけど……そっちは皆に任せるしかないね」
 シスター姿の娘の言葉を受けて、銀髪のヴァルキュリアが後続のめぐみたちに合図を送ってきた。
 だが、斥候隊の戦いが終わったわけではない。めぐみたちの後方――要塞の入り口側から新たな敵が迫ってきたのだから。
 斥候隊の面々は武器を構え直し、先程までとは逆の方向に歩き出した。新手を迎え撃ち、帰路を確保するために。
「頑張ってね、幽さん!」
 あのヴァルキュリアが手を振った相手は青葉・幽(ロットアウト・e00321)。第四王女レリを倒した者の一人だ。
「ありがとう!」
 幽は叫び返した。戦友たるヴァルキュリアが『幽さんのためにも絶対に勝つ』という誓いを胸にしていたことは知っている。今、その誓いは少しばかり形を変えて、幽の胸にも宿った。
 ここまで道を切り拓いてくれた戦友のためにも――、
「――必ずハールを討ってみせるわ!」

●虚しき策謀
「ザコどもは引っ込んでろや!」
 万が悪態とともにフォーチュンスターを放った。
 それを受けたのは、甲冑を纏ったエインヘリアルの女戦士――フェーミナ騎士団の一員。
 そこには何人もの騎士団員がいた。
 いや、彼女たちだけでなく――、
「俺らが喰いてえのは、そっちの王女サマなんだからよぉ」
 ――第二王女ハールも。
 ハールのもとに辿り着いたのは三チーム。そのうちの一チームがハールを相手取り、残りの二チームは騎士団を抑えていた。万たちは後者だ。
「ハールにとっテハ、あなたがたも捨て駒に過ぎませんヨ」
 銀の鎖でサークリットチェインの魔法陣を描きながら、エトヴァが騎士団員たちに語りかけた。
「攻性植物勢もあなたがたを見放しまシタ。もう援軍は来ませン。誰につくのが正しいのでしょうネ?」
 動揺を誘おうとしているのだが、騎士団の動きが鈍ることはなかった。『誰につくのが正しいのか』と問われたところで、彼女たちには選択肢など残されていない。
(「ある意味、この方々も犠牲者なのかもしれませンネ……」)
 策謀の駒として振り回れされ続けてきた無名の敵兵たちへの憐憫の情がエトヴァの心に湧き上がってきた。
 だからといって、戦いに手心を加えることはできなかったが。
「同盟者からは軽んじられ、配下の心は離れ、己も配下を信頼できずにいる。策謀家の末路とは哀れなものね」
 騎士団員の一人めがけて幽がフロストレーザーを発射した。
「ええ、本当に……」
 エニーケが頷き、騎士団員たちにナパームミサイルを撃ち込んだ。
 それによって生じた爆炎越しに冷笑を投げかける。もちろん、相手はハールだ。
「心より同情しますわ。あなたのために果てることになったレリさんや白百合騎士団やその他諸々の皆様にね!」
 ハールは反応を示さなかった。挑発に応じることは誇りが許さないのだろう。仮に許したとしても、今は相手をする余裕はないかもしれない。例の一チームと戦いを繰り広げているのだから。
 しかし、その一チームも余裕はなかったらしく――、
「ごめん、後退させてもらうよ」
「交代だ。任せておけ」
 ――残りの二チームに後を託すこととなった。
 とはいえ、騎士団員がまだ残っているため、二チームが同時にハールに挑むことはできない。
「じゃあ、私たちは引き続き護衛をかたづけていこうか!」
 ジェミが跳躍し、着地ざまにルーンアックスを振り下ろした。
 渾身のスカルブレイカーを喰らい、騎士団員の一人が息絶える。
 それを見届けることなく、ジェミは横に飛び、鍛え上げられた腹筋で気咬弾を受け止めた。その気咬弾の標的となっていたチェレスタを庇ったのだ。
「ありがとうございます」
 チェレスタがサークリットチェインを展開し、ジェミを含む前衛陣の傷を癒した。
「あと一踏ん張りでいけますよね?」
「ええ、いけますとも」
 言葉を交わしながら、前衛陣のめぐみとエリオットが騎士団員たちに攻撃を仕掛けていく。
 そして、同じく前衛のエニーケがハールに尋ねた。
「首はお洗いになりまして?」

●哀しき野望
 だが、『あと一踏ん張り』では終わらなかった。
「なにか勘違いしていませんか? 兄を例に出すよりも、妹を殺すのではなく、味方につけておくべきでしたね。できればの話ですが」
 杖を手にして立つハールの前で、彼女と戦っていたチームの一員――ブレイズキャリバーの青年が倒れ伏している。ザイフリートの名を出してハールを懐柔しようとしたところ、隙をつかれて魔法で腹部を撃ち抜かれたのだ。
 それを切っ掛けにしてチームの戦線は瓦解。
 結果、残されたチームがハールの相手をすることになった。
 もっとも、『残された』のはハールも同じ。騎士団員は全滅している。
「さあて、腹ァくくって――」
 孤立無援の第二王女を睨みつけ、万がグラビティ『百の獣影』を発動させた。
「――喉笛、食いちぎってやっかね」
「食いちぎっちゃいましょう!」
 めぐみの大声とブレイブマインの爆発音が同時に響く中、獣の影が床を素早く這い、ハールの巨躯に絡みつく。
「腹をくくるだけでは足りませんよ」
 しかし、その影からダメージを与えられても、ハールは顔色一つ変えなかった。
「野良犬ごときに易々と倒される私ではありませんから」
「易々と倒せるなんて思ってないわ。てゆーか、ここに至るまでの道のりが既に『易々』じゃなかったし!」
 幽霊が轟竜砲を発射した。
 ハールは身を捻り、それを躱す……かに見えたが、捻ろうとしたところで獣の影に体を締め付けられ、被弾した。
 すかさず、エトヴァが『Doppelgaenger』を仕掛けた。鏡像のごとき幻影を見せて動きを阻害するグラビティだ。
「幽殿の仰るとオリ、易々と倒せるとは思っていませんガ――」
「――倒すつもりではいます」
 エトヴァの後を引き取り、チェレスタがゾディアクソードの切っ先を床に走らせた。スターサンクチュアリの守護星座が光り輝き、前衛陣の防御力を高めていく。
 そこに別の光がぶつかってきた。津波を思わせる魔力の奔流。ハールが反撃したのである。しかし、往時の勢いはない。他のチームと繰り広げてきた激闘によって、ダメージと疲労と状態異常が蓄積しているのだ。
「あらあら。さすがの第二王女様も連戦に次ぐ連戦で足下がふらついておられるご様子」
 他チームへの感謝をハールへの嘲弄という形で表しつつ、エニーケが『馬脚蹴撃衝(アサルトホースキック)』なるローキックを見舞った。
「だけど、『多勢でかかるのは卑怯』などとは仰らないでくださいな。そもそも、卑怯なやり口は貴方の十八番。私たちはそれを倍にして返してさしあげてるだけですわ」
「そう、十八番だよね。あなたの妹は――」
 ジェミがハールの懐に飛び込み、腕を突き出した。
「――もっと、まっすぐだったけど!」
 妹ほど『まっすぐ』ではない姉をスパイラルアームのドリルが抉り抜いた。もっとも、ジェミの目が捉えているのはハールではなく、自分自身の姿だったが。
(「使命感とかじゃない。これは同属嫌悪。許せない思いは、きっと、自分への……」)
 ドリルを更に深く突き入れながら、ジェミは目を閉じ、すぐにまた開いた。
 己の姿は消え去り、ハールが現れた。
 この状況で尚、傲然たる表情を崩さぬハールが。

 しかし、第二王女が維持できたのは表情だけ。気位の高さと意思の強さをどれだけ示そうと、ケルベロスたちに与えられたダメージが消え去るわけではない。
 数分も経つ頃には、そこにいる皆(そう、ハール自身も)が確信できるようになっていた。
 戦いの終わりがすぐそこまで来ているということを。
(「こいつのこと、大嫌いだった。レリを……実の妹をいいように利用した挙げ句、捨て駒にして……ホントに最低なヤツだって、そう思ってた……ずっと、ずっと、そう思ってた……」)
 幽のアームドフォートから次々とミサイルが発射された。フロストミサイルサーカス――レリにとどめを刺したグラビティだ。
(「なのに……なんなのよ、この気持ち? 哀しいような、寂しいような……」)
 ミサイル群は統一感のない軌跡を描いた末にハールへと集束し、小さな球形の閃光に変じて彼女の姿を覆い隠した。
 すかさず、エニーケがフォートレスキャノンで追撃。ミサイルの閃光に砲弾の爆炎が加わった。
「おうおう」
 閃光と爆炎が消えると、万がわざとらしく目を見開いた。
 ハールが健在だったからだ。
「ねばるじゃえか。なるほど、なるほど。失態続きでもヘコたれずにいられたのは面の皮が厚いからだけじゃなくて、肉体的にもタフだったからなんだな」
「……しかし、ここで終わらせます」
 戦術超鋼拳を放つ万に続いて、チェレスタがハールを攻撃した。
 邪悪なる者に苦痛をもたらす歌で。
 いつの間にか、彼女の横には伴侶の残霊が立っている。『メルヒェンリート』という名のその歌はワイルドグラビティだったのだ。
「いえ、終わりじゃありませんよ。これは――」
 エリオットが気咬弾をハールに撃ち込んだ。
「――奪還作戦の始まりなんです。あなたの死によって、大阪城のデウスエクス連合も崩壊するでしょうからね」
「ならば……死ぬわけにいきませんわね」
 傷ついた体をよろめかせながらも、ハールは杖を構えた。
 ほんの一瞬、その口元が綻んだ。多分に自嘲を含んだ微笑。
「否、死ぬわけがないのです!」
 ハールは杖を掲げようとした。
「こんなところで!」
 魔法を行使するために。
「このハールが!」
 だが、杖を持つ手は途中で止まった。
「エインヘリアルの第二王女が!」
 ケルベロスたちに付与されたパラライズが働いたのだ。
「女にして初めてアスガルドの王座に就く者が!」
「その『王座に就く者』とやらに一つだけ訊きたいことがあるのでスガ……」
 エトヴァが静かに語りかけた。
 エアシューズを履いた足を蹴り上げ、グラインドファイアを放ちながら。
「レリ王女のことヲ、どう思っていましたカ?」
 炎がハールの胸を直撃した。
 今までがそうであったように彼女は動じる様子を見せなかったが。
「あの娘には申し訳ないと思っています……とでも言えば、ご満足? それとも、憎たらしげな返事を聞いて、私への怒りをかき立てたいのかしら? どちらにせよ、あなたたちが望むような言葉を口にするつもりはありません。私は――」
 文字通りの上からの目線でケルベロスたちをぐるりとねめつけた後、ハールは天井に目を向けた。
 王座の幻をそこに見ているのかもしれない。
「――ハールなのですから」
「……」
 エトヴァはなにも言わずに凝視した。
 天井を見上げたままの姿勢で息絶えた第二王女を。
 めぐみが大きく息を吸い込み――、
「えいえいおー!」
 ――要塞内の敵と味方にハールの死を知らせるべく、勝ち鬨をあげた。
「えいえいおー!」
 その声に反応するかのようにハールの亡骸が光り始めた。
「えいえいおー!」
 そして、音もなく弾け散り、空気に溶け消えた。

作者:土師三良 重傷:なし
死亡:なし
暴走:なし
種類:
公開:2020年5月15日
難度:普通
参加:8人
結果:成功!
得票:格好よかった 3/感動した 1/素敵だった 0/キャラが大事にされていた 2
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