■第6ターン結果
●(17)失伝者の檻
大使館を中心に広がるワイルドスペース『失伝者の檻』の内外にいたドリームイーターの軍勢を、ケルベロスは交戦の末に確実に減らしつつあった。
だが歴戦のケルベロス達でも疲労感を覚えるワイルドスペースだ。
ドリームイーター側もあわよくばケルベロス化した失伝ジョブの末裔達を戦力化する考えでおり、死なせるつもりはないとはいえ、ほとんど一般人か成り立てのケルベロスしかいない失伝ジョブの末裔達の容態は危惧されていた。
「もっともっと力が必要だ……煩い連中を、全部静かにするために!!」
ワイルドハントの体に巻き付いたリボンに込められた力が、以前交戦した時よりもさらに強さを増しているのをセリア・ディヴィニティ(忘却の蒼・e24288)は感じ取っていた。
オネイロスやジグラットゼクスからの増援で、失伝者の檻の戦力は膨大なものであったが、ワイルドハント本人の力も、以前にケルベロス達とワイルドスペース内で戦った時と比べれば増しているのだ。
だが、セリア達ケルベロスもまた、全世界からの支援を受けている。
「再戦と行きましょうか、ディクロ」
「ああ、それじゃ、始めようか」
以前も戦いを共にしたディクロ・リガルジィ(静寂の魔銃士・e01872)……ワイルドハントにその姿を使われているケルベロスが、その武器を構える。
「また来たんだね、煩いやつ……!!」
「あの日の借りを返しに来ただけよ」
執拗に追って来たワイルドハントのリボンがグレイブに巻き付き、へし折ろうとする。セリアは光の翼に力を篭めて距離を取りながら、グレイブを振り回し、それを引きちぎった。
体制が乱れながらも、液体に満たされたワイルドスペース中ならば、多少のことで落下の心配はない。
流石に異なるワイルドスペースの中までは『青ひげ』も見えないらしく、髭が来ないのは何度もの攻撃で確認済みだ。
「借りっていうなら、こっちだってさぁ!」
自らの絶叫に顔をしかめながら、ワイルドハントが伸ばしたリボンが包み込むようにケルベロス達へと迫って来る。
「オネイロスもボロボロみたいだけど、キミらに殺された白兎さんの分は働く……」
既に最強とされたアリスをはじめ、何体ものオネイロス幹部をケルベロス達は倒している。オネイロスがワイルドハントを支援しているのには、ディクロ、セリアらが倒した白兎の仇を取れという意思もあるのだろう。
だが、故にこそ、その怨念とも言える意思をケルベロス達は上回らねばならなかった。
「此の手に宿るは氷精の一矢。――さあ、射ち穿て」
セリアのゲシュタルトグレイブに込めた冷気が凍てつく光を放つ。
大地ごと凍らせながら伸びた光を、瞬時に何重にも重なったリボンが防ぐ。
「その程度じゃさぁ、今の僕にはさぁ!!」
拮抗は一瞬、リボンは光を食い破っていく。
だが、リボンがセリアがいた位置にまで届いた時、セリアは既にそこにいない。
「……!?」
ワイルドハントの鋭い聴覚が、光の翼がワイルドスペースの液体をかく音を聞いた次の瞬間、セリアの拳が、ワイルドハントを貫いていた。
ワイルドスペースが消え、気を失った『失伝ジョブの末裔』達が次々に落下しようとするのを、ケルベロス達は咄嗟に受け止める。
「救出成功ですね……!!」
快哉を上げるセリアの腕の中で、やたら胸元の開いた和装のウェアライダーの女性が、うっすらと目を開けた。
●(20)『赤ずきん』
ジュエルジグラットの手首付近では、ケルベロスと『赤ずきん』の戦いが最期の時を迎えようとしていた。
オネイロスや各地のミッション地域のドリームイーターを集結させて防衛を図る『赤ずきん』だが、ケルベロス達は着実にその戦力を削り切ろうとしている。
「『青ひげ』や『継母』にもそれぞれの役目がある。増援を求めることも難しいわね」
判断しながら鍵を振るう『赤ずきん』は、ふと足元に魔法陣が広がるのを見た。
「先ほど教わった楽しい魔法の実験台になってくださいな。勿論拒否権はないんですけどね♪」
「お断りするわ」
魔法陣を蹴って距離をとった『赤ずきん』の姿を、スノー・ヴァーミリオン(深窓の令嬢・e24305)はしげしげと眺めると、顔に喜色を浮かべた。
「その赤ずきん可愛いわね……ねえ、ちょっとその可愛い赤ずきん、私に下さらない!? ヤンデレ化しつつあるグレイをこれで納めるの! もうこれでイチコロですわ!」
「……何か不規則言動の理由に使われてるような……」
同じ戦場で戦っていたグレイシア・ヴァーミリオン(夜闇の音色・e24932)が、スノーの発言を聞きつけ何それという顔で見て来る。
「それはちょっと。これは、私の一部だから。ふつうのものなら、部下達もかぶっているけれど」
「真面目に相手しなくていいんじゃないかな……」
グレイがぼやくが、残念ながら双子の姉は本気である。
「なら、あなたを倒せば文句を言う人もいなくなりますわね」
「それって強盗っぽくない?」
一方の『赤ずきん』の方は、状況が極めて不利であることを認識している。
手が現れた以上、計画を止めることは難しかったとはいえ、『王子様』が死んだ段階で、ケルベロス達が想定よりも大幅に強くなっていることは認識すべきだっただろう。
「でも、初代ジグラットゼクス、その最後の一人たる私が退くわけにはいかない。
でなければ、あなた達と戦って死んだ『王子様』達に、会わせる顔が無いものね」
撤退の考えを否定しながら鍵を掲げる。
「おいでなさい、小人さん達……」
小人さんというにはあまりにも醜悪な、身長10cmほどの小人の群れが、赤ずきんの服についた花々から溢れ出した。
小人が手にした針は、『赤の恐怖』に耐えていたケルベロス達の恐怖心を一瞬にして喚起していく。そして『赤ずきん』は、鍵を剣のように振るいながら、前線へと突入して来た。ケルベロス達が一斉に迎撃に入る。
「私はきっと、ジュエルジグラットに感謝しないとね。
永劫の闇を彷徨う囚人であった私が、こんなにも他の者のために戦えている──」
心を抉る鍵を振るい、ケルベロス達の繰り出すグラビティを迎撃する。
振るわれるたびにはじける赤い飛沫が、さらなる恐怖を喚起していった。
だが、ケルベロス達がそれで退くことはなかった。『赤ずきん』が与えて来る恐怖を退け、次第次第に彼女を追い詰めていく。
「ケルベロスさん、あなた達はどうして恐怖に耐えて、そんな風に戦えるの?」
赤ずきんの問にスノーは
「欲するものがあるから、かしら」
それは例えば平和であったり、強さであったり、あるいは赤ずきんだったりもするのだろう。
「そして何より、私がスノー様だからですわ!」
後ろで彼女の弟が頭痛をこらえるように額を抑えた。
「そう、誰もがきっと求めるものがあるのね……」
平静に言った、赤ずきんの鍵を砕いたスノーの蹴りは、そのまま赤ずきんの体を直撃した。くずおれる『赤ずきん』ごと、赤い頭巾は消えていった。
そして外では、大きな変化が生じていた。
渋谷六本木の街を押しつぶそうとしていた「ジュエルジグラットの手」の動きが止まったのだ。事態の変化を受け、ゲートの守備を担当していたジグラットゼクス『継母』はただちに決断を下す。
「寓話六塔(ジグラットゼクス)の力を用い、ゲートに鍵をかける。刻限までに撤退せよ」
その命令を受け、ドリームイーター達は最後の破壊に入ろうとしていた。
→有力敵一覧
→(5)チェシャ猫(1勝1敗/戦力880→820)
→(11)偏食のカウリオドゥース(4勝1敗/戦力980→770)
→(12)第四の魔女・エリュマントス(0勝1敗/戦力1020→1010)
→(14)第二の魔女・レルネ(1勝1敗/戦力1190→1130)
→(16)『ポンペリポッサ』(1勝1敗/戦力1540→1480)
→(17)失伝者の檻(32勝3敗/戦力1600→0/制圧完了!)
→(20)『赤ずきん』(25勝3敗/戦力990→0/制圧完了!)
→重傷復活者一覧
→死亡者一覧
■有力敵一覧
戦功点の★は、「死の宿命」が付与されていることを表します。